健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第12話 戦闘

クラフティが大きな斧をこちらに向けて振りかざす。

「はあ!!」
「炎天の輝きよ、我らを守りたまえ」

俺はそれを目の前に防御壁を展開させるだけで受け止める。

「なッ!?」
「っふ!」

驚く彼女に神剣を振りかぶる。
だが、感触がない。
どうやら避けたようだ。
しかしこちらは一人ではない!

「エクレール!! 今だ!!」
「分かって――――」

エクレールの前方には、複数のナイフを手にしたヴィノカカオの姿があった。
彼女もそれを認識している。
そして、それは一斉に放たれた。
俺の方は壁によって守られているため大丈夫だが、エクレールの方が心配だ。

「ベール」
「はーい」

ヴィノカカオの呼びかけに、ファーブルトンが矢を射る。

「させるかぁ!!」
「な!?」

俺は即座に展開した防御壁で防ごうとするが、中々の威力で押しつぶされそうになる。
なので、それを上空の方にベクトルを動かすことで、なんとか直撃は回避し俺達は体勢を整えた。

(三人の連携はほぼ完ぺき。これを崩さない限り勝利は難しい。それにここは大技を出したりすれば周りにけが人を出す可能性もある)

状況は悪いの一言だ。
今やるべきことは、この三人の連携を崩すことだ。

(崩すは無理だが隔離は出来るか)

俺はある術を思い出した。
それは本来、閉じ込めるための物だが、隔離するには十分の物だ。

「エクレール、これから俺が連続攻撃を仕掛けその後に二人を隔離させる。それまでのフォロー、頼めるか?」
「そんなこと、できる訳が………まあいい、渉の作戦にかけてみよう」

エクレールは渋々と言った様子で、俺の提案をのんでくれた。

「さぁて、お三方よ、防御と命乞いでもしておけ! 世界よ、我が言葉に耳を傾けよ」

俺は詠唱を始める。

「この場に剣の雨を降らしたまえ。行け、レインソード」
「ッ!?」

俺の一言共に放たれた無数の剣は、三人に容赦なく襲いかかる。

「すごいけど」
「無駄」
「ですわよ!」

三人はそれぞれの武器でその剣を防いでいく。
だが、それは俺にとっては一種のジャブだった。

「世界よ、我が言葉を聞きたまえ。我がいる場所の者達二名を、隔離したまえ」
「なッ!?」
「うそ!?」

俺がやったのは空間隔離。
要するに、三人を隔離したのだ。
俺の前にはクラフティとファーブルトンの二名、エクレールの前にはヴィノカカオがいる。

「引っかかったな。三人は最強だけど、分断されれば大したことはなくなる。ちなみにその壁はどんなに強い攻撃をしても壊すことは不可能だ」
「なるほど、やりますね」

俺の作戦に、そう言ってくる。
はっきし言って卑怯な手ではあるが、手段は選んでいられないのだ。

「では、始めましょうか。その幸せ、奪います。ロストハピネス!」

俺は今いる空間に宿るフロニャ力の力を吸収した。
それを使い、俺の防御力をさらに高め、二人の防御力を低くしたのだ。

「おりゃああああ!!」
「よっと」
「隙だらけですよ」
「ほいっと!」

二人の攻撃を、俺は余裕に躱していく。
躱すだけなら絶対に問題はない。
だが……

「躱してるだけじゃうちらは倒れへんで」
「だろうな。だからここで切り札を使わせてもらう」

クラフティの言葉に、俺はそう答えると集中した。
使うのは紋章術。

(俺は使ったことがない。だが、気合と根性と運でやってやるさ!)

