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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第110話 ホームセンター珍道中

荷物持ちをかけたじゃんけん勝負は第八戦を終えていた。
現在の戦況を言うのであれば、

澪:1回
律:2回
ムギ:0回
梓:2回
唯:3回

というのが、それzれの荷物を運んだ回数だ。
どうやら僕は運がいいようで1回もギターケースを持つことはなかった。
とはいえ、一番の悲劇は

「待ってよ~」
「じゃんけん三連敗は自分の責任だぞー」

じゃんけんで三回連続で負けて永遠とギターケースを持ち続けることになった唯だろう。

「今日は鞄だって重いんだよ!」
「それも自業自得だ」

唯の反論に、僕はため息交じりに言い返した。
重くなった原因の荷物は、これまでの付けを支払う形になっている。
要するに自業自得ということになるのだ。

「そんな目で見ても、持たないぞ」

そんな中、唯が恨めしそうな眼で僕を見ていることに気が付いたので、僕はそう言い放った。

「浩介君、助けて~」
「うお!? 女性の武器を利用しやがった!」

上目づかい+涙目で助けを求めてきた唯に、律が驚いたような声を上げた。

「……勝負とは、いつも理不尽なものだ。諦めな」
「ば、バッサリ……」

唯の助けてアピールを一蹴した僕に驚いたのだか、あきれたのだかわからない声を上げる律をしり目に、僕は唯から視線を逸らした。

(危ない。あと少しで本当に変わるところだった)

一瞬でもケースを持とうと心が動いた自分を叱咤する。

「唯ちゃん、そろそろ時間よ」
「はぁー……今度こそ負けない!」

ムギの言葉を受けて僕たちのところにまで歩いてきた唯はギターケースを置くと気合を入れなおして手を組んだ。

「返り討ちにしてくれよう!」

そんな唯に応じるように律達も手を組み始めた。

「なんだか子どもですね」
「私は子供だっ」

梓のつぶやきに、胸を張って答える律は、ある意味清々しささえ感じた。

「大人になりましょうよ……」
「というか、威張るなよ」

そういいながらも、手を構えている梓や僕も同じなのかもしれない。
そんな中、一人手を構えていない人物がいた。

「澪、どうしたんだ?」
「じゃんけんだよ!」

それに気が付いた律たちの呼びかけに、澪は僕たちのほうへと視線を向けた。

「これなんだけど」

そういって僕たちに見えるように差し出してきたのは、先ほど手渡されたチラシだった。
チラシには『春の新生活応援セール』と銘打って、さまざまな商品と値段が書かれていた。
安いかどうかは分からないが、春先で新生活を始める人が多いこの季節。
セールと銘打てばお客が集まるという戦略が見え見えなチラシだった。

(食器棚があったら買ったんだけど)

なんだかんだで放置していたが、家の食器棚の問題はいまだに解決していないのだ。
あまりにもひどいので、現在は色々なものを使って棚を支えている状態だが、これが非常に面倒くさい。

「こういう棚とかを一つ置けばすっきりすると思うんだ」
「いいんじゃない?」
「そうですね。この値段なら何とか部費で買えそうですし」
「まあ、置き場所が増えるのはいいことだもんね」

僕を含めた全員が、賛成だった。

「それじゃ、ホームセンターにでも行こうか」
「っ!?」

なんだかホームセンターという単語にムギが強い反応を示したような気がしたが、気のせいだろうか?

