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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第44話 親友

「はぁ……」

あれからもう三日経った。
今日もギターケースを持たずに学校に朝一で来ていた。
これまでの輝きはすっかりと損なわれていた。
出てくるのは今のような溜息のみ。

(梓の気持ちがなんとなくわかるよ)

きっと梓もこんな気持ちだったのかもしれない。
考えれば考えるほどわからなくなり、思考はどんどん沈んでいくばかり。
その要因は、田中さんから出された課題も絡んでいた。

――”軽音部の連中に、自分がDKであることを打ち明けること”――

それが、課題だった。
確かに、合理的な課題だった。
自分の正体を明かせるというのは、かなりの信頼がなければできないことだ。
しかも僕はいまだに山中先生以外に正体を明かしたことはない。

『元々名前に偽名を使うようになったのはお前の指示だ。ミステリアスで人気を得ようとする意図がないことくらいは分かっている。それならば、お前の一存で話しても構わない』

それが田中さんの話だった。

「おーっす! 今日もテンション低いなっ!!」
「……………」

三日前からいつもの二割増しでテンションを高めて声を掛けてくる慶介だが、僕はそれに返事を返す気力は全くわかなかった。

「あの、お願いですから。反応してくだせぇ! この通り!」
「…………」

土下座をする慶介が、かわいそうになり僕は無言で席を立った。

(もう少しだけ待って)

まだ話をする気分ではない。
でも、少しすればこの間と同じように話をすることができるようになるはず。
………それがいつなのかはわからないが。
今日も僕は絶賛暗闇の中に迷っていた。

「高月」
「あ、小松先生」

ぶらぶらと歩いていると小松先生と鉢合わせになった。

「ちょうどよかった。お前にこの間の課題を返却するところだったんだ」
「そうですか。ありがとうございます」

小松先生から真っ白な紙を受け取った。

「それでは」

僕は小松先生に一礼してその場を後にする。

(これって、調査報告書か)

少し歩いたところで、中身を確認した僕はそう判断した。
それは、二か月ほど前に小松先生に依頼した新歓ライブの数日前に連絡をした人物とその内容の調査の報告だった。
実は、小松先生こそが僕を陰から支援する”工作部隊”の人間なのだ。
見事に学校の教師として溶け込んでいるので、配置を知らない限り気づかれることはない。

(家で確認するか)

僕はそう考えて、報告書を内ポケットにしまうのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「はぁ……今日もダメか」

浩介が去った教室で、俺はため息交じりに立ち上がる。

(この頃考え込んだりすることが多くなってたから心配してたら案の定か)

浩介の様子がおかしいことは、薄々ではあるもののわかっていた。
何度もしつこく話しかけ続けていたのは、それが理由でもあった。
最近は無視されるようになったが。

「…………」

そんな俺の目の前に、浩介のカバンが見えた。
浩介は教科書などを机に入れることはない。
机に入っているのは暇つぶし用の本のみだ。
ちなみに、俺は1行読んで挫折した。
つまり、浩介の異変の原因の手掛かりがもしかしたら鞄の中に入っているかもしれない。

(ギターを持ってきていないのも気になる)

三日前からギターを持ってこなくなった浩介に理由を尋ねたところ、”ちょっとな”としか答えてくれなかった。
浩介の異変は軽音部とかかわりがある。
そんな気はしたが、それを裏付ける根拠がなかった。

(後で謝ろう)

俺は、浩介に怒られるのを覚悟して浩介のカバンを机の上に置くとチャックを開けて中身をあさる。
中には教科書やノートなどの勉強道具しか入っていない。

(はぁ、やっぱり優等生タイプだよな)

俺のカバンの中身とは大違いの内容物に感嘆の声を心の中で上げる。

「ん?」

そんな中、ふとある物を見つけた。
俺はそれをカバンから取り出す。
それはどこにでもある普通の茶封筒であった。

(………怪しい)

浩介がこのようなものを持っていること自体が怪しかった。
前に楽譜のようなものを持ってきたことはあったが、その時もクリアファイルに挟んでいた。
封筒に入れるというのは、浩介にしては不自然すぎる。