俺はそう意気込むと、いつもと同じ感覚で自分の手に霊力を集める。
すると、俺の背後に明かりが見えた。

「行きます」

成功したと推測して、俺は次のステップに行く。
銀色に光り輝く二本の神剣を動かしてエネルギーをためる。
そしてエネルギーが最高レベルになったのと同時に、二本の神剣を構える。

「裂空……」

そして俺はそれを一気に、二人に向けて振りかぶった。

「一文字!!!」
「え!?」

その技はブリオッシュの使っていた技だ。
俺はそれを一目見てコピーしたのだ。
とはいっても使い方が知らないので、不完全ではあるが……

(名前を付けるのならジョーカーか?)

そんな事を思いながら、土煙の上がった方向を注意深く見る。
やがて、土煙が晴れるとそこには、フラフラと立っているのもやっとの様子の二人の姿があった。

「あの大技を受けても立っていられるなんてさすがだな」

あの一瞬で防御をするところを見ると、本当に強いということが分かる。

「でも、それもここまで!!」

俺は神速で一気に二人の懐に潜り込み止めを刺そうとした時だった。
突然扉が乱暴に開く音がした。
その方向を見ると、そこにはレオ閣下の姿があった。

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第11話 ジェノワーズ

今俺は走っている。
と言うよりすごい光景だ。
花火が上がったかと思えば今度は空爆だ。

「エ、エクレ、渉。なんかすごいんだけど」
「ぼやくな走れ!」
「この程度まだまだ序の口だ」

セルクルに乗るエクレールをしり目に、俺は辛苦にそうツッコんだ。

「ダルキアン卿!エクレール・マルティノッジです!!

エクレールはブリオッシュに大声で呼びかける。

「おう!」

対するブリオッシュは歩兵を切り倒しながら答えた。

「我々は中に突入いたします! 姫様の救出に」
「おお、存分に努めてくるでござる」

エクレールの言葉に、ブリオッシュはそう答えながら歩兵の攻撃を鮮やかにかわす。

「ここは拙者とユキカゼに……」

ブリオッシュはそう言うと、剣を振り上げ紋章を発動させた。

「はあ!!」

そして剣から放たれた斬撃波で、多くの歩兵達が獣玉へと変わって行く。

「まかせるでござるよ」

おじさんに剣を向けながら笑顔でそう言った。

「俺はエクレールと共に行く。お前の獲物は一騎打ちをご所望らしいからな」
「了解!」
「し、仕方ないな。そこまで言うのなら連れて行ってやろう」

受け答えるシンクに対して、エクレールはそう言いながらそっぽを向く。

(俺、そこまでお願いしたか?)

俺は、そんな疑問を感じつつエクレールと共に走るのであった。










しばらく走った俺達は、ある人物たちと対峙している。

「やはり、貴様ら三馬鹿が出てくるか」

エクレールがやれやれと言った様子でつぶやく。
三馬鹿と呼ばれた三人はあの、ジェノワーズと言う奴らだった。

「誰が馬鹿ですか!」
「馬鹿っていう人が馬鹿」
「そうや! バーカ、バーカ」

ウサギ耳で弓を手にする女性に続いて、短剣を手にする黒髪の少女、大きな斧のようなものを手にするトラの姿を彷彿とさせる姿をした少女の三人が言い返してくる。

(餓鬼か)

俺は呆れながら内心でつぶやく。

「貴様らの相手は、いろんな意味で頭が痛いが……」
「同じ親衛隊同士、このノワール・ヴィノカカオが通せんぼ」
「同じくベール・ファーブルトン。エクレちゃん、正々堂々と勝負です」
「まっ、三体二やけどな。ジョーヌ・クラフティ頑張るよぉ~」

ヴィノカカオは短剣を、ファーブルタンは弓を、クラフティは斧を構える中、エクレールも双剣を構えた。

「ビスコッティ親衛隊長、エクレール・マルティノッジ。切り抜けて進ませてもらう」
「同じく小野 渉。機嫌が悪い時にちょっかい出すとどうなるか。たっぷりと叩き込ませて貰おう!!」

