健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第27話 包囲網

「そこに座って」
「了解」

どうやってかは知らないが保健室のカギを手に入れた聖沙さんはドアを開けると、パイプいすに座るように告げる。
僕は大人しく椅子に腰かけると、聖沙さんが手当てをする道具を取り出すのを見ていた。

「今更なんだけど」
「なに?」
「僕が自分でやればいいような気が――」
「キッ!!」

何故か睨まれたため、僕は口を噤む。

「じっとしてなさい」
「はいはい」

適当に言葉を返して、僕は自分の腕に施される処置をただただ見ていた。
その処置は、とても手際が良くて、それほど痛みを感じることはなかった。
尤も、痛みがないのは治癒しかかっているからだが、それでも彼女の手際の良さには変わり無かった。

「まったくこんな無茶して」
「分かったから、もう許して」

ぶつぶつと文句を口にする聖沙さんに、僕は懇願する。
心配してもらっているのは分かるのだけど、ものすごく罪悪感を感じる。

「別に許してないわけじゃないわよ。何もできない自分に腹が立ってるだけよ」
「…………」

彼女の言葉に、僕は何も返せなかった。
彼女の表情が本当に悔しそうだったから。
自分の安直な行動を悔いた。
だが、これがきっと彼女の今後の役に立つという予感もしていた。
戦いに恥ずかしさは不要。
そうしないと、大事な者も守れないのだから。
きっとこれからはさらに強くなるだろう。

「はい、終わり」
「ありがとう」
「こっちこそごめんなさい。私のせいで」

お礼を言うと、遅れて謝罪の言葉が来た。
僕はそれに”気にしないで”と答えた。

「さて、もう遅いし。良ければ家まで送って行くけど」
「結構です!」

即答だった。
ここまできっぱりと言われると、逆に清々しささえ感じる。

「分かった。それじゃ、校門まで送ってこう」
「べ、別にいいわよ。それに怪我もしてるし」
「歩くのに支障ないし、九条家に向かうルートと一緒だから」
「だ、だったらいいわ」

さすがに家まで送って行かれるのはいやなのだろうと思い、校門までということで妥協することになった。

「それじゃ、後片付けでもしてここを出るか」
「そうね」

僕たちは保健室の後片付けをすると、明かりを落として保健室を後にするのであった。










保健室のカギを元の場所に戻し終えた僕たちは、校舎を出た。

「これ、ありがと」
「別にいいわよ」

包帯に包まれた右腕を上げながらお礼を言うとそっぽ向かれた。

「こっちが良くないよ。……そうだ、いつの日かディナーでもご馳走するよ」
「え? そんな悪いわ」
「気にしなくても良いよ。夕食を作るのもそんなに大変な物でもないし。というより、拒否されたらこっちが困っちゃうくらい」
「……………そ、それじゃ、お願い」

消え入りそうな声で恥ずかしそうに頷いた聖沙さんに、僕は”任せて”と腕まくりをするようなしぐさで答えた。

「変なの」
「よく言われる」

そんな仕草に、ようやく笑った聖沙さんに、僕はそう返した。
そうこうしているうちに、校門前へとたどり着いた

「それじゃ、また明日」
「ええ、また明日」

こうして、僕と聖沙さんは分かれた。
そして、僕は九条家へと戻ったわけだが

「ど、どうしたの!? その怪我 ―――え? 自分から? あなた、何考えてるの? 馬鹿じゃないの!!」

仔細を知った神楽の説教を喰らう羽目になった。
何気に怪我をした痛みより、こっちの方が辛かったりする。

「ちょっと、聴いてるの!?」
「は、はいぃ!」

こうして神楽の説教は続いていく。
終わったのは、午前2時を過ぎた時だった。










11月17日

日曜日、休日ではあるが、生徒会の作業があるために、学園にやって来ていた。

「それにしても、『愛のよろめきのやつら』はすごい展開だよね」
「何ですか? それは」

ナナカさんから始まって、生徒会のみんなが和気あいあいと話ながら作業を進める。
そして僕は、いつものようにその手伝いをする。
そう、この時までは。

「む」
「…………」

不意に感じた周辺のざわめきに僕は周囲を見渡し、シンは眉をひそめた。

「どうかした? あ」
「何か、おかしな感じがする」

そんな僕達の様子に疑問を持ったのか聖沙さんが問いかけるが、途中で異変に気付いたのか言葉を止める。
この気配はおそらくは魔族だ。

「魔族………でもどこから」

シンもそれが分かっているのか周辺を見るが、それはおそらく無意味だろう。
何せ、この感じだと………

「姉上! ここは危険ですぞ! 後はそれがしに任せてお逃げくだされ!」

そんな時、ドアを蹴り破るような勢いで開け放ち、黒っぽいショートヘアの少女が飛び込んできた。

「物の怪どもが学園に満ち溢れております! ですから―――」
「こんちはー」

女子学生の言葉を遮るように、背中に小悪魔を連想させる羽を生やした少女、サリーちゃんが入ってくる。

「出たな、物の怪! ここへのこのこと現れたのが運の尽き――――むぐぐぐっ!」

薙刀を取り出してサリーちゃんに構える女子学生の口を、聖沙さんが果敢にも塞いだ。

「すぐそうやって薙刀を振り回さないの!」

女子学生を注意するその姿は、まるで妹を叱る姉のような感じに見えなくもない。
色々と悶着していると、気の抜けるような音楽が流れだした。

「じいや? あ、はい。分かりました。理事長さぁん!」
「『俺を読んだのはお前か?』」

どうやら、その音楽はロロットの持つ携帯の着信メロディーだったようで、電話に出たロロットの呼びかけに、理事長が現れた。
しかも、無性にかっこいいセリフを口にしながら。

「そうです!」
「仔細は民子ちゃんから聞いたわ。了解、学園上空への侵入を許可する」

そのヘレナの言葉の後、すぐにヘリコプターのプロペラが回る音が聞こえた。

「じいやからの連絡です。学園内に敵影多数だそうです」
「どういうことなの!?」
「今、じいやが学園を空から見たら、魔族さんの姿をたくさん確認したということですよ」

ロロットの報告を聞いた聖沙が驚きながらロロットに問い詰める。

「具体的にはどれくらい?」
「どれくらいですか? そ、そんなにいるんですか!?」

敵の数を聞いたロロットは顔を引きつらせる。

「50以上だそうです!」
「ご、ごじゅう!? マジやばいじゃん!」

ロロットの口から出た数字に、周囲に絶望の色が出始める。
だが、僕は。

「なんだ、たった50か」

昔はその5倍の数を相手にしたこともあった。
結果は語らずともだが。

「大森君?」
「で、どうする? ここでびくびく震えながら迎撃する? それとも、こっちから叩き潰しに行くか?」

僕の呟きが聞こえたのか、怪訝そうな表情で声をかけるシンに、僕は尋ねる。

「………」

しばらく無言だったシンだが、口を開いた。

「皆―――――」

そして、これからの行動が告げられるのであった。

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