健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第106話 新歓ライブ!

「ふぅ。疲れた」

自宅に戻った僕は、思わず自室のベッドに倒れこんだ。

「勧誘しても成果なし。バカには絡まれるし」

そして愚痴が漏れてきた。
結果が出ないのはある意味当然だというのは理解はしているつもりなのだが、出なければ出ないでかなりストレスになる。

「これじゃ、来年は本当に廃部かな?」

あの後、鈴木さんにも憂と同様の提案をしたが、二人とも僕の提示した案を受け入れてくれた。
鈴木さんは掛け持ちにするのかどうするのかは分からないが。
とはいえ、いくら二人が加わったところで残り二名の部員を獲得しなければ、軽音部は廃部になってしまうのには変わりないのだ。

「何か方法はないものか」

ふとそんなことを考えるが、勧誘方法でできる限りの策は講じているのだ。
これ以上何ができるというのだろうか?

(もうこうなれば魔法を使うしかない)

魔法を使えば、入部希望者など何十人でも集めることができるだろう。
だが

「そんなことをしてまで希望者を集めるのは……」

魔法を使うことに関してはかなりの抵抗があった。
そもそも魔法をそのようなことに使うのは、僕のプライドが許さなかった。

「ん? 待てよ」

魔法のことで僕はあることを思い出した。

(ちょうどいい、適任者がいたな)

僕の脳裏によぎったのは一人の人物だった。
僕は思い立ったが吉日とばかりに、コントローラーを装着すると右手を開くようなしぐさで前方にホロウィンドウを展開させ操作していく。

『どうしたの兄さん?』

通信の相手は妹の久美だった。

「久美に折り入って頼みたいことがある」
『な、なに?』

僕の改まった物言いに、久美の表情も強張った。

「来年、この世界の高校『桜ヶ丘高等学校』に入学して、軽音部に入部してもらいたい」
『………また唐突ね』

僕の用件を聞いた久美が苦笑しながら漏らした。

「冗談で言っているわけじゃないから」
『わかってるわよ。これでも妹ですから』

それもそうかと、僕は久美の反論に相槌を打った。

『でも、どうして?』
「久美も言ってたじゃないか。この世界に興味があるって。ならば、これはいい機会だと思ったんだけど」

久美の問いかけに、僕は当り障りのない理由を告げた。
別に嘘をついているわけではない。
ただ、本当の理由を隠しているだけだ。

『兄さん、それが本当の理由じゃないよね?』
「……本当に久美には驚かされるよ」

僕の本心など、久美にはすべてお見通しのようだ。

『何年兄さんの妹をしていると思っているの? 兄さんの本心くらいはお見通しよ』
「だな。降参だ」

僕は両手をあげて降参の意をあらわにした。

「後輩に中野梓という人物がいる。久美は覚えているだろ?」

僕の問いかけに、久美は当然と答えた。

「このままだと、彼女には後輩ができなくなるかもしれないんだ。もちろん、部活でのだが」
『……それで?』
「先輩として何もしてやれなかったからな。せめて部員の確保ぐらいはしたい。でも、現実とは残酷なものだ。入部希望者は全くと言っていいほどいなかった」

自分で話していてかなり惨めになってきた。
何せ、それは僕にとっては失敗を意味するものなのだから。

「だから、久美に入部してもらいたいんだ」
『事情は分かったけれど、私は私はすでに彼女と会っているのよ? 私が入部したら彼女が逆に悲しくなるんじゃ?』

確かに久美の言うとおりだった。
久美と梓はすでに面識がある。
もし、久美が入学して軽音部に入れば、梓はぬか喜びに終わるかもしれない。
だが、久美の場合はその限りではない。

