健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第119話 京都狂騒歌

『京都ー、京都―。お忘れ物のないよう、ご注意ください』

新幹線で揺られること数時間。
様々な騒動を起こしながらも、なんとか僕たちは京都駅にたどり着くことができた。

「京都だー!」
「京都だね、律ちゃん! 浩君」
「分かったから、静かにして」

京都に到着したことで、さらにテンションを上げる二人に、僕は静かにするように促した。

「えっと、次はどこに行くんだっけ?」

1日目でもある今日は、学園側が指定したルートを通って京都市内を回っていくことになっている。
各班で自由に移動ができる自由行動は、2日目だ。
そんな僕たちの次なる目的地は

「金閣寺やで!」

まるで僕の心を読んでいるのかと思うほどのタイミングで声を上げた律だったが、語尾がおかしかった。

「やで?」
「京都にいる間は関西弁でしかしゃべってはけないゲームやで!」

首を傾げる澪に、律は元気よく関西弁で返事を返した。

「おぉー、ゲームですかな」
「そうやで!」

(本当に、次から次によくやるよ)

次から次に新しいことをし始める何時に、僕はある種の尊敬の念さえ感じ始めていた。まあ、どうなるのかが予想できたりするけど。

「あなたたちも早く移動しなさい」
『はーい』

そんな僕たちに、山中先生が若干ではあるが呆れたような表情をうかべて移動するように促してきたので僕たちは駅のホームを後にするのであった。










山中先生について行ってたどり着いたのは、改札口前の大広場だった。
見ればほかのクラスの学生たちが腰かけている姿が見えた。
山中先生に座るように言われたため、僕たちは周囲のクラスの学生たちに倣うように、その場に座った。

「みんなそろっているわね。班長は必ず班の人がそろっているのかを確認すること」

そして始まったのは山中先生からの注意事項の連絡だった。

「どうして、私たちは座らされてるんだ……じゃなくて、座らされてるんや?」
「ほら、こういうときって必ずいなくなる人かいるだろ?」

律の右隣で体育座りをしながら先生の話を聞いていると、関西弁でしか話してはいけないゲームを続けているのか、関西弁に言いなおしている律に、澪は冷静な様子で答えた。

(そういえばいたっけ)

昔の社会科見学で工場の出口と入口を間違えて反対側からやってきた、間抜けな同級生がいたのを思い出した。
その生徒は確か、ロストボーイとか呼ばれていた記憶があるが、今はどうしているのやら。
閑話休題。
ふと、それにピッタリ合いそうな人がいるのを思い出した僕は、視線を横……律の左側のほうに向けた。

「あ、いた」

視線の先にいたのはキャリーバックを机代わりにして両腕を載せて眠っている唯の姿があった。

(食べて寝て……一部の人には羨ましがられるほどのことをしてるよな)

しかも不思議なのは、見ていても不快な気分にならないことだったりもする。
逆に愛おしく思えてしまうほどだ。

(きっとこれが惚れた男の弱みっていうやつだね)

僕はそう結論付けると、再び先生の話に耳を傾ける。

「それじゃ、これからバスに移動するから遅れないようについてきてね」

どうやらもう話は終わったようで、山中先生の言葉に、クラスのみんなはゆっくりと立ち上がると移動を開始した。

(あ、唯を起こさないと)
「唯、起き――――」

立ち上がって荷物を持ったところで、いまだに眠っている唯を起こすことにした僕は、唯を起こすべく声をかけながら視線を唯がいる方へと向けたところで、僕は言葉を失ってしまった。

「皆、早く行こう!」

そこにはいつ起きたのか、キャリーバックの取っ手をもって声を上げる唯の姿があった。

「……なんでこういう時には目が覚めてるんだろう」
「すごいんだかすごくないんだか……わからないよな」

自然と口から出た言葉に続くように律が声を上げた。

「律ちゃん、澪ちゃん、浩君も早く―!」
「おう!」
「分かったから、大きな声で叫ぶな」

本日何度目かの注意をしつつ、僕たちは唯に続いて京都駅を後にした。





「ここが京都か」

駅を出た僕は京都の街並みを見ながらつぶやいた。
遠くのほうに白い塔のようなものが見える。
あれがいわゆる”京都タワー”なるものだろうか。

(やっぱり京都はいいよね)

