健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第42話 お食事会

翌日、俺はお城内の庭を歩いていた。
何でも、フロニャルドとビスコッティを救った勇者シンクに、感謝をするお食事会が行われるらしい。
だからこそ、俺は逃げてきたのだ。
俺は危機をもたらした人物だし、やはりああいうのは苦手だ。

(どうしようか)

そして考えるのは、今後のこと。
ここに永住することはすでに決めた。
ただ、それからどうするかが分からないのだ。

(俺は手先が器用ってほどでもないし、戦いしか知らないから、やるとしても兵士ぐらい)

だとしたら騎士団に入れば、エクレと一緒にいられるだろうからいいのだが、俺は人から物を教わったり、5,6人での集団行動は出来ないのだ。
元々、俺はそういうふうに生きていたせいで、三人以上で息を合わせることは難しく、仲間に迷惑をかけることにもなる。
だとすれば、どうすればいいのかと悩んでいたことを、ユキカゼに相談して帰ってきたのが

『でしたら、拙者たちの部隊に入ると言いでござるよ!』
『ユキカゼ達の部隊は確か……隠密部隊だったけ?』
『そうでござる。渉さんにはぴったりでござるよ』

確かに何となくだが、そこの方がいいような気もする。
ただ、それを選べば俺はエクレと離れ離れrになる可能性が高い。
何せ、ユキカゼ達は、魔物封じのために旅に出たりしているのだから。
もし、旅に出るのであれば、俺もついて行かなければならない。
と言うより、実際に誘われていたりする。
果たして、エクレがそれを許してくれるのか。
それが、俺に答えを出させるのを渋らせている要因だった。

「ここにいたか、渉」
「ん? エクレか。どうした?」

声をかけてきたエクレに、俺はそう尋ねた。
そのエクレは、明らかに怒っているような感じがした。

「どうしたではない! 食事会に来るように言ったのになぜまたサボっている!!」
「だから、どうも俺はああいうのが苦手なんだよ。(昔を思い出しちまうからな)」

俺はエクレに、答えながら心の中でつぶやいた。
どうも、ああいう公式の場に出ると、偽善のヒーローの時代を思い出して、気分が悪くなるのだ。

「ええい! 渉がいないと、会が進まないんだ! 泣いてでも連れて行く!!」
「は? それはどういう――――って、引っ張るな!」

俺の問いかけに答えることなく、エクレは強引に俺の腕を取ると、ずんずんと引っ張って行く。
そして、やがてお城内に入り、大きな広間にたどり着いた。

「姫様、渉を連れてきまし、た!!」
「のわぁ!?」

エクレに思いっきり押し出されるように、俺は前に飛ばされた。
そして、浴びせられるのはメイドさん達やジェノワーズ達、そしてシンクやリコッタたちの視線だった。
浴びせられる方としては、何とも居心地が悪かったりする。

「えっと、それでは……」

そう言って話し出したのは、台の上に立つ、姫君だった。

「今回、勇者シンクと一緒にこの国の危機を救ってくれた渉さんが隠密部隊で一緒に頑張ってくれることになりました」
「え゛ッ!?」

俺は、一瞬固まった。
今なんといった?
俺が隠密部隊にで一緒に頑張る?

(な、何で姫君がそのことを? と言うより、俺まだ答えも出してないぞ!?)

俺はそう疑問に思うが、すぐにその理由は分かった。
そう、ものすごい笑顔で俺に手を振るユキカゼを見て。

(あんの野郎……やりやがったなぁ!!)