「久美には|完全変装≪パーフェクト・コピー≫があるじゃないか。それを使って変装すれば、ばれないだろ」
『……兄さんって時々無茶を言うよね』

僕の出した案に、久美はため息をつきながらつぶやいた。

「僕は無理だと思っていったことは一度もない」

これまでにもいろいろな無茶難題を吹っ掛けたが、それらはすべて組が自力で何とかできると判断したからだ。
あそれは今回のことも同様だ。

『まあ、別にいいけどね』

そんな僕に、久美は降参するように肩をすくめた。

『私もここで一度じっくりと根を生やして勉強して見たかったし』

それはある意味、承諾の言葉だった。

「ありがとう久美。恩に着る」
『家族なんだからこれくらいは当然だよ。任せて。この高月 久美子、兄さんの一番弟子として、へまはしないから』
「信じてるよ」

久美の頼もしい言葉に、微笑しながら応じた僕は、そのまま別れの言葉を口にして通信を切った。

「さて、これで必要なことはした。後は……」

新歓ライブを成功させるだけだ。










「今日もやるのか?」
「もちろん! 今日はスパイ大作戦だ!」

翌日の放課後、僕は律に珍妙な勧誘活動をするのかどうかを尋ねたのが今の答えだ。
澪とムギの二人はすでにビラ配りに向かっているため、部室にはいない。

「……なんとなく何をするのかはわかるけど、あまり変なことはせずに、自重してよ」
「わかってるって。それじゃ、行って来るな」

本当に分かっているのかどうかは疑問だが、僕は律と油井に梓の三人を見送った。
三人がいなくなれば、この部室に残るのは僕一人。

「さて……そろそろかな」

そうつぶやいた時だった。

「あの、入部希望なんですけど」

部室を訪れる一人の女子生徒。
栗色の髪にやや細めの目は、どこか温厚そうなイメージを与えさせるのに十分だった。
リボンの色は赤なので、2年生で間違いないだろう。

「お茶とかは出ないけど、どうぞ?」
「あ、はい」

とりあえず僕は女子生徒を前の梓の席に座らせた。

「それじゃ、これからに産質問させてもらうけどいいかな?」
「はい、大丈夫です」

僕の問いかけに、女子生徒はうなづいて答えた。
それを確認した僕は、当たり障りのない質問をすることにした。

「これまで音楽経験は?」
「昔、小さいころに」

僕の最初の問いかけに、しっかりと答える彼女の様子を見ながら、僕は次なる質問をぶつけた。

「得意な楽器、やりたい楽器はあるかな?」
「できれば、ベースをやりたいです」

女子生徒の答えはこれまでのものよりもはっきりとしたものだった。
しかも、目も輝いて見える。

(彼女もか)

その姿で、僕の中で一つの結論に達した。

「申し訳ないんだけど、ベースは今たりているんだ」
「そうなんですか」

僕の返答に、女子生徒はショックを受けた様子で相槌を打った。

「あ、これつまらないものだけどよかったら食べて」
「ありがとうございます」

いろいろなお菓子の入った小袋を受け取った女子生徒は、そのまま部室を去って行った。

「やれやれ……二年連続でこういうことをするのはかなり疲れるな」

その後姿を見送りながら、僕はため息をつきながらつぶやいた。
それは去年のこと。
今回と同じように、入部を希望するものが多数僕のもとを訪ねてきた。
というのも、その時がたまたま僕がビラ配りをしていない時間帯だったという偶然によってだ。
最初はラッキーと思って話していると、入部を希望した生徒たちの大半が楽器を演奏したこともないくせに演奏ができるという嘘(見えかもしれないが)をついたり、明らかに特定人物を狙って入部しようとする者たちばかりだった。
その時は当たり障りのない理由で断ったが、それから僕は入部を希望する者全員(約一名除く)に当たり障りのない質問をすることにしたのだ。
その一つが今の”音楽経験があるか否か、そしてあるのであれば得意な楽器や、やりたい楽器がなにか”
次が”尊敬する人物はだれか”だ。
この二つのいずれかで嘘をついたり、過剰な反応を示したりすればその人物はお断りしている。
これは軽音部を守るためだ。

「まったく、気が休まらないよ」

思わずそんな愚痴が漏れた。
自分が買ってやっているので、自業自得なのだが。

「たっだいまー」
「はぁ……楽しかった」

そんなこんなをしていると、スパイ活動をしていた律たちが戻ってきた。

「それで、どうだったんだ?」
「どこの部もいろいろと考えていました」

そういって席に腰掛けながら梓はもらってきたのかチラシを渡してきた。
真っ赤なチラシに”青春の汗を流そう”というキャッチフレーズが書かれていた。

「なるほど、これは確かに興味を引くな」
「あ、こっちには入部特典が付いてます」

さまざまな部活で色々な案を出しているのは明らかだった、
そんな時、部室のドアが開く音が聞こえた。

「いらっしゃいませ!」

(ここはファミレスか、コンビニか?)

三人の反応に、僕は心の中でツッコんだ。

「って、なんだよ。澪とムギか」

入ってきたのは馬と猫のぬいぐるみを着ている澪とムギだった。

「ビラ配り終わったんだ?」
「うん。とても楽しかった♪」

なんでも楽しめるムギはある意味最強なのかもしれない、
そんな時、再びドアが開く音が聞こえた。

『いらっしゃいませ!』

(だから、ここはコンビニか?)

僕は心の中でツッコみを入れた。

「って、さわちゃんかよ」
「何よ、ひどい言い草ね」

入ってきたのが山中先生であることが分かった律が漏らした言葉に、頬を膨らませた。

「すみません。それで、一体どうしたんですか?」

とりあえずいつまでたっても話が進まないので、謝りながら話を先に進めた。

「衣装なんだけど、こんなの作ってみました」

自信気に僕たちの前に掲げたのは、メイドっぽい服だった。

「制服でいいですっ」

その服を見た瞬間、すさまじい反射神経で梓は却下した。

「えぇ~、でもこの服のほうが――「制服で!」――わかりましたよ」

なおも食い下がる山中先生に、今度は澪たちも参戦した。
これによって、山中先生の案は没ということになった。
そんなこんなで、また一日が過ぎて行き、ついに新歓ライブ当日を迎えた。










