健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第94話 とある冬の日

土曜日の放課後。

「浩介は、これから部活か?」
「いや、今日は用があるからこのまま帰る」

いつものように声を掛けてきた慶介に、俺は相槌を打った。
用というのは他でもなく魔界に帰ることだ。
夏休みのあれで懲りた僕は会社にあるゲートを使っていくことにしたのだ。
少しだけ面倒くさいが、背に腹は代えられない。
そう言うことで、今日から魔界に帰還するのだ。

(これで鍋パーティに間に合えばいいんだけど)

さすがに姉妹だけで鍋をするというのは悲しすぎるような気がした僕は、無理をしてでも参加することにしたのだ。
とはいえ、用事をおろそかにはできない。
そこで、早めに戻って仕事を素早く片づけることにしたのだ。

「珍しいな。最近は愛しの平沢さんに会うために、毎日部活に参加をしているのに」
「ちょっと待て。それではまるで、僕は唯に会うために部活をしているみたいではないか」

少しばかり聞き捨てならないことを言われたような気がした僕は、素早く反論した。

「でも間違ってないだろ? それなのに部室に行かないということは―――」
「…………………慶介、『他の女ができたのか』とか言ったら潰すぞ」

慶介の言葉を遮って、僕は彼が言いそうな言葉を封じることにした。

「そ、そんなことがあるわけないじゃナイデスカ」
「カタコトになってるぞ」

見るからに怪しさ満点だった。

「こ、これは宇宙からの電波を受信してたのさっ」
「もういいよ。それ以上続けられると惨めになるから」

慶介の肩に手を置いて、僕は深く頷くと鞄を手にして教室を後にした。

「ぢぐじょう!!! 下剋上だ! 下剋上してやるぅっ!!」

後ろの方からそんな喚き声が聞こえてきた。
今日もなんだかんだ言って平和だった。










「おかえりなさいませ。高月大臣」
「どうでもいいけど、そんな堅苦しい出迎えはいいから」

魔界に到着した僕に非常に堅苦しい出迎えをする職員に、僕は何度目かわからない頼みごとをした。

「そんな恐れ多いことできません! 高月大臣は我々の象徴なのですから!」
「はぁ………」

もはや諦めかけていた。
僕はこのままずっと同じような出迎えをされるのだと。

「ちーす、大臣。元気っすか?」
「……………………はい?」

入出国管理センターのロビーに出た僕に掛けられた言葉に、思わず言葉を失ってしまった。

「大臣、堅苦しいのが嫌って言ってたっすから。こんな感じでどうっすか? それとも浩介と言ったほうがいいか?」
「……………………」

確かに、堅苦しいのは嫌だとは言った。
だが、物には限度と言うものがある。
僕が言っていたのは”大臣”の部分を抜けという意味だ。
間違っても、ため口でしかも呼び捨てにしろという意味ではない。

「貴様、名前は?」
「俺っすか? 俺は根室 忠(ねむろただし)っす」

僕の雰囲気が変わったことにも気づかずに、根室は口調を変えない。
それどころか肩を叩いたりしてくる。

(落ち着け。相手は新人だ。ちゃんと言葉で説明をしよう)

見たことがない顔なので、新人職員であることは間違いがない。
新人であれば言葉遣いが少しおかしくて当然だ。
そう自分に思い込ませることで、怒りをこらえる。

「あ、たかっち。これから飯食いませんか?」
「……………」

その言葉で押さえていたものが一気に決壊した。

「咎人に罰を!! ナイトメア!!」
「ぎゃああああああ!!!?」

僕は根室に魔法という名の鉄槌を下すのであった。










「――――ということか」
「ええ。そうなります」

連盟長室に移動した僕は、連盟長から先ほどの騒動の経緯を聞かれていた。

「相手は幸い命には別条はないみたいだが、まさか本当に武力行使するとはな」
「本当に面目ないです。堪えようとはしていたのですが、我慢ができませんでした」

根室は病院の方に搬送されたが、幸い命に別状はなかったみたいで、ほっと胸をなでおろした。

「まあ、心の方には傷を負わせたがな」

とはいえ、彼の心の中には決して拭えない恐怖が植えつけられたことだろう。
それが”ナイトメア”の恐怖なのだから。

(全く、どうしてああも極端何だろう)

僕は心の中でため息をついた。

「しかし、あの浩介がよく変わったものだ」
「はい? どういう意味ですか? それは」

連盟長から言われた言葉の真意がわからなかった僕は、連盟長に尋ねた。

「昔のお前ならば、我慢することなく即座に抹殺していたはずだ。それを我慢しようとしたばかりか、少ないダメージに留めようとするなどといった配慮をするようになるとはな。驚きだ」
「私だって、変わりますよ。連盟長」
「ほぅ?」

