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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

大変永らくお待たせしました。
本日『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。

ここから楽器(という名の律)の話になります。
一応唯ルートなので、あまり彼女をあれしすぎると今回の最後のような状況となるので、気を付けたいところです。

さて、ここからは拍手コメントへの返信を行いたいと思います。

『次は律中心の話ですね。律好きなので楽しみです』

コスモさん、拍手コメントありがとうございます。
律は私の知る限りヒロインとして書かれている小説は少ない(多かったらすみません)ので、作者としても腕が鳴りますが、一応唯ルートなので引き立てすぎるととんでもない状態になるので、バランスを考えて書いていきたいと思います。

『ハーメルン掲載のラブライブのヒロインアンケートについて星空凛に一票入れさせてください』

さららさん、拍手コメント&投票ありがとうございます。
星空凛への投票を確認しました。
今後も本作をよろしくお願いします。

『ラブライブのヒロインアンケートですが1年組がメインなのを見たことがないので凛、真姫、花陽の3人を希望します』

魚雷さん、拍手コメント&投票ありがとうございます。
凛と真姫、花陽の三名への投票を確認しました。

今後も本作をよろしくお願いします。
これは学年ごとに話を構成したほうがいいのかもしれないなと、投票を見ながら考えていたりします。
中間結果発表も近いので、そこでもう一度考えてみようと思います。


それでは、これにて失礼します。

拍手[0回]

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第113話 予感

それは、ギターの騒動がひと段落して数日後の放課後のことだった。
この日も、全員(約二名を除く)が亀であるトンちゃんの前へと集まっていた。

(完全に部活としての本分を忘れてるな、あれは)

唯は水槽に張り付いて可愛いとつぶやいているし、梓は熱心に亀の飼育方法が書かれている本を読んでいるし。

「ねえねえ、澪ちゃんも名前を読んでみなよ」
「え……トン……ちゃん」

先ほどまで水槽に張り付いていた唯は後ろのほうで控えめに(もしかしたらただ単におびえているだけなのかもしれないけれど)立ち尽くしていた澪に促すと、澪はおずおずと名前を呼んだ。
すると、トンちゃんは澪の呼びかけに反応したかのように顔を水面からのぞかせた。

(この亀、人の言葉がわかるのか?)

どうやら、世の中にはまだまだ僕には読み解けない謎があるようだ。
そして澪も唯と同じく可愛いと口にする始末だ。

「ちゃんと世話もしないとだめですよ、唯先輩。水温を一定にしたり毎日餌を上げたり水を取り替えたり」

そんな唯たちにくぎを刺すように、飼育方法の本を読んでいた梓が口を開いた。
ちなみに、エサはトンちゃんを買った際におまけでついてきたものを使用しているが、せいぜい数日分だ。
そろそろそれもつきかけていた。

「ギー太よりも手がかかるね」
「当たり前だ。楽器じゃないんだから」

至極当然のことを呟く唯に、僕は音楽雑誌(に偽装した魔導書)に目を通しながらツッコミを入れた。

「あ、エサなら私に任せて。家でもいろんな亀とか飼ってるから。ミシシッピニオイガメとか」
「よ、よろしくお願いします」

(え、エキスパートだ)

さらりと亀の種類を口にしたムギに、目を瞬かせながら梓は頷いた。

「かわいがるのはいいけれど、責任もって飼えよ」
「そうだな。世話がいやだからって捨てたりは――「もう嫌だ!」――」

僕の苦言に頷くようにつぶやいた澪の言葉は、律の叫び声によって遮られることになる。

「ドラム嫌だ!」
『はいぃ!?』

何やら、またしてもひと騒動が起こりそうな予感がした。

「ドラムがいやだって、何を言ってるんだ?」
「すまん! 嫌だは言い過ぎた。でも、これを見ろよ」

律の言葉に本を机の上に置いて立ち上がると、律がいるであろうベンチのほうへと歩み寄りながら、僕は呆れてしまい心なしか言葉に力がこもらなかったが、律は右手を僕達の前に掲げると即座に撤回した。
代わりに僕たちに見るように促してきたのは、今朝真鍋さんから”参考ないしは記念に”と言われて渡された学園祭と新入生歓迎会でのライブの映像だった。