「鞄は元に戻しておこう」

浩介に見つかりづらくさせるべく、俺は鞄のチャックを閉めると浩介の席から離れ、自分の席に戻った。

「一体なんだろう」

自分の席に腰掛けた俺は、浩介のカバンの中に入っていた茶封筒の中から一枚の紙を取り出した。
そして俺はそれを開いて中身を確認する。

「なっ!?」

思わず大声で叫びそうになったが、何とか堪えることができた。
俺は慌てて周囲を見渡すが、特に視線は感じなかった。
普段のキャラづくりが幸いしたようだ。
ほっと俺は胸をなでおろすと再び視線を紙に戻す。

(いったいどうしたというんだ。浩介)

俺は『退部届け』を手に、心の中で友人の浩介に問いかける。

「やれやれ、ここは親友の俺の出番というわけか」

自称だが、それでも俺は浩介の力になりたい。
それが、俺にできる唯一の~恩返し・・・なのだから。


★ ★ ★ ★ ★ ★


放課後、軽音部部室。
いつものようにお菓子やティーカップが各人の前に置かれ、ティータイム真っ只中であったが、いつもの活気はなかった。

「今日も来ませんね。浩介先輩」
「………」

ぽつりとつぶやいた梓の言葉に、返事はなかった。
全員が視線を机に向けているだけだった。

「休み時間に、浩介先輩のクラスの教室に行ったんですけど……」
「………私も。朝に浩君のクラスに行ったけど会えなかった」

梓の言葉に導かれるように唯も続いた。

「そもそも、どうして浩介はああなったんだろう?」

腕を組みながら、浩介が突然怒り出した理由を考える律。

「律が何かしたからだろ!」
「そうですよ! 律先輩の言葉の後で怒りだしたんじゃないですか!」

そんな律に澪と梓が詰め寄る。

「なっ!? 私だけのせいだって言いたいのかよ!」
「お、落ち着いて。澪ちゃんと梓ちゃんも」

澪と梓の言葉に、律は椅子を弾き飛ばす勢いで立ち上がる。
ムギは三人を落ち着かせようとなだめる。
軽音部は空中分解の危機を迎えていた。

「っ!? 浩介?!」

ドアの開く音に、全員が出入り口であるドアの方に視線を向ける。

「なんだなんだ、騒がしいな~」

そこに煮立っていたのは、軽快に笑いながら部室に入る慶介の姿だった。

「あ、あの先輩。あの人は?」
「あー、彼はだな―――」

突然登場した慶介のことを知らない梓が尋ね、それに応じようと律が口を開いた瞬間だった。

「お、日本人形みたいに可愛い後輩発見!」
「へ?」

梓を指ざしながら告げられた言葉に、固まった。

「確保~ッ!!」
「きゃあああああ!!!?」

そして突進をしながら自分の下に向かってくる慶介に、梓は大きな悲鳴を上げた。
だが、結局慶介は梓の横をすり抜けていった。

「ふーむ。こうすれば浩介だったら駆けつけそうな気もするんだが。無理だったか」
「えっと、何の用?」

顎に手を当てて考え込む仕草をする慶介に、律が用件を尋ねた。
ちなみに梓はちゃっかりと慶介から距離を取っていた。

「その前に自己紹介を」

そう口にすると、慶介は咳払いをした。

「俺は佐久間慶介。自称、浩介の親友さ!」
「え、えっと。中野梓です」

梓に向けてされた自己紹介に、梓も応じるように自分の名前を告げた。

「それで、用件なんだけど……」

慶介はいったんそこで言葉を区切る。
その表情にお茶らけた雰囲気はなかった。

「浩介と何があったんだ?」
「ッ!」

佐久間の問いかけに、全員が肩を震わせた。

「教えてほしい。何があったのか」
「……………」

慶介の頼みに、唯たちは終始無言だった。

「実はね」

その沈黙を破ったのは唯だった。
そして、三日ほど前の一件が語られた。

「なるほど」

話を聞き終えた慶介は、静かにつぶやいた。

「それで、こいつになるわけか」
「それは?」

慶介がどこからともなく取り出した茶封筒に、紬が首をかしげながら問いかける。

「浩介が持っていた奴だ」

そう言いながら、慶介は封筒を机の上に置いた。
それを唯が手にすると封筒を開けて中に入っていた用紙を取り出し、それを広げる。

『なっ!?』

その用紙を目にした唯たちは驚きのあまり言葉を失った。

