健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第106話 新歓ライブ!

「ふぅ。疲れた」

自宅に戻った僕は、思わず自室のベッドに倒れこんだ。

「勧誘しても成果なし。バカには絡まれるし」

そして愚痴が漏れてきた。
結果が出ないのはある意味当然だというのは理解はしているつもりなのだが、出なければ出ないでかなりストレスになる。

「これじゃ、来年は本当に廃部かな?」

あの後、鈴木さんにも憂と同様の提案をしたが、二人とも僕の提示した案を受け入れてくれた。
鈴木さんは掛け持ちにするのかどうするのかは分からないが。
とはいえ、いくら二人が加わったところで残り二名の部員を獲得しなければ、軽音部は廃部になってしまうのには変わりないのだ。

「何か方法はないものか」

ふとそんなことを考えるが、勧誘方法でできる限りの策は講じているのだ。
これ以上何ができるというのだろうか?

(もうこうなれば魔法を使うしかない)

魔法を使えば、入部希望者など何十人でも集めることができるだろう。
だが

「そんなことをしてまで希望者を集めるのは……」

魔法を使うことに関してはかなりの抵抗があった。
そもそも魔法をそのようなことに使うのは、僕のプライドが許さなかった。

「ん? 待てよ」

魔法のことで僕はあることを思い出した。

(ちょうどいい、適任者がいたな)

僕の脳裏によぎったのは一人の人物だった。
僕は思い立ったが吉日とばかりに、コントローラーを装着すると右手を開くようなしぐさで前方にホロウィンドウを展開させ操作していく。

『どうしたの兄さん?』

通信の相手は妹の久美だった。

「久美に折り入って頼みたいことがある」
『な、なに?』

僕の改まった物言いに、久美の表情も強張った。

「来年、この世界の高校『桜ヶ丘高等学校』に入学して、軽音部に入部してもらいたい」
『………また唐突ね』

僕の用件を聞いた久美が苦笑しながら漏らした。

「冗談で言っているわけじゃないから」
『わかってるわよ。これでも妹ですから』

それもそうかと、僕は久美の反論に相槌を打った。

『でも、どうして?』
「久美も言ってたじゃないか。この世界に興味があるって。ならば、これはいい機会だと思ったんだけど」

久美の問いかけに、僕は当り障りのない理由を告げた。
別に嘘をついているわけではない。
ただ、本当の理由を隠しているだけだ。

『兄さん、それが本当の理由じゃないよね?』
「……本当に久美には驚かされるよ」

僕の本心など、久美にはすべてお見通しのようだ。

『何年兄さんの妹をしていると思っているの? 兄さんの本心くらいはお見通しよ』
「だな。降参だ」

僕は両手をあげて降参の意をあらわにした。

「後輩に中野梓という人物がいる。久美は覚えているだろ?」

僕の問いかけに、久美は当然と答えた。

「このままだと、彼女には後輩ができなくなるかもしれないんだ。もちろん、部活でのだが」
『……それで?』
「先輩として何もしてやれなかったからな。せめて部員の確保ぐらいはしたい。でも、現実とは残酷なものだ。入部希望者は全くと言っていいほどいなかった」

自分で話していてかなり惨めになってきた。
何せ、それは僕にとっては失敗を意味するものなのだから。

「だから、久美に入部してもらいたいんだ」
『事情は分かったけれど、私は私はすでに彼女と会っているのよ? 私が入部したら彼女が逆に悲しくなるんじゃ?』

確かに久美の言うとおりだった。
久美と梓はすでに面識がある。
もし、久美が入学して軽音部に入れば、梓はぬか喜びに終わるかもしれない。
だが、久美の場合はその限りではない。

