健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第121話 朝のピンチと自由行動

「んん……」

目が覚めた僕はいつものように目を開けた。
窓のほうのふすまから洩れる朝日が、今が朝であることを知ることができた。
周りの静けさから、まだみんなは眠っているようだ。

(それにしても律たちには困ったものだ)

若干頭の回転が鈍い中、僕は昨夜のことを思い出していた。
何があったのかを言えば、実に単純だ。
寝ていた僕を枕を当てて邪魔した。
むろんワザとではない(と信じたい)が、いきなりたたき起こされた方にはたまったものじゃない。
しかも、それがまくら投げに巻き込まれたのならなおさらだ。
だからこそ、人が寝ているところではまくら投げはするなという警告の意味を込めて僕は澪や律に全力で枕を投げたのだ。
枕の特性で、威力は和らぐし、命までとらないように加減はしたので問題はないだろう。

(今夜もまくら投げを始めたらどうしてくれようか)

自分でも驚くほど物騒なことを考え始めたため、僕は考えるのをやめさせるべく起き上がることにした。
だが、そこで僕は違和感に気が付いた。
何故か右腕が動かないのだ。
正確に言えば、動くことは動くがものすごく重いのだ。
まるで、誰かに掴まれているかのように。

(掴まれてる?)

「まさか……」

僕は嫌な予感がしたため、何とか動かせる左半分を右にねじるような感じで体を起こすと、自分の右腕を確認してみた。

「……なぜ?」

その光景に僕の口から出たのは疑問の声だった。
簡単に説明すれば

「スー……スー……」

僕の右腕に抱き付くようにして唯が寝ているだけだ。
しかも器用にテーブルの脚の隙間をかいくぐるように。

「一体どうすればそんなことができるんだよ?」

眠っている唯に疑問の声を投げかけるが、当然答えは返ってこない。

「しかし、これはまずい」

主に精神面と状況的に。
唯は僕の腕を抱き枕のように自分の体にくっつかせている。
要するに、女性が悩むであろう部分も触れているわけで。

(そういえば、腕に何かやわらかいものが当たってると思ったけど、これってそういうことなのか)

最初は布団だと思っていた感触も、状況を飲み込むとまったく違ったものになっていく。
僕とて男だ。
このような状況で冷静にいられるほど経験はない。

(理性を失って……ということは断じていや、おそらく……きっと……たぶんないと思うけど)

どんどんと自信がなくなってしまうのも男の性というものだろうか。

「って、一人で納得してる場合じゃない」

そしてこれが二つ目の問題だ。
何度も繰り返す通り、僕の右腕に抱き付くように唯は眠っている。
もしこんなものを律たちが見たらどうなるだろうか?




「おやおや、お二人さんは朝からお熱いどすなー」

こちらをにやにやと笑いながら見てくる律。

「はうぅぅ~」

処理能力を超えて失神する澪。

「あらあら、まあまあ、ふふふ」

いつにも増して微笑まし気な表情を浮かべるムギ。

「なによ! それは私へのあてつけのつもり!? うわああん!!」

血の涙を流しながらわめき散らす山中先生。

「裏切り者には死を~、幸せ者には疫病神を~」

同じく血の涙を流しながら物騒な言葉を呟き続ける慶介。


「想像してしまった」

思わずカオスと化した部屋の状態を想像してしまった。
だが、このままいけばそれが現実のものとなるのは間違いない。

(となれば、やることはただ一つ)

この状況からの脱出だ。

「まずは時間を……」

僕は首を動かして時計を探した。
時計はすぐに見つかった。
唯が自分の枕元に置いていたのだ。
時計が示している時刻は午前5時。
皆が起きる時刻は午前6時。
つまりタイムリミットは、後1時間ということになるのだ。
もしかしたら途中で起きる人がいるかもしれないが、その場合は魔法でもう一度眠らせればいいだけの話だ

「よし、やるぞ。平和な一日を手に入れるために」

こうして、僕の戦いは幕を開けた。





「ふう……ようやく腕を解放することができた」

長い時間をかけて奮闘した界があり、何とか腕の部分の束縛を解くことができた。

(しかし、敵も手ごわい)

唯は、僕が腕を引き抜こうとすればするほど、どんどんと抱き付く場所を移動させるのだ。
まるで僕の手から逃れるかのように。
その結果が手に抱き付いているというものであったりする。

(しかも手だからあそこの感触がよりダイレクトに)

あの箇所の柔らかい感触は、じわりじわりと僕から余裕をなくしていくのだ。

(と、とにかく……ここは慎重に)

僕は震える手を抑えながら唯の手から僕の手を解放させていく。

「んっ……」
「っ!?」

誤って右手を動かしてしまったため手に当たっている物に刺激を与えてしまった。
僕は息をのんでその場でじっとする。

「ふふ……浩君のエッチ」
「……」

(もしかして起きてるのか?)

