健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第101話 参加!

あれからしばらくして、突然の事態に混乱していた僕たちは社長やMRたちの尽力のおかげで、ようやく落ち着きを取り戻すことができた。
混乱している最中に、何か変なことを口走っていないかどうかが気になったが、今はそのことはどうでもいいだろう。

「とりあえず、落ち着いたかな?」
「ええ。何とか」
「はい」

僕は申し訳なく思いながら、社長の問いかけに頷きながら答えた。

「それにしても、こ……DKって事務所に所属してたんだな」
「私も知りませんでした」

一瞬浩介と呼びそうになった澪と梓は、驚いた様子で感想を漏らすが。

「オフィシャルサイトに書いてあるんだけど。『チェリーレーベルプロダクション所属』って」
「「うっ!?」」

ちなみに、このことはH&Pのオフィシャルサイトのメンバー紹介のページでしっかりと書いてあるので、知っていて当然だと思っていた。
だからこそ、唯たちの驚く姿を見た僕も驚いていたのだ。

「それで。僕は聞いてないぞ。彼女たちが次のライブの参加者だなんて」
「そりゃそうだろ。言ってないからな」

僕の追及に、YJは悪びれるどころか堂々とした態度で答えた。

「それに、当選に賛成したのはDKですよ」
「卑怯じゃないか? バンド名のことを伏せて決めるというのは」

RKが全くもって正しい言葉を投げかけてくるが、僕は追及の手を緩めない。
何よりも問題なのは、バンド名を隠して採決を取ったことだ。
ある意味詐欺師並みのやり口だった。
……それに何の疑問も抱かずに引っかかる僕にも問題ありだけど。

「だが、DKはそれでも賛成した。今更取り消しだとか言わないよな?」
「……………」

MRの切り返しに、僕は何も言えなくなってしまった。
完全に僕の負けだった。

「はっきり言うと、今回のライブに参加するのは反対だ」
「なぜ!?」

僕の言葉に、律が答えを求めてくる。

「君たちはまだ僕たちのライブに出られるレベルに達していない。そんな状態でライブに出したら僕たちはいい笑いものだ」

いくら新生バンドとはいえ、観客たちにとっては”あのH&Pが選んだバンド”という認識なのだ。
下手な演奏をするようであれば双方にとって不名誉なこととなる。
それだけは何が何でも避けなければならなかった。

「そんな言い方はひどいです」

僕の答えた理由に、梓が非難の言葉をあげる。

「と、思ってたんだけど」
「え?」

だが、僕の言葉は終わっていない。
梓の言葉を受けて、僕は静かに言葉の続きを口にする。

「この間の大みそかライブを見てその考え方は変わった。だから、今の僕ならば皆がライブに参加することを心の底から賛成できる」
「……っ!」
「ありがとう、浩君!」

やわらかい笑みを浮かべながら告げた僕の言葉に、唯は嬉しそうな表情でお礼を言ってきた。

「ただし、このライブは5人だけで演奏しなければいけない。そのことを承諾すること。これが僕の出す参加の条件」
「どういうこと?」

僕の言わんとすることが伝わらなかったのか、ムギは首をかしげながら詳しく聞いてきた。

「僕は放課後ティータイムのメンバーでもあり、H&Pのメンバーでもある。でも、僕はDKとしてステージに立っているから、放課後ティータイムの一員で演奏をすることは無理なんだ」
「ということは、浩介先輩抜きで……」

僕の話を理解した梓はポツリと言葉を漏らした。

「遠慮はしないでいい。僕は納得済みだし、それに例え一緒に演奏ができずとも僕は放課後ティータイムの一員であることは変わらない」
「…………」

それは僕の本音だった。
少しの間、みんなは口を閉ざしていたが、

「それじゃあ……」
「参加するぞー!」

口を開いた梓に続いて律が声を上げた。

『おー!』

(ここ、事務所なんだけど)

心の中でツッコみながら、視線を社長たちの方に向ける。
社長や他の皆も苦笑しながら肩を竦めていた。

「それじゃ、具体的な話に入ろうか」

頃合いを見計らって、僕は唯たちに声を掛けた。

「まずは最終確認だけど、演奏予定楽曲は、選考時に送ってきたリスト以外にある?」
「ないぞ」

僕の問いかけに律が答えた。
それを聞いた僕は、次の質問を投げかけることにした。

「このリスト内に、他人が作曲し尚且つその人から演奏の許可をもらっていない曲はある? ちなみに、ふわふわとかは作曲者はムギという扱いで、僕は作曲者じゃないから」
「だったら、無いかな」

澪の返答を聞いた僕はさらに続ける。
とはいえ、ほとんど問題はないのは知っているのだがこれも形式的な質問だ。

「ライブに出る際に、名前は本名で大丈夫か? 希望すれば偽名でも可能だけど」
「はいはい! それじゃあずにゃんはあずにゃんで、澪ちゃんは澪ちゃんで、ムギちゃんはムギちゃんで、それから―――」
「分かったから、唯はちょっと黙っててね」

