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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第96話 ライブ!

冬休み目前、今年も残すところ残り10日となった12月21日の放課後のこと。

「ライブ?」

全ては律の提案がきっかけだった。

「そう。中学校の時の友達がライブに出るから一緒に出ないかって誘われてるんだ」

律が机の上に置いたのは大みそかライブと名付けられたチラシだった。
タイトル通り、開催日は12月31日だ。

「でも、開催まであと10日しかないけど」
「私たち何も準備していませんよ」

律の提案に、澪と梓が異論を唱える。
僕たちは当然だが演奏する曲目を決めたりしていない。
それどころか、練習自体をする必要もあるので10日という時間は少し短いのだ。

「でも、面白そう」
「だろ?」

そんな澪たちの反応をしり目に、唯はすでに乗り気だった。

「それに大勢の人の前で歌うのは……」
「そんなんじゃいつまでたっても成長できないぞ、澪」
「そうだよ、そうだよ」

体を縮ませながら声を上げる澪に、律が真剣な表情を浮かべながら反論した。
それに唯も続く。

「………それじゃ、多数決にしよう。今回パスの人」

頬を赤くしながらも手を上げながら意見を求める澪。

「律先輩、唯先輩。ごめんなさいっ!」

謝罪の言葉を掛けながら反対票に投じる梓。

(彼女たちの実力で、ライブに出ても平気か?)

僕は、そこに集約していた。
確かにライブに出ればかなりのステップアップが見込まれるだろう。
だが、失敗すれば洒落にならないダメージを負うことになる。
それは避けなければならない。
リスクを回避するのであれば、反対にするのが一番だ。

「私、みんなと一緒に演奏するのが楽しいの」

とはいえ、せっかく楽しみにしているムギに水を差すようなまねは僕にはできなかった。

「僕は賛成」
「えっと……私も」

先ほどまで反対していた澪や梓も賛成に回った。

(まあ、彼女たちなら失敗をも乗り越えるだろ)

そんな気がしていた。
デメリットよりもメリットの方が大きいのもまた事実だ。

「ぃよっしゃぁ! ライブ参加決定!」
「やったー!」

全員が賛成に回ったことで、ライブへの参加が確定した。
こうして、僕たちの初の外でのライブへの参加が決まるのであった。










そうと決まれば話は早い。
そうと言わんばかりに、僕たちは律の”参加申し込みをするぞー!”という言葉を受けて参加申し込みのため大みそかライブを開催するライブハウス『LOVE PASSION』へと向かっていた。

「うわー。もうじきクリスマスだね~」
「早く行くぞ」

途中ショーウィンドウで何かを眺めている唯に、律が声を掛けた。
そんな寄り道をしながらも、僕たちは目的地に到着した。
ライブハウスの出入り口に続く階段を下り黒色のどっしりとした威圧感を放っているドアの前に立った。

「な、なんだか緊張するね」
「それじゃ、開けるぞ」

ムギの言葉に、律は総いいながらドアノブに手をかけるとドアを少しではあるが開いた。

「あのー、すみません!」
「はーい」

律の呼びかけに女性の声が返ってきた。

「とにかく、中に入って」
「あ、はい!」

早速緊張しているのか、律の声はかなり上ずっていた。
そして僕たちが中に入ったところで、栗色のショートヘアーの女性が姿を現した。

「あ、あの! 参加申し込みに来ました! 放課後ティータイムです!」
「あなた達が……ラブ・クライシスの子から話は聞いているわ」

僕たちを見回した女性は、最後に律の方を見ながら返した。

(ラブ・クライシス?)

どこかで聞いたような名前だと思ったが、すぐに思い出した。

(NEW STARS PROJECTの参加者だ)

かなり前とはいえ、彼女たちは僕のライブで実際に曲を披露しているのだ。

(これはかなりまずいのでは?)

まさか梓達のようにばれるとは思えないが、万が一のこともある。
用心するに越したことはないだろう。
何せ、僕はまだDKであることを隠さなければいけないのだから。

「放課後ティータイムって何だか可愛くていいわね」
「「……」」

女性の称賛の言葉に、律と唯の表情が明るくなった。
よほどうれしかったようだ。










参加条件に記されていた”選考”を僕たちは受けていた。
とはいえ、内容はシンプルで、僕たちが演奏していた曲を聞かせることだった。
今流れているのは、以前録音しておいたふわふわ|時間《タイム》だった。