「なあ、律。この部分なんだけどさ」

ライブの開始時間まで部室のほうで僕たちは待機していた。

「梓、緊張のほうは大丈夫か?」

律たちにとっては二度目の、梓にとっては最初の新歓ライブだ。
緊張している可能性もあったので、聞いてみたが返ってきたのは

「はい! 大丈夫です」

という、頼もしい返事だった。

「それだったら安心だ、頑張っていこうな」
「はいっ」

僕と梓でお互いに気合を入れる。
そんな中、唯はといえば先ほどから指をくねくねさせたり上のほうに向けたり等々、意味の分からない行動を繰り返していた。

「何をやってるんだ? 唯」
「えへへ、何でもないよ~」

律の問いかけに頭をかきながら答える唯の様子に、ますます疑問が募っていった。

「あ!? もうライブの時間です!」

そんな梓の言葉に、僕は疑問を頭の片隅に追いやった。

「よっしゃ! それじゃ、ライブで挽回するぞ!」
『おー!』

律の言葉を筆頭に、僕たちは気合を入れるのであった。

「あ、そうだ。唯」
「何? 浩君」

みんなが部室を出ていく中、僕はふと言わなければいけないことを思い出したため唯に声をかけた。

「絶対にウィンドミルはするなよ?」
「うぃんどみる?」

僕の言っている意味が分からなかったのか、首を傾げている唯にわかりやすく説明することにした。

「始業式の日にやっていた奴だ。腕をぐるぐる回す奴」
「へぇ、あれがうぃんどみるって言うんだ」

ようやく言いたいことが伝わったようで、僕は軽く息を吐き出した。

「でも、どうして?」
「あれは、一歩間違えれば弦を切ることにもなるし、周りにいる人にぶつかったり指を怪我したりするからだ」

ウィンドミル奏法とは、いわゆるステージでのパフォーマンスだ。
歯ギターなどがいい例だろう。
右腕を風車のように回して演奏をするという、ダイナミックなパフォーマンスだが、周りにいる人に腕がぶつかったり、弦を強くストロークさせて切ってしまったり、指を切ってしまうなどなど初心者がやれば大抵が怪我や失敗などといった結果となる。
まさにハイリスクハイリターンだ。
それを名前も知らずに成功させている唯はある意味最強だと言っても過言ではない。

「わかった!」
「………」

本当に分かっているのか疑問だが、信じるしかないため、僕は唯を信じることにした。
そして僕たちは新歓ライブの会場である講堂へと向かうのであった。










「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。軽音部です」

幕が上がり、新歓ライブが始まった。
開始早々にお祝いの言葉を口にしたのは唯だった。

「私たち軽音部は、毎日お茶を飲んだり練習をしたりしています。とても楽しい部活なので、もし興味があったら部室に来てください」

唯のMCに会場に来ていた新入生たちが拍手を送る。
ふと右隣に視線を向けrてみた。

「……」

緊張のあまりか顔がこわばっている梓の姿があった。

(大舞台で演奏をしたとはいえ、緊張はするか)

こればかりは慣れるしかないため、僕は苦笑しながら視線を会場のほうに戻した。

「それじゃ、聞いてください。『ふでペン~ボールペン~』!」

こうして、部の存続をかけたライブが始まるのであった

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
まさかの二日連続掲載です。
内容としてもタイトル通り、勧誘の話が主となります。
それにしても、少しだけ無理やり館というのがあるような気がする今この頃です。


それでは、これにて失礼します。

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第105話 勧誘!

あの後、何とか事態の収拾がつき、いつものティータイムを満喫していた。

「はぁ~。やっぱり部室が落ち着きますなー」
「そうだよなー。春休みも部室に来たくて仕方なかったぐらいだし」

のんびりとしている律たちには切迫した感じなどは一切感じられなかった。
ある意味すごいことではあるが、この状況でそれはあまりほめられたものではない。

「ダメだよ律ちゃん。ちゃんとしないとあずにゃんが一人になっちゃうんだよ!」
「そう言う割にはのんきなポーズだよな」

そんな律に注意をするのまでは良かったが、ポーズは完全にのんびりモードの唯に思わずツッコんでしまった。

「でも、そうだよな。新学期なんだし、やることは一つ」
「新入生の勧誘ですね!」

律の言葉に期待を込めて目を輝かせながら相槌を打つ梓。

「ムギのケーキを食べる!」
「って、何でですか!!」

律が続けた言葉に、梓は全力でツッコんだ。
最近、梓もなんだかんだ言って遠慮というものがなくなってきたような気がする。
……気のせいだとは思うが。

「嘘、嘘。冗談だって」
「律先輩が言うと冗談には聞こえません!」

頬を膨らませながら笑みを浮かべながら謝る律に、言い返した。

「でも、冗談抜きでちゃんとやらないとまずいと思うけど」
「そうだよな……」

僕の言葉に、神妙な面持ちで澪が頷いた。

「あ、だけどこのままいけば来年は確実に梓は部長になれるぞ」

何故だか、僕の頭の中では”部長”のたすきをかけてわきに手を当てて大きな声で笑っている梓の姿が浮かんできた。

「…………はっ!? い、今はそんなことはどうでもいいんですっ!!」

それは梓も同じだったようで、頬を赤くしながら声を荒げた。

(今、絶対に考えてたよな)

「そ、そんなことより、新入生の勧誘に行きましょう!」

(そして、思いっきり話題を変えて誤魔化した)

梓もすっかり律たちに染まったような気がする。

「あ、そうだった。私、ビラを作ったんだよね」
「えぇっ!?」

唯の口から出た言葉に、思わず口に出してしまった。
目覚まし時計を見間違えるような唯が、そのような粋なことを思いつくはずがなかったからだ。

「うちの憂の勧めでしてね」

(やっぱりかい)

まあ、予想はできていたことだが。
そして唯が僕たちに前に出したのはどう解釈すればいいのか分からない物だった。

(この前面の人物って、梓か?)

