健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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【閲覧注意】 第32話 絶望の現実

3人称Side

渉が魔物化した瞬間、勇者シンク、ミルヒオーレ姫の二人は渉のいた場所からやや離れた場所にいた。

「これは、一体……」

シンクは押し寄せてくる”何か”に眉をひそめた。
それは、渉が発した雄叫びの際の物だった。

「姫様! 掴まってて!」
「は、はい!」

この場にいたら危険だ、と言う事を本能で感じ取ったシンクはトルネーダーでその場を離れようとする。
親衛隊長のエクレールと合流できれば、何があっても対処ができると言う考えの元だ。
だが、その決断は遅すぎた。

『み、見てください!! 暗闇の空に星が!!』

実況のナレータが慌てた口調で状況を実況する。
シンクとミルヒオーレ姫は、空を見上げた。
雷雲よりも暗くなった空には、数多の流れ星があった。
だが、それは美しいと言うよりは、不気味さの方が勝るものであった。

『た、大変です!! 空に何かがうか――――』

ナレーターが慌てた様子でそう告げた瞬間、空の方から爆音が響いた。

「「ッ!?」」

二人は、慌てて爆音のした方向を見る。
そこには……

「な、何だ……あれは」

空高くに浮かび上がる魔物化した渉がいた。
シンクは信じられないとばかりにその魔物を見ていた。

「■■■■■■!!」

魔物が声を発するとともに、黒い円陣が魔物の前に展開される。
その円陣は地面に……シンクとミルヒオーレ姫へと向けられていた。

「ッ!! ディフェンダー!!」

シンクは、それが危険な物であることを悟り、盾を展開するとミルヒオーレ姫をかばうように前方に出て盾を構える。
それと同時に、魔物化は黒いエネルギーの塊が放たれる。
それは、シンク達が使っていた紋章砲のようなものだった。
だが、異なるのは、そのエネルギー源が”闇”であると言う事。

「ぐッ!!」

腕に伝わる圧力に、シンクは顔をゆがめる。
黒い傍流は留まるところを知らない。

「うおおおおお!!!」

シンクは支点をずらし、自分の建っている場所の横側に受け流した。

「シンク、大丈夫ですか!」
「な、何とか」

シンクの身を案じるミルヒオーレ姫にシンクは、息を切らしながら答える。

「はぁ!!」

シンクは紋章を展開する。
それはフロニャルドに来たときに最初につかった紋章砲を行使するためだ。
そして、シンクは紋章砲を放つ。
それは一直線に魔物へと向かい、命中すると放った本人も、それを見ていたミルヒオーレ姫も予想していた。
しかし……

「■■■■■■!!!」
「なッ!?」

魔物に直撃する寸前に魔物が雄たけびを上げるのと同時に、砲撃は放った本人の元へと向かっていた。
シンクはそれを盾で防ぐことで難を逃れた。

「ほ、砲撃が返ってきた……」

それは、反射だった。
魔物は、シンクの攻撃を跳ね返したのだ。

(あいつは上空にいて、まともに戦う事も出来ない。紋章砲を使っても今のように跳ね返される)

シンクはこの時、ようやく退路がないことに気付いたのだ。
攻撃をしようにも空高くに浮かび、したら跳ね返されると言う悪循環。
正面から戦っても勝つことが出来ない。

(どうする……どうすれば)

シンクは、必死に打開策を考える。
それは戦闘時においては、最も最良の手だ、
だが、今回のそれは目の前に未知数の強さを持つ魔物がいる時の対応としては、最悪の選択だった。

「シンク、前!!」
「ッ!?」

ミルヒオーレ姫が必死に叫ぶ声に我に返ったシンクが見たのは、目の前まで迫る妖刀と短剣を振り下ろそうとしている魔物の姿だった。

「が!?」
「きゃあああ!!?」

そして、魔物はシンクとミルヒオーレ姫を切りつけた。
それは一瞬の事だった。
地面に倒れ伏す二人、そして二人の周囲は赤く染まる。
それはユキカゼ達と同じ状態であった。
二人の体が光り始める光景もだ。
奇しくも、それはレオ閣下の視た光景とほとんど一致していた。