「た、退部届ってどういうことだよ!?」
「浩介先輩や、辞めちゃうんですか!?」
「いや、俺に訊かれても。俺はただ勝手に持ってきただけだし」

今にも掴み掛らんばかりの勢いで問い詰める律と梓に、慶介は落ち着くようにジェスチャーを送りながら答えた。

「勝手にって、大丈夫なのかよ?」
「大丈夫じゃね? 今までばれなかったし」
「何となく、この後にどうなるかが分かるような気がする」

浩介の荷物を勝手に持ってきた慶介の未来が見えた澪は、視線をそらしながらつぶやいた。

「浩君が辞めるなんて嫌だよ!」
「私もです!」

唯が立ち上がりながら声を上げるのに続いて梓も声を上げる。

「私も絶対に嫌だ」

それにムギが続く。
後の二人は声を上げなかったが、何度も何度も頷いていた。

「浩介って、自分のことを話したりしたか?」
「………一人暮らしで、DKっていう人の知り合いだということは話していたような気がする」

(なるほど、そういうことか)

唯の答えに、慶介は事の原因を悟った。

「俺から言える最善の解決策はただ一つ」
「それって、なんですか?」
「それはずばり、話し合うことだっ!!」

自信満々に口にした慶介の解決策に、全員が机に突っ伏した。

「あれ?」
「それはすでに試みようとして失敗してるんだよ」
「教室に何回か行ってみたんだけど、浩介君と会えなかったの」

すぐさま姿勢を戻した澪が説明し、それに補足するように紬が教室に向かっていたことを告げた。

「だったら、あいつの家前行けばいいんじゃないのか?」
『え?』

慶介の提案に、全員がどういう意味と言わんばかりに首をかしげた。

「家だったらさすがに会えるだろうし」
『あぁっ!?』

(本気で忘れてたのかよ)

一番当たり前のことを忘れている軽音部のメンバーに、慶介は心の中で苦笑する。

「ま、がんばって」
「あ、ちょっと!」

とりあえずやることはやったと思った慶介は、そのまま部室を後にしようとするとその背中に声が掛けられる。

「ありがとう」
「どういたしまして」

お礼を言った唯に、慶介はそう返すと今度こそ部室を後にした。

『よぉし、これから浩介の家に行くぞー!』

(これで明日には元通りだな)

そんなことを考えながら、慶介は階段を下りていくのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「はぁ。今日もダメだったか」

僕は自室で深いため息をつく。
今日も考え続けはしたものの、結局答えは出なかった。
もうタイムリミットは迫ってきている。
さすがにこれ以上悩むのに時間をかけるのはまずい。

(とは言っても、あの課題をクリアするなんて)

田中さんの課題が予想外の重荷となっていた。

「あ、そう言えば。小松から調査結果を渡されたんだった」

僕はふと、偶々朝に合うことができた小松先生から手渡された、課題に偽装された報告書を手にする。
それは、梓が軽音部に入部した際に頼んだ調査に関するものだった。
僕は報告書に目を通す。

「短!?」

報告書の内容は意外にも短かった


―――

調査内容:4月の指定期間における電話の着信履歴および内容

結果:依頼内容の通話内容を特に確認できず。
   郵便物等を精査したが依頼内容の要件を確認できず。

―――


簡単な内容だったが、非常にわかりやすいものだった。

(つまり、慶介の言っていた連絡はなかったということか)

だとすると、浮かび上がる疑問は一つ。

「何で、慶介は連絡があったなんて言ったんだろう?」

工作部隊の人間の調査能力は非常に高い。
この調査報告書もそれだけに信憑性が高いのだ。
だとすると、うそをついたのは慶介の方になる。

(まさか、曲目を急に変えさせることで、軽音部のライブを妨害しようとした)

どう考えても慶介の方にメリットがない。
だが、気になったことは調べないと気が済まない。
僕は右腕を前方にかざすと握りしめていた手を開くようなしぐさをする。
そして何もない空間にホロウィンドウを表示させると、工作部隊の方に連絡を入れる。