頭には猫耳があるので、おそらくはそうだと思う。
だとすると、かなりとんでもないことになるのだが。

「それじゃ、僕は印刷してくる」

僕はその考えを振り払うように唯作成のチラシを手にすると、そう口にして席を立った。

「おう、任せたぞ! 浩介三等陸佐!」
「それを言うなら、”三等陸士”だ。というか階級を呼ぶなっ!」

微妙に階級で呼ばれるのが嫌いになってしまった自分に、思わず苦笑が漏れそうになるのを必死にこらえた。
そんなこんなで、僕は唯お手製のチラシを印刷するべく職員室へと繰り出すのであった。





「おう、また印刷か」
「はい。大丈夫ですか?」

職員室に足を踏み入れ、印刷機の方に向かおうとすると、小松先生が声を掛けてきた。

「そっちは大丈夫だが、古典の方は大丈夫なんだろうな?」
「あはは……またお世話になりそうです」

小松先生の問いかけに、僕は頭を掻きながら苦笑して返した。

「気をつけろよ。三年で、内申点に響くんだからな」
「………分かりました」

そう言いながら自然な動作で手渡された一枚の用紙には、数名の人物の名前が書かれていた。
小松先生の話から察するに、要注意人物のようだ。
この学校に不良が入ることはできないと思うのだが、内村の例がある。
そう言った下種は、表では聖人ぶっているが、本質は人以下の化物だ。
小松先生には、そう言った人物を特定しておくようにお願いをしておいた。
彼らの動向に細心の注意を払い、問題があるようであれば対処ができるようにするためだ。
僕は小松先生に一礼すると印刷機の前に歩み寄り、唯お手製のチラシを印刷するのであった。





「戻ったぞ……って、何をやってるんだ!!」
「ほえ?」

印刷を終え部室に戻った僕が見たのは面妖な着ぐるみに身を纏っている唯たちの姿だった。

「新入生を勧誘できるようにこんな着ぐるみを着てみることにしたんだよ~♪」
「………全くお前らは」

唯の答えに、僕は思わずため息をついてしまった。
とりあえず、印刷しておいた100枚のチラシをベンチの方に置いておく。

「いいか? 今年の勧誘は部としての存続をかけた物なんだぞ?」

そして僕は、唯たちに注意をする。

「それなのに、そんな面妖な着ぐるみを着て勧誘したら来るものも来ないだろ」

右手の人差し指を立てながら唯たちの横をすり抜けて、奥の方に移動する。

「というよりなぜその発想になるのかが僕には理解できない。とにかく、とっととその着ぐるみを脱いでちゃんとした格好で――――」

そこまで口にした僕は、唯たちの方へと振り向くがそこにあった光景は

「って、誰もいないっ!!」

もぬけの殻となった部室だった。
どうやら僕が注意をしているすきに勝手に行ったようだ。
しかもご丁寧に僕の分のチラシを残して。

「……………行くか」

もはや怒りを通り越してあきれてしまった僕は、ため息交じりにチラシを手にすると勧誘に繰り出すのであった。










「軽音部です。もし興味があったら3階の音楽準備室まで来てね」

僕が声を掛けたのは、三人組の女子生徒だった。

「ねえ、軽音部ってあの軽音部?」
「あの変な服を着ていた……」
「ちょっと、あれは……」

軽音部の名前を聞いたとたん、三人は何やらこそこそと話し始めた。
彼女たちにしてみれば小声で話しているのだろうが、僕の耳にはしっかりと聞こえていた。

「あ、ありがとうございます」

そう言いながらチラシを受け取った女子生徒はそそくさと退散していった。

(なるほど、唯たちのあれは悪い意味で影響力がありそうだ)

もはや笑えない状況ではあるが。

「おい、そこの凡人」
「……………」

そんな僕に高圧的な態度で声を掛ける男子生徒がいた。
外見は平凡な男だが、リボンの色は緑色……新入生であることを物語っていた。

「あんた、上級生に対してため口とはいい度胸だな?」
「はんっ。貴様のような凡人に敬語を使うなんて、この俺のプライドが許せないんだよ」

どうやら、とんでもないタイプの新入生のようだ。
いい加減こんな屑の相手をするのは嫌なのだが、売られた喧嘩は買うのが僕の流儀だ。

「そう。だったら、そのプライドごと消してくれるわっ!!」
「がっ!!!」

一瞬で距離を詰めた僕は相手の身体に拳を突き刺した。
とはいえ、体は貫通していないが。
だが、相手の精神を思いっきり破壊してやった。
後はあたりさわりのない記憶と心をインプットするだけ。
それらの行為はものの数秒で終わる。