そして、俺達の戦いが幕を開けるのであった。

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第10話 合流

3人称Side

「……ふっ!!」
「っ……ぐぅ……!」

ミオン砦内に武器と武器がぶつかり合う金属音が響く。
砲術師のリコッタのサポートもあって、何とか辿りつけた二人だが、中で待ち構えていた敵兵士の数の多さに圧倒され、ついに逃げ場が無くなった。

「ふはははは!!!」

そんな時高々い笑い声と共に、ガレット獅子団の将軍でもあるゴドウィン・ドリュールが姿を現した。

「親衛隊長も勇者も恐るにたらず!」
「リコからの砲撃、止まっちゃってるけど?」

ゴドウィンの言葉にシンクは、背中合わせのエクレールに小声で話しかける。

「無理もない、砲術師は歩兵に詰められれば無力なんだ……むしろここまでよくもってくれたと褒めてやりたい」
「勇者の坊主は我らが主、ガウル殿下のご使命だ、広場まで来てもらおぉう!」

ゴドウィンの言葉と共に、歩兵達が一歩前に踏み出した。

「小娘の親衛隊長に用はない。降参するなら、許してやるぞぉ? んん?」
「断る!」

ゴドウィンの提案をエクレールは即答で答えた。

「んん?!」

そんなエクレールの言葉に、ゴドウィンは眉間にシワを寄せた。

「……そうか、なぁらば、少々痛い目を見てもらおうかぁああ!!」

兵士が差し出した鉄球の付いた大きな斧を手に取りながら、ゴドウィンはそう言った。

「「勇者(エクレール)!!」」

そんな時、二人はほぼ同時に声をかけた。

「……なんだ?」
「……そっちこそ」

しばらくの静寂ののち、二人はそれぞれの提案を話す。

「いいかよく聞け!」
「エクレこそ!」
「「僕(私)がここに残るからエクレ(貴様)は先に!」」

二人はほぼ同時に言いきった。
しかも内容も同じだ。

「「………え?」」
「だああああ!! なんでかぶるの!!」
「それはこっちのセリフだ! このスットコ勇者が!!」

そして二人は痴話げんかを始めた。

Side out





俺は迷彩と気配の遮断をしてミオン砦内に侵入することに成功した。
ちなみにメイドさんの隙を狙って強行突破した。
そんな俺を待っていたのは……

「いいから行けって! ここは危ないんだし、エクレなら砦の中とか詳しいでしょ?!」
「足止めなんて難しい戦場、貴様に務まるわけなかろうが! 貴様こそさっさと行け!」

二人の痴話げんかだった。
いや、これは言い争いとでも言った方がいいか?
シンクとエクレールの二人はこの世界に来たときに軽く戦ったおじさんと、歩兵達の前で痴話げんからしき言い争いをしていた。
理由は、どっちがここに残るかであった。
そしてこの二人のやり取りにおじさんの眉間のシワも、だんだんと大きくなっていった。
俺は不意打ちが出来るようにタイミングを見計らっていた。

「女の子を危険な目に合わせる訳にはいかないの!」
「いいから行けって、言ってんだろ?!」

それを知ってか知らずかは分からないが言い争う二人。

「ここは僕に任せて!」
「いいから行け!」

(おーい、そろそろおじさんが限界を超えるぞ?)