『はい。どうされましたか? 大臣』
「佐久間慶介に関する情報を集めて。主に彼とのつながりや交友関係、家族の名前全てを」
『了解しました。失礼します』

通信の相手はそう告げると通信を切った。
そして待つこと数分。

「もう来た」

ホロウィンドウに新着メッセージを告げる表示が現れたので、僕は調査能力の高さに驚きながら結果を確認する。

「それほど多くないな。とりあえず、一人ずつ検索をかけるか」

そうつぶやいた僕は現在展開しているウインドウの横に同じサイズのホロウィンドウを展開する。
画面には入力欄と検索のボタンが配置されている。
それは魔法連盟が管理する魔法使いのデータベースである。
魔法使いと認識されると、必ずこのデータベースに登録されるようになっている。
主な内容は生年月日や年齢はもちろんのこと、生体パターンや魔力パターン、指紋に声紋等々様々だ。
これも魔法犯罪を抑止し、早期解決に導くために必要なものでもある。
僕はそこに先ほど届いた慶介にかかわりのある人物の名前を入力し、検索をかけるが一致する名前は出てこない。
当然慶介自身もだ。
だが、全員一致はしなかった。

(ということは、魔法関係ではない)

魔法関係であれば、僕への逆恨みで妨害するという行為も考えられるがそうでないとすると、見当が全くつかなかった。

「………はぁ」

この日、何度目かのため息をつく。

【マスター、ため息をつくと幸せが逃げますよ?】
「うお!?」

突然響いた女性の声に、僕は驚きのあまりのけぞってしまった。

「クリエイトか」
【さすがにその反応はひどいですね】
「ごめんごめん。クリエイトと話すのが久しぶりだったから」

若干怒っている声色に、僕は苦笑しながら謝罪の言葉をかけた。
今僕が話しているのは、首にかけているネックレスだ。
名前をクリエイトと言い、魔法を使う際の相棒でもある。

【マスターが話せないようにしたんじゃないですか】
「そうだったね。でも、今は話せてるみたいだけど?」

魔法という文化のない世界でいきなり誰もいないはずの場所から声がしたら大騒ぎになること間違いナシ。
そんなわけで話せないように封印をかけたのだが、なぜか普通にクリエイトは話をすることができる。

【実は一昨日から封印魔法が弱まっているらしく】
「魔法が? ……そういうことか」

魔法というのは精神状態に密接に関係している。
詳しい理由はまだ明らかにはなっていないが、不安定な精神状態になると魔法の質も不安定になるらしい。

(つまり、僕はそれほど精神状態が不安定なんだ)

どうやら、僕は自分でも知らないところまでひどいことになってるらしい。

「クリエイト」
【はい、何ですか? マスター】

僕はクリエイトに呼びかける。

「いつものあれ、良い?」
【もちろんです。この御心は我が主の名の下に】

僕の問いかけの意味が分かっているようで、クリエイトはそう答えると一瞬光を発して一本の杖となりぼくのまえに浮いていた。
先端が槍のようになっている紫色の杖だった。

【さあ、お乗りください】
「ありがと」

クリエイトに促されるまま、僕は杖に腰掛ける。

【認識阻害魔法をてんかいしてますから、いつでも大丈夫ですよ】

手際のいいクリエイトの行動に、僕は心の中で苦笑した。
ちなみに、認識阻害魔法というのは、自分という存在を相手からは存在しない物にするという魔法である。
簡単に言えば透明人間になったようなものだ。
透明人間との違いは、声を上げれば誰かにそこにいることがばれるが、この魔法は声を上げても”声すらも存在しない”ことになるため聴きとられることはない。

「それじゃ、出発!」

そして僕は窓から外に出ると、そのまま上昇を始める。
空は黒のベールが徐々に包み込み始めている。
もう少しすれば日が沈むような時間帯だ。
そんな中を、僕は優雅に飛んでいた。
一定の高度に達すると上昇を止める。

「いつみてもいい景色だ」
【そうですね。特等席ですね】

どこかの高い建物の屋上に行かなければ見ることはできないであろう光景を、僕は今堂々と見ているのだ。

「…………」
【マスター】

そんな光景を見ながらどうしようかと考えていると、クリエイトから声が掛けられた。

【私はいつでもマスターの味方です】
「…………ありがとう。クリエイト」

クリエイトの言葉に、左手で撫でながらお礼を言った。
なんだかんだ言ってもクリエイトとはかなり長い付き合いなのだ。
その言葉が本当のことか否かくらいは、簡単にわかった。
それからしばらく空中散歩を満喫した僕たちは下降していくと自室に戻るのであった。
何となくではあるが、がんばれそうな気がした。

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