健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第18話 合宿の終わりと写真

二泊三日の合宿も終われば一瞬のことにも感じられた。
二日間の強化合宿(とは言え、前半は遊びに費やされたが)で、オリジナルを含めた三曲の骨格は完成した。
後はどうやって人に聞かせられる最低限のレベルまで持って行くかということになる。
これに関してはひたすら練習あるのみだ。
……してくれるか否かは別としてだが。
まだ問題は山積みだ。
例えば、オリジナルの曲名はどうするかとか、歌詞はどうするかとか、ヴォーカルはどうするかとか。
しかも一番問題なのは、まだここの問題を解決出来る所まで行っていない所だったりもする。

(何を焦ってるんだ、僕は)

無意識にあせりの感情が出ていた自分に檄を飛ばす。
焦っても仕方がないのだ。
こういうことは落ち着いてやることに越したことがない。
ただでさえ僕自身に大きな問題を抱えているのだ。
焦ってボロを出すのは非常によろしくない。
そんなこんなではあるが、今日は帰る日。
という事で、別荘の掃除をすることとなった。
特に散らかっていたロビーの清掃も終えて、全員も荷物をまとめて帰り支度は完了したのだが、

「唯、忘れ物はないか?」
「ないよー」
「浩介、一体何回聞くんだ。気持ちは分かるけど」

本日19回目の問いかけに、律は呆れた表情を浮かべながら言ってきた。
また忘れ物で取りに戻るのはごめんだ。

「それじゃ、出発~!」
「「おぅ~!」」

律の言葉に続いて唯とムギが威勢よく片手を上げながら答える。

(ホントに賑やかな奴らだ)

そんな三人を僕は肩をすくませながら見ていた。

「浩介、行くぞー」
「あ、待ってよ!」

澪の声に気付くと、四人は少し先まで進んでいた。
というより、声かけろよ。
そんなこんなで、合宿は無事に終わりを告げるのであった。










「よし、これでいいだろ」

その日の夜、荷物の整理を終えた僕は、リビングのソファーに座り込みながら一息つく。
整理とは言っても明日洗濯する洋服を出したり、着替えたり等々なのだが。

「さて、お茶でも飲んで寝るか」

時計を見ればもういい時間だったので、僕はお茶を淹れようと今まで座っていたソファーから立ち上がった時だった。

「ん?」

突然の視界の揺れに、最初は立ちくらみとも思ったがそれは違った。
揺れは徐々に激しくなり周りの食器棚も激しく音を立てていた。

「地震!?」

ここに来てから何度も体験した地震に、僕は冷静にテーブルの下に避難する。
魔法を使うというのもあるが、防御関連は僕の苦手分野。
強固な障壁は出来てもせいぜい5,6秒が限度だ。
それはともかく、そこそこ強い揺れではあったが、それも10秒程度で収まった。

「ふぅ」

それを確認した僕は、息を吐き出した。
そして身を隠していたテーブルから這い出ると、テレビをつけて地震速報の確認をした。

「震度3か」

それほど大きな揺れではなかったので、2か3だろと思っていた僕の予想は当たっていたようだ。
津波の心配もないようなので、僕はテレビの電源を落とした。

「さてと………」

テレビを消した僕は、もう一度周囲を見渡す。
そこには先ほど片づけたばかりの荷物や、メモ帳などが散らばっていた。
さらには食器も数枚割れていた。

「もうひと頑張りだな」

そして僕の第二の格闘が始まった。
まずは危険な食器の処理。
食器を拾い、それを用意しておいたゴミ袋に入れて行く。

(破片は朝になったら掃除機で吸い込むか)

そう決めた僕は、物置部屋にしまっておいた小さめのカーペットを取りに行く。
そのカーペットを食器が割れたところを中心に敷いていく。

「これで朝までの応急処置になるだろ」

掃除する箇所が増えたような気もしなくはないが、ガラスの破片の対処は十分だ。
後は、各所に散らばった紙類だ。
元の場所に戻していく作業は、割と早く終わらせることが出来た。

