健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第75話 学園祭

「ぅ…………」

学園祭当日をいよいよ迎えた。
だが、起きた時から体調が優れない。
最初に感じたのは、視界がゆがむような症状だ。
まるで荒れた海の中進む船に、乗っているような感じだ。

「とにかく、起きよう」

さらに次に感じたのは体の異様な気怠さ。
それは、風邪をひいたものとは比べ物にならないほどに強かった。

(何、これ)

このような症状はこれまで感じたことはなかった。

(風邪じゃないのは確か)

風邪ぐらいであれば、このような気怠さや視界の異常は起こらないはず。
だとすると、考えられるのは一つしかなかった。

(合併症状か)

元々僕が何らかの病気を患っており、それに風邪のウイルスが相乗効果で悪さをしてしまう。

(一体どんな病気なんだろう?)

自分の症状をもう一度見つめ直してみる。
非常に強い倦怠感。
視界がゆがむ症状。
これらの症状から想像できる病気の正体は……

「無力……症候群」

ようやくその答えにたどり着いた。
無力症候群。
風邪などと同じ規模の病気だ。
つまり、誰でもなる風邪の魔法使い版だ。
症状は倦怠感と発熱と、これまた風邪の症状だ。
だが、ここから先がこの病気の違いでもあり恐ろしいところだ。
まず視界がおかしくなる。
どのようになるのかは千差万別なので、一概には言えない。
これが進むとさらに筋力の低下が発生する。
それが強い倦怠感にも感じたりする人がいるらしい。
これをさらに放置すると、今度は意識レベルが低下を始める。
意識が朦朧となり、記憶が飛んだり忘れっぽくなったりする。
やがては意識を失い、適切な処置を施さなければ多臓器不全で死に至る恐ろしい病だ。
この病気は発症までに潜伏期間を有する。
その期間は半年から1年ほどと言われている。
発症後、死に至るまでの時間は大体が2日。
長くても2.5日という進行の早さもまた恐ろしい病気なのだ。
ただし、この病気は他人には感染しない。
また、かかるのは魔法使いのみで、唯たちがこの病気に陥ることはない。
その理由はまだ判明していない。
もちろん、この病気の治療法はちゃんとある。
それが、ある薬草を口にすることだ。
そうすればたちどころに回復するのだ。
ただし、そのタイムリミットは意識を失ってから15時間以内
それを超えると、もはや手が付けられない状態になる。

「とりあえず、魔力で筋力をかさ上げするか」

僕は応急処置ということで、魔力を体に纏わせて筋力を増強させることにした。

「後は、月見草を飲めばいい」

――月見草

それが、この病気への特効薬だった。
それは高月家で取れる薬草で、無償で各病院などに供給している。
この薬草を接種すればほとんどの病気を根治することができるまさに万能薬だ。
ただし、魔族のみにしか効力を発揮せず、非常に強い苦みがあったりとするが、それでも需要は大きい。
僕はその薬草を一定の数だけここに備蓄しておいたのだ。
万が一の際に備えて自分で根治ができるようにするためだ。
ふらつく足で、僕はキッチンに向かうと薬草を入れておいた引き出しを開ける。

「おいおい……嘘だろ?」

空っぽの引き出しの中に、僕は思わず呆然としてしまった。

(ついてないな。まさか薬草が切れていただなんて)

ついていないでは済まないが、そう思わざるを得なかった。

「とりあえず、月見草の手配をしておこう」

僕にできたのは月見草の手配をすることだけだった。
高月家に対しては、最短で12時間程度で届けられるようになっている。
ちなみに、それ以外の場合は最短で20時間程度だ。

「あとは、身体強化魔法でごまかすか」
『いけません! マスター!』

自分に身体強化魔法をかけようとしたところで、クリエイトが突然声を上げた。

『今日は学校の方を休んでください! そんな状態で学校に行ったら余計に悪化します!』
「できるかそんなこと。学園祭で一人でも欠ければそれは空中分解だ。せっかくここまでうまく行ったんだ。こんなところで休んでたまるか!」

クリエイトの提言を僕は切り捨てた。
唯ひとりであそこまでの反動だ。
僕自身、唯ほど必要とされていないのではないかと思うこともあるが、それでも行かなければ不安だ。

『……全く、マスターは強情なんですから』
「はは、お前に言われると中々に来るものがあるな」

ため息交じりにつぶやくクリエイトに、僕は思わず苦笑を浮かべた。

『私の方でマスターの手助けをします。重力軽減魔法を使えば身体強化魔法を使わなくても平気になるでしょうから』
「助かる」

僕がお礼を言うのと同時に、体が軽くなったような気がした。
それが重力軽減魔法だ。
要は、体のみ重力を低下させたのだ。
それによって、体への負担を軽減することができる。

