健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第31話 罪悪感と初詣

「ふぅ、ただいまー」

クリスマス会を終えた僕は、自宅へと戻った。
疲れで重くなる体に鞭を打つようにして、僕は靴を脱ぐと家へと上がる。
そしてそのまま自室がある二階へと向かう。

「さすがに、魔法を使いすぎた」

今日使った魔法を上げると『透視魔法』に『読心術』、『転送魔法』、『修復魔法』の四種類だ。
これだけの魔法を使うのだから、消費するエネルギー量(魔力だが)は莫大だ。
今出ている倦怠感は、それの影響をもろに受けているのだ。
例えると、フルマラソンを全速力で走ったような感じだ。
まず普通に考えても無理だが、ようはそれほどの疲労感だということだ。

「今日はこのまま寝よう」

着替えたほうがいいとは思うが、それをする気も起きなかった為、僕はそのまま眠りに着こうとベッドに潜り込もうと―――

「ん? 通信だ」

したところで、誰かから通信が入ったことを伝えるアラームが鳴り響いたため、僕はベッドから起き上がるとどこからともなく片目だけのサングラスのようなもの(コントローラー)を顔に装着した。
そして耳元のスイッチを手で押すと、目の前に大きな画面が投影された。
画面に映し出されたのは一見すると、どこぞのマフィアの使いかと思われるような強面の顔つきをした男性だった。

『久しいな、高月大臣』
「……連盟長」

男性……連盟長に僕は嫌な予感を感じずにはいられなかった。

『用件は分かってるな?』
「ええ。十分に」

既に向こうには筒抜けのようだった。

『では、話は早い』

僕は耳をふさいで、これから来るであろう衝撃に備えた。

『このバカ者がっ! 人間の前で軽々と魔法を三種類も使うとは何を考えているッ!!!』

連盟長の怒鳴り声は耳をふさいでいる状態のはずなのに爆音のように頭に響き渡った。
ただ、抗議をするところが一か所ある。

「三種類ではなく四種類です!!」
『そんなことはどうでもいい!!』

僕の抗議に、連盟長はバッサリと斬り捨てた。

『一体何を考えているんだ? 一歩間違えればお前の正体が知られていたかもしれないんだぞ』
「それは重々承知です。ですが、それで変に断れば孤立します。この世界での孤立は私という存在の消滅に等しいです」

どうやら、言いたいことを言い切ったようで、口調も幾分か柔らかくなった。
故郷であれば、付き合いが悪くても強ければある程度は評価される。
だが、ここではそのようなものは存在しない。
孤立してしまえば、それは存在の消滅にも等しい結果が待っている。
尤も、存在の消滅を人によっては”孤独”ともいうのだが。

『お前も、そっちでの暮らしになじんできたようだな』
「そっち側で言うのであれば、弱体化。こっち側で言うのであればそれは感情の回復でしょうか?」

僕の言わんとすることがわかったのか、連盟長は”確かに”と相槌を打った。

『しかし、だからと言って魔導鉱石を使用した魔導具を人間に与えるとは……そこから疑いの目が向けられたらどう対処するつもりなのだ?』
「心配はいりません。あれはあくまでもお守り。そしてそれを手にするのは魔法のことなどを全く知らない一般人……発動したことにさえ気づきませんよ。万が一、気づかれた場合は認識祖語の魔法でそのことを認識の外へと追いやります」

僕は、あらかじめ用意しておいた対策を連盟長に述べる。
ちなみに、認識祖語魔法とは、特定の認識した事案を意図的に認識できる範囲から追い出すことを言う。
これをすると、本人は気が付かぬうちに認識した事柄を忘れてしまう。
ただ、記憶の消去ではないのでひょうんなきっかけで再び認識の範囲内に入ってしまう欠点はあるが。

『なるほど。確かにそれなら誤魔化せるだろうな』

感心した様子で顎に手を当てて考え込む連盟長だったが、すぐさまそのポーズを解くと再び口を開いた。

『高月大臣が魔法を見せたのだ。相手はそこそこ信頼における人物であるのは確かだ』
「ありがとうございます」

連盟長のありがたい言葉に、僕は素直にお礼を述べる。
人を診る目はまだまだ未熟ではある物の、ややいいと自負している。
存在の消滅を防ぐためなどと言っているが、結局のところは僕が唯たちにならそれを見せても大丈夫だと判断したから魔法を行使したというのが一番大きい。

