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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第3話 部活

入学式も終わり、後はHRだけとなった。
そのHRでは自己紹介をすることになった。
自己紹介の内容は名前はもちろん、趣味も言わなければいけないのだ。

「お、俺は佐久間啓介と申しますです! 趣味はスポーツでしゅ!」

佐久間は誰が見ても分かるくらいに緊張していた。
しかも最後の方で噛んでるし。
そんな彼の様子に、微かではあるが笑い声も聞こえる。

「はい。それじゃ次」
「はい」

とうとう僕の番となった。
僕は何を言うかをまだ考えてもいなかったが、席を立つことにした。

「高月浩介です。趣味は読書です。よろしくお願いします」

僕は無難な自己紹介をすることにした。
嘘はついてないが。
こうして、自己紹介は進んでいき全員の自己紹介が終え、僕たちは下校となった。










「浩介! 一緒に帰ろうぜ」
「はいはい」

HRが終わって解散になった瞬間に、僕の席にやってくる佐久間に僕はため息交じりに頷くと荷物をカバンに詰める。

「お待たせ」
「じゃ、出発!」

何故か佐久間に先導される形で、僕は教室を後にする。

「入学おめでとうございます!」
「うお?!」

靴に履き替え、外に出た瞬間先輩と思わしき女子生徒たちに行く手を阻まれたかと思うと、一瞬で囲まれた。
どうやら部活勧誘のようだ。

「あ、あれ? 俺には?」

女子生徒たちの部活勧誘の声と混じって微かに聞こえる男の声。
女子生徒たちはそのまま何事もなかったかのように去って行ったが、僕の手に残されたのは大量の部活勧誘のチラシだった。
そして両手を上げてチラシを受け取る姿勢のまま、呆然と立ち尽くす佐久間の姿だった。










気が付けば早いもので、学校が始まりもう二週間が過ぎようとしていた。

「何見てんだよ?」
「部活を紹介する冊子」

佐久間の問いに僕はそっけなく答える。

「部活って……二週間経つのにまだ決めてなかったのかよ!?」
「悪かったな」

前の席を占領した佐久間は机の上に広げた冊子を覗き込む。

「そう言うお前はどうなんだよ? 仮入部とかをやりまくっていたようだけど」
「断られました」

新入部員が欲しい中でも断るということは、よほどのことをしでかしたのだろう。
もしくは本能的な何かでこいつの危険なところとかが分かったりもしたのか?

(どうでもいいか)

僕はそう割り切り、冊子に目を向ける。

「僕さ、思うんだが」
「何だ?」
「この学校の校長か理事長なのかは知らないが、馬鹿だろ」

僕の辛辣な言葉に、佐久間は口笛を吹く。

「何故廃部予定何て記載をする? そもそも、廃部するんなら載せなければいいのに」

僕が言っているのは『軽音部』の部活動紹介の項目だった。
しっかりと部活動名の隣に(廃部予定)と書かれている。

「まあ、普通の学校なら軽音部は定番だしな」
「そうなのか? 僕にはよく分からないが」

佐久間の説明に僕は首をかしげる。
今までイギリスにいたためそういったこととは縁がなかったのだ。

「は? 浩介、中学の時に部活動とかしてなかったのか?」
「まあ、勉強とかもあったしな。そもそも留学しているんだから知るわけがない」
「留学!?」

僕の言葉を聞いた佐久間は固まり、そしてなぜか周りで話していた女子の数人がこっちに来ていた。

「高月君って、留学してたの?」
「あ、ああ。三年間だけど」
「どこどこ?」

何故かは知らないが、留学の話に女子生徒たちは食いついてきたようだ。

「イギリスの方に」
「イギリスか~、やっぱり料理はおいしかった?」
「まあ、味云々は感じ方は個人差があるし、数日もすればなれるよ」

やはり食いついたのは料理関連の方だった。
矢継ぎ早に投げかけられる疑問に、僕は丁寧に答えて行く。

「浩介!」
「な、何!?」

そんな中、今まで沈黙を守っていた佐久間が声を上げる。
そのただならぬ雰囲気に、思わず畏まってしまった。

「イギリスの女性たちのバストは! 美人さんがいたのか?!」
「………」

あまりにもくだらない問いかけに、僕は固まり女子たちは数歩後ずさった。

「高月君」

沈黙が教室内を覆う中、茶色の髪の女子生徒が僕を呼ぶ。
目をやると、手でジェスチャーを送ってくる。
僕はそれを左手の親指と人差し指を使って丸を作り、相手に”了解”とジェスチャーを返した。