これでも僕は、修学旅行の行き先でもある京都のことをいろいろと調べていたりするのだ。
‌金閣寺などが有名だが、お寺などが多く京都タワーもろうそくに見立てられて建設されたのではないかという説があることも調査済みだ。

(楽しみだな)

僕はこれから出会ういくつかの観光地に思いをはせたところで

「見てみて、律ちゃん!」
「おー、まるで大根みたいだな」

唯と律がさっそくはしゃいでいる声が聞こえてきた。
「そうだ! 写真撮ろうぜ!」
「賛成!」
「浩君も一緒に取ろうよ!」

律の提案にムギが即答で賛同すると、唯に近くに来るように言われたので僕は駆け足で唯の横に移動した。
どうやら京都タワーをバックにするみたいで、唯たちがしゃがみむのに従い、僕もその場にしゃがみ込んだ。

「はい、チーズ」
「こらっ! 早くバスに乗りなさい!」

そんなことをしていると後ろの方から山中先生の若干怒っているような声が聞こえてきた。

(そういえば、移動中だった)

初めて見る京都の街並みにすっかりと抜け落ちてしまったようだ。

(気を付けないと)

僕はもう一度気を引き締めながら、荷物を手にバスへと乗り込むのであった。
何せ、この班の中で、頼りになりそうなのは半分しかいないのだから。
それはともかくとして、バスの中は僕たちが最後だったこともあって、空いている席は残り少なかった。
とはいえ、前のほうにまとまって4席ほど空いている席がある。
この分なら前方の席に相席という形で座れば一つの班で固まれるだろう。

「おーい、浩介! こっちこっち」

その相席相手である慶介の隣に座れというアピールに、僕は慶介の後ろの席に腰掛けることで応じた。

「って、後ろかーい!」
「新幹線のようなトラブルは勘弁してほしいから」

思いだすのは同じ女性に二度も痛い目を見る慶介の姿だった。
さすがにここにその女性はいないが、どんなことに巻き込まれるのか不安でしょうがないので、隣ではなく後ろの席に座ることにしたのだ。

【あまり変わってませんけどね】

とりあえずクリエイトの言葉は無視して、僕は窓のほうに顔を向けた。
それから間もなく、律やムギ、唯に澪の四人がバスに乗り込んできた。
律は慶介の隣へ、澪とムギは僕の後ろの方の席に。
そして唯は

「はぁ、疲れた」

と言いながら僕の隣の席に腰掛けた。

「って、食べて寝ただけだろ」

唯の言葉にツッコミを入れるが、唯は意にも返さずにバックの中をあさりだした。

「次はこれにしよっと」
「いい加減にしろ」

事の成り行きを見ていた澪が、新しいお菓子の袋を取り出す唯に呆れたような声を上げた。

「はい、浩君どうぞ」
「どうも」
「あ、澪ちゃんとムギちゃんにも」

袋から取り出したお菓子を僕たちに配っていく唯の姿を横目に見ながら、僕は早速唯にもらったお菓子(飴だけど)を口に入れるのであった。
それからしばらくして、クラスの人が全員乗っているかどうかの確認作業を終えたのか、山中先生が最後に乗ってきた。

「それじゃ、お願いします」

山中先生がバスの運転手に向けて声をかけると、バスはゆっくりと動き出した。
京都駅を出て、市街地を走っている中、バスの中は話声で満たされていた。
それはこちらも例外ではなく、

「ねえねえ、浩君。明日はどこを回ろうかな」
「それはほかのみんなと相談だから、”ここだ”って言えないな」

早くも明日の自由行動に胸を弾ませている様子の唯に、自然と僕の顔もほころんだ。

『xお姉ちゃんをよろしくお願いします』

それが新幹線に乗っているときに送られてきた、憂からのメールの内容だ。
憂も、唯のことを心配しているのかもしれない。

(それはいいとして、最初の”x”はどういう意味だろう?)

何か意味でもあるのかと、考えをめぐらせてみるが、答えが思い浮かぶことはなかった。
なので、これはただの打ち間違いだろうと解釈することにした。

(よほど気が動転しているのか? ………まさかとは思うけど、唯が二日間戻ってこないことをさっき知ったとかじゃないよな?)

