健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第22話 襲いくる夢と宣戦布告

(また、夢か?)

俺が立っていたのは、再びフロニャルド王国のどこか。

(なッ!?)

俺は、目の前の光景に思わず息をのんだ。
その光景は、血を流して倒れる姫君と、シンク、そしてエクレ達の姿。

(一体何が………ッ!?)

俺は突然上空から鋭い殺気を感じた。
武士の勘で、俺はすぐにその場を離れた。
その瞬間、まるで地面が抉れるような轟音を立てて、何かが着弾した。

「こ、これって……神剣正宗」

クレーターのように陥没している所に突き刺さっていたのは、俺が使う神剣正宗だった。

「でも、どうしてこんなものが上空から――――ッ!?」

再び殺気を感じた俺は、素早く移動する。
その瞬間再び轟音と共に地面が抉れた。

(これは夢なんだろ? なんで俺を襲ってくる? と言うより……)

「どうして、俺は話せるんだ?」

夢であれば、俺は声を出すこともできない。
なのに、俺は口から言葉を発していた。
そして、俺は上空を見た。
そこにいたのは

「なッ!?」

真っ黒な礼装を身にまとい、黒い翼を広げた”俺”だった。
だが、その異様な姿はそれを俺だと思わせない。

「■■■■■■■■■■■■!!!!」

理解できない雄たけびを上げたそれは、俺の方向に陣を展開する。
その形は……

「あれは、闇属性!?」

光に対抗する属性の闇だった。
そしてそれは一気にこっちへと向かってきた。

「ッく、霊言の盾」

俺はそれに対して光属性の壁を形成する。
着弾と同時に、とてつもない重圧が襲ってきたが、なんとか耐えきれた。

「■■■■!」

次は炎属性の神術を放ってくる。
それを、前と同じように盾で防ぐ。

(こりゃ、攻撃しないとまずいな)

「一撃で決める! 最終審判……レクリエム!!」

俺は両手に持つ神剣を上空に振り上げる。
すると、一本の強大な光となり、”俺”へと向かう
この技は、どんな穢れたものでさえも一気に浄化することが出来る優れものだ。
出来ないのは、俺自身とバイパスをつなげた場合だけだ。

「■■■■■■■■!!」

”俺”は雄叫びを上げると再び円陣を展開した。
その属性に、俺は言葉を失った。

「あれは……無属性の反射特化属性とも言われる風属性!!」

無属性は、炎や雷と言った三元属性や光と闇と言った極限属性とは別の物だ。
これには反射特化型の属性である”風”や、回復に特化した”土”の二種類がある。
そして、俺の放った技は、最強の威力を誇るレクリエム。
だとすれば、この後どうなるかは想像できる。
レクリエムが”俺”に着弾した瞬間、それは一旦消滅し俺に向けて放たれた。
これが、風属性の恐ろしさだ。
俺も使おうとしたが、この属性は使うことが出来なかった。

(ここまでか)

俺はあきらめていた。
それは、この技の威力が分かっていたからだ。
どんなに素早く逃げたところで、射程圏内から逃れることは不可能だ。
そして、俺は白く眩い光に飲み込まれた。















「――――です!! 早く起きてください!!」
「わぁあああ!!?」

突然耳に聞こえてきた少女の声に、俺は思わず飛び起きた。

(はぁ………夢……だったのか?)

それにしては納得が出来ない。

「渉さん!! 大変でありますよ!!」
「な、何!?!」

思考に耽っていると、リコッタの叫び声に引き戻された。
その後、リコッタから伝えられたことをまとめると次のようになる。
まず、突然レオ閣下が、ビスコッティに宣戦布告をした。
そしてそれの懸賞をガレットの宝剣、『魔戦斧グランベール』と『神剣エクスマキナ』が賭けられたとのこと。
しかも、それにはこっちもそれに見合うものをかけなければいけなくなり、それは宝剣であると言うこと。

