健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第3話 続・未知との遭遇

「何だったんだろう。本当に」

風呂から上がった俺は、先ほどの事に考えをめぐらせていた。

(あれが夢とか妄想だったら、俺きっとやばいんじゃないか?)

ただでさえ二重人格という時点でも色々とヤバいのに。
しかし手にはまだあの柔らかい感触が残っている。
それこそが夢とかではない証拠だろう。
だが、人と言うのは良くできているようで、信じられない現象が起こったときは、多くの人は夢や妄想に片付けたがるらしい。

「きっとのぼせてたんだよ。そうに違いない」

そして俺もその一人のようだ。

「このドアを開けたらさっきの女の人が―――」

冗談交じりに言いながら自室のドアを開ける。

「ふぅ、さっぱりした」
「いたよ!?」

ベッドに腰掛ける先ほどの少女の姿があった。
先ほどと違うのは、体にバスタオルを巻いていることぐらいだろう。

(って、そのバスタオル俺のだし)

「あ、タオル借りてるよー」
「…………」

男の前だというのに、恥ずかしがるそぶりも見せずに平然としている彼女に、俺は思わず言葉を失っていた。
まるで旧来の友人みたいな(友人でも恥ずかしがるとは思うけど)反応だ。

(って、考えている俺も冷静だな)

そんな自分に思わず苦笑を浮かべそうになるのを堪えた。
様々な疑問が渦巻く中、俺が口に出来たのは

「だ、誰?!」

そんな言葉だった。

「私? 私はララ」
「ララ、さん?」

とりあえず名前は分かった。
彼女からは少しばかり距離を取りつつ、次の質問を投げかける。

「頼む、一から説明して。どうしてここにいるのかとか」
「うーんとね……」

顎に人差し指を当ててなにから説明したものかと悩むララさんだったが、やがて説明を始めた。
何でも”ぴょんぴょんワープ君”という道具でここに(というよりはお風呂場にだが)に来たらしい。
ワープという単語もそうだし、宇宙船やら宇宙人やら信じられないことのオンパレードだった。

「おやおや、信じてない?」
「そりゃ当然だろ」
「だったら、これを見て」

そう言ってララさんは俺に背を向ける。

「ッ!?」

それを見た俺は色々な意味で、言葉を失った。

「ほらね? 地球人にはこんなものはないでしょ?」

そういう彼女が纏うバスタオルの隙間からは、確かに尻尾が生えていた。
その姿は宇宙人というよりは、悪魔を連想させるのだが、それはこの際どうでもいい。
一番の問題は、彼女の姿だった。

「分かったから隠せ!」
「何赤くなってるの? かわいい」

(何なの? この感覚の微妙なズレは)

背を向ける俺を微笑ましそうに笑いながら言うララさんに、俺は何とも言えない気持ちを抱くしかなかった。

「ゴホンッ! それで、どうして一体どうしてここに」
「私、追われているの」

そこで今までの彼女の声のトーンが少し落ちた。
それにつられて、俺も再び彼女の方へと向き直る。
話によれば何者かに追われて捕まりかけた彼女は、発明品を使って脱出してきたらしい。

「なるほど、話は分かった」

話を聞き終えた俺は静かに口を開いた。

「それだったら、落ち着くまでの間匿ってあげる」
「本当!? ありがとう!」

我ながら赤の他人をここでかくまうなど、お人好しすぎると思う。
だが、困っている人を放ってはおけない。

「だぁ!? 抱き着こうとするなッ!」

俺は、飛び掛かってこようとするララさんを止めた。
頬を膨らませるララさんをしり目に、切実な問題があった。
いや、どう説明するのかというのもあるが。

「服はどうするんだ?」

そう、服だ。
ここには女性物の服はない。
美柑のは……小さすぎるし、母さんのはおそらくだが大きすぎるし……

「それだったら……」
「ララ様~!」

そんな俺の問題をよそに、また何かが現れた。

「ご無事でしたかララ様!」
「ペケも無事に脱出できたんだね!」

”ペケ”と呼ばれたロボットのようなそれは、ララさんとの再会を喜び合っていた。

「ところで、ララ様。そこにいる冴えない顔の地球人は?」

(さ、冴えない)

何だろう、馬鹿にされているのに怒りが湧き上がってこないこの複雑な気持ちは。

「この家の住人だよ。名前は……えっと、何だっけ」
「あ、悪い」

ララさんに尋ねられて、まだ俺は名前を名乗っていなかったのを思い出した。

「俺は竜介。結城竜介」
「リュウスケかー。この子はペケ、私が発明したコスチュームロボなの」
「初めまして」

何故下の名前でという疑問は吹き飛んだ。
いきなりララさんは、纏っていたバスタオルを取り去ったのだ。

「な、何をやってるんだ!」
「それじゃ、よろしくね、ペケ」
「はい、ララ様!」

ララさんの呼びかけに、ペケの体が光ると、ララさんは服を身にまとっていた。
全身タイツのような気もしなくはない、恥ずかしい服装だった。

「どう? 素敵でしょリュウスケ」
「そ、そうだな」

とりあえずは服を着てくれたから良しとしよう。

「時にララ様、これからどうなさるおつもりで?」
「それなんだけど、リュウスケが匿ってくれるって言ってくれたの!!」

(そう言えば、追われているって……)

