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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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プロローグ

青い空に白い雲というどこにでもある場所だが、ところどころに建っている古風な社の建物がそこが普通の場所ではないことを物語っていた。
そこは神界と呼ばれている場所だった。
そんな人が住む世界とは異なった、ゆっくりとした時間の流れを刻む神界と呼ばれる場所の中で、選ばれたものしか入ることができない場所があった。
そこはくらいにして最高神とも呼べる存在がいる場所であり、世界の原点とも言われている。
そんな世界の原点でもある社は、神界に建てられている社よりも広く大きな建物となっていた。
そこには三人の男女が暮らしていた。
その社内の最も奥に設けられた一室にそのうちの一人の老人の姿があった。
老人はただただ静かに床に座り込んでいるだけだったが、そこにふすまが開く音を立てて訪問者が現れたことを部屋の主に伝える。

「失礼する」
「来たか」

静かに投げかけられた声に老人はゆっくりとした動きで立ち上がった。

「突然呼び出して悪いの」
「いえ。で、一体何の用ですか?」

短めの黒髪にやや丸みを帯びた目元は温厚そうに感じるものだ。
そんな青年の服装は黒のズボンに黒の上着という黒づくめという異様さを醸し出していた。

「実はな、神獣が一体先ほど外科医のほうに逃げ出したようなんじゃ」
「神獣ですか……それだと早めに回収したほうがいいですね」

ノヴァとばれた男性の話に、青年は表情を変えることなく相づちを打った。

「そうじゃな。ということで、よろしく頼むぞ」
「は?」

感情を表に出すことなく淡々と相づちを打っていた青年が初めて感情をあらわにした。
その感情は、予想外のことに驚いているといったものだったが。

「だから、今回の神獣の捕獲はおぬしらで行ってもらいたいのじゃよ」
「なぜ私が?」
「下界への任務は競争率が高いのは知っておるじゃろ?」

ノヴァの問いかけに、青年は無言で頷いた。
神界では、下界で発生した問題への対処を行う任務などを受注しない限り、下界にわたることはできない。
そして神界にいる者の大半は、この下界に対してあこがれのようなものを持っており競争率が非常に高いのだ。

「中には任務に行ったきり帰ってこない者もいるとか」
「それを防ぐべく、おぬしが監視役となって同行してもらいたいのじゃ」

ノヴァのその言葉に、ようやく糸を悟ったのか、青年は静かにため息を漏らした。

「分かりました。では、その同行するものの場所に向かいますので、合流ポイントを――「その必要はない、もう来ておる」――は?」

ノヴァの相槌に、青年は再び目を見開かせて固まった。

「入ってきなさい。~~~~~~~~や」
「はい」

ノヴァが青年が入ってきたふすまとは違う方のふすまに向けて声をかけると、しっかりとした返事とともに、ふすまが静かに開かれた。
そして姿を現したのは、肩や袖口の部分が紫色、胸元は黒くにお腹の部分は赤いリボン全体的に薄ピンク色の服に身をまとい、両腕の部分は白地に橋の二か所が紫色の羽衣のようなものを身に着けている長めの銀色の髪を後ろの方に一か所に縛った顔立ちのいい美少女だった。
その表情は、どことなく緊張に満ちている物であった。

「紹介しようこの子が、今回お主の相棒になる子じゃ」
「初めまして、私は~~~~~~と申します」

少女は立ち上がりながらノヴァの紹介に、礼儀正しくお辞儀をしながら名前を告げた。
だが。その名前を聞き取ることはできなかった。

「どういうつもりだ。ここには私たちの担当に関係ない者は立ち入らせてはいけないはずだ」
「今回は特例ということで、私が彼女を招き入れたのじゃ」

青年の咎めるような視線に対して、ノヴァは気にも留めていない様子で疑問に答えた。

「自己紹介は不要だ。この程度の任務すぐに終わる。すぐに終わるのだから名前など知らなくても問題はない。とっとと行くぞ」
「ぅ……」

青年の冷たい口調に、肩を縮まらせる少女をよそに、青年は足早に部屋を去って行った。

「すまぬの。あやつも本当は優しい心を持ってはおるんじゃが、色々と複雑での。大変じゃとは思うが、やつのことをよろしく頼むぞ」
「は、はい!」

苦笑しながら声をかけるノヴァに、少女は緊張の面持ちのまま頷いて答えた。

「何をしている! さっさと行くぞっ」
「ご、ごめんなさい~~!」

外のほうから飛んできた青年のどなり声に、少女は慌てながらその場を後にした。

「やれやれ」

その様子を見ながら、ノヴァは肩を竦めて苦笑するしかなかった。

「よろしかったんですか?」

そんなノヴァに声をかけたのは、同じく短めの銀色の髪をした少女が姿を現した。

「神楽か」
「あのような簡単な任務で最高神の一柱を同行させるなんて前代未聞です」

神楽と呼ばれた少女の苦言に、ノヴァの表情から笑みが消え真剣な面持ちへと変わった。

「私にはある壮大な計画があるんじゃよ」
「壮大な計画?」

ノヴァの口から出た田安吾に、神楽は顔をしかめる。

「それはじゃな……」

その表情を見ていたノヴァから、計画が語られるのであった。










「あんた、下界に行くのは初めてだったな」
「は、はい」

同じころ、神界から下界に向かうためのゲートがある場所に二人は向っていた。
少女は終始緊張の面持ちで青年の横を歩いていた。

「あんたは実に運がいい。私はそこそこの腕利きだと自負している。大抵の問題であれば容易に解決できるだろう。だから、今回の任務をとっとと済ませて下界巡りでもしようではないか」
「え?」

少女は青年が告げた言葉の内容に耳を疑った。
先ほどまでの言い分と全く違っていたからだ。

「改めてご挨拶をしよう。私の名は高ノ月浩之介ノ命という。親しい者は私を浩介と呼んでいる。よろしく」
「は、はい。よろしくお願いします」

名前を告げるとともに差し出された手を、少女は恐る恐る取ると握手を交わした。

「先ほどは失礼した。あいつの前で大はしゃぎでもすればこの話すらご破算になるかもしれなかったからな」
「あ……」

その時少女の目には浩介の目が好奇心に満ちたようなものに見えた。
だからこそ、緊張を解くには十分だったのかもしれない。
そこでふと浩介は立ち止まった
そこが下界と神界をつなぐゲートの場所だったのだ。

「あ、そうだ。向こうで滞りなくやっていくのに重要なことがもう一つ」

白銀の光に包まれる中、青年は少女に声をかける。

「敬語ではなくため口でいい。変に気を使う必要はないんだ」

その言葉とともに、二人の姿は神界から消えた。
それが後々すさまじい物語の始まりとなることを知らずに。

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