「話は分かった。とりあえず、着替えたいから外で待っててくれる? 2分で終わらせる」
「リ、了解であります!」

俺はリコッタが出て行ったのを確認すると、一息ついた。

「今回の、宣戦布告が、あの夢と関係がなければいいんだが」

俺は不安だった。
俺が視た一連の夢。
それは”予知夢”だ。
俺の場合、視ることはかなり少ない。
しかも見たら俺の場合は必ず現実のものとなってしまう。
つまり、俺はこの手でエクレやシンク達を殺すことになると言うのだ。

「………ついに、選択の時が来たか」

俺は再びため息をつくと、着替え始めた。
そして、着替えが終わった俺はテーブルの上に置いてあったあるものを手に持つと、部屋を後にした。

(最悪な事態だけは回避しないと)

そんな、俺の小さな決意と共に。

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第21話 星詠み~最悪な未来~

あの後、ダルキアン卿のいた家のような場所からお城に戻ったシンクは、メイド長に半ば強引にどこかに連れていかれた。
俺は、いやな予感がしたためシンクを見捨てて屋根に飛び乗って隠れた。
人間自分が一番大事だ。
まあ俺は人ではないし、人としては最悪な部類に入るが。

「シンクは姫君と密会か」

シンクから伝えられた言葉を呟いた。

「俺はとことん姫の階級を持つものとは縁がないみたいだ」

俺は苦笑いを浮かべながら呟いた。
まあ、昔は姫と言う階級はなかったからそれも当然だろうけど。

「それにしても、星がきれいだ」

俺は隠れるつもりで登っていた屋根から降りることも忘れて、星空を見ていた。

(それにしてもあの夢、本当に夢か?)

俺は考えた。
あの内容が夢と言えるものであるのかを。
夢と片づけるにはかなり無理がある。
それほどきつい内容だったのだ。
しかもリアリティもあった。

(まさかとは思いたくないが、まさか……)

俺には一つだけ心当たりがあった。
ダルキアン卿から聞かされた星詠みでの未来を視るのと同じ効果を持つそれを。
そして、それの恐ろしさを。

「………俺がやるべきことはここの世界の人を守ることじゃない」

俺は自分に言い聞かせるようにつぶやく。
世界の人を全員救うなど不可能だ。
何かしらかの代償(ぎせい)が必要なのだ。

「俺に出来るのは、最悪の事態を避けること。ただ、それだけだ」

そんな俺の小さな決意は、風によってかき消された。










3人称Side

ガレット獅子団領
その中のある部屋から何かが割れる音が響いた。
部屋の中では、レオ閣下が悔しさと苛立つ表情で立っていた。

「くそ、またか!」

レオ閣下はいら立ちをあらわにしながら呟く。

「戦を済ませて帰っても、やはり何も変わらん。いや、かえって悪くなった!」

レオ閣下はそう言いながら悔しそうな表情で上を見た。
その拳は、固く握られていたことから、その悔しさ、苛立ちがどれほどの物であるかが分かる。

「さして強くもないはずの儂の星詠み、なのになぜ、こうまではっきりと未来が見える!」

レオ閣下のやっていたこと、それは星詠みであった。
そしてレオ閣下の前にある映像版に映し出されていた物は、血を流して地面に倒れている勇者シンクと、ミルヒオーレ姫だった。

「ミルヒだけでもなく勇者も、この世界の者も死ぬ」

映像版の下に文字が書かれていた。

『「エクセリード」の主ミルヒオーレ姫と「パラディオン」の主勇者シンク、およびフロニャルド王国にいる者、30日以内に確実に死亡。この映像の未来はいかなることがあっても動かない』

そこには、最悪な未来が記されていた。

「なぜだ、なぜ渉がこの世界の者を……あの二人を殺すのだ!!」

映像には倒れる二人の他に二人のそばに立つ、不気味なほどに無表情の渉が映し出されていた。
その姿は背中に黒く染まった翼があり、髪の毛は黒から銀色に変わっていた。
さらには渉の周りからオーラのようなものが溢れだし、その手には神剣正宗と短剣を持っていた。

