健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第70話 男とは

「失礼します」
「あら、いらっしゃい。高月君」

生徒会室に足を踏み入れると、そこには栗色の髪を伸ばした物静かな令嬢の雰囲気を醸し出す女子生徒がいた。

「なぜ自分の名前を? いえ、それよりも生徒会長はどちらに?」
「私がその生徒会長なんだけど」

なんと、驚いたことに目の前の女子生徒が生徒会長だったらしい。
そう言えば、マラソン大会とその後の時間ループ事件で犯人が成りすましていた女子に似ていたような気がした。

(どうでもいいことだと思って完全に忘れていた)

なり増された生徒のことを記憶しても意味がないので、気にも留めていなかったのが、裏目に出たようだ。

「それは大変失礼を。お名前をうかがっても?」
「いいわよ。私は曽我部 恵よ。よろしくね」

立ち上がりながら、人当たりのいい笑みで名前を口にした曽我部生徒会長は、僕に手を差し伸べてきた。

「高月浩介です。軽音部の副部長をしています」

それに僕も応じることにした。

「それで、用件は何かしら? もしかしてお茶を飲みに来たとかかしら?」
「違いますので、嬉しそうに用意をしようとしないでください!」

なぜかお茶を飲みに来たことを前提に、話を進めようとする会長に、僕は慌ててツッコんだ。

「そう? まあ、立ち話もあれだし。お茶でも飲みながら用件を聞かせてくれるかしら」
「分かりました」

結局会長に押し切られるまま、僕は会長に進められるがままに座らされた。

「軽音部で飲んでいるお茶よりはあれかもしれないけど、どうぞ」
「それじゃ……」

ちゃっかりと自分の分まで注いだ湯呑を自分の席に置くと、会長は席に着いた。
僕は会長の斜め右側の席だった。

「あ、おいしいです」
「ふふ、ありがとう」

嬉しそうに微笑む会長をよそに、僕は咳払いをする。

「それで、本題を話しても?」
「そうね。それじゃ、聞かせてもらえるかしら?」

ようやく本題に入ることができた僕は、会長に用件を告げる。

「学園祭の行動使用届の提出期限を数日だけ伸ばしてほしいんです」
「……どうしてかしら?」

表情から笑みが消え真剣なものに変えながら聞いてくる会長の目をそらさずに、理由を答える。

「現在、部長である田井中さんは風邪で書類に記入できるような状態ではありません」
「でしたら、副部長である高月君が必要事項の記入をして届け出ればよいのでは? 副部長にも提出する権限はあることだし」

会長の返答は尤もだった。

「その必要事項の一つでもある”名称”が、まだ決定していないんです。勝手に決めるのは仲間の存在を無視することにもなりますし、部活動に支障をきたす恐れもあります」
「………」

僕の言葉を、会長は真剣な表情で聞いていた。

「せめて1日だけでいいんです。どうか伸ばしていただけないでしょうか」
「申し訳ないけど、規則は規則なの。それに、そんな理由で締め切りの延長を許していたら、他の部もやりかねない。軽音部だけ特別に許可を出すわけにはいかないの」

だが、無情にも返ってきたのは却下の答えだった。

「ご存知かもしれないですが、軽音部にも新入部員が入りました」
「ええ。確か中野さんよね? でも、それがどうかしたのかしら」

入部届の最終的な行き先はここ生徒会になるのだから、会長である彼女が知っていてもおかしくはないのだが、なぜか名前まで知っていた。

(まあ、いいか)

今はそんなことを気にしている余裕はなかったので、僕は考えるのをやめた。

「学園祭でのライブはいわば彼女にとっては初めての舞台です。そう言った場所に立たせてやるのが先輩である僕たちの役目ですし、僕は立たせたいと思います。例え、どんなことをしてでも」
「ちょっと高月君、目が怖いわよ」