「おっと、その前にこれをやろうぜ!」
「そうだね! 今度こそ、勝つよ!」
「まだ続けるのか」

もうやめたと思っていただけに、ため息が出そうだったが、やらないわけにはいかず、僕たちは再びギターケースを持つ人物を決めるべくじゃんけんをするのであった。










「ここがホームセンター!」

チラシに記載されていたホームセンターに到着するや否や、感動したような声を上げたのはムギだった。

「ここにはいろいろな便利なものが、揃っているのよね!」
「は、はい」

そのままのテンションで問いかけられた梓は若干押され気味に答えた。

「ムギ、ホームセンターに来るのは初めてかー?」
「うん。前から一度来てみたいって思ってたのよ!」

ブレザーをひらひらと開いたり閉じたりしている律の問いかけに、ムギは目を輝かせながら頷くと僕たちに背を向けた。

「行きましょう!」

ずんずんと前に進んでいくその姿は、まるで未開の地へと探検する隊長という異名を持つ男性タレントを思わせる感じだった。

「あ、私も!」
「おい! ギターを忘れてるぞ」

それに続くように駆けだした唯を律が呼び止めた。

「ごめん、ごめん」

頭をかきながら戻ってきた唯は、ここ来るまでに数回連続で負けたために持ち続けているギターケースを手にすると、店の奥のほうへと姿を消した。

「家具売り場はどこだろう」
「いや、僕に聞かれても」

二人の後姿を見送ったところで投げかけられた疑問の声に、僕は首を傾げながら答えた。

「仕方ないな、全員で手分けして探そう」
「そうだな」
「その方が早いですね」

律の提案に、僕たちは満場一致で賛成すると、家具売り場を探すべく手分けして捜索に当たることになった。

(それにしても、本当にいろいろ揃ってるな)

家具売り場を探しながら店内を見て回っていると、その品揃えに僕は舌を巻いていた。
まるでほとんどの物がここで揃うのではないかという錯覚を感じるほど、品ぞろえが良かったのだ。

「で、もう見つけちゃったけど」

目的の家具売り場を見つけた僕は、息を吐き出しながらあたりを見回す。

(目印は……あの布団でいいか)

近くにあった布団売場に陳列されていたピンク色の布団を目印にした僕は、唯たちを探すべくその場を後にした。

「確かこっちのほうに唯の反応が……」

あてずっぽうに探すとかなり時間がかかるので、僕は軽く魔法を使っていた。
とはいえ、唯の生体反応をたどっているだけだが。
その反応をたどった僕がたどり着いた場所で見た光景は

「ズギューーーン!!!」

電動式のねじ回しを動かしてはしゃぐ唯の姿だった。

「何をやってるんだ?」
「あ、浩君! これ、かっこいいでしょ!」

満面の笑みを浮かべながら電動式のねじ回しを僕に差し出してきたが、僕はいったいどういう反応をすればいいのだろうか?

「バァン、バァン、バァン!」
「こら、うるさい!」

梓と澪と僕に向けてねじ回しを動かす唯に、澪が叱咤する。

「はい、三人は死にました!」

そして何故か僕はやられてしまった。

「子供か」

澪たちのいるほうに歩きながら思わず口からそんな言葉が漏れてしまったが、出来ればわかって欲しかった。
自分がどれほど恥ずかしい行為をしているのかということを。

「まったく。浩介の言うとおりだぞ」
「……そういう律は何をしている」

僕の言葉に賛同する律だが、その頭には工事現場などでかぶっている黄色に緑色の細い線が横に入ったヘルメットのようなものに四角形の物体がくっついているものをかぶっている律に、僕は問い掛けた。
そんな妙な格好をしている律は視線を澪のほうへと移すと

「のわ!?」

四角形の物体(ヘッドライトだった)に明かりを灯して澪を照らした。

「店の物を用もなく触るな!」
「いやーん。おやめになって―★」

今度は澪と律が騒ぎ始めた。
もはや呆れるしかなかった。
とはいえ、一番呆れているのは僕の横に立っている梓だろうけど

「ねえ、見てみて!」
「今度は何ですか?」

そんな僕たちに声をかける唯に、げんなりとした声色で返事をしながら視線を向けると

「これなんか、動きやすそうだよ!」
「ぶかぶかじゃないですか」

工事現場などでよく着られている作業着を身に纏っている唯の姿があった。
とはいえ完全にぶかぶかでお世辞にも動きやすいという感じはしなかった。

「それでね背中に”放課後ティータイム”って書いてもらおうよ」
「暴走族かっ」

唯の提案に思わずツッコミを入れてしまった僕に、唯はその場に座り込むと誇らしげに胸を張った。

「……ムギは?」
「ムギ先輩はあっちのほうで色々と見て回っています」

これ以上はさすがに付き合いきれない(主にツッコみの関係で)ため、僕はこの場にいないムギの場所に行くことにした。
梓からムギの居場所を教えてもらった僕は、この混沌と化した場所を梓に任せ(半ば押しつけだが)て、ムギを探すべくその場を後にするのであった。





「結局見つからなかったな」

お店の中を一通り歩き回ったところで僕は一つ大きく息を吐き出しながらつぶやいた。
ムギを探していたのだが、ムギを見つけることができなかったのだ。

(痕跡をたどってはみたけど、どれだけ移動してるんだ?)

