「それでは今日も、魔法の特訓を始める」
「は、はい!」
師匠の言葉に、俺はたじろぎながらも応えた。
特訓は今日で二日目。
先日の特訓は色々な意味で地獄だった。
内容はごくごく単純で、大量の魔法弾をただひたすら回避し続けるという物だ。
内容だけなら簡単そうに見えるが師匠は意地の悪い魔法弾を大量に放つ。
直線にしか動かない魔法弾。
複雑な軌道を描く魔法弾。
俺を追尾し続ける魔法弾。
同じ場所を進んだりもどったりする魔法弾など様々だ。
それを防御魔法は一切使わずに身体強化魔法、或いは飛行魔法で3時間回避し続けるのだ。
【それじゃ仮想空間シュミレーションをする。目を閉じていつものようにして接続しろ】
俺は師匠に言われるがまま、目を閉じて集中する。
師匠の姿を頭に思い浮かべる。
師匠曰く、それだけで十分だとの事。
次の瞬間、光が走る。
そして俺はゆっくりと目を開けた。
そこはさっきまでの俺の部屋ではなく、一面砂漠の空間だった。
最初ここに来た時は、かなり驚いたものだ。
何でも、ここは仮想空間と言うもので、師匠が作り出した架空世界らしい。
「さて、それじゃまずはいつものシュート練習から始める。昨日のタイムより縮ませろ。目標撃破タイムは30秒だ」
師匠は鬼軍曹を彷彿とさせるような口調で告げる。
ちなみに、魔法理論を叩き込まれた初日にやった際は、1分30秒かかった。
「では、スタート!」
師匠の合図と同時に目の前に複数の円盤が現れたかと思うと、こっちに攻撃してきた。
数は5個。
昨日と同じ数だった。
「はっ、よっ、とッ!?!」
俺はそれを何とか避けていく。
「よく避けれてるな。しかし避けてばかりではきりがないぞ。攻撃して打ち落とせ」
「はいっ!!」
俺は避けつつも攻撃の機会を伺う。
(よし今だ!!)
「貫け閃光! ライトフレイヤー!!」
俺は先日師匠からもらった弓形態の魔導媒体を使い、円盤に向けて5本の矢を射た。
「よし! 命中」
その後一気に2個も破壊でき、俺は思わずガッツポーズをした。
「ほぅ、5発の矢を一瞬で放つとは素晴らしい……だが命中率が悪い。ロックをしっかりしろ」
「はい!」
師匠のアドバイスを聞きながら、俺は再び矢を射る。
気持ちの良い音を立てながら、最後の一発ですべての円盤を撃破できた。
「よし、ミッションクリアだ」
「ふぅ~~!!!」
俺は師匠の言葉を聞いて、地面にへたり込んだ。
「何だ? もうへばってるのか?」
そんな俺の様子を見て、師匠は呆れと優しさを含んだ言葉をかけてきた。
「当たり前です。さすがに疲れる!」
「まあ、今日は5発の矢を放つという新技の成功と言うことで、大目に見てやろう」
師匠はそう告げると、何かを呟く。
その瞬間、一面砂漠だけしかない世界が変わり、俺のよく知る自分の部屋に戻る。
「お疲れ様。どうだ? 二日目の特訓を終えて」
「かなり疲れた。……けど、なんだか強くなれたような気がする」
少なくとも、魔法と言うものには慣れたはずだ。
その実感をさっきの訓練で感じたのだ。
「そうか、それはいいことだ。しかしそれで自惚れるな。まだまだ上があるし、そこで止まっていたらいずれはやられるぞ」
俺は師匠の忠告をしっかりと覚えておくことにした。
まだ俺は阿久津以下だというのは確かだ。
ならば更なる特訓あるのみだ。
「分かりました。教官」
「………まあいいだろう。明日からはもう少し訓練の趣旨を変えよう。どんな物になるかはやる時のお楽しみだ」
おどけるように答える俺に目を閉じて師匠は明日の特訓について話し出す。
絶対に照れ隠しだ。
「お前、今いらぬことを考え――っ!」
「っ!?」
師匠顔をしかめて俺を追求しようとした瞬間、世界が切り取られるような不思議な感触がした。
「結界か!」
師匠の言葉に俺はすぐに立ち上がった。
「ここでの戦闘は非常にまずい。見通しのいい場所に向かうぞ」
「はい!!」
俺は師匠の。指示に頷くことで答える
「相手はあの小僧だ。弱いが、今のお前には十分脅威にもなるから気を付けろ」
「はい」
どうやらこの結界を形成したのは阿久津のようだ。
俺はしっかりと返事をする。
「よし。では出陣だ!!」
そして俺達は、向ってくる敵を倒すべく外に出るのであった。
[0回]
PR