健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第28話 連戦の先にあるもの

「立てこもっていても勝てそうもないと思うけど、いくらなんでも無謀だわ!」

シンの指示は単純だった。
立てこもるのではなくこちらから立ち向かっていくという物だ。
それは、僕のこれまでの経験上、一番の最善の策であると断言できる。
立てこもれば、確かに包囲されることはないだろうが、敵はどこからやってくるかは分からない。
天井などから襲撃されればひとたまりもないのだ。

「それがし、先陣を承ります!」
「紫央、あなたは最終兵器だから、私たちの後ろからきて」

威勢よく告げる女子学生に、聖沙さんは苦笑いを浮かべながら指示を出した。

「おお。ようやく姉上もそれがしの実力を認めてくださりましたか!」

いや、それは反対の意味だと思う。

「信じやすい奴だぜ」

大賢者の言うとおりだった。

「放送で、学園生徒と職員は建物内に退避させたわ。存分にやりなさい。ついでに、私も気が向いたら助けるわ」
「ありがとうございます」

何だか、ノリで仲間になるような感じに聞こえたが、戦力が増えるのは非常にありがたかった。
シンの作戦は、敵の大将を直接たたくこと。
一番合理的な作戦だった。
そう、これを慣用句で例えるならば、

「賞を射んと欲する者は、マズイ馬を射よ。ですね!」
「は?」

僕が言おうとしていた言葉をロロットさんが口にするが、ものすごくめちゃくちゃだったため、僕は思わず聞き返してしまった。

「将を射んと欲する者は、まず馬を射よ、ですぞ」

女子学生が正しい慣用句に言い直したが、ロロットさんのははっきり言って意味が逆だ。

(今度、日本語について特訓するように言った方が良いかな)

言う相手は今ヘリから状況を見ている人でいいだろう。

「いくつもある魔力の気配の中で、一番大きくて強い物がある所に大将がいる」
「なるほど」
「わ、私だって今言おうとしてたんだからね!」

何故か聖沙さんがシンと張り合うが、少々分が悪い。
なぜならば、シンは人間(・・)ではないのだから。

「敵が僕らを包囲する前に突破するんだ」

こうして、学園包囲網戦は幕を開けるのであった。










(何だかんだ言ってみんなをしっかりと束ねている……さすがは魔王といった所か。素質は十分だけど、まだ覚醒までは程遠い……か)

あいつと比べる(のも色々と失礼だと思うが)良い線は行っている。
このまましっかりとトレーニングをすればあいつと同じレベルまでこぎつけるだろう。

(だとすれば、今度こそ僕は守らなければ)

あの時(・・・)のようなことにならないために。

(それが、あいつら(・・・)に出来る罪滅ぼしなんだから)

「――介、浩介!」
「な、なに!?」

突然大きな声で呼ばれた僕は、慌てて思考の海から抜け出す。

「何じゃないわよ。さっきからぼーっとして」

どうやら、考えにのめり込み過ぎた様だ。

「ご、ごめん」

取りあえず謝っておくことにした。

「大丈夫? 浩介君はロザリオも持ってないんだから、やっぱり中で待っていた方が――」
「心配無用です。これで自分の身位は守れますし」

僕はそういって鞘に収められた西洋風の剣を掲げる。
これが、僕のお守りでもある。
その名も創造せし者”クリエイト”。
かなり昔に僕が使っていた物で、僕の右腕的存在だ。

「それって、剣だよね? 大丈夫なの」
「心配無用。この剣には相手の攻撃をすべて跳ね返す”反射”の特性があるから」
「何、その変態の男が英雄になるために奮闘する某物語みたいな代物」