「これがどうしたんですか?」
「ここを見てみろ!」

そういいながらステージの映像のある部分をズームさせた。

「うわ、暗!?」
「照明が当たっていないのね」

そこに映し出されたのは額だけ光り輝く人物の姿だった。
どう見ても律だった。

「ドラムは隅っこですからね」

梓の言うとおり、ドラムは後方に配置されるのが普通なので、どうしても隅っこになってしまう。
これは、ドラマーの宿命なのかもしれない。
とはいえ、工夫の仕方によっては、この問題も解消されるが。

「でも、おでこだけは輝いてるよ」
「うるさいっ」

唯のフォロー(?)に律は自分の額を抑えながら言葉を吐き捨てた。

「それにこれだけじゃないんだよ、ほら! 去年の新歓も今年の新歓も!!」
「暗いな」
「あ、足が見えました」

律の力説に映像を確認してみると、確かにどの映像も律の姿は唯や梓に比べてはっきりと見えていない。

「で?」

映像を一通り見終えた僕は、後ろのほうで僕たちに背を向けるようにしゃがみこんで泣きまねをする律に、続きを促した。
しばらくの無言ののちに

「他の楽器やりたい」

律が口にしたのは、そんなとんでもないものだった。

「おいおい、映像に映らないからほかの楽器をやるだなんて前代未聞だぞ」
「それに、誰がドラムをやるんだよ」

僕の言葉に続いて告げられた疑問の言葉に、律は泣きまねをやめると壁のほうを見ながら口笛を(吹けてはいないが)吹き始めた。

(考えてなかったんかい!)

「それにちまちましたのは苦手だからドラムをやるって言ったのは律だぞ」
「だからさ、取り換えっこでもしようぜ!」

澪の言葉に律がそんな提案を出した。

「なんだかおもしろそう!」
「だろ?」

気づけばもう決定事項のごとく話が進んでいた。

「まあ、いんじゃない」
「よっしゃ! 浩介が味方になったぞ」

僕が賛成に回ると、律は興奮した様子でガッツポーズをした。

「ドラムをやめる云々は別として、色々な楽器に触れてみるのは、経験としてはいいと思うからだ」

念のためにと、僕は付け加えるようにして律に告げた。
ドラムをやめるという話はともかく、さまざまな楽器に触れるというのは経験を積むいいチャンスだ。
一つの楽器に集中するのではなく、出来るだけ多くの楽器に手を触れれば、適正な楽器パートを見つけるだけではなく、その楽器の演奏のむずかしさなどがわかったり、自分楽器パートの重要さがわかったりもできるのだ。
そんな理由で、僕は賛成票を投じたのだ。

「それじゃ、私のギター使ってみる?」
「え、いいの!?」

そんな中、快く自分の楽器を差し出したのは、唯だった。
こうして、律発案の楽器取り換えっこが始まるのであった。





「じゃーん!」

唯のギターレスポールを構えた律の姿に澪たちが感嘆の声を上げる。

「ギターを持っている姿がすごく様になってます」
「でも、やっぱり変な感じね」
「いやいやー」

梓とムギの言葉に、律は右手を頭の後頭部に添えながら相槌を打った。
とはいえ、梓のはものすごく危険な感じがする感想だったような気がしたが。

「うわーん!」

そんな中一人泣き声を上げたのは、唯だった。

「どうしたんだ?」
「ギー太が律ちゃんに浮気した~!」

唯の様子に何があったのかわからずに尋ねると、泣きじゃくりながらその理由をこたえた。

「自分から笑顔で差し出したんじゃないですか!」
「ギー太、君のことは忘れないよ!」
「意味がわかんない」

涙を浮かべて窓の外を見つめながらつぶやく唯の言葉は、まさしく謎そのものだった。

「それじゃ、唯先生よろしくお願いします!」
「唯先生!?」
「変わり身早いな、おい」

先ほどまで涙ぐんでいたのはどこへやら、律の先生という言葉にすっかり元に戻って”いやいや~”と照れ笑いをしている唯に、思わずそうつぶやいてしまった。

(まあ、そういう訳のわからないところも魅力といえば魅力なんだけどね)