あの完璧という言葉がふさわしいほどできた妹である憂が、打ち間違いしたまま気づかないで送信する原因がそれしか思い当らなかった。

(まあ、梓がいるんだし大丈夫か)

向こうの様子を想像しそうになるのを必死にこらえ、すべてを梓に丸投げすることにした。

「なあなあ、浩介の恥かしい話でも話そうぜ」
「おっ、それはいいな!」

そんな考えに意識を傾けていると、慶介と律の声が聞こえてきた。
しかも、なんだか聞き捨てならない内容だったような気がする。

「それじゃ、まずは俺からな。浩介って無類のチーズケーキ好きだろ?」
「確かに」

僕はとりあえず、二人の話を静かに聞くことにした。
別に恥ずかしくもなんともないからだ。
チーズケーキが大好物であることくらい、親しい者は誰でも知っていることだからだ。

「前に浩介の好きをついてチーズケーキをおもちゃのケーキとすり替えたことがあったんだけどさ」
「おぉ、意外とすごいことをするんだな。それでそれで?」

(ん?)

慶介の話している内容にものすごく既視感を感じた。
それはいつの日かのように時間を繰り返しているというのではなく、ただ単純に体験したことがある内容という意味だ。
当然と言えば当然だが、ものすごく気になったので、僕は慶介の話の続きに耳を傾けることにした。

「ケーキを食べようとした瞬間『これはおもちゃじゃないか』って、おもちゃのケーキを真っ二つにへし折ったんだ」
「あれって慶介がやったのか。というか、へし折るところが浩介らしいな」

(それって、完全にこの間のじゃないか)

僕をだしに笑い合う二人は一旦置いとくとして、ようやくすべてを思い出すことができた。
数日前のことだ。
いつものように昼休みにチーズケーキを食べようとしたときに、それがおもちゃであることに気が付いたのでそれを勢いよくへし折ったのだ。
最初は自分で間違えて入れてしまったのかと思っていたが。

「なるほど、あれは貴様の仕業だったというわけか」
「あ……いや、そのぉ……」

恥ずかしさよりも怒りが込み上げてきた僕は、ドスを効かせた声で慶介を問いただす。

「ふんっ」
「オールバック!?」

後ろの席から慶介に制裁を加えた僕は窓のほうに視線を向けた。

「後からの攻撃とは……恐るべし、浩介の底力」

律のひきつった声を聴きながら、僕は流れゆく京都の街並みを見ることにするのであった。
結局、この後に僕の恥かしい話をすることがなかった。
こうして僕たちは金閣寺へと向かうのであった。










「ここからは自由行動になります」

金閣寺の駐車場でバスが止まると、山中先生は両手を数回たたいてクラスのみんなを注目させてから口を開いた。

「集合時間は1時間後なので、それに間に合うようにここに戻ってくるように」
『はーい』

山中先生からの中事項を聞いた僕は、クラスのみんなと同じように応じた。
こうして、僕たちは金閣寺へと解き放……観光するのであった。





「律ちゃん、皆―! 早く早く」

バスから降りた途端はしゃぎ始めた唯を追いかけていった先にあったのは金色の建物だった
これが、金閣寺なのだろう。

「うわぁ……」
「金色だ」

皆が感嘆の声を上げる中、僕は驚きのあまりうまく声を発することができなかった。
予め調べていたとはいえ、実際に目の当たりにするとそのすごさは違うものだ。
金閣寺の建物の周囲にある湖のようなものが風情を感じさせるのに一役買っていた。

「これって、本当に金でできてるの? じゃなかった、出来てるん?」
「そうだぜ! あ、いや。やで!」

何故か関西弁で疑問を言い直す唯に応えるように、これまた関西弁に言い直して答える律。
どうやら、まだあのおかしなゲームが続いているようだ。

「せやけど、これを持って帰ろうと思ったら駄目だぜ……アカンで。おまわりさんに、捕まる……捕まってしまうんがオチだぜ……やで」
「……」

律のおかしな関西弁を聞いていると、無性に悲しくなってくる。
けなげな努力に対してなのか、それともあまりの出来の悪さに対してなのかはわからない。

「金閣寺っていうんはな、昔に燃やされてしもうて今あるのは新しく建てられたものなんやって」

そんな中、助け舟を出すかのごとくムギが金閣寺を見上げながら、関西弁で説明をし始めた。
きっと、これが”本物”の関西弁なのだろう。
無理をしている感じもなく、自然な口調での関西弁は聞いていてもすんなりと頭に入ってくる。

