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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第118話 手品と悲劇

「それじゃ、この中から好きなカードを一枚とって」

さらにしばらくして僕は慶介の目の前である程度カードシャッフルすると、カードを伏せたまま横に広げて慶介に差し出した。

(どうしてこうなったんだ?)

僕はこうなった経緯を軽く思い出してみることにした。
たしか、そうだ。
女性に引っ叩かれたショックから立ち直った慶介に言った”お前はウソをつくと目が大きくなる”と言った僕に、嘘だと否定した慶介にそれを証明するためだった。

「…………」

事の経緯を思い出している中、慶介は警戒しながらカードを一枚取った。

「それを僕に見えないようにして覚えて」

横に広げたカードを一つのヤマに戻したながら僕が指示すると、慶介はカードが僕に見えないようにしながら表の方を見る。

「それじゃ、そのカードを好きなところに戻して」
「本当に、これで分かるのか?」

カードを横に再び広げて促す僕に疑いの声を上げながらも、カードを伏せて戻したので、僕はそれを再び一つのヤマに戻した。

「それじゃ、最後にこれを好きなだけシャッフルして」

カードのヤマを受け取った慶介は、念入りに何度も何度もカードをシャッフルしていく。

「ほら」
「これから僕はカードを一枚一枚見せていくから、慶介はカードを見て全部”違う”って答えて。僕は慶介の目を見
てさっき手にしたカードを当ててみせよう」
「やってもらおうじゃないか」

当てられないと思っている様子の慶介が頷いたのを確認した僕は、伏せられるように簡易テーブルの上に置かれているトランプのヤマの一番上のカードを手にすると、それを慶介の目の前に掲げる。

「違う」

慶介の答えを聞いた僕は、そのカードを簡易テーブルのヤマが置かれている場所とは違うところに置いて、またトランプのヤマから一番上のカードを手にするとそれを見せていくという行為を繰り返した。

「違う」

慶介が、数十回目の否定の言葉を口にした、その数十回目の段階で、僕はようやくそのカードを見つけた。

「慶介が選んだカードはこれだな?」
「…………」

僕の言葉に、慶介は固まった。
それはまるで信じられないとばかりに。

「ど、どうして!?」
「言っただろ? 慶介は嘘をつくと目が少し大きくなるって」

どうやら的中のようだった。
慶介の問いかけに答えず、僕はトランプを集めて箱にしまった。

「まあ、これで嘘はつけないってわかっただろ」
「ちょっと待て!」

カードをカバンにしまおうとしたところで、慶介から待ったがかけられた。

「何か?」
「そのトランプ、少しだけ貸して」

どうやら、トランプを貸してほしかったみたいだった。

「絶対に仕掛けがあるに決まってる! 調べさせてもらうぞ」
「どうぞ、好きなだけ。トランプはそんなに使うわけじゃないから、気のすむまで調べれば」

僕は慶介にトランプを手渡すと、鞄に入れておいた本を取り出す。
ちなみに、今のは魔法ではなく、本当にただのインチキだ。
タネもちゃんとある。

(あ、梓にメールでも送っておくか)

本を読もうとしたところで、僕は旅行中の軽音部についてまだ何も話していなかったことを思い出したので、僕は鞄に本をしまい代わりに携帯電話を取り出すとメールを表示させて文章を打ち込んでいく。

(練習を怠らないように……っと、こんなものかな)

我ながら、固すぎないかとも思うがこのくらいがちょうどいいということで納得することにした。
そしてそのまま梓の携帯にメールを送信した。
送信完了のメッセージが表示されたのと同時に、窓の外が一気に真っ暗になり、轟音が車内に響き渡った。
どうやらトンネルに入ったようだ。

(危なかった。あとちょっとで圏外になるところだった)

トンネル内で圏外になることはないが、時頼そうなってしまうことがあるので、僕はほっと胸をなでおろした。

「分かったぞ!」
「ん?」

そんな僕に、慶介がいきなり声を上げた。

「やっぱり、『俺が嘘をつくと目が大きくなる』ってのはウソじゃないか!」
「あぁ。あれのことか」

慶介の言葉で、僕はようやく慶介が何のことを言っているのかがわかった。

そんな僕をよろに、慶介は突然カードを数枚取り出すと僕の前に掲げた。
それは僕が慶介に貸していたトランプだった。

「仕掛けはこのトランプにあったんだ。一見上下対称になっているように見える模様だけど、この真ん中の風車だけは違う」

そう言って慶介が指摘した個所を見ると3枚あるうちの2枚の上側には羽根はないが、1枚には上側に羽根があった。

「浩介は、予めカードの向きをすべてそろえて置いて、俺にカードを覚えさせた隙にカードを逆向きにした。俺の選んだカードは逆向きになっているからいくらシャッフルしても同じだ」