口に出したら確実に砂嵐が巻き起こりそうなことを、僕は心の中でつぶやいた。
そんな中、一人テーブルのほうへと向かうのは澪だった。

「何故に座る?」
「どう考えてもすぐに飽きると思うから」
「……確かに」

澪のその言葉に否定をするだけの材料が僕にはなかった。
そんなこんなで、唯によるギターレッスン(?)が幕を開ける。

「左手で弦を抑えて、右手でストロークだよ」
「いや、それぐらいは分かってる」

本当に基礎の基礎を教え始めようとした唯に、律が申しわけなさそうに右手を上げて告げた。

「えぇ!? それじゃ、一体何から教えれば……」
「……」

あえて僕は傍観に徹することにした。
これもまた、彼女たちのレベルアップになるのであれば、ここで僕が手を出すのは野暮だと思ったからだ。

「仕方がないですね」

あたふたとする唯を見かねて声を上げたのは、譜面台を手にした梓だった。

「まずはふわふわ|時間《タイム》からやってみましょう」

そう言いながら譜面台に置いたのは、ふわふわ|時間《タイム》のギター用の譜面(通称TAB譜)だ。
こうして、唯によるギターレッスンは梓を交えた二人掛の物となった。

「えぇっと、それじゃ……」
「あ、座った方が弾きやすいかもです」

譜面をのぞき込む律に、梓がすかさずアドバイスを入れた。
立ちながらだと、ギターがどうしても動いてしまう。
だが、座ればボディーが体にしっかりと固定されるために動きずらくなるので、弾きやすくなるのだ。
そんなどうでもいい豆知識は置いといて、律は梓のアドバイスに従いベンチに腰掛けた。

「それじゃあ、最初のコードは”E”ですから……人差し指は3弦の1フレッドで、中指は5弦2フレッド、薬指は4弦2フレッドを押さえてください」
「…………」

梓の言葉に、律はただ眼を瞬かせるだけだった。

(まあ、確かに呪文にしか聞こえないもんな)

ギターのことをよく知らない人にとっては、呪文よりも厄介なものかもしれない。

「梓、口で言うより、実際にやった方が早いと思うよ。こういうふうに」
「え、ちょっ!?」

見かねた僕は、律の手をつかむ。

「人差し指がここ、中指がここ、薬指がここ。それで、はい右手を動かす」

なんだか頬が赤いような気がするのは気のせいだろう。
そして何より

「…………」

隣から感じる殺気は気のせいだと信じたい。

「お、おう!」

そんな中、律は僕に言われたとおり、右手をストロークし始めた。
聞こえてくるのはずれたギターの音色だった。

「律ちゃん、右手はもっとぐにゃんぐにゃんに動かすんだよ」
「律先輩、弦を抑えている指を立ててください。ちゃんとなっていない音があります」

それはともかく、矢継ぎ早に梓や唯から投げかけられるアドバイスに、律の表情が見る見るうちに曇り始めていった。

(これはあと2,3コードで躓くな)

そんなことを思ってしまうほど、律の表情は悪化していたのだ。

「それじゃ、次のコードですね」
「これが難しいんだよねー」

Eの次にくるのはAコードというものだ。
ちなみに押さえ方は薬指が2弦2フレッド、中指が3弦2フレッド、人差し指4弦2フレッドを抑えればいいだけなので、それほど難しくはないが初心者にとっては難しいことには変わりないだろう。

「ギター無理かも」
『え!?』

律の一言に部室中に衝撃が走った。
主に、やめる速度に。

「いやー、ギターって覚えることが多くて大変だなー。御見それしました」
「いえいえー」

ギターを両手で唯のほうに掲げる律に、唯も両手でそれを受け取ることで応じた。

「ギー太、お帰り~」

そして戻ってきたギターを手に柔らかい表情をうかべる唯の姿に、どこか心が洗われるような感じがするのであった。
それが、すべての始まりだったのかもしれない。
この後に続く率を中心とした珍騒動は。





