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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第108話 寝言と掃除

新入生の勧誘をやめ、時期は早くも4月下旬となった。
5月の初めにはゴールデンウイークという、大型連休がある。
クラスメイトも、この連休はどうするのかという話しで持ち切りだ。
やれ遊びに行くとか、家族旅行だとかそういったのが主だったが。
もっとも部活がある人にとってはあまり意味がなかったりもするわけだが。
ちなみに軽音部もその例にもれず、部活は行うとのことだが、はたしてちゃんと練習をするのかどうかもわからない状況だ。
それはともかく、この日もいつものように放課後を迎えた。

「ムギ、浩介。早くいくぞ」
「わかってる」

律の催促に応じながら、僕は荷物を素早くまとめていくと鞄とギターケースを手に律たちのほうへと足を向けようとしたところで、ふと違和感を感じた。

「あれ、今日の日直はムギだったか?」

黒板に書かれている文字(6限が英語だったので、書いてあるのは当然英語だ)を消しているムギに、僕は首を傾げながら尋ねた。
僕の記憶が正しければ、この日の日直は唯だったはずだ。

「ううん。本当は唯ちゃんなんだけど」

僕の疑問に困ったような笑みを浮かべたムギが見ている方向に視線を向けると、そこには机に突っ伏して眠っている唯の姿があった。

「お昼からずっと眠ってるの」
「って、おい!」

眠ってる唯の姿を見た律が、盛大にずっこけた。

「さっきからずっと起こしてるんだけど、なかなか起きないのよ」

(後ろ側から聞こえていた寝息は、唯の物だったのか)

「ほら唯、起きろ。放課後だぞ」

律はは唯の席まで移動すると軽く唯の体をさすって起こそうとした。

「むふふー、ダメだよ、浩君。そんなところは~」
『…………』

唯の寝言に教室中が沈黙に包まれた。
そして自然と視線がこちらに集まってくる。

「な、なに?」
「お幸せに~」
「あらあら、まあまあ★」

視線に耐えかねて口を開いた僕にかけられるのは、ある意味罵倒されるよりもつらいものだった。

「そこ! 意味深な言葉を投げかけるな! それとうっとりとした表情で見ないで!」

なんだか最近自分のペースが乱されてばかりのような気がする。

「ヒューヒュー、この色おと―――――ごふぁ!?」

有無も言わせずにからかってくる慶介を黙らせた。

「というか、唯も起きろ! いったい何ちゅう夢を見てるんだ!!」
「大丈夫だよ。今日は日曜日」

体を先ほどよりも激しく揺らしても唯が起きる気配はなかった。

「浩介、ものすごくいい案を思い出した」
「一応聞くけど、目覚めのキスをしろとかじゃないよな?」

万策尽きたところで、律から頼もしい言葉がかけられた。
だが、その表情にある笑みが無性に気になった僕は、律に尋ねた。

「……もちろん」
「何、今の間は?」
「唯、ケーキだぞ!」

僕の問いかけに頷くまでに開いた間に僕は追究しようとするが、それを無視して律は”いい案”を実行した。

「そんなので起きるわけが―――」
「う……ん」

声掛けだけで起きる訳がないとたかをくくっていた僕の言葉を遮るように、唯は体をもぞもぞと動かすとゆっくりとした動きで上半身を起こした。

(お、起きた!?)

まさか起きるとは思っていなかったので、僕の驚きはとてつもないほどに大きかった。

「……ケーキない。嘘つき」

だが、寝ぼけたような目で周囲を見渡した唯は、ケーキがないことがわかるとそのまま眠りについてしまった。

「なっ!? ムギ、本物のケーキを!」
「ラジャー!」

(もう諦めろよ)

僕はため息交じりに心の中でつぶやいた。

「こうなったら、最終奥義だ。平沢さん、愛しのこう――「寝むってろ」――ありがとうございます!」

いつの間にか気を取り戻していた慶介が、馬鹿げたことを言おうとしていたため、僕は裏鉄拳で慶介を沈めた。

「あ、いたいた」

そんな中、ふと聞こえてきたのは担任であり顧問でもある山中先生の声だった。
すれ違うように教室を後にしていく生徒に声をかけながらこちらのほうに歩み寄るそのさまは、猫かぶりなのか、それとも巣なのかは言うまでもないだろう。
簡単に言えば、教師らしい教師の姿だった。

「あなたたち、この間化した着ぐるみなんだけど、そろそろ返してもらえないかしら。演劇部のほうで使うみたいなの」

(いったい何に使うつもりだろう)

