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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第82話 静かなる攻防

夜、某所にある豪邸にて。

「あぁ!? 圧力が効かねえだぁ?!」

広々とした寝室と思わしき部屋に竜輝の怒鳴り声が響き渡った。

『も、申し訳ありません。ですが、これ以上圧力をかけても無駄です』
「ああもういい!」

竜輝はそう吐き捨てると電話を切った。

「おのれ、高月浩介……こうなったらとことんやってやろうじゃねえかぁ!」

竜輝は再び電話をかける。

「俺だ」
『これは、竜輝お坊ちゃま。いかがなされましたか?』

電話に出たのは男性のようだった。
竜輝は電話口の男に容赦なく命令を与えた。

「琴吹グループの株を明日中にすべて買い取れ! 買い取ったら経営陣を追い出せ。いいか、明日中にだ!」
『かしこまりました』

それは企業買収の指示だった。

「貴様のせいで周りがどんどん不幸になっていく。その悔しさ、無力さを思い知れ!! ガハハハハ」

竜輝は勝ち誇ったように笑う。
だが、彼は知らない。
竜輝が喧嘩を吹っ掛けている相手がどれほど残虐で、恐ろしい人物であるかを。
そして、この行動がどのような結果をもたらすのかを。










ターゲットが動き出したのは僕が協力をしてほしいことを頼んだ次の日だった。

「おい、高月浩介」
「………何だ?」

いつものように通学しているさなか、内村から声を掛けられた。

「お前、俺様の忠告を無視したな」
「忠告も何も、私は貴様のような奴の命令を聞くつもりはない」

そう告げて奴の横をすり抜けようとした時、内村は小さな声で告げた。

「貴様のせいで周りにいる奴が不幸になるぞ。楽しみにしておけ」

そのまま勝ち誇った様子で立ち去る内村。

(さて、その不幸とやらを見せてもらおうか)

だが、その脅しにも僕は動揺などはしなかった。





変化は唐突だった。
それは昼休みになってから少ししてからのことだった。

「高月君!!」
「ッ?!」

突然教室中に響き渡る叫び声にも近い声に、僕は思わず直立不動で立ち上がってしまった。

「ちょっと、こっちに来て」
「あ、ムギ! 引っ張るな!!」

僕は血相を欠いたムギによって、無理やり教室から連れ出されるとそのまま廊下を走って階段を下りてさらに走り出す。

「いい加減に落ち着け!」
「……っ!」

僕の一喝で、ようやく落ち着きを取り戻したのか、ムギは走る速度を落として僕の腕を握りしめていた手の力を弱めた。

「それで、何があったんだ?」
「これを見てっ」

そう言ってムギから手渡されたのは、経済ニュースのトピックスだった。
そこにはこう記されていた。

『内村財閥、琴吹グループを買収か?』

(来ると思ってたけど、本当にやってきたか)

成金の権力を持つバカがやることと言えば圧力に買収などの嫌がらせだろう。

「私、どうすればいいかわからなくて」
「安心しな。僕は奴らよりも百歩先を行っている。既に手は打ってある」

当然想定済みなので、策は打ってあった。

「放課後になったら結果が出るはずだから。この間のお願い、くれぐれも忘れないで」
「うん、浩介君を信じる」

僕の言葉を信じたムギに、僕は頷くことで相槌を打った。

「ほら、早く行かないと昼休みが終わるよ?」
「あ、本当だ。それじゃ放課後」
「ああ」

去っていくムギに手を振りながら僕は彼女を見送った。

「にしても、墓穴を掘るとは言うが、本当に墓穴を掘ったな」

僕はそうつぶやきながら携帯電話を取り出すとある場所に電話をかける。

「私だ。例の件はどうなっている?」
『はい。こちらはすべて順調です。貴方に言われた通りに行っております。このままいけばこちらの勝利で確定でしょう』

電話先の男性の報告に、僕は心の中でガッツポーズをしながら頷いた。

「ご苦労。そのまま、作業を続けて」
『かしこまりました』

そして僕は電話を切る。
現在電話先の男を含め数十人が、琴吹グループ買収を阻止するべく行動を起こしているのだ。
そして僕の想像通り、放課後にはすべて片が付いているだろう。

(さて、次向こう側が打ってくるであろう手を考えますか)

僕は次なる手を考えながら教室へと向かうのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


同日の夜、内村家にて。

「は? もう一度言って、ママ」

自宅に戻った竜輝は、突然告げられた言葉が理解できずに、母親に聞きかえした。

「ですから、内村財閥が消滅したのよ!」

告げられたのは衝撃的な内容だった。

「そんな馬鹿な! 俺様の財閥が消滅だなんて! 事実なのよ! 株主たちが株を別の会社に売ってその会社に乗っ取られたのよ!!」
「パ、パパは!? パパはどこに?!」
「今、急いで株主の所に行って株を買い戻すように頼んでいるわ」