「つきましては、もう一人の主賓である渉さんにも、一言頂こうと思います。渉さんどうぞ」
「はッ!?」

ものすごい拍手が俺に送られる。
逃げようと後ろを振り向くと、いつの間にか回り込んでいたのか、エクレとユキカゼが立っていた。

「「そうれ!!」」
「うわっ!!?」

二人に押され数歩前に出た俺に、逃げ道はなかった。

(俺、一番苦手なのがスピーチだったな)

現実逃避ともとれる考えをしながら、俺は眼鏡をかけた女性の人からマイクを受け取ると、壇上に上がった。

「えっと……ご紹介に授かりました、小野渉です」

まずは無難に自己紹介から始めた。

「自分は、あまりこういう場でのスピーチは得意ではないので、つまらないかもしれないですが、ご辛抱ください」

俺は、一言一句間違えないように、不慣れな敬語で話す。
それを聞いていたシンク達は、静かに笑っていた。

「姫君の先ほどの紹介に間違いがあるので、訂正します。この国の危機を救ったのは、あくまでも勇者シンクです。自分は、逆にこの国をさらに危機に陥れると言う逆効果をもたらしました」

俺の言葉に、周りがざわついた。
勿論、ここにいるほとんどの人が、俺の起こしたことを知っている。
それを踏まえて言っているのだ。

「他にも、メイドの人達には、セルクルに乗るのらないで言い争ったり、食堂のおばさん達には手伝いをしようとして逆にボヤ騒ぎを起こしそうになったり……重ね重ね、すみません」

自分で思い出しただけで、とてつもない罪悪感に苛まれ、俺は思わず頭を下げて謝った。
そんな俺に、誰かが”いえいえ”と答えると、周りは笑い声で包まれた。

「ですが、その迷惑をかけた分、ここのみなさんに少しでもお返しが出来ればなと思います。みなさん……特に隠密部隊の人には迷惑を掛けますが、よろしくお願いします」

俺はそう言うと、もう一度お辞儀をした。
そして、再び広間は、拍手が響き渡った。
それがとても居心地がよく、楽しかった。
その後食事会となったが、その頃にはすっかり公式の場と言うものに対する苦手意識はなくなっていた。
こうして、お食事会は無事幕を閉じることができたのであった。

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第41話 真剣勝負と二度目の正直?

夕方、風月庵を後にした俺達だったが……

「あ痛たた……さすがに一日でできるようにってのは、無理があった」
「当たり前だろ。一日でできたら、その方が驚きだ」

俺は左腕を回しながら呟くシンクに、そうツッコんだ。
俺の場合は………いつか機会があったらやってみよう。

「おー、シンク! 渉!」
「あ、ガウル!」
「ジェノワーズも」

俺達に声をかけてきたのは、シンクと同じようにセルクルに乗っている、ガウルとジェノワーズの四人だった。

「何だ? どっか出掛けてたのか?」
「ちょっと風月庵に」

ガウルはシンクのそばまで移動しながら問いかけ、シンクはそれに答えた。

「あ、シンクに渉、お土産持ってきたよ」
「ホント!?」

クラフティの言葉に、シンクは嬉しそうに聞き返した。
そして差し出されたのは青色で所々に赤い線が入っている、風呂敷のようなものだった

「ガレッド名産詰め合わせ」
「里帰りに持って行ってください」

ヴィノカカオと、ファーブルトンの二人が続けてシンクに声をかけた。

「ありがと……いいの?」
「姉上が持って行けってさ」
「そっか」

ガウルの言葉に、シンクは嬉しそうに受け取っていた。

「にしても、渉はどうしてセルクルに乗らないんだ?」
「俺としては、セルクルに乗る事に意味があるのかが甚だ疑問なのだが」

俺はいまさら疑問を投げかけてきたガウルに、そう聞き返した。

「大体、昔の人間はな、こうやって徒歩で戦に出かけた物さ。それを思えばこれも日々の訓練のようなものさ」
「そう言うものなのか?」

俺の答えに、シンク達は首を傾げていた。
………何だろう、この俺だけがおかしなことを言っている感は。

「それにセルクルに乗ると、色々な事で不便………がぁあああ!!!?」
「あははは! 渉がセルクルに噛みつかれてる」

俺の言葉を遮るように、頭を加えられる俺を見て、クラフティが笑う。

「悪口を言うから怒ったんだな、きっと」
「おいこら! 何とかしてくれ!! って、俺を浮かび上がらせてどうする気……まさか、このまま運送は勘弁してくれよ!!!?」

結局、俺はそのままお城まで咥えられたまま、運ばれることになった。
このことで、セルクルに乗る気がさらに無くなったと言うのは、関係ない話だ。










どうして、シンクの所にガウル達が来たのか、彼曰く『まだ決着がついていない』とのことだ。
そして、その決着をつけるべく、今目の前で繰り広げられているのは、決闘だ。
そう、それはいいのだ。
それは。