「―――という感じなんですけど」

曲が終わったのを見計らって、律が声を上げた。

「………うん。それじゃ、この参加申し込み用紙に必要事項を記入してね」

少しの間考え込む表情を浮かべた女性は、そのまま参加申し込み用紙を律に手渡した。
それは出場資格を獲得したこととイコールであった。

「当日のスケジュールを説明するわね」

そして女性から当日のスケジュールについて説明が行われた。

「集合は13時」
「随分早いんですね」
「リハがあるからね。各バンド15分くらいで」

相槌を打つ律に、女性は丁寧に答えながら説明を続けた。
そして次々に伝えられる必要事項だが、当の本人はちんぷんかんぷんの様子だった。

(仕方ない。こっちの方で覚えておくか)

唯たちにしても、聞く気すらない始末だった。





「それじゃ、中を案内するわね」

当日のスケジュールについて説明が終わると、女性の後をついて行く形でライブは椅子内を案内された。

「ここが楽屋よ」
「うわぁ~」

最初のドアを開くと、そこは鏡などがあったりとまさに楽屋そのものだった。

(間仕切りがないのはあれだけど、こっちで用意すればいいか)

男女兼用なのは気が引けるが間仕切りを自分で用意すればいいだけなので、特に深く考えないようにした。

「あの、暖簾とかをつけてもいいですか?」
「それ良いね!」

想像してみた。
暖簾のかかったドアから姿を現すムギたちの姿を。

「ここは温泉じゃないぞ」
「それと、ほかの子も使うから」

という女性の一言で、ムギの案は没となった。

「それで、ここの扉から……」

そう言いながらドアを開けると、そこはステージへとつながっていた。

「うわ~、広いよー」
「あれってミラーボールですよね」

唯たちはステージの広さに興奮を隠せなかったようで、目を輝かせていた。

「当日の照明プランも考えてきてね」
「はい! もうピカピカでグルングルンでっ!」

(もう意味が分からないから)

要領を得ない唯の照明プランに、僕は心の中でため息をつく。

「ここで、ライブをするんですね」
「……そうだね」

そんな中、会場を見ていた梓の一言に、ムギが相槌を打った。
規模としては小さいほうの部類に入るが、最初であることを加味すれば十分な規模だ。

「おーい、今から燃え尽きてどうするんだ?」

そんな中、人で埋まっているのを想像したのか、完全に燃え尽きている澪に、律は苦笑しながらツッコんだ。

「それじゃ、本番はお願いね」
『よろしくお願いします』

外まで見送ってくれた女性の言葉に、僕たちはいっせいにお辞儀をして返事をするのであった。










参加の申し込みを済ませ、やることと言えば曲目などセッティングだろう。
ということで、場所を移して平沢家の唯の部屋で、話し合いを行うこととなった。

「ライブハウスで?」
「うん。それでいまその話し合いなんだ~」

お茶を持ってきてくれた憂に、唯は集まった理由の説明をしていた。
おそらくは言いたくて仕方がなかったのではないかと思うけど。

「へぇ。すごいね、お姉ちゃん」
「えへへ~」

妹に褒められたのがうれしいのか、唯は照れたような笑みを浮かべていた。

「曲目は4曲だから……曲は、ふわふわにかれー、ふでペンとドントでいいか」
「まあ、それが無難だね」

曲の構成は既に決まっていたので、特に問題はない。
一番の問題は、

「当日は、何を着る?」

衣装だった。

「一年の時に来たやつはどう?」
「あのふりふりの……」

DVDでどのような衣装なのかを見ていた梓と、実際に着ていた澪が難色を見せた。

「さわちゃんに頼めばあずにゃんの分も作ってくれるよ?」
「えぇ~」

今度ははっきりとした拒否反応だった。

「でも、さわちゃんが用意していた衣装はほかには、スク水に白衣に――「嫌ですっ!」―――ですよね」

(どうして山中先生は変な衣装しか用意してないんだろう?)

そもそも、それを着ると思う根拠を知りたかった。

「だったら、新しい衣装を作ってもらうとか?」

あまり、期待ができないけれど。

「だったら、変身して戦う感じなのはどう?」
「それ良いわね! 魔法少女とか」
「いやいや、無理があるから! というより、一体どうやって演奏中に服装を変える気だ?」

変な衣装案を出す唯たちに待ったをかけた。
このままだと壮絶な衣装になりかねない。

「それは浩君の出番だよっ!」

完全に僕の魔法を頼りにしていた。

「確かに服装を変える魔法はあるけど、演奏中で、全員が動いていてそれをみんなにも適用するのはいくら僕でも難しい。しかも、失敗すれば素っ裸になるし」

確かに衣装変更の魔法はある。
だがあれは一種の転送魔法だ。
対象が移動(それがたとえ数センチでも)していれば適用が難しくなる。
さらにはそれを全員分となると、かなりの集中力を必要とする
いくら僕でも、それは不可能に近かった。
しかも、衣装変更の魔法は衣装を消去する魔法とセットであり、これの適用範囲が衣装変更魔法よりも広範囲のため、失敗すれば衣装だけが消去されるという最悪の事態に発展する。

