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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第32話 勉強会と誕生日会と

11月17日

「生徒会一丸となってテスト勉強をするわよ!」

ついに迎えた生徒会の勉強会(と、シンの誕生日会)は、そんな聖沙さんの宣言によって幕を開けた。

「弱者は虐げられ、強き者もその強さゆえに無意味に命を散らして―――」

(一体どこの世紀末?)

テストひとつで世紀末のようなことを言われてたら、世界がいくつあっても足りないと思うのは当然のことだと思う。

「会長さんの家は人がいないので安心ですね。これならいっぱい騒げます」
「騒ぐ気!?」

ロロットさんの言葉に、僕は思わずツッコみを入れてしまった。
普通、勉強会と言えば文字を書く音と勉強を教えあう声が飛び交うものだと思っていたのだが、それは間違いと言うのだろうか?

「何? 勉強会とは騒ぐものなのか? 騒ぐのは苦手だが、騒がねば」

そしてアゼルは変な知識をつけてしまったようで、すっと立ち上がると、

「わー、わー、わー」

と騒ぎ出した。
尤も、騒ぎ方が棒読み感満載だったが。

「静かにしてね」

そんな彼女に、シンは苦笑しながら注意した。
注意されたアゼルの方は驚いた様子だったが。

「さあ、一緒に覚えましょう! 水平リンベー青い船!」
「なるほど、今のは覚えなくてもいいのだな」

ロロットさんの口にした間違った暗記法の言葉をアゼルはその一言で切り捨てた。

「その通りよ」
「それで正解」

あまりにも正しい対処方法に、僕は相槌を打ってしまった。

(それにしても、あれって『スイヘーリーベ―ボクのフネ』だよな。どうすればああなるんだろう?)

ロロットさんの成績がなんとなく気になって仕方がなかった。
願わくば同族として、落第にだけはならないでほしいと願うのであった。

(さて、僕は僕のやるべきことをやっちゃうか)

僕はそっとシンの部屋を後にすると台所と思われる場所に向かう。

「よし、始めるか」

前もってリアさんから渡されていた食材を取り出した僕は、腕まくりをして気合を入れると作業に取り掛かった。
これから作るのはシンの誕生日用の料理だ。
真が日ごろ食べたがっていた”ビフテキ”等の豪勢な料理を作っていく。
そして、僕に課せられたミッションはそれをシンに気づかれないようにすることだ。
とはいえ、シンはリアさんたちが部屋に引き止めてくれるらしいので、僕は料理に専念できるが。

(前半でビフテキを完成させればいいか)

12時ごろに休憩ということで昼食がふるまわれるため、それまでに前半の作業を終わらせておく必要がある。
もし、昼食を作るときにシンがやってきたらすべてが水の泡だ。

「よし、始めるか」

こうして僕は、ビフテキの調理に取り掛かるのであった。










「浩介君」
「リアさん。どうかしました?」

何とかビフテキも完成し、あとはもう一度火に通すだけになった頃、キッチンに姿を現したのはリアさんだった。
その後ろにナナカさんやロロットさんたちが続く。

「ちょうどお昼だし休憩することになったの」
「そう言うことで、今日はわたしが、そばをうっちゃる!」

腕まくりをするようなしぐさでそう宣言したナナカさんに、僕は台所を明け渡した。
その際に、シンが来ることを懸念して今まで作っていた料理の痕跡を消しておくことを忘れない。
その後、ナナカさんが打ったそばに、僕たちは舌鼓を打つのであった。
後半の料理も順調に作り終えたころには、すっかり日が暮れた。

「浩介君、準備はどう?」
「こっちはもう何時でも大丈夫です。あとはGoサインがあれば」

様子を見に来たリアさんに、僕はそう答えた。
既に誕生日会用の料理は作り終えており、あとはこれを運ぶだけだ。

「それじゃ、このケーキを持っていこうか☆」
「分かりました」

僕はリアさんが持参していたケーキ(さすがに冷蔵庫がないので保冷材を使って冷やしておいたが)を持ってシンの部屋へと向かう。

「それじゃ、ちょっとここで待っててね」

そう告げてリアさんは一足早く部屋に入っていく。
僕はリアさんからの合図を待つことにした。

『それじゃ、浩介君。お願い』
「失礼するよ」

しばらくして中からリアさんの合図が聞こえたので、僕はドアを開けて中に入る。

「浩介?」

シンの呼びかけに答えず、僕はケーキをテーブルの上に置いた。

『お誕生日おめでとう!』

そして僕たちはいっせいにクラッカーを鳴らしてシンにお祝いの言葉を贈った。
だが、僕の仕事はこれで終わりではない。
さらに次の料理を運ぶために部屋を後にする。

「それで、これが誕生日祝いの料理だ」
「び、びびび……ビフテキ!?」

料理を前にしたシンは卒倒しそうな勢いで興奮していた。

(喜んでくれるのは作った方としては嬉しい限りだけど、ちょっとオーバー過ぎない?)

