健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第17話 二日目

僕は夢を見ていた。
そう、それはとても懐かしい光景だ。









―9年前―

僕、高月浩介はいつものように人任務を終え、魔法連盟へと帰還していた。
任務の内容は我が国を攻撃しようとするテロ組織の鎮圧。
要求内容は莫大なお金をよこせという物であった。
もし反応がなければ我が国内で無差別テロを起こすという脅しまでくわえていた。
勿論、テロに屈するわけもなくテロ組織の鎮圧と相成ったわけだが、どうせ鎮圧したところで恐怖は取り除けないことは明白。
そう思った僕は、無許可で組織の者を一人残らず始末した。

「失礼します。法務大臣、高月です」
『入りたまえ』

ある部屋のドアをノックし、中から返事をもらった僕はドアを開けて中に入る。
そこはアンティーク調の家具が置かれている一室で、奥には社長椅子に腰かける黒髪の男の姿があった。

「何かご用で? 連盟長」
「また無断で始末したようだな」

連盟長の咎めるような口調の問いに、僕はまたかと心の中でため息をつく。
また長い説教か、と思っていた。

「まあ、それはいいとして、お前に特務を与えよう」
「特務?」

連盟長の口から発せられた言葉に、僕は豆鉄砲に撃たれたように固まった。

「ああ。この世界に向かい魔法を封印してスポーツ以外の栄誉を上げろ」
「なッ!?」

連盟長の告げた特務に、僕は言葉が出なかった。
魔法を使わずに、スポーツ以外であげられる栄誉は限りがある。
しかも、栄誉を挙げられる保証もないのだ。

「そこは魔法文化0だ。くれぐれも魔法の事がばれることの無いようにしろ」
「…………左遷、ですか?」

僕の驚きを無視して説明する連盟長に、僕は問いかける。

「それはお前自身が良く分かっているはずだ。話は以上だ。下がれ」

有無も言わせないと言わんばかりの態度に、僕は連盟長室を後にすることしかできなかった。
それが、僕がこの世界へとやって来るに至る記憶だ。










軽音部の強化合宿二日目は、とてつもなく騒がしかった。

「起きろー!!」
「ペプシ!?」

一番最初に聞こえたのは、律の叫ぶ声。
そして顔中に走る痛み。

「律! やり過ぎだ!」
「大丈夫?」

澪と律ががやがやと言い合う中、ムギが心配そうに声をかけてくる。
とりあえず僕は大丈夫と告げて体を起こす。
外はすでに明るく、今が昼間であることを告げていた。
そして漂ってくる美味しそうなにおい。

「さあ、浩介も起きたことだし朝ご飯を食べようぜー」
「おー!」

右腕を上げながら律が告げると唯もそれに続いた。

(なるほど、早く朝食が食べたかったわけね)

たたき起こされた理由が分かった僕は、苦笑しながら席に着くのであった。










朝食を食べ終え、食器を洗い終えると僕を含めた全員がロビーのソファーに腰かける。

「さて、今日の予定だが」

それを見計らい、律が真面目な表情で口を開いた。

「海で泳ぐぞー!!」
「おー!!!」

右腕を上げながら律が告げると、唯もそれに続く。

「こらこらー!」

僕が口を開くよりも先に、澪が叫んだ。

「えー。だって昨日だけじゃ遊び足りないんだもん」

澪の言葉に、唯が反論した。

「練習のためにここに来たの!」
「そう言う澪は昨日は練習の事を忘れてたくせに」
「うぐっ!?」

律の一言で、澪は何も言い返すことが出来なくなった。
確かに、澪は昨日練習のことをすっかり忘れていた。
そんな澪は、何とかしてと言わんばかりにこっちを見てきた。

(やれやれ、ここは僕が言うしかないか)

僕は心の中でため息をつく。
これからやることはDKとしてやってきたのと同じ方法だ。
今はもうそれをする必要はないが、昔は色々とH&P内は酷かった。
その結果、僕は鬼軍曹の二つ名を与えられる羽目になるのだが。

(テーブルの上に危険な物はないな)

取りあえずテーブルの上を確認してみた。
もしコップなどがあればかなり危険なため、移動させないといけない。
だが、幸いなことにコップなどの危険な物はなかった。

(よし、やるか)

何をして遊ぶかという話に移りだしている様子をしり目に、僕は深呼吸をするとかなり加減をしてテーブルにこぶしを下ろした。
”ドスン”と重い音が響き渡り、今まで聞こえていた話し声は、ぴしゃりとやんだ。