「ぐぬぬぬぬ!!!」
「ううううう!!!」
「お、ガウ様強い、ガウ様強い! でも、シンクも負けてなぁい!」

決闘の実況をするクラフティ。
何故かガウルの実況が多いような気もするが、それもまあいいだろう。
問題は………。

「なぜに決闘が腕相撲なんだよ!?」

決闘の種目だった。
と言うより、もう腕力の勝負になってるし!
いや、そもそもこれで決着がつくのか?

「お待たせ~、飲み物もらってきましたよぉ」
「ごめんベール………さんを働かせてぇ!!」

飲み物を取りに行っていたファーブルトンが、トレイに飲み物を乗せて戻ってきた。

「いえ~、あッ!?」

なに、その”あっ!?”って
答えはすぐに出た。

「ヘブ!?」

聞こえたのはコップの割れる音、そして

「うわぁ!? この馬鹿!! またか? またやったのかぁ!?」
「うわぁ!! ごめんなさい、ごめんなさい、いやぁ!!」

ガウルの怒鳴り声とファーブルトンの悲痛な声だった。
感じるのは、俺の頭の上にある”何か”と頭から垂れる液体のようなもの。
それはとても甘かった。










「いやはや悪かった」
「シンクと渉も、これからはベールが背後に立った時は気を付けてな」
「あ、うん。よく分かった」

あの後、顔を吹きながらガウルとクラフティの注意を聞いていた。
俺は顔をタオルで拭き、さらに頭に乗っているガラス片を取り除く作業も残っているが。

(何で俺だけコップごと来るのかねぇ?)

俺は、心の中でぼやいた。
その後、ガウルに言われて、お風呂に入ることとなった俺達、だが蘇るはここに来た当初の”あれ”。

「シンク、忘れ物をしてしまった。先に行っててくれ」
「あ、うん。分かった」

俺はシンクに嘘の理由を告げて、その場に残った。
地味にシンクと一緒にいた時の、俺の不幸遭遇率が高いのだ。
そして、時間を見計らってお風呂場へと向かう。

「あのぉ~、実は先ほど、掛け布を掛け間違えちゃって、こちらに入ってるの女性だけで間違いないですよね?」

そして、脱衣所にたどり着いた時、メイドさんの声が聞こえた。
どうやら、いやな予感は的中だったようだ。

「だ、大丈夫です! 女子が一人だけでーす!」

(あーあ)

俺は、遠くから聞こえてきた姫君の”ウソ”にため息をこぼす。

「ありがとうございます~! ちゃんと直しておきましたから~」

(直っていることは非常にありがたい)

しかし、女子が一人なわけがない。
いくら馬鹿とは言え、あれだけここの文字を勉強したのだ。
間違えるとは思えない。
だとすれば、シンクは自ら女湯に飛び込んで行ったことになる。
シンクがそういう事をする奴ではないことは確かだ。
つまりは、掛け布が間違っていた状態の時、男湯となっている女湯に入って行ったと言うことだ。

「………ま、いっか」

考えるだけで頭が痛くなりそうなので、俺はそこで一旦区切ると、服を脱いで男湯の方へと向かった。










男湯の入った俺は、体を(特に頭の方を徹底的に)洗い、湯船に入ると一息つく。

「一人でこのスペースを独占すると言うのも何だかあれだが、まあいいか」

ただ、一つだけ問題なのは

「――――私の名前、憶えてくれてます?」
「えっとそれはもちろん」

女湯から聞こえる、シンクと姫君の話し声だ。
聴きたくないのに聞こえてくる、この何とも言えない気持ちは何だろう。

「ミルヒオーレ・フィリアンノ・ビスコッティ。ミルヒです」
「えっと……ミルヒ」
「はい、シンク」
「………」

まるでカップルのやり取りを聞いているような、そんな感じがするのは、俺の心が荒んでいるからなのだろうか?