「よし、これで終わり!」

時計を見れば草木も眠る丑三つ時を超えていた。
本当によく頑張ったと自分でも思う。

「さあ、今度こそ―――」

寝るぞの言葉はガシャーンと響き渡る大きな落下音に遮られた。
無性に嫌な予感がした僕は、音の発生源でもある調理器具を入れる棚の方を見た。

「…………………」

そこに広がっていたのは、まるで狙っていましたと言わんばかりに中敷きが前方に傾いて(というよりは落ちていると言った方が最適だろう)いる光景だった。
しかも下には調理器具がバラバラに散らばっている始末だ。

「負けない、絶対に負けないぞ!」

僕の負けられない戦いがいま幕を開けた。










それから数日後。

「はーい!」

来訪者を告げるチャイムに、僕は玄関先までかけて行くとドアのスコープから来訪者を確認する。

(律か。そう言えば、写真が出来上がったとか言ってたっけ)

来訪の理由を思い出した僕は、施錠を解除するとドアを開けて来訪者を迎え入れる。

「悪い、待たせた」
「いえいえー」

ドアを開けて謝る僕に、律は軽く応える。

「はい、写真」
「おぉー。わざわざありがとう」

僕は律から写真が収められた封筒を受け取る。

「そう言えば浩介の家ってはじめてくるけど、広いな~」
「物がないだけだよ。それと恥ずかしいからあまりきょろきょろ見ないで」

周囲をまじまじと観察しながら家の事を言う律に、僕は苦笑を浮かべながら止める。

「せっかくだしお茶でも―――」

どうかと勧めようとした僕の言葉を遮るのは、数日前に聞いた物が落ちる音だった。

「な、何事!?」
「合宿から帰った夜地震があっただろ?」
「あー、そう言えばあったな。あの時はびっくりしちゃって、お風呂から逃げ出したよ~」
「………」

僕の問いにその日の事を思い出した律が答えるが、最後のは確実にトラップだろう。

「その時に、棚の大が壊れたようで載せてあった物が落下したんだよ。直したんだけど、どうやら留め具の方にガタがきているようだ」
「無視ですかい」

(やっぱりトラップだったか)

肩を落とす律の姿を見て、僕はトラップを踏まなくてよかったと胸をなでおろした。

「ということで、悪いんだけどお茶はまた別の機会という事でいい?」
「まあ、別にお茶が目当てで来たわけじゃないし。手伝おっか?」
「いや、大丈夫。僕一人で十分だ。申し訳ない」

律の申し出を断ると、律は心配そうな表情を浮かべると、そのまま去って行った。

「さて、直すか」

僕は今頃広がっているであろう惨状にげんなりしそうになるのを堪え、リビングの方に向かうのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


秋山家、玄関。
そこには合宿の際の写真を届けに来た律とそれを受け取る澪の姿があった。
その写真に紛れ込まれていた”恥ずかしい写真”で一悶着があったのはご愛嬌だ。

「あ、やっべ」
「ど、どうした?」

ポーチの中を確認した律が、若干引き攣った表情を浮かべているのを見た澪が不安そうに尋ねる。

「ムギに渡す写真を間違って浩介に渡した」
「それだったら、別に…………まさか」

律の言葉に、胸を撫で下ろそうとした澪は思わず固まった。

「澪の恥ずかし写真を入れておい―――グヘェ!?」
「す、ぐ、に、取り戻す、ぞ!」

律がすべて言い切るよりも早く、襟首をつかむと凄まじい速度で秋山家を飛び出した。

「い、家の場所、知ってるのかよ」

そんな律の言葉も虚しく、澪は凄まじい速度で書けるのであった。
……襟首をつかんだまま。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「ふぅ、なんとかなった」

壊れた棚と格闘すること数十分、ようやく直った棚に、額の汗をぬぐう仕草をしながら一息ついた。
とはいえ留め具の方は完全にダメなようで、すぐにでも外れてしまいそうな状態だ。
取りあえず応急処置として、棚の台を固定しておくことで対処した。
これで少しの間は大丈夫だろう。