『筋力などは弱いままなので、ご注意を』
「ああ……行くか」

朝食を食べる時間もなかったため、僕は学校へと向かうことにした。










「――――け、浩介!」
「な、何?」

慶介から声を掛けられた僕は、用件を尋ねる。
場所は2年1組の教室。
今回は縁日ということで、様々なアトラクションで来場者に楽しんでもらうという企画だった。
僕はそこで何かをしていたが、何をしていたのかがわからない。
すっかり、記憶が飛んでいる。

「何じゃないだろ。そろそろ部室に行かないとまずいんじゃないのか?」
「え? あ?!」

時刻は11時30分。
昨日律から言われた集合時間をとっくにオーバーしていた。

「ご、ごめん」
「どうしたんだよ? なんだかいつもと様子が変だぞ?」

さすがは親友を自称するだけはある。
僕の様子の異変に、慶介は敏感に感じ取っていた。

「あいつが来れるかどうかが気が気じゃないだけだ」
「あー、平沢さんか」

”あいつ”だけで通じる慶介も十分すごい。
とはいえ、何とかごまかすことができた。

「行ってきなよ。ここは俺に任せろ」
「すまない」

お礼を言いつつ、僕は教室を後にしようと

「よし、今度こそ佐伯さんに夜のドライブでも――――いてっ」

馬鹿げたことをしようとする慶介の頭にめがけて、手にしていたある物を投げつけるのも忘れずに。





「ごめん、遅れた!」
「遅いぞー」

部室に到着した僕に、律が頬を膨らませながら声を上げた。

「ごめん、肝心のライブの日に」
「本当に、浩介らしいよな。そういうところ」

しまいには澪にまで言われてしまった。

「唯は?」
「………」

僕の問いかけに、みんなは首を横に振る。
見れば梓は先ほどから窓から外の方をずっと見ている。
待っているのだろう。
唯がやってくるのを。
それからどれほど経っただろうか?
未だに唯が現れる兆しはない。

「唯ちゃん、来ないね」
「………12時30分か」

時間を確認した澪が静かにつぶやく。

「練習でもするか? 唯抜きの演奏」
「………仕方ない――「嫌です!」――梓」

律の提案に頷きかけた澪の言葉を遮るようにして、梓が叫んだ。

「やっぱり、唯先輩抜きで演奏しても意味がないです!」
「確かにね……これだけ用意したんだから」

そう言って、僕は机の上に置かれた飴やティッシュなどを見る。
それらはすべて喉にいいとされている物ばかりだった。
唯が来て演奏できるようにする準備は整っていた。
そんな中、部室のドアが開いた。
唯かと思ってドアの方に視線を向ける。

「どうかしたの?」

やってきたのは真鍋さんだった。

「舞台は少し時間が押しているけれど、予定通りの時間になったら移動してね」
「……分かった」

ついに、時間が来てしまったようだ。

「軽音部、出演者は………全員揃っていて準備完了」
「え?」

僕たちを見渡した真鍋さんは、手にしていた書類に何かを書き込んでいく。
だが、出演者の一人の唯の姿がないのにもかかわらず、準備完了を告げる真鍋さんに、僕は首をかしげずにはいられなかった。
それはみんなも同じだったようで、そんな僕たちを見た真鍋さんは静かに笑うと、口を開いた

「……昔ねこんなことがあったの」

そして真鍋さんの口から語られたのは、幼少期の話。
一緒に遊んでいた二人だったが、唯は何かに夢中になっているようで、それは夕方まで続いた。
夕方になったので、先に家に戻った真鍋さんは自宅にやってきた唯を不思議に思い唯が往復していた場所と思われる浴室の戸を開けたらしい。
すると、浴槽の中が赤一色で埋め尽くされていた。
それは、ザリガニによるものだったとか。

「ひぃぃぃ!!!?」

その光景を想像したのか、澪は耳をふさいでうずくまってしまった。

「む、昔から変な人だったんですね」

そんな衝撃的な話に、梓がそう言うのも無理はなかった。

「でも、どうしてそんな話を?」
「唯って一度夢中になったら、他のことをすべて忘れるの。だから、きっと風邪のことも忘れるわ」

それは、真鍋さんなりの励ましの言葉だった。
そんな時、再びドアが開かれた。

「ちょりーす」
「少しは空気読め!」

大きな顔をして入ってきた山中先生に、律がツッコみを入れた。

「一体今まで何をしていたんですか?」
「そうだよ。大変だったのに」

僕の疑問に、律も乗じて問いかけた。

「あら、何もしていなかったわけじゃないのよ? 今回のことを反省してこの通り、防寒対策を施し対象を作りましたっ!!」

自信満々に言い張る顧問の山中先生の姿に、僕たちは返す言葉がなかった。
ただ言えたのは、

(そのやる気をもっと別のところに回してほしい)

