健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第28話 夢か現実か

部室に戻た僕たちは、次のライブに向けての練習を(珍しく)していた。

「ねえ、ちょっといいかな」

そんな練習も一区切りついたころを見計らって、僕は声を掛けた。

「何、浩介?」
「今日はこれで終わりにして帰らない?」

その僕の提案に、全員がぽかーんとした表情を浮かべた。

「な、なに?」
「いや、浩介がそういうことを言うなんて初めてだから」
「そうそう。いつもは絶対に言わないじゃん」
「……言われてみれば、そうだね」

確かに澪と律に言われて知ったのだが、これまで練習しろなどと口うるさく言うことはなかったし、切り上げようということも当然なかった。
その理由は、僕自身にある。
僕の立場上、無理やり練習をさせるのはDKとしての価値観を押し付けているのではないかと思ったからだ。
だからこそ、練習するように促しはするが、無理やりさせるようなことはせずに彼女たちの自主性に任せることにしている。
もっとも切り上げることに関しては律たちが勝手にするのもある。
ただ、最近それでは彼女たちの為にならないのではと思うようになってきたので、何らかの対策は施すかもしれないが。
閑話休題

「何か用事でもあるの?」
「いや、そういうのではないんだけどね」

ムギの疑問に、応えた僕は朝の時に言おうと決めたことを告げることにした。

「今朝の通り魔に関するニュースを見た?」
「ああ、あれか」

僕の問いかけに、いち早く思い出した様子で返したのは澪だった。

「あれって、確か一日に一駅分ずつ移動する連続通り魔って言われてたっけ」
「何だか、こわいわ」
「こっちの方に来ないでほしいんだけどな」

各々が話を始めるが、どうやら僕が知っていることは全員は把握しているようだった。

「犯行の時間帯は警察の捜査の結果、夕方の17時以降とされている。そして前日に隣の駅の町で事件が発生していることから、今日はこの街で事件が起こる可能性が非常に高い」
「どうして、そんなことまで知ってるんだよ?」

僕の説明に、律は驚きと疑問が入り混じった表情で訊いてきた。

「……そこで、今日は早めに帰っておいた方がいいと思うんだ」
「スルーされた!?」

律の問いかけには黙秘と言う手段で躱した。
どう取り繕っても誤魔化すことはできないからだ。
ならば、何も言わない方が得策だ。

「家に着いたら各自が一斉送信で連絡。律と澪は幼馴染だからそれぞれが家に着く時間帯を大幅には把握しているはず。そうでしょ?」
「ま、まあ大体だったらわかるけど」

僕の確認に、律は澪の方を見ながら答えた。

「だからいつも家に着くであろう時間になっても連絡がなければ、それは何らかの危機的状況に見舞われていると判断できる。唯の場合は僕が言えまで送り届ければ問題はないし、ムギは駅まで一緒に行けば問題はないと思うんだけど、どう?」
「でも、今日確実に起こるっていう保証はあるのか?」

律から根本的なことを聞かれた。
確かに、二日間にも及ぶ規則性もただの偶然だということも考えられる。

「それはないけど、でも万が一にもと言うこともある。もし、今日何もなければ皆にケーキを好きなだけ奢る。それで手を打ってくれない―――「さあ、帰る支度をしよう!」―――か……な」
「変わり身はやっ!」

ケーキを奢るという単語に反応して帰り支度を始めた律と唯に、澪がツッコんだ。

「本当にわかりやすいよな、二人とも」

そんな律たちに、僕は苦笑をしつつも帰り支度を始める。
この時、時刻は午後4時30分。
僕の推測が正しければ、かなり危ない時間帯だ。
それから、支度を終えて学校を後にするのに10分の時間を要することとなった。










「それじゃ、みんな気を付けて」
「ムギもな」
「また明日」
「おいしいお菓子をお願いね~」

駅前まで一緒に歩いた僕たちは、三者三様に声を掛けてムギを見送る。

「それじゃ、私たちも帰るか」
「そうだな」
「そうしよう」

ムギを見送った僕たちを促すように率が声を掛けるとそれに澪と唯も頷くといつものように歩き出す。
やがて、信号機の前にたどり着いた。

「浩介達はここを渡るんだったよな」
「そうだね。そっちはこの道をまっすぐだっけ」

僕と唯は途中まで道が同じなので、いつも一緒の道で帰っている。
とはいえ、買い出しなどの用があるときは無理だが。

「それじゃ、二人とも気を付けてな」
「ありがとう、澪ちゃん」
「律たちもね」

お互いに注意を促しあった僕たちは、ちょうど歩行者用の信号が青になったので横断歩道を渡ると律たちに手を振る。
向かい側でも律と澪の二人が手を振りかえしてくれた。
それもほんの少しのことで、すぐにやめると二人は自宅の方へと歩いて行った。