ちなみに、これは余談だが。

「唯」
「何かな? 浩君」

帰り道、僕と唯に梓の三人でいつものように帰路についていた。
ただ違うことがあるのだとすれば

「なせに脇腹をつねり続けているのですか? 唯さん」

先ほどから強く脇腹をつねっていることを除けば。

「なんでだと思う?」
「いや、疑問形に疑問で返されても……って、いい加減地味に痛いんだけど!」

先ほどから痛みをこらえている僕としては、これ以上は勘弁願いたかった。

「浩君、律ちゃんの手を取って鼻を伸ばしてた」
「あー、あれか。って、鼻は伸ばしてない!」

不満げに洩らした唯の言葉に、ようやく理由がわかった僕は、即座に釈明した。

「あれはコーチのためだ。というより他意なんてない」
「ぶー。あずにゃんが教えていたんだからあずにゃんが普通やるのに」
「練習は気づいたものが率先して教え――――って、痛い、痛いから!!」

もはや釈明の余地なしということなのだろうか、僕の脇腹をこれまでよりも強くつねる唯に、僕は悲鳴を上げた。

「あ、あの唯先輩。浩介先輩も反省しているんですから――「だから、何? あずにゃん」――い、いえ何でもないです!」

控えめに止めようとした梓に、唯が声をかけると梓は震えながら諦めた。
結局、いつかデートをするということで唯の機嫌を戻すことに成功した。
この時、普段のちょっとした行動が自分でも予想できない結果を生み出すことを思い知るのであった

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。
大変お待たせしました。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
これでひとまずは掃除関連の話は終わりとなります。
次話からは楽器関連の話が展開されるわけですが、これまでと同じ流れになりそうです(汗)
掲載まで時間がかかっておりますが、温かい目で見守っていただけると幸いです。

さて、拍手コメントへの返信を行いたいと思います。

『 アニメ通りの内容で話しが分かっていても読んでいて面白いです』

コスモさん、拍手コメントありがとうございます。
面白いと仰っていただき、うれしい極みであります。
ですが、アニメ通りの内容すぎるのはあまりよろしくないのは言うまでもないので、これからできるだけ改善していければなと思います。


それでは、これにて失礼します。

拍手[1回]

第112話 後輩

「ウソ!? 本当に60万円だったの」
「とても貴重なものだったらしくてっ」

あっさりと律の口の中から取り出された買取り証明書を、指でつまみながら確認した山中先生の言葉に、土下座をしていたムギが相槌をうった。

「ごめんなせえ! おら、あまりの金額に気が動転してしまって」
「心が汚いんですね」
「昔からこうなんだ」

同じく土下座をしながら謝罪の言葉を口にする律に、これまた土下座をしている梓と澪が声を上げた。
先ほどまで食えコールをしていた者の言動とは思えない身の変わりようだった。

「他人事のように言っているけど、二人も同罪だからな」

唯一その場に立っている僕は、苦笑しながら二人にツッコんだ。

「ちゃんと素直に言えば、全部部費にしてあげたんだけどなー。律ちゃんの言った1万円を部費として計上するから、その棚を部費で買ったことにしなさい」
「えぇ~。それは絶対に嘘だ!」

山中先生の言葉に頭を上げて抗議の声を上げる律の姿は、実に童話の顛末に酷似していた。

「というより、山中先生。それがわかっていたから僕が連絡していたことを黙っていたんですね?」
「さあ、何のことかしら?」

ウインクをしながら答える山中先生の言葉が、僕の予想が正しいことを物語っていた。

「まったく、律が悪いんだぞ。変に隠そうとするから」
「そうですよ! 私はちゃんと正直に話すべきだって言いました」
「お前らに言う資格はないっ!」

仲間からも裏切られた律の心の叫びに、僕は同情を隠せなかった。

まあ、自業自得だけど。

「さわちゃん!」

そんな中、一人勇敢にも挙手をする人物がいた。
まあ、唯しかいないが。

「そのお金で……そのお金で私の頬を叩いてください!」

唯の願い事はささやかなものだった。
そして山中先生に60枚のお札で叩かれるとものすごくうれしそうな表情をうかべる。
それこそ本当に幸せそうだと思うほどの。

(唯みたいな人がたくさんいたら無用な争いはなくなると思う)