得意げにネタを暴いていく慶介は、一旦言葉を区切った。
僕は慶介の推理を静かに聞いていた。

「つまり、浩介は俺の目を見ていたのではなく、トランプの模様を見ていたんだ!」
「別に、そう思いたければ思えばいいんじゃない? それでお前のプライドが満足するなら別にかまわないけれど」

自信満々に語られた慶介の推測に、僕は動揺もせず普通に言い返した。
僕の強気な言葉とは裏腹に、慶介の推測は見事に当たっていたりする。

「なんだと? 降参なら降参って言えよ!」
「別に」

とはいえ、あのくらいのトリックは道具さえあれば子供でも思いつく。
それを言い当てられたところで悔しくもなんともない。
逆に、むきになっている慶介の方がある意味面白く思えてきた。

「だったらこうしよう。今からもう一度同じことをしてもらおうじゃないか。そこで当てたら浩介の言ったことを認めてやるよ」
「いいぞ」

慶介の提案に乗った僕は、もう一度その場で同じことをすることになった。
先ほどと同じ手順でカードを選んでもらい、それを覚えさせそして伏せてあるカードのところに戻させる。
慶介はこの時に、模様が一致しているかを念入りに確認していた。
そしてそれを気が済むまでシャッフルしていく。

「さあ、当ててみろ!」
「それじゃ、遠慮なく」

僕は自信満々の言い放った慶介にそう告げると、慶介にカードを一枚もかざすこともなくトランプカードの中から一枚のカードを選ぶと、それを慶介に向けて掲げた。

「これだろ」
「…………なんでだよ!!」

どうやら見事に当たりだったようで、驚きに満ちた表情を浮かべながら慶介が叫んだ。

「窓ガラスに写ってた」

理由を告げた僕は、慶介の背後にあるドアの窓ガラスを指差した。
そこには窓があり、いまだにトンネルの中のため、それが鏡の役割を果たしていたのだ。
つまり、完全なインチキっだ。

「…………もう一度」

種明かしをすると、慶介はゆっくりとバインダーを下して、見えないようにしてやり直しを求めてきた。

「何度やっても同じだと思うけど」
「なぜだ?」
「内緒」

慶介の問いかけに、僕は一言告げるとトランプをポケットに入れた。

「いいから教えてくれよ」
「嫌だ」

なおも食い下がる慶介に、僕は再び拒否すると読みかけの本を読むことにした。

(それにしても、よく話すことがあること)

隣の座席で楽しそうに談笑している唯たちの様子を横目に、僕は心の中でつぶやくのであった。










「あ、浩介」
「今度は何?」

再び散策をしている僕に声をかけてきた慶介に、僕は要件を尋ねた。

「浩介のトランプで、今度は俺に手品をさせてくれ」
「別にかまわないけど、失くすなよ?」
「分かってるよ」

慶介のお願いを断る理由もないので、僕はポケットから先ほどしまったトランプを手渡した。
しっかりとくぎを刺して。

「それじゃ、俺の華麗なシャッフル捌きを見てろよ」
「いいから、早くしろ」

変にかっこつけて告げる慶介を急かして、僕は慶介にシャッフルをさせた。

「うわ!?」
「何をやってるんだよ。馬鹿」

シャッフルを始めて早々、見事に失敗してトランプを周囲に散らばした慶介に、僕は片手を頭に当てながら口を開いた。

「わ、悪い」
「いいから慶介はそっちに散らばったカードを拾え」

申し訳なさそうに謝る慶介に檄を飛ばしながら、僕は周囲に散らばったトランプを拾っていく。

「よし、これで全部だな」
「いや、まだ残ってる」

ことを成し遂げたような清々しさを醸し出す慶介に、僕はある方向を指さしながら告げた。
彼にとって不幸だったのは、今僕たちがいる車両は先程慶介にビンタをした女性のいる車両であること。
そして何より、ぐっすりと眠っている先ほどの女性のスカートの上に僕のトランプがのっていることだ。

「おいおい、勘弁してくれよ」

先ほどあれで恐怖を味わった慶介は、声をひきつらせながらも恐る恐るといった様子で女性に近寄っていく。
そして慶介は女性のスカートへと手を伸ばした。

(ま、まさか起こさずに取る気か?!)