心の中でそう警告を出す。

「もぉう! 頑固だなー!」
「うるさい!」

そして、とうとうその限界が来た。

「ガキ共ぉ! この土壇場で、楽しいやり取りしてんじゃねぇえ!!!」
「「ッ!!?」」

おじさんは怒鳴りながら鉄球をシンクに向けて放り投げた。

「呼ばれなくても、ド派手に登場!!」

俺は今だと思い、シンクの前に迷彩を解除して移動すると正宗を前方に突き付けるように構える。

「盾!」

その次の瞬間、とてつもない重圧が俺を襲う。

「渉!?」
「……っく! おまけに一発!!」

俺がそう叫んだのと同時に、目の前にいた歩兵の半分が獣玉になった。
そして俺の横に突き刺さるのは、神剣吉宗だ。

「うおりゃああ!!」

そして俺は鉄球を横にそらせることで、対処すると盾を解除した。

「悪い、かなり遅れた」
「遅れすぎだ!! 一体何をしていた!!!」

エクレールの怒鳴り声が耳に響く。

「あー、それは後で。今は……」
「お主は、今朝の小僧か」

俺は目の前にいるおじさんに意識を集中する。

「ええ、そうです。それにしてもこれは偶然? それとも作為?」
「そぉんなことはどうでもいい! 今朝の決着を、つけさせてもらぉおうではないか!!」

おじさんは手に斧を、俺は両手に神剣を構える。
と言うより、あのおじさん縛り付けられて負けたのがよっぽど嫌だったようだ。
そんな時、紫色の何かが何処からともなく、おじさんの背後を狙うように向かってきた。
それをおじさんは斧で受け止める。

「ぬぉぉおお!!」

やがて斧の方が勝ったのか、それは大きく弾かれ、俺達の後方に突き刺さった。

「この刀は……!」

エクレールが刀を見て声を上げた。

「塔馬より失礼仕った!」

その声と共に俺達はミオン砦の屋根の方を見上げた。
そこには笠のようなものをかぶり、右手に杯を持った凛々しい顔の女性と何やら小動物がいた。
どうやらこの人がさっきの奇襲を仕掛けたらしい。

「おぉ、久しぶりでござるなエクレール。しばらく見ない内に大きくなった」
「ダルキアン卿!」
「ダルキアンだとぉ?!」

エクレールの言葉に、おじさんはそう言いながら、その方向を睨んだ。

「いかにも、そこの斧将軍と勇者殿達には、お初にお目にかかる。ビスコッティ騎士団自由騎士、隠密部隊棟梁『ブリオッシュ・ダルキアン』」

ブリオッシュはそう言うと、巻物を取り出しそれをこちらに向けて広げた。

「騎士団長ロラン殿からの要請を受け、助太刀に参った!」

そんな時、やぐらのような場所から光何かがあった。

「危ないっ! 後ろ!!」

それに気づいたシンクはブリオッシュにそう告げると、刀を構えた

「紋章剣」

その台詞と共に、ブリオッシュの背後に紫色の紋章が現れた。

「烈空一文字ッ!」

そしてブリオッシュは身体を回転させながら、居合いと共に矢が射られた方へ刀を払う。
さらにその斬撃は矢を吹き飛ばし、弓兵達のいるやぐらを弧月状に斬り裂いた。
斬り裂かれたやぐらは斜めに傾き、そのまま地上にいる歩兵達を道連れにして地面へと落ちた。
俺はその一連の動作に、言葉を失った。
その動きに無駄はなく、そう言った催し物であれば間違いなく一番華麗で、最強の座に君臨できるほどの力だった。

「いやぁ~助かったでござるよ、勇者殿」

そんな俺の驚きをよそに、ブリオッシュはシンクに笑顔でそう言う。

「あっ、いえ!」
「お、口上の途中でござったな……えーと、どこまで話したか?」

ブリオッシュは隣にいる小動物にそう聞くが、鳴き声をあげた。
おそらく犬であろう。
あまり関係はないから深く考えないようにした。

「まぁともかく、押しかけ助っ人の推参でござる、さぁ! いざ尋常に」

ブリオッシュの台詞と共に、城外から花火が上がり、笑顔で刀を構えている彼女を照らした。

「勝負でござる!」

(しかし、この花火……誰がやってんだ?)

俺の疑問も尽きることはない。

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第9話 姫様奪還戦開始!

ナレーターが実況を初めているさなか、俺とシンクは外へと向かっていた。
それはエクレールと合流するためであったのだ。

「あ、エクレール! 丁度いい所に……大変なんだ。姫様が攫われちゃって、だから僕達急いで助けに――――」

そこにいたのはものすごい速度で走りながら、こっちに向かってくるエクレールの姿。

(こ、怖ッ!?)