何ともピンポイントすぎる寝言なだけに、疑問を感じたがふと時間のほうを確認してみた。
時刻は午前5時50分。
残り時間はあと10分弱にまで迫っていた。

(腕の解放で時間を取られすぎたか)

このままだと確実に間に合わなくなってしまう。
再び脳裏によぎる最悪な結果の未来の僕の姿。

(大丈夫だ、まだ時間はある)

僕は自分を落ち着かせて再び作業に取り掛かる。

(よし、あと少しで外れる)

何とか唯が掴んでいるのが僕の人差指と中指と薬指だけという状態にまで持ってこれた。
時間もまだ6分ある。

(勝ったな。これは)

僕は早くも勝利宣言を出した。
誰に対してかは知らないけれど。

(よし、一気に指のほうも進めるか)

僕は早速最後の関門である指の解放に取り掛かろうと

「何をやってるんだ?浩介」
「ヒギっ!?」

したところでかけられた澪の声に、僕は変な声を上げながら固まった。

(まさか、ここにきて最悪のパターンになるとは)

僕はこうなった運命を心の底から恨んだ。
だが、恨んだところで状況は変わらないわけで。

「って、こここ!!?」

僕の姿をじっくりと見ていた澪は、手元に視線を向けると顔を赤くして同じ言葉を繰り返し始めた。

「あ……」

澪の慌てように、僕は今の自分の体制を思い出した。
今僕の右手は唯の胸元にある。
これは唯が抱き寄せているからなのだが、何も知らない人から見れば僕が唯の胸に触っているようにも見えるだろう。

「こーこーこー!?」
「んぅ……」

(って、これはまずい!!)

先ほどよりボリュームを上げ始めた澪の声(叫び声にも近いが)によって、律たちも目を覚ましかけている。
あと数秒で、全員が目を覚ますことになるだろう。
そうなれば、僕に待っている未来はただの混沌だ。

「させない! リスリプト!!!」
「こー………きゅぅ」

左手を床のほうに掲げて呪文を紡ぐと、悲鳴を上げていた澪はまるで糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。
そしてすぐに規則正しい寝息を立て始める。
それは、澪の悲鳴に目を覚ましかけていた皆も同じだった。

「やれやれ……まさか本当にこれを使うことになるとは」

僕はため息交じりにつぶやきながら、今度は勢いよく唯の手から僕の手を引き抜いた。
僕が澪たちにかけたのは睡眠魔法だ。
これをかければどんなに深刻な不眠症の人でも、一瞬にして眠りに就かせることができる魔法なのだ。
ただ、問題はこれをかけると、反対の魔法である覚醒魔法をかけないと一生目を覚ますことができないところだが。
現に、先ほど勢いよく手を引き抜くという暴挙を行ってもなお、唯はぐっすりと眠っており目を覚ます気配すら見せない。

「折角だし、この時計にするか」

僕は唯の目覚まし時計に手をかざすと呪文を紡いで、覚醒魔法をかけることに成功させた。
これによって、目覚ましが鳴り響けば覚醒魔法が発動して皆が目を覚ますという寸法だ。

「さてと、僕は着替えて顔でも洗ってくるか」

僕は残された3分間を、着替えと顔を洗うことに費やすのであった。
ちなみにこれは余談だが、覚醒魔法によってちゃんと目が覚めたみんなだったが、澪から『浩介と唯が抱き付いている夢を見た』という話を聞いた時は息が止まりそうになったということを、ここに記しておこう。










「皆、ちゃんと集まっているわね」

ホテルの出入りに集められた僕たち2組は、山中先生のほうに視線を向けていた。
時刻は午前8時。
各クラスごとに集まって担任の先生から今日一日の注意事項を聞いてから、皆お待ちかね(?)の自由行動という形になっている。
僕たちは2番目に早い時間での出発となるわけだ。

「本日は自由行動になります。班ごとに決められた場所のを効率的に見学するように。何かがあったら先生の携帯に電話をして、それと――――」

山中先生から、注意事項が説明されていく。
要約すると、ホテルに戻る時間は6時までとのこと。
そして何かがあったら、山中先生の携帯に電話をするということの二点だ。
そんな重要な話をしている中、平然と先にどこかに行こうとするのが二名いた。

「そこの二人、さっさと戻ってきなさいっ!」
「「う……ばれてた」」

すんなりと山中先生に見つけれてしまったことに、肩を落としながら唯たちは僕たちのほうに戻ってきた。

(本当に大丈夫なのかな?)