『だが』

そこで、連盟長の言葉が掛けられる。

『それでも、私は安心することはできない。私は一国の主だ。完全に彼女たちが信頼に足りる人物だとこちらが確認する必要がある』
「父さん、まさかッ!」

その言葉に、思わず僕は現在の立場を忘れて口を開いてしまった。

『今は連盟長だ』
「……失礼しました」

連盟長……父さんは、先ほどのように激昂した様子で怒ることもなく静かに諭した。
僕は素直に謝罪をすることでそれに応じる。
連盟長というのは、この国で言うところの総理大臣のような存在だ。
そして、僕はその人の部下ということになる。
現在は連盟長として話をしているため、僕もそれに倣って応対しているのだ。
公私の区切りをしっかりとつけるのが、高月家の決まり事だ。

『高月大臣の気持ちも十分に理解できる。だが、これは決定事項だ。それにこれでもできる限り譲歩しているつもりだ』
「ええ、そうですね。元々こちらがまいた種。異論を述べる気も資格もないことは承知しています。それで、”工作部隊”への連絡はいつごろに?」
『本日中を予定している』

僕の問いかけに、連盟長はすんなりと教えてくれた。

『何か要望はあるか? できる限りではあるが聞き入れよう』
「では、工作部隊には”できる限り対象者に悟られることの無いように”とお伝えください」

僕の申し出に、連盟長は”分かった”と応じると、用件が済んだのか通信が切られた。
連盟長はいろいろと忙しいことで有名だ。
僕と親子の話をするほどの時間はないのだ。

(そう思うと、僕ってとことん親不孝者のような気が)

親の仕事を増やしているあたり確実に言えるだろう。

(それにしても、工作部隊か)

僕は、ベッドに仰向けに横たわりながら連盟長から告げられた決定事項を思い起こす。
――工作部隊
それは、読んで字のごとく様々なことを行う部隊だ。
例えば、今のように魔法文化のない世界で魔法が一般人に見られたり知られたりした場合の情報操作や記憶の操作などを行う。
他にも同じように魔法文化のない世界に、任務で向かう魔法使いを陰から補佐する役目もある。
僕の場合は周囲に大勢の工作部隊の者が紛れている。
例えば、この間の男性警察官二名も工作部隊の魔法使いだ。
他にも銀行や大手出版会社などのマスコミ関係では職員として、病院や僕たちが通う桜ヶ丘高等学校にも教師や医者として紛れ込んでいるのだ。
それぞれの目的は、僕に降りかかったトラブルの対処の補佐をすることにある。
ちなみに、工作部隊では全員が催眠魔法を会得しているため、いきなり紛れ込んでも怪しまれることなく溶け込めている。
そんな工作部隊が、唯たちの監視をするというのが、今回の決定事項なのだ。
監視はおそらく1月いっぱいまでは続くだろう。

(一応、当人たちには危害はないし、監視されていることを悟られさえしなければ、生活に支障はない)

免罪符を並べてみたものの、罪悪感が重くのしかかってくる。

(願わくば、唯たちが今までと変わらない生活を送れるようになることを祈るばかりだ)