「それにしても、こいつは一体誰なんだ?」

僕はそうつぶやきながら、男子生徒のポケットから生徒手帳を取り出した。

「って、完全に要注意人物じゃん」

少し前に小松先生から渡された、注意するべき人物の名前と同一だった。

「本当に対応することになるとは……」

何とも言えない気分になった僕は、生徒手帳を元の場所に戻すと、誰かに見つからないうちにそそくさとその場を立ち去り、ビラ配りを続けたのだが……

「やっぱりだめか」

ビラ配りを続けていたが、相手の反応は芳しくはなかった。

「やっぱり、あの着ぐるみか?」

軽音部の名前を告げた際に、表情が一瞬変わっていくのを何度も見たのと、『あの軽音部?』という言葉が僕の予想が正しいことを裏付けていた。

「………はぁ」

思わず口からため息が漏れてしまうのも、ある意味しょうがないことなのかもしれない。

「いったん部室に戻るか」

唯たちの成果も気になるため、僕はいったんビラ配りを中断すると部室に向かった。





「あ、戻ってきた」

部室に戻ると唯たち全員の姿があった。

「そっちは?」
「全然ダメだった。浩介は?」
「こっちもだ」

やはりと言うべきかなんというべきか、お互い結果は芳しくなかった。

「どうしたものか……」
「このままだと来年は、あずにゃん一人になっちゃうよ」
「その前に廃部になると思うけど」

腕を組む律に唯が心配そうな表情を浮かべて続いた。

「うわぁ!? 梓! どこに行くんだ!!」
「な、何!?」

一体どのような光景が、澪の脳内で繰り広げられていたのかはわからないが、突然大きな声を上げて駆け出していく澪に視線を向けつつすぐに彼女から視線を逸らした。
放っておけばすぐに直ることを全員は知っているのだ。
色々な意味で一,二年もいれば、お互いの性格もわかるということなのかもしれない。

「でも、本当にどうすればいいのかしら……」
「ここが部長としての手腕の見せ所だ」

首をかしげているムギをしり目に、僕は律を焚きつけた。

「そうだよな。部員が増えれば部費も増えるしな」

(何だか邪な言葉が聞こえたような気がしたけど)

「ブヒッブヒッ」
「唯、それは一人のレディーとしてどうなんだよ?」

そしてダジャレのつもりか、自分の鼻を持ち上げて豚の鳴きまねをする唯に、僕は苦言を呈した。

「よっしゃ! 部員獲得大作戦、開始だぜ!」
「ブヒィッ!!」
「だから、一人のレディーとしてそれはどうなんだよ? って、行っちゃった」

僕の苦言に答えることもなく、律たちは部室を飛び出していった。

「梓―! そっちに行ってはダメだぁっ!!」
「………」

そんな混沌と化した部室の中で、僕は静かに息を吐き出す。
ちなみに律の言う大作戦とは、”行き倒れ作戦”という名前だった。
どういうことかというと、新入生の前でわざと倒れ、部室である音楽準備室まで連れてきてもらい、そこで入部届に記名させるというある意味詐欺行為にも等しいやり方だった。
尤も、これは

「間に合ってます~!!」

という、二名の被害者の言葉と逃走で失敗に終わった。

(どうしてそれで行けると思ったのか、その理屈が知りたい)

まあ、独特な理由過ぎて僕には理解ができないかもしれないが。

「僕、チラシを配ってくる」
「だったら、これを――「着ません!」――ちぇ」

未だに余っているチラシを手に部室を出ようとすると、唯が指し示してきたのは何かの動物の着ぐるみだった。
当然着ることもなく、僕はむくれている唯の相手を律たちに押し付け(任せ)る形で、部室を後にするのであった。










「やっぱり無理か」
「あれ? 浩介先輩」

チラシ配りをするものの、なかなかいい感触が出ない中、ふと言葉を漏らしていると誰かが僕に声を掛けてきた。

「ん? なんだ憂か。何をしてるんだ? いつもならとっくに帰っている時間だろ?」
「はい。ちょっとお姉ちゃんたちのことが気になったので」

憂のできた妹は未だに健在のようだった。

「軽音部の方はどうですか?」
「はっきり言って最悪だ。このままだと来年は梓が一人になる可能性が高い」

勧誘活動を続けて感じていた感触の悪さに、僕はそう判断していた。

「そうなんですか」
「憂こそ、部活をやる気はないのか? 今からでも十分……というより確実にどこの部でもやっていけそうだと思うけど」

僕のはっきり過ぎる返答に、表情を曇らせる憂の姿に、僕は違う話題を振った。
誰かに見られでもしたらとんでもないことになる。
例えば

『よくも、憂を泣かしたなぁ~。一生呪ってやるぅ~』

不気味な格好をした姉に不吉なことを言われながら追いかけられるとか。
しかも彼女の場合は、それを本当にやりそうだから恐ろしい。

「でも、私はお姉ちゃんにご飯を作ったりしなければいけないので、部活をする時間がないんです」
「………だったら、こういうのはどうだ?」

まるで子供を抱えた専業主婦のような返答に絶句しながらも、僕はある一つの策を掲示することにした。

「来年、もし部員が梓一人になっていたら軽音楽部に入部する。唯の進路次第だけど、憂にも十分な時間が出ると思う」
「…………」

僕の掲示した案に、憂は目を瞬かせて僕を見ていた。

「言っておくけど、部の存続っていう理由じゃない。梓のためだ。一月も一人で活動させるというのは、先輩としては避けたい。入部に抵抗があるのであれば入部せずに梓と一緒に、活動をするという方法もある。もちろん無理強いはしない。だけど、もし梓が一人にするのが心配だったら、あいつをそばで支えてやってほしいんだ」
「……………浩介先輩」