ふと、そんなことを考える僕もまたあれなのかもしれない。

「はい」
「あの、この10万円は何ですか?」

山中先生に差し出された10万円という大金を前に、僕は山中先生の真意がわかりかねていた。

「あなたの分よ。ちゃんと電話で正直に言ったんだから」
「なんと!? 10万を自分の物にするべく、手を回していたのか!」

山中先生の言葉に、後ろから驚きに満ちた声が聞こえてきた。

「汚いぞ!」
「そうです! 最低です! 卑怯です!」

お金の前では友情など無に等しいとはよくいうが、これは少しばかりひどすぎた。
まさかここまで非難されるとは思ってもいなかったのだ。

「いえ、結構です。連帯責任というか……彼女たちの馬鹿げた行動を止められなかった自分にも責任があるのね」
「さすが浩介! よっ男前!」

律よ、さっきと言っていることが真逆だぞ。

「しょうがないわね。それじゃ、この中から好きなものを一つ買ってあげる」
「本当ですか!?」

何とも言えない表情をうかべながら口にした山中先生の言葉に、澪が目を見開かせた。

「みんなで話し合って決めなさい」

これは山中先生なりの譲歩なのかもしれない。

「一つといわず、一気に五つほど――「図々しいっ」――あたっ」

そんな律と澪は置いといて、僕たちは好きなものを一つだけではあるが購入することができるようになった。










「にしても一つとなると、やっぱりアンプが無難か」
「エフェクターのほうがいいような気がします」
「見事にばらばらだな」

一つに絞ろうとするが、やはり難しいようで意見がまとまることはなかった。
僕としては、どちらも捨てがたい。
アンプならば使い道もあるし、エフェクターならば音への色付けができる。

「でも、皆で使えるものじゃないと」
「あ、それだったら私にいい案があるよ!」
「それは何? 唯ちゃん」

澪の言葉に反応した唯の提案に、ムギが興味津々で尋ねた。

「ケロをもう一体増やすのはどうでしょう! そうすれば、新入部員も集まるはず!」

(絶対にありえない)

僕たちは唯の迷案を切り捨てて、そのまま力説する唯を置いて歩き出した。

「あぁ~! みんなひどい!」

”ひどいのはお前の案だ”と心の中でツッコんでいると部活中なのだろうか、新入部員を指導する声が聞こえてきた。

「どの部活も新入部員への教育が本格的に始まっているな」
「そうですね」

両腕を頭の後ろで組いながらの律の言葉に、梓が相槌を打つ。
だが、その声には若干力がこもっていないような感じがした。
気になって梓のほうを見ると寂しげな表情で、練習をしている部員たちのほうを見つめている梓の姿があった。

(やっぱりなんだかんだ言ったって、新入部員は欲しかったんだな)

もしかしたら、僕たちに必要なのは、機材でもなんでもなく人材なのかもしれない。
それぞまざまざと思い知らされるのであった。





「新入生を入部させるのはどうすればいいんだろうか」

翌日の昼休み、同じことを思っていたのか律が疑問を投げかけた。

(もう万策は尽きてるんだよな)

演奏、ビラ配り。
部活動としてできることは、ほとんどやっている。
その成果が現在のありさまなのだ。

「こうなったら…………誰か、私を音楽室まで」
「それはもうやった」
「というより、悪徳商法まがいの勧誘は止めろ」

少し前に律がやった、行き倒れ作戦という名の悪徳商法まがいの勧誘を再びしようとする律を止めた。
というより、あれで部員が集まると思った律の発想がすごい。

「それじゃ、どうするんだよ!」
「それだったら私にいい考えがあります!」

アイデアが浮かばない中、再び挙手をしたのは、唯だった。

「今度は本当に大丈夫なんだろうな? ケロを増やすとか言うなよ?」
「大丈夫! 今度はすっごく自信があるから」

僕の念を入れる言葉に、唯は自信満々といった様子で相槌を打った。

「それは何だ?」
「それはねー」

そして、唯の口から名案を告げられるのであった。





「これはいったい、何ですか?」
「新入部員のトンちゃんだよ!」

翌日の放課後、部室にやってきた”新入部員”を梓に紹介することとなった。
律と澪は机のそばにしゃがみ込み、ムギと唯は新入部員を強調するように掌で指し示し、僕は新入部員のそばで立っていた。