いつの間にか相手を威圧しかけていた僕は、慌てて自分を落ち着かせた。

「お願いします! 一日だけ、提出を待っていただけないでしょうか?」

そして僕は会長に頭を下げた。
本当ならば生徒会役員に頭を下げるのもいやだった。
僕にとってはそれは屈辱を意味した。
別に、頭を下げるのが嫌なわけではない。
教師や医者には簡単に頭を下げることができる。
でも、生徒会役員だけは嫌だった。
僕は、それを我慢した。
それでライブができるのであれば、頭など何百回でも下げる。
それでもだめなら、力ずくでも頷かせる。

「貴方の心意気は分かったわ。でも、規則は規則なの。だから、”名称”が未記入のままでもいいから提出してもらえるかしら?」
「え?」

一瞬会長の言わんとすることが理解できなかったぼくは、思わず聞き返した。

「必要事項が記入されていない書類は、書き直しということでもう一度部長や副部長の方返されることになるの。そしてその書き直しの期限は最高で届の締め切り1日後まで」
「……あ」

そこに来てようやく、会長の理屈が理解できた。

「つまり、使用届さえ出してしまえば、締切日の翌日まで使用届の提出期限を延ばすことができる」
「そういうこと。そうすれば、例外を作ることもなく伸ばすことができるし、混乱は防げるわ」

会長の提案はとても魅力的なものだった。
強硬手段ではないとは言えないが、それでも正当な方法で締め切りの延長ができる。

「ただし、表面上は”未提出”になるから、気を付けてね」
「分かりました」

会長の注意に、僕は頷いて答える。

「でも、それをするには一つだけ条件があるの」
「………………………はい?」

再び思考がフリーズしてしまった。
小悪魔な笑みを浮かべながら会長はその条件を口にする。

「分かりました。呑みます」

僕はその条件を呑むことにした。

「それじゃ、交渉成立ね♪ まずは、講堂使用届を出してもらえるかしら」
「はい」

僕は会長に促されるまま、澪から預けられた講堂使用届を渡した。
ちなみに、どうしてこれを僕が持っているのかというと、澪曰く『浩介に渡しておいた方が安心できる』らしい。
この時ばかりは律に同情したくなった。

「”名称”がないわよ。明後日までに書き直してね」
「はい、すみません」

そしてすぐさま会長から使用届が返された。
もちろん、これも形式的なものだ。
これで、使用届の提出期限は明後日までとなった。
あとは今回の問題が解決するだけだ。

「それでは」
「あ、約束の件、お願いね」

ものすごく面倒なことになったけど。

「ずいぶんと根回しがいいのね」
「……立ち聞きですか? 山中先生」

生徒会室を出たところで、僕は山中先生に声を掛けられていた。

「ごめんなさいね」
「まあ、いいですけど」

僕は山中先生に背を向ける。

「ちょっと待ってくれる?」
「何ですか?」

去ろうとする僕を呼び止める山中先生に、僕は用件を尋ねた。

「高月君は、今回の件解決できると思う?」
「おかしなことを聞きますね。先生は」

軽く笑いながら、僕は山中先生に向き直った。

「”できる”ではなく、”させる”んですよ」
「…………そうだったわね。ゴメンね呼び止めてしまって」

僕の言葉に、一瞬驚いたように目を見開かせた山中先生だったが、すぐに微笑みを浮かべながら口にした。
僕はそんな山中先生に一礼をすると、今度こそその場を立ち去るのであった。










