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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第111話 お金狂騒曲

「あ、あの?」

あまりの金額の大きさに固まっていると、店員から心配そうな声がかけられた。

「ごちそうさまでした!」

一番最初に正気に戻った澪は、何故かそんな言葉を口にしてお辞儀をするとカウンターに背を向けた。

「さあ、帰るぞ」
「おいこら!」
「帰るな」

律が勝手に帰ろうとする澪の肩をつかんで阻止した。

「だ、だって……六千万!」
「落ち着け、桁がものすごく変わってる」

混乱しているからなのか、あたふたとしながら二桁も増やした金額を口にする澪の対応は律に任せることにした。

「ありがとうございます」
「って、少しは躊躇しろ!」

そんな僕たちの横で躊躇なく現金の入った封筒を受け取るムギに思わずツッコミを入れてしまった。

「ムギ、ちょっと唯たちのところで待っていてもらっていい?」
「え、ええ。わかった」

僕はムギに唯たちのほうに行くように告げると、ムギは疑うそぶりも見せずに唯たちのほうへと向かっていった。

「でも、どうしてこんなに高額なんですか?」
「もしかしてムギに気を使って?」

僕と律は店員の人に高価な価格となった理由を尋ねた。
ムギはここの楽器店の系列会社の令嬢だ。
もしかしたらサービスという名目で値段が吊り上げられたのかもしれないと考えたのだ。

「いいえ。それは関係ありません」

だが、店員から帰ってきたのはそんな答えだった。
そのまま店員はカウンターのほうへと向かうので、僕たちもそれに倣って移動した。
そして僕たちのほうを見ながら、店員は静かに口を開いた。

「こちらのモデルのギターですが、1980年代始めに生まれたギターでして―――」

そして店員からギターが効果になった理由を説明された。
話を聞けば、高価な買取価格になったのも頷ける。

「それとお客様の買取りアップクーポンを加味いたしまして、このお値段で買い取らせていただくことになりました」
「……」

店員の説明が終わったが、唯たちから一向に反応が返ってこない。
見れば全員が唖然とした表情で固まっていた。
どうやら、彼女たちにはこの話は難しすぎたのかもしれない。
もしくは、あまりの高額な価格に思考回路が停止しているかのどちらかだろう。

「と、とにかくとても貴重なギターなんです」

そんな彼女たちの様子に慌てた様子で説明しなおす店員に、思わず同情してしまう僕なのであった。










場所を楽器店から近くのファーストフード店に移した僕は、唯たちに席を取っておいてもらうようにお願いをして邪魔にならない場所で電話をかけていた。

『はい、山中です』
「高月です」

電話の相手は山中先生だった。

『どうしたの? いきなり電話なんて』
「先生から預かったギターの売却が終わりましたので、そのお知らせに」

電話の用件は、先生から預かったギターに関してだった。
予想以上に高額な値段が付いたので、持ち主である山中先生に一応確認をすることにしたのだ。

『別に明日でもよかったのに』
「ええ。ですが、少々価格がすごいことになっているので、確認を」
『それで、いくらだったの?』

山中先生の問いかけに、僕はその金額を言うことにした。

「60万円です」
『えぇ!? そんな値段で売れたの!?』

やはり、電話先のほうから驚きに満ちた声が聞こえてきた。

「一応聞きますけど、本当に部費に足しにしていいんですね?」
『……』

僕の問い掛けに、山中先生からの返事がない。

「60万という大金を知っても部費の足しにすればかなり太っ腹な教師として慕われるという私のどうでもいい独り言はともかく、どうするかは先生のご判断にお任せします」
『………』

今度の無返答は、富か名声かの葛藤と見た。

『いいわよ。先生だもの。一度行ったことは覆さないわ』
「ありがとうございます。それでは明日、買取り証明書をお渡ししますので」

ほくそえみたくなるのを必死にこらえて、僕はそう告げると電話を切った。

「さて、早く戻るか」

あまり長く待たせてはだめだと思い、僕は天寧に戻るとポテトのMサイズを注文してそれを手に唯たちの待つ場所へと向かった。










「ポテトXLサイズだ、釣りはいらねえ!」
「って、そのお金を使ったのか!?」

戻ると、律と澪の声が聞こえてきた。
見れば、お金の入った封筒を澪に突き出していた。

「ごめん、遅れた」
「遅いぞ―浩介」

声をかけた僕に、律が口をとがらせて文句を言ってきたが、それを無視して彼女たちの前の席に腰掛ける。

「で、そのポテトは封筒のお金を使ったのか?」
「いや、さすがにこれは自腹だけど」

僕の追及の声に、律は苦笑しながら答えた。
その言葉に嘘はないようなので、僕は心の中でほっと胸をなでおろした。

「でも、本当にいいんですか? こんな大金を部費に当てちゃって」
「いいんだって。さわちゃんが部費にしろって言ってんだから」

60万という大金に、罪悪感を覚えたのか浮かない顔で声を上げる梓に、律は軽く答えた。

「ほれ! 6人で――「僕はいらない」――5人で分け合えば1人で12万円!」

数十枚の万券を梓の前に掲げながら声を上げる律に、僕は微妙に違うと思いつつも辞退した。
理由としては単純。
お金には困っておらず、これ以上お金が増えたらキャパシティーを超えるからだ。
とはいえ、ちゃんと仕事には就くが。