「星の定めた未来か知らぬが、かような出来事、起こしてなるものか!」

レオ閣下はそう啖呵を切ると部屋の一角へと向かう。

「貴様を出すぞ、グランヴェール! 天だろうが星だろうが、貴様とならば動かせる!」

レオ閣下の視線の先にあるもの、それは……言葉では言い表しようのないオーラを纏っている一本の斧だった。
そして、それが起こるのは翌日の事であった。

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第20話 星詠み~夢と故郷~

俺は気が付くと変な場所に立っていた。

(ここは、どこだ?)

それは一言で言えば恐ろしい世界だ。
周囲は薄暗い雲で覆われている。
時折、雷のような音が聞こえる。

(ここは、フロニャルド?)

俺はなぜかそう感じた。
それがなぜかは俺でもわからない。
そして目の目に倒れる青年がいた。

(あれって、俺?)

そう、その姿はまさしく俺だった。

「……っぐ」

そこにいた俺の姿をした青年はうめき声を上げながら立ち上がった。
礼装は所々擦り切れており、手や顔にも擦り傷があった。
そのことから、何がしらかの戦闘があったと伺える。
そして、俺が負けたと言う事もだ。

(一体何が)

「ッが!?」

目の前に立っている俺の姿が一瞬だがぶれた。
その理由はすぐに分かった。

(何だ? あの刀は)

凄まじい妖気を俺に向けて放つ一本の刀があった。
その刀は刃の部分がなかった。
そして目の前にいる俺は、再び意識を失ったのか地面に倒れた。

(何なんだ、これは)

俺は全く理解が出来なかった。
俺はさっきまでダルキアン卿たちの所にいたはずだ。
なんでこのような場所に俺が立っているのか。
そして、一体これは何なのか。
俺には全く理解も出来なかった。

(あれ、さっきの刀は?)

俺が気付いたのは、”俺”に向けて妖気を放った刃のない刀が消えていると言う事だった。
そんな時、ここに近づく人物がいた。

「む、あそこに倒れているのは……」
「お館さま、間違いないでござる。渉殿です」

(ユキカゼ? それにダルキアン卿!?)

それはユキカゼとダルキアン卿だった。

「渉殿、無事でござるか!」
「渉殿!」
「う……」

二人の呼びかけに”俺”は意識が戻ったのか、ゆっくりと立ち上がった。
だが、かなりふらふらしている。

「無事で何よりでござる」
「うむ、ところでこの辺に変な刀はなかったでござるか?」

”俺”が無事だったことにほっと胸を撫で下ろすユキカゼに、真剣そうな表情で問いかけるダルキアン卿。

「ッ!?」

その声を聴いた瞬間”俺”は驚いた風に目を見開いた。

「……ろ」
「ん? どうしたでござるか?」

”俺”の呟いた言葉が聞き取れなかったのか、ダルキアン卿は”俺”に聞き返した。

「逃げ……ろ」

”俺”は、二人に対してそう警告を発した。
それがどういう意味なのかは、誰も分からなかった。
だが、それはすぐに分かった。

「うああああああああああ!!!」
「ッ!? これは!」
「渉殿……まさか!!」

”俺”から発せられる凄まじい妖気に、二人の顔色が驚きに染まった。
”俺”は二人の動揺など無視して、両手に神剣と、俺がここに来たときに拾った短剣を具現化すると、一気に二人の目の前まで移動した。
そして、”俺”は、両手に持つ剣を振り上げて、そのまま振り下ろした。










「――――殿!!」
「ん……」

誰かが呼びかける声がする。

「渉殿!!」
「はッ!?」

再び聞こえた大きな声に、俺は飛び起きた。
そこは、先ほどまでいたような異様な空間ではなかった。

「はぁ……はぁ」
「さっきからうなされていたようでござるが、体の具合でも悪いのでござるか?」
「あ、いや。ちょっと変な夢を見ただけさ」

俺は心配そうに尋ねてくるユキカゼにそう答えた。
今気づいたが、体中がとても暑かった。

(夢か)

