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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第85話 変化と一手

日本、青森県。
そこのとある学校の教室。

「それでは、自己紹介を」
「はい」

黒板の前に立っていた教師と思われる男性の促しに、同じく黒板の前に立っている男子生徒ははきはきとした返事をする。

「今日、このクラスに転向してきました、大木竜輝です。よろしくお願いします」

竜輝の自己紹介に、クラス中から拍手が送られる。
彼こそが内村竜輝であった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


内村竜輝による、一連の事件。
その全ての事件は解決した。
解決方法はいたってシンプル。
内村竜輝を、僕の手で”殺した”のだ。
その後の後処理は早かった。
工作課の人たちの力で、記憶の改ざんを行ったのだ。
――桜ヶ丘高等学校に、内村竜輝なる人物はいない――という内容で。
これによって一部の者を除いた教職員や生徒たちから、内村の記憶は完全に消去された。
また、内村家の方にもそれは及んだ。
逮捕拘束された者たちから、内村竜輝に関する人物の記憶を抹消したのだ。
もうこれで、彼はこの世界から存在自体が消滅したことになる。
そして、ここからが大変だった。
竜輝を久美に治癒させ、新たなる名を与えたのちに、僕たちのいる場所とは縁もゆかりもない遠き地へと追いやったのだ。
あの時、僕が剣で刺したことにより、竜輝の心は完全に破壊された。
それは記憶自体をも破壊するのと同じ行為であった。
――記憶は人格を形成させる。
その理論によって、僕は当たり障りのない記憶を彼に与えたのだ。

・花が好きで家事が得意。
・両親はおらず、親戚の仕送りで暮らしている

これらの記憶を彼にを植え付けた。
彼は、”大木竜輝”として、新たな人生を歩むのだ。
それが僕と彼のためだ。
願わくば、彼が立派な人生を歩んでくれることを願いたい。
そんなこんなで、無事に終息したと思われた事件だったが、思いもよらぬところまでこの事件は影響を与えていた。

「はぁ……」
「お、なんだなんだ? モテモテのお前がため息か? ハーレム道まっしぐらのお前がため息か?」

思わず口から洩れるため息に、慶介が反応して茶化すように言ってきた。

「うるさい。こっちは真剣に悩んでるんだ」

そんな慶介に、僕は意気消沈しながらも、しっかりと言い返した。

「そ、そうだったのか。それは悪い」

どうやら僕のように本気だと確信したようで、謝ってくると僕の前の席に座った。

「それで、どうしたんだ?」
「実は、唯に避けられているような気がするんだ?」

それは僕にとってはある意味切実だった。

「はい? それってさ、偶々じゃないか?」
「偶々?」

慶介の答えに、僕は失笑してしまった。
僕ですら、そう考えていたこともあるのだから。
しかし、

「だったら、これはどう説明するんだ?」

僕は慶介にシチュエーションのことを説明することにした。










それはある日の朝での、登校しているときのことだった

「あ、唯。おはよう」
「あ、お、おはよう……」

偶々唯の姿を見かけた僕が朝の挨拶をすると、唯はどこかよそよそしい態度で返してきた。

「唯、どうかしたのか?」
「そうだよ。様子が変だよ?」

唯の異変を僕よりも敏感に察知した憂いが僕の疑問に続いた。

「そ、そんなことないよ! わ、私さきに行ってるねっ!」
「あ、お姉ちゃん!」

一気にまくしたてた彼女は、そのまま学校に向かって走っていった。

「…………」

僕たちは、その様子をただ黙った見ることしかできなかった。





また別の日。

「唯、これ忘れ物」
「あ、ありがとう。浩介君」

教室に忘れ物を届けに言った僕に、お礼を言う唯だが微妙に何かがおかしい。
しかも、視線を合わせようとしない。

「唯ちゃん、どうしたの? 顔が赤いよ?!」
「だ、大丈夫だよ! ほら、この通り!」

様子のおかしい唯に、ムギがあわてた様子で容体を確認しようとすると、唯は慌てて力こぶを作るようなポーズをとった。

「それだったらいいんだけど」

結局、この日も顔を合わしてもらうことはなかった。





さらに別の日の放課後。

「唯、今のところリズムがずれてるぞ」
「…………………ぁ、ぅん」

演奏の練習中、唯のギターの演奏に指摘をすると、どこかよそよそしい反応が返ってきた。
それは、やる気がないというよりも、気もそそろと言った様子で練習に身が入っていないような気がした。