何度も見た着ぐるみに、僕は純粋に疑問がわいた。
普通に考えれば演劇なのは間違いないが、どういった演劇の内容になるのかが非常に気になった。

「そういえば、この間の勧誘で使った後、どうしたんだ?」
「うーん……あれだったら、確か使わなくなったから部室のほうに置いてあったはずだけど」
「返せよ。借りものなんだから」

澪の問いかけにあごに手を添えて思い出すようにつぶやく律に、僕はため息交じりに言った。

「それじゃ、早く部室に行くわよ」
「あれ、山中先生もついていくんですか?」

先導する形で歩き出す山中先生に、澪が尋ねた。

「ええ。演劇部の子に渡さないといけないし、なんたって顧問だからね」

顧問の部分で胸を張る山中先生は、ある意味すごい教師かもしれない。

「それじゃ、部室へ出ぱーつ!」
「あ、待てよ律!」

ずんずんと進んでいく律の後を追うようにして、澪都立に山中先生は教室を去って行った。

「ムギはどうする? もしなんだったらこっちのほうで日直の作業を引き受けるけど」

本来は唯がやるべきだが、本人はおそらく起きないと思うので、誰かが代わりにやるしかない。
ならば、一応恋人である僕がやるのが筋というものだろう。

「ううん、大丈夫よ。私ね、友達の日直の作業を手伝うのが夢だったの。だからこんなに早く夢がかなってうれしいの♪」
「そ、そう」

ムギはいろいろな意味で幸せな人なのかもしれない。

「だから律ちゃんのほうに行ってて」
「……わかった」

テコでも意見を変えなさそうだったので僕は素直に頷くと、鞄の中からメモ帳を取り出すとそれを一枚破って、走り書きをしていく。

(『こら! 授業ぐらい、まじめに受けろっ。先に部室に行ってるぞ』でいいか)

前半で戒めの言葉、後半で本当の要件を書いておいたメモを僕は唯の机に置いておくとそのまま教室を後にするのであった。










「あれ、浩介」
「着ぐるみは?」

部室に到着した僕に気が付いたのか、こちらのほうに視線を向けながら名前を呼ぶ澪に、僕は本地を切り出した。

「それだったら……」

僕の疑問に、澪は視線を横に移動させる。
その先にいたのは律だった

「あ、そうそう。ここに入れておいたんだった」

何かを考えている様子の律は、ぬいぐるみを置いていた場所を思い出したのか音楽室と部室をつなぐ連絡用の通路であるドアのほうに歩み寄っていく。
そしてドアを開けた瞬間、僕たちはその光景に言葉を失った。
別に、そこが異界化しているわけでもゾンビが群がっているわけでもない。
あるのは段ボールや本といったものが無造作に積み上げられている惨状だった。

「なにこれ?」

山中先生がそう問いかけたくなるのも当然だった。
そんな中に律は気にすることなく入ると、段ボールの山の一部に腕を突っ込んだ。

(なんだか、嫌な予感がするんだけど)

無謀さに積み上げられたダンボール。
そしてその間に手を突っ込む律。
まさかとは思うが、べたなことにはならないだろうと思いたいが、念のために一歩内側に下がった。

「あった!」

そう言ってぬいぐるみを取り出すと僕たちに見えるように掲げたた律だったが、取り出した拍子に積んでいた箱がバランスを崩して一気に崩壊を始めた。

「ぎゃああああ!!」

崩れ始めた瞬間に素早くドアを閉めた僕は、中から聞こえる断末魔をただただ聞いていた。
そして中の騒音が止んだところで、僕はゆっくりとドア開けると中から豚の置物が転がってきた。

「律、大丈夫か? 大丈夫なら返事しろ。大丈夫じゃないのなら言って」

段ボールに埋もれた倉庫と化した連絡通路内に向けて呼びかけた。

「それってどっちも同じ意味にならないか?」
「いや、わかってるから」

真剣な面持ちで指摘してくる澪に、僕は即答で答えた。
それはともかく、一刻も早くジャングルと化した連絡通路から目的のもの(プラス律)を探し出さなければいけない。

「おう?」
「見つかったのか?!」

段ボールの隙間から布のようなものが見えた僕は、それを引っ張った。

「ぬいぐるみが出てきました。とりあえずこれを返してもらっていいですか?」
「いいけど、律ちゃんは?」

山中先生が求めていた犬のぬいぐるみを手渡すと、山中先生は心配そうに尋ねてきた。

「はい。すぐに救出しますから」
「それじゃ、お願いね」

僕の答えを聞いて、山中先生はそう告げるとぬいぐるみを片手に部室を後にするのであった、

「さて、救出しますか」
「どうやってするんだ?」
「そんなの、決まってるじゃないか」

気合を入れる僕に不安そうな表情を浮かべて聞いてくる澪に、僕は当然だといわんばかりに答えると段ボールの一つを持ち上げる。
そしてそのまま部室のほうにもっていった。
さらに通路内にあるダンボールを持ち上げると部室に運ぶのを繰り返していく。