「「あははは!!」」
「盛り上がっている所悪いんだが!」

俺は耐えられず、女湯にいる二人に声をかけることにした。

「姫君を呼び捨てにしたら、”姫様を呼び捨てとは何事だ!!”みたいなことを言って緑色の髪の人が怒ると思うんだが」
「はッ!? そうだった! この呼び方は人前ではできない。間違いなく怒られる!」

率直に言おう。
今、俺の頭の中には般若のように恐ろしい表情で怒っている、某親衛隊長とメイド長の姿が浮かびあがった。
それから後も、二人の会話は続いた。

「うーん。でも僕は”姫様”の方が呼びやすいんだよね。例えば……」

そこで、シンクは一旦区切った。

「姫様、お手!」
「はい!」
「姫様、おかわり!」
「はい!」
「よぉし、よしよし、姫様偉い、姫様可愛い」
「何ででしょう、こんな単純な事なのに、何だかとても楽しいんだわ~」

女湯から聞こえてくる、和やかな声。
それは、もしそばに誰かがいたら、即シンクは地獄を見るような物の数々だった。
だが、一つだけ言わせてほしい

(あいつ、今完全に姫君を”犬”扱いしなかったか?)

俺は、その考えを、忘れることにした。
と言うより、俺の方もかなり失礼だな。
俺は、心の中で苦笑いを浮かべながら、湯船から上がるのであった。

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第40話 衝撃の事実/語らい

シンクとの勝負を終えた俺達は、シンクと共にユキカゼ達がいるお屋敷に来ていた。

「こんにちはー」
「いらっしゃーい!」

シンクの声に気付いたユキカゼが片手を振る。
俺はその後ろにいた。

「お邪魔しまーす! 子狐、元気になりました?」
「ああ、もうだいぶな」

シンクはダルキアン卿の元に駆けよると、今はぐっすりと眠っている子狐を覗き込む。
俺も、シンクにつられるようにして、子狐を見た。

「同じ土地神の同胞として、この子は拙者がちゃんと躾けるでござるよ」
「そっかぁ」

縁側に座っていたユキカゼが俺達の横に移動しながらそう言った。

「って、えぇ!? 土地神?
「ん!?」」

少しだけ遅れて、俺達はユキカゼの口にした事実に、驚いた。

「あれ? 言ってなかったでござるか? 拙者土地神の子でござるよ」
「ユッキー、神様?」
「うむ。尊敬して良いでござるよ」

そう言ってユキカゼは胸を張った。
それを見ていたダルキアン卿は静かに笑っていた。
その後、ユキカゼは静かに語り出した。
昔、魔物によって村を荒らされ母親を失くしてしまった時に、ダルキアン卿に拾われたらしい。

「フロニャルドでも、国が亡びる事ってあるんですね」
「まあ、かれこれ150年以上も前の事故な」
「ひ、百!?」

ダルキアン卿の言葉に、驚きを隠せないシンクをよそに、二人は話を進めていく。

「ここ百年あまりは魔物も現れず、危険な争いもなく、太平の世でござるよ」
「拙者とユキカゼは魔物封じの技を持つゆえ、ここ数十年はビスコッティを拠点に、時より諸国を旅し、魔物を封じて回っているのでござるよ」
「もしかしてダルキアン卿も?」
「いや、拙者は人でごある。ちょっと訳があってな」

