健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第81話 次の一手

「なっ!?」

目の前の光景に、律が固まった。

「ナイフが……」
「止まってる」

澪の言葉を引き継ぐように、唯が口を開いた。
唯たちの言うとおり、真鍋さんの手前でナイフは止まっていた。
まるで、そこに壁があるかのように。

「全く、苦労して頑張った人にやること? それ」
「それを言うのであればもう少しましな出方をしろ」

不満げな表情で空中で止まっているナイフを指差すそいつに、僕はため息交じりに言い返した。

「えっと……状況について行けないんですが?」
「浩君と和ちゃんって、そんなに仲が良かったっけ?」

そんな僕たちの様子を戸惑いながら見ていた律たちがある意味かわいそうに思えてきた。

「ほら、戸惑ってるじゃないか。いい加減ちゃんと元に戻れ」
「はぁい」

僕の小言に不承不承と言った様子で返事をすると、そいつは首元にあるタイを解いた。

「の、和ちゃんの姿が……」
「どんどん変わって行きます」

真鍋和の姿が崩れ、本当の姿に徐々に戻っていく。
やがて、そいつは本当の姿へと戻った。

「ふぅ……久しぶりね」
「何が久しぶりだ。この間勝手に来てたくせに」

一息つきながら白々しく挨拶をしてくる妹に、僕はあきれながら言い返した。

「あの時はぶっ倒れていたから会ったことにはなりません―」
「本当に変わらないな、お前」

妹のその姿は(というより心だけど)は未だに、昔のままだった。

「あのー、盛り上がっているところ大変申し訳ないんだけど」
「ん?」

そんな僕たちに、控えめに声を掛けてきたのは律だった。

「この人誰なの?」
「「あ」」

唯の問いかけで、みんなが会話に混ざってこない理由がわかった。

「そういえばこの間、自己紹介してなかったっけ」

僕の言葉に、放課後ティータイムのメンバー全員が頷いて答えた。
この前というのは、もちろん時間ループ事件のことだ。
あの時も、妹には僕の身代わりとして協力をしてもらった。
その時に、唯たちと面識はあるはずだが、名前を告げてはいなかったので、当然彼女たちが妹のことを知っているはずがない。

「それじゃ、ご挨拶だ」
「了解だよ」

僕の促す言葉に、妹は応じると数歩前に出た。

「はぁ~い☆ 私の名前は皆のアイドル、高月久美子でー―――ギャバン!!?」
「まじめに自己紹介をしろ」

馬鹿げた自己紹介をしようとする妹の頭に魔法でタライを5つ落とした。

「あんなやり取りをどこかで見たような気がする」
「奇遇だな、私もだ」

そんな僕たちを見ていた律たちがぼそぼそと何かを話していた。

(あー、なるほど慶介か)

慶介に制裁を下すのとほとんど同じだったことに、今僕は気付いた。
ある意味慶介は侮れない存在なのかもしれない。

「えー、高月久美子です。よろしく」

再び妹はみんなに自己紹介をした。
今度はかなりテンションが低いけど。

「あ、はい。よろしくお願い……高月?」
「高月ということは………」

妹の自己紹介に応じようとする唯たちだが、苗字の方に気が付いたのか、僕の顔と妹の顔を見比べはじめた。

「「妹だ(だよ)」」
『……』

一瞬部室内が沈黙に包まれた。

『えぇ!?』

かと思えば今度は悲鳴が響き渡る。

「ちょっと、そんなに驚くことか!?」
「だって、浩君に兄弟がいるなんて想像がつかなかったんだもん」

(皆の中での僕の立ち位置っていったい)

何だかとてもむなしくなってきてしまった。

「でも、この間言った時はいなかったけど」
「そりゃ、あの時は任務で不在だったからな」

8月に事故で魔界に来たときは、久美は任務で違う世界にいたため不在だった。
それもこの間終わったが。

「任務ということは」
「魔法連盟で兄さんの下で働いているのよ」

目を輝かせて興味津々といった様子のムギの言葉に頷きながら、久美は答えた。

「あの、久美子さんが―――にゃーッ!!?」

梓が名前を読んだ瞬間に、久美の攻撃魔法が彼女の耳元をかすめた。

「あ、こいつフルネームで呼ばれると今みたいなことをするから気を付けてね」
「それを早くいいなよ」

まさかいきなり下の名前で呼ぶとは思わなかった為、言わなかったことが仇となってしまったようだ。

(まあ、本気で当てるつもりはないだろうけど)