「なんというアナログな」

いったい何を期待しているのかが微妙に気になったが、僕は黙々と段ボールの運搬をしていく。

「出てきた」
「律?! 大丈夫か!」

とりあえず部室のほうに引きずり出すと、澪が慌てた様子で声をかけた。
だが、返事がない。

「浩介! 救急車を呼んで!」
「落ち着け、脈はある。ただ気を失っているだけだ。少し寝かせておけばすぐに気を取り戻す」

命の危機だと勘違いしたのか、取り乱した様子で迫ってくる澪に僕は安心させるように告げた。

「そ、そうなのか……よかった」
「………」

ほっと胸をなでおろしている澪の姿に、律と澪がどれほど仲がいいのかを狭間見たような気がした。

「さて、問題はどう運ぶかだけど」

さすがにここで寝かせるわけにはいかないのでベンチのほうに運ぶ必要がある。
だが、問題は僕が運ぶとなると完全にお姫様抱っこのような感じになることだ。
背負うとおろす際にものすごく面倒になる。
ただし、これをするとなると問題は

『浩君、一体何をしてるのかなかな?』

満面の笑みを浮かべて詰め寄る唯の姿が浮かんだ。
不要なトラブルを避けるには、やらないことが一番。
だが、そういうわけにもいかないので僕がとった行動は

「澪、律を運ぶから足を持ってくれる?」
「わ、わかった」

澪に手伝わせることだった。
腕のほうであれば唯も妬きもちをやくこともないだろうし、見てはいけないものを見る危険性もなくなる。
まさに最善の策だった。
こうして、無事に律をベンチのほうに運ぶことができた。

「こんにちは……って、どうしたんですか!?」
「ああ、梓。実はな」

ちょうどいいタイミングで部室を訪れた梓が、部室の惨状に驚きをあらわにしたので、澪が一連の事情を説明してくれた。

(今のうちに、あそこの荷物を全部こっちのほうに持ってくるか)

これもいい機会なので掃除をすることにした僕は、連絡通路内の段ボールなどを部室に移動させることにした。










「――――ということで、これから掃除をします!」
「「えぇ……」」

それから少しして、ようやく起きたのか寝癖を付けた状態で部室にやってきた唯と、意識を取り戻した律に掃除をする旨を告げると嫌そうな表情を浮かた。

「そんなに掃除がいやなのか?」
「だって……」
「私たちは」

その言葉に、唯と律が手を取り合うとささっと窓際のほうに移動して、

「「三度の飯より掃除が嫌いだ!!」」
「どういう意味だっ!!」

二人の口にした妙な格言に澪が全力でツッコんだ。

「そもそも、ここの掃除は音楽室の掃除当番がするんじゃないのかよ?」

律の反論に唯も腕を上げて賛同した。

「それはそうなんだけど……」
「こんな私物だらけの掃除を頼めるわけないだろ」

律のもっともは反論にが弱くなる澪をフォローするべく僕が代わりに答えた。

「だらけというより、全部私物ですけど」

僕の言葉に反応した梓は、すでに掃除を始めていた。

「うん、確かにっ!」

腕を組んで頷く律の姿はあきれを通り越して清々しささえ感じた。

「しょうがない」

だが、ようやく律たちはやる気を起こしたようで律は段ボールの山を、唯はカエルの置物を手にすると連絡通路のほうへと向かった。

「せっかくしまっておいたのに」
「おいこら、何平然と元に戻そうとしてるんだ!!」

自然な動作で連絡通路に置こうとする二人に一喝した。

「ちぇ、何とかごまかせると思ったのに」
「……一遍、この世の物とは思えない痛みを味わった方がいいかな?」

律の悔しげな表情に、僕は笑みを浮かべながら問いかけた。

「しょうがない。まじめにやるか」
「最初からそうしてくれ」

ようやくやる気を起こしてくれた律に、僕は心の底から思いながら答えるのであった。

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