そんなことを心の中で思いながら、僕の意識はブラックアウトするのであった。









「ん……朝か」

あのクリスマス会からはや一週間ほどが経過した。
唯たちに違和感などは感じられないので、僕はほっと胸をなでおろしていた。

「ご飯でも食べるか」

僕はとりあえず朝食をとることにし、キッチンへと向かった。
そして簡単に朝食をとった僕は、再び自室に戻った。

「あれ、携帯に連絡がある」

そこで、ふと机の上に置かれた携帯電話に、連絡があったことを告げるランプが点滅しているのに気が付き、携帯を手にする。

「律からメールだ」

差出人を確認した僕は、そのメールの内容に目を通した。

『1月4日に神社に初詣に行くから、遅れないように集合』

要約するとそんな感じで、下の方には神社の場所と集合時間が明記されているという実にシンプルな内容だった。

「とりあえず返信しておくか」

僕は律からのメールに『了解』と打つと律のアドレスに送信した。

「さて、次のライブの曲順を考えないと」

軽音部のライブではなく、H&Pのライブだが。
既にH&Pのライブの次の予定が決まっているのだ。
それが4月のコンサート形式のライブだ。
コンサートとは、ライブと同じ意味ではあるが僕たちの演奏するタイプを示した隠語のようなものだ。
通常の”ライブ”では、『Leave me alone』などの曲のみを演奏することにしているが、コンサートの場合はそれ以外の楽曲と通常のライブで演奏するような曲を合わせているのだ。
ちなみに、総合で演奏する歌というのは『天狗の落とし文』のような感じの曲があげられる。
もちろん、一部を除いて演奏をするというスタンスは忘れていない。
さすがにさっき例に挙げた曲は、演奏は難しいが。
そのため、このライブは時間が長い。
前半と後半、そして途中で30分ほどの休憩をはさんだ2時間30分だ。
しかも、会場は完全に貸切のためまさしくオンステージだった。
その分、演奏する曲目も多くなりいつも以上に油断ができないライブでもある。
まあ、いつも全力で取り組んではいるのだがコンサートだけは死ぬ気で行かなといけない。
そのライブに向けての演奏曲のプログラムを組み立てるために、4か月前の今から始めているのだ。
これで1月末までにはプログラムを確定させ、2月から開催までの期間は本格的に練習に取り掛かるのがいつものことだ。
ちなみに、その期間は普通のライブなどは行われない。
人から見れば、充電期間のようにも見えなくもない。
通常はどれほど掛けても2か月だが、今回は復帰後初めてのコンサート。
早め早めに準備をしておこうということになったのだ。

「うーん。前半で入れる曲はこんな感じでどうだろう……」

一通り完成した曲順を確認する。

(やっぱり初めは明るく元気な曲から入っていった方がいいよね)

前半だけで約10~15曲合わせると2,30曲というとてつもないボリュームになるので、曲順を決めるだけでも大変なのだ。
そして、僕にはもう一つのどうしても片づけなければいけない問題があった。
それは……

「これをどうするか……だよな」

目の前にあるのは、三つの米俵。
クリスマス会でのプレゼント交換用の材料を購入した時に手にした、抽選権で運よく手に入れた景品だった。
食費が少し浮くので、最初は幸運だと思っていたのだが、時間が経つにつれそうともいえない状況になってきた。

「スペース的にも邪魔」

米俵三つというのはかなりの大きさだ。
誰も済んでいないこの家ならいいかもしれないが、バンドメンバーが来るので、変なところに置いておくのも気が引ける。
かといって自室や使っていない部屋に置くのは衛生上問題がある。

「仕方ない。格納庫にでも入れておくか」

僕が保有している異空間に存在する格納庫にしまうことにした。
ものの数分で米俵を格納することができた。
結局、格納庫の様子がおかしくなったことに気づいた僕が米俵二つを祖国に送ったのはそれから一週間後のことだった。










そして、年が明けた1月4日。
僕は律のメールに書かれていた神社に向かった。
服装はいつもの通りの私服だ。
違う服を着ていった方がいいのかと思ったが、律たちのことだから普通の服で来るに決まっているので私服にした。

「あ、浩君! こっちこっち」

神社に到着すると、先に来ていた唯たちが手を振って自分のいる場所を知らせてきた。
その手には妹の憂から渡されたプレゼントの手袋がつけられていた。

「浩介、遅刻だぞ!」
「ごめんごめん。ちょっといろいろあってね」

一番最後に来たことに叱咤する律に、僕は軽く謝った。
ちなみに、集合時間まではあと5分ある。
皆が早すぎなだけだが、一番最後に到着ということはそれは遅刻と大して変わらないため、特に反論はしなかった。

「そう言えば、みんなは年末年始は何してたんだ?」
「僕は特に何事もなくのんびりとしてたよ」

律の問いかけに、僕は思い起こすように視線をそらせながら答えた。
ちなみに嘘だが。
本当は曲目を決めるのに費やしていた。
そのほかにもさまざまな”仕事”を片づけたりとかなり多忙な毎日だった。
その後、律とムギに澪が年末年始に何をしていたのかを話し始めた。
比較的家でゆっくりしていたというのが多かった。
そんな中、群を抜いてすごかったのは、

「私の年末年始はこんなでした」

と、話した唯だった。
年末はのんびりとこたつでテレビを見て、年越しそばを食べ、お汁粉を食べてみかんを食べさせてもらったりしていたらしい。
ちなみに年越しそばを作ったりお汁粉を作ったりみかんを食べさせたのは憂だ。