シンクの問いかけの意図が分かったのか、ダルキアン卿は答えた。
その訳がどういうものなのかは分からないが、本人としても言いたくはないことだと思った俺は、考えないようにした。










その後、シンクはダルキアン卿と共に、彼女以外には扱えない”神狼滅牙”と言う剣術を教わっていた。

「それにしても、ユキカゼが土地神か………まんまと騙されたものだ」
「あはは……申し訳ないでござるよ」

俺の嫌味に、ユキカゼは苦笑い交じりに答えた。

「確かにな、言ったらいったで崇められるか実験動物にされるか迫害を受けるかのどちらかだろうしな」

ちなみに、俺は全部が嫌だ。
崇められるような存在でもないし。

「拙者もでござるよ。まさか渉殿が私よりも位の高い神だとは、思ってもいなかったでござるよ」
「お互い様だな」

俺はそう答えると、稽古をしている二人の方を見た。

「ユキカゼ、お前は今まで人助けとかを”数字的”に考えたことはないか?」
「ないでござるよ」
「そうか………」

俺は、ユキカゼの答えを聞いてほっと胸を撫で下ろした。
もしユキカゼが、俺と同じ過ちを犯そうとしているのであれば、それは止めなければいけない。
それが俺の使命だからだ。

「一応忠告。もし数字的に考えたら、足元をすくわれるから気を付けろよ」
「……心得たでござる」

俺の突拍子もない話に、ユキカゼは何かを思ったのか、真剣な声で返事をした。










それから色々と話し、シンクの稽古が終わったのを見計らってお屋敷を後にするのであった。

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第39話 模擬戦~最初で最後の真剣勝負~

翌日、俺は練習場に向かっていた。

「あれ、渉?」
「お、シンクか。どうしたんだ?」

ちょうど鉢合わせになったシンクに、俺は聞いてみた。

「僕はエクレに稽古をつけて貰おうかなって」
「そうか……なあシンク、一つだけいいか?」
「え、何?」

俺の言葉に、首を傾げるシンクに、俺は今までやりたかったことを頼むことにした。










そして僕とシンクは練習場に来ていた。
そこでお互いにそこにあった普通の剣を構える。

「それじゃルールを確認する。紋章術の使用は禁止、どちらかが降参するか、武器が壊れればその人の負けだ。これで双方ともいいな?」
「はい、問題ありません」
「僕もです」

ロランの確認に、俺達は頷いた。
俺がシンクに頼んだのは、模擬戦だった。
一度でもいいから、どちらの剣筋がいいのかを鑑みておきたかったのだ。
俺のハンデは、シンクと同じ、普通の剣を使うことだ。

「シンク、ここでは神とか神じゃないとかなんて関係ない。全力で来い」
「了解!」
「それでは、始めッ!!」

お互いに言葉を掛け合ったのを確認したロランの合図により、俺とシンクの最初で最後の全力での模擬戦が幕を開けた。

「ふっ!」
「はっ!!」

シンクが振りかざす剣を、横に避けることで躱す。

「はぁああ!!」

そこにまるで狙っていたかのように、シンクは横なぎに剣を振りかぶっていた。

「甘い!」
「ッく!!」

俺はそれを、手にしていた剣で軽く打ち流すと、体勢が崩れたシンクにめがけて俺は剣を振り下ろす。
だが、シンクもすぐに体勢を立て直し剣の腹で受け止めた。

「っち!」

俺は舌打ちをすると、剣を押し出して後方に下がる。
シンクも俺から距離を取った。

「中々やるな。先の戦いで見についたのか、それともシンクに元々あったのか……」
「そっちこそ」

俺の評価に、シンクはそう返してきた。
確かにシンクは強い。
前の魔物戦で感化されたのか、元から素質があったのかは分からない。
だが、目の前にいる者はかなりの腕だ。
俺も手を抜くわけにはいかない。