僕の疑問に右手を挙げて偽名の案を口にする唯の肩に手を置いて律は頷きながら止めた。

(あれも天然が故か? 狙っているとしか思えないレベルなんだけど)

あれが偽名ならば、僕はDKから浩君に改名している。

「本名でいいから。偽名だと収集つかなさそうだし」
「えぇ~。偽名良いじゃん。かっこよさそうで」
「それじゃ、本名での参加で……後はこのプロジェクトの概要を説明するとしようか」

唯の言葉を切り捨てるように、僕は話を進めた。

「この企画は後半の1時間という時間を使う企画。あらかじめ登録してくれた曲を演奏するというシンプルなもの。コンテストでもないから、心置きなく演奏をしてもいいし、MCや構成もすべて自由に決められる」
「おぉ~。太っ腹どすなー」

僕の話を聞いた唯が、お茶を飲みながら和んだ口調で相槌を打った。

「この企画では、お互いの演奏曲のトレード……つまり、放課後ティータイムの曲と僕たちが演奏する曲を交換して演奏することが恒例となっているんだ」
「……………」

僕の説明に、目を瞬かせるだけの律の反応に、僕は理解していないことを把握した。

「例をあげると、僕たちが『ふわふわ|時間《タイム》』を演奏したら、唯たちは『Leave me alone』を演奏するという感じだ」
「な、なるへそ~」

分かりやすく例を取り上げたところで、ようやく律は納得したようだった。

「僕達の方はこの『ふでペン~ボールペン~』を演奏しようと思うんだけど、そっちはどう?」
「私は別にそれで構わないけど………」
「私も」
「私もです」

律の視線に促されるように唯たちも賛同していく。

「そして、僕たちがそっちに演奏してもらいたい曲は、これ」

そう言って、僕は予め用意しておいたCDを律たちの前に置いた。

「えっと……『Colors』?」

CDのラベルに書いてある曲名を、怪訝そうな表情で読み上げた。

「僕たちが作曲したわけじゃないけれど、クールな感じでかっこいい曲調が特徴の曲だよ」
「何だか難しい曲のような気がするんですけど」

僕の説明で感じ取ったのか、梓の言葉は実に的を得ていた。
この曲は音の上下が激しい曲だ。
全体的にも難しい曲だが、それは『Happy!? Sorry!!』でも同じこと。
しかもこの曲も演奏予定の曲目に書き添えられている。
ならば、僕の選曲した『Colors』も十分演奏することは可能だろう。

「確かに、少しばかりレベルは高いだろうね。でも、この曲を見事に演奏しきればみんなのレベルは一段階上がることを意味している。早い話がやってみろと言うことだ」

何事も挑戦あるのみ。
やる前から諦めていればそれは成長の停止にもあたると僕は思っている。
まあ、失敗してしまうとダメージが大きくなるのが欠点だが。

「これは、僕からの『放課後ティータイム』に対する挑戦状だ。受け取ってもらえるか?」
「やろう!」

僕の言葉に、声を上げたのは唯だった。

「大丈夫だよ。だって、大みそかのときだってちゃんとできたんだもん! きっとうまくいくよ!」
「唯………そうだな。大みそかの時も無理だと思っていたのができたんだもんな」

唯の言葉に、律は目をいったん閉じるとその眼を開いた。
そこには不安の色は全く感じられなかった。

「浩介の挑戦状……」
『受け取らせていただきます!』

先ほどまで腰かけていたソファーから立ち上がった律たちは、力強い目で僕にそう言葉を返した。

「そうか。この曲の演出はこっちで指定するから、そっちは僕たちが演奏する『ふわふわ|時間《タイム》』の演出を考えておいて」
「分かりました」

僕の申し出に、相槌を打ったのは梓だった。

「それと、ライブまでの1週間。僕は軽音部での部活を休む」
「え?」
「少し言葉が足りなかったかな。正確にはライブまでは僕は演奏をしないという意味だ」

僕の言葉に驚きと悲しげな表情を浮かべる唯たちの様子に、僕は慌てて補足説明をする。

「なんだ。そう言うことか」
「でも、どうして高月君は演奏をしないの?」

全員が納得する中、疑問を投げかけてきたのは、これまで静かに話の流れを見守って来ていたムギだった。

「………今回のライブは、僕抜きでの演奏が必要になる。それなのに僕が入って練習するというのは、意味がない。だからだ」
「浩君?」
「なんでもない。アドバイスぐらいはするし、ちゃんと部室にはいくけど練習には加わらない。僕抜きでちゃんと練習をすること」

一瞬の表情の変化に、唯は不思議そうに首をかしげて声を上げたが、僕は首を横に振ると再度律たちに説明をした。

「一週間後、会場には17時入り。出番は19時から。楽屋には会場の様子を中継するテレビがあるから、それでライブの模様を見るのもいいし、練習をするのもいい。それは唯たちの自由」

そして僕は当日についての説明に話を移した。

「ねえねえ、お菓子とか持って行ってもいいの?」
「別に制限はしないけど、お手洗いには行けなくなることを考えるように」

バンドメンバーで一番のネックはお手洗いだ。
途中に挟まれる休憩は、文字通りの休憩とお手洗いに行くという意味もある。
演奏中にお手洗いに行くというのは演奏家としては腕前以前の問題だ。
なので、僕たちの場合は開幕2時間前から水分以外は摂取しないようにしている。
ちなみに、大みそかライブの時、僕は紅茶は飲んだがお菓子は一切口にしていない。