「佐久間」
「おう、教えてく―――」

僕は脳天に一撃を加えることで、佐久間の口を強引に閉じさせた。
その後、佐久間は自分の席に突っ伏すことになるのであった。










「部活かぁ」

夜、自分の家に戻った僕は自室で考えをめぐらしていた。
内容はもちろん部活動の事。

(運動部は………)

想像してみた。
運動部に入った僕⇒県内ベスト記録を塗り替える⇒世界大会に出場し余裕で優勝。

「ズルだろ」

僕の身体能力を考慮すると、絶対に入ってはいけない気がした。

「となると、残るのは文科系か」

僕は、文科系の部活紹介ページを開く。
だが、やはり僕の目に留まる様な部活はなかった。

「…………」

たった一つを除いては。
それは『軽音部』だ。
確かに今の僕ならばこの部の方が向いているかもしれない。
楽器系、特に弦楽器なら。
特に、軽音楽系は僕が所属するバンドとほとんど同じ感じの曲だった気がするし。
問題とすればただ一つ。

「僕がプロの……H&Pのヴォーカルであることは知られてはいけない」

そう、僕がDKという事を隠さなければいけないということだ。
だが、これは一筋縄ではいかない。
何せ演奏してしまえば一目瞭然なのだから。
いくらワザとミスをしようとしたところで、癖までは隠すことはできない。
ギタリストには各々に弾き癖が存在する。
それが極まって行くと”個性”となるのだが、僕の場合はそれが独特だとよく言われる。
要するに、知っている人が見れば、聞けば分かってしまうということだ。
ならば僕のするべきことは一つしかない。

「楽器の方をいじくる……か」

ギターの方に細工をして”音色”その物を変える事だった。
勿論、音色を完全に帰ることなど不可能だ。

「だからこそ、こいつを使うのさ」

僕はクローゼットに封印してあったギターを取り出す。
白色でやや丸型と四角形の中間の形をするボディだ。
名前はない。
というよりは覚えていないと言った方が正確だろう。
このギターには細工が施されている。
それは弦の部分。
弦全ては主流で使っているGibsonの使い古しだ。
ギターの弦は空気に触れるだけで錆びる。
そして人の汗でもっと早く錆びる。
錆びた状態で引き続ければどうなるかは、想像に難くない。
このギターはその弦を利用しているのだ。
これまでの経験による計算上、中級レベルの演奏法(速弾きなど)をすると、弦が切れる段階まで錆びている弦を使っている。
よくDKとしてじゃないときに弾かなければいけない状態になった際に使っている。
このギターが僕の正体を隠してくれる相棒になる。
その理由は――

「ん? 電話だ」

思考の海に潜る僕を引き上げるように鳴り響く電話に、僕は着信音のする方へと足を向ける。

「この電話という事は、バンド関係か。はい、もしもし」
『おー、出た出た。悪いねDK』

電話口から聞こえたのはMR(中山さんだが)の声だった。
この白色の携帯電話は、バンド関係の要件の際に使っている。
原則としてこの電話の際は、お互いに本名を言わないことにしている。
完全に僕のわがままによる措置だったが、バンドメンバーは快く引き受けてくれていた。

「どうしたMR。ライブの件か?」
『いや。DKに”例の”物を届けておいたから、確認しておいてほしいんだ』

DKとしての時は、僕はタメ口とやや威圧感のある口調で接する。
これは他バンドから舐められないようにする自衛の手段だ。
理由としてはバンド発足当時、僕は小学生だったから餓鬼だと言われるのが嫌だったためだ。
その名残で今もこんな感じなのだ。