「昨日遊んでおいてまだ遊ぶと言うか!」
「「「「っ!?」」」」

僕の怒号は思った以上に響き、全員が肩を震わせる。

「ふざけるのも大概にしておけよ? ムギに無理を言って別荘を借りてるのに、練習しないとか舐めてるだろ?」
「えっと、そんなに無理はしてないわよ」

引きつった笑顔を浮かべながら必死にフォローをしてくるムギに悪いと思いながら、僕は言葉を続ける。

「今日は朝から晩まで特訓だ。泣こうが喚こうが関係ない。抵抗するなら引きずってでも連れて行く。さあ、遊びたいという奴はいるか!!」
「リ、りっちゃん!」
「お、おう! いざ行かん! スタジオへ!!」

僕の一喝が功を奏したようで、二人は逃げるようにしてスタジオへと駆けて行く。

「はぁ、大声で叫ぶのは疲れる」
「び、びっくりしたぁ」

大きく息を吐き出しながらの僕の言葉に、澪がほっと胸をなでおろす。

「これくらいしないと、あの二人は絶対に練習をしない。さ、僕たちも行くよ。言い出しっぺが遅れたらシャレにならないし」

おやつ休憩の時間を設けてチーズケーキでも振舞おうと心の中で思いながら、僕はスタジオへと向かうのであった。










「まずは、カバー曲の『Leave me alone』から始めよう」

セッティングを終わらせて、いつでも演奏が出来る状態になったのを見計らって僕は、全員にそう切り出した。

「まずは、曲の方を聞いてほしい」
「いつの間に持ってきたんだ?」

持ってきていたCDプレーヤーをスピーカーに接続させながら言うと、律が呆れたような口調で聞いてきた。
それを無視して、僕はCDを再生する。
流れてきたのは『Leave me alone』のボーカルがないバージョンだ。
AメロBメロと行ってサビに入る。
そしてサビの後は間奏なのだが、サビの後に再びAメロに移行する。

「あれ?」

それに気づいた澪が声を漏らす。
Aメロに戻った後Bメロといきその後にやってきたサビの後に間奏が入り、元の曲の状態に戻る。

「サビの後の間奏の前にAメロを取り入れたんだ。これで演奏時時間は3分弱はあるはずだ」
「す、すご」

一体何に対してのすごいかはよくわからないが、好感触のようだ。

「この曲は、ギターパートを僕と唯のツートップ……つまり同じコード進行で演奏する」

唯にでもわかりやすいように、独特の単語を出来るだけ噛み砕いて説明していく。

「これは、曲風を考慮するとボーカルは僕で行くけど、何か異論は?」

僕の問いかけに、全員が首を横に振った。

「それじゃ早速始めようか。唯、この曲のギター弾けそうか?」
「うーん。たぶん」

何とも頼りない返事だ。
唯には耳コピのスキルがある。
このスキルは非常に重宝する。
何せ、いちいち譜面におこす必要がないのだから。

「他三人には譜面を渡すから、それを見ながら演奏してみよう」
「うへぇ」

譜面を見た律が眉をしかめる。
その様子を見ながら、僕はこの別荘に元々置かれていた譜面台を三人の前に置くとそれに譜面を置かせる。

「あれ、浩介は?」
「僕はもう覚えたから必要ない」
「お前は、何者だ!」

僕の答えに律が叫ぶ。
律の言葉に一瞬息が止まりそうになったのは秘密だ。

「さあ、演奏を始めよう。律、リズムコールを」
「お、おう! 1,2,3,4,1,2!」

二拍子多いコールの後に、演奏が始まる。
最初はムギのキーボードからだ。
それに続き、澪のベースと律のドラムが産声を上げる。
そしていよいよ僕たちの番だ。

「………」

弾いて分かったのは音程がずれていること。
ギターの問題ではない。
奏者の問題だ。
唯の方を見ると、指を触れさせる弦の場所が微妙にずれていた。
さらにドラムとベースとキーボードの音がバラバラになる。
理由としては律のドラムが走りすぎたりゆっくりと歩き過ぎたりするために、テンポがめちゃくちゃだからだ。
澪のベースもどことなく力が弱く、他の音に埋もれてしまっている。
ムギも微妙に音の伸ばしが弱い。
僕自身も、微妙にではあるがテンポがキープできていないようにも感じた。
要するにみんながダメという事だ。
取りあえず通しで弾くことにした。
本来は随所随所で止めるのがいいのだが、合宿の時間がないため一度通しで弾いておいて曲の演奏(雰囲気とも言うが)に慣れさせる必要がある。。