ムギの生体反応をたどって歩いていた僕は、いろいろな場所をぐるぐると歩く羽目になっていた。
それはまさしく、好奇心旺盛な子供のような感じだった。
そして、気づけば出入り口のほうへとたどり着いていたのだ。

「あれ?」

ふと気づくと、テーブルのようなものが置かれている場所に律や澪たちの姿があった。
それだけではなく、探していたムギの姿も。

「あ、浩介! どこ行ってたんだよ。まったく、子供か?」
「お店の物を使って遊んでいたやつの言葉か? それ」

わき腹に両手を添えて呆れたような口調で言葉を投げかけてくる律に、僕はジト目で反論した。

「というより、ムギのその大荷物は何?」
「買っちゃったの♪ ホームセンターって本当に素晴らしい場所ね」

満面の笑みで答えるムギの両手にはパンパンに膨れているレジ袋があった。

「それで、棚のほうは?」
「明日の放課後に学校まで届けてもらうことになった」

ムギから視線を外した僕の問いかけに、携帯電話を手にしていた澪が答えた。

「それで、唯たちは?」
「さあ? どこか見てるんじゃない?」

次いで出た僕の疑問に、律は首を傾げてながら答えた。

「みんな~」
「お、噂をすればだな」

僕たちに駆けられる唯の声に、視線を向けると手を振りながらこっちに向かってきている唯と梓の姿があった。
なんだか梓は強引に連れてこられている形だけど。

「それじゃ、皆も揃ったんだし、楽器店にでも行くぞ」
「ちょっと待った」

楽器店へと向かおうとした僕を呼び止めたのは、唯だった。

「まだゲームは終わってないよ!」
「……まだやる気か」

腕を構えている唯の姿に、僕はため息を漏らしながら唯たちのところに戻った。

「それじゃ、いくよ! じゃんけんポン!」

こうして、僕たちは再びギターケースを持つ人物を決めるじゃんけんをするのであった。










なんだかんだあってようやく本来の目的地でもある楽器店『10GIA』へと到着した。

「すみません」
「はい、何でしょうか?」

カウンターのほうに向かった僕が店員に声をかけると、店員の男性はこちらに向かってきた。

「このギターの査定をお願いしたいんですが」
「こちらですね」

律から受け取るような形でギターケースを手にするとそれをカウンターの上に置いた。
店員はケースのふたを開けて中を見る。

「はぁ、まさかあのあと四連敗するとは」
「勝利のブイ!」

どうでもいい話だが、あのあと律は四連敗という稀にみる大敗の結果を残していた。
さすがに肩が痛いのか手で肩を抑えながら腕を回していた。

「後、このクーポン使えますか?」
「失礼します……ええ。お使いになれます」

僕が差し出したクーポンを受け取り確認した店員は頷きながら答えるので、クーポンを使うようにお願いした。

「それでは、査定いたしますので、店内でお待ちください」

そんな店員の言葉で、僕たちは少しの間店内を見て回ることにした。

(とはいえ、楽器関係で買うのはないんだけどね)

本当に見ているだけだ。

「唯、どうしたんだ?」
「ねえ、浩君。あれってどうやって演奏するのかな?」

ギターを販売しているスペースで何かを見ている唯に声をかけると、一つのギターを指さして聞いてきた。
その先を見てみると、弦が上下二つあるタイプのギターがあった。

「ほかのギターと同じ。ただ、手の動きはこれまで以上にシビアに難しくなるから、やめておいた方がいいかもしれないな」

唯だったらもしかしたらものにするかもしれないが、さすがにこればかりはギャンブル過ぎる。

「へぇ~」
「査定をお待ちのお客様、お待たせしました!」

そんな時、遠くのほうから店員の声が聞こえた。

「どうやら査定が終わったみたいだ。戻ろうか、唯」
「うん♪」

僕の呼びかけに笑みを浮かべて頷いた唯は僕の腕に自分の腕をからめる。
まるでそれが普通だといわんばかりに。

(少し前までは離せとか言っていたのに……僕でも変わるものなんだね)

そんな人間じみた自分がどこか嬉しく感じつつある僕なのであった。





カウンターのほうにはすでに律たちが集まっており、僕と唯が最後に来る形となっていた。

「お待たせしました。こちらのギターですが60万円で買い取らせていただきます」

そして店員から営業スマイルで告げられた金額に、僕たちは愕然とするのであった。

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