「何事も常識の範囲内で」
「はーい。うーん、それじゃケーキと……うんめぇ棒を」

全く分かっていない唯に、僕はため息を漏らすことしかできなかった。










「ふぅ……」

自宅に戻った僕は、静かに息を吐き出した。
別に疲れているからではない。
体調も万全だ。
ただ、それ以上に精神的な疲れが多かった。

『………今回のライブは、僕抜きでの演奏が必要になる。それなのに僕が入って練習するというのは、意味がない。だからだ』

あの時、ムギの問いかけに答えた僕の言葉。
それは、僕の本心の理由だった。
あの言葉に僕は嘘偽りはないと断言してもいい。
だが、それだけが理由なのかと言われれば、それは嘘になる。
演奏に加わらないのは少なからずもう一つ別の理由もある。

「どうしたものか」

僕の視線の先にはテーブルの上に置かれた一通のエアメールがあった。
宛名はローマ字表記で僕の名前が書かれている。
封はすでに切っており、中身は確認済みだ。
別にエアメールが嫌なわけではない。
問題はその中身だった。

「どっちにしろ、ちゃんと話さないとね」

もう僕の中で答えは出ていた。
だが、それを唯たちに話す勇気がなかった。
話してしまえば、唯を悲しませる結果になるのは目に見えているからだ。
何かきっかけでもあれば、あるいは……

「まったく、僕の優柔不断なところは未だに治らず、か」

まあ、異性と付き合ったことがないのだから当然かもしれないが、ここまで来るともはや清々しく思えてしまう。

「近いうちに話さないと」

タイムリミットはあと半年。
それ以降は送り主にも迷惑をかける事態になりかねない。
それに何よりも

「今は一週間後のライブのことに集中しよう」

目先に控えたライブに向けて頑張る皆に水を差すようなまねはしたくなかった。
それがいいわけであることも重々承知している。
だが、放課後ティータイムの一員として、唯の恋人として僕はどうしてもこの時期に言うことはできなかった。

「でも、このままではいかないよね」

いずれそう言うことを話さなければいけない状態になる。
いつまでも放置しておくわけにはいかなかった。

「とにかく、今日から一週間は気合を入れよう!」

僕は自分にまとわりついてくる問題をいったん置いておくことにした。
ライブまで残り一週間。
どのようなライブになるのか。
それを楽しみにしながら、僕は眠りにつくのであった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。
大変お待たせしました。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
新しいライブの話、今回は若干の黒い部分を出しながらの話となりました。

唯たちの事務所への道中記に思った以上に時間を取られてしまいました。
そして、今回で記念すべき100話目です。
この調子で200話を目指していきたいと思います。

さて、拍手コメントの返信を行いたいと思います。

『ちょっとやばいこと になるようなきが………』

コスモさん、拍手コメントありがとうございます。
コスモさんの”やばい”が、何を指しているのかは分かりませんが、それほど危険な展開にはなりませんので、ご安心ください。
そして、この話も次々話で終わる可能性が高いです。


それでは、これにて失礼します。

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第100話 訪問!

あれから数週間の時が過ぎて、ライブまで残り2週間となったある日のことだった。

「平沢さんたちがおかしい?」

昼休み、僕の切り出した相談事に、慶介は昼食(この日はお弁当)を口にしながら首をかしげた。

「ああ。最近妙にそわそわしたり内緒話をしたりしてて、あれは絶対に何かを隠しているような気がするんだ」

この間は僕の姿を見ただけで、まるで幽霊を見たかのように驚いて飛び跳ねていたし。

「ムムム…………はっ。まさか、浩介の誕生日が近いとか?!」
「残念ながら違います。というか僕の誕生日先月だし」
「それは残念だ」

慶介の名推理(?)は見事に外れた。

「ちなみに、いつだ?」
「1月1日」

父さんが言うにはあと少し早ければ12月31日だったのだとか。
まあ、僕的にはどうでもいいが。

「す、すげえじゃないか!」
「……何が?」

なぜか興奮した様子の慶介に、僕は首をかしげながら尋ねた。

「だって、ほんの一週間でケーキをまた食べることができるんだぞ! プレゼントだってもらえるんだぞ!」
「ところがどっこい。正月にケーキを食べるような家はどこにもないし、プレゼントももらえない。学校だって休みだから明けおめメールはもらえても、誕生日のお祝いのメールはもらえない。どこもいいところなんてないさ」

ちなみに、故郷にはちゃんとお正月という風習があるし、クリスマスという概念もある。
これまで、そう言ったお祝い事をされた覚えは一度もなかった。

「だったら、全世界の人が浩介をお祝いしているって思えばいいじゃないか。それに、来年は俺もお祝いのメールを送ってやるから」
「唯だけでいいからいらない」
「くっ! これが持つ者の余裕かっ!」

