健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第52話 決断

「はぁ……」

僕は、ため息をつく。
空は僕たちをあざ笑うように、清々しい青空。
それでもなお、僕の気分は落ち込んだままだ。
いや、僕よりも高町の方がひどい。
真人マスターが死んだ。
予期していたとはいえ、何とも言い難い。
それは、約一週間ほど前……真人が目を覚ます前日の事だ。










「嘘だよね? ………執行人さん」

僕に、嘘だと言って欲しいという表情で言葉を投げかける高町。
だが、僕は首を横に振ると、再び同じことを口にした。

「真人は約一週間で確実に死ぬ」
「そんな……どうして」
「それは真人が最後に使った能力……ファイナルオーバードライブによるものだ」

フェイトの問いかけに、僕はその原因を口にした。

「ファイナルオーバードライブ?」
「高町のブラスターシステムを応用したモードで、代償を掛けることで膨大な力を手にすることが出来る」
「代償って………まさか!!」

僕の説明に、はやてはいち早く代償が何なのかを悟ったようだ。

「そう、代償は執行者の未来……分かりやすく言えば寿命だ」
「寿命……」
「代償を大きくすればするほど、膨大な力を得ることが出来る。そして、その代償はどんなに大きな数字でも可能だ。普通の人では、到底生きられないであろうと……ね」

僕の言葉に、誰かが息をのんだ。
実は、そのことを思いついたのは、真人だ。
寿命全てしか賭けられないのか……そんな疑問から、真人は自分で答えを導いてしまった。
寿命で定められた年数よりも、さらに上に出来るのだということに。

「真人君は………どのぐらいの長さを代償にしたの?」
「………500年だ」

高町の問いかけに、言っていいか悩んだが、僕は言うことにした。

「なのは!?」

高町は、ショックを受けたように崩れ落ちた。
そんな彼女に、フェイトは心配そうに駆け寄る。

「ねえ、自分の寿命以上の代償をかけた真人君は、苦しみながら死んでいくの?」
「………」
「答えてよ!!」

高町の問いかけに、答えない僕をしびれを切らしたのか、いつもの彼女からは考えられないような力で揺さぶってきた。
それをフェイトたちが引きはがした。

「真人はこの一週間で、じわじわと代償を支払う。その過程で体の自由が無くなる……つまり体が動かなくなる。そしてさらに進めば話すことも出来なくなって、最終的には命を落とす」

正直言って、これが早まる可能性だってある。

「これだけならまだいい方だ」
「どういう事や?」

僕の呟きに、はやてが先を促す。

「言ったはず。寿命をオーバーしている年数を真人が代償に提示したと。そんな事をして、死ぬだけですむはずがない。まだ先がある」
「………先って、何ですか?」
「まず、死後12時間後に肉体が消滅する」
『ッ!?』

僕の言葉に、その場にいた三人が息をのんだ。

「そして、その次の日には真人の存在自体が記憶から抹消される。そうなれば、もう山本真人と言う人物がいたことは、誰も思い出すことはない」
「そんな………こんなのって、あんまりだよ」
「どうして止めなかったの?」

僕の言葉に高町は泣き崩れ、フェイトは問い詰めるような目で聴いてくる。

「僕は止めようとはした。だが、奴の決意は固く、いくら僕が言っても変えるような状態ではなかった。それに僕は何だかんだ言ってもただの従者。マスターの意志にはそむけない」
「真人君を救う方法はあるん?」
「あるにはある」

だが、それは僕が……真人も絶対に断る手段だ。

「代償転換をすればいい」
「代償……転換?」

僕の口にした単語が分からなかったのか、はやて達は首を傾げた。

「執行者の代償を、第三者が代わりに支払う儀式さ。これをやれば、真人は助かる。ただし、それをやった瞬間その人物は代償を一気に支払うことになるから、消えることになるが」
「それでも、真人君が助かるなら、私がやる!」
「私もだよ」
「うちもや!」

僕の言葉に、三人は一斉に名乗りを上げた。
彼女たちの心の優しさに喜びながら、僕はつらい現実を突きつけた。

「悪いが、それは不可能だ。代償転換には、お互いの合意がなければ行うことが出来ない。おそらく真人はこれを拒否するはずだ。だから、無理だ」
「…………」
「だが、出来る限り説得をしてみる。だから、待っていてほしい。僕としても、真人を死なせるのは嫌だからな」










「あんなことを宣言しておいてこの体たらくか」

もう一度僕はため息をついた。
医者の話では、息を引き取ったのは、夜の12時を超えたころだという。
今の時刻は、午前8時。
死後8時間は経過している。

(僕は、また・・何も守れないのか)

「……また?」

その時、僕は自分の思考に、おかしなところを見つけた。
なぜ、僕は”また”と心の中でつぶやいたのだろうか?
僕の記憶では、今回の事が初めてだったはずだ。
それでは、真人が落ちた日の事か?
でも、あれではないような気がする。

(もしかして、これが僕の失われた過去に関係があるのかもしれない)

僕には、真人を魔法の世界に導く試練の前の記憶がない。
気づいたら、執行人と言う名前になっており、転生者殺しの役割を継承する者の役割を持っていたのだ。
僕は、過去の事を思い出そうと必死に念じ続けた。