その頃、エクレールとリコッタの二人は急いで向かっていた。

「さっきの紋章砲はシンクさんの物です!」
「と言うことは、二人の身に危険が迫っていると言う事だ!」

それが急いでいる理由だった。
そして、二人はシンク達がいる場所へとたどり着いた。

「シンクさん、姫!!」
「勇者、姫様!!」

地面に倒れているシンクとミルヒオーレ姫を目の当たりにし、慌てて二人の元に駆けよる。

「ッ!!」
「これは………一体」

リコッタは、二人から流れている赤い液体を見て目をそらし、エクレールは状況が呑み込めなかった。
その時、エクレールは空気の歪を感じた。

「ッ!? リコ!!」

それは、ほとんど勘だった。
エクレールはリコッタを跳ね飛ばす。
その次の瞬間、轟音を立てて魔物が二人のいた場所に落ちた。

「あ………あぁ」

それを見たリコッタは体を震わせていた。

「あれは、一体……ッぐ!?」

エクレールは突然肩に焼けるような痛みを感じた。
見れば、肩から赤い液体が流れていた。
そして、目の前にいる魔物の両手には剣が握られている。
そう、彼女は魔物の攻撃を食らっていたのだ。
そして、地面に佇んでいた魔物はゆっくりと、二人の方を見た。

「ひッ!!」
「ッ!!」

それを見た二人は、そのあまりのオーラに一歩後ずさる。
それは一瞬の事だった。
気づいた時には、魔物は二人の目の前まで来ていた。
それはシンク達のと同じパターンだった。
魔物は剣を振り上げ、それを振り下ろそうとする。
だが、そこで奇跡は起きた。

「どぉぉりゃああ!!」

男の声とともに、飛んできた何かが魔物を吹き飛ばしたのだ。

「■■■■■■!!!?」

魔物がその突然の攻撃に叫び声をあげる。

「大丈夫かぁ、たれ耳!」

その男の声に、エクレールとリコッタは声のする方を見る。

「ゴドウィン!!」

そこにはゴドウィンとその横にレオ閣下、ガウル達が立っていた。

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【閲覧注意!】第31話 変えられぬ未来/覚醒のとき

俺は気が付くと、どことも知れぬ場所に倒れていた。

「……っぐ」

体中に走る痛みに耐えながら、俺はゆっくりと立ち上がった。
その時だった。

「ッが!?」

突然、俺に凄まじい妖気が流れ込んできたのだ。
そのあまりの妖気の濃さに、俺は再び意識を失った。










「―――殿、……で……るか!」
「渉殿!」
「う……」

次に聞こえてきたのは、聞いたことのある二人の声だった。
俺はその声に応えるように、ゆっくりと立ち上がった。

「無事で何よりでござる」
「うむ。ところで、この辺に変な刀はなかったでござるか?」

そこにいたのはユキカゼにダルキアン卿だった。
そして俺が無事だったことにほっと胸を撫で下ろすユキカゼに、真剣そうな表情で問いかけるダルキアン卿。
俺は、その光景既視感を覚える。
どこかで見たことがあるのだ。

(何処だ、どこで見た)

俺は必死に記憶を手繰り寄せ、そして見つけた。

(これって、あの時の予知夢と同じ!)