内村家は朝まではいつもの勝ち組から、一気に負け組の座へと転落することとなった。

「でも安心して竜輝。まだ、我が家には隠し資産が数十億あるから」
「そ、そうか。明後日には再建できるだろ」

母親の言葉に、竜輝も平静を取り戻した。

「さあ、お夕食を食べて寝なさい」
「ああ」

話はここで一度終わったかに思えたが、さらに転落は止まらない。
翌日、内村家の両親は賄賂や脅迫などの罪で逮捕された。
彼に関係する政治家や暴力団関係者も次々に摘発されていく。
徐々に徐々に、彼はつながりを失っていくのだ。
そして二日ほどして、竜輝は家を追われた。





とある工業団地内にある3階建ての廃工場となった建物。
そこは夜になれば人通りは皆無となり、絶好の潜伏場所となっていた。
廃工場になったのは、数十年前にある事故が発生したためであるとされている。
そこに竜輝は身を潜めていた。

『もう私には連絡しないでください。貴方とはもう手を切ったのですから』
「あ、待て! ……ちくしょう……ちくしょう……畜生!!!」

かろうじてつながる電話で、かつて便利屋のように使っていた男から拒絶された竜輝は、毒づく。

「どういうことだ。この俺様がどうしてこんな目に合うのだ!」

ついに彼は、何もかもすべてを失ったのだ。

「お坊ちゃま、ここにいましたか」
「あん?」

そんな中、竜輝に声を掛けたのはスーツを着込んだ中年男性だった。

「田中」
「このたびは大変な目に合われたようで」

同情の言葉を投げかける田中と呼ばれた人物に、竜輝は威圧的な目で睨みつける。

「私は、お坊ちゃまの味方です」
「はん! そうだ、それが正しい。またすぐに返り咲いてやるさ」

ようやく得たつながりに、竜輝の威勢が取り戻されたのだ。

「おい、こうなった理由は分かったのか?」
「ええ。お坊ちゃまが琴吹グループを買収し始めたのと同じタイミングで、ある企業が株主たちに高額な金を払って株を売らせたのです」

調べておいたのか竜輝の問いかけに答える田中が、事の真相を語った。

「その額、株を売った際の金額が最大で5億、それにプラスで毎年1億だそうです」
「な、なんだと!? どうしてそんな大金を株主に配当ができるっ!! その企業は何者だ!!」
「こちらです」

その高額すぎる金額に、驚きを隠せない竜輝は田中を問い詰める。

「ムーントラフィック? なんだ、この会社は」
「貿易会社だそうです。色々な技術を様々なところに低価格で販売する企業だとか」

ムーントラフィックこそが、今回の内村財閥の転落劇の幕を開けた張本人だった事を知った竜輝は、さらに核心に迫る。

「代表は誰だ?」
「それが、お坊ちゃまと同学年の学生です。名前が”高月浩介”となってます」

その名を聞いた瞬間、廃工場内に大きな音が響き渡った。
それは竜輝が近くにあった鉄材を蹴り飛ばしたからだ。

「ちくしょう! あの野郎っ!! そう言うことかっ」

竜輝はこの時初めて、浩介の言葉の意味を理解した。

『あまり私たちにケンカを売らない方がいいぞ?』

(そう言う意味かよ。だが、貴様はこの俺様を怒らせた! こうなれば地獄の底まで突き落として俺様と同じ目に合わせてやるっ!)

浩介に対して身勝手な恨みを抱いた竜輝は、口を開いた。

「おい、田中」
「はい。何でしょうか?」

そして、竜輝はそれを告げる。

「奴の……高月浩介に関する弱みを調べろ。脅せられるのであれば何でもいい」
「かしこまりました」

竜輝の命令に、田中は一礼すると、廃工場を去っていった。

「この俺様に惨めな思いをさせた罰、受けてもらうぞ。ガハハハハハ!!」

しばらくの間、廃工場から竜輝の不気味な笑い声が響き渡るのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


数日ほど経った10月になって間もないある日の放課後のこと。
僕たちはいつものようにティータイムの時間を過ごしていた。

「それにしても、まさか内村があんなことをするなんて」
「企業買収でのいやがらせ行為は、権力を持ったバカがやる行動だからな。真っ先に思い付いていたんだよ」

律の言葉に、僕はため息交じりに相槌を打った。

「他にも唯たちの両親の働く会社に妨害をする可能性を考慮していたけれど、どうやら琴吹グループだったようだし」
「あの、浩介先輩」
「何? あずにゃん」

そんな中、神妙な顔で聞いてくる梓に、僕は用件を尋ねた。

「一体浩介先輩は何をしたんですか?」
「目には目を歯には歯を。その理論に基づいて、逆に内村財閥を買収してやったんだよ」

僕が行ったのは実に単純なものだった。

「でも、財閥の買収は不可能だって……」
「え、そうなの?」

ムギの言葉に、唯が反応した。

「うん。いくつもの会社が一つにまとまったような感じで、買収するのは不可能だって言っていたわ」
「だから、それらの会社を一斉に買収したんだよ。株主に莫大な報酬を支払うことを約束してね」