「私、欲しいエフェクターがあったんですよね~」

大金を見せられた梓は目を回してふらふらしながら口を開いた。

「あずにゃん陥落」

まさに唯の言うとおりだった。

「馬鹿っ!こんな場所でそんな大金を見せびらかすな」

そんな中、澪が律に一括する。
驚きなのはそれで梓が元に戻ったことぐらいだろうか。

「そういう澪もほら、12万だぞー」

だが、そんな澪にも律の魔の手(?)が伸びる

「12万かマルチアンプシミュレーターとかいいよな」
「私はツインペダルにフロアタムとかかな」

次々と欲しいものを口にする律たち。
唯一何も口にしていない唯だが、その笑みから何位を考えているのかが大体想像ついてしまった。

「「「「ふふ、ふふふふふ」」」」
「あ、あの……みんな?」
「なんだか、落ちてはいけないところに落ちかかってるぞ」

不気味な笑みを浮かべ続ける唯たちに、おろおろしながら声をかけるムギをしり目に、僕はそう漏らすのであった。
お金が絡むと人が変わるというが、今の唯たちはその典型例なのかもしれない。
結局、ファーストフード店を出るまでこの状態は永遠と続くことになるのであった。










翌日の放課後。
軽音部部室に注文していた棚が届いた。
棚には軽音部関係の物を置いていき、何とかきれいに収めることができた。

(なんだか、無意義は水道の蛇口を磨いていたけど、何をやってるんだろう?)

まるで何かに取りつかれたように磨く麦の姿はまるで魔女を彷彿とさせた。
あまり関わり合いたくないので、放っておくことにしたのだが、気にならないといえばうそになる。

「だいぶ片付いたな」
「はい!」

二人がそんな会話をしている中、僕はふとあるものを見つけた。

「なんだ、これ?」

棚の陰から除く謎の物体に首を傾げながら、僕はそれを引っ張り出した。

「これって、完全に唯の私物だ」

名前は知らないがカエルの置物だった。

「唯!」
「あう!?」

澪の呼びかけに、唯のひきつったような声が聞こえてきた。

「私物は全部持ち帰る約束だったじゃないですか!」
「だって、それ以外にこんなにあるんだよ!」

梓の小言に、唯は震えながら一方を指さした。
その先にあるのは、ベンチの上に置かれた複数個の紙袋だった。
紙袋には様々なものがぎっしりと詰め込まれていた。

「こんなに持って帰ったら憂に怒られちゃうよ!」
「ここに置いてたら私が怒ります!」

梓の切り返しが最近どんどん鋭くなっているような気がしてならないほどにすごかった。

「憂だって怖いもん! この間だって、怒られて一生懸命謝ったんだから」
「姉の威厳まるでないな」

なんとなくその光景が目に浮かんでしまった。

「そういう浩介先輩も、これ忘れてますよ」
「あ、ごめん」

呆れたような表情で梓から手渡されたのは、クリエイト用のメンテナンス道具一式だった。

「とりあえず、格納庫にでもしまっておくか」

とりあえず、それを受け取った僕は、道具一式を格納庫にしまうことにした。

「それって何?」

指を鳴らしたのと同時に頭上に突如出現した黒い靄に、ムギが首を傾げながら疑問の声を投げかけてきた。

「格納庫。こういった道具をしまっておいて、いつでも取り出せるような状態にさせておく。この空間はどことも接点を持たないから、たとえ世界が滅びても僕が生きている限り影響を受けることもない」

簡単に言ってしまえば、そうこのようなものだろうか?
まあ、大きさに限りがある時点でこの例えは不適合かもしれないけれど

「世界が滅びたら、外に出ることはできないんじゃ?」
「詳しいことはツッコんだら負けなんだよ!」

梓の的確な指摘に、これまた唯の的確な反論が返された。

「ということで、浩君。これを格納庫に入れても――「ダメ」――ぶーぶー」

唯が言い切るよりも早くに断ると、頬を膨らませて抗議してきた。

「あのね、この格納庫は武器や戦闘に役に立つものを入れておくためのものなんだ。関係のないものを入れておくところじゃないし、入れたら入れたで有事の際に必要なものがすぐに見つからなくて命取りになることだってある。だからダメ」
「浩君のケチ」

唯の抗議を無視しながら、僕は先程から床に置いてあるメンテナンス道具(バケツや研ぎ石に掃除をする際に拭くための布や乾拭きをするための布など)を手にすると、それを先ほどから出現している黒い靄へとほうり上げるようにして投げ入れた。
そして即座に格納庫を閉じた。