「ふぅ、終わった終わった」

弾き終えて、律が微妙な達成感を感じている中、僕は口を開いた。

「皆ダメダメだ。律はリズムがバラバラだし、澪のベースは弱いし唯は抑える場所違うし、ムギは伸ばしが弱い」
「うぐっ!」
「よ、容赦がないね」

僕の指摘に、全員が固まっていた。
とは言え、本当のことなのだから仕方がない。

「律、リズムキープをちゃんとやって。走りすぎたとしても、みんながそれに合わせるはずだから」
「おーけー!」
「澪は出来る限りベースを前に出して。音に埋もれたら曲自体がつぶれるから」
「わ、分かった」
「ムギは、音を止める感覚をもう少し遅めに。長すぎなければアドリブとして成り立つはずだから」
「分かったわ」
「唯は最初は僕のギターの弦を押さえている所をよく見て。二番も同じコードで行くからそこでうまく弾けるように努力」
「ラジャー!」

僕は全員に簡単に改善点とポイントを出していく。

「さあ、律。リズムコールを!」
「おう! 1,2,3,4,1,2!」

そして再び演奏が始まる。
二度目の演奏では、多少ばらつきはあったものの、音がゆっくりと揃い始めていた。
そして三回四回と回数を重ねるうちに……

「うん。今のはいい感じだ」
「ふぅ、長かった~」

音の感覚も少しのずれに留まり、リズムキープも少しではあるが出来ていた。
唯のギターはまだ要練習だが、学園祭で披露するレベルには到達できた。
後は、毎日の練習で正確度を高めて行けばいいだろう。

「お、もう昼か」

ふとスタジオの壁につけられていた時計に目をやると、12時を過ぎていた。

「お腹すいたぁ~」
「何か食わせろ!」

律と唯が声を上げ出したため、僕たちは昼食にすることにした。
とは言え、律と唯が声を挙げなくても昼食をにしていたのだが。










「さて、ここからがオリジナル曲だ」
「おぉ~!」

僕の宣言に、唯が拍手をする。

「これが、ムギが作った曲に肉付けをした物だ」
「うわぁ、かなり本格的だな」

譜面を見た律が感想を漏らす。

「最初の律のリズムコールはバチを合わせる音だけ。そこからフィルで音楽が始まり、ベースとキーボードそしてギターがそれに続いていく。この曲はスピードが重要だからそこに重点を―――」
「よ、読めない」
「「「「…………」」」」

僕の説明を遮った唯の一言は、ここから先がどれだけ険しい山道かを知らせるのには十分だった。

「そんな唯にこれをやろう」
「これ、なぁに?」
「僕お手製の、譜面の読み方と弦を押さえる場所の見方だ。とにかくそれを覚えて」
「ラジャー!」

敬礼する唯を見て、解読書を作っておいてよかったと内心ほっとしていた。
一つコードを覚えたら三つのコードを忘れる唯に、覚えろというのはかなり酷だ。
ただ、何度も叩き込めば感覚で鳴れていくはずだ。
要するに、机上理論ではなく実際にやった経験値で学ばせるということだ。
感覚で演奏が出来るようになれば、僕の解読書を使って譜面を読むこともできるようになるだろう。
……たぶん
譜面と解読書を見比べながら譜面を読んでいる唯をしり目に、僕は曲についての説明を続けた。

「よぉし、読めた~!」
「お、速かったな」

説明を終えるのと同時に、唯も譜面を読み切ったようだ。

「これもギターパートは唯と僕のツートップ。1番と2番はほぼ同じコード進行だから、さっきと同じ要領で自分の物にして行くんだ」
「了解です! 師匠」
「………」

何故師匠?
唯の返事に首を傾げるのを必死に堪える。
とりあえず、唯には僕が教えて行った方が良いようだ。
そんな事を心の中で思っていた。










「あぁ~、このケーキが身に染みるぅ」
「何か、大丈夫か?」

テーブルに突っ伏しながらチーズケーキをほおばる律と唯の姿に、思わずそう聞いてしまった。

「でも、二,三回練習しただけであそこまで形になるなんて思ってもいなかったよ」

驚きなのは、通しで三回ほど弾いただけで、そこそこ形になった事だった。
勿論通しで弾き終わった後に、色々とレクチャーはしていたのだが、それにしてはかなり上達が早かった。

「それは師匠の教えの良さどすな~」
「師匠はやめい」

唯の”師匠”という言葉に、僕はきっぱりと言う。
僕は”師匠”とか人の模範になるようなタイプではない。
どっちかというと反面教師がいいところだ。

「でも、浩介の教え方はとてもうまかったぞ」
「ええ。私も色々と勉強になりました」

澪とムギまでもが加わり、僕はばつが悪くなり天井を見上げた。

「お、照れておりますな」
「照れてますわね~」

そんな僕に唯と律がからかうように言ってきた。
きっとその表情は二や付いているだろう。

「さて、もうひと頑張りだ。まだオリジナル曲は残ってるんだから」
「「「おう!」」

僕はごまかすように切りだして、再び練習を始めた。
結局この日、オリジナルを含めた三曲を通して演奏し、なんとか形になった。
とはいえ、まだ誰かに聞かせられないレベルではあるが。

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