僕はちょっとばかり複雑な心境だった。

「はい、シン君。お誕生日プレゼント☆」
「あ、ありがとうございます」

リアさんから手渡されたきれいに包装された包みを受け取ったシンはリアさんにお礼を告げる。

「あの、開けてもいいですか?」
「もちろん☆」

リアさんに渡された誕生日プレゼントに、まるで少年のように目を輝かせながら訊ねるシンにリアさんはウインクをしながら頷いた。
リアさんの渡した小包を開けると、中から出てきたのは研ぎ石だった。

「前にその辺にある石で研いでるって聞いたから。それだと刃の寿命が悪くなると思って」

(それ以前に、すごいよな)

そのような石を見つける執念もだが、それで研ごうとする踏ん切りの良さとか。

「ありがとうございます」
「それじゃ、次は私の番ですね!」

何やら息巻いて登場したロロットさんは大きめの箱をシンに手渡した。

「な、なんだかずっしり重いね」
「開けてみてください!」

見るからに重そうな箱を手にしたシンにロロットさんがせかすように告げると、真は箱を開けて中身を取り出した。

「こ、これは!?」

中から出てきたのは、金色に光るシャンデリアというものだった。

「会長さんが貧乏なのは、ゴージャスというものを知らないからです。これがあれば会長さんもゴージャスになれます!」

(それ、ただの嫌味にしか思えないし)

「なるほど! これがあれば、僕もゴージャスライフだね!」
「そもそも、お金がないという問題は解決してないし」

運という意味ではある意味正しいのかもしれないが。
ちなみにもう一つの問題として

「それ以前に天井が落ちちまうぜ」

大賢者の言うとおりだった。

「これは箱にしまってゴージャスな夢を見るね」

こうして、ロロットさんのプレゼントはシンのコレクションになるのであった。
その後も聖沙さんがCDプレーヤーを渡したり、ナナカさんが高枝切狭をプレゼントしたりと、順調にプレゼント交換を進めていく。

「ほら、あなたの番よ」

聖沙さんに促される形で、僕は小さな小箱を取り出した。
青色の包み紙に放送されたそれは、お世辞にもこじゃれたというのとは無縁のものだった。

「これは僕からだ。つまらないものだけど、受け取って」
「ありがとう。開けてもいいかな?」

真の問いかけに、僕は頷くことで答えると、シンは包装紙を丁寧にとって箱を開けると、プレゼントを取り出した。

「これって……」
「ペンダント?」

僕が渡したのは、先端に星の型がとられた無機質なペンダントだった。

「お守りのようなものだよ。持っているといいことがあるよ」
「胡散臭いね」
「というより、完全に怪しいぜ」

僕の説明にナナカさんや大賢者から酷評されてしまった。

「ありがとう、大事に持ってるね」

まあ、当の本人が気に入ってくれるのであればそれはそれでいいのかもしれない。

「さあ、早くお料理を食べましょう」
「そうだね!」

聖沙さんの促す言葉にシンは豪華な料理に口をつけていく。
ちなみに、感想は

「うまい!」

だった。
ナナカさんいわく、それしか感想がないのだとか。
まあ、無言で食べられるよりはましなので、僕はそう思うことにした。
そんなこんなで、勉強会(という名の誕生日会)は無事に幕を閉じるのであった。










「今日はありがとうね、浩介君」
「いえいえ、これでも仲間ですから。これくらいはして当然ですよ」

帰り道、リアさんと同じ家に住んでいるため一緒に歩いている途中でお礼を言ってきたリアさんに、僕は首を横に振りながら答えた。

「優しいんだね浩介君は」
「そんなことはないですよ」

リアさんの言葉に、僕は苦笑しながら応じた。
どちらかというと、僕は真逆の存在だろう。

「あ、すみません。ちょっと先に戻ってもらってもいいですか?」
「え? どうかしたの?」

リアさんの賞賛の言葉に、居心地が悪くなった僕の言葉に、リアさんがきょとんとした表情で問いかけてきた。

「ちょっと彼の家に忘れ物をしてしまいまして……あ、一人で取りに行けるので、リアさんは先に戻っていてください」
「うーん……わかった、それじゃ気を付けてね」

何とも言えない表情でうなったリアさんは運付きながら僕を見送ってくれた。
そして僕はリアさんから逃げるようにその場を後にするのであった。





「とはいえ、忘れ物なんてしてないんだけどね」

シンの家の前にたどり着いた僕は、何とも言えずに苦笑するしかなかった。

「僕も立派な魔王になれるのかな」
「ん?」

玄関口にたどり着いたところで、どこからともなく話し声が聞こえてきた。
僕はその会話に、耳を傾ける。

「魔王様には十分素質は備わっていると思うぜ。後は、魔王様の意気込み次第だぜ」
「うーん……」

その会話はシンと大賢者の物だったようだ。
きっと本人たちには聞かれたくない話なのだろう。
僕は聞かなかったことにしよう。
そう思って僕はその場を静かに去るのであった。
だが、一つだけ。
一つだけ言えるのであれば

「君は立派な魔王になれるよ。あの人・・・のようにね」

それだけだった。

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