今まで忘れていたが、彼女は宇宙人。
だとすれば追っているのも宇宙人というわけだ。
……無性に嫌な予感が俺の頭の中を駆け巡った。
そして、その予感は悲しくも当たった。
窓から音もなくサングラスを掛けた二人組の男が姿を現したのだ。
この二人が追手なのだろうか。

「困ったお方だ。地球を出るまでは手足を縛ってでも、貴女の自由を奪っておくべきだった」
「ペケ?」
「はいぃ、ララ様っ!」

ララさんの低い声に、ペケの声を上ずる。

「私言ったよね? くれぐれも尾行には気を付けてって」

そう言って暴れるララさんの腕を黒服の男が掴んだ。
そして大暴れする彼女たちを、俺は呆然と見ていた。

(どうして俺の目の前で修羅場が展開してるんだ?)

しかも土足だし。

「…………」

目の前にいる者達は宇宙人であることは間違いない。
ならば地球人の俺など簡単にひねり潰せるだろう。
だが、俺には不思議な力がある。
手の甲に五芒星を描けば人並み外れた力を行使することが出来る。
これならば、不意を衝いて逃げだすことぐらいは可能だろう。

(って、俺は助ける気か?)

自分の考えていることに首を傾げかけた。
なぜ、彼女を助けるのだろうか?
目の前の少女と俺は全くの無関係。
助けたからと言って、何か利点があるとも限らない。

(それじゃ、なぜ?)

これ以上、土足で動き回られたくないから?
まったく分からなかった。
分かる前に俺は左の掌に五芒星を描いていた。
その瞬間、体中が熱くなった。
それは、力が解放されたことの証。
それを確認せず、俺は”軽く”男達を飛び越えると、床に落ちていたサッカーボールを軽く蹴り上げて

「やぁ!」

ララさんを羽交い絞めにして捕まえている男に目掛けて蹴り飛ばした。

「ぐあ!?」

ボールはうまく男に命中し、衝撃で腕を離されたララさんはベッドに投げ出される。

「掴まって!」
「え?」

鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているララさんの腕をつかむと、窓から外へと逃げ出した。

「待て、小僧!」

屋根伝いに後ろからも黒服の男達が追いかけてくる。
当然と言えば当然だ。

「リュウスケ、どうして?」
「分からない!」

ララさんが聞いてくるが、理由など全く分からない。
俺が聞きたいぐらいだ。
だが、一つだけ言えることがあった。

「だけど、目の前で連れていかれようとしている人を、放っておくことなんてできないんだ!」

いい人ぶっているのかもしれない。
でも、それでも俺は放っておけなかった。
まるで”自分ではない自分”にそうしろと言われたような。
屋根から飛び降りて、公園の方へと駆けこんだ。
公園を横断して反対側へと逃げる作戦だ。
ここら辺の土地勘を活かせば、男達を巻くことも容易い。
だが、それは相手が|人間《・・》であればの話だ。

「のわぁ!? と、トラック?!」

目の前に行く手を遮るように空から降ってきたのは、1トンはありそうな大型トラックだった。
そのトラックはまさに出ようとしていた出入り口を塞いでしまった。

「こっちだ!」

反対側から出ようとしたが、もう一人の男に行く手を阻まれる。
気が付けば、もう逃げ場などなかった。

(なんで公園なんかに入ったんだ! 俺のばか!)

よくよく考えれば、公園ほど隔離された場所はない。
出入り口さえ封鎖すれば、後はもう袋の鼠。
ゆっくりと歩み寄る男達に、俺達は自然と後ろに下がりフェンスの方まで追いやられた。

「来るな!!」

にじり寄る男達に声を上げることしかできなかった。

(どうする? この状況)

もはや絶体絶命だ。
だが、俺には最後の切り札がある。

――お前の手に負えない事態に直面した際は私を呼べ――

竜斗の告げた内容が頭をよぎる。
今こそ、その手に負えない事態ではないだろうか?

(でも、人の力を使って解決するなんて)

男としてはそれが阻まれるわけであって。

「随分と勇ましいな」
「ッ!?」

頭上から降ってくる男の声に、俺は息をのんだ。
空にはUFOのようなものがあった。
とは言え暗いために、それを確認したわけではないが。
そして光の輪の中心から人が現れ、俺達の前へと降り立った。
その人物は銀色の髪に甲冑のようなものを身にまとっていた騎士を彷彿とさせる雰囲気を醸し出す男性だった。

「そこをどけ地球人! 部外者は引っ込んでいてもらおうか」
「断る! 目の前で人を連れ去るのを黙って見ているわけにはいかない」

威圧する様に男から言われるが、俺はそれをに対して拒否した。

「もう一度だけ言う、そこをどけ」
「嫌だと言ったら?」
「力づくでも退いて貰う。命が欲しければ、そこをどけ」

今、この場に立っているだけでも俺はすごいと思った。
体中からいやな汗が噴き出すのが分かっていたのだから。

(良いよな? やっても)