僕とは違ってそれくらいの分別はあるが、何も知らない人物からすれば恐怖であることには違いない。

「でも、一体どうして……」
「久美子の名前って”久しい”に”美しい”と”子供”という字で、自分が子供みたいだからいやらしいよ。だから”久美子”という呼び名はタブー。呼ぶんなら”久美”がいい」

昔、これが原因で家が半壊しかける騒動に発展したのだが、それはどうでもいいことだろう。

「それじゃ、久美さん?」
「別に呼び捨てでもいいのに」

澪の言葉に、久美はぼそりと声を漏らしたが、どうやら嫌そうな感じはしなかった。

「むむむ……」
「唯ちゃん、どうしたの?」

そんな中、腕を組んで唸っている唯に、ムギが不思議そうに尋ねた。

「閃いた!」
「……何が?」

まるで頭の上に豆電球に光がともったような勢いで声を上げる唯に、僕は少しばかり嫌な予感を感じながら意味を尋ねた。

「クーちゃんだ!」
『………はい?』

突然口にした誰かのあだ名と思わしき単語に、梓達だけではなく久美ですら目を瞬かせていた。

「まさかとは思うが、それ久美のことか?」
「うん! 可愛いでしょ?」

やはりというべきかなんというべきか、久美のあだ名だったようだ。

(しかし、何という命知らずなことを)

「…………」

あのようなあだ名を久美が何もしないわけがない。
これはもしかしたら大戦争に発展するかもしれない。
現に横にいる久美は、うつむいて肩を震わせているのだから。

(何としてでも怪我はさせないようにしないと)

「あはははは!!」
「はい?」

だが、久美の反応は僕の予想したものとは違っていた。

「”クーちゃん”って、何それっ。最高よ!」
「いいのか?」

久美の予想外の反応に、僕が戸惑う番だった。

「だって、子供だとは誰も思わないし、可愛いじゃない!」
「「「「「可愛い…」」」」」

久美の感受性には家族である僕ですら分からないことがある。

「平沢さん! 私はあなたのことが気に入った! 唯って呼んでいい?」
「うん! いいよー!」

そしていつの間にか二人は仲好くなっていた。

「えっと、ものすごく失礼なことを言っていい?」
「いいよ。僕も多分同じことを思ってるから」

律の確認の言葉に、僕は頷いて答えた。

「「ちょっとおかしい人だよな」」

僕と律の意見が一致した瞬間だった。

「それにしても、久美さんって唯先輩とお知り合いだったんですね」
「そりゃ、前に一回会ってるからな。あずにゃんもだけど」

楽しげに会話を始める唯たちを見ながら声を上げる梓に、僕はそう返した

「え? でも、私は会ったことなんてありませんよ」
「ある。時間ループの時に、僕の影武者をしたやつだ」
「えぇ!? だって、あの時はとても大人っぽいような印象だったの、にゃーー!!?」

梓が言い切る前に再び攻撃魔法が放たれた。
今度は直撃コースで。

「悪かったわね。あの時は正体を明かすわけにはいかないから、演技をしていたからね」
「はいはい。澪、梓を離して。何となくだけど、危ないから」
「わ、わかった」

これ以上は危険だと判断した僕は澪に梓を久美から離してもらうことお願いした。

「久美に何かを言う前に、一度考えることをお勧めするよ」
「は、はい」

僕の忠告に梓は小さく返事を返した。

「それにしても、貴女って人見知りで臆病な所があるみたいだけど、口調とかからはそんな感じはしないよね」
「え? な、なんで……」

久美の感心したような言葉に、澪が驚きで目を見開かせる。

「あんた、澪の精神干渉をしたな」
「い、いつ!?」
「兄さんが倒れた時」

澪の問いかけに、久美は簡潔に答えた。

「随分最近ですね」
「ここに来てみたら兄さんは倒れているしもう大変。しかもあなたたちが来るから薬も飲ませられなくて」
「薬?」

とりあえずということで席に腰掛けた久美は出されたお茶を飲みながら、ムギの疑問に答えた。

「これのことよ」
「草?」

久美が取り出したのは月見草だった。

「名前は月見草。私たちの国で取られる万能薬。かなり苦いけどこれを飲めば大抵の病気は治るわ。ただ、これは調合をしなければいけなくて――――」
「へぇ……」

久美の説明に、月見草をまじまじと見つめながら感心したような声を漏らす唯。

「感心したように言ってるけど、理解できてないだろ」
「え?! それは気のせいだよ! 浩君」

(絶対に理解できてない)