意味の分からないことを叫ぶ慶介に、僕は心の中でため息をついた。

「それじゃ、浩介がセクハラまがいのことを――「ほら吹くのも大概にしろよ?」――はい、すみませんでした」

慶介の全く違う答えに、どすを聞かせて止めた。

「もういい。時間が解決するだろうから。放っておく」
「なんという単純明快な解決法」

本来であれば心を読めばいいだけの話だが、あれはあまり使いたくはない。
むやみに使うのはこれまでの関係を壊すことにもなりかねないからだ。

「でも、もしかしたら平沢さんは浮気をしてるのかもしれないぜ?」
「………ん?」

慶介の言葉に、僕の手が止まった。

「ほら、平沢さんってとってもかわいいからさ。言い寄られて……的なことだったらどうす―――」
「その時は、そいつとお話をして決める」

言葉は普通だったが、心の中は尋常ではないほど怒り狂っていた。

「強引に彼女と付き合っていた時は……」
「時は?」
「潰す」

慶介に促される形で、僕はそれだけを告げた。

(まあ、唯にそんな気配は微塵も感じないんだけど)

隠れてやっていたとしても、僕ならばすぐに気づける自信があった。
それを感じないということは、慶介の言ったことはありえないということになる。

(とはいえ、唯のことでここまでむきになるなんて)

平静を保てなくなるというのは、もしかしてやきもちだろうか?
とはいえ、あまり強くすると引かれるので、自重した方がよさそうだ。

「そ、それで、今日は部活じゃないんだ?」
「ああ。ちょっと向こうの方でね」

話題を変えるように口にした慶介の問いかけに、頷きながらおかずである唐揚げを頬張る。
今日、次のライブでの”NEW STARS PROJECT”の選考で選ばれたバンドが説明を聞くために来るのだ。
中山さんたちの話では、5人の女性と1人の男性で形成されたガールズバンドのようなものらしい。
一体どんな人物でバンドなのかを考えると、楽しくて仕方がない。

「大変だよな、浩介も」
「まあね。ライブが終わったら埋め合わせをするつもりだから」

唯とのデートプランもしっかりと練っている。
本人が喜んでくれれば成功と言ってもいいだろう。

「まあ、頑張れよ。絶対に行くから」
「どうも」

慶介のエールに、僕はそう答えるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


少しだけ時間をさかのぼること数日前のお昼時の、軽音部部室。

「それじゃ、開くぞ」
「う、うん」
「な、なんだか緊張しますね」

浩介を抜いた部員全員が、律の集合の一声で部室に集まっていた。
彼女たちの視線の先……テーブルの上に置かれているのは封が開けられていない『チェリーレーベルプロダクション』という会社名が記された水色の封筒だった。
封筒には『通知書在中』と明記されていたため、中身が何なのかは容易に想像ができた。
ちなみに、この封筒は律の自宅に届いていたが、全員の前で開封すると決めていた律によって開封されなかったのだ。
尤も、一人で見るのが怖いという理由も無きにしも非ずではあるが。
部長であるため、封筒の封を開けた律は、緊張の面持ちで中に入っていたものを取り出した。
中身は三つ折りにされた、一枚の白地の用紙だけだった。
律は震える手で、紙を開いていく。

「ッ!!!?」

そして中身に目を通した律は、突然声にならない悲鳴を上げた。

「どうしたんですか!?」
「も、もしかして、落選!?」

その様子を見ていた梓達が、慌てて律に声を掛ける。

「と………」
「豆腐?」
「当選したぞっ!!」

震える声から一転、喜びにみちた声を上げた。

「う、うそ!?」
「私も見る!」
「私も」

次々と結果の書かれた紙に目を通す唯たちは、そこに記された”当選”の二文字を目の当たりにした。

「し、信じられないです」
「私も、まさか本当に選考に通ったなんて」

驚いた様子の梓の言葉に賛同するように頷きながら澪が続いた。

「でも、これでまたみんなと一緒に演奏ができるね」
「……そうだな」
「えっと、今後のことについて書いてある」

満面の笑みを浮かべながら口を開いた紬に澪が頷き、律は採用通知の方に目を通した。

「何々……『指定日時と時間帯に事務所に向かい、そこで詳細を確認してください』だって」
「それじゃ、浩介には事務所に行く時にこのことを教えるとするか」
「賛成!」

律の案に、唯は素早く賛成の声を上げた。

「それと、昼休みに浩介抜きで練習して、驚かそうぜ」
「それいいね! 高月君めったなことでは驚かなさそうだから、楽しみかも♪」
「私は音合わせで浩介先輩が対応できなくなると思うんですけど」

圧倒的な賛成に梓は控えめに手をあげると、異論を唱えた。

「それに、あまり隠しておくと怪しまれるんじゃないか」
「そこは大丈夫。根拠はないけど、うまくいくって。だって、浩介だし」
「た、確かに……」
「そうだけど……」

律の反論に、澪たちの反対意見も弱くなる。
二人でさえ納得させられる何かを持っているのが浩介のすごいところでもあり怖いところでもあるのだが。
結局、この後二人は押し切られるような形で浩介に隠れての特訓が始まるのであった。
その反動によって、放課後の練習はほとんど0に近くなったが。
そして、唯たちは指定された日を迎える。