何を言っているかは分からないが、クリエイトの特性は反射ではない。
だが、それは言わなくても良いだろう。

「それだったら安心だ。魔力の気配が一番強いのは向こうの方だから、最短距離で突撃だ!」
「オーケー!」

シンの指示を受け、僕は返事をするとシンに続いて駆けだす。

「うわ。魔族さん達ですよ!」

ロロットさんの言葉に、前方を見るとそこには三体の猫耳の魔族が待ち構えていた。

「ニャー!」
「い、いきなり攻撃?!」
「怯まないで走れ!」

いきなり猫魔族が火炎を放ってきたため、ナナカさんがツッコみ口調で声を上げるが、僕はそう一喝すると速度を上げた。

「ちょっと、浩介君!?」

そんな僕に、リアさんが驚いた様子の声を上げる。

「危ないよ!」

続いてシンが僕を引き留めるように叫ぶ。
確かに、このままでは危ないだろう。
僕は、鞘から剣を抜くと迫ってくる火炎に意識を集中する。
クリエイトのリーチ範囲内に入る半歩前のタイミングで剣を振りぬかなければいけない。
そうでないと、確実に僕に命中するからだ。

(今だッ!)

「やぁ!!」

僕は火炎に向けて剣を振りぬく。
その瞬間、僕の元へと向かっていた火炎は一直線に放ったであろう猫魔族の元へと弾き返される。

「ニャー!?」

猫魔族も驚きを隠せない様子だ。
それもそうだろう。
ただの人間が自分たちの攻撃をそのまま跳ね返すのだから。
はじき返した火炎は猫魔族に命中することはなかった。
だが、そこも計算の内だった。
動揺している猫魔族をしり目に、クリエイトを鞘に戻すと僕は常時の2倍の速さで移動する歩法でもある瞬動を使い、一気に猫魔族の背後に回り込む。

「高の月武術―――」
「ニャー!?」

静かに呟きながら剣の柄を掴む。
ここで気付いたところで、時すでに遅し。

「散!!」

鞘から抜いた勢いのまま放たれた三撃に、猫魔族は容赦なく飲み込まれた。

「ニャー!!」

その攻撃に猫魔族たちは戦意を失い、ばらばらに逃げ出した。
気が付くと、走っていたはずのシンたちは茫然と立ちどまっていた。

「す、すごい」

そんな呟く声が聞こえた。

「立ちどまってないで走る!!」
「あ、うん!」

僕の言葉に正気を取り戻したのか、シンたちは再び駆けだし始めた。
僕もそれに続く。
しばらく走り並木道に入ったところで、気の抜けるような音楽が鳴り響く。

「じいや! え、はい!」

どうやらロロットさんの携帯の着信音のようだ。

「会長さん! 前方に魔族がいるそうです」
「わき道は?」
「そちらにもいるみたいです」

という事は、どっちに行こうと魔族と鉢合わせになるのは必至。

「……魔族の姿が見えたら皆で一斉攻撃をして貰いたいんだけど、大丈夫?」
「僕は大丈夫」
「私も」
「私もよ」
「私も」
「私も大丈夫です」
「何か、考えがあるの?」

そのシンの問いかけに、僕は頷く

「にゃー!!」
「行くよ、みんな! エターナルディザスター!」
「プリズミックドライブ!」
「ニルヴァリンゲイツ!」
「グラシアルエッジ!」
「フォトニッククルセイダー!」

猫魔族が現れるのと同時に、皆が一斉砲火を始める。
それよりも早く、僕は上空へ飛び上がる。
剣状のクリエイトを鞘から抜く。

「高の月武術―――」

そして、静かに呟きながらクリエイトの刃先を地面の方へと向ける。
敵がシンたちに気を取られている隙に上空から落とす作戦だ。

「鎮!」

そして落ちる速度を利用して、一体の猫魔族にクリエイトを突き刺す。
とは言え、この”高の月武術”は、武器の特性を捻じ曲げる武術なので、突き刺したところで、刃先は貫通せず、猫魔族が地面に叩き付けられるだけだ。
それはともかく、僕は前に回転しながら次々に”高の月武術・鎮”を放っていく。

「ッぐ?!」

三体の猫魔族に放ち終えた僕は、地面に着地するが、一瞬意識が揺らいだ。

(能力9割カット状態で、これは連発できないな)

魔族であることはおろか神であることも隠そうとしているため、能力の9割をカットしている。
それは身体能力も然りのため、先ほどの動きは体にかなり負荷を掛ける結果になった。