「それじゃ、私たちも行こう。浩君」
「そうだな」

そして唯に促される形で、僕たちも歩き始めた。

「それにしても、唯は本当にケーキとかが好きなんだね」
「うん、大好きだよー。ムギちゃんの用意するお菓子はどれもおいしいんだよね~」

ふと思いついた話題を唯に振ると、満面の笑みで答えが返ってきた。

「確かに、ムギの持ってくるお菓子は美味しいね」

それに僕も相槌を打つ。
確かにムギのお菓子はどれもおいしい。
だが、ムギに迷惑がかかってるのではないかと思う時もあるが、ムギ自体は特に嫌そうな雰囲気は感じないので、まんざらではないのかもしれない。
とはいえ、多少の自重は必要だが。

「浩君は、ムギちゃんが持ってくるお菓子の中でどれが一番好き?」
「また難しいことを。そうだね……」

僕は、唯からの問いかけの答えを考えるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


学校からの帰り道、いつものように浩君とお話をして帰る私たち。
浩君は、自分から話すことはあまりないので、いつも私が話しかけていたんだけど、今日は珍しく浩君の方から話しかけてきた。

「浩君は、ムギちゃんが持ってくるお菓子の中でどれが一番好き?」
「また難しいことを。そうだね……」

私は浩君に訊いてみた。
私の問いかけに、浩君は考え込むように腕を組んでいた
浩君はいつもムギちゃんのお菓子をなんでも食べている。
しかも、とてもおいしそうに食べているので、同じものを食べているはずなのに違うものを食べていると思ってしまう。
もしかしたら私もしているのかもしれないと思っていた時だった。

「唯、危ないっ!」
「え? きゃぁ!?」

いきなり浩君が大きな声で叫んだかと思うと、私は誰かに突き飛ばされた。

「っぐ」
「っち」

そして聞こえてきたのは浩君のうめき声と知らない人の舌打ちだった。
背を向けているので、浩君の表情は私からは分からない。

「浩君?」
「………」

私の呼びかけに浩君は何も反応を示さない。

『犯行の時間帯は警察の捜査の結果、夕方の17時以降とされている。そして前日に隣の駅の町で事件が発生していることから、今日はこの街で事件が起こる可能性が非常に高い』

ふと、少し前に浩君が言っていた言葉が頭をよぎった。

(も、もしかして……)

「今度は、外さねえ」
「ひっ!?」

先ほどまで浩君の前に立っていた人は、不気味な笑みを浮かべながら私の方に近づいてくる。
その手には刃物が握られていた。

(に、にげなくちゃ)

そうは思っても体がまるで石になったように動かない。
そんな時だった。

「おい、待て」
「あん?」

ぼそりとつぶやかれた浩君の声が、知らない人を呼び止めた。

「そいつにまで手を出させはしない」
「な、なぜだ……」

浩君の言葉に、知らない男の人は震える声を上げた。

「急所を刺したはずなのに、どうしてまだ動けるっ!」
「え?」

一瞬何のことか理解はできなかったけれど、次第に分かってしまった。

「このようなもので、僕を貫けるとは思わないことだ。下手人が」
「ヒィッ!?」

男の人の背中で見えないけれど、浩君は無事のようだ。
でも、今聞こえてきた何かが折れるような音はいったいなんだろう?

「魔力回路全開。生命維持を優先」

続いて聞こえてきた浩君の声と共に、言いようのない感覚に私は襲われた。
それは言うなれば、まるでこたつの中に足を入れた時に感じる熱のようなものだった。

「私にけがを負わせるとは、倍……いや、千倍返しをしないとな」
「く、来るなっ!!」

男の人が逃げるように移動したことで、浩君の姿がしっかりと見えるようになった。

(な、何?)