そうだ、前に見た予知夢の内容そのものだった。
何処かわからない場所に傷だらけで倒れる俺、一度起き上がるもすぐに気を失ってしまう光景。
そして、俺はその先に起こることを思い出した。

「ッ!?」

俺はその未来に息をのんだ。

「……ろ」
「ん? どうしたでござるか?」

俺の呟いた言葉が聞き取れなかったのか、ダルキアン卿は俺に聞き返した。

「逃げ……ろ」

俺は二人に警告を発した
その次の瞬間、俺の中に入り込んだ妖気が一気にうごめき始めた。

「うああああああああああ!!!」
「ッ!? これは!」
「渉殿……まさか!!」

俺の悲鳴を聞いた二人は、驚いた様子で俺を見る。
俺の体は、勝手に神剣を二本具現化して、二人の目前へと迫っていた。

(やめろ………)

俺の願いもむなしく、俺の体は二本の剣を振り上げて、二人にめがけて振り下ろした。
だが、その斬撃を二人は間一髪と言うところで躱した。

「うあああああああ!!!!」

そしてそれを見た俺は、再び二人にめがけてものすごい速度で駆け出す。

「っく! 裂空、一文字!!」

ダルキアン卿はそんな俺に向けて、紋章剣を放った。
防御をすることなど念頭に置いてない特攻だ、喰らえば俺は怪我では済まない。

「がぁ!?」

ダルキアン卿の斬撃が、俺の体に見事に命中し、後方に吹き飛ばした。
自分の体なのに、まるで他人事のように感じる。
自然と痛みはなかった。

「すまない、渉殿。許してくれ」

ダルキアン卿の謝る声が聞こえた。
逆だ。
俺がダルキアン卿に謝る方だ。
俺の暴走と言う最悪の未来を変えてくれたのだから。

(本当にそうなのか?)

ふと、心の中で疑問を口にした。
どうもこれで終わりのような気が俺にはしないのだ。
それを証明するかのように、俺の自我はそこで突然途切れた。





3人称Side

ダルキアンにやられ、地面に倒れている渉。
そもそも、渉がこうなったのは、二つの呪いが同時に作用していることによる。
渉がフロニャルドに来たときに拾った短剣、妖刀。
そして魔物となる元凶の妖刀。
その二本が渉の中でうごめいているのだ。
さらには、それを浄化する霊力も使い切ったことが災いし、渉は体を乗っ取られたのだ。
そして、とうとうその時が訪れた。

「なッ!?」

致命傷を負ったはずの渉が立ち上がったことに、ダルキアンは驚きを隠せなかった。
その渉は両手を大きく広げ天空を仰ぎ見る。

「うあああああああああああああ!!!!!!」

そして雄叫びを上げた。
その雄叫びは、地面を………空気を震わせる。

「お……おおお――――――」

渉から発せられるのは紫色のエネルギー……妖気が濃縮された邪気だ。
そして突然の閃光に、ダルキアンとユキカゼは目を閉じる。










「「ッ!?!?」」

閃光が晴れ、目を開けた二人はその光景に声が出なかった。
その光景は、空は真っ黒な闇に覆われている。
それは雷雲などと言うものではない。
そして、前よりもさらに薄暗くなった中、異様な存在感とオーラを放っているのがいた。

「渉………殿?」

ユキカゼが疑問形で呼びかける。
それも当然だ。
今の渉の姿は、それを知るものには想像もできないほどの変化を遂げているのだ。
髪の色は黒く、背中に申し訳程度についていた白い羽根は、真っ黒に染まっていた。
服装も灰色と青色の礼装が、真っ黒になっていたのだ。
それは、まさに………

「これは………魔物」

魔物、そのものだった。
いや、魔物と言うのも生易しい。
言うなれば―――――破壊神だろう。

「そんな………馬鹿な」

ダルキアンは信じられないと言った様子で、つぶやいていた。
そして、渉は目を開けた。
目の色は透き通った青から、血が混じったかのような紅へと変わっていた。

「■■■■■■!!!!」

再び上げた雄叫び、それは世界すらを揺るがすほどの物だった。

「ッ!?」

そのあまりのすさまじさに、二人は一歩下がってしまう。
魔物退治をしていた二人でさえ、そうさせてしまうのだ。
そして、その動きが二人の運命を決めた。

「がぁぁ!?」

突然風を切るような音がしたのと同時に、ユキカゼの悲鳴がダルキアンの耳に聞こえた。

「ッ!? ユキカ――――」

ユキカゼの方に視線を向けようとしたダルキアンは、体を切りつけられた痛みと共に地面に倒れた。
薄れゆく意識の中で、ダルキアンが見たのは、赤い液体のついている魔物から引き抜いた妖刀と、短剣を手にした渉の姿だった。