「大丈夫?」
「ああ。問題ない」

クリエイトを鞘に戻しながら立ち上がる僕に、シンが声をかけてくるが、僕は平気だと答える。

「いそいで!」

周囲に感じる魔族の気配はどんどんと迫ってくる。
シンの判断は正しかった。
そして僕たちは再び駆けだした。










たどり着いたのはフィーニスの塔が良く見える高台の広場だった。
そして、魔族の気配がとてつもないほどに大きくなっていた。
おそらくは周囲に……

「にゃ、にゃ、にゃ! あらわれたにゃ貧乏人ども!」

まるでタイミングを計ったように、パスタが姿を現した。

(やっぱりパスタか)

道中で感じた魔力の気配が彼女の物と似ているような気がしたため、もしかしたらと思っていたがやはり彼女だったようだ。

「何でプリエの不良ウエイトレスさんがここに!?」
「お姉ちゃんが皆を退避させたはずなのに」
「それ以前に今日は日曜日だぜ」
「いくら問題のあるウエイトレスさんでも巻き込むわけにはいかないわ」

パスタの登場に、ナナカさん達が驚いた口調で声を上げる。

(とは言え、不良とか、問題があるとか失礼だろ。まあ、本当の事だけど)

「ここは危ないから、どこかに隠れていてください。お願いします」
「え?!」

シンの口から出た言葉に、僕は驚きを隠せなかった。
まさかとは思うが、シンたちは彼女が親玉であることに気付いていない?

「あ、あのにゃ。パスタは――――」
「親玉はどこに潜んでいるのかしら?」
「ウエイトレスさん、安心してください。僕たちが必ず守りますから」

ほ、本当に気付いてない。

「も、もしかして心配してくれてるにゃ?」
「僕たちは地域と学園を守る流星生徒会ですから!」

そしてかっこいい。
何かが間違っているけど、ものすごくかっこいい。
そんな中、再びロロットさんの携帯電話が鳴り響く。

「大変です! 完全に包囲されたようです!」

これで僕たちには逃げ場が無くなった。

「なんだって!?」
「じいやと理事長さん、強行着陸するって言ってます」
「だめだ!」

近づくヘリの音に信が叫ぶ。
当然だ、いくらあの二人(執事の人はともかく)がアレな人でも、危険すぎる。

「ふ、ふ、ふ。これで逃げられないのにゃ生徒会!」

そんな中、ついにパスタが本性(と言っても隠してもいなかったが)を現した。

「ま、まさかウエイトレスさんが対象だったんですか!?」

そしてようやく気付くシンたち。

「その通りなのにゃ! 魔界七大魔将ナンバー2のパスタにゃのにゃ!」

(ナンバー2……下からか)

僕はすぐさま納得した。

「なんでそんなのがウエイトレスしてるのよ!?」

聖沙さんの言葉に、僕は少しだけ視線を空に向けた。

「お前らはパスタを心配してくれたにゃ。パスタちょっと感動したにゃ。だから周りのやつらには手を出させないにゃ。パスタと親衛隊が相手してやるつにゃ!」

微妙に優しかった。
とは言え、現れた猫魔族は、他の猫魔族よりも強い力を持っているようだ。

(これは、いつも以上に気を付けないと)