「ッ!?」

その瞬間、僕の頭の中に、大量の情報が流れ込んできた。
そのあまりの量に、僕はその場にうずくまった。

「…………そういう事か」

僕は、すべてを理解した。
そして、何もかもを思い出した。
自分の”本当の名前”も、僕の居場所も。

「………行こう」

僕は今までたっていた屋上を後にした。
この仮初の世界での生活を終わらせるために……。










向かった先は”霊安室”
そこには、真人の遺体が収められている。
中に入ると、横たわる真人の亡骸、そしてそれに寄り添うように座っている高町だった。

「高町」
「………何ですか、執行人さん」

冷たいとげのような言葉が僕に掛けられる。

「真人を生き返らせる」
「ッ!? 出来るん……ですか?」

僕の言葉に、半信半疑の様子で聞いてくる。

「ああ、出来る。前に話した代償転換を行う」
「え? でも、あれはお互いの合意がないといけないのでは」

僕の宣言に、高町が疑問を投げかけてきた。
確かに、普通ならばそうだ。

「その条件には、唯一の例外がある。それが僕さ。僕ならば、その条件を無視して強制的に行うことが出来る。これでも従者なのでね、この身を挺して守るために……という理由かららしいけど」

僕は、苦笑いを浮かべながら答えた。
もし真人が説得に応じたら、この僕が行うつもりだった。
絶対にあの三人にはやらせない。
それは、僕のプライドだったからなのかもしれない。

「でも、それだと執行人さんが――――」
「異論は認めない。時間がないのだ。高町はここを出てくれ、10分したら入ってくると良い。その時には大切な人が戻ってきているはずだ」

僕は高町の言葉を遮って、一方的に告げた。
これ以上彼女と論議をして痛くはなかった。
怖くないのかと言われれば嘘になる。
本当は怖い。
だが、この偽物が少しでも役に立つのであれば、その方法をやるまでだ。

「………わかりました」

そして、高町も僕の決意が固いと悟ったのか、素直に頷くと出口である扉の方に歩いて行く。

「ああ、それと二つほどお願い事をしておこう」

僕は、今思い出したことを口にした。
うっかり忘れる所だった。

「真人が目を覚ましても、僕の名前や存在が分かるようなことは口にしないで。僕の寿命と肉体の消滅だけで、記憶までは消去されないんだ。一応彼には記憶操作の魔法は掛けるけど、あくまでそれは記憶に鍵をかけたようなものだから、ちょっとしたはずみで思い出すから」

思い出せば、きっと真人は自分を責める。
それが分かっていたからこそのお願いだ。

「それと、はやてにすまないと伝えておいてくれ」
「分かりました……執行人さん」

扉を開けた高町は、出際に僕の名前を呼ぶ。

「何だ?」
「ありがとうございます」

高町からのお礼に、僕は思わずその場で固まってしまった。
そんな僕をよそに、彼女は霊安室を後にした。
残されたのは、亡骸と僕の二人だけ。

「はぁ………まさかお前に僕の心配をされるとは。なんともまぁ」

僕は誰も答えることが出来ないのにもかかわらず、呟いた。

「命の支払いに、肉体や記憶の抹消。それを合わせても足りない際には、僕の方に代償が来る。そのことを考えた上で、あの年数を言ったのか?」

僕の問いかけに、自分で否定した。
ありえないのだ。
記憶や肉体の抹消が、何年分の代償なのかが分かるわけがない。

「僕は、ようやく本当の名前を取り戻せた。自分の悪行全てもね。だからこそ、今だけは、正義のヒーローでいさせてくれ」

僕はそう生きると、深呼吸をする。
そして………

「代償支払いネットワークにアクセス。代償転換を開始。転換者は執行人……いや、―――――」

僕は淡々と代償転換の儀式を進めていく。

「代償転換……スタート」

その言葉と同時に、僕は突然体に力が入らなくなり、その場に崩れ落ちた。
それは紛れもなく、真人の代償支払がキャンセルされ、代わりに僕の命で支払い始めていることを示していた。
これで真人は再び息を吹き返す。
魔力回路の損傷などの諸問題は解決していないが、生きてれば何とかなる。

「真……人、僕の……命……を差し出し……たのだ。人生を……全うしなければ……許さ……ない、ぞ」

声を出すことも苦になってきた。
だが、どうしてもこれだけは言っておきたかった。
だから僕は、最後の力を振り絞って、その言葉を紡いだ。

「あり……がとう……マスター」

そして、僕の意識……存在はそこで消えた。

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第50話 最終決戦と衝撃の真実

軌道上のクラウディア内で、艦長クロノの元に、次々と情報が入って来ていた。

「巨大船内の隊員、全員脱出を確認!」
「ふう、さてここからはこっちの仕事――『撃っちゃダメ!!』――どうした? 高町なのは一等空尉」

一斉放火のスタンバイをさせようとしたクロノになのはが必死な様子で止めた。

「真人君が………真人君がまだ中に!」
「何だと? 確認を急げ!!」

なのはの言葉を聞いたクロノが、部下に確認をさせる。

「巨大船内部に、2名の生命反応を感知! 現在、交戦中かと」
「モニターに出せ!」
「了解!」

(これは、まずいことになった)

クロノは心の中でそう呟きながら、表示されたモニターに目をやるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「な、何だよ……その姿」
「お前は知らなくていいことだ」

俺の姿を見た男は、明らかに狼狽していた。
俺はどうなったのかが分からなかったが、分かる範囲の変化を言うのであれば、バリアジャケットが白くなっていることぐらいだ。
そして、体がとても軽い。

【真人、調子は?】
【ああ、快調だ】

心配そうな執行人に、俺はそう答えると、再びクリエイトを力強く握りしめた。
これが、俺の最後の切り札。
”ファイナル・オーバードライブ”だ。
それは、誰も勝ることのできない力が手に入るものだ。
ただし、これを使うにはかなり由々しき問題があり、何度も使うことはできない。
だからこそ、最後の切り札なのだ。