浩君の手にはゲームに出てくる剣のようなものがあった。
そして、それを手に浩君は男の人と距離を詰めていく。

「ば、化け物っ!!」
「逃がすかっ! 高の月――――」

逃げ出した男の人に、浩君は大きな声で叫ぶと一瞬で底から姿を消した。
そして

「ぎゃーーーーっ!!!?」

私の後方で断末魔の叫びが聞こえた。
振り返ってみると、そこには地面に倒れている男の人と、それを無表情で見下ろしている浩君の姿があった。

「さてと」
「っ!」

私の方を見た浩君のまなざしに、思わず息をのんでしまった。
いつも浩君とは向かい合っている時は何も感じないはずなのに、この時の浩君はとても怖かった。
そこで、私の意識は途切れた。










「う……ん」
「ん、唯?」

次に意識が戻った時に、私が最初に見たのは心配そうに私のことを見てくれている浩君の姿だった。

「ここは……?」
「ここは病院だ」

寝ぼけ眼で問いかける私に、浩君は簡潔に答えた。

「びょういん?」
「覚えていないのか? 帰る途中に例の通り魔に襲われたんだ」

何のことかわからない私に浩君は目を少しだけ細めながら何が起こったのか教えてくれた。
そのおかげで、私はあの時に何が起こっていたのかを思い出した。

「こ、浩君。怪我は大丈夫?」
「ああ、これね。まったく問題ないよ」

そういって浩君が掲げた手には包帯が巻かれていた。
でも、私の聞きたいことは少しだけ違っていた。

「ううん。そうじゃなくて胸の方のけがは?」
「は? 胸の方になんて怪我はしてないぞ?」

浩君の返事に、私は一瞬固まってしまった。

「でも、あの時確かに……」

男の人が”胸を刺した”と言っていたのを私ははっきりと覚えている。

「夢でも見てたんじゃないのか? 唯は僕が弾き飛ばした時に気を失っていたんだし」
「そう、なの?」

浩君の言葉に首をかしげていると、浩君は”そうだ”と言った。

「何だか、浩君が”魔力”なんとかって言っていたような気がしたんだけど」
「魔力って。それこそ夢だよ。この世の中に”魔法”なんて存在するはずないじゃないか」

(そうだよね。夢に違いないよね)

笑いながらツッコむ浩君に、私も納得した。

「まあ、唯には特に怪我もなかったようだし、問題はないって医者の人が言っていたよ」
「そうなんだ」

私が気を失っているときに検査が終わっていたようで、結果にほっと胸をなでおろす。

「警察の人が唯を家まで送り届けてくれるらしいから、先に帰っててくれる?」
「え? 浩君は帰らないの?」

浩君とは帰り道が途中まで同じなので、一緒に来るのだとばかり思っていた。

「通り魔事件の犯人を捕まえた件で、事情聴取を受けないといけないんだよ。その背時にこのけがをしたんだけどね」
「すごいね、浩君。犯人を捕まえるなんて」

苦笑しながら包帯が巻かれた手を軽く振っている浩君に、私はそう言った。

「趣味で習っていた護身術が役に立って良かったよ」
「ありがとう、浩君」

私のお礼の言葉に、浩君は優しい笑みを浮かべながら”どういたしまして”と返してくれた。

「それじゃ、行きましょうか。ご家族の方が心配してますよ」
「あ、はい! よろしくお願いします」

横に立っていた優しそうな女の人に促される形で、私は今まで腰かけていたベンチから立ち上げる。

「それじゃ、またね。浩君」
「ああ、またな」

浩君とあいさつをして私はおまわりさんと一緒に、病院を後にした。
この日、帰ったら『お姉ちゃん、大丈夫!?』と、憂に言われたので、私は大丈夫と答えたら憂は安心した様子で息を吐き出していた。

(ごめんね、憂。ありがとう、浩君)

私は心の中で心配をかけてしまった妹に謝って、私を守ってくれた浩君にお礼を言うのであった。
その次の日の朝、テレビで『高校生によって連続通り魔事件の犯人逮捕』というニュースが報道されたけど、浩君の名前が出てくることはなかった。

(どうしてかな?)

疑問には思ったけれど、それほど気にしなくてもいいかなと思った私は、その疑問を忘れることにするのであった。

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