「唯先輩、本当にどうしたんですか? まさかまだ風邪が治っていないとか?!」
「そ、そうじゃないから大丈夫だよ」

とうとう後輩の梓にまで心配されるようになってしまうほど、唯の様子はおかしかった。










「これでも、偶然と言えるか?」
「なるほど。確かに言えないな」

考えられるだけのケースを話してみたが、慶介の意見を変えさせるには十分だったようだ。
他にも、話してはいないが、ティータイム中(当然部活の時だけど)に唯から視線を感じる事も幾度もあった。
そのくせこっちが顔を向けるとすぐにそらしてしまう。

「僕は、唯に何か悪いことでもしたのかな? 慶介は、どう見る?」
「………悪いけど、俺には見当がつかない」

僕の問いかけに、慶介は申し訳なさげに告げた。

「いや、良いんだ。こっちこそごめんね、変なこと聞いて」

よくよく考えれば、完全に部外者であるはずの慶介にする話ではない。
彼にしてみればいい迷惑だろう。

「いや、別にいいって。また何かあったら相談しろよな」
「あ、うん」

僕の肩を軽くたたいた慶介は、自分の席へと戻っていった。
その姿は、僕にはとても紳士的なものに見えた。

(やっぱり、慶介は僕には似合わないほどいい男だ)

彼に比べ、僕はなんだ?
変化を恐れて自分の心から目を背けていたばかりか、好きな奴に怯えさせている。

(あの時の魔法が原因かな?)

考えられる原因は一つしかなかった。
それが、あの時内村に使った”ダークラストジャッジメント”だ。
あの魔法は、映像資料を見ただけでも卒倒してしまうほどに恐ろしい魔法らしい。
それを今まで魔法の世界とは無縁の唯が目の当りにしたらどうだろうか?

(怖がられてる……………よね)

怖がるに決まっていた。

(って、いけないいけない!)

僕はふと悪い方向に考えようとする自分を戒めた。
まだ、そうと決まったわけではない。
仮定状況で、結論をつけるのはまだ早い。

(こういう時は、第三者の協力を得るのが一番)

だが、慶介は部外者だ。
今回の事案での相談相手には、一番適さなかった。

(だとすると、残るは……)

僕は適任者を見つけると、その人物にある内容を明記したメールを送るのであった。










「浩介!」
「あ、こっちこっち!」

放課後、場所は家の近くのハンバーガー店。
そこで待ち合わせをしていた僕は、その相手に手を振ることで自分の位置を知らせた。

「ごめんね、無理言って」
「もう浩介の無理には慣れれたよ」

僕の謝罪の言葉に、どこか呆れた表情で相槌を打つカチューシャをした女子……律に、僕は返す言葉もなかった。

「それで、何の用?」
「えっと……」

律を呼び出したのは、唯のことを聞くためだった。
だが、いざ聞こうとすると口が開かなかった。
まるで何かによって無理やり口を結ばれているかのように。

「唯のことだろ?」
「…………やっぱりわかるよね」

そんな僕の様子に一つため息をついた律のことばに、僕は降参と言わんばかりに相槌を打った。

「当たり前だろ。私を誰だと思ってるんだよ?」
「部長だもんな。部員の様子の変化くらい、簡単にわかるよね」

僕の言葉に呆れたようでいて、それでいて自信に満ちた表情を浮かべる律に、僕は思わず笑みがこぼれた。

「それで、律から見て唯はどう見える?」
「そうだな………私から見て唯は戸惑っていると思うぞ」
「戸惑い?」

予想もしていない律の返事に、僕は首をかしげながら聞きかえした。

「浩介の気持ちを知って、自分の気持ちがどうなのかがわからなくなっている状態ということ」
「なるほど…………ん?」

律の鋭い指摘に、頷きかけたところで、僕は違和感に気付いた。

「どうして僕が自分の気持ちを打ち明けたことを知ってるんだ?」
「どうしても何も、本人から聞いたんだよ。”浩君から好きって言われたけど、私はどうすればいいの?”ってな」

僕の疑問に、予想外の答えが返ってきた。

「いや、どうして唯がそんな電話を?」
「そんなのこっちが訊きたいぐらいだよっ」

僕の問いかけに、ツッコミ口調で答える律。

(おかしい、あの結界は音を遮断するんだからこっちの声は聞こえていないはず……いや、待てよ)

そもそも、音を遮断すると言ったのは誰だ?
唯を守るための結界魔法を構築したのは誰だ?
この付近の隔離結界魔法の維持を担っていたのは誰だ?
答えは簡単。
久美だ。

『クス。がんばってね兄さん』

内村の待つ廃工場に向かう際に、久美からかけられた言葉がふと頭をよぎった。
あの時は特に考えもしなかったが、今になって考えるとあれはもしかしたらこのことを言うのかもしれない。
これが指し示す結果は一つしかなかった。

(畜生。嵌められた)

しかも、久美は”音を遮断する”としか言っていない。
現に”結界内から僕たちの方への音は遮断されていた”ので、久美は嘘をついていない。
それだけに悔しかった。

(とすると、僕は唯の目の前で告白をしたのか?)