(そう言えば、魔界のエンターテイメントか何かでこの魔法を使おうとして失敗し、全裸になった事案があったっけ)

まさしくその通りのことになろうとしている。

「せ、制服でいいんじゃないか?」
「私もそれでいいと思います!」
「僕も」

澪の提案した制服の方が断然ましだったので、僕は梓に続いて同意した。

「そ、そうだな。それがいいか」

さすがの律たちも制服の案を受け入れざるを得なかった。

「あ、そうだ」

衣装も決まりひと段落ついたところで、唯は何かを思い出したのか鞄から紙を取り出した。

「はい、これ憂と純ちゃんの分」

それは大みそかライブのチケットだった。
出場者の特典として数人分ライブハウスの人からもらっていたのだ。
とはいえ、一人当たり最大で二人までしか誘えないが。

(誰を誘おうか)

それ以前に誘う相手がわからなかった。

「お姉ちゃんの初ライブのチケット……もったいなくて使えない!」
「使わないと入れないぞー」

唯から受け取ったチケットを大事そうに手にしながらつぶやく憂に、思わずツッコみを入れてしまった。
そんなこんなで、何とか一通り決めた僕たちは、解散することとなった。










「へぇ、ライブハウスでライブかぁ」
「ようやっと踏み出したって感じだ」

翌日の昼休み、お昼ごはんを食べながら(ちなみに僕は購買部で購入したパン)、ライブハウスでライブを行うことを話すと、慶介は興味深そうに返した。

「でも、浩介達にとっては、これが学外で行う初ライブか。見に行きたいな」
「あ、そう言えば」

慶介の言葉で、僕は昨日もらったチケットのことを思い出した。

「どうした?」
「そのライブハウスのチケットがあったんだった」
「な、なにぃ!?」

凄まじい勢いで食い付いてくる慶介の反応は、ある意味予想していたものだった。

「これがそのチケットなんだけど」
「も、もしかして親友の俺のために!? くぅ! 浩介、お前意外といいやつなんだなぁ~」

慶介の前にチケットを見せると、慶介は涙ぐみながら口を開いた。

「………」

何だか無性に腹が立った。

「一枚100万円で渡してあげる」
「ひ、100万円!?!?」

さすがの金額に、慶介は固まった。

「そ、そんな……でも、あのDKのライブのチケットを……」

青ざめながら何やらぼそぼそとつぶやく慶介の様子に、僕はすっきりとしたので冗談だと告げることにした。

「浩介!」
「な、なに!?」

いきなり身を乗り出して大きな声で名前を呼ぶものだから、僕は驚いて少しだけのけぞった。

「ローンでいいから売ってくれ!」
「……月にいくら返すんだよ?」

慶介のローンという手に、僕は慶介に聞いてみた。

「えっと………せ、千円」
「……………」

慶介の告げた金額ははっきり言って論外だった。

(一年間に1万2千円返済したとして、100万円を返済できるのは……約90年)

冗談で行ったつもりがまさか生涯返済をすると告げることは予想外だった。

「あー、冗談だから。お金取らないから。ただで渡すから」
「そ、そうか。良かった」

僕の冗談だという言葉に、ほっと胸をなでおろす慶介に、僕はチケットを手渡した。

「絶対に見に行くからな」
「まあ、来たところで意味はないけれど」

そんなこんなで、一人を誘うことができた。

(あともう一人はどうしよう)

そんな時、ちょうど佐伯さんが通りかかった。

「佐伯さん」
「何? 高月君」

僕は佐伯さんを呼び止めた。

「大みそかだけど、暇?」
「えぇ!? そ、そんな……ダメだよ。高月君には唯ちゃんがいるのに……」
「……………」

僕の問いかけに、佐伯さんは頬を赤くして身をよじりながら恥ずかしげに答えた。
確実に変な勘違いをしている。

「何を想像しているのかは大体わかるけど、ライブハウスでライブをやるから、見に来ないかという意味だぞ? もし、大丈夫そうならこれを渡すけど」
「へ!? あ、そう言うことか~。よかった、一瞬どうしようかと思っちゃったよ。喜んで、いただくね」

顔を赤くして恥ずかしそうに笑いながらも、佐伯さんは僕の手からチケットを受け取った。

「誘ってくれてありがとうね」
「どういたしまして」

佐伯さんのお礼の言葉に返した僕は、そのまま自分の席に戻った。

「ちくしょ! なんで浩介ばかり良い目に合うんだ! 俺と浩介の差ってなんだー!」
「そんなの当然だろ」

理由は一つしか思い当らなかった。

『うーん……性格』
「何も全員で声をそろえて言うことないじゃないかっ!」

なぜかクラスの皆と同じタイミングで答えてしまったことに、慶介は血の涙を流すのであった。

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