「行くぞ!!」
「ッく!?」

俺はその場を駆けた。

「はあああ!!」
「何っ!!?」

背後に回り込んだ俺は、クリエイトを振り下ろすが、男は防御魔法で防ぐ。
だが、それでよかった。

【拘束!】
「しまッ!!?」

俺の目的は、男の拘束だったのだから。

「これで、終わりだ!!」

そして俺は、おそらく最強であろう魔法を使う。

「クリエイト、ブレイク系魔法始動!!」
『了解! 魔力収束スタート』

俺の指示に、クリエイトがそう答えるのと同時に、白銀の魔力球が目の前に収束する

(何を使うか)

俺の頭の中には知識があった。
純粋な攻撃力で防御魔法すらも貫く―――ブレイクレーザー
高い攻撃力に、行動不能の付加効果を付けた―――ブレイクプラズマ
速度は遅くとも、相手を追跡する―――ブレイクドライブ

「魔力よ、全てを飲み込む光となれ。ブレイク……プラズマ!!!」

俺が使ったのは、行動不能の効果がついている”ブレイクプラズマ”だった。
その砲撃は、寸分くるわず男へと迫る。

「があああああああああああ!!!!?」

砲撃を食らう男は断末魔を上げ、苦しむ。
そして光はそのまま膨れて行き、俺の視界と聴覚は爆発音と眩しい眩いほどの光に包まれた。

「はぁ………はぁ……」

砲撃を放ったことで、疲れが押し寄せていた。
気を抜けば今にも倒れそうな体に鞭を撃って、俺は男がいたであろう場所を見る。
そこはまだ爆煙によってよく見えなかった。

【大丈夫だよな?】
【ああ、あれでもまだ動けるのであれば、人間ではない】

執行人の答えに、苦笑いを浮かべながら俺は爆煙が薄れて行き、地面に倒れている人物を見つめる。

「う……うぅ」

その時、うめき声を上げた。

「え?」

俺は、その声を聴いて驚きを隠せなかった。
なぜならば、その声色は男の物ではなく少女の物だったからだ
俺は嫌な予感がして倒れている”男”の方へと歩み寄った。

「………は?」
【これは………】

俺は、それを見た瞬間、固まった。
俺がそこで見たものそれは……

「痛た……一体なんなのよ」

黒い服を着た、黒髪の少女の姿だった。

「あれ、ここは……ゆりかご? でもなのはとヴィヴィオはいないわ」

その言葉から少女が転生者なのは間違いない。
その少女は、辺りを見回すと、俺に気付いたのか俺の方を見た。

「貴方は……誰?」
「あ、初めまして。山田真人です」

俺はついつい敬語で自己紹介をしてしまった。

(彼女があの男なのか?)

俺の頭はパニックになっていた。
と言うより、変わりすぎだろ。
そんな時。

「ちょっと失礼」
「え? きゃ!?」

突然外に出た執行人は、片手を少女の額にの当てて目を閉じて集中していた。

「間違いない。彼女は俺達が相対していた敵で間違いない」

執行人の答えに、俺は何も言えなかった。

「えっと………どういうことなのでしょうか?」

静かな物言いで聴いてくる少女に、俺は今まであった事をすべて話した。










「そんな……私は真人さんにひどいことを……すみませんでした」

全てを聞いた少女……及川さんは俺達に何度も頭を下げていた。
彼女の話によると、気が付いたら目の前に神がいて、ここの世界に転生させられたらしい。

「執行人、どうする?」
「ッ!?」

俺の問いかけに、及川さんが肩を震わせた。
彼女は、俺達が転生者を抹殺する役割の者だと言う事を、伝えているからだが。

「そうだな………特にこれと言った能力はもらってないようだし、何よりこの性格だったら問題はないだろうからいいんじゃないのか?」

俺の問いかけに、執行人は、興味がないとばかりに答えた。
さすがの執行人も呆れた様子だった。

「あ、ありがとうございます!」
「ただし、ここの法の元でしっかりと裁いて貰う」

お礼を言う及川さんに、執行人はきつく言った。

「取りあえず及川さん。これからの事は、ここから脱出してから話し合おう」
「はい。真人さん」

俺は及川さんにそう声をかけると、スバルが破壊して出来た壁に向かおうとした。

「あッ……」

だが、もはや限界だったようだ。
俺の体はゆっくりと傾いて行き、そして地面に倒れた。

「真人!?」
「真人さん!?」

二人の慌てふためく声を聴きながら、俺は意識を手放すのであった。

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エピローグ 失ったものを乗り越えて

「ん………」

俺は、いつものように目を覚ました。

「真人君!?」
「なの……は?」

俺の名前を呼ぶ声に、横を見るとそこには涙ぐみながら俺を見ているなのはがいた。

(これは………夢か?)

「真人君!!」
「うわ!?」

俺の声に、なのはは思いっきり抱きしめた。
俺は、なのはの突然の行動に、思わず声を上げてしまった。
だが、これで分かったことがある。
それは、これが夢ではないこと。
夢だったら、こんな感覚はないはずだ。

「良かった……良かったよぅ」
「心配かけたな。ごめんな」

泣きじゃくっているなのはの背中を優しくさすりながら謝った。
なのはは、ただ泣いているだけだった。










それから数日後、俺は一般病棟に移された。
とはいっても個室だが、それでよかったと思っている。

「はい、真人君。あーん」
「あ、あーん」

理由はこれだ。
なのはは、あれから毎日俺の所にお見舞いに来てくれている。
そして毎回俺にこうして食べさせてくれるのだ。
別にそれはいい。
俺としても男冥利に尽きる。
だが、なのはの場合横に誰がいようとお構いなくやってくる。
ちなみにたまたまその時に立ち会わせていた人物たちは口々に