深い谷底、三人の人影。
そのうちの二人は地面に倒れ、体からは赤い液体を流している者。
そして、そのそばに佇む”魔物”。

「■■■■■■■!!!!」

再びの雄叫びをあげ、”魔物”はその場を飛んでいく。
残されたのは、致命傷を受けた二人の体を覆う、やわらかい光だけだった。





渉が予知した悲劇。
それが今開幕を告げた。
悲劇は、まだ終わらない。

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第30話 戦いの終わり

「さ、三神とは……世界の意志とは何だ」
「世界を創造する創造の神、世界にとっての毒を排除する裁きの神、そして世界を安定させる世界の意志の総称が三神だ」

俺はレオ閣下に二つの質問の答えをまとめてした。

「………」
「時間がない。俺は行くぞ」

俺はレオ閣下たちにそう告げると、グラナ砦から飛び降りた。






3人称Sde

封印が解け、現れた魔物の背中にシンクは立っていた。
その姿は体中に怪我をし、頭から血を流し、着ていたマントはボロボロであった。

「姫様! 姫様!!」

シンクは半透明の球体内に入っているミルヒ姫に、球体を殴りながら必死に呼びかけていた。

「はぁ……はぁ……駄目だ、僕の声が届いてない」

シンクは数歩後ずさりをして、息を切らせながら呟いた。
その表情は非常に悔しげであった。

「諦めるのか?」
「え?!」

そんな時、突然かけられた声に、シンクは慌てて辺りを見回す。
そんなシンクの前にゆっくりと降り立つ人物がいた。

「わ、渉!?」

その人物は渉であった。

Side out





俺は、空を飛んで魔物の元に向かっていた。
その道中、茎のようなものが地面から生えてくる。
さらにその先にはピンク色の何かがこっちに向かってきていた。

「邪魔するな!!」

俺は正宗を横に振りかぶる。
すると、白銀の刃となり茎やピンク色の者を次々に薙ぎ払って行く。
そして俺はさらに速度を上げた。
やがて魔物の姿が見え、背中には半透明の球体を必死にたたき続けるシンクの姿があった。
だが、それをやめると、シンクは数歩後ずさりをする。

「はぁ……はぁ……駄目だ、僕の声が届いてない」

聞こえてきたのは、そんな言葉だった。
その言葉に、俺は我慢できなかった。

「諦めるのか?」
「え?!」

俺は静かにシンクに問いかけつつ、ゆっくりとシンクの前に降りて行く。

「わ、渉!?」

俺を見たシンクの表情が驚きに満ちる。

「曲がりなりにも勇者と呼ばれたお前が、そんな風に諦めてどうする」
「だったら………だったら僕はどうすればいいんだ!! いくら呼びかけても僕の声は姫様には届かない! どうすれば―――」

俺の言葉に、シンクが激高した。
その言葉には悔しさが感じられた。

「簡単な事だ。諦めなければいい」
「え?」

シンクの言葉を遮ってはなった言葉に、シンクは意外そうな表情で俺を見る。

「諦めるな! 抗え! それが弱者に出来る唯一の事だ。 まだ死んだわけではない、だったら諦めずに呼びかけ続けろ! 何でもかんでも諦めてたら、救えるものも救えないぞ!!」