それにしては本当に妙にリアリティのある夢であるように感じた。
あれはただの妄想の産物なのか、それとも……

「渉も、食べなよ」
「……頂きます」

目の前に座っているシンクに促らされるまま、前にある料理に手を付けた。










「そう言えば、渉殿の故郷の話は聞いていなかったでござるな」
「あ、僕も聞きたいな」
「拙者もでござる」

シンクの故郷の話からなぜか俺の故郷の話になっていた。
しかも、全員が聞きたそうな表情で見ており、どうにも話さないと言う方法はなかった。

「……俺は、もし帰れるとしても、おそらくここに残るだろうな」
「それは、どうして?」

俺の言葉に、シンクが理由を聞いてくる。

「ここの世界が故郷より恵まれているからだ」

そして、俺は故郷の話をした。

「俺の故郷はな、とにかく何もない」
「何もない……とは?」
「そのままの意味だよ。水も、木も人もいない只々真っ白な空間。あるのは青い空だけ。夜もなければ雨も降らない」

ダルキアン卿の疑問に、俺はそう答える。
俺がいる世界、天界はまさしくその通りの世界だ。

「そ、そんな世界で良くいられたよね?」
「そんなの、外(ここ)の世界を知らなければ、暮らせるもんさ。まあ、外の世界を体感したから、二度と帰ろうなんて気はないけど」

天界で言い伝えられているジンクス、それが”下界に行った神族は、二度とここには戻らない”と言うものだった。
それもそのはずだろう。
下界の方が天界よりも優れていて、楽しい世界なのだからよっぽどの狂信者でなければ戻りたくもないだろう。
まあ、俺もその戻らない部類の一人になりそうだが。

「そ、そうでござるか。もし永住するのであれば、ミルヒオーレ姫に相談せぬといけないでござるな」
「ま、まあもう少し考えてから決めるとします」

ダルキアン卿の言葉に、俺はそう答えると、そのまま料理を一口食べた。

(まあ実際、世界との契約がある限りここにいるのは難しいんだけど)

それこそが俺が永住を渋る理由だった。
このような下界にいる限り物体化抵抗症状……劣化は止まらない。
今は仮想の天界を構築しているが、それもいつまで持つかは定かではない。
それでもここに残ろうとするのであれば……

(あれを使う……しかないか)

俺はそう考えると、複雑な心境になった。
それは、俺にとっては天敵とも呼べる物だ。
それを使えばここに残ることも十分可能だ。
だが、ここに残ってまで何になるのかが決まっていない以上、それをやるのはあまりにも軽率すぎる。
最低でも、ここにいる理由を見つけなければいけない。
全ては、その選択を後悔しないために。
俺は、一人でそう考えながら料理を食べるのであった。

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第19話 星詠み~襲撃と合流~

シンクを出迎えに言った俺は会う事もなく、フィリアンノ城まで来ていた。
そこで、エクレを探してシンクの居場所を聞いたのだが……

「はい!? エクレ、もう一回」
「だから、へっぽこ勇者はもう出たと言っている!!」

そんな答えが返ってきたのだ。
俺は慌てて元来た道を引き返す。

「あ、おい!!」

エクレの制止も聞かずに。










「………」

引き返したのはいいが、俺はさらに困った状況に立たされていた。

「ここどこ?」

そう、道に迷ったのだ。
どうやらどこかで曲がる場所を間違えたようだ。
戻ろうにも、来た道も忘れてしまった。
つまりは、完全に迷子状態だ。

「……歩くか」

俺はそう自分に言い聞かせると、ただひたすらに歩いた。

「ん?」

しばらく歩いた俺は、ある音を聞いた。
そっちの方向に走った。

「川だ!!」

そう、そこにあったのは川だった。
そして俺は思い出した。
ダルキアン卿と釣りをした場所が川であった事を。

「ここを辿って行けば、目的地に到着する!!」

俺はそう思い川岸に降りると、上流に向かって駆けた。










「なんで、こうなる」

しばらく進むと、川岸はなくなっていたのだ。
しかも上に行こうにも崖のようになっていて上がれない。
身体能力を駆使すれば行ける高さだが、今の状態ではあまりそう言うのを使いたくはないので、俺はしょうがなく川の中に入って進むことにした。
………とても冷たい。
そうしてさらに進んだ時だった。