『えっと………お、おめでとう……かな?』
『べ、別に恥ずかしいわけではないぞ!』
『いちゃいちゃするのは構わないが、少しは場所をわきまえろ!!』

と言っていた。
人前でやるのはやめてほしいというと、なのはは『ダ~メ。真人君は、みんなを心配させたことを反省すべきなの』と断られてしまった。
しかも正論故、反論もできなかった。

「それにしても、目が覚めた所が霊安室って、笑えない冗談だぞ?」
「あ、あはは……」

俺のボヤキに、なのはは苦笑いを浮かべた。
そうだ、俺が目を覚ました場所は霊安室だったのだ。
あの時は正直驚いた。
枕元にはお線香があるし。

「医者も、『し、死者が化けた!!』とか言って逃げ出すし」
「そりゃ、霊安室で死んだと思っていた人が動いていればそう思うよ」

なのはの言葉も尤もだ。
その後、医者による1日がかりの精密検査で、数日程度の入院が必要という結果だった。
さらに、幸運だったのは、今まで動くことがなかった下半身や、見えることが出来なかった目の視力が回復していたことだ。
これからは、普通に歩けるし、見ることもできる。
そのことに俺は喜びを感じていた。
………だが、なんだろう。
この、何か大事な相棒を失ったような感覚は………。











そして、退院した後、俺は少しずつ復旧している隊舎に戻った。
自室に戻った俺がまずしたのは、自分の荷物があるかどうかの確認だった。

「えっと、服は………よし、全部ある」

洋服ダンスを確認すると、洋服はほとんど揃っていた。
部屋はいつも通りだ。
ベッドはちゃんとベッドメイキングがされている。
壁には今までじっくり見ていない絵画が掛けられていた。
そして机の上には水晶玉の形状をしているクリエイトが置かれてある。

「これからもよろしくな。クリエイト」
『はい、マスター』

俺の言葉に、クリエイトは静かに、しかしどこか嬉しそうに答えた。
それから数日後、クリエイトのメンテナンスをしてもらうためメカニックルームに来ていた。

「そう言えば、このクリエイトですけど、調べていたらすごいことが分かりました」

そう告げたのは、メカニックのシャーリーだった。

「すごいこと………ですか?」

俺もそのことに興味がわいたので、聞いてみることにした。

「創造せし者、クリエイトという名前で使用している魔導師がいたんです」
「創造せし者……?」

確かにクリエイトらしい名前だ。
………そう言えば、俺はどうやってこの杖を手にしたんだ?
気づけば手にしていたが………誰かに渡されたような気がしてならない。

「あの? 大丈夫ですか?」
「あ、ああ大丈夫です。続けてください」

考え込んでいた俺を心配そうにシャーリーが聞いてくるが、俺は先を促した。

「その魔導師の名前が、これです」

そう言って表示されたのは、画像つきの人物データだった。
黒髪に、赤い目が特徴の青年だった。

高月たかつき 浩介こうすけ………世界最強の魔導師で、魔法戦闘で彼の右に出る者はいない。現在、どこかの次元の狭間に封印されているとのうわさがあるが、その真実は一切不明」
「……」

俺は、その青年をどこかで見たような気がした。
しかも、今まで俺の隣にいたような………

「これは、この人が使っていた物なんですか?」
「山本さんの使っているデバイスの、クリエイトと同じ名前かもしれませんし、この人の使っていた物かもしれないですし……はっきりとしたことは言えないですね」

俺の問いかけに帰ってきたのは、どうにも微妙な答えだった。

「取りあえずは、お預かりしていたデバイスです」
「ありがとうございました」

俺は、シャーリーからメンテナンスを終えたクリエイトを受け取ると、そのままメカニックルームを後にした。

「クリエイト、さっきの話だけど、もしかしてお前はあの高月 浩介と言う人と共に戦っていたのか?」

自室に戻るや否や、俺は水晶玉状のクリエイトに問いかけた。

『………』
「クリエイト!」
『ええ、そうです。あのお方は私を作ってくださり、最初に扱った人です』

しばらくの沈黙の後、クリエイトは話してくれた。

『私は、あくまでもそのデータに過ぎませんが』
「データ?」

クリエイトの言葉に、俺は首を傾げた。
データとはどういう意味だろう?

『そのままの意味です。私は本体を模して造られたデータの結晶です。おそらく本体は次元のどこかで眠っているでしょう』
「それはどういう――――――ッ!?」

その瞬間、俺の頭の中に大量の情報が流れ込むような感覚に襲われた。
いや、違う。
これは、閉ざされていた情報が一気に外に出てきたような感じだ。

「え?」

そして、俺は気付いてしまった。
違和感の正体に。

「執行人?」

そうだ。
どうして今まで気づかなかったんだ?
今まで俺と共に歩んできた相棒の存在を。

【執行人!!】

俺は念話で執行人に声をかける。
だが、俺の念話にいつまでたっても執行人は何も返さない。
そもそも、俺はどうしてこうして生きてられるんだ?
俺は、代償を支払って死んだはずだ。
記憶もみんなから消され、存在が無くなり、執行人に多少のダメージが行くだけで済むようにした。
なのにどうして俺はこうして生きていられる?

(まさかッ!!)