「久美には|完全変装≪パーフェクト・コピー≫があるじゃないか。それを使って変装すれば、ばれないだろ」
『……兄さんって時々無茶を言うよね』

僕の出した案に、久美はため息をつきながらつぶやいた。

「僕は無理だと思っていったことは一度もない」

これまでにもいろいろな無茶難題を吹っ掛けたが、それらはすべて組が自力で何とかできると判断したからだ。
あそれは今回のことも同様だ。

『まあ、別にいいけどね』

そんな僕に、久美は降参するように肩をすくめた。

『私もここで一度じっくりと根を生やして勉強して見たかったし』

それはある意味、承諾の言葉だった。

「ありがとう久美。恩に着る」
『家族なんだからこれくらいは当然だよ。任せて。この高月 久美子、兄さんの一番弟子として、へまはしないから』
「信じてるよ」

久美の頼もしい言葉に、微笑しながら応じた僕は、そのまま別れの言葉を口にして通信を切った。

「さて、これで必要なことはした。後は……」

新歓ライブを成功させるだけだ。










「今日もやるのか?」
「もちろん! 今日はスパイ大作戦だ!」

翌日の放課後、僕は律に珍妙な勧誘活動をするのかどうかを尋ねたのが今の答えだ。
澪とムギの二人はすでにビラ配りに向かっているため、部室にはいない。

「……なんとなく何をするのかはわかるけど、あまり変なことはせずに、自重してよ」
「わかってるって。それじゃ、行って来るな」

本当に分かっているのかどうかは疑問だが、僕は律と油井に梓の三人を見送った。
三人がいなくなれば、この部室に残るのは僕一人。

「さて……そろそろかな」

そうつぶやいた時だった。

「あの、入部希望なんですけど」

部室を訪れる一人の女子生徒。
栗色の髪にやや細めの目は、どこか温厚そうなイメージを与えさせるのに十分だった。
リボンの色は赤なので、2年生で間違いないだろう。

「お茶とかは出ないけど、どうぞ?」
「あ、はい」

とりあえず僕は女子生徒を前の梓の席に座らせた。

「それじゃ、これからに産質問させてもらうけどいいかな?」
「はい、大丈夫です」

僕の問いかけに、女子生徒はうなづいて答えた。
それを確認した僕は、当たり障りのない質問をすることにした。

「これまで音楽経験は?」
「昔、小さいころに」

僕の最初の問いかけに、しっかりと答える彼女の様子を見ながら、僕は次なる質問をぶつけた。

「得意な楽器、やりたい楽器はあるかな?」
「できれば、ベースをやりたいです」

女子生徒の答えはこれまでのものよりもはっきりとしたものだった。
しかも、目も輝いて見える。

(彼女もか)

その姿で、僕の中で一つの結論に達した。

「申し訳ないんだけど、ベースは今たりているんだ」
「そうなんですか」

僕の返答に、女子生徒はショックを受けた様子で相槌を打った。

「あ、これつまらないものだけどよかったら食べて」
「ありがとうございます」

いろいろなお菓子の入った小袋を受け取った女子生徒は、そのまま部室を去って行った。

「やれやれ……二年連続でこういうことをするのはかなり疲れるな」

その後姿を見送りながら、僕はため息をつきながらつぶやいた。
それは去年のこと。
今回と同じように、入部を希望するものが多数僕のもとを訪ねてきた。
というのも、その時がたまたま僕がビラ配りをしていない時間帯だったという偶然によってだ。
最初はラッキーと思って話していると、入部を希望した生徒たちの大半が楽器を演奏したこともないくせに演奏ができるという嘘(見えかもしれないが)をついたり、明らかに特定人物を狙って入部しようとする者たちばかりだった。
その時は当たり障りのない理由で断ったが、それから僕は入部を希望する者全員(約一名除く)に当たり障りのない質問をすることにしたのだ。
その一つが今の”音楽経験があるか否か、そしてあるのであれば得意な楽器や、やりたい楽器がなにか”
次が”尊敬する人物はだれか”だ。
この二つのいずれかで嘘をついたり、過剰な反応を示したりすればその人物はお断りしている。
これは軽音部を守るためだ。

「まったく、気が休まらないよ」

思わずそんな愚痴が漏れた。
自分が買ってやっているので、自業自得なのだが。

「たっだいまー」
「はぁ……楽しかった」

そんなこんなをしていると、スパイ活動をしていた律たちが戻ってきた。

「それで、どうだったんだ?」
「どこの部もいろいろと考えていました」

そういって席に腰掛けながら梓はもらってきたのかチラシを渡してきた。
真っ赤なチラシに”青春の汗を流そう”というキャッチフレーズが書かれていた。

「なるほど、これは確かに興味を引くな」
「あ、こっちには入部特典が付いてます」

さまざまな部活で色々な案を出しているのは明らかだった、
そんな時、部室のドアが開く音が聞こえた。

「いらっしゃいませ!」

(ここはファミレスか、コンビニか?)