その表情はまるで鬼を思わせるような感じだった。
なので俺は何があっても大丈夫なように回避する準備をした。

「こっの、ど阿呆ぉぉがあああああ!!」

そして俺の予想も的中し、エクレールがとび蹴りを仕掛けようとしてきた。
ちなみに俺の位置はシンクの左側、つまりはエクレールのとび蹴りの攻撃範囲内だった。
俺は即座に後方にバックステップで回避するが、シンクはものの見事にとび蹴りを喰らい柱の方に吹き飛ばされた。

「痛いよ! 何すんの?!」
「それはこっちのセリフだこのど阿呆! 勝手に宣戦布告を受けてどういうつもりだ!!」

「はっ、はい?」

エクレールの罵声に、シンクが首を傾げた。
そしてこっちをものすごい形相で睨みつけてきた。

「そして渉は避けるな!!」
「避けるわ!! 誰が嬉しくてわざわざ痛い目にあうか!!」

俺はエクレールにもう反論した。
俺は別にマゾではないからな!!
その後俺達は急いで姫様のいる場所へと向かうのであった。





3人称Side

「宣戦布告を受ければ、公式の戦と認めた事になる。普段の戦闘ならいざ知らず、よりによって姫様をあまつさえこんなタイミングで……」

ミオン砦に動物……セルクルに乗って向かっている時、エクレールはシンクに対して怒鳴っていた。

「コンサートの姫様の出番まで、あと一刻半しかないんだぞ? ……聞いてるのか勇者!」

後ろにいるシンクに、エクレールは若干キレ気味に怒鳴った。

「きっ、聞いてっうわあぁぁあ!? 聞いてる!」
「大体、貴様は何でまともにセルクルにも乗れんのだ!!黒音は普通に乗れてただろうが!」

今にもセルクルから落ちそうなシンクに、エクレールが怒鳴りつける。
宣戦布告の一件でエクレールの機嫌は最悪であった。

「そんな事言われてもー!」
「エクレ、あんまり怒ると血管切れるでありますよ?」

リコッタの心配そうな言葉に、エクレールは前方へと顔を向けた。

「……エクレール、リコッタごめん。勝手な事して」

しばらくの間無言であったが、突然シンクが口を開いた。

「僕の世界では、悪者が姫様を誘拐するのって、大変な事なんだ、だから――――」

シンクはそう言いながら体制を整えた。
シンクの言葉に、リコッタやエクレールは少なからず驚いている様子だった。

「黙っていられなかった! ……でも大丈夫! 姫様も助けるし、コンサートにも絶対間に合わせる!」

シンクはそう言いながら神剣『パラディオン』を手に具現化する。

「ふんっ! ……当然だ」

「自分も微力ながら、頑張るでありますよー!」
「うん! ありがと!! リコッタ、エクレール」

エクレールとリコッタにお礼を言うシンク達は、ミオン砦へと向かう。

「む、そうだ。渉はどうした!」
「あれ? そう言えばさっきから静かで……って、いない!?」

エクレールの問いかけに、シンクは後ろの方を見るが、そこには誰もいなかった。
そう、なぜか渉の姿はなかった。

「最後に私が見たのは、セルクルがいる場所であります」

リコッタが知っていることを告げた。

「と言うことは……」
「あの馬鹿者!! こんな時に一体何をしておるのだああああ!!!!」

シンクの仮定をいち早く悟ったエクレールが、本日最高ボリュームで怒鳴り声を上げた。
これには二人は苦笑いを浮かべるしかなかった。










ちなみに、その頃渉はと言えば……

「ですから、セルクルにお乗りになった方がいろいろと便利ですと、申しあげております!!」
「だ・か・ら! 俺はセルクルとかいう動物ではなく自分の足で行きたいだって!!」