俺は、最悪の予想をしてしまった。
そう言えば、執行人は俺の従者だ。

『従者は主の危機には命をかけて守ることが定め』と執行人は口癖のように言っていた。

俺はいてもたってもいられずに、部屋を飛び出した。
向かった先は訓練スペースだった場所。
そこには未だ復旧には至っていないが、復旧したらすぐに使えるように、と調整をしているなのはの姿があった

「なのは!!」
「きゃ!? ど、どうしたの? そんなに慌てて」

大声で叫んだため、あのはは驚きのあまり、その場で飛び退いた。

「わ、悪い。聞きたいことがあるんだ」
「な、何かな?」

俺の様子に、何かを感じたのか、なのは表情を変えた。

「正直に答えてくれ。執行人は今どこにいるんだ?」
「…………」

俺の問いかけに、なのはは表情を曇らせた。
それだけで、俺には答えが分かった。

「そうか。悪かったな、邪魔して」
「あ、待って真人君!!」

俺はなのはに声を掛けられるが、振り返ることなく歩いた。
執行人は、己の命を犠牲にして俺を守ったのだ。
その日、俺は眠りにつくまで何をしていたのかははっきり覚えていない。










「あれ?」

眠りにつくと、そこは真っ白な空間だった。

「何へんな顔してんだ?」
「へ、変とは何だへんとは!! ………って、この声は!!」

俺は、ついいつものノリで返したが、ようやくその声の主が誰なのかが分かった。

「やっと気づいたか。状況を素早く把握することが出来ないのは相変わらずだな」

ため息交じりに呟きながら俺の前に現れたのは、執行人……いや

「高月浩介!?」
「おやおや? なぜに僕の真名が分かったのだ?」

俺の言葉に、執行人……高月浩介は、驚いた表情を浮かべて聞いてきた。

「それは……」

俺は、事情をかいつまんで話した。
クリエイトの名前でヒットしたということだが。

「そうか………それと、僕の事は浩介で構わない。フルネームはちょっと勘弁してもらいたいな」
「分かった……浩介、どうしてお前が僕の身代わりになったんだよ!」

俺は、浩介を問いただした。

「それはお前が生きるべき人間であることが一つ。そしてもう一つは僕の解放さ」
「解放?」

俺は、浩介の答えた単語が分からず聞き返した。

「僕とクリエイトは、あくまでデータのようなものだ。ある理由で封印されてしまってな、それでも封印しきれなかった意識が僕に関するデータを全世界に散らばしたんだ」
「どうしてそんな事を?」
「さあ、それは本体でないと分からない。まあ、封印を解いてほしいと言ったものではないかな?」

俺の問いかけに答える浩介は、まるで他人事のようにも感じた。

「今、ちょっとばかし本体の方で問題が発生している。だからこそ、意識片はすべて元の場所に戻って来るべき時に備えておく必要があった」
「来るべき時………それってまさか封印が解けるのか?」

浩介の言葉から推測した俺は、浩介に聞いた。

「さあどうだろう? 僕にもよく分からない」
「………」
「だぁ~!! そんな情けない顔するな! まるで僕がいないと何もやっていけないと言いたげな顔は!!」
「まさしくその通り」

俺の表情から、何を言いたいのかが分かった浩介の言葉に、俺はそう告げた。
すると、浩介はため息を一つつく。

「いいか? お前はもう十分に戦える。これからは僕の代わりに健司や高町たちと共に生きていくと良い。そして、あまり自己犠牲はするな。お前の事を大事に思っている奴や、待ってくれている奴がいる時は特に、な」
「………分かった」

浩介の、教えに俺は、素直に頷いた。
すると、浩介の体が少しずつ透け始めた。

「あぁ、もう終わりか。今の僕は意識片の残りカスのようなものだからな。………これでもよく持った方か」
「浩介!!」

俺は、自分の手を見つめながら呟く浩介の名前を読んだ。
どうしても、最後に言いたいことがあったからだ。

「何だ? 言っておくが、消えないでくれ! 以外にしてくれ」
「今まで、ありがとう」

それは、お礼だった。
今まで、言うことが出来なかった言葉。
それを今言ったのだ。

「ッ!? 全く、お前にはいつも驚かされる。では、また会おう……マスター」

浩介は、俺の言葉に驚いた様子でつぶやくと、最後にそう言って消えて行った。










「ん……」

気が付くと、そこはいつもの自室だった。
窓から差し込む光が、朝であることを告げていた。

「………よし、頑張りますか!!」

俺は、すべてを吹っ切るように言うと、身支度を始めた。
その後、なのはと会った時には、驚いた顔をしていたのは、思い出深い。
何でも、俺が落ち込んでいるのだと思っていたらしい。
そんなこんなで、隊舎も元に戻り季節は春を迎えた。
そう、部隊が解散し、皆と別れる日が。










新暦76年 4月28日
六課解散当日、六課のメンバー全員は隊舎に集まり、はやての挨拶を聞いていた。

「長いようで短かった1年間……本日をもって機動六課は任務を終えて解散となります。皆と一緒に働けて、戦えて、心強く嬉しかったです。次の部隊でも……皆どうか頑張って」