「グオオオオオオ!!!」
「うわぁ!?」

突然川から飛び上がったのは、ものすごい大きさの変な魚みたいな生き物だった。
しかもそいつは俺をまるで飲み込まんとする迫力で口を広げていた。

「吉宗!!」
「グオオオオオオ!!!」

俺は吉宗を右飛んで避けながら魚に向けて投げつけた。
それは見事魚の腹部分に命中した。
そして俺は……

「わぷ!?」

全身ずぶ濡れになった。
一応吉宗は魚や木などを切ることはできないので、一応大丈夫だ。
それにもしかしたら食材になるかもしれないと思い、吉宗に俺が生成したロープをくくりつけて、引きずるように運ぶ。
それに伴って俺の足取りもさらに重くなった。
そして、俺は上流に向けて進むのであった。





3人称Side

場所は変わってダルキアンが釣りをしている場所。
そこには、シンクとダルキアンの二人の姿があった。

「え!? 渉がこっちに言ったんですか?!」
「うむ、そうでござるのだが、勇者殿は会ってはいないようでござるな」

シンクの驚きようからそう捉えたダルキアンが顎に手を当てて考え込んだ。

「もしや渉殿は裏道を通られたでござるか?」
「裏道?」

ダルキアンの言葉に、シンクが首を傾げた。

「うむ、勇者殿が来られた道が主流でござるが、途中の分かれ道を来られた方とは逆に行くと裏道につながるのでござる。おそらく渉殿はそっちを通られたのかと」
「た、大変! すぐに探さないと!!」

シンクは慌てて立ち上がる。
そう、手にしていた釣り道具を手放して。

「痛っ!? 誰だ!! こんなものを落とした奴は!!」
「この声は……」

突然聞こえた声に驚いた二人は、あわてて声のした方向に向くがそこには誰もいない。
何せ地面がない崖なのだ。
宙に浮かんでいない限り、そこに誰もいないのは当然のことだ。