俺はこの時、どうしてここまで感情をあらわに出して怒っているのかが分からなかった。

「たとえその姿が醜く、滑稽でもお前の努力を馬鹿に出来る物はこの世界には存在しない。だから、抗え!! 男を見せろ! 勇者、シンク・イズミ!!」
「ッ!?」

俺の言葉に、シンクが息をのんだ。
そして表情が変わった。
その表情は、力と可能性に満ち溢れていた。

「うん、その表情だ。お前は引き続き呼びかけ続けろ」
「分かった」

俺の指示にシンクは頷く。

「俺はこれからこの魔物に干渉して、弱体化させる。ただし、その間は俺は意識を集中させるからお前たちのフォローには回れない。やれるな?」
「うん、出来る!」

俺は力強いシンクの返事を聞くとそのまま背を向けた。
背後からは、姫君に呼びかけるシンクの声が聞こえた。
それを聞きながら、俺は神剣を二本取り出す。

「すぅ……はぁ……」

そして意識を集中する。

(俺の持つ霊力すべてを注ぎ込んで、こいつを弱まらせる! 浄化は出来ないがそのくらいならできるはずだ)

そう思い、俺は詠唱を始める。

「我、光溢れし者。わが名の下、剣を通し全てを浄化せし光となれ!!」

詠唱が完成するのと同時に、俺の体中から力が溢れだす。
その力は、神剣へと集まっていた。

(ああ、ようやく分かった)

俺はその時、さっきの疑問が分かったような気がした。

(俺は、重ねてたんだな、あの弱り切ったシンクに)

俺が生きていた時、何も目標を持たず打算で生きていた俺よりは何億倍もましな人間に怒る権利はないかもしれないが、あの姿を見ていたら口から出ていたのだ。

「はぁ!!!!」

そして俺は今まで考えていたことを振り切るように、二本の神剣を魔物の背中に突き刺した。
そこで俺の意識は途切れた。





覚醒まで残り、5分

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第29話 星流と覚悟

俺は立っていた。

(ここは………またフロニャルドか)

周りを見渡すと、よく見た景色だった。
そう、グラナ砦から少し離れた場所に俺は立っていた。
周りは暗く、よく見えなかった。
いや、声は聞こえた。

『み、見てください!! 暗闇の空に星が!!』

(空?)

ナレーションの声に、俺は上空を見上げる。
その空は真っ黒だった。
そこに流れる数多の流れ星。
はっきり言って不気味であり、恐ろしげであった。

『た、大変です!! 空に何かがうか――――』

そこでナレーションの声が途切れた。
それからすぐに俺が視たのは、暗闇のはずなのにその姿がくっきりと見る事の出来る”何か”だった。










「………ッぐ!」
「あ、目が覚められたんですね!」

突然意識が戻った俺が最初に感じたのは、体中の痛みと、奇襲を仕掛けたメイドの人の声だった。

「レオ閣下は?」
「あ、レオ様は……」

メイドの人の戸惑うような視線の先には横たわっているレオ閣下の姿があった。
腕には包帯を巻いている。

「む、起きたようじゃな」
「ええ、おかげさまで」

空を眺めていたレオ閣下の言葉に、俺は普通に反した。

「………さて、と」
「な!? 動かないでください、あなたは今大けがをされて――――」
「それがどうした? たとえ足がちぎれても、俺は動き続ける」

メイドの人の生死の声を遮り、俺はそう言うとゆっくりではあるが端の方へと向かって歩く。

「行ってはダメだ」

それを止めるのはレオ閣下だった。

「お主が行けば、ミルヒと勇者が死ぬ」
「………それがあなたが視た物ですか?」

レオ閣下の言葉に、俺は驚くこともなく聞き返す。
その問いかけに、レオ閣下は無言で頷いた。

「なるほど。では、いいことを教えましょう。未来は例え過程は変わっても、結果は変えられないものです。変えればそれは、破滅しかないのですから」
「私は! 私は、ミルヒと勇者を死なせたくはない!!」