はやての挨拶が終わると、盛大な拍手が響いた。
その後、はやてに言われるがままついて行った場所で健司と共に待つと、フォワードメンバーが集まってきた。

「うわぁ~」
「この花って、確か……」

フォワードたちは、桜並木を見て感嘆の声を上げていた。
確かに、こういった類の花はここではなじみがないだろうから、知らなくて当然か

「うん。私となのはちゃん、それに真人君の故郷の花」
「お別れと、新しい始まりの季節に、付き物の花なんだ」

はやての説明に、フェイトが補足した。
その花の名前は”桜”。
まさか、ここでもこれが見れると、は思ってもいなかった。

「よし……フォワード一同、整列!」
『はい!』

ヴィータの号令でフォワード達がその場に整列した。

「さて……まずは4人とも、訓練も任務もよく頑張りました」
「この1年間、あたしはあんまり褒める事は無かったが……お前ら、まあ随分と強くなった」
『え!?』

ヴィータからの一言に、フォワード達は驚いた表情を浮かべる。
かくいう俺達もだが

「辛い訓練、きつい状況、困難な任務……だけど、一生懸命頑張って、負けずに全部クリアしてくれた。皆、本当に強くなった。4人とも、もう立派なストライカーだよ」

なのはの言葉に、スバルやティアナ達は泣き始めた。

「あ~、泣くな。バカタレ共が」

それを見ていたヴィータは、フォワードたちにそう言うが、自分だって涙ぐんでいる。
まあ、口に出してしまえばその後どうなるかは大体わかっているので、何も言わないが。

「さて、せっかくの卒業、せっかくの桜吹雪。湿っぽいのは無しにしよう!」
「ああ」

「自分の相棒、連れてきてるだろうな?」
なのはの言葉に、シグナムは一歩前に出て、ヴィータはデバイスを起動させた。

『……え?』

その隊長陣の行動に、フォワードたちは茫然とし、俺と健司は何のことかがさっぱりわからなかった。

「え? ええ!?」

いや、フェイトもだった。

「なんだ、お前達は聞いてなかったのか?」

レヴァンティンを起動させて構えながら取り乱しているフェイトと、茫然としている俺達に聞いてきた。
というより、ちっとも聞いてない。

「全力全開、手加減なし! 機動六課で最後の模擬戦!」
『はい!』

フォワード陣も、ようやく意味が呑み込めたのか、元気よく返事をした。

「全力全開って、聞いてませんよ!?」
「まあ、やらせてやれ。これも思い出だ」

フェイトの意見に、シグナムが反論した。

「あぁ、もう~! ヴィータ! なのは!」
「固いこと言うな。せっかくリミッターも取れたんだしよ」
「心配しなくても大丈夫だよ。だって、みんな強いもん」
「はぁ~……」

ヴィータ達の答えを聞いて、ため息をつくフェイト。
ちなみに俺達はもう諦めているので、すでにデバイスを起動させてある。

「フェイトママ、大丈夫。皆……とっても楽しそうだもん」
「う~ん」

ヴィヴィオの言葉に、フェイトは首を傾げる。
おそらくは納得していないだろう。

「お願いします、フェイトさん!」
「頑張って勝ちます!」
「……もう」

そんなフェイトにエリオたちが追い打ちをかけるように声をかけたことで、とうとうフェイトも折れた。

「頑張って♪」

ヴィヴィオの楽しそうな言葉に、フェイトもバルディッシュを取出し、起動させる。

「それでは……」

バリアジャケットを着込んだ隊長陣+俺と健司、そしてフォワード陣が向き合う。

「「レディ……ゴー!!」」

はやてとギンガの合図で俺達は一斉にとび出した。





ちなみに、この模擬戦の結果は、ご想像にお任せしよう。
まあ、最後に取った記念写真では、みんながバリアジャケットがボロボロの状態であった事を追記しておく。















その後、俺は希望していた戦技教導隊に配属され、今では四苦八苦しながらも教導を続けている。
及川さんは、精神干渉が認められて隔離施設にいたが、数か月が経つと、出所したらしい。
誰の差し金かは知らないが、彼女の保護観察官が俺になったとのことで………

「これから3週間、皆さんの戦技教導となった山本真人ニ等空佐です」
「同じく補佐官の、及川(おいかわ) 真奈美(まなみ)です」

このように、俺の補佐官となったのだ。
休憩時間になると………

「あの、山本二等空佐」
「なんだ?」
「あちらはあのままでもよろしいのでしょうか?」

男性局員が見ている方向には……

「真人君は、私のものなの~!!」
「あらぁ~? 真人さんはあなたの所有物ではありませんよ?」

言い争いをしている及川さんと、なのはの姿があった。

「怪我をしたいのであれば、止めた方がいいと思う」
「じ、自分は向こうで自主練をしてまいります!!」

俺の答えに、男性局員は逃げるように去って行った。
あれが毎日行われるのだから、気が気ではない。
まあ、あれで仲は良いのだからいいの………か?
そんなこんなで、慌ただしい毎日を俺達はすごしていた。
もし、時間が出来れば世界旅行をしてみようと思っている。
本物の浩介と再会するために。


Fin.

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第51話 終焉

「ん……ぅ」

俺はいつものように目を開ける。
何故か視力が戻っていた。
だが、なんだか違和感を感じる。

(ここは……病院か)

「真人君ッ!!」

俺が今いる場所を認識したのと同時に、なのはの声とともに、体に衝撃を感じた。

「良かった……良かったよぅ!!」

涙を流しながら喜んでいるなのはを見て、申し訳なく思いその頭を撫でようと右手を動かそうとした。
しかし、右手が動くことはなかった。

(あれ?)