「浩介は?」
「今日は用があるから無理だって」

学校の校門前で携帯電話を片手に唯は首を横に振った。

「驚かせる相手がいないんじゃ意味がないじゃないか!」
「しょうがないですよ、H&Pの活動なんですから」
「だから話しておけばよかったんだ」

律の不満に、梓はため息交じりに相槌を打ち、澪はジト目で隠し続けることを選んだ律を見ながら告げた。

「まあまあ。高月君は明日驚かせばいいんじゃないかな」
「それもそうだな」

紬の出した提案に、頷いた律は指定された場所である『チェリーレーベルプロダクション』へと向かうのであった。

「まるで都会みたいだね!」
「都会みたいと言うか、それだと、あそこが田舎町になるぞ」

目的の駅に到着して早々に唯が口にした言葉に、律がツッコミ口調で相槌を打った。

「ほら、バカやってないで早く行くぞ」
「「はーい」」

いつの間にか澪が引率する形で駅を後にしていた。

「唯先輩、もう少ししゃきっとしてください」
「しゃきっ!」

項垂れるように歩く唯に注意をする梓は言葉と共に姿勢を戻す唯を見て何とも言えない表情を浮かべた。

「それにしても、浩介ってライブでも控えてるのか?」
「そうみたいだぞ。2月の中旬に大きなライブをやるらしいから」

律の疑問に澪は即答で答えた。

「どうして、澪ちゃんが浩君のスケジュールを知ってるの?」
「うぇっ!?」

そんな澪に、唯は怒りに染まった目で澪をにらみつけながら問いただした。

「ゆ、唯先輩落ち着いてください。浩介先輩は自分のホームページを持っていてそこで活動について書いてあるんです」
「あ、本当だ」

そんな唯の様子に慌てながらも梓は唯にそのホームページが表示された携帯画面を見せながら説明した。
それは、H&Pの活動予定や、出演情報などが記されたサイトであり、自己紹介はもちろん、Q&Aコーナーなどと充実したコンテンツになっている。
それを知った唯から、怒りの感情は消えいつもの雰囲気に戻っていた。

「ふぅ……」
「それにしても、浩介先輩に関することだとあそこまで豹変するんですね」
「浩介も似たようなもんだけどな」

緊張の糸が切れたのか、そっと息を吐き出す澪を見て梓は意外だとばかりにつぶやく言葉に相槌を打つようにつぶやかれた律の言葉はある意味的を得ていた。
そんなひと騒動がありつつも、唯たちはついに目的地である『チェリーレーベルプロダクション』がある5階建てのビル前へと到着した。

「ここが、事務所」
「意外と大きくないね」
「…………それ、中で言ったらひどい目に合うから言わない方がいいぞ、唯」

事務所を前にした唯の怖いもの知らずの暴言に、律は冷や汗をかきながら注意した。

「とにかく、中に入りましょう」

そんな梓の言葉で、律たちはビルの階段を上っていく。
そして事務所のある3階にたどり着いた彼女たちの前に無機質なドアが立ちはだかる。
ドアの窓ガラスには『チェリーレーベルプロダクション』という文字があり、間違っていないことを唯たちは知ることができた。
律は緊張の面持ちでドアをノックした。

「どうぞ」
「し、失礼します!」

中から帰ってきた男の声に、律は声を上ずらせながら応じるとドアを開けた。

「ようこそ、チェリーレーベルプロダクションへ。『放課後ティータイム』の皆さんで相違はないかね?」

彼女たちを出迎えたのは茶色の背広を身に纏った、ちょび髭の生やした男性であった。
髪は短髪で、整った顔立ちのその姿から醸し出される雰囲気は、ダンディーとも言えなくない。

「は、はい!」
「君たちのことは彼からよく聞いている。今バンドメンバーは外に出ているんだ。時期に戻ってくると思うから、奥のソファーの方に腰掛けて待ってもらってもいいかな?」

男性は、人当たりのいい表情で唯たちに尋ねた。

「は、はい」
「それじゃ、案内しよう」

そう言って、男性は奥の方へと唯たちを案内した。

「どうぞ」
「あ、すみません」

全員が腰かけたところで、男性は人数分のお茶を律たちの席の前に置いた。

「おっと、紹介が遅れたね。私は|荻原 昌宏《おぎわら まさひろ》。ここの社長だ」
「あ、私は―――「君は田井中 律君だったね?」――え? は、はい。そうですけど」