「ほんまは鹿苑寺っていうらしいわ」
『おぉ~』

ムギの上手な関西弁での説明に、思わず僕たちは拍手を送った。

「うぅ……」

そんな中、一人敗北感のようなものに打ちひしがれているのがいた。

「律、悪いことは言わないから関西弁ゲームは止めておきな。なんだか見ていてすごく惨めだから」
「う、うるさいやい!」

こうして、律の関西弁でしか話してはいけないゲームは幕を閉じるのであった。
その後、抹茶を飲める場所で抹茶とお茶菓子に舌鼓を打ったりしながら、金閣寺を堪能した僕たちは、再びバスに乗り込むと次の観光地に向かうのであった。

「それにしても、お菓子を先に食べたら抹茶の苦いのが気にならなくなったね」
「そうだね。僕もびっくりだったよ。あれは」

抹茶を先に飲もうとした僕たちに、ムギが教えてくれたのはお菓子を先に食べてから抹茶を飲むと苦さが引き立つという豆知識だった。
実際に、その通りにしてみるとムギが言っていた通り、苦さがお菓子の甘さと絶妙に中和していた感じだった。
ちなみに、これは余談だが後々調べてみるとお菓子を先に食べるのは、そうすることでお茶の味がわかるかららしい。
逆にしてしまうと、お茶の味がお菓子の味によってわからなくなるらしい。
ちなみに、煎茶の場合はお茶を先に飲んでそのあとにお菓子を食べるのが正しい作法らしい。









バス車内で軽く昼食を摂った後に向かったのは、神社だった。

「北野、てんまんぐう?」
「有名なところなのか?」

鳥居の上のほうに書かれている神社名を読み上げた湯に、両手を頭の後ろに回している律がつぶやいた。

「有名じゃなければ来ないだろ」
「大体神社だったら近くにあるしな」

確かに学校の近くにもあるので、それほど新鮮味がわかないのは仕方がないのかもしれないが、修学旅行の見学で来るぐらいなのだから、何かがあるのかもしれない。

「きっと大仏とかがあるんだよ!」
「そんなものあるわけないだろ」

ここに大仏があったらあったでこっちがびっくりする。
そんなふうに唯にツッコミを入れながら境内を歩いていると、真鍋さんの班と遭遇した。

「ここの神社は学問の神様で受験生には有名な神社よ」
「あー、なるほど」

唯たちの話が聞こえていたのか、真鍋さんの説明に僕はここに来た理由を悟った。
確かに学生である僕たちには、この神社はとてもありがたい場所なのかもしれない。

「境内に牛の石像があるでしょ?」

そう言いながら真鍋さんに案内された先にあったのは、牛の形をした石像だった。

「これをなでると頭がよくなると言われて―――」
「よしよしよしよし」

真鍋さんの説明を聞いた律と唯が、目を光らせたかと思うと石像をなでまわし始めた。
しかも、その中になぜかちゃっかりと慶介の姿があるし。
恐らく、班のメンバーとはぐれたのだろう。

(あれ、絶対に罰が当たるな)

突然のことに茫然としていながらも、僕がそんなことを考えていると

「こら、そこ! 何をしてるの!」

まるで待ってましたと言わんばかりのタイミングで現れた山中先生によって、僕たちは怒られるのであった。

(なんで僕まで)

これが連帯責任というものなのだろう。
少しばかり理不尽にも思えたが、そう納得することにした。
少しして山中先生の説教も終わった僕たちは、境内の中を見て回ることにした。

「あ、見てみて律ちゃん! 絵馬だって」
「お、本当だ」

そんな中、突然一方向を指さして声を上げた唯のが指し示す先を見た律が、軽く驚いた様子で相槌を打った。
そこには絵馬が販売されていることとその場所を知らせる看板が立てられていた。