「そして、これがその衣装よ!」
「ん?」

山中先生が掌を向けた方向……ドアから防寒対策を施した衣装を身に纏った唯が姿を現した。

「「唯!」」
「来てたんなら真っ先にここに来なよ!」

唯の到着に、驚く僕たちをしり目に澪が注意した。

(遅れたのは、着替えていたためだったか)

「あれ、あずにゃん?」
「最低です。こんなに心配させるなんて」

非難と良かったと思う気持ちが入り混じった梓の言葉が唯に掛けられた。

「ちゃんと埋め合わせをしなよ? 一番心配してたのは梓なんだから」

(僕も心配してたんだけどね)

澪の言葉に、僕は心の中でツッコんだ。

「え? そ、そうだったの!?」
「全くダメすぎです! 大体、風邪をひいたときだって―――」

梓の言葉を遮るように、唯は後ろから抱きついた。
なんて言っているかはよくわからないけれど、見ていて心が温かくなるような雰囲気なのはわかった。

「仲直りの、キ―――――」

これで一件落着かと思ったら、悪乗りした唯が梓から痛烈な一撃を受けた。

「ほ、本当に私のこと心配してたのかな?」
「さ、さあ?」
「悪ノリするのが悪い」

頬に見事なもみじ模様が入った唯の言葉に、僕はそっけなく答えた。

「さあ、そろそろ時間よ」
「がんばるぞー!」
『おー!』

こうして、学園祭のライブは何とか無事に開かれることに……

「って、唯、ギターはどうしたんだ!?」
「あれ? ここに置いていなかったっけ?」

ギターを持ってきている様子の無い唯に、僕は慌てて問いかけた。

「ギターだったら憂ちゃんが持って帰ったぞ!?」
「………そ、そうだった~!?」
「唯ちゃん」

思い出したのか、頭を抱えて悩みだした唯に山中先生が声を掛けた。
その手にある白色のギターを前に差し出しながら

「これを使いなさい」
「…………」

山中先生に手渡された白色に三角形のような特徴のあるボディのギターを、受け取る唯は呆然としていた。

「ギー太じゃなくてもいいのか?」
「というより、ギー太以外のギターが弾けない」
『だろうな』

唯の言葉も何となく予想できていた。
つまり、どうなるのかというと

「よっしゃあ!!」

唯が走って家まで取りに行くことを示していた。

「あれ、でもライブは……」
「……山中先生、一つ頼まれてくれませんか?」
「へ?」

僕は山中先生に、頼みごとをすることにした。

「学園祭のライブでリードを弾いてほしいんです」
「い、いやよ!」
「お願いします! さわちゃんだけが頼りなんです!」

やはりというべきか力強く拒否する先生に、律が手を合わせて頼み込んだ。

「それなら、高月君が代わりにやればいいじゃない」
「ええ。ですけど、せっかくやるのならインパクトを与えたほうがいいですから。山中先生が演奏してくれればそれだけで強いインパクトを相手に与えることができます」

山中先生の反論に、僕は頷きながらも断った。

「でも……」
「だったら、こういうのはどうですか?」

なおも躊躇う山中先生に、僕は妥協案を示すことにした。
僕は曲目リストの裏面に新たな曲目を書いていく。

1:Don't say lazy
2:ふでペン ~ボールペン~
3:ふわふわ時間タイム

「浩介先輩、この最初の曲は練習してないですよね?」
「大丈夫なのか?」

梓の言うとおり、最初の曲”Don't say lazy”は、それほど練習をしていない。
というのも当初は”Happy!? Sorry!!”の練習を重点的にしていたためだ。
変更した曲は合宿の時以来練習をしていないため、成功率は大幅に低下する。

「正直不安だけど、でも何度も練習しているし、最初の曲に関してはリズムの方は僕ができる限りフォローをする。だから、先生」
「………分かったわ。やるわ」

根負けしたのか、ため息交じりに山中先生は首を縦に振った。

『ありがとうございます』

僕たちは、山中先生にお礼を言うと講堂の方へ向かうのであった。
ついに、2度目の学園祭ライブが幕を開けようとしていた。

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