健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第117話 波乱の幕開け?

修学旅行当日。
僕たち桜ヶ丘高等学校の3年は、クラス別に東京駅の新幹線ホームに集まっていた。
そこが集合場所だったからだ。

「人多すぎだろ」

平日ではあるが、人がごった返しているホームを見て、思わずげんなりとしてしまった。
人混みが嫌いだというわけではないが、好きでもない。
とはいえ、ライブでは話が別だが。

「おーい、こっちこっち!」
「分かったから、大きな声を出すな」

ただでさえ人が多いのがいやなのに、視線までこちらに注がれてはたまったもんじゃない。
僕は両手を大きく振りながら自分の立っている位置をアピールする律たちのいる方に、小走りで向かっていく。

「おはよう、高月君」
「おはよう」

さわやかな笑みを浮かべながら挨拶をするムギに、僕は挨拶を返した。

「浩君の席って、私たちの横なんだよね?」
「そうみたい」

座席は数日前に配られたしおりに記載されていたので、自分たちの座る場所は把握している。
ちなみに、一番後ろの席だった。

「遅刻している人はいないわね。それじゃ、皆、乗って」
『はーい』

そんな話をしていると、クラス全員がそろったことを確認した山中先生の指示で、僕たちは新幹線に乗り込む。

「あれ」
「よっ、浩介」

自分の席に向かった僕は、隣……窓側の座席に意外な人物が腰かけていたことに首を傾げた。

「どうして慶介がそこなんだ?」
「どうしてって……ここが俺の席なんだよ。っていうか、しおりに書いてあっただろ?」

僕の疑問に、慶介はジト目でこちらを見ながら答えた。

「興味がなかったから自分の位置しか見てない」
「いつもの浩介らしい対応だなっ!」

そんなどうでもいいツッコミを聞きながら、僕は荷物を上のほうに置くと、そのまま慶介の隣の席に腰掛けた。
それからすぐに、新幹線はゆっくりと動き出した。
こうして、僕たちの修学旅行は始まるのであった。










「……………」

いくつかの駅を出てしばらくしたころ、僕は隣で音楽プレーヤーにヘッドホンを接続して聴いている慶介にストレスを感じてた。
ストレスを感じている理由は、音漏れがひどすぎるからだ。
本人にすれば、いい曲だと思っていても、こちらにしてみればただの雑音でしかないのだ。
しかも、聴いている曲はエフェクトのようなものがかけられているやつだし。
ちなみに、余談だが持ち物で音楽プレーヤーなどを持ってきてはいけないという注意事項はないらしく、別に持ってきても問題はないとのこと。

(騒がれてもあれだけど、雑音を聞きながら堪えるのは嫌だぞ)

ボリュームを下げるように言えばいいのだろうが、慶介の使用しているタイプのヘッドホンではいくら音量を下げても音漏れがするのには変わらない。
その結果、僕は考え付いたある方法をとることにした。

「……おい」
「――――」

軽く慶介の腕をたたきながら呼ぶが、慶介は車窓の眺めを満喫(曲に合わせて体を上下に振っていたが)しているようでまったく反応がなかった。

「おいっ」
「いてっ。なんだよ」

今度は頭を軽く叩いて呼びかけてみたところ、ようやく反応が返ってきた。

「慶介、万能ナイフ持ってきたか?」
「持ってきたが、何に使うんだ?」

僕の問いかけに、慶介は鞄から万能ナイフを取り出すと用途を聞いてきた。

「ちょっと切りたいものがあるだけ。ほら、慶介は聞いてなよ」
「おう」

僕は適当に慶介の疑問に答えると、ヘッドホンをつけるように促した。
万能ナイフとはいえ、さすがにナイフやハサミなどはついていない。
あるのはカンのふたを開ける物や爪切りといったものだ。
僕はその中で爪切りを出すと、再び体を上下にゆすっている慶介の近くにあったコードを手にした。
そして、僕はそのコードを爪切りで切断した。
雑音がなくなったことを確認した僕は、投げ捨てるようにコードから手を放し、万能ナイフを簡易テーブルの上に置いて伏せておいた本を手に取った。