二人の様子を見ていると、無性に不安に駆られる僕なのであった。
そして、二人が戻ったのを見計らって、山中先生も連絡事項を続けるのであった。





「私たちは嵐山なんだけど…」

山中先生から渡された行先が記されたメモを見ながら澪がつぶやいた。

(嵐山か……どこか観光する場所ってあったけ?)

事前に調べておいたとはいえ、あまり興味がなかったのでさっと調べるのにとどめて覚えようとしなかったことが、こんなところで響いてくるとは全くの予想外だった。
それでも、覚えているのは、とても見て回るのが難しい場所だということ。
清水寺などの一般に知られている有名な観光地のエリアから見れば、影が薄いのが理由らしい。

「それじゃ、タクシーで行ってみるのはどうかな?」
「そうだな。それならある程度時間も稼げるし」

時間を稼ぐ方法を考えている時点で色々と損をしているような気もするが、あえて何も言わないことにした。

「律は何か案が……って、律と唯は?」
「さっきまで一緒にいたけれど」
「僕も同じだ」

律に意見を聞こうと話を振る澪は、律がいないことに首をkしげながら僕たちに聞いてきたので僕たちも首を横に振りながら答えた。

「一体どこに……」

二人を探すように周囲を、見渡し始めた澪に倣うように周囲を見渡した僕だったが、二人の姿はすぐに見つかった。
楽器店の窓に顔をくっつけて中をのぞき込んでいる二人の姿が。

「なんで京都に来てまで楽器店なんだよ!」
「いやーん、いけず~」

ツッコミを入れながら律の体を楽器店から引きはがす澪に、律は足をじたばたさせることで抵抗する。
その姿は完全に駄々っ子と母親だった。

「ちょっとだけだってば」
「まったく……置いて行くからな!」

いまだに抵抗する律に、呆れたようにため息を漏らすと背を向けて歩き出そうとした時だった。

「お、ここレフティーモデルが置いてあるんだ」
「っ!」

ふと律がなにかに気付いたように声をもらした瞬間だった。
右に180度体の向きを変えると早歩きで向かったのは楽器店の窓だった。
そして、先ほどの律たちと同じような体制で中を覗き込み始めた。
完全にミイラ取りがミイラになってしまった。

「澪、移動するぞ」
「ヤダ」

立場が入れ替わるように、今度は律が移動することを促すが、返ってきたのは拒否の言葉だった。

「小学生の子供か、あんたは」

このままではいつまで経っても移動ができないので、少しだけ暴挙に出ることにした。

「うわ!?」

暴挙とは言っても澪の服の襟首をもって窓から引きはがしただけだが。

「いい加減移動しよう? いつまでもここにいるのはもったいないから」
「そ、そうだったな」

すぐに正気(どちらかというと諦めがついたとでも言うべきなのだろうけど)を取り戻した澪によって、移動手段が告げられた。

「タクシーって何人乗りだっけ?」

問題なく澪の説明が進んでいたが、唯の出した疑問がそれを変えてしまった。

「確か運転手を除いて、四人乗りだったような」
『あ……』

そこで全員が気づいたように声を漏らした。
四人乗りということは、誰か一人が乗れないということになる。

「大型車のほうにするか?」
「いや、それだとお金のほうもかさむし、普通のでいいよ。僕が乗らなければいい話だし」
「でも……」

律の提案を断ると、ムギが申し訳なさそうな表情を浮かべながら食い下がってきた。

「大丈夫だって、タクシーぐらいなら走って追いかければ十分だから」
「あ、そう言えばそうだよな」

僕の一言で、僕が普通の人間ではないことを思い出したのか、納得したように相づちを打った。

「僕は走ってタクシーを追いかけるから、皆はタクシーに乗っていいよ」
「それじゃ……」

最後は強引だがムギを説得することができた。

「その代わり、僕の荷物をお願いしてもいいかな? これを持ったままだと少し走りにくいから」
「任せてくだんさいっ」

胸に手を当てながらされた唯の頼もしい返事に安心しながら、僕は自分のバックを唯に渡した。

「それじゃ、タクシーを呼んで。僕は姿を消して追いかけるから」
「悪いね」

話をうまくまとめたところで告げられた澪からの謝罪の言葉に、僕は首を横に振ることで返した。
澪が電話でタクシーを呼んで数分後、タクシーがやってきたので唯たち四人で乗り込むとそのままドアが閉まり走り出していった。
この時、僕は魔法で姿が見えないようにしていたため手を振るなどのことは一切やっていなかった。
とはいえ、澪たちは終始申し訳なさそうだったが。

「さて、僕も移動しますか」

タクシーが走り出したのを確認した僕は、軽く準備運動をするとそのまま車道の端のほうに立って、唯たちが乗ったタクシーを走って追いかけるのであった。

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