「ああ、あれか。分かった確認しておこう。返事は例の場所にいつも通りに発送しておく」
『分かった。では』

完結に用件を言ってMRは電話を切った。
”例の”物とは、リビングに置かれていたA4サイズの茶封筒の事だ。
僕は白い携帯電話を机の引き出しにしまうと、勉強机に置いてある茶封筒を手にする。
差出人は『鈴木卓郎』となっているが、この人物はH&Pと関係のない一般人だ。
バンドメンバーの名前はトップシークレット。
限られた者しか知らない事実だ。
そしてそれを第三者にばれないようにするために、隠ぺい工作は徹底した。
こういった手紙の発送元はMR……中山さんの知人が使っていた私書箱を譲り受けて使っている。
快くOKしてくれた鈴木さんには頭が上がらないのだ。
故に、僕がDKであるとは誰も思わない。
協力者がリークでもしない限りは。

「さて、中身は何かな」
僕は茶封筒を開封すると中を漁る。
中身が紙のようなものであることが分かった僕は、躊躇なくひっくり返して中身を机の上に出した。

「ファンレターか」

それはすべて僕に宛てられたファンレターだった。
何十通もあるファンレターに、僕は一通ずつ目を通していく。

「はぁ……」

殆ど読み終えた僕は、ため息を漏らした。
嫌なわけではない。
むしろファンがいるということは嬉しいことだ。
問題は文面だ。

『DKさんの御復帰を心待ちにしておりました。是非、また良い演奏を聞かせてください』

問題はないようにも見えるかもしれないが、”DKさん”という部分が僕には屈辱でもあった。
勿論、ありがたいことでもある。
僕の事を待っていてくれるファンには感謝してもしきれない。
だけど……

(僕一人がH&Pじゃない)

それが本音だった。
昔音楽評論家が言った一言が原因だった。

『H&Pは、DKその物と言っても過言ではない。逆にDKがいないH&Pはここまで行けないだろう』

H&Pが有名になったのは、僕にも一因はあるが、何よりみんなの努力が実ってのこと。
それを僕のおかげで有名になれたと言われるのは、いった本人は最高のほめ言葉だと思うが、僕にとっては最高の侮辱だ。
僕は、バンドのメンバー全員に頭を下げた。
皆は許してくれたが、僕はそれから決めたのだ。
”DKの正体を絶対に明かさない”と。

「あー、気分悪」

嫌な事を思い出した僕は、振り切るように残り少ないファンレターを読むことにした。

「ん? またあの子か」

僕が手にしたファンレターの差出人に、思わずそう呟いてしまった。
差出人は『秋山 澪』
H&Pのファンだとかで、よく手紙を送ってくれる。
この人物は、一通目で僕たちの印象に残ることになる。
その理由は……

(ペンネームでいいのに律儀だよな)

律儀に本名を明記しているからだ。
ファンレターの差出人は9分9厘、ペンネームなのに、彼女は本名で送ってきたのだ。
その事に思わず笑みがこぼれる。
ちなみに、一応その事を書いたのだがその後も本名だ。
理由までは皆目見当がつかないけど。

『DKさん、御復帰おめでとうございます。これからもH&Pの一ファンとして、楽しみにさせていただきます』

それが、手紙に書かれていた内容の要約だ。
”H&P”と書いてくれていることがとてもありがたいことだった。
僕を、DKをH&Pのメンバーとして見てくれることがうれしかった。

「さて、次は………またかい」

次のファンレターを手にして差出人を見た僕は思わず苦笑してしまった。
差出人には『中野梓』と記されていた。
この人物と先ほどの手紙と同様に、本名でいきなり送ってきた人物だ。
内容も先ほどと同じだが、他にもいろいろ書かれていた。
9割方のファンレターの返事はそれほど大差ない内容だが、この二人に関しては大きく返事の内容が異なる。

(嬉しい手紙をもらうと、書く量が変わる癖は直さないとな)

そんな事を思いながら、僕は気付けば便箋がいっぱいになるまで返事を書上げるのであった。
書き終えた返事を新たに用意した茶封筒に入れて、封をすると翌日発送しようと思い、机の上に置いた。
その後は次の日の教科書などの準備をすると、僕はベッドにもぐりこみ眠りにつくのであった。

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