「魔法を使えば楽なのだろうけど、これはこれでいいか」

そう呟きながら、先ほど律にもらった写真を見ようと思い、僕はお茶を入れて椅子に座るとテーブルに置いておいた写真の封筒に手を伸ばす。
封を開けて中に入っている写真を取り出すと、それに目を通した。

「おぉ、これは中々」

最初に入っていたのは海を写した写真。
次は海ではしゃぐ律たちの姿。

「ん?」

そんな中、一枚の写真に眉をひそめた。
それは、他の写真とは全く別の写真だった。

「ふっ!!」

それが何なのかを認識するよりも早く、僕はその写真をゴミ箱に放り投げた。

「あの野郎、なんちゅう物を混ぜてやがる」

今度会ったら折檻しようかと思ったが、それをしたら見たということになるので諦めた。

「ん? 今度は誰だ」

そんな中、鳴り響く来訪者を告げるチャイムに、僕は玄関まで向かう。

「な、なんというせっかちな押し方を」

向かうまでに50回を超える勢いで鳴り響き続けるチャイムに、恐ろしさを感じながら玄関先に向かうと、スコープで相手を確認する。

(こ、こわ!?)

その相手の顔を見た僕は、その表情に思わず数歩後ずさりそうになったが、このままだとドアまでぶち破りそうな勢いだったため、鍵を開けてドアを開けた。

「ど、どうし―――ぐはっ!?」
「浩介! あれはどうした、あれはどうした、あれはどうした!」

開口一番の襟首を持ち上げて、体を揺らしながら問い詰める澪に、僕は応えることはできない。
いや、息が出来ないと言った方が正確だろう。

(そう考えられる僕も、ものすごく冷静だよな)

「み、澪、とにかく落ち着け、な。応える前に浩介が落ちる」

そんな澪に、ある意味元凶ともなったであろう人物が止めてくれた。

「あ、ご、ごめん」

律の言葉に正気を取り戻したのか、澪は慌てて手を放すと謝ってきた。
僕はそれに大きく深呼吸をしながら”大丈夫”と、片手を上げながら答えた。

「取りあえず上がって。お茶でも出すから」
「お、おう」
「お、お邪魔します」

僕は取り合えず二人をリビングに通すことにした。

「ひ、広い」
「それにきれいだし」

席についてあたりをきょろきょろ見回しながら呟く二人の様子をしり目に、僕は冷たいお茶をコップに入れるとそれを二人の前に置く。
というより、二人はどんな家だと思い浮かべたんだろうか?
ちなみに片方にはある細工をしている。

「はい、お茶」
「あ、ありがとう」
「サンキュー」

お礼を言った二人は、コップを傾けてお茶を飲み始める。

「ッ!? ゲホッゲホ!」
「り、律?!」

突然むせだした律に、澪が慌てながら声をかける。

「な、何を混ぜだ!」
「ハバネロ」
「はばっ!?」

混ぜた者の正体を知った澪が声を上ずらせる。
僕は律のお茶にだけ、ハバネロを混ぜたのだ。

「ご、ごろずぎが!」
「変な写真を混ぜやがった仕返しだ。まあ安心しろ。その程度では死なないし、少しすれば辛いのが無くなるはずだから」
「ッ!?」

地面にうずくまりながら抗議してくる律に言い返すと、今度は澪が反応した。

「ままま、まさか、みみみみ見たのか?!」
「み、見てない。写真を見るよりも素早くゴミ箱に捨てたから回収しておいて」
「ホっ!」

僕の言葉に何の違和感も感じずに澪は胸をなでおろすと、僕の指差す方向にあるゴミ箱に写真を回収しに向かった。

「あ、あの、舌がひびれへふんでふが?」
「少しすれば治る。けど次はブートジョロキア入りにするから、いたずらも限度をわきまえておけよー」

舌がしびれているのか、微妙に滑舌が悪い彼女にそう告げる。
こうして、強化合宿に伴う騒動は幕を閉じるのであった。

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