ようやく違和感の正体が分かった。
それを確認するように、左腕や足を動かそうとするが、まったく動かなかった。
どうやら、俺は全身を動かすことが出来なくなってしまったようだ。

「なのは」
「……グス、何かな? 真人君」

涙ぐむなのはに、俺はお願いをすることにした。

「体を起こしてもらっていいかな? 俺か体が動かなくなっちゃったから」
「ッ!!」

それを聞いたなのはは、息をのんだ。

「嘘……だよね?」
「こんな時に冗談何て言わないさ」

信じられないと言った表情を浮かべるなのはだが、俺の背中に手を回すと、起き上がらせてくれた。

「サンキュ」
「どういたしまして」

なのははそう告げると、”お医者さんを呼んでくる”と言って病室を後にした。
誰もいなくなった病室を見渡すと、そこはどうやら個室の様だ。
横には点滴がある。

「………」

部屋の中を見終えた俺は、窓を見た。
そこは、青い空が広がっていた。
だが、俺の心はさえない。
自分でもわかっていた。
もう俺に残された時間が少ないことが。
その後、医者の検診を受けた俺はお見舞いに来たはやて達と話をした。
その話から分かったことは、事件の聴取に非協力的だったスカリエッティ達は軌道拘置所で勾留されることとなったらしい。
事件に協力的な姿勢を見せた戦闘機人たちは更生施設で何とかと言うプログラムを受けているらしい。
ちなみに、俺が倒した転生者の及川さんも、更生施設に収容されたらしい。










「真人」

はやて達が帰ってからしばらくして、真剣な面持ちで俺に話し掛けてきたのは執行人だった。
俺は、唯一動く顔を横に動かして執行人の方を見た。

「何だ?」
「今からでも遅くはない。代償転換をやるんだ」

開口一番がそれだった。

「やらないよ」
「真人! お前の覚悟は僕にも十分伝わった。このままだとお前が―――」

俺の言葉を聞いた執行人が、声を荒げた。

「落ち着けよ。いつものお前らしくない」
「そんなの知った事か! こういう時の為の僕だ、僕を使え。お前に使われれば僕も本望だ」

俺が落ち着かせようとするが、執行人は落ち着くどころかさらに声を荒げた。

「はは、やっと執行人から認められたような気がする」
「ッ!? 茶化すな!」
「俺はやる気はないよ。それにこうなることは覚悟の内……うまく言えないけど、達成感で十分満足だよ」

俺はそう言うと、執行人から視線を逸らした。

「真人……お前は理解していない。お前に万が一のことがあったら悲しむ奴がいるんだぞ」
「それは執行人もだ。あんたがいなくなったら、はやてが悲しむ」

俺の言葉に、執行人が息をのんだ。
と言うより、まさか知らないと思ってたのか?

「あれだけ分かりやすくいちゃいちゃしていたら、誰だってわかるさ。はやてと執行人が恋仲だっていうことぐらい」
「………」

何時かは分からないが、はやてと執行人は恋人同士で結婚を前提に付き合っている。
という話を聞いたことがある。
普段、俺の中にいる時以外にもはやてと楽しそうにしているのも見たこともあった。

「だが―――」
「もうこの話はこれでおしまい! 今後は取り合わないからな」

執行人は、俺の言葉に諦めたのかそのまま立ち去って行った。

(これでいいのさ。これで)

俺の心はとても爽やかだった。










あれから3日経った。
体調はすこぶる悪い。

「真人君、リンゴ向いてきたよ~」

なのはがいつものように笑顔で病室を訪れた。
だが、本当は泣きたいのだと言うことは分かっていた。

【いつも悪いな。なのは】
「ううん、気にしないで。これも恋人の役目だから」

俺の念話に、なのはは笑顔で言った。
そしておもむろにリンゴを爪楊枝で刺すと、俺の口元に近づけた。

「はい、真人君。あーん♪」

手が使えないため、俺はなのはに食べさせてもらっている。
恥ずかしい気持ち反面、なんだか役得したな~と思うのが反面と複雑な心境だった。

「どう? おいしい?」
【ああ、おいしいよ】

なのはの問いかけに、俺は念話で答える。
どうして話さないのか?
それは、話したく・・・ないからではなく、話せない・・・からだ。
どうやら、着実にカウントダウンは続いているようだ。
そう、俺と言う存在が無くなる・・・・までの。










そして、病院に来てから6日経った夜。

(持たないものだな)

俺は心の中でつぶやいた。
昼間は目を覚まして回復に向かっている健司がお見舞いに来てくれた。
そのことにほっと胸を撫で下ろした。
だが、もう限界だった。
俺の命はもう持たない。
不思議と俺の心に死への恐怖はなかった

(ああ………今思えば、楽しい時だったな)

俺は、今までの楽しかったこと、つらかったことを思い出した。
どれもが懐かしく感じられた。

(皆ありがとう)

俺は、誰にも聞くことが出来ないお礼を呟いた。

(なのは……俺がいなくなっても幸せ………に)

そこで俺の意識は、まるでテレビを切ったように途切れた。

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第36.5話 恐怖をなくすために~執行人の奮闘記~

僕はこの前、非常に不快な思いをした。

『パパ……この人たち、怖い』

それは、この間六課にやってきたオッドアイの少女に言われた一言だった。
小さな子供に言われたからか、もしくは一番同類にされたくない人物と同じにされたからなのか、僕は非常に傷ついた。

「このままでは、ダメだ……なんとかしなければ!!」

誰もいない真人の部屋で、僕はそう決心するのであった。

「思い立ったら即行動!」

そして僕は真人の部屋を後にした。










僕が向かった先は部隊長室だ。

「――――というわけなんだ」
「つまり、保護した女の子に怖がられないようにすればええんやな?」

僕の話を聞いたはやては、簡潔にまとめた。
なぜここに来たのかというと、思い立ったは良いものの、何をすればいいかが分からなかったからだ。

「分かるか?」
「もちろんや! 私に任せてくれれば問題なしや!!」

僕の言葉に、はやては胸を叩いて自信が満ちた表情で宣言する。
一体どこにそんな自信があるのかが気になるが、まあ深く考えないようにしよう。

「そうや! 私が徹底的に付きおうたるさかい、ロビーで待っててくれる?」
「……? わかった」

はやての指示に、僕は首を傾げながら頷くと部隊長室を後にした。










「お待たせ」
「やっと来たか。一体何をして―――」

ロビーでしばらく待つと、背後からはやての声がした。
振り返った僕は、あまりの驚きに言葉を失った
なぜならば、はやての服装が、管理局の服ではなく水色のロングスカートに、白と黒の色の縞模様のシャツの上に灰色のジャケットを羽織っているという完全な私服姿だったからだ。