「こっちだ、こっち!」
「渉!!?」

再度発せられた声に、二人は下に流れる川を覗き込んだ。
そこには、川の中で覗き込む二人を睨みつけている、渉の姿があった。

Side out

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第18話 星詠み~重大な擦れ違い~

翌日、擬似天界化のおかげか物質化抵抗も収まった俺は、エクレからダルキアン卿のいる場所を聞き出し、そこに向かっていた。

「全く、エクレの野郎」

俺は先ほどエクレに殴られたお腹をさすっていた。
何で殴られたか?
それはほんの数十分前に遡る。










「おはようエクレール」
「……レ」

朝、たまたま見かけたエクレールに声をかけると、エクレールは不機嫌そうに何かを呟く。

「何だ?」
「私の事は、エクレと呼べと言っているんだ! この前もそう呼んでいただろう!!」

何て言ったのかを尋ねると、エクレールは若干キレながら言った。
ちなみにこの前と言うのは魔物退治の時だ。

「あの時は無我夢中だったからで………分かったから、睨むな!」

俺は目の前で睨むエクレールを必死に止めた。

「エクレ……これでいいんだろ?」
「う、うむ………」

俺の言葉に頷くエクレの顔はとても赤かった。

「顔が赤いけど、どうしたんだ? もしかして風邪か?」

俺はそう言いながらエクレの額に手を添えた。

「ぅ………ぅ」

その瞬間、エクレの顔がさらに赤くなっていった。

「うああああ!!!!」
「おぶぁああああああ!!!」

エクレが思いっきり叫んだ瞬間、俺はお腹(しかも的確に鳩尾)を殴られた。

「こ、こ、このアホ渉! 勝手に騎士の額に触るな! この! この!」
「痛い!? ちょっと! それで蹴るのは反そ―――ごふぁ!?」










そして今に至る。

「確かにいきなり額を触った俺も悪いが、鳩尾にパンチと蹴るのは無しだろ」

俺はそう文句をたれながら、エクレに教えてもらった道をゆく。

「えっと、ここを右だったよな」

俺は目の前にある分かれ道を右側の方に進む。

「お、あったあった」

しばらく歩くと、前方に立派な門が見えた。
例によって上に掛けられていた木には何か書かれていたが、俺には読めなかった。

(誰か呼ぶか)

勝手に入ると、どうなるかは目に見えていたので、俺は大きな声で人を呼ぶことにした。

「ごめんください!」
「はーい!」

俺の声に、中から声が返ってきた。
その声からしてユキカゼだろう。

「ああ、渉殿」
「こんにちは」

出てきたのは、俺の思っていた通り、浴衣を着ていたユキカゼだった。

「こんにちはでござるよ。それでどうしたでござるか?」
「ああ、ダルキアン卿に用があってね。今どこにいる?」

俺はユキカゼにダルキアン卿のいる場所を尋ねた。

「お館さまは裏の方で釣りをしているでござる。渉殿もやってみるでござるか?」
「うーん、そうだね。お願いしようかな」

俺の答えを聞いたユキカゼは、古風な家の中に入っていった。
おそらく釣りの道具を取りに行ったのだろう。

(にしても、犬とか多いな)

俺は自分の立っている周りを見ながらそう思っていた。
一瞬、ここが動物王国のように思えてしまった。

「渉殿ー、取ってきたでござるよー!」

その後、釣り道具を貸してもらい、ダルキアン卿がいる場所へと向かった。











「お館さま―」
「ダルキアン卿、こんにちは」
「おお、今日は釣り日和でござるよ」

ダルキアン卿はこっちに気付いたのか、釣竿を持ちながら挨拶してきた。

「ダルキアン卿、ちょっと剣の稽古をつけて頂けないですか?」
「ふむ………分かったでござるよ」

俺の頼みごとに、しばらく考え込むとダルキアン卿はそう答えると釣り糸を引き上げて、横に置くと立ち上がった。

「ついてくるでござる」

そう言われるがままダルキアン卿について行くと、森の中にある広場に出た。

「何か、要望とかはござるか?」
「ええ、ダルキアン卿の使う紋章剣『裂空一文字』のコツを教えてほしいんです」
「ほぅ、渉殿は拙者の紋章剣が使えるのでござるか?」

俺の言葉に、目を細めて見てくる。
その目からは嘘は言わせないと言った雰囲気が漂う。

「ええ、俺の紋章術が一度見た相手の紋章術をまねることが出来る物なんです」
「それはすごいでござるの。しかし、どうしてコツを聞きたいのでござるか?」
「俺がまねるのは”技”そのものでそれ以外は分からないんです」

ダルキアン卿の問いかけに、俺は包み隠さず答えた。
今のままでは威力調整が出来ずに、思わぬ事故を生む可能性がある。

「分かったでござるよ」

そう言って、俺はダルキアン卿から紋章剣のコツを教授してもらうのであった。










「そう言えば今日は勇者殿がここに来ることになっておるのでござるよ」
「シンクが?」

コツの教授も終わり、ダルキアン卿と釣りをしていると、唐突にそう切り出した。

「そうでござる。そろそろ来るころであるが………」
「あ、でしたら自分が迎えに行きます」

俺はダルキアン卿にそう言うと、釣竿を格納庫に入れてそのまま元来た道を戻る。
全てはシンクを驚かすためにだ。
そう、それが俺にとっての受難の始まりであるとも気づかずに。

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