三人の反応に、僕は心の中でツッコんだ。

「って、なんだよ。澪とムギか」

入ってきたのは馬と猫のぬいぐるみを着ている澪とムギだった。

「ビラ配り終わったんだ?」
「うん。とても楽しかった♪」

なんでも楽しめるムギはある意味最強なのかもしれない、
そんな時、再びドアが開く音が聞こえた。

『いらっしゃいませ!』

(だから、ここはコンビニか?)

僕は心の中でツッコみを入れた。

「って、さわちゃんかよ」
「何よ、ひどい言い草ね」

入ってきたのが山中先生であることが分かった律が漏らした言葉に、頬を膨らませた。

「すみません。それで、一体どうしたんですか?」

とりあえずいつまでたっても話が進まないので、謝りながら話を先に進めた。

「衣装なんだけど、こんなの作ってみました」

自信気に僕たちの前に掲げたのは、メイドっぽい服だった。

「制服でいいですっ」

その服を見た瞬間、すさまじい反射神経で梓は却下した。

「えぇ~、でもこの服のほうが――「制服で!」――わかりましたよ」

なおも食い下がる山中先生に、今度は澪たちも参戦した。
これによって、山中先生の案は没ということになった。
そんなこんなで、また一日が過ぎて行き、ついに新歓ライブ当日を迎えた。










「なあ、律。この部分なんだけどさ」

ライブの開始時間まで部室のほうで僕たちは待機していた。

「梓、緊張のほうは大丈夫か?」

律たちにとっては二度目の、梓にとっては最初の新歓ライブだ。
緊張している可能性もあったので、聞いてみたが返ってきたのは

「はい! 大丈夫です」

という、頼もしい返事だった。

「それだったら安心だ、頑張っていこうな」
「はいっ」

僕と梓でお互いに気合を入れる。
そんな中、唯はといえば先ほどから指をくねくねさせたり上のほうに向けたり等々、意味の分からない行動を繰り返していた。

「何をやってるんだ? 唯」
「えへへ、何でもないよ~」

律の問いかけに頭をかきながら答える唯の様子に、ますます疑問が募っていった。

「あ!? もうライブの時間です!」

そんな梓の言葉に、僕は疑問を頭の片隅に追いやった。

「よっしゃ! それじゃ、ライブで挽回するぞ!」
『おー!』

律の言葉を筆頭に、僕たちは気合を入れるのであった。

「あ、そうだ。唯」
「何? 浩君」

みんなが部室を出ていく中、僕はふと言わなければいけないことを思い出したため唯に声をかけた。

「絶対にウィンドミルはするなよ?」
「うぃんどみる?」

僕の言っている意味が分からなかったのか、首を傾げている唯にわかりやすく説明することにした。

「始業式の日にやっていた奴だ。腕をぐるぐる回す奴」
「へぇ、あれがうぃんどみるって言うんだ」

ようやく言いたいことが伝わったようで、僕は軽く息を吐き出した。

「でも、どうして?」
「あれは、一歩間違えれば弦を切ることにもなるし、周りにいる人にぶつかったり指を怪我したりするからだ」

ウィンドミル奏法とは、いわゆるステージでのパフォーマンスだ。
歯ギターなどがいい例だろう。
右腕を風車のように回して演奏をするという、ダイナミックなパフォーマンスだが、周りにいる人に腕がぶつかったり、弦を強くストロークさせて切ってしまったり、指を切ってしまうなどなど初心者がやれば大抵が怪我や失敗などといった結果となる。
まさにハイリスクハイリターンだ。
それを名前も知らずに成功させている唯はある意味最強だと言っても過言ではない。

「わかった!」
「………」

本当に分かっているのか疑問だが、信じるしかないため、僕は唯を信じることにした。
そして僕たちは新歓ライブの会場である講堂へと向かうのであった。










「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。軽音部です」

幕が上がり、新歓ライブが始まった。
開始早々にお祝いの言葉を口にしたのは唯だった。

「私たち軽音部は、毎日お茶を飲んだり練習をしたりしています。とても楽しい部活なので、もし興味があったら部室に来てください」

唯のMCに会場に来ていた新入生たちが拍手を送る。
ふと右隣に視線を向けrてみた。

「……」

緊張のあまりか顔がこわばっている梓の姿があった。

(大舞台で演奏をしたとはいえ、緊張はするか)

こればかりは慣れるしかないため、僕は苦笑しながら視線を会場のほうに戻した。

「それじゃ、聞いてください。『ふでペン~ボールペン~』!」

こうして、部の存続をかけたライブが始まるのであった

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