見送りに出ていたメイドの人と言い争っていた。
その原因は渉がセルクルに乗るのを拒否したからである。

「くどい!!! 一体何度言わせる気だ!!」
「貴方こそ!! いい加減分かってください!!」

二人の喚き声が夜の空に響き渡るのであった。

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第8話 お約束の

召喚台からお城の方まで戻ると、辺りは暗くなっていた。

「姫様のコンサートに汗臭い姿でこられても困る。コンサート前に風呂を使って来い」
「風呂ってどこで?」

エクレールの指示にシンクがお風呂の場所を尋ねる。

「案内図もありますし、中の人間に聞けばわかるでございますよ」

リコッタの説明に、俺達は納得した。
そして俺達はお風呂場へと向かったのだが……










「誰もいないんだけど」
「………」

お城の中には誰もいなかった。
案内図らしきものもあることにはあったが、字が読めない。

「ねえ、渉。みんなコンサートの準備で忙しいのかな?」
「さぁな。というより、風呂場ってどこにあるんだ?」

シンクの疑問に、俺は適当に答えると風呂場を探す。
あれからかれこれ数十分はお風呂場を探し回っている。

(あ、そう言えば異国の字を読めるようになる術があるんだった)

俺はいまさらな事を思い出した。
異世界に行くときに字が読めないのは、非常に危険だ。
よって字が読めるようにする神術があるのだ。
それを俺は忘れていた。

(………掛けておこ)

俺は気を取り直して神術をかけた。
これでこの世界の文字は俺の知る言語になるはずだ。

「ん? あれかな?」

そんな中、シンクが立ち止まりどこかを見ていた。。
そこにはなにやら大きな建物がある。

「とりあえず行ってみるか」
「そうだね」

舗装された道を小走りで進むと沿道が俺達の動きに合わせて光っていった。
本当にここの文化レベルがわからない。
すごいんだか、そうでないんだか……。
なかは明るく解放的な空間になっていた
奥の方は敷居で遮ってあり、その向こうにも何かがありそうだった。

「あ、ロッカー。イエス! 大正解!」

テンション高めに喜ぶシンクをよそに、俺は服を脱いでいく。
そして神術で創造したタオルを腰に巻くと、浴場の入り口の張り紙に目を通した。

そこにはこう書かれていた。

『Open spa. This time for ladies only』

(なんで英語なんだよ)

どうやら翻訳の指示を間違えていたらしい。
直訳すると『大浴場。この時間は女性専用』と記されていた。

(下の方にも何か書いてある)

張り紙の様な紙に誰かの絵が描かれていて、再び英語が書かれていた。

『In miruhiore now』

(ミルヒオレが中にいます……どういう意味だ)

「どうしたの難しそうな顔をして。早く入ろうよ」

俺は首傾げていると突然シンクに手を取られた。

「え、あ、おい!!」
「ひゃっほぉー!」

俺は突然の事になすすべもなく大浴場へと強制的に連れていかれた。
もう嫌な予感しかしない










「うわーすごいやー。露天だ―」

確かに中はすごかった。
横には数本の柱が立っていて、中世のヨーロッパに来たような印象を受けた。
そんな中、俺とシンクは階段を下りて行く。
すると、シャワーの音がした。

「あれ? 先客さんかな? って、どうして渉は後ろを向くの?」
「………」

突然後ろを向いた俺にシンクが聞いてくるが、俺は何も答えない。
俺はシンクを浴場から連れ出そうとするが、シンクは音のした方に近寄って行く。
そして……

「勇者様?」
「「………」」

一瞬静かになった。
俺は振り向かないとばかりに出口の方を見続ける。
そしてその静寂は桶が地面に落ちる音で一気に消え去った。

「きゃぁ!」
「うわぁ! 見てません! 何も見てません!!」

慌てた様子で騒ぐシンク。
俺はため息も出なかった。
って、そう言えば俺もここにいるんだからシンクの共犯!?