「はぁぁ!!!」
「やああ!!」

俺が一歩踏み出すのと同時に、シンクも俺に向かってきた。
そしてお互いの剣が交わった。

Side out





3人称Side

「すごい……」

シンクと渉の模擬戦を見ながら、静かに呟いたのは、エクレールであった。
それは渉の強さか、それともアグレッシブな動きで交わしながら反撃をするシンクか。
答えは両方だ。
渉からの剣劇を、練習で培ってきたアグレッシブな動きで躱し、隙を見て反撃をするシンクの動きからは素人の雰囲気などは一切なかった。
言うのであれば、剣の達人にも匹敵するほどだ。

(剣筋はそこまで良くはない。それでも渉と渡り合えてる)

渉の引き締まった表情を見たエクレールには、彼が本気で戦っていることが分かった。
いつになく真面目な表情をしていたからだ。

(それなのに自分の時は………)

エクレールは、前の模擬戦の時の事を思い出していた。
その時、エクレールは渉に完全に遊ばれていた。
勿論、だからと言って彼女が弱いと言うことと”=”ではない。
だが、エクレールの心の中では、どこか悔しさがあった。

(今度は今の渉の表情をさせるほど、強くなって見せる)

エクレールは、渉達の模擬戦を見ながらそう強く心に誓うのであった。

Side out





「はああ!!」
「やああ!!」

俺とシンクの剣がお互いに交差してせめぎ合う。
俺はすぐに後方に下がり、乱れた息を整える。
何度目の打ち合いかは分からない。
シンクはかなり強い。
いや、強くなり続けていた。

(恐ろしい、この戦いで自己学習をしてやがる)

そう、シンクは不思議なことに、模擬戦で自己学習をしながらどんどんスキルを、身に着けていたのだ。
剣筋だけがすべてではない。
剣の扱い+体の動きだ。
剣筋が良くてもぼさっと突っ立っていれば、よほどの剣筋でなければ不利となる。
ある程度は動かなければならない。
シンクは後者の動きの方が優れていた。

(このままだったら負けるッ!!)

「ふぅー……」

俺は心を静かにしながら息を吐く。
そして俺は剣腹を根元から、人差し指と中指でなぞる。

「古賀流……」

俺は静かに流派を口にしながら、一気にシンクの前に移動する。

「ッ!?」

シンクは慌てて剣を横に構え、俺の攻撃を防ごうとする。
だが、それは無駄に終わる。

「爆裂!!」
「ッぐ!!」

俺は一気に剣を突き刺した。
紋章術や紋章剣、神術を使わない剣術の一つ。
自分自身で創り出した流派で、うまく行けば相手の剣は砕けているはずだ。
そして、俺の放った渾身の技は、うまく行きシンクの剣を貫いて俺の剣が、のど元に突き付けられていた。

「これで―――――ッ!?」

”俺の勝ちだ”と言おうとした瞬間、俺の持っていた剣は音を立てて刃の部分が砕けた。
どうやら、普通の剣では今の一撃に耐えきれなかったようだ。

「そこまで! 今回の模擬戦は、引き分けとする」

それを見届けたロランは、動揺を隠した様子で告げた。
俺は一歩下がるとお辞儀をすると、片づけを始めた。
こうして、俺とシンクとの真剣勝負は、引き分けという結果で終わった。

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第38話 条件と選択

姫君のコンサートが行われた翌日、俺とシンクそしてユキカゼに姫君はパレードで外を歩いていた。
リコッタは途中で学院の方に行くとのことで、先に抜けて行った
俺としては出る資格がないと言って断ろうとしたが、言い包められる形で出ることになった。
まあ、妥協案として、俺は後ろの方にいた騎士団に混ざって歩いたが。
シンク達はとても楽しそうだったのが、印象深かった。









「ふぅ」
夜、割り当てられた部屋に戻った俺は、一息つく。
戦いも終わり、平和な日常が戻り、そして守るべき者も出来た。
俺の得た物はかなり大きかった。
だが、その代わりに失ったものもある。

(ま、俺にはどうでもいいことだが)