長い沈黙ののち、憂は静かに口を開いた。

「チラシ、受け取ってもいいですか?」
「……もちろんだ。恩に着るよ」

その返答は僕にとっては快諾のようにも聞こえた。

「あ、このことは梓には絶対に内緒にしておいて。変に気を使わせるのも嫌だから」
「分かりました」

チラシを渡しながら、僕は他言無用と憂にお願いした。
憂の場合はおいそれと人に話したりしないから大丈夫だろう。

「それじゃ、私ご飯の支度があるので戻りますね。勧誘頑張ってください」
「どうも。気を付けて」

憂の激励を受けながら、僕は彼女を見送った。

(やれやれ……気を使われちゃったかな?)

なんとなく、憂の性質を利用したような気もしなくはないが、まあいいだろう。
利用できるものは何でも利用する。
そうしなければ何も進まないのだから。

「さて、もう一人にも声を掛けるか」

憂いと梓とくればセットになっているもう一人の人物にもとに、僕は足を進めるのであった。

拍手[1回]

『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。
お待たせしました。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
原作沿いが如実に表れた今回の話ですが、今後もこんな感じで続いていくと思われます。

さて、拍手コメントの返信を行いたいと思います。

『アニメ通りの内容でしたね』

コスモさん、拍手コメントありがとうございます。
確かに、そうですね。
かなり耳が痛い話でもあります。
3年生編では細かなところにアレンジはしておりますが、原則としては原作沿いとなってしまうので、もしかしたら今後もこんな感じになりそうな気がします。


それでは、これにて失礼します。

拍手[0回]

第104話 コンビとクラスと

僕たちは新たなクラス『3-2』の教室にいた。
席は出席番号順で、すでに荷物は置いてある。
律たちはムギの席の周りに集まっていた。

(にしても、みんなが同じクラスだなんて)

このような偶然はどうすれば起こるのかが気になった。

「浩介! おは―――ぎょわぁ!?」
「気安く呼ぶな……って、慶介か」

考えているところにいきなり名前で呼ばれた僕は鉄槌を放ったところ、相手が慶介であることに気付いた。

「は、ははは。初日早々にいいのをもらいそうになった」
「なにをオーバーな。ただの正拳突きだろ」

ただ少しだけ魔力を纏わせて攻撃力を増幅させているけど。

「”ただの”じゃないから!ただでさえ浩介は――「ねえねえ、見て見て!」――って、聞けよおい!」

唯の声に、僕は何やら熱弁している慶介を無視してムギの席の方に向かった。

「って、真鍋さんも同じクラス?」
「ええ。偶然ってあるものね」

苦笑しながら相槌を打つ真鍋さん。
彼女もまた、このクラスなのだ。

「いいクラスだよね~」

幼馴染と一緒のクラスだったことに喜びをあらわにする唯。

「うげっ!? 生徒会長……」
「……人の顔を見るなり”うげっ”とは何よ」

後ろから来た慶介の言葉に、真鍋さんがジト目で慶介に、言い返した。

「あれ? 和ちゃんと佐久間君は知り合い?」
「なんでも生徒会メンバーらしい」

慶介と真鍋さんが知り合いなのが不思議なのか、首をかしげる唯に僕は慶介から聞いたことをそのまま説明した。

「え!? そうだったんだ」
「全く知らなかった」
「……その驚き方はひどくねえか?」

そんな僕の説明に驚きをあらわにする律たちの反応に、慶介は少しばかり傷ついた様子でツッコんだ。

「こう見えても、俺は生徒会副会長なんだぞ!」
「……えぇ!?」
「賄賂にでも手を染めたのか?」

初めて知った慶介の衝撃的な真実に、僕たちは驚きを隠さずにはいられなかった。

「ちょっとひどすぎませんか!? ちゃんと適正な手続きで選ばれましたよ!」
「そ、そうだったんだ。悪い、慶介が副会長だなんて想像できなくて」
「ったく」

謝る僕に、慶介はため息交じりに呟いた。

「慶介のことだから人の弱みに付け込んで副会長になったんだとばかり」
「それ謝ってるのかどうか微妙だ! というより、俺の扱いひどすぎやしませんか、それ!?」
「何だか騒がしいクラスになりそうね」

そんな僕たちの様子を見ていた真鍋さんは苦笑しながらつぶやいた。

「まあ、あのバカが変なことをしたら僕に言って。必要とあらば――」
「って、俺を無視するなっ!」

真鍋さんのつぶやきに相槌を打っていた僕に、慶介が声を荒げた。

「ええいっ。こうなったら、浩介の恥ずかしい話を――――げふぁ!?」
「こんな風に鉄槌を下すから」
「か、考えておくわ」

とりあえず鬱陶しい慶介を力づくで黙らせておくことにした。

「それにしても、狙ったように一緒になったな」

そんな慶介から視線をそらすように澪がお退いた様子でつぶやいた。

「はっ!? まさか生徒会パワーで?!」
「生徒のクラス配置を決めるほど生徒会に権力はない」

律の推測に、僕は首を横に振って否定した。
というより、あってたまるか。

「だとすると、そんなことができるのは……」
「はい、みなさん。席についてください」

澪の言葉を遮るようにして教室に入ってきたのは、山中先生だった。

(まさか……)