「すみません。勇者さまの前でこんなはしたない」

(あんたが謝るのかい!!)

俺は心の中で突っ込む。

「え、いやあの僕、まさか人がいるだなんて……まさか姫様がいるなどと思わなくて、本当にすみません」

シンクはそう言いながら俺の横まで移動すると、地面に落ちた桶に足を取られた。

「うわぁ!?」

そして俺を巻き込んでお湯の中に落ちた。
俺はすぐに後ろ向きで浮かび上がった。

「ごめんなさい、私普段はこの大浴場には入れない物ですから、こういう時ぐらいはって」
「えっと、こっちも色々とすみません」

俺は出鼻をくじかれながらもなんとか謝れた。
諸悪の根源のシンクはお湯の中に沈んでいた。

「あ、あの私もう上がりますので、勇者さまたちはどうぞごゆっくり!!」

そう言ってその人は去って行った。

「ぷは!!」

沈んでいたシンクは思いっきり立ち上がった。

「シンク!!」
「あ、あの、勇者さま」

俺が怒り心頭に叫ぶのと同時に声がした。

「は、はい!」

声のした方を見ると、そこにはバスタオルを巻いた桃色の髪をした少女の姿があった。
この時、俺は初めて少女の姿を見たのだ。

「召喚の事とか、これからの事とか。勇者さまたちにお話ししたいこととかいっぱいあるんです。ですから、コンサートが終わったら少しお時間頂けますか?」
「は、はい! それはもちろん」
「ありがとうございます。また後程」

そして少女は去って行った。

「はぁ」
「シンク、貴様」

俺はシンクを睨みつける。

「な、何かな?」
「明日鍛錬に付き合え!! 徹底的にしごいてくれる!!」

俺の機嫌も最悪な状態だ。

「そ、そう言えば、ここ女湯じゃ……ないよね?」
「それはな――――」

俺が答えようとした時だった。

「きゃああ!!」

突然何かが割れるような音と共に、少女の悲鳴が響き渡った。

「姫様!」
「ッ!?」

俺とシンクはほぼ同時に浴場を出る。
そして素早く礼装に身を包むと、外に飛び出した。
外に出ると人の気配がした。
そこは……

「上か!!」

大きな声でそう叫びながら、上を見ると屋根の部分に三人の人影があった。

「われら、ガレット獅子団領!」
「ガウ様直属秘密諜報部隊!」
「「「ジェノワーズ!!」」」

色付きの煙を出し、派手な登場をしたのはガレット軍の奴らのようだ。

「姫様!」
「ビスコッティの勇者二人殿。あなたたちの大事な姫様は我々が攫わせていただきます」

黒い髪をした少女が淡々と告げた。
俺まで勇者にされているのはあれだが。
そして少女が手に抱きかかえているのが姫様なのだろう。
その姫様はさっきまで大浴場にいた少女だったが。

(と言うより、俺と姫様とは初対面なんだが?)

「うちらはミオン砦で待ってるからなあ」
「姫様がコンサートで歌われる時間まであと一刻半。無事助けにこられますか?」

そんな事を突っ込む間もなく、どんどんと話を進めていく三人。

「つまり大陸協定に基づいて要人誘拐奪還作戦を開始させていただきたいと思います。こちらの兵力は200。ガウル様直下の精鋭部隊」
「で、ガウル様は勇者様のどちらかとの一騎打ちをご所望です」
「勇者さんが断ったら、姫様がどうなるか」

(どいつもこいつも……)

俺の中で何かが切れて何かが目覚めた。

「受けてたつに決まってる! 僕は姫様に呼んでもらったビスコッティの勇者シンクだ! どこの誰とだって、戦ってやる!!」
「上等だ!! 貴様ら諸共、この小野 渉が灰にしてくれる!!!」

なのでそう叫んでしまった。
こうして、姫様奪回戦は幕を開けてしまったのである。

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