俺にとって失ったものと言うのはその程度の認識だった。
なぜなら失ったものは、俺の責務なのだから。

「ん? 誰だ」

考えに耽っている俺を止めたのは、ドアのノックされた音だった。

「渉様、こんばんはであります」

ドアの外から声がしたかと思うと、ドアが開いた。
そこに立っていたのは、リコッタだった。

「どうしたんだ? 目が赤いが」
「え……あ、あの、実は――――」

リコッタの目がかすかに赤くなっている理由を尋ねた俺だが、その答えがすでに分かっていたため俺はリコッタの言葉を遮った。

「勇者送還の儀の事だろ?」
「え!? な、何で渉様がそのことを」

俺の予想は正しかったようで、リコッタが驚いた様子で俺に訪ねてきた。

「それは俺の力で見たからさ」
「力………ですか?」
「俺が世界の意志と言う神だと言うことは聞いているよな? それの能力さ」

よく分かっていないリコッタに、俺はさらに続けて答えた。
そして俺は片手を上げると手のひらを上に向け、少しだけ意識を集中すると、俺の手の上に無数の文字が浮かび上がった。

「こ、これは何でありますか?」
「それはこの世界のすべての情報が敷き詰められているデータベース。リコッタの様子がおかしくなったのは学院からの便りを受け取ってから……リコッタたちが調べていたのはシンクを元の世界に戻す方法。それだけの情報があればこれにはすぐにあり付けるさ」

それはまさにデータベース。
この世界にあるありとあらゆる情報がこれでもかと言うほどに敷き詰められているのだ。
管轄外の世界で、核を失った俺に出来るのはこれを参照することだけだ。

「それで、リコッタの要件はこのことか?」
「はいであります」

俺はリコッタの答えを聞いて一息つく。

「しかし、ここでの記憶をすべて失って、ここには来れないなんて何ともひどい話だよな」

俺は苦笑い交じりに呟いた。

「まあ、この勇者送還の儀は、召喚された勇者がその役を断った際に行うものだから、当然と言えば当然なのかもしれないが」
「渉様は、本当に何でも知っているんですね」

俺の言葉に、リコッタはどことなく悲しげな声を上げた。

「知っていても、それを伝えることはできないのさ。どう取り繕うと俺は観測者(オブサーバー)だからな。出来るのは人々が自分の力で道を切り開くのを見ているだけさ」
「それでもすごいでありますよ、渉様は」
「渉」

俺は、今まで気になっていたことをリコッタに言う事にした。

「え?」
「俺には様付けは不要だ。何だか背筋がぞくぞくして居心地が悪いんだ。いっその事呼び捨てにでもしたらどうだ?」

俺の言葉に、リコッタは鳩がまめ鉄砲を食らったような表情を浮かべていた。

「で、では渉さんで」
「はい、よろしく」

呼び方を直したところで、俺はもう一度話を戻すべく口を開いた。

「とは言えリコッタ、お前は誤解をしている」
「誤解、でありますか?」

俺の言葉にリコッタは首を傾げながら聞いてくる。

「まず、厳密に言えば俺は勇者召喚の儀を受けてはいない。だから送還の儀を受けることは不可能だ」

彼女の召喚の儀の自己とは言え、俺は召喚の儀を受けずにここに来たようなもののはずだ。
だとすれば、送還の儀は出来ない。

「次に、俺は記憶などを失ってまで、元の世界に戻ろう何ていう気はこれっぽっちもない」

それが一番の理由でもあった。
俺が見た情報の中に、『勇者はフロニャルドで得た物を元の世界に持ち帰る事は出来ない』と『一度送還された勇者は二度とフロニャルドに来る事は出来ない』と言う条件があった。
そんなマイナスを負ってまで、俺は天界(あそこ)に戻る気はない。

「それって……」
「ああ、俺は―――――」

そして俺は自分の取った答えを告げた。









「―――――ビスコッティに永住する」

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