律の自己紹介の言葉を遮るようにして、彼女の名前を呼ぶ昌宏に、律は戸惑いを隠せなかった。

「で、君が中野梓君で、その横が秋山澪君。そして琴吹紬君に平沢唯君だったね」
「あ、あの。私たちどこかでお会いしましたか?」

次々と名前を口にしていく昌宏に、梓は怪訝そうな表情を浮かべながら訪ねた。

「いいえ。ただ、貴女たちのことは”彼”から詳しく聞いていたから」
「彼?」

昌宏の口から出た”彼”という単語に、律は首をかしげながらつぶやく。

「ん? もしかして、彼は君たちに話して―――「ただ今戻りました」―――っと、どうやら戻ってきたようだね」

昌宏の言葉を遮るようにして、ドアが開かれる音と共に聞こえた男の声に昌宏は話を中断させるとドア側から見える位置に移動した。

「なあ、今よく知った声が聞こえなかったか?」
「き、気のせいだよ。きっと」

先ほど聞こえた声に聴き覚えがあった律の問いかけに、澪は冷や汗を浮かべながら答えた。
だが、彼女たちは薄々気づきかけていた。
それを必死に追い出そうとしていたのだ。
その大部分は、信じたくないという理由がほとんどだったが。

「当選者はもう?」
「ええ。こちらに」

さらに聞こえた女性の声に答える昌宏。

「大変失礼した。ちょっとした用事………で」
「え?」

声の主が彼女たちに姿を現せたところで、固まった。
それは唯たちも同じようで、目を瞬かせていた。

「ど、どうして浩介(君)がここにいるの(んだ)!!?」

事務所内がちょっとした騒ぎに包まれるまで、それほど時間はかからなかった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。
大変お待たせしました。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
此処から新たな話に入っていきます。
基本的にはライブの話ではありますが、一応オリジナルの話になります。

此処まで時間がかかったのは、第99話がプロット上短くなりすぎたために、第98話のほうに加筆をしていたためです。
ですので、第98話がサブタイトルまで変わっていたりするわけであります。


それでは、これにて失礼します。

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第99話 応募!

新学期も始まり、いよいよ学期末に向けて走り出した僕たちであったが、この時期は僕はいろいろと忙しかった。

「今日も浩介はまっすぐ帰るんだ?」
「ああ。本当に最近忙しくて困るよ」

HRも終わり手早く荷物をまとめた僕は、慶介に相槌を打ちながら鞄を手にする。

「でも、それも今日で終わりだろ?」
「まあね。厄介なことが終わるから」

慶介の問いかけに答えた僕は、そのまま駆け出すように教室を出ると学校を後にするのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


時をさかのぼり、新学期が始まって少し経った日のこと。
この日も軽音部の部室ではティータイムが繰り広げられていた。

「浩介も大変だよなー。ライブの準備で休むだなんて」
「でもライブって来月なんだよね? なのに、どうして準備を始めてるの?」

ひと月前からの準備に、首をかしげる唯に、声を上げたのは梓だった。

「それは当然ですよ! セッティングや音響確認の打ち合わせとかいろいろ大変なんですから!」
「しかも、浩介はバンドを引っ張っていく影のリーダー。責任だってあるんだぞ!」
「み、澪ちゃんも!?」

梓に続いて澪までもが声を荒げたことに驚く唯。

「澪はDKのことが絡むと人が変わるからな~」
「梓ちゃんもね」

からかいの意味を込めた視線を澪に送りながら相槌を打つ律に、紬も続いた。

「あ、すみません」

ふと我に返った梓はしゅんと小さくなって謝った。

「でも、この間のライブ楽しかったねー」
「そうだな。いい経験だったよな」

唯の感想に、澪も頷いた。
大みそかに開かれた、ライブハウスでのライブは彼女たちにいい影響を与えていたようだ。

「そんなあなたたちに朗報よ!」
「にゃ!?」
「うわ!? いつの間に……」
「あ、お茶入れますね」

梓の横から大きな声で叫ぶさわ子に、驚きをあらわにする梓達。
尤も、紬は驚くこともなく落ち着いていつものように、お茶を入れるべく立ち上がったが。

「ありがとね。ムギちゃん」
「いいえ」

いつもの席(浩介と梓の机の横の部分)に腰掛けたさわ子は、紅茶を淹れた紬に労いの言葉をかけた。

「それで、朗報って?」
「あ、そうそう。さっきネットでこんな催しを見つけたのよ」

律の問いかけに思い出したのか、さわ子は得意げな表情で告げるとどこからともなく一枚の紙を取り出した。
それはサイトの内容をそのまま印刷したものであった。

「えっと……『NEW STARS PROJECT』?」
「これって、一体……」

そこに記されていた名称に首をかしげる唯たちに、さわ子はにやりと笑みを浮かべた。

「腕はいいけど、デビューの場がない。ライブをする場所や機会もないという人たちに光を当てるための企画らしいわよ。有名バンドとの合同ライブという形にはなるけど所定の時間は参加希望バンドだけで、ライブができるのよ」
「へぇ……」

興味を持った律は、印刷された用紙に目を通し始めた。

「これまでは15分という短い時間だったけれど、今回はそれが4倍の1時間まで拡張された」
「おぉー、それはすごいどすなー」

4倍という数字に、唯が感嘆の声を上げる。

「1時間の使い方や曲の構成は自由。しかも、なんと! オリジナルの楽曲を相手のバンドの人に売ることもできるという特典付きっ!!」
「誰?」

興奮のあまりに、席を立ちあがって力説するさわ子に律が目を瞬かせながらツッコんだ。

「あ、書いてある。曲の演奏契約を結ぶことによって、契約バンドへ演奏するごとに演奏料を支払うんだって」
「参加方法は?」

紙に目を通していた澪に、紬が疑問を投げかけた。

「えっと、演奏した楽曲を下記住所に送付するだけだって。あとは選考があって、採用なら連絡が行くらしい」
「選考ってあるんだね」
「それはもちろんよ。新人バンドにとってみれば、一躍有名になれるチャンスだからね。応募者が増えるのは当然。倍率はかなり高いわよ。それに、有名なバンドも自分たちの看板を汚さないようにある程度のレベルは求めるだろうし」