「というわけで、レッツゴーや!」
「あ、おい、引っ張るなって!」

僕ははやてに引きずられるような形で、六課を後にした。
そしてやってきたのは、服屋だった。

「君に一番足りないのは、ズバリ意外性や! いつも黒い服ばかり着とるから怖がられるんや」
「なるほど」

はやての言う事も一理ある。
確かに、僕を見る殆どの人が怖がった表情だった。
きっと僕が黒い服ばかりを着ているからに違いない。

「というわけで、服を漁るで!」

ということで、僕の服選びが始まったわけだが……。

「これはどうや?」
「………僕に女になれと?」

はやてが最初に持ってきたのは少女のイラストが描かれたシャツだった。
とてもではないが、着たくはない。

「む……せやったら、これならどうや!!」

そう言って自信満々に出したのは、アロハシャツだった。

「…………はやて、もういいよ」

僕が言えたのは、その一言だった。










それから1時間後、僕たちは機動六課に戻った。

「今日は楽しかったよ、本当にありがとな~」
「どういたしまして………それにしても、たくさん買ったものだな」

僕の視線の先にあるのは、たくさんの紙袋。
ちなみにこれ全て、はやての(・・・・)洋服だ。
何だか、はやてが楽しむために、付き合わされたような気がしてきた。

「とても楽しかったで~、やっぱり後先考えずに買い物するんもええな~」
「そうだな」

そんなはやての嬉しそうな表情を見ていると、自然とそう口にすることが出来た。
その後、はやてと別れると、僕は再び歩き出した。

「む~」

そしてまた振り出しに戻った。
問題の方はちっとも解決していないのだ。

(どうしたものか)

そうやって、悩んでいた時だった。

「あの、大丈夫ですか?」
「ん? なんだ、フェイトか」

声をかけてきたのは、フェイトだった。
どことなく心配そうな表情で僕を見ていた。

「何か悩み事ですか?」
「まあ、そんなところだ」
「もし私がお役にたてるようだったら答えますので、悩みを言ってくれませんか?」

フェイトのその言葉に、僕は彼女の環境を思い出した。
そう言えば、彼女にはエリオとキャロの二人がいた。
もしかしたら、はやてより的確なアドバイスが、もらえるのではないだろうか?
その希望を抱きつつ、僕はフェイトに事の次第を話した。

「なるほど……」

僕の話を聞いたフェイトは顎に手を添えてしばらく考え込む。
すると、答えが分かったのか僕の方を見た。

「もしかして、笑顔じゃないですか?」
「笑顔?」

これまたあれな方向だなと思いつつ、僕はフェイトに先を促す。

「執行人さんは、いつもしかめっ面というか無表情ですよね? 子供って言うのは表情とかでも人を見たりしますから、いつもその表情でいると怖がるのも無理はないなと思います」
「なるほど………」

フェイトの言葉に、僕はなぜか納得できた。
そう言えば僕は今まで、人前で笑顔を浮かべたことがないような気がする。

「ありがとう。助かった」
「いいえ、お役にたてたのならうれしい限りです」

僕のお礼に、フェイトはそう答えると、頭を下げて再び歩いて行った。

「笑顔か………やってみよう」

僕はそう決心した。










そのチャンスは、翌日の昼ごろに訪れた。

「ん? あれは」

何時ものようにぶらぶらと散歩をしていると、前にきょろきょろと辺りを見ながら歩く金髪の少女がいた。
彼女は、明らかにこの間ここにやってきた”ヴィヴィオ”という少女だ。
僕は彼女に近づいて

「どうしたんだ?」

声をかけた。

「ふぇ?」

僕の声に気付いたヴィヴィオが僕を見上げる。
そして僕は屈んでヴィヴィオに目を合わせ、もう一度聞いた。
勿論、ぎこちなくではあるが出来る限り自然に笑顔を浮かべて。

「こんなところでどうしたのかな?」
「え、えっと………パパがいないの」

若干怯えられているようだが、なんとか会話が成り立った。

「あ~、あいつだったら今訓練場かな。お兄さんと一緒に行こうか?」
「うん」

僕の言葉に、ヴィヴィオは静かに頷いたのを確認して僕はゆっくりと歩き出した。
そしてしばらく歩いた時だった。

「ん?」

何かが手を掴んだので、僕は右手に視線を向けた。
そこにはおっかなびっくりと言った様子で手を掴むヴィヴィオがいた。

「……?」

僕が見ていることに気付いたのか、ヴィヴィオは”何?”と言いたげな目で見てくる。

「大丈夫。すぐにつくからね」
「うん!」

僕はもう一度笑顔でヴィヴィオに言葉をかけた。
この時、なぜか僕は自然に笑顔を浮かべることが出来た。
そして、それにヴィヴィオも万弁の笑顔で答えてくれた。
それを見た僕は、喜びをかみしめつつ、真人たちのいる訓練スペースへと歩き出す。
結局、一番重要だったのは笑顔だったということだ。
その後、それを見た真人にはかなり驚かれた。
あいつは、僕をどのような目で見ているのだ?

(今度問い詰めてやるか)

そんな事を考えながら、僕は真人に声をかけるのであった。
それが、いつもの日常なのだから。

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