なんとなく予感を感じた僕は足早に自分の席に着く。

「このクラスの担任になりました、山中さわ子です」

黒板に見えやすく名前を書いた山中先生は、自己紹介をしつつ簡単な挨拶をした。

(やっぱり担任だったんだ)

初めての担任ということで、少しだけ不安ではあるが、山中先生ならなんだかんだ言って乗り越えそうな気がする。
クラスの人たちも好意的だったのが、その証だ。
そんな中、僕の前の席に座っている律は何やらその前の生徒と話をしていた。

「田井中さーん」
「は、はひぃ!?」

そんな律に、山中先生が声を掛けた。

「私語は辞めてくださいね」
「す、すみません」

恐怖なのか、それとも素なのか。
慌てた様子で立ち上がった律に、山中先生は困ったように微笑みながら注意した。
その姿は軽音部の過去を感じさせない物だった。
そしてHRでは自己紹介に費やされることになるのであった。





「先生、すみません」

HRが終わり、職員室に戻っていく山中先生を律が呼び止めた。

「何?」
「ちょっと聞きたいことが、あるんですが」

山中先生に気を使っているのか、律は改まった口調で話しながら先生の元まで歩み寄った。
僕たちもその後に続く。

「このクラス分けってさわちゃんが?」
「そうよ。私がお願いしたの」

律が投げかけた疑問に、山中先生はすんなりと認めた。

「それって、完全に職権乱用ですけど」
「何よ。嬉しくないの?」

僕の指摘に山中先生は頬を膨らませて反論してきた。

「私も名前を憶えないといけない生徒が減るし♪」
「おい。今、本音が漏れたぞ」

ある意味山中先生らしい理由だった。

「私はすっごく嬉しいよ! ありがとう、さわちゃん」
「唯は少し落ち着け」

そんな中、律が一人興奮している唯の肩に手を乗せて落ち着かせた。

「だって、高校最後の年を皆で一緒にいられるんだよ!」
「一緒だけど、進路とかはあるからな」

若干現実逃避をしている唯の様子に、僕はこの先待つ現実を口にすると全員が項垂れた。

「でも、いいと思うよ! だって、一緒に学園祭で出し物ができるしたくさんお話ができるし、テスト勉強を教えてもらえるし、宿題を写してもらえるし、浩君と一緒にいられるし」
「おいっ。こら!」

指を折りながら、楽しそうに口にする唯だったが、後半でものすごいことを言っていたため僕は慌ててツッコんだ。

「今さりげなく惚気ましたね」

そんな僕に、律たちはジト目で呟く。

「………もうそろそろ始業式が始まるから早く移動しなさい」
「はーい」
「またあとでね、さわちゃん」

山中先生の言葉に頷いた唯たちは講堂に向かって歩き始めた。
表面上は笑顔だが口の端がかなりひくついていた。

(少し自重した方がいいのかもしれない)

このまま教室で爆発されたら、とんでもないことになるのは必至だ。
まあ、唯を前に自嘲という言葉はないにも等しいのではあるが。
そんなこんなで、僕も足早に行動へと向かうのであった。










「どうしたんだ?」

講堂に向かう途中で、通路の端の方でしゃがみこんだ唯に、僕は声を掛けた。

「見て見て!」
「桜の枝か……」

唯が掲げたのは何の変哲もない桜の木の枝だった。

「よしっ。浩君、早く早く―」

桜の木の枝をポケットに入れた唯は立ち上がると僕に早く来るように促してきた。

「って、何が”よし”なんだよ!?」

僕はそんな彼女を追いかけて行くのであった。
始業式は主に校長先生の”ありがたいお話”と校歌斉唱だった。
とはいえ、前者の方が9割の時間を有していたという点はお察しだ。

(仕分けされたら確実に校長の話は縮小させられるよな)

某所で某人物が行っていた仕訳の姿が脳裏をよぎった。
その長さは、よくも数十分にわたって永遠と話せるほどの内容があるなと、感心してしまうほどだった。
そんな始業式も終われば後は簡単な連絡事項を伝えられて解散。
あっという間に放課後を迎えることとなった。

「うーん」
「どうしたのよ、唯?」

そんな中、先ほどから横で両腕を組みながら唸り続けている唯に、真鍋さんが不思議そうな表情で声を掛けた。

「あ、和ちゃん! あのね、あと一本で1ダースなんだよ!」

そう口にする唯の席には確かに桜の木の枝が11本あった。

(というより、なぜ集めるんだ?)