僕の言葉に、連盟長は興味深げに眼を細めて僕を見てくる。
それはまるで値踏みのような気がした。
ならば僕も負けていられない。
僕も負けじとばかりに視線を逸らさない。

「…………そっちの方に言われていた書類がある。本当にする気か?」

どうやら僕の方が勝ったようで、連盟長は手にあった服を見て呟いた。

「ええ。このくらいの量、僕には造作もありませんし」
「そうか」

僕の言葉に、連盟長は何も言わなかった。

「がんばれよ」

ただ、そう静かにエールの言葉を掛けられた僕は、連盟長に一礼するとその場を後にした。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「変わる……か」

浩介が立ち去った連盟長室で、宗次朗は静かにつぶやいた。
その声色は息子の成長を喜ぶ父親のようなものであった。

「久美子の情報では、浩介には婚約者ができたようだな」

そうつぶやきながら、宗次朗は引き出しから一通の書類を取り出す。
その書類には『平沢唯について』という表題の資料だった。
それを一枚一枚目を通していく。
そこに記されているのは唯の素行や人間関係などの個人情報だった。

「別に問題もなさそうだな」

資料に目を通し終えた宗次朗は、静かにそうつぶやいた。

「とりあえず、私はしばらく静観することにしようか」

いずれは自分の手助けが必要になる時が来るかもしれない。
宗次朗はそれまで何も言わずに待つことにしたのだ。

「にしても、あいつに恋人か………やはり、私は間違っていなかったか」

その時の宗次朗の表情は、部下を思う連盟長ではなく息子のことを思う父親のもとなっていた。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「よし、こんなものだろう」

法務大臣室に移動した僕は、一気に年末年始の仕事のノルマをこなしていた。
腕を伸ばして、固まった筋肉をほぐしていく。

「今何時だろう?」

ふと時間が気になった僕は、その時刻に、驚きを隠せなかった。

「夕方!?」

しかも日数的に一日経っているし。

(そう言えば、意識がなくなっていた時があったな……あれが原因か)

時間が予想よりも掛った原因を突き止めた僕は、思わずため息を漏らしながら頭を抱えた。
時間的にも夕食時だろう。

(間に合わなかったか)

自分の不甲斐なさに、怒りが込み上げてきた。

「しょうがない。遅れてでも参加するか」

僕は遅れて参加をするという方向で、修正することにした。
それからは本当に素早かった。
処理していた仕事用の書類をまとめて、提出用のスペースに置いておき、半ば走るような勢いで大臣室を美出した。
そして入出国管理センターで”特務再開”という名目の元、僕は元の世界に向かうことにしたのだ。

「それでは最終確認をいたします」

唯たちのいる世界とつながるゲートを前に、新人の職員(根室ではない)によって、最終確認を行っていた。
これは、転送先に間違いがないかを確かめるための物だ。

「世界コードは”F-0001A”、転送場所は日本の拠点地。以上で間違いは?」
「ない」

職員から告げられた転送先の情報に、僕は間違いがないことを確認して、薄暗い部屋の中でうっすらと光を発して存在をアピールする魔法陣(ゲート)の上に立った。

「それでは、転送を開始します。護武運を」

新人職員の言葉とともに、僕は浮遊感に襲われる。

(帰ったら急いで唯の家に行こう)

そんなことを考えながら、僕は唯たちのいる世界へと転送されるのであった。










「よし、到着……………」

目的地に到着した僕は、思わず言葉を失った。
そこは全く見知らぬ場所だった。
目の前には壁に掛けられた大きな額縁などがあった。

(ここって、完全に他所の家じゃないか!?)

何が起こったのかを理解するのに時間はかからなかった。

(あの野郎、座標を間違えやがったな)

それしか考えられなかった。

「はっ!?」

そして思い出した。
ここは人の家だ。
つまり、この家の人がここにいることになる。

(騒動に発展する前に、ここを出ないと)

僕はこの場を脱出するべく行動を開始した。

「あの……」
「ッ!?」

その矢先に背中に掛けられた女性の物と思われる声に、僕は身を固くする。
だがそれも一瞬のことで、素早く声の方に振り向くとクリエイトを突きつけて魔法を使える状態にした。
魔法を使って記憶を消去しようと考えたのだ。
しかし、どうやらその必要はなかったようだ。