よくよく考えれば人の力というわけではない。
何せ、二重人格でもあり、それも”俺”なのだから。
そんな逃げ口上を思いついた俺は地面に五芒星を描いて、ララさんの手を掴んでいた手を放すと、素早くその場にしゃがみこんで先ほど描いた五芒星に手を合わせた。

「リュウスケ?」

ララさんの困惑したような声を最後に、俺の意識はブラックアウトした。


★ ★ ★ ★ ★ ★


一気に浮上する。
傍観者から演奏者に移る瞬間は、今でも慣れない。
取りあえず”私”は立ち上がる。
”彼”がしようと思ってできないことをする。
それが、私の使命だ。
目の前にいる男は見るからに私の足元にも及ばない。
私が恐れる必要などどこにもなかった。
とは言え、私自身が脆弱だ。
気を付けないと一瞬で終わりになるだろう。

『断る』

私は、そうきっぱりと男に告げようとしたところで。

「ララ様、おやめください! 家出など」
「いやーよ!」

男の言葉に、小娘が言い返す。
だが、私は聞き捨てならない単語を耳にした。

「……家出?」
「私もうこりごりなの! 後継者がどうとかお見合いばかり」

今、私はさぞかし腑抜けた表情をしているだろう。
それほど私が耳にした言葉は色々と衝撃的な事実だった。
彼女が姫様であることもそうだが、追われている理由が”家出”をしたためだとは。
つまりは、彼の覚悟(そんなたいそうな物はないが)は無駄になったということだ。

(私は、この憤りをどこにぶつければいいんだ?)

そこで、私は一つだけいいことを思いついた。

「取り込み中で悪いが、話してもいいか? 家出の片棒を担いだ自分にも多少は関わりあいのあることだし」
「…………いいだろう」

目の前の男の承諾の言葉に、私は一歩前に踏み出す。

「このままやっても平行線のまま。だったらはっきり白黒をつけるべく、私と勝負をしないか?」
「勝負だと?」

私の提案に、男が目を細める。
当然だろう。
何せ目の前の男からすれば私は|ただの地球人《・・・・・・》なのだから。

「内容はそっちの自由。そっちが勝てば彼女を連れてけ。そのかわり、私が勝ったら」
「姫様を連れて行くな、と申す気か?」
「否。彼女の意思を尊重しろという事だ」

私は男の言葉をウ日を横に振りながら答える。

「良いだろう。ならば」

男が取り出したのは緑色に光る剣のようなもの。

(レーザー剣?)

我ながら変な単語を言う物だ。

「ざ、ザスティン?! あぶないよ、リュウスケ!」
「心配するな。私は負けない」

後ろの方で騒ぐ姫君にそう断言した。
”あれ”は危険すぎて使えないが、目の前の男を無力化することくらいはできるだろう。

「そっちからどうぞ」
「では、参ろう!」

ザスティンと呼ばれた男が動き出そうとしたその瞬間、私は素早く男の背後に移動した。

「なッ!? どこに消えた?!」
「ここだ」
「ッ!?」

背後にいる私に気付いたザスティンは、慌てて私から距離を取る。
それを確認するよりも早く、私は再び素早くザスティンの背後へと回り込み

「一回、二回、三回、四回」
「ッ――――」

ザスティンの背中を指で軽くつついた。

「今、私が武器を持っていれば貴殿は武器に貫かれていただろう」
「………」

私の言葉に、ザスティンの息をのむ音が聞こえた。

「どうする? まだ続けるか? さすがにここから先はお互いに身の安全は保障できないが」

別に私の身の安全は保障できる。
それは慢心ではなく、事実だ。
だが、さすがに長引かせるのは面倒くさいので素早く終わらせたいのが本音だ。
よって、一歩引いた形で終わるように促したのだ。

「私の負けだ」

ザスティンの停戦宣言に、私は静かに息を吐き出す。

「すごい、リュウスケって強いんだね!」

そんな私に話し掛けてくる姫君に私は告げる。

「さあ姫君、告げると良い。お前の想いを。お前が成し遂げたいことをすべて。君にはその権利がある」
「リュウスケ?」

首を傾げる姫君をしり目に私は姫君から数歩離れる。
彼女の意思を聞くのは”私”がするべきことではないと思ったからだ。
すると、まるで狙ってきたかのように突風が吹きつける。

「私、――――ッ!!」
「ッ!? 様、それは――――か?!」

姫君の言葉を受けたザスティンが、目を見開かせる。
離れていたのと突風によって声が良く聞き取れなかった。
それからすぐ後に、話は終わったのかこっちの方へと向き直ると

「リュウスケ、またね!」

と告げて、姫君はザスティン達と一緒に去って行った。

「無性に嫌な予感がするな」

誰もいない公園で、私は思わずそう呟くのであった。

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