「絵馬に願い事を書こうよ!」
「そうだな! 記念になるかもしれないしな。そうなれば、善は急げだ!」

唯の提案をのんだ律は、そのまま看板の案内に従って絵馬が売られている方向に走り出した。

「牛牛!」
「カルビー!」

意味の分からないことを叫びながら走っていく二人の後を、僕たちは何とも言えない表情をうかべながら追いかけるのであった。





「っと、これでみんな書き終えたな。それじゃ、かけるぞー」

絵馬を二枚購入した僕たちは、それぞれが絵馬に願い事を書き記した。
僕の場合は、スペースの問題から別の絵馬に書くことにしたが。
律は武道館進出を、唯は生涯満腹を、澪とムギは志望校に合格することを願い事として記していた。
色々と個性のある絵馬になっていた。

「浩君はどんな願い事にしたの?」
「別に何でもいいでしょ」

かくいう僕もかなり恥ずかしい願い事をしているので、言葉を濁した。

「えー、別にいいじゃん」
「それじゃ、絵馬を見ようっと」

そんな僕に頬をふくらまして不満げに食い下がる唯とは対照的に、先程僕がかけた絵馬を律は直接確認し始めた。

「あ、ちょっと――」

僕が止めるのよりも早く、律はそれを見つけてしまった。

「あったあった。えっと……『皆が仲よくいられますように』………」
「「「……」」」

その願い事に、皆は驚いた様子で言葉を失うとこっちのほうに顔を向けてきた。
それは絵馬に書いた願い事を声にして読み上げた律も同じだった。

「へぇー、浩介って以外にも純情なんだな」
「べ、別にそんなことは」

沈黙を破るようにしてからかい口調で声をかけてきた律に、僕は視線を逸らしながら反論した。
そうでもしないと赤くなっている顔を見られそうだったから。

「……仲が悪いより仲がいい方がいい演奏ができると思って書いたのであって、深い意味はないんだからね!」
「なんで、ツンデレ口調?」
「あらあらあら~」

澪からジト目でツッコミを入れられ、ムギからは微笑ましげな視線を向けられるという、なんとも居心地の悪い状態となってしまった。

「あ、そうだ! せっかくだからお参りしていこうよ!」
「それいいな! 願いがかなうかもしれないし」

そんな状況を打破したのは、唯の提案だった。

「よし! みんな走れ―!」
『おー!』

律は唯の提案に賛成すると、そう告げて本殿に向けて一気に駆け出して行った。

「って。ちょっと待ってよ!」

気づけば僕だけが取り残される状態になっていたので、僕は慌てて皆を追いかけた。

「神様―! このお願いを叶えてくださーい!」
「お願いします!」
「乙女の願いを!」
「だから、大きな声で叫ぶな!」

大きな声で恥ずかしいことを叫んでいる唯たちに、僕はツッコミを入れながらみんなの後を追いかける。
そして本殿の前までたどり着くと、唯が鈴を鳴らして僕を含めたみんなで手を合わせてお願いごとをした。

「叶うかなー?」
「叶うといいね!」

一足早く願い終えた唯たちは再び大声で話しながら去って行く。

「おいこら! お賽銭を忘れてるぞ!」
「あ! 本当だっ」
「お賽銭を忘れた!」

お賽銭をしていないことを告げると律は思い出したように声を上げてこっちに向かってかけてきた。
お賽銭を上げないでお願いをしたことが悪かったのか、それとも僕たちがここで無礼なふるまいをしたことに対する罰なのか

「ちょっと、さっきから何なのよ!!」
「うわ!? びっくりした」

突然涙声でどなり声を上げたのは山中先生だった。
立っている場所からするとお守りかおみくじでもしようとしていたのだろう。

「私に対するあてつけのつもりなの!? 」
「ちょっ、さわちゃんそれは誤解だって」
「そ、そうです! 私たち絵馬を書いていて」

どうやら、唯たちの大きな声で叫んでいた言葉の何かが知らないうちに山中先生にとっての地雷を踏んでしまったようで、半ば錯乱状態に陥っている山中先生を落ち着かせるべく律を筆頭にムギと唯が宥めるが一向に落ち着く様子を見せない。

「そんなウソを言ってもダメ! こっちに来なさいっ」

それどころか、逆に怒りを増幅させたようで、僕たちは半ば連れて行かれる形でその場所を離れることとなった。
そして人気のない場所で僕たちは自由時間いっぱいまでありがたいお話を聞かされる羽目になるのであった。

「な、なんで僕まで……」

おみくじでも買っていたら、きっと今日の運勢は大凶が出たに違いないと、矢継ぎ早に山中先生から話しているのを聞きながら思うのであった。

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