慶介の決断は、ある意味勇者よりもすごかった。
それはともかく、ゆっくりと手を伸ばした慶介だったが、無情にも女性が身じろぎをしたためにトランプは女性の足元という、非常に取りづらい場所に落ちてしまった。
今度こそ女性を起こすかと思ったが、慶介はさらに信じられない行動にでた。
なんと、足元にあるトランプカードを取ろうとしているのだ。
だが、それは傍から見れば確実に痴漢行為をしているようにしか見えないものだった。

(もう知らない)

どうなるのかを悟った僕は、巻き込まれないようにするために慶介から距離を取った。
そして、無謀なことをしている慶介だったが、その動きが止まった。
かと思えばまるで吹き飛ばされたかのように通路を挟んだ反対側の座席まで後ずさった。
どうやら、最悪な事態になってしまったようだ。

「あんたはさっきから何を考えてしてるんだ! もう今度は許さない」
「だ、誰か助けて!」

怒り心頭の様子で英語をまくし立てながら立ち上がる女性から逃げるように、慶介は僕が立っている方向とは反対側の車両へ逃げていく。

「ぶっ殺してやる!!」

だが、それを猛追する女性は物騒な言葉を口ずさんでいた。
しかも口調も変わってるし。
まあ、慶介のやったことを思うと、そうなって当然だとは思うが。

(とりあえず、今のうちにカードを回収しておこう)

僕は女性が慶介を追いかけているすきに、最後の一枚のカードを回収しておくことにした。
さて、逃げ出した慶介だったが、すんなりと捕まったようで先程と同じ要領で体の向きを変えられると

「のおお!!!」

断末魔と共に殴られるのであった。

「ほうふへ、はへほ?」
「そうだな」

ものすごく言っていることが理解できなかったが、何を言いたいのかはすぐに分かった。
殴られた鼻を抑えながら戻るように促す慶介に、同情を隠せなかった。
そんなことを思いながら、僕たちは自分の席がある車両へと戻るのであった。











「それは違うよ!」
「いや、おにぎりは最初に香りを楽しんでパリパリ―とした食感を堪能するのが通なんだって」

戻ってすぐに聞こえたのは、何やら議論をしている律と唯の声だった。

「あ、浩介君おかえり。あれ? どうして佐々木君は鼻を押さえてるの?」

僕たちに気付いたムギの問いかけに、僕はどう答えたものかと悩んだが、

「ちょっとしたミスだ」

結局そう答えることにとどめた。

「浩介!」
「浩君!」
「な、何!?」

そんな僕に詰め寄るように声をかけてきたのは、律と唯だった。
その眼は真剣そのもので、僕は固唾を呑んで後に続く言葉を待った。

「おにぎりは海苔から先に食べるんだよね!」
「いいや、食感を楽しんでから食べるのが正しいよなっ?」

二人が聞いてきたのは、おにぎりの食べ方だった。

(何? このくだらない不毛な争い)

二人にしてみれば重要なことなのだろうが、関係のない僕から見ればまったくもってくだらないものだった。

「知らんっ!」

だからこそ僕の答えもそうなるわけで。

「えぇー、ちゃんと答えてよ!」
「そうだぞ! 男はここでびしっと言ってこそじゃないか!」

僕の出した答えにこちらににじり寄りながら猛反発してくる二人に、僕は一つため息をつくと

「自分の好きなようにすればいいだろ」

というのであった。
結局、この後もおにぎりの正しい食べ方討論は律が車窓から見える富士山に気づくまで続くのであった。
それが、僕たちが京都駅へ向かうまでの出来事だった。

(なんだか、あとが思いやられるな、これ)

しょっぱなから色々とカオスな状態になっているこの修学旅行に、僕は不安を覚えるのであった。
ちなみにこれは余談だが、二回も女性に怒られた慶介だが、京都駅に到着するまでどんよりとしていた。
さすがの慶介も、ショックからの立ち直りは時間がかかるようだった。
とはいえ、すぐに立ち直られたらある意味すごい人になるわけだが。

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