俺の冷酷な言葉に、レオ閣下は今まで聞いたことのないほどの悲しい声色で訴えた。

「貴方は、素晴らしい。自分には特定の人物を守るなんてことは出来ないんです。出来るのは最悪の事態を回避することだけ」

俺は自分の不甲斐なさに笑うしかなかった。

「レオ閣下、腕輪は一回も使っていませんね?」
「う、うむ。使ってはおらぬが………」
「一応保険は掛けてあります。万が一の時の切り札はエクレールに託してあります。もしもの事態の時は、彼女の背中を押してくれますか?」

俺の言う保険、神をも殺すことのできる剣は、エクレが使おうとしない限り何の意味もないのだ。
だからこそ、俺はレオ閣下にエクレの背中を押す掛を頼んだのだ。
きっと彼女はそれを使う事を戸惑う。
彼女は普段はあれだが、優しい性格だと言うのは俺でもわかるのだから。

「さて怪我の方も癒えた事ですし、行きますか」

俺は気合を入れると胸元から一つの巾着袋を取り出す。
中には普通の石が2つ入っている。
その意志の名前は霊石。
文字通り、この石には純度の高い霊力がみっしりと詰められている。
これをのむことによって、俺は霊力を回復することが出来る。
俺は霊石を一つ取り出すと、徐にそれを口の中に入れて飲み込んだ。
次の瞬間、体中から力が漲るような感覚がした。

「リミットブレイク・ブート2!」

俺は声高々に叫ぶと、封印を2段階解除した。

「きゃ!?」
「ぐ!?」

その風圧に、後ろにいた二人がうめき声を上げた。

「神術・第1章、偽の者には小さき羽が生える」

俺は神術で背中に羽を生えらせる。
空中飛行が出来るようにするためだ。

「待て、お主……渉、お前は何者だ?」

そして一歩踏み出そうとした俺に、レオ閣下が問いただした。

「はぁ………これが終わるまでは名乗るまいと思ったんですが、致し方ありませんね」

俺はそこまで言うと、その場で半回転してレオ閣下たちの方を見た。

「俺………我は、世界を統治せし三神が一人、世界の意志、小野 渉だ!」

俺は声高々に自分の真名を名乗るのであった。





覚醒まで残り、20分

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第28話 超えられないもの

上昇を続ける武道台。
上には紫色の球体がある。

「あれは、このあたりの土地神さま?」

姫君がその球体を見て声を上げるが、それはないと思った。
土地神がこのような邪気に包まれているはずがないからだ。

「いや、違う」

俺の予想は当たっていたようで、レオ閣下が否定した。
おそらくこれは………

「昔ダルキアンに聞いたであろう? おそらくは、あれが昔地に封じられたである禍々しき魔物であろうよ」

その次の瞬間だった。

「グオオオオ!!!」

獣のような雄たけびが俺達を襲った。
俺達は耳をふさぐ。
その次の瞬間、いたるところから炎柱が立ち上がる。

「ッ!?」

さらに俺達の後ろの方でもそれが上がり、その衝撃で姫君が前のめりに倒れた。

「ミルヒ!」

レオ閣下の声を遮るように魔物は雄叫びを上げる。
その雄叫びにはどこか苦しみのようなものが感じられた。
そしてとうとう魔物の姿が露わになった。
その姿はまるで狐を醸しだたせる姿だが、魔物と言う言葉にふさわしく、とてつもない邪気が発せられていた。
さらにその周りにはまるで魔物を守るように、紫色の何かが浮かび上がる。
姫君が横にある宝剣を手にした瞬間だった。