僕は自分が言ったことを思い出してみた。

『だって、僕は平沢唯のことが、一人の女性として好きなんだから』

しっかりと告白の言葉を言っていた。
その後にこうも続けていた。

『僕には覚悟もある。唯がお前に拉致されたと知って、私は刺し違えることになってでも唯を助けようと思い、ここに来た。私はこれからも唯を守る』

(うん。やめよう)

これ以上思い出すと確実に再起不能になる。

「おーい、大丈夫かー?」
「うん。何とか」

恥ずかしさのあまり、卒倒しそうになるのを何とか堪えて返事をした。

「そうか……聞かれてたか」

理解してしまえば単純なことだった。
唯の様子がおかしいのも頷けた。

「それだと、まだ唯から返事はもらってないようだな」
「当然だよ。それにまだ受け取れない」

それは僕は前から考えていたことだった。

「あれは、勢い任せの告白だったから。だから、ちゃんとした形で唯に告白したい」

もう一度、ちゃんと唯に思いを告げる。
それが僕の決意だった。

「…………そっか。ならば、頑張って、告白しな。二人が変な雰囲気のままだと、部活動にも支障が出るしさ」
「ありがとう」

律なりの背中を押す言葉に、僕はお礼を口にした。

「それで、何か策はあるんでしょ?」
「ないっ!」

期待を込めた視線に、僕はきっぱりと告げた。

「ないのかよっ」

その言葉に律からツッコまれてしまった

「でも、早いうちにちゃんと解決させるよ」

僕は律に安心させるように言うと、財布を取り出して僕と律の分の代金をテーブルに置いた。

「今日は相談に乗ってくれてありがとう。これ、ここの代金」
「いや、こんなにいいって」

確実にお釣りがくる金額の代金を手渡された律が遠慮するが、僕は首を横に振った。

「感謝の気持ちだから、受け取って。それじゃっ」
「あ、ちょっと―――」

僕は強引に律に手渡すと、逃げるようにその場を後にした。

(よし、頑張ろうっ!)

外に出た僕は、夕陽によってオレンジ色に染まる空を見上げながら決意を新たにするのであった。
だが、結局事態は改善することはなく、土曜日を迎えることとなった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「まったく、強引なんだよな」
「でも、そういうところが浩介の魅力だと思うぜ」

浩介が立ち去ったMAXバーガー。
律のボヤキに返事を返したのは律たちが腰かけていた席から少し離れた場所に座っていた慶介だった。
慶介は、律の対面に腰掛ける。

「で、どうする? 俺の予測だと何年経っても無理だぞ」
「私も同感。あの二人がすんなりと物事を進められるはずがない!」

慶介の予想に、律が頷くことで賛同する。
その言葉は本人が聞いていたらかなりショックを受けるような内容だった。

「どうしようか……」
「むー……」

二人して腕を組んで考え始める。

(って、言うかどうして俺は他人の恋路でここまで悩まないといけないんだ?)

慶介は、ふとそんな疑問を頭に浮かべるが、何か意味があるからと自分に納得させた。

「あ、そうだ。いい案を思いついた」
「それは何だ?」

左手に握り拳を作った右手を乗せながら口を開く慶介に、律がその案を尋ねる。

「それはだな――――」

こうして、慶介の手によってその作戦が告げられることとなった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「はぁ………僕って、ここまでヘタレだったか」

気づけば土曜日。
この日も唯に告白をすることができなかった。
ただ一言、”好きだ”と言えばいいだけなのに、それができない自分が不甲斐なく感じた。

(とにかく、明日一日で英気を養おう)

月曜日になったら、もう一度挑戦するつもりだ。

「あれ、メールだ」

そんな決意をしていると、僕の携帯がメールの受信を告げる音色を奏でた。

「って、慶介からか」

一瞬何かを期待する自分に、”これは末期だな”と思いながら、携帯を開いて受診したメールを表示させた。

「何々……『明日の日曜に、遊園地に行かないか?』か……」

メールの内容は、遊びに誘うものだった。

「明日か……予定とかあったっけ?」

僕は手帳を開いて明日の予定を確認する。
H&Pのライブは12月に小規模程度ではあるが一度開かれる。
その練習もあるが、明日はちょうどそれがお休みの日であった。

「まあ、相談に乗ってもらったお礼も兼ねて、友達づきあいでもしますか」

たまには友達づきあいをするのもいいと思った僕は、行く旨の返信をすることにした。
それから程なくして、集合時間などの連絡が来たので、それを確認した僕は明日に備えて眠りにつくことにした。

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