僕は、クリエイトを鞘から抜いて臨戦態勢に入る。

「にゃ!」
「にゃー!」

猫魔族たちは息の合ったタイミングで火球と雷撃を放つ。

「させない!」

それをリアさんと聖沙さんが迎撃する。

「アトミックバースト!」
「全然効かないにゃ!」

ナナカさんの火球攻撃を、パスタは軽々と避けた

「ばーか、ばーか! エターナルディザスター」
「フォトニッククルセイダ―!」

パスタの闇攻撃をリアさんが相殺する。

「はぁ! アビスブレイカ―!!」

間髪入れずに、シンが攻撃を放つ。

「我が手に集え、フェイタリティーフォース!」

その言葉の瞬間、シンの背中に紫色の翼が生えたような気がした。
次の瞬間、まるで何かに動かされるような形で、女子学生が前に出る。
その手にあるのはただの薙刀。

「叩き斬る! 国津神の息吹」

そして放たれた一撃は、薙刀に纏う”何か”が、ただの攻撃ではないことを告げていた。

「待ってましたー! ダイレクトアタック」

さらにサリーちゃんのハンマー攻撃がパスタを襲う。

「呼ばれて飛び出たぬいぐるみ。ホームラン」

さらに大賢者パッキーも一撃を加える。

「卑怯者!」

その猛攻にパスタが喚くが、

「お前が言うなよ」

その一言に尽きた。
僕はこの時、好機を伺っていた。
それは、パスタたちが平常心を失う時だ。
その時に、僕は勝負に出ようと思っていた。
失敗すれば無傷では済まない、一か八かの危険な賭けだ。

「あっちいけ! アトミックバースト!」
「ッ! プリズミックドライブ!」

パスタの攻撃に、聖沙さんが雷撃を放つが、相手の属性は火。
対する聖沙さんは雷属性。
分が悪すぎる。
それを決定させるように、聖沙さんの雷撃を打ち消して火炎が聖沙さんに迫る。
それを見るよりも早く、僕は聖沙さんの前に割り込むとクリエイトを構える。

「見つけた! アトミックバースト!!」

クリエイトで斬りつけた。

「にゃに!?」

切り付けた瞬間、火炎が自分の方へと向かってくることにパスタは驚いた声を上げる。

(今だ!)

僕は今が好機と思い、瞬動を発動させる。

「き、消えたにゃ!?」
「高の月武術――」
「そこかにゃ!」

僕の声で、場所を知られる。
だが、それでも僕の勝ちだ。

「圧!」
「にゃ!?」

僕を中心に放たれた波動に、パスタたちは容赦なく吹き飛ばされる。
だが、それさえもパスタたちは耐えきった。
それこそ七大魔将と呼ぶにふさわしい物であった。

「お前は何者にゃ!」
「ただの人間。ちょっとばかし、腕っぷしが強いだけの、な!」

パスタの問いに答えながら、僕は再び瞬動を使い上空へと飛び上がる。
前の猫魔族と同じ要領だ。

「高の月武術―――」

クリエイトに力をためて、

「鎮!」

猫魔族に剣を振り下ろす。
さらに前方に回転しながら、横にいた親衛隊の猫魔族にも剣を振り下ろしていく。

「クロカン! フリスキー! キャラッと!」

パスタが地面に叩き付けられた仲間の名前を叫ぶ。

「シン! 今だ!!」
「う、うん。エルゴフォールクラスター!!!」

僕の合図の意味を組んだシンは、渾身の一撃を放つ。

「ぎにゃー!!」

その一撃はパスタを容赦なく飲み込む。
それは、僕たちの勝利を意味していた。

「くぅぅ、人間のくせに生意気にゃ」

シンの渾身の一撃を受けて、顔をゆがめながら地面に膝をついていた。

「パスタ、君の目的はなんだい?」

そんなパスタに、シンは優しく尋ねる。

「それは教えられないにゃ!」
「こういう時は拷問をして白状させるそうです。チベット式拷問とか石抱きとか、色々あるそうです」

目的を言わないパスタに、ロロットはさらりと物騒な事を口走る。

(ほ、本当に彼女は天使なのか? 天使というより腹黒天使だぞ、それ)

尤も、僕も比とのことを言えないわけだが。

「そ、そんな脅しには屈しないにゃ」

そう言っている割には声が震えているようだが。
それに、もっと言うのであれば、別の拷問方法があるはずだ。
たとえれば。

「………ねこ鍋」
「そこ! 何物騒な事を口走ってるにゃ!!」

口にしていたのか、パスタから檄が飛ぶ。

「拷問って……やれないよそんな―――――」

(あれ?)

ナナカさんの言葉が不意に途切れた。

「この状況じゃ、尋問も―――」

(違う、これはみんなの声が途切れているのではなくて、僕の意識が――――)

そこまで考えた瞬間、僕の意識は完全に闇へと飲み込まれるのであった。

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