普通ならば、財閥を買収することは不可能だ。
だが、僕は不可能を可能にすることができる。
経済での企業買収でものをいうのは、やはり資金だ。
幸い僕にはその資金はあまるほどあった。
なので、それを利用したのだ。

「ちなみに、おいくらくらい?」
「えっと………5000くらいかな」

単純計算ではあるが大体はそのくらいの費用はかかっているはずだ。

「それって、億単位じゃないよな?」
「もちろん。兆単位です」

本当はさらに値段がかさむのではないかと覚悟していたが、わりと安く済んでくれたので、よかった。

「ということは、内村財閥のすべての経営権が浩介の手の内に!?」
「そんなわけはないよ。個人でできることなんてたかが知れてる。買収を仕掛けたのは立派な会社だよ」

そう言いながら、僕は一枚の名刺を机の上に置いた。

「えっと……ムーントラフィック会長ぉ!?」
「僕、学生と会社の会長を兼任していたりするから」

僕の名刺を見た澪が、衝撃のあまりに語尾を荒げた。

「ムーントラフィックって、確か貿易会社だったよね?」
「表向きはね。さまざまな技術を格安で販売する企業。その真の顔は僕たち魔法使いの中継をする施設」

僕が行く世界(もちろん魔法文化なしだが)で長期間滞在する場合は、このような企業を設立することによってサポート体制を整えているのだ。

「もう何でもアリだよな」

律のどこか呆れたような言葉が、皆の心境を物語っていた。

「この会社の重役はすべて魔法連盟の職員だから、魔法関連に対する相談なども受け付けているし、一種の司令塔のような感じにもなっている。僕はそこで会長職として、会社の経営をコントロールしているんだ。今回の買収も、僕が部下に指示を出して職員総動員でやらせたから、功労者は部下だと思うよ」
「へぇ、浩君ってすごいんだね」

分かったような、わかっていないような、微妙は反応をしながら感想を口にする唯。

「それで、内村先輩は今どうなってるんでしょうか?」
「家も追われているはずだから今までのように不自由の無い生活はできないだろうな」

企業買収の後は本当にあっけなかった。
彼と深くつながっていた政治家を工作課の人に命令を出して逮捕させたりして、無力化していくのはとても簡単だった。

(まあ、まだ一か所残してあるんだけどね)

内村と深くつながっている人物で”田中探偵事務所”というのがある。
そこは内村が相手を蹴落とす材料を探させるために利用する、一種の情報屋のような存在だ。
そこを残したのは、まだすべてを終わらせるわけにはいかないからだ。
近いうち、彼は必ず報復行動を起こす。
それのシグナルとして探偵事務所を利用するのだ。
彼が動き出せば内村がついに行動を起こしたということになるのだから。
そして、そのためのエサも十分に用意している。
後は、彼が動き出すだけ。

「それよりも、この前の約束は忘れてないよな?」
「ええ、もちろん」

僕の確認の言葉に、ムギを筆頭に全員が頷いて答えた。





それは、この間久美が来た時のこと。

「それは一体何? 浩君」
「それは、内村に対して交渉のようなことを持ちかけないこと」

唯の問いかけに、僕はそう告げた。

「どういうことだ?」
「奴のような人種に交渉を持ちかけても無駄だ。逆上して危害を加えたり、辱めを受ける可能性があるということだ」
『っ!?』

久美以外の全員が僕の言葉に息をのんだ。

「僕はこれまでにそう言う人物を多く見てきた。だから言っている。絶対に交渉を持ちかけてはダメ。向こうが何をしてもこちら側で全て対処はする。だから、絶対に皆は行動を起こさないで。それが条件。約束できるか?」
「うん。分かったよ! 浩君」

唯をきっかけに、次々と頷いていく澪たち。
このおかげで、僕は思うように動くことができたのだ。
そうでなければ、現在はとんでもない事態に発展していたかもしれない。
この頼みは不幸な結末をたどった事例を多く見たからこその物だったのだから。
唯たちにそのような結末を辿ってほしくはない。
それが僕の思いだった。





「あの時の約束だけど、様子見でもうしばらく継続させる」
「それって、まだ終わりじゃないということ?」

澪はさすがに鋭い。
だが、本当のことを言うわけにはいかなかった。

「そう言うわけじゃないけど、念のためだ」

だからこそ、嘘でも本当でもないグレーゾーンの答え方をしたのだ。

「本当に終わってるといいですよね」

梓のその言葉が、今後のことをなんとなく示唆しているような気がした。

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