「はぁ………はぁ……」
走っていた俺は、ようやく部隊長室前へと到着した。
俺は息を整えながらもう一度覚悟を決める。
(よし!)
俺はドアの横にあるブザーを鳴らす。
「八神部隊長、山本です」
「どうぞ」
はやての返事を聞いた俺は部隊長室に入る。
「真人君、どうしたの?」
「何の用や?」
部隊長室になのはやフェイト、はやてにシグナムさん達隊長、副隊長陣全員がいた。
どうやら、今日の事で話し合いをしていたようだった。
そんな事を考える余裕は俺にはなかったため、俺は一歩前に出ると土下座をした。
『え!?』
「申し訳ない!!」
俺の突然の行動に全員が驚いたような声を上げる。
だが、俺は土下座を続けた。
「ど、どうしたんや!?」
「俺、今までみんなを騙してた。………本当にすまない!」
突然の事に慌てるはやてに、俺は土下座したままだましていたことを告げた。
「と、とりあえず土下座はええから、頭あげてな」
「そ、そうだよ」
俺ははやてとなのは達によって頭を上げさせられた。
あれからしばらく時間が経ち、長い沈黙が部隊長室で続いていた。
その沈黙を断ち切ったのは、はやてだった。
「ほんで、さっきの騙していたと言うことについて説明してもらおか」
「………」
はやての直球の問いかけに、俺は一瞬逃げたくなったが、すぐにその考えを振り払い俺は答えた。
「俺がここに来た理由は、はやて達の考えている通りだ」
「つまり、本局からのスパイ………と言う事か?」
俺の答えに、はやては鋭い視線で俺を見ながら予測したことを答えた。
「ああ」
そのはやての推測を、俺は肯定した。
「向こうの指示は、この部隊のメンバーの調査と、どうして設立されたかの理由を調べよと言うものだった」
「なるほどな………」
俺の告白に、はやてはそう呟き、他のメンバーは無言で俺を見ていた。
「一ついいか?」
突然そう切り出したのは、シグナムさんだった。
「なぜいきなり私たちに本当のことを言う気になったのだ?」
シグナムさんの的を得た問いかけに、俺は正直に答えるべきかどうか迷った。
と言うのも、理由を言うのが恥ずかしいからだが。
「私も聞きたいかな、どうして突然本当のことを話すようになったのか」
「………」
(何も知らないが)当の本人からの要望に、俺は答えることにした。
「なのはの彼氏になったのに、俺はなのはや仲間を騙しているのに耐えられなくなった。それだけだ」
「あ、あぅ………」
案の定なのはは顔を真っ赤にして、はやては獲物を見つけたような目で俺となのはを見て、フェイトは『おめでとうなのは』と純粋な気持ちでお祝いを送っていた。
ちなみにシグナムは顔を赤らめて恥ずかしがっており、ヴィータはそっぽを向いていた。
「ほぅ、なのはちゃんも中々やるね~」
「うぅ~………真人君の馬鹿」
はやてのからかうような言葉に、なのはは顔を赤くしながら俺に言ってきた。
「いやいやいや! なのはだって聞きたいって言ったでしょうが!!」
「それでもだよ!」
「はいはい、そこまでや。まだ私の話が終わっとらんで」
はやての一声で俺となのはの言い合いは終わった。
「ほんで、真人君は今もそれを続けておるんか?」
「いや、ホテル・アグスタ以降はしてない」
はやての問いかけに、俺は正直に答えた。
アグスタの任務報告からは、俺はスパイ活動をやめたのだ。
「そんなのウソに決まってる!!」
「いや、本当や。もし報告をしていたら今頃機動六課(ここ)はただではすんではいないはずや」
ヴィータの言葉に、はやては冷静に反した。
「本当にすまなかった。まさかここの部隊長がはやて達とは知らなかったんだ」
「それだったら仕方ないの……かな?」
俺の謝罪にフェイトが首を傾げた。
仕方がなかった………では済まされないだろうな。
はやて達の感情で言うと。
「さて、真人君をどないしようかな」
「今後、この部隊の諜報活動はしないと誓う。だから信じて……とは言えないけどせめて許してほしい。この通りだ」
俺はもう一度はやて達に頭を下げた。
そしてはやての答えを待つ。
この時ほど時間の流れが遅くなったのは初めてだ。
「まあ、ええやろ。その代り……」
はやてはそこまで言うとにやりと微笑んだ。
その表情を見て嫌な予感がした。
「私の言う事を、何でも一つだけ聞くのが条件や」
「………分かった」
俺は嫌な予感を感じつつも、頷いた。
まあ、元々俺には拒否権はないが。
「だったら、せやな……にゅふふ」
はやては突然笑い出した。
「せやったら、真人君は今ここでなのはちゃんとキスをするんや!」
「ふぇええええ!?」
はやての言葉に、なのはが大きな声を上げて驚く。
「な、なななな何を言ってるのはやてちゃん!?」
「これも罰や。観念せえや」
慌てふためくなのはに、はやては肩に手を置いて切なげに告げた。
だが、そのはやての表情は全く正反対の意味が読み取れた。
「なのは」
「なに? ……んむ!?」
俺は振り返ったなのはに不意打ちでキスをした。
「ん……ちゅ」
しばらくそれを続けて俺はゆっくりと離れた。
「あ………ぁ………ぁ」
なのはは放心状態だった。
「いや~これは面白………いい物を見せてもろうたわ」
「あ、あれがキスなんだ……」
「な、なんとふしだらなんだ!!」
はやてはものすごく良い笑顔で、フェイトは顔を真っ赤にして両手で目を隠していたが、ちらりちらりと見ていた。
シグナムは顔を赤くして今にも飛び掛からんとしていたが。
「真人君と、はやてちゃんの………」
我に返ったのか、なのはは俯いて両手を震わせていた。
「ばかぁ~!!!!」
「「ぎゃあああああ!!」」
この後、俺とはやてはなのはによって地獄を見せられることとなった。
その時の事を一言で言うのであれば………そう、まるで魔王のような恐ろしさだった。
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