「あれ?」

突如音が聞こえなくなったことを不審に思った慶介は、コードを手繰り寄せる。

「浩介!」
「弁償するから静かに満喫しろ」

慶介の怒りに満ちた声に、僕は本から視線を逸らさずに一蹴した。

「あれは、俺が小遣いを貯めてようやっと手に入ったものだったんだぞ!」
「……」

血の涙を流している慶介に、罪悪感を感じた僕は鞄の中に手を入れた。
そして、心の中で呪文を紡ぐと、先ほどまでなかったものの感覚が伝わってきた。

「泣くな。これをあげるから」
「ヘッドホン……」

慶介に手渡したやや大きめのヘッドホンを慶介は目を瞬かせてみていた。

「安心しろ。それは慶介が持っていたのより数倍の値段だから。何回か使っただけで、別にどこも壊れてないし」
「い、いいのか?」
「僕は本を読んでるだけで十分だから。弁償の意味を兼ねてあげる」

高揚した様子で聞いてきた慶介に、僕は頷きながら答えた。

「浩介! お前は天使だな!」
「……」

先ほどとは打って変わって大げさに手を取って言ってきた慶介に、僕はなんとなく寒気を感じてしまった。
ヘッドホンを壊した人に言う言葉でないのは明らかだが、本人が喜んでいるのだからそれで良しとしよう。

【マスター、最初からそれを渡すつもりなら、普通に渡してもよかったのでは?】

事の成り行きを見守っていたクリエイトが、誰にも聞こえないように頭に直接話しかけて(祖国では念話と呼んでいるが)きた。

【普通に渡したら、あのヘッドホンを使いそうだから】

そして僕も念話でクリエイトにそう返した。
慶介のことだ、”大事なものだからこっちが壊れるまで他のは使わない!”とか言いそうだったので、この処置がある意味最善だったと僕は信じているのだ。
それはともかく、少ししてヘッドホンを装着した慶介だったが、音漏れがすることは一切なかった。
体を上下にゆするのは鬱陶しかったが、それは我慢することにした。










「ふぅ。たまには歩かないとね」

テレビでやっていた、エコノミック症候群とやらにかからないようにするための対策である歩行を僕はしていた。

(それにしても、外国の人が多いな)

何故かは知らないが、今いる車両は外国の観光客と思わしき人たちの姿が目立っていた。
ちなみに、今いるところは僕たちの座席がある車両ではない。

「おい、浩介」
「ん?」

突然名前を呼ばれた僕は、歩くのを止めて呼んだ人物のいる方向に振り向く。

「何をやってるんだよ? こんなところで」
「何って、散策だけど」

飲み物が入った水筒のコップ部分を片手に近寄ってくる慶介に、僕は答えた。

「散策って、ここですることか?」
「たまには歩かないと健康に悪いんだよ」

慶介からの指摘に、僕はやれやれとため息をつきながら言い返す。

「それにしても、一体何を飲んでるんだ?」
「コーヒー、微糖」

僕の疑問に対する慶介の答えに、僕は言葉が出なくなった。
しかも答え方が某有名な缶コーヒーのCMのナレーションと同じだし

「どうした? あ、もしかしてコーヒーが飲みたいとかか?」
「そうじゃなくて、二泊三日の修学旅行の飲み物でコーヒーを入れてくるか? 普通」

そういえば、小学生の時の遠足でオレンジジュースを水筒に入れていった奴がいたような記憶がある。
あれもあれで、ありえないような気もするが。

「そうか? 別におかしなところはないと思うん―――」

慶介がコップのほうに視線を落としながら答えていると、突然車内が大きく揺れた。
恐らくカーブかなんかに入ったためだろう。
僕も少しよろめいたが、人にぶつかったりはしていないので問題はなかった。
あるとすれば……

「ど、どうしよう……コーヒーが」
「ああ、見事にやっちまったな」

よろめいた慶介が座席に腰掛けるご婦人のスカートにコーヒーをかけてしまったことぐらいだろう。
婦人は今はぐっすりと眠っているようだった。

「慶介、ここは男の見せ所だぞ」
「そうだな。しっかりしないとな」

僕は慶介に婦人……女性を起こすように促すが、それは不要だったようだ。
覚悟を決めた慶介は、ポケットからハンカチを取り出した。

(って、ハンカチ?)

慶介のとった行動に、僕が目を瞬かせている中、慶介は何を思ったのかその場に跪いた。
そして両手を女性が腰かけている座席のほうに……って、まさか。
僕の予想は正しかったようで、慶介はなんとコーヒーを拭きだしたのだ。
それで拭けるのかどうかは微妙だが、問題なのは、一歩間違えれば確実に痴漢に間違えられることだ。

「慶介、それは――――」

僕は慌てて慶介の行動を止めようとしたが、それはちょっとだけ遅かったようだ。

「Hey!」

怒りが込められた慶介を呼ぶ女性の物と思われる声によって。

「いったいあなたは何をしているのよ!」
「ひぃっ!?」

どうやら女性は外国の人だったようで、まくしたてるように慶介に英語を話し始めた。

「しかも私のスカートを汚して! これ高かったのよ!」
「だ、誰かおしぼりを!」

まくしたてるように怒鳴る女性に、慶介は背を向けてこちらに逃げてきた。

(って、僕を巻き込むな!!)