まあ、理解できなくて当然なんだけど。

「急須に入れて飲ませる準備は整ったけど、あなたたちから来たからしょうがなく」
「それじゃ、あの時起きた怪奇現象は」
「そ。私がやったの。貴女を操ったのも、兄さんに薬を飲ませたかったから。運ぶ人員は予想外だったから、全員に共通する人物に変装したの」

どうやら、慶介は久美の策略に巻き込まれてしまったようだ。

(なんだか慶介がかわいそうに思えてきた)

「皆もごめんなさいね。特に、澪さんには申し訳ないことを」
「あ、いえ。私はそんなに気にしていないですから」

申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする久美に、澪は手を振りながら答えた。

「いや、久美の言っているのはそういう意味じゃないと思う」
「干渉した時に、貴女の記憶を見てしまって」
「見た………ッ!?」

久美の言わんとすることがわかったのか、澪は恥ずかしさのあまり失神した。

「み、澪―、大丈夫か?!」
「えっと、これ私のせい?」
「はぁ……放っておけば回復するよ。今何かを言ったら逆効果だから」

戸惑いの表情を浮かべる久美の肩に手を乗っけて頷きながら返すのであった。










「それで、どうしてクーちゃんはここに?」
「それは兄さんに頼まれた物を届けるためよ」

唯の疑問に答えると、久美はどこからともなく紙媒体の資料を取り出した。

「どうもありがとう」
「全く兄さんって次から次に問題を引き込むよね」
「引き込みたくて引き込んでるんじゃない」

大げさに肩をすくませる久美に、僕はため息交じりに言い返しながら資料に目を通す。

「ねえ、その資料っていったい何?」
「脅迫状を送ったやつに関する個人情報」

唯の疑問に答えながら、さらに紙をめくる。

「何で、そんなものがここに?!」
「久美に調べてもらった。こういうことに関しては、久美よりも勝る者はいないから」
「諜報活動が私の役割だからね」

ツッコミ口調の律に答える僕に、久美は胸を張りながら口を開いた。

「まるで探偵さんみたい」
「そう言うけど、こいつにかかればその人物の知られたくない過去が何もかも全て丸裸にされるから、調べられる側からすればたまったものじゃないけどね」

そう言いながらも、僕はさらに資料を読み進める。

「っと、まあこんなものか」
「さすが兄さん。その読む速さには目を見張るよね」

資料を読み終えた僕は机の上に、奴に関する資料を置いた。

「それで、その人は一体どんな奴なんだ?」
「それは申し訳ないけどあなたたちに言うことは――「いや、いい」――兄さん」

身を乗り出して聞いてくる律に、申し訳なさそうに理の言葉を入れる久美の言葉を遮った。

「高月家の規約に反するわよ」
「別に反してはいないさ」

真剣な面持ちで忠告する久美に、僕は軽やかに返した。

「ねえ、”規約”って何?」
「高月家が調査で得た情報は部外者に漏えいしてはならないという物」
「他にもいくつもの条項があって、私たちはそれを守るように言われているの」

例を挙げるとすると”他の家系に権利行使ができるのは高月家に対して害をなす存在のみ”だったりする。
これを破ると最悪の場合は勘当となる。

「それじゃ、私たちが聞くとまずいよな」
「だから、どうしてマズイんだ?」
「だって、私たち部外者ですよ?」

僕の疑問に答える梓に、思わずため息が漏れた。

「あのね、奴は軽音部を廃部にさせようと画策した。つまり、ここにいる全員は被害者であり関係者でもある。ゆえに知る権利がある。これでもまだ部外者だというか?」
「…………」

少しばかり強引かもしれないが、それが僕の考えたロジックだ。
何より、知ってもらう方がメリットの方が大きい。
相手を知らずに、彼女たちに動かれればそれだけでこちらの計画は大きく狂うことになるのだから。

「情報を公開するが、条件は一つ。これから先のことは他言無用だ。ターゲットに対して忠告の道具にするのも。相手にこのことが知られた時こそ、これまでの苦労は水の泡になる。分かった?」

全員が無言で頷いたのを確認して、僕は先ほどの資料に明記されていたことを唯たちに告げることにした。

「ターゲットの名前は内村 竜輝。学年やクラスは唯たちと同じだ」
「内村って、あの人を見下したような感じのやつか」

名前だけで、顔をしかめる律をしり目に、僕は話を続ける。

「彼は”内村財閥”の御曹司。将来はそれなりのポストが保障されている。業界内でもかなりの影響力を持ち、まさに日本を代表すると言っても過言ではない存在だ」
「そう言えば、テレビでやっていたっけ」