唯の言葉に、再びさわ子が説明を始めた。

「どうする? これに出てみるか?」
「私は賛成」
「私もです」
「一応、応募するくらいなら」
「賛成~」

律の問いかけに、全員が賛成票を入れた。

「それじゃ、応募ということで。あ、どうせだから浩介には内緒にしておこうぜ」
「そうだね! 浩君をびっくりさせてみたいもんね!」

そんな律の提案に、唯が真っ先に食いついた。

「……全く」

そんな二人にため息をつく澪だったが、すぐに紙の方に視線を落とす。

「えっと、応募資格で下記事項にあてはまる方は応募できないって」
「どんなどんな?」

澪の言葉に、唯たちは澪が見えるようにおいた紙の方に集まる。


―――応募資格―――

・以前に当企画に参加したことがある者(選考落ちを除く)
・当企画の参加権を応募者の落ち度で剥奪された場合
・応募者の中に一名でも18歳に満たない者がいる場合(ただし部活動などの正規活動であり、なおかつ学校名や部活動名を明記し、監修者である顧問の承認を証明する書類が添付されている場合は可とする)
・当企画に応募する以前にライブを開いた場合、または応募から企画出場までの間に開く場合(部活動や合同ライブなどは除く)
・コピーバンドの場合(1曲でもオリジナル楽曲がある場合は除く)

――以上――


「うへぇ、厳しいなぁ~」
「それだけしっかりとしてるってことだな」

応募資格の一覧を読み終えた律のため息にも似た言葉に、澪が相槌を打つ。

「でも、応募ってどうやってするんでしょう?」
「そう思って、書類を作っておいたわ!」

梓の疑問を予想していたのか、にやりとほくそ笑むと再びどこからか一枚の紙を取り出した。
そこには”応募用紙”と書かれていた。

「それじゃ、梓書記な」
「別にいいですけど」

まるで流れ作業のように梓にゆだねた部長の律に、梓は複雑そうな表情を浮かべるものの、鞄から筆記用具を取り出した。

「えっと、バンド名は放課後ティータイム……この責任者住所ってどうするんですか?」
「バンドの責任者って、順当に考えると部長のはずだから律の住所でいいと思う。住所の方は私が書くから、貸してもらってもいいかな?」
「あ、はい。どうぞ」

住所を書く項目で手が止まった梓に、澪はそう口にすると梓からボールペンを受け取り、律の家の住所や連絡先を記載していく。

「バンドメンバーの氏名住所を書かないといけないみたいだから、みんなも書いて」

先に書いたのか、澪はそういいながら隣に座っていたムギに応募用紙を渡した。

「それじゃ……」

ムギはボールペンを受け取るとさらさらと必要事項を明記していく。

「はい、梓ちゃん」
「あ、ありがとうございます」

ムギから応募用紙とペンを受け取った梓は、お礼を言うと再び必要事項に記載していく。

「最後は唯先輩ですね」
「ありがと~」

最後の唯も必要事項に記入を済ませた。

「えっと、最後は楽曲情報ですね……えっと、これ全曲書いていくんですよね?」
「そうみたい」

応募の仕方の紙に目を通していた澪が頷いた。

「演奏する曲目が決まっていればその曲を。そうじゃない場合は自分の持ち曲を全部書き出すんだって。その際に作詞作曲者も記載すること」
「えっと、それじゃ、まずはふわふわ|時間《タイム》ですね」

こうして、梓たちは自分の持ち曲を書いていく。

「ふぅ。やっと終わった~」
「こうしてみると、少ないですよね」
「確かに」

梓のつぶやきに、律が頷く。
書き上げられたのはわずか6曲分だった。

「あ、でも参加者には一~五曲の楽曲の演奏課題が与えられるそうですから、大丈夫だと思います」
「後はMCとかで時間が削れるだろうし」

応募用紙に記載されていた内容を、梓が告げたことで、問題はとりあえず解決となった。

「後は、承認を証明する用紙を――「それならあるわ!」――ほ、本当に手際がいいな」

律の言葉を遮って書類を取り出すさわ子に、律は目を瞬かせながら口を開いた。
そんなこんなで、応募用の書類が出来上がり、これまたさわ子が事前に用意していた茶封筒に応募用の書類一式を入れて封をした。

「よっしゃ、帰る時にポストに投函しようぜ!」
「あ、投函するのは私がやってもいい? 昔から郵便物を投函するのが夢だったの!」
「うん、いいよー」

律の言葉に、手を上げて懇願する紬に、満面の笑みを浮かべながら唯が答えた。

「選ばれるといいね」
「そうだな」

そんな希望に胸を躍らせるようにして、彼女たちはお茶に口をつけるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「おはようございます」
「おう、今日はオフモードか」