「よし、これで片付けは終了」

長いようで短かった整頓は何とかこれで終わった。

「そうだな。今後は自分の私物はちゃんと持ち帰るんだぞ」
「……そういう律はいったい何をしているんだ?」

口ではもっともらしいことを口にしている律だが、その手にある本のようなものを棚に入れている律に、澪がジト目で見ながらで問いかけた。

「テヘッ☆」

片目を閉じてお茶目に誤魔化す律の姿に怒りというよりも、もはや呆れたような感情が湧いてくる。
それもある意味律の才能なのかもしれない。

「ひぃっ!?」

そんな中ドアが開く音に律たちは体を震わせるという異様な驚き方をした。

「棚は届いたの?」
「ええ、こちらに」

部室にやってきた山中先生の問いかけに全員が固まったまま微動だにしないので、僕が代わりに受け答えした。

「あら、なかなかいいじゃない」

どうや棚のほうは好印象のようだった。
だが、そんな中、僕や律を除く全員が直立不動で山中先生のほうに向かって整列をし始めた。
律の場合はまるでスローモーションでもしているかのようなゆっくりとした動きでその場を離れようとしている始末だし。

「皆、どうしたのよ。人が話しかけているのに」

そんなどこからどう見ても不自然な様子の皆に、戸惑いの色を隠せない様子で声をかける山中先生に応じるかのごとく、澪が逃げあd層としている律の肩をつかむと強引に山中先生の前まで移動させた。

「あぁ、さわちゃん。何だぁ、来てたんだぁ!?」

本人は、ごまかしているつもりだが、両手を握ったりするそのさまはかなり不自然だった。

(なぜにそんな不自然な態度を)
「……それで昨日はどうだったの?」
「き、昨日!?」

山中先生の”昨日”という単語に体を震わせる律の姿に、なんとなくその理由がわかったような気がした。

「ギターよ。持って行ったんでしょ?」
「あ、あぁ! あれは確か……」

山中先生の言葉を受けた率は声をうわ面セルが、なぜか言葉を詰まらせた。

(あまりの大金に、緊張でもしてるのかな?)
「と、とても古いギターだったらしくて」

そんな律に代わって梓と澪が代わりにギターについて話し始めたが、やはり声が震えてぎこちない態度だった。

「あれぇ!? ということはさわちゃんは50代でいらっしゃる?!」

両手をもみながら、唯が何気に恐ろしい爆弾を投下した。
僕はそっと耳に手を当てた。

「どこにピチピチした50代がいるかっ!!!」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!」

それはまさに爆風であった。
すさまじい気圧に、耳をふさいでいるはずの僕にさえはっきりと声が聞こえてくるほどだ。

「父親の友達から借りたって言ったでしょ?」
「そ、そうでした」

なんとなく、唯はいつも通りのような気がした。

「それで、いくらだったの?」
(尋問?)

値段に関しては、先日僕が話しているはずなので、明らかに山中先生の質問は不自然だった。
だが、僕のほうに意味ありげな視線を送ってきたので、これは試練の類だろうと納得することにした。
嘘つき者がバカを見るという教訓を教えつける昔話のごとく。

「えーっと……1万円」

全員が顔をそむける中、律が告げた金額はとてつもなく少ない額だった。

(残りの59万はどこに行った?)
「やっぱりそんなものよね」

山中先生が一瞬不気味な笑みを浮かべたのを僕は見逃さなかった。
この人、明らかに演技をしてる。

「それじゃ、買取り証明書を頂戴。部費に計上するから」
「はひ!?」

演技だとは知らずに、ほっと胸をなでおろしている律たちに畳みかけるように、山中先生は手を差し出しながら買取り証明書の啓示を求めた。

「まさかもらわなかったの?!」
「えぇっと、ここに」
「なんだ、ちゃんとあるじゃない」

ブレザーのポケットから取り出した買取り証明書と思われる紙切れに、山中先生がそう言葉を漏らした。
隣で固唾を飲んで律を見つめる唯たちの姿が、部室内の緊迫した空気をひしひしと伝えていた。

(詰んだな)

どちらにせよ、買取り証明書を見せることになるのだから、ウソがばれるのは時間の問題だった。
だが、律は予想だにしない行動に打って出た。

(た、食べた!?)

なんと手にしていたと思われる買取り証明書を口に入れたのだ。

(そ、そこまでして60万円を手にしたいのか)

律の執着心に、僕は驚きを隠せなかった。

『食え! 食え!』
「食えじゃないから!」

何よりもすごいのは、隣で全身を左右に振りながら食えコールをする唯たちのほうだけど。

(でも、これって無駄なような気がするんだけど)

なんたって、相手はあの山中先生なのだから。

「何をしているの! 早く出しなさい!!」
「絶対に嫌だっ」

買取り証明書を口から出そうとする山中先生、方やなんとしてでも飲み込みたい律との壮絶な戦いは

「出しなさいっ」
「ひぃぃぃぃ!!!?」

メガネをはずした山中先生の渾身の一言で幕をが下りることになるのであった。

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