その翌日、僕とムギに梓と唯の四人で風邪で欠席している律の見舞いに行くことになった。

「えっと、この道をまっすぐ行って……」

律の家がかかれた地図を手に先導する唯に、ついて行く形で僕たちは歩いていたのだが……

「あの、ここさっきも通りましたよ」
「あれぇ?」

梓の指摘に、唯が首をかしげた。

『大丈夫! 律ちゃんの家への案内は私に任せて! ふんすっ!』

等と自信満々に息巻いていたが、ふたを開ければこの状況だ。
もはや、天才級の天然かもしれない。

「もう唯は後ろにいろ。僕が先導する」
「そうですね、それがいいですね」
「浩君もあずにゃんもしどい!」

唯が抗議の声を上げてくるが、僕はそれを無視した。
そして、改めてメモを手に歩き出すのだが……

「ここだな」
「あれ、ここ何回も通ってましたよね?」

一軒の住宅の前に立ち止まった僕と梓は唯の方を見る。
そこは何回も通り過ぎた家だった。

「間違えちゃった、テヘ★」
「もう二度と唯には道案内はさせないっ!」

かわいこぶる唯に僕はそう告げるとインターホンを鳴らそうとし――――

「ごめんね。私、人様の家のインターホンを押すのが夢だったの!」
「そ、そうなんだ」

―――たところで横からインターホンを押したムギが無邪気に笑いながら謝ってきた。
そこまで目くじらを立てることもないので、僕は普通に返事を返した。

「はい、どちらさ――――ですか」
「…………田井中律の見舞いできたんだけど。部屋の場所はどこかな?」

戸を開けた少年は、僕を見るなり近くのドアの陰に隠れてしまった。

(そんなに、僕は怖いか?)

微妙にショックを受けながらも、僕は用件を少年に告げる。

「ね、姉ちゃんの部屋だったら、階段を上ったところにあります」
「え、 ”姉ちゃん”?」

少年の返答に、梓が驚きのあまり固まった。

「へぇ、律ちゃんに弟がいたんだ~」
「ねえねえ、名前は何ていうの」

二人の言葉に、律の弟は、ドアを閉めて隠れてしまった。

「あれ?」
「えっと……律先輩の部屋に行きましょう」

隠れてしまった律の弟のことはいったんおいておき、お見舞いの方を優先させる結論になったようだった。

「僕はここで待ってる」
「えぇー、一緒に行こうよ」

僕の言葉に、唯が不満そうに言いながら一緒に行くように促してきた。

「あのね、男が女の部屋に行くのは倫理的に問題でしょうが。僕はここで待ってる」
「あれ、でも浩君。私の部屋には入ってきたよね」

唯から鋭い指摘が入った。
何気なく僕は唯の部屋に入っていた。
今になって倫理も減ったくれもないわけだ。

「だったら唯隊員に重要な任務を言い渡す」
「ははぁ!」

僕はノリでごまかすことにした。

「僕の分も田井中隊長を見舞ってくるのだ!」
「そんなの唯先輩でも誤魔化されるはずが――「了解であります!」――誤魔化されてる!?」

唯の操縦方法は、すでに習得済みだ。
そんなこんなで、唯たちの女性人は律の部屋に見まいに向かい、僕は玄関の壁にもたれかかるようにして腕を組み目を閉じると、唯たちを待つことにした。

「…………」
「………」

先ほどから律の弟の入った部屋のドアから気配のようなものを感じる。
まるで僕がいるのかどうかを確かめるように。
というより、実際には確かめているのだろう。
先ほどから下がったり近づいたりを繰り返しているのだから。

(人見知りなのかどうかは知らないけど、いい加減鬱陶しい)

これで数十回目にもなるため、そろそろ鬱陶しさを感じてきた僕は、閉じていた口を開くことにした。

「そこの少年。さっきからバタバタバタバタ鬱陶しい。男ならどっしり構えろっ」
「ッ!」

僕の怒号に、中の方で反応があった。
そして、ゆっくりとドアが開いた。

「それで、少年。名前は」
「………」

出てきたものの、やはり問いかけには答えない。

「そうだな。まだこっちの自己紹介がまだだったな」

なので、こちら側から歩み寄ることにした。
子供に対しての接し方は分からないので、いつも通りに。

「僕の名前は、高月浩介。君の姉と同じ高校に通っている」
「俺は……田井中 聡」

僕の自己紹介に、少年は自分の名前を告げた。

「高月さんのこと――「ストップ」――え?」

僕は話している途中で、止めさせた。

「苗字ではなく、名前で呼ぶといい。こちらも君のことを聡と呼ばせてもらう」
「は、はい。浩介さんのことは、姉ちゃんからよく聞いてました。とっても豪快で面白い人だって」

(面白い?)