「そう。それじゃ、私は生徒会室に行くわね」
「うん。また明日ね」

(………)

唯も唯でかなりあれだが、真鍋さんも大概かもしれない。
興味なさげに相槌を打つ真鍋さんに、僕は思わずそんなことを思ってしまった。

「唯、部活はいかなくていいの?」
「あ、そうだった!」

本気で忘れていたのか席を立ちあがる唯に、僕は思わず苦笑してしまった。

「しっかりしなさいよ。このままだと来年は廃部になるわよ」
「あ……そうか」

真鍋さんに指摘されたことで、抜けていたのか重要なことを思い出したようだった。
僕たちが卒業すれば後輩である梓だけになってしまう。
最低5名の部員がいなければ、その部活は廃部となる。
今月いっぱいは廃部か否かの境目と言っても過言ではない。

「それじゃ、私は生徒会室に行くわね」

そう告げて、僕の方に顔を向けると意味ありげに頷いた。
なんとなくではあるが、真鍋さんが何を言いたいのかがわかったような気がした僕は、頷くことで返事を返した。

「浩介! 久々に遊びに――ぐえ!?」

僕たちの前から真鍋さんが離れたのを見計らってか、声を掛けてきた慶介の首根っこをつかんだのは真鍋さんだった。

「あなたも一緒に生徒会室に行くの」
「か、勘弁してくだせえ! 今日だけは、今日だけはぁ!!」
「そんなこと言って明日からも逃げるんでしょ。あなたは副会長なんだから―――――」

慶介と真鍋さんは、何やら言い合いをしながら教室を去っていった。

「二人とも仲良しだね~」
「まあ、あれはあれでいいコンビなのかも」

和やかな口調でつぶやく唯に、僕も頷きながら相槌を打った。

「ほら、僕たちも行くよ」
「そうだね! 私たちが頑張らないと、あずにゃんが一人になっちゃうもんね!」

唯も唯でしっかりと先輩をしている。
そうでなければ、後輩の心配などできるわけがないのだから。
まあ、子供っぽいところがあるのが玉に傷だが。

「よーし、頑張るぞー。おー!」

そして唯は気合を込めて右腕を天に向けて突き上げるのであった。










「お。遅いぞ、二人とも~」
「ごめんごめん~」

部室に入ってきた僕たちに掛けられた言葉に、唯は悪びれる様子もなく謝った。
律の言うとおり、僕たちが一番最後だったようで、僕たち以外のメンバーはすでに集まっていた。

「あ、そうだ。あずにゃん。ちょっとこっちへ」
「は、はい。何ですか? 唯先輩」

唯に呼ばれて、椅子から立ち上がると、おずおずと僕たちの方に歩み寄ってくる梓に、

「あ~ずにゃん! 二年生になれてよかったね~!」
「にゃ!? それは、どういう意味ですか?!」

いきなり抱きついてお祝いの言葉を投げかける唯に、梓は驚きながら相槌を打った。

「それにしても、梓は二年になっても変わらないよな~」
「律先輩にだけは、絶対に言われたくありません!!!」

いたずらっ子の笑みを浮かべながらかけられた言葉に、梓は自分の身体の一部分(あえて場所は言わないでおく)を隠して猛反論した。

「おやおや~? 私はそこだとは言ってないぞー」
「思いっきり見てたじゃないですか!!」

にやりとほくそ笑みながら言い返す律に、梓も負けじと応戦する。

(子供か。お前らは)

思わず口に出しそうになるのを僕は何とか心の中に留めることにした。

「浩介先輩はどうですか!」
「は? 何のことだ?」

少しばかり考えているうちに、状況は大きく変わっていたようでそれにうまくついて行けなかった僕は、聞きかえすしかなかった。

「浩介は、胸が大きいほうがいいと思うか? それとも小さいほうがいいか?」
「……………………」

そんな僕に律が話してくれた内容は、僕にとってはどうでもいいほどくだらないものだった。
しかも静観してた澪やムギに唯までもが、僕の答えを固唾をのんで見守っていた。

「知らん」

そんな中、僕が出した結論はどちらも選ばないことだった。

「卑怯だぞ!」
「そうですよ!」

そんな僕の結論に、律と梓が異論を唱えた。

「そんなことを選んで何の意味が? 変な軋轢みたいなものを生むだけだろ」
「む……これ以上ないほどの正論だ」

僕の反論に、律も返す言葉がないようだ。

「さあ、これでくだらない話は終わりにして――だったら、高月君は誰のが好み?」――………」

話を終わらせようとしたところで、これまで何も言わないでいたムギが突如として口を挟んできた。

「おぉ! それだったらいいよな。大きい小さいとかは関係がなくなるんだし。さあ、選ぶのじゃ! 私か、梓か――「唯」――って、即答かい!」

律が言い切るよりも早く、僕は答えを口にしていた。

「自分の恋人を差し置いて、別のやつの名前を口にするわけないだろうが」
「浩君……嬉しいな~」

僕の言葉を聞いていた唯は頬を赤くしながらもじもじとしていた。

「………負けた上にあのイチャイチャは、精神的にきつい」
「わぁ……」

やはりと言うべきか、なんというべきか。
ものの見事に事態の収拾がつかないような状態になってしまった。

(これだから身体的な問いかけは嫌いなんだよ)

どう転んだところで収拾がつかなくなるのは分かりきっているのだから。
僕は心の中で深いため息をつくのであった。

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