内村財閥。
それは、金融や流通関係などあらゆるところに影響力を持つ企業だ。
当然、大富豪だ。

「その裏で、さまざまな悪事やらを行っている。こいつが、その記録」
「えっと……脅迫罪に賄賂、賭博、暴行、監禁、恐喝……って、どんだけあるんだよっ!」
「ざっと50犯以上だ。しかも暴力団の連中とも接点があるから、彼に逆らって生存が確認されているのは一人もいない」

僕の突きつけた真実に、唯たちが顔を青ざめる。

「他にも文部省やら財務省、公安等にも息がかかった者がいる。だから、何かをしてもすべて揉み消される」
「酷すぎますっ」

内村財閥の裏の顔を知った梓が、怒った様子で声を上げた。

「僕は、そう言うやつを何とかすることができる力がある」
「それって、魔法?」

ムギの言葉に、僕は首を横に振って応えた。

「権力だよ」
「権力?」
「高月家は大金持ちの家系や名家などに対抗する権力がある。それが調査と破門の二つ」

それが僕の持つ切り札だった。

「ねえねえ、破門ってあのドラマとかで良く出る奴?」
「ちょっとニュアンスは違う。僕たちで言う破門は、簡単に言えばその家の資産や財産、家財すべてを没収して家そのものの活動を止める行為のことを言う……分かる?」
「さっぱりわかりません!」

簡単に説明してみたが、簡単には言えなかった。
唯がわからなくて当然なのかもしれない。

「まあ、とりあえずすごい力ということだけを覚えてくれればいいよ」

それが一番確実だった。

「破門という行為は人権を無視しているから、やれば確実に僕たちは犯罪者になる。しかも公にすることも不可能だ」
「それじゃ、どうする気なんですか?」
「工作課の者たちを使う」

僕の出した策は工作課の職員を利用することだった。

「工作課?」
「あ、工作課っていうのはね、ここのように魔法文化の無い世界に任務に出る魔法使いの人をアシストする人たちのことよ」
「工作課の者たちは、出版業界や金融関係、教育や医療に公安系など様々な業種の場所に普通の人間を装って潜り込んでいる。主な任務は対象者の監視などかな」

新たに出てきた単語に首をかしげて率に、久美と僕は工作課について説明した。

「そう言えば、去年のクリスマスあたりに、あなたたちが監視されていたっていう記録があるけど」
「なんと?! 私たちはいつの間に危険人物に!?」
「それはちょっと言いすぎだと思うぞ」

律たちはそこまで危険じゃないのだから。

「クリスマス会で彼女たちの前で一発芸をするために魔法を使ったから」
「あー、確かにそれなら監視されても仕方ないかも」

糾弾しないあたり、僕がばれないように細心の注意を払ったことは分かっていたみたいだ。

「やっぱりあれって魔法だったんだ」

”やっぱり”という単語が出てくるのは、僕が魔法使いであることがわかったからなのか?
それとも、それよりも前に考えていたからなのか。
それが全く分からなかった。

「ちなみに、ここの学校にもいるからね」
「いつの間に!?」
「し、知らなかった」

実は先回り形式で潜り込むため、気づけばそこにいるのが工作課の特徴だ。

「ちなみに、探し出すのは困難だよ。催眠術で深層心理レベルで不自然がないように思いこましているから。聞きまわったりしたら変人扱いされるし」
「それに、当たりを引いたら面倒なことになる。工作課の人たちのことは気にしなくて平気よ。何もしなければ味方なんだから」

僕の言葉に続くように久美が補足した。
皆には言っていないが、工作課の存在は僕が生きるためには必要不可欠な存在だ。
それが、お金。
魔界の通貨は、日本円だ。
その所以は、魔界の者が最初に向かったのが日本だからというのがあるが、真相は不明だ。
故郷にあるお金を、ここに持ち込んで利用すれば、お札が大量に出回ることになり、それはこの国の財政をより悪化させる可能性がある。
それを防ぐのが金融関係に入り込んだ工作課の者たちだ。
どうやって課は知らないが、僕の所有する故郷のお金と引き換えにこの国の通貨に変換してもらっているのだ。

「僕はこれまで、こういう連中のやり口を見てきたから次に起こす行動は手に取るようにわかる。そこで、僕たちは次の一手を打とうと思う。そこでみんなに協力してもらいたいことが一つある」
「それは一体何? 浩君」

首をかしげながら聞いてくる唯たちに、僕は協力してもらいたいことの内容を告げるのであった。

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