聡が告げた僕のことを話した律の言葉に、首をかしげる。

(どうやら、一回話をする必要があるようだな)

僕は心の中で、律と話し合いをすることを決めた。

「あの、リビングの方で話しませんか?」
「それじゃ、言葉に甘えよう」

聡の提案に、僕は賛同すると彼の案内の元、僕はリビングへと向かうことにした。









「あ、どうぞ」
「失礼して」

聡に促されるまま、僕はソファーに腰を下ろす。

「あの、学校で姉ちゃんどんな感じですか?」
「やはり気になるか?」

僕の言葉に、聡は無言で頷いた。

「そうだな……あいつは、時より不器用なところがある。それが悪いことではないが、不器用さが故に損をすることも多い」
「は、はあ」
「テンションは常に高いかな。その点旬の高さはある種のムードメーカと言ってもいいだろう。だが、空気を読まないとこれはやかましくなるだけだ。何事も程度の問題か」
「そ、そうですか」

何だかさっきから生返事のような気がしてくる。
だが、聞かれたことには何事も真摯に応えなければいけない。
たとえ相手が子供だろうとも、誤魔化すのは相手に失礼だ。

「だが、心はまっすぐな奴だ。どこかの弟のようにな」
「え?」

今度の言葉はちゃんと伝わったのか、聡はこっちの方を見つめてくる。

「誇るといい。君の姉はとても素晴らしい人物だ。もし、悪口を言うやつがいたら僕に言うといい。そいつにきっちりと話をつけるから」
「………あははは!」

僕の言葉に、目を見開かせて呆然としていた聡だったが、突然笑い出した。

「何かおかしいことでもいったか?」
「いえ。なんだか、見かけとは違ってたから」

僕の言葉に、笑いながらも聡がその理由を答えた。

「先ほどから、私はどういう風に君に見えているんだ?」
「えっと……とても怖い感じの人です」
「やはり、そう見えてたか」

自分でもわかってはいたが、そういう風に見えてしまうのを指摘されるとどこかショックでもあった。

「私も治そうとはしているんだが、なかなかこれは治らない。なにせ、この”怖い感じ”を求められる立場にいたからな」
「それって、どういう意味ですか?」

ふと漏らしてしまった僕の言葉に、聡は興味深げに聞いてきた。

「知らなくていいことだ。男というのはな、大事な仲間や人を守れてこそ真の男となる。僕のこのみかけもまた、そうなるための物でもある」
「すみません、分かりません」

僕の言葉の意味が理解できなかったようだ。
当然だ。
理解できないように言っているのだから。

「今は分からなくていい。いずれ分かる時がくる。その時、君は一体その背中で何を守り、何が為に力をふるうか………楽しみにしておこう」
「あ、あの!」

僕は聡から視線を外すと、再び声を掛けられた。

「何だ?」
「浩介さんのことを――「あ、浩介。こんなところにいたんだ」――」

聡の言葉を遮るように現れたのは、澪だった。

「澪に皆……って、何故唯は背負われてる?」
「唯先輩何だか、眠っちゃったみたいで」

ムギの背中に背負わされてすやすやと眠っている唯に、首をかしげていると梓が答えてくれた。

「見舞いに行って逆に眠ってどうするんだ」

僕は深いため息をつきながら、澪たちの方へと向かう。

「そう言えば、聡。僕に何か言いたいことがあったんじゃないのか?」
「あ……また別の機会でいいです」

僕はふと聡が僕に何かを言おうとしていたのを思い出したので、聞いてみるがはぐらかされてしまい、結局聞くことができなかった。

「それじゃ、あんまり長いするのもあれだし、帰るか」
「はい!」
「そうね」

澪の提案に、梓とムギに僕は頷きながら答えた。

「それじゃ、またな」
「あ、はい」

澪の言葉に、聡は頷きながら返事をした。

(何だ、女性恐怖症じゃなかったのか)

一瞬そんなことを考えていただけに驚きだったが、もしかしたら聡は人見知り名だけなのかもしれないと、僕は新たに結論付けることにした。
そして、僕たちは田井中家を後にするのであった。

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