「憂ちゃんくれ!」

そう言いたくなる律の気持ちは、僕には痛いほどわかった。

「そんなに食べてたら太るだろ」

心配そうに尋ねる律。
自堕落な生活を送っている人に必ず現れる代償が体重の増加だ。

「それが私、いくら食べても体重が増えないんだ~」

そんな律に、唯は衝撃的な回答をした。

「そんなはずは――「ないでしょ!」――え?」

別の意味で衝撃を受けた澪の叫びに、なぜかムギも加わる。
かと思えば今度は肩を寄せ合って何かを話すと、肩を震わせて泣き始めた。

(地味に聞こえているだけに、罪悪感が)

「とりあえず、謝っておけ」
「う、うん。ごめんね澪ちゃん」

律に促されるように唯は慌てて澪に謝った。

「べ、別にいいんだ。唯は悪くないんだ」
「そ、そうよ! すべてはモチベーションの低さよ!」

どうやら、この話題には触れない方がよさそうだ。

「み、澪ちゃん晴れ着気合入ってるね」

そこで、唯はなぜか赤を基調とした晴れ着を着ている澪に声を掛けた。

「それは律が電話できていくのかって聞いたから」
「聞いただけ」

どうやら完全に騙され(?)たらしい。

「着替えに帰る!」
「えー、そのままでも十分可愛いよ。ね? 浩君」

プイッと背を向けて帰ろうとする澪の背中に、唯が元気づけるように声を掛けるとこっちにも同意を求めてきた。

「どうして僕に振るのかがいささかわからないけれど、まあそうだね。元がいいからなに来ても可愛いと思うよ」
「か、可愛っ!?」

(はっ!? つい唯に乗せられてすごいことを言ってしまった)

気づいたところであとの祭り、恥ずかしげに頬を赤らめる澪ににやりと笑みを浮かべながら見つめているであろう律。

「今年もいいのを見せてもらいました」
「ムギは相変わらずで――」

ほっこり笑顔のムギに律は苦笑しながら口にすると、聞きなれた声が聞こえた。

「あれって……」
「さわちゃん?」

唯が示す方向に、ひものようなものに紙をを括りつけている山中先生の姿があった。
おそらく、あの紙はおみくじだろう。
そして近くにいるカップルをにらみつけると目に涙を浮かべて逃げるように去っていった

「さわちゃんも相変わらずで」

その光景に、律がポツリと漏らした。

「せっかくだし、お参りでもしていこうぜ」
「そうだね」
「そうね」

律の提案に三者三様に賛成した僕たちは、本殿の方でお参りをすることにした。
鐘を鳴らして二拍手一礼をして、目を閉じながらお願い事をする。

(今年も良い一年となりますように)

お願い事を終えた僕は目を開けながら顔を上げる。
ちょうどみんなも終わったのか顔を上げていた。

「皆は何をお願いしたんだ?」
「私は家内安全を」
「体重が減りますように」
「おいしいものをたくさん食べられますように」
「良い一年になるように」

それぞれがお願いごとの内容を口にする。
ちなみに、どれが誰のお願い事なのかは当人の名誉にもかかわることなので伏せておきたいと思う。

「軽音部のことをお願いしようよ」

そんな律の一言で、もう一度やり直すことにした。
澪とムギに僕の順番で軽音部に関するお願いをしていく。

「ムギちゃんの持ってくるお菓子をもっとたくさん食べられますよう――にぃっ!?」

そんな中、趣旨と異なるお願い事をする唯の頭を手にしていたハリセンで叩いた。
尤も、ほぼ同時に律が手を上げていたが。

「ギターがもっとうまくなりますように」
「いよぉし!」

律の掛け声で、お参りは幕を閉じた。

「にしても、それはなんだ?」
「これ? ハリセンだけど」

本殿を離れていると律から僕が手にしている者について聞かれたので、その物体の名前を答えた。

「いや、それは分かってるって。何でそんなものを持ち歩いてるのさ?」
「今年からは遠慮をしないことにしたんだ。さすがに律たちをまとめる役割を澪に押し付けるのもあれだと思って」
「そ、そんな押し付けられてるだなんて」

突然自分の名前が出てきたためか、若干慌てながら相槌を打つ澪をしり目に僕はさらに言葉を続けた。

「だから、今年からはこれでばしばしと叩いていくから。まあ、澪のげんこつに比べれば痛みは少ないけどね」
「いや、それで安心できないから!」

そんな律のツッコミを聞きながら、僕たちは神社を後にするのであった。

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