「って、梓!?」

そこにいたのは携帯電話手にソファーに腰掛けて、目を驚きに見開かせている梓の姿があった。

「こ、浩介先輩? どうして私の家に」
「向こうで僕を送るやつが場所を間違えたみたいで」

驚きながら聞いてくる梓に、僕は恥ずかしさのあまり苦笑しながら答えた。

「そ、そうなんですか」
「お騒がせして申し訳ない。僕はこれで――「待ってください!」――」

素早くその場を後にしようとする僕を呼び止めたのは、梓のその一言だった。

「な、なに?」
「あの、この子を助けてください!」
「助けてって………梓、猫でも飼ったのか?」

梓の視線の先にはソファーの上で立っている子猫の姿があった。

「違いますっ。友達から預かってたんですけどいきなり具合が悪そうになって……家には誰もいなくて、私どうしたらいいか」
「なるほど、状況は把握した」

何が起こっているのだけは把握することができた。
それじゃ、ちょっと見てみるけど、報酬はチーズケーキ3つだからね。

「は、はい! ありがとうございます」
「その前に、靴脱いでくる」

今気づいたが、僕は靴を履いたままリビングに立っていた。
ものすごくマナー違反だが、当初は靴を履いていてもおかしくない場所に行く予定なのだから、かんべんしてもらいたい。

「って、土足で上がらないでください!!」

とはいえ、起こられるのはある意味仕方のないことだったが。





靴を玄関に置いてきた僕は、気を取り直して子猫の容態を調べるところから始めた。
右手を開くようなしぐさで目の前にホロウィンドウを展開させる。

「子猫のバイタルを確認……正常」

ウィンドウに子猫のシルエットが現れさまざまな値が表示されるが、倍たるには異常が見られなかった。

「この猫具合なんて悪くないけど?」
「え!? で、でもさっき吐いたんですよ!」

僕の下した結論に、梓がすごい剣幕で抗議してきた。

「だったら、もう少し調べてみるか」

さらにホロウィンドウを展開し、コンソールで猫に関する情報を入力して検索を掛けた。

「ん?」

すると、検索によって出てきた情報に気になる記述を見つけた

「えっと……『猫は時々毛玉を吐くことがある』……梓、この猫が吐いたのって毛玉じゃないよね?」
「……………………………」

その沈黙がすべてを物語っていた。

「すみませんでした」

その梓の謝罪を打ち消すように、呼び鈴の音が響き渡った。
しかも間髪入れずに何度も何度も

「ちょっと出てきます。何かあったら呼んで。すぐに対応するから」

僕は玄関へと向かう梓に声を掛けながらクリエイトを構え臨戦態勢を整える。
やがて数人分の足音と共に梓が戻ってきた。

「あれ、浩君?」
「浩介さん?」
「へ?」

姿を現したのは平沢姉妹だった。

「あの、浩介先輩が来るまで唯先輩に電話をしていたので」
「な、なるほど」

梓のその説明が、全てを物語っていた。

「もしかして浮気ですか!?」
「違う!」
「ち、違います。これはただ……」

憂の言葉に、僕は素早く反論した。
そしてすべての事情を二人に説明する。

「そ、そうだったんですか。びっくりしちゃいました」
「わ、私は浩君を信じてたよ」

ほっと胸をなでおろす憂とは対照的に胸を張る唯だが、憂の”浮気”の単語に反応していたのを僕は見逃していなかった。

「それで、あずにゃん二号は?」
「それが、毛玉を吐いただけだったみたいで」

唯の問いかけに、頬を赤く染め、申し訳なさそうに答える梓。

(勝手になづけるなよ)

その勝手に名づけられてしまった子猫は、ソファーの上で眠っていた。

「良かったね、何もなくて」

ある意味取り越し苦労だったわけだが、唯は嫌そうな顔を一つもせずに喜んでいた。

「あ、ねえねえ浩君」
「何?」

ふと何かを思い出したのか僕の方に視線を向けて声を掛ける唯に、僕は用件を尋ねた。

「マシュマロ豆乳鍋とチョコカレー鍋、どっちが食べてみたい?」
「はぁ!?」

唯に突き付けられた究極の二択に、僕は思わず大きな声で叫んでしまった。

(というより、何その変な鍋は!?)

「まさかとは思うけど、今日しようとした鍋ってそんな感じか?」
「うん♪」

満面の笑みを浮かべながら頷く唯に、僕は頭痛がした。
唯の味覚は僕とは一生合わないような気がした。

「ねえ、ねえ。どっちがいい?」
「急用を思い出したから帰る!」
「あ、待ってよ! 浩君」

恋人の前から逃げるのは少しだけ気が引けるが、どっちも非常にとんでもない鍋になるに違いない。
そしてそれを僕がも食べる羽目になるだろう。
いくら何でも命が惜しいのだ。

(ごめん、唯!)

唯に心の中で謝罪の言葉を送りながら靴を履いて、すぐに僕は転移魔法でその場を離脱するのであった。

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