「梓ちゃんの後輩よ!」
「へぇ……」

ムギの言葉に返ってきた反応はそれだけだった。
別に涙涙の感動物語を期待していたわけではない、
だが、予想に反して、リアクションがなさすぎるのだ。

「唯、本当にそれが梓が欲しがっていたやつなんだろうな?」

窓際に置かれた水槽で優雅に泳ぐ亀(トンちゃん)を指さしながら尋ねた。

「本当だよ! だってあずにゃんこの亀を欲しそうに見ていたよ!」
「いえ、私はただ変な亀だなって思っただけです。それに物欲しげにみていたのは唯先輩のほうですけど」

その瞬間、部室内に嫌な沈黙が走った。
全員の視線が水槽の前で固まる唯へと向けられる。

「やっちまったな」
「しかも絶対にしてはいけない方向に」

梓のためにというお題目のもと購入した亀が、梓が所望していたものではなかったというのはある意味最悪の結果でもあった。
当然だが、やり直しはない。

「あぁ……」
「でもどうしてですか?」

床に崩れ落ちる唯をしり目に、何とも言えない表情で疑問の声を上げる梓に、観念したのか澪が本当のことを告げた。
その理由を聞いた梓は一つ息を吐き出すと鞄を机に置いて水槽の前へと歩み寄る。

「こんな早とちりで飼われたら迷惑だよね」

水槽のガラスを指で軽くつつきながら亀に呼びかけるようにつぶやくと、優雅に泳いでいた亀は首を上下に動かした。
それはまるで梓の言葉に頷くかのように。

「頷いた!?」
「か、かわいい!」

そのしぐさに驚きをあらわにする僕たちと、別の方向で目を輝かせる唯。
なんだかいろいろと趣旨が本来の物とは異なっているような気がするのは、僕の考えすぎだろうか?

「大丈夫。ちゃんと私が世話をするからね」
「いやいや、私だってちゃんとするよ!?」

梓の言葉に、横で立っていた唯が反応した。

「無理でしょ」
「そうだね。数日坊主になりそう」

三日坊主ならぬ数日坊主とはいったいどういう意味だと自問自答してみる。
だが、妙に的を得ているようにも思えた。

「えぇ~!? 二人ともひどいよー」
「うわ!? 唯! 抱き付くな! というかくっつかせるな!」

抗議の意味を込めてなのか、唯は僕と梓に抱き付いてきた。
そうなると、自然に梓との距離は縮まるわけで、体どうしが密着している状態だ。
密着とはいっても、ただ肩が触れ合っているというものだが。

「なっ!? 浩君の浮気者~!」
「自分でやったんだろうが!!」

自分で抱き寄せておいて自分で騒ぎ出す唯に、僕は必死にもがきながら反論した。

「にゃ!? どこを触ってるんですか!!」
「触ってない! それは唯の手だ!!」

部室内は一気に混沌と化していくのであった。










「ぬぁにぃ!? ついに浩介がハーレム手国を建国しただ――――ザマス!?」
「誰が、いつ、そんなことを口にしたっ」

翌日の休み時間、次の授業の支度をしているときに慶介が話しかけてきたので、この間の部室の整頓から始まる騒動について話をしていた。

「だけどよ、触ったんだろ? 梓ちゃんの胸」
『触ってない。あれは唯の手だ」

この間梓にも聞かれた内容に、僕はげんなりしながら答えた。
あれは結局、唯が自分でそう言い出したことで解決した。
だが、なんとなくむなしさを感じたのは、僕の気のせいだろうか?