僕も逃げ出そうとしたが、その必要はなかったようだ。
何せ、慶介は走り出してすぐに女性に捕まったのだから。
肩をつかまれた慶介は、そのまま体を半回転させられ。

「マダムっ!」

思いっきり平手打ちされた。
慶介を引っ叩いたことで満足したのか、女性は慶介に背を向けると、自分の席に戻って行った。
対する慶介は、引っ叩かれた頬を片手で押さえながらこちらに歩いてきた。

(素直に起して謝ればいいものを)

下手なことをするから痛い目を見るのだと、僕は心の中でため息をついた。

「戻ろうか、浩介」
「そうだな」

僕は何も言わずに慶介と共に僕たちの座席のある車両に戻るのであった。










「いやー、旅行はいいな!」
「律ちゃん、お行儀が悪いよ」
「そうだぞ。座席の上で胡坐をかくな」

戻ってすぐに聞こえたのは、修学旅行という行事に開放的な気分になっているであろう律の声と、それを咎める唯と澪の声だった。

「あ、浩君おかえり。あれ? どうして佐々木君はどんよりしてるの?」

僕たちが戻ってきたことに気付いた唯が出迎えながらも、女性に引っ叩かれたことでどんよりとしている慶介に気が付いたのか、疑問を投げかけてきた。

「ちょっとしたハプニングだ」

それが僕ができる最善の答えだった。

「お、そうだ。折角だし記念写真を撮ろうぜ!」
「いいね、いいね!」

そんな僕たちをしり目に、律の提案に唯が賛同した。

「少しは落ち着け」
「いいじゃない、旅の思い出にもなるんだし」

律の提案に、止めるように言う澪をムギが宥めた。

「ということで、浩介写真撮って」
「はいはい」

僕が止めても素直に聞くような感じではない(そもそも止める気もない)ので、僕はカメラを受け取るとディスプレイをのぞき込んで四人が入るように自分の立ち位置を調整した。

「ちょっとそこ! 用もなく立ち歩くのは止めなさい!」

そんな僕たちを見つけたのか、山中先生に怒られてしまった。

「浩介が写真をどうしても撮りたいと言って聞きませーん」
「……おい」

律によって、何故か僕が首謀者になってしまった。

「先生もこっちに来て一緒に撮ろうよ」
「行かないわよ! まったく貴方たちは」

唯の誘いに、山中先生は即答で拒否すると、怒ったように注意しながらこちらに向かってきた。
そして山中先生が僕たちのほうに来たところで、律から両手の人差し指と親指を合わせるようなジェスチャーを送られた。

(あー、なるほどね)

その意図を悟った僕は、すぐさま行動に出ることにした。

「山中先生」
「何よ!」

僕の呼ぶ声にこちらを振り向いたところで、僕は写真を撮る合言葉である

「はい、チーズ」

と告げた。
そしてシャッターを切ると、そこにはいい笑顔でポーズをとる山中先生の姿があった。

(ヲイヲイ)

うまく乗せられている山中先生に、僕は何とも言えない気持ちを抱いてしまった。

「あ……」

そしてそれは山中先生も同じようで、声を発したかと思えば、肩を落として僕たちの前から去って行った。
その後姿を見てなんだかとてもかわいそうに思えてしまった。
とどめを刺した僕が言うのもあれだが。

「それじゃ、次は私が撮るから、浩介君はこっちに来てね」
「わかった」

ムギの心遣いに感謝しながら、僕はムギにカメラを手渡すとムギが立っていた座席のほうに移動した。

「よっこらせいと」

移動してきた僕の隣に、まるでそこにいるのが当然だと言わんばかりの勢いで唯が移動してきた。

「熱々どすなー」
「いやん、照れますなー」
「……いいから早く写真を撮れ」

律のからかいを含んだ言葉に照れたように頭をさする唯をしり目に、僕はムギに写真を撮るように急かした。
これ以上からかわれると、顔が真っ赤になった間抜け面が記録に残ってしまうからだ。

「はい、チーズ」

ムギの合図によって僕を含めた軽音部メンバーの写真撮影は無事に終わった。
そのあとは自分の席に戻り、再び鉄道の旅にいそしむことにした。

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