事務所に入ると、僕の姿を見たYJがつぶやいた。
オフモードというのは変装などを一切していない状態のことを指す。

「オンにした方がいいならするけど?」
「いや、そのままでいい。今日は最終選考だからな」

YJの返事を聞いて、僕はソファーに腰掛けた。
テーブルの上には最終選考にまで上り詰めた5組のバンドがピックアップされていた。

「それじゃ、それぞれの組の提出した音源を聞いた結果、どこが相応しいか。一人ずつ言っていこうか。まずはMR」
「この中にはないね。どれも曲はいいが、パンチに欠ける」

YJに促される形でMRは首を横に振りながら答えた。

「僕も、ちょっと”これだっ”というものは」
「私もです」
「俺もだ。浩介はどうだ?」

ROやRKに続いてYJが答えると、こちらの方に振ってきた。

「僕も同意見。よさそうではあるが、いささかパンチに掛ける。盛り上がらなければ、それは失敗だ」

満場一致で不合格という結果になった。

「しかし、どうするんだ? このままだとプロジェクトの参加団体がいなくなるけど」
「それは心配には及ばない。俺たちの方で極上のバンドを見つけておいた。浩介以外の全員がそいつを合格にしている」

僕の疑問に返ってきたのは、意外なものだった。

「そうだったのか。僕は何も知らないが?」
「ちょっと事情があってな、俺達だけで選考を進めてたんだ。浩介がどうしても嫌だと言うならそこも落とすが、どうする?」

真剣な面持ちで投げかけられたYJの問いかけに、僕は頭の中で考えをめぐらせる。

(プロジェクトがご破算になるくらいなら、乗ってみてもいいか)

それに、僕以外の皆が満場一致で合格にしているのだから、間違いはないだろう。

「僕の答えは決まっている。みんなの耳を信じるよ」
「よし。それじゃ、そのバンドへの通知はこっちの方でするから、不合格通知の方を浩介の方でやってもらっていいか?」
「分かった」

YJの指示に頷いた僕は、さっそく落選した5組のバンドに不合格通知を作成して発送手続きに入るのであった。
だが、この時気付くべきだった。
皆が企んでいることを。










「浩介、今日も……またですか」
「そう言うこと。まあ、今日は家の掃除だから。例の関係で散らかってるから片づけようと思って」

翌日の放課後、ジト目で話しかけてくる慶介に、僕は苦笑しながら答えた。
本当は先日ですべてが終わっているはずなのだが、1次と2次選考の時の参考資料がまだ散らばっている状態なので、今日はそれを片づけようと思っていたのだ。

(後、壊れかけた棚の修理も)

いい加減、歩いただけで崩壊する食器棚を何とかしたかったため、僕はついでにということで食器棚の修理を一緒にすることにしていたのだ。

「本当、大変だよな浩介」
「全くだよ。おかげでここ最近唯とも話せてないし」

話せるのは昼休みのほんの数十分だけ。
そう言う意味では唯には非常に申し訳ないことをしているような気がするが、これも今日までの辛抱。
明日からはたっぷりと唯と話をすることにしよう。

「くそぉ~。こうなったらアタックをかける!」 

僕の言葉を聞いた慶介は悔しげに声をあげると、なぜかそんなことを言い出した。

「浩介、見ててくれ! この俺が成功する姿を!」
「はいはい」

拳を握りしめ、宣言する慶介に適当に返事をする僕のことを気にした様子もなく慶介はたまたま近くを歩いていた佐伯さんの方に声を掛けた。

「佐伯さんっ!」
「な、なに!?」

大声で叫んだため、飛び上がるほど驚いた様子で慶介の方に振り向いた。

「この俺と忘れられない素敵な一夜を共にしないか?」
「お断りします」

ダンディな声色で誘った慶介に、佐伯さんは清々しいほどきっぱりと断りを入れた。

「………っ!?」
「じゃあね」

一瞬で石と化した慶介に、佐伯さんはそれだけ告げると教室を去っていった。

「慶介。大丈夫だ。お前にも春は来るさ」

慶介の肩に手を置いて、僕は思いつく限りの励ましの言葉を贈る。

「ぢぐじょう~。それが一番頭にくるっ!」
「………じゃあ、勝手に固まってろよ」

じたばたじたばた暴れる慶介に、僕は冷たい視線を送りながら突き放すと立ち去ろうとした。

「のわっ!?」
「行かないでくれ! 無視しないでくれ!!」

いきなり足にしがみついた慶介によって、僕は勢い良く地面に倒れた。

「…………ふんっ!」
「ぎゃごっ!?」

僕はそんな慶介に向けて捕まれていない足で勢いよく蹴り飛ばした。

「何しやがるッ! 一生そこで眠ってろ! このタコ野郎!!」

慶介に罵声を浴びせた僕は、そのまま教室を後にするのであった

「クク……浩介のキック……いつもより、強い――――ガク」

教室ではそんなことを呟いて沈む慶介の姿があったとか。

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