「でもよ、なんで俺にも話してくれなかったんだ?」
「何をだ?」

次の授業で使う教科書を取り出しながら、慶介の問いかけに答えた。

「ギターのだよ。10万だなんてすごい大金じゃないか!」
「まあ、大金だというのはあってるけど、どうしてそれをわざわざお前に言わなければいけないんだ?」

母親ならばまだしも(もっとも母親に本当に言うのかどうかも微妙なところだが)一友人にホイホイと大金が手に入ったことを言うのはただのバカというものだ。

「言ってくれれば色々とたかって一生、左団扇――――ガンマ!?」

とんでもないことを口にする慶介の頭に拳を振り下ろした。

「貴様のねじまがった性根、一遍まっすぐになるまで叩き直してやろうか?」
「も、もうすでに叩かれてます」

地面に突っ伏している慶介の言葉を僕は無視した。

「それで、その新入部員さんは調子どうなんだ?」
「さあ? ただ泳いでるだけだが、まあ、マスコットにはなってるな」

すさまじい回復力で立ち上がった慶介の問いかけに、僕は腕を組みながら答えた。
新入部員という形で軽音部にやってきたトンちゃんは、部での人気者と化していた。
まあ、問題は山積みなわけだが、それは大丈夫だろう。
何せ、朝練の際に梓が亀の飼い方なる本を持ってきていたのだから。

「おっと、もう時間か。それじゃあな」
「ああ」

席替えがあり、僕の席は唯のななめ右上の席になっていた。
ちなみに隣は

「本当にあなたたちは仲がいいわね」

と口にしている真鍋さんだったりする。

「御冗談を。あいつが勝手に来るだけ。そもそも、ここになった時点であいつは早々来ないだろうと思ってたんだが……少々当てが外れたか」

慶介は真鍋さんに苦手意識を抱いている節があったので、僕は休み時間は少しだけのんびりできると踏んでいたのだが、現実はこの通りだ。
まあ、襲来する頻度が去年より少し減少したのを見れば、かなりいい傾向であるとは思うが。

「私はあなたのボディーガードではないわよ」
「それはぜひ、あのバカに言ってやってほしい」

苦笑しながら返ってきた言葉に、僕はそう相づちを打った。





それは席替えで真鍋さんの隣になった時のことだ。

「裏切り者」
「何だ突然」

げっそりとした表情をうかべて恨み言を言いに来た慶介に、僕は冷ややかな目で見ながら応じた。

「俺が苦手な生徒会長をボディーガードにするとは……友達の俺を裏切ったな!」
「別に裏切ってないし……というかこれはくじ引きで決まったんだから」

肩をすくませながら、僕は次の授業の準備を始めた。

「俺の隣の席の子は何も言わないで怖いんだよ!」
「いいじゃないか。その方が静かになるし」

慶介の嘆きを切り捨てて、僕はすべての準備を整えた。

「ぢぐじょう~。覚えてろよ!!」

最後は悪役のような捨て台詞を残して去って行った。





「え? なになに? 和ちゃんがボディーガードになったの!?」
「どこをどうとればそういう話に受け取るんだ?」
「それよりも早く次の授業の準備をしないと授業が始まるわよ」

寝ぼけ眼の唯に、諭すように言葉をかける真鍋さんの姿は母親のような感じがした。
そんなこんなで、またいつもの一日が過ぎていくのであった。

「ドラム嫌だ!!」

とある人物がそんなことを叫ぶ時までは。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

大変お待たせしました。
本日『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回は、少しだけアドリブを入れつつの話になります。

嘘つき者がバカを見るという内容の昔話の題名は、おそらくは皆さんご存知のだと思います。

さて、拍手コメントへの返信を行いたいと思います。

『ラブライブのヒロインについて 小泉花陽 矢澤にこ でお願いします‼』

コメント&投票をありがとうございます。
小泉花陽と矢澤にこへの投票を確認しました。

『 ラブライブ小説のアンケートの件です。 ヒロインは穂乃果でよろしくお願いいます 』

コメント&投票をありがとうございます。
穂乃果への投票を確認しました。

『ラブライブ!たった一人の男子とスクールアイドルのアンケートで希と凛、それに真姫に投票します!』

ライライさん、コメント&投票をありがとうございます。
希と凛と真姫への投票を確認しました。

『修学旅行までまだ結構ありますね。 ラブライブのヒロイン希望です。 絵里、真姫お願いします』

コスモさん、コメント&投票をありがとうございます。
確かに、仰る通りですね。
まだアニメの3話などの内容があるので、修学旅行の話は来月あたりになるのではないかと思っていたりします。
そこで終わりなわけではないですが、お付き合いいただければ幸いです。

そして絵里と真姫への投票を確認しました。


それでは、これにて失礼します。

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