「グオオオオオオ!!!!」

宝剣に反応した魔物が雄たけびを上げると、地面から草の茎のようなものが現れた。
その先端は鋭い刃物となっていた。

「はぁぁ!!」

突然の事で硬直していた姫君の前に立ち、レオ閣下は攻撃を防ぐ。

「でやああああ!!」

そして斧で茎を切り裂いた。

「ミルヒ、無事か!?」
「は、はい――――ッ!?」

ミルヒの安否を確かめるレオ閣下だが、その背後には先ほどの茎が再び姿を現していた。

「レオ様! 危ない」

それを見た姫君は俺よりも早くレオ閣下の前に回り込むと、宝剣を横に構えて茎の攻撃を防ごうとする。

「駄目じゃ! ミルヒ!」

俺は急いで姫君の前に回り込み、防ごうとする。
だが……

「「ッ!?」」

半歩届かず姫君は二本の茎によって切り裂かれた。
さらに横からも茎が迫る。

「障壁!」

俺は急いで姫君を覆うように障壁を構築する。
そのことによって茎の先端に貫かれなかったが、跳ね飛ばされてその先にあった紫色のベールに飲み込まれてしまった。

(くそッ!)

俺は不甲斐なさから心の中で舌打ちをした。

(いや、あれがあるからまだ大丈夫)

しかし俺はすぐにそう結論を出した。
姫君やそのほかの者達には”保険”を渡してある。
それがある限り問題はない。

(こっちから治癒をかけるか)

俺はそう考えると姫君がつけている腕輪を経由して治癒を施す。

「貴様ぁぁああ!!」

そんな時姫君がさらわれたことに憤ったレオ閣下が、黄緑色の気力を上げながら叫び声を上げた。

「れ、レオ閣下落ち付―――ぐあ!?」

必至に止めようとした俺は、突如膨れ上がった気力に吹き飛ばされた。
そのままレオ閣下は魔物に向かって突進する。
様々な攻撃をかわして魔物に一発攻撃をするが、紫色の何かによって下の方に叩き付けられた。

「レオ閣下!? ッ!?」

俺は慌ててその場から離れた。
次の瞬間轟音を立てて紫色の帯が俺の立っていた場所に振り落された。
もし少しでも回避が遅れていたら、俺はあれに叩き潰されていたかもしれない。

「俺に攻撃したな? ならば、貴様の末路は決まってる!!」

神剣が夥しい光に包まれる。

「轟け!! 最終審判、レクリエム!!」

俺は必殺級の大技を魔物に放つ。

「グオオオオオオ!!!?」

レクリエムを食らった魔物は悲鳴のようなものを上げるが、倒れる気配がない。

「何!? なぜ倒れない!」

俺は驚きを隠せなかった。
最高威力を持つあれを食らっても、びくともしないのはあの短剣以来だ。

(まさか、あいつの邪気が濃すぎるのか!?)

それ以外に思い付かなかった。
邪気の量ではなく質が濃いために、俺のレクリエムは通用しなかったのだ。

「グオオオオ!!!」

思考に耽っていたために、俺の目の前にまで茎のようなものが迫っていたのに気が付かなかった。

「ッ!? 炎天よ、我を守る盾となれ!!」

俺は急いで盾を形成し、攻撃を防ぐ。

(よし、まだいける。質が高いのならそぎ落とすまで)

俺は起死回生を狙い、神剣に霊力を込めようとした時だった。

「ッ!?」

体の内側から揺さぶられるような揺らぎが起こった。

(こんな時に物質化現象かよ!)

「ッ!? しまっ―――――」

俺はさっきの揺らぎで盾が消えたことに気が付いた。
それに気が付いた時には、茎の先端にある刃物が目の前に迫っていた時だった。
俺はそれを躱すが、その先には紫色の帯が振り下ろされようとしていた。

「がああ!?」

俺は体を切り裂かれ、そのまま地面へと落下する。
それは先ほどのレオ閣下を彷彿とさせるものであった。
薄れゆく意識の中、俺が見たのは魔物が下に降りて行く姿。
そして、地面に叩き付けられたときの背中の痛みだった。





覚醒まで残り、40分

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