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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第6話 婚約解消

「あ、竜介おかえり」
「ただい……ま」

学園でのごたごたがあり、逃げるように自宅に帰ってきた俺は、目の前の光景に言葉を失った。
そこは自宅のリビング。
腕にはご機嫌な様子でしがみついているララさんの姿。
そんなことすら吹き飛んでしまった。

「何でここにいるんだ!?」
「いや。これからも長い付き合いになるからな、ご家族の方にご挨拶でもと思ってな」

その原因は、俺の絶叫に近い問いかけにソファーに腰掛けて美柑に出された飲み物を口にしながら答える、ザスティンだった。
そのザスティンは自分の足元にある紙袋から包装された詰め合わせセットのようなものを取り出す。

「あ、これつまらないものですが」
「わざわざご丁寧に」

詰め合わせセットを律儀に手渡された美柑はそれを手にしたまま俺の方に視線を向ける。

「聞いたよ竜介。宇宙人のお姫様と結婚するんだって?」
「だからそれは」
「私ララっていうの。よろしくね」

俺の言葉を遮るようにして、ララさんは自己紹介をする。

「竜介の妹のです美柑。できの悪い兄ですがよろしくお願いします」
「うわー、かわいい!」

なんだかものすごくひどい言われようだが、ララさんと美柑はすぐに打ち解けていた。

(俺の知らないうちにどんどん話が進んでいる)

つい一昨日までは平穏だった日常が、すでに崩壊しかけていた。
それどころか、もう首が回らない状態にまでなり始めていた。

(このままじゃだめだ)

「ところで婿殿。これからのことについてだが」
「ちょっと来て」

俺は話しかけてきたザスティンさんに、ちょうどいいとばかりに引っ張ってリビングの外に連れて行く。

「こんな場所に連れてきてどうしたのだ、婿殿」
「単刀直入に聞くけど、婚約の解消はできるのか?」
「何?」

俺の問いかけに、ザスティンさんの目が一気に細まり顔に険しさが増していった。

「婚約解消だと? 婿殿、本気ではあるまいな!」
「い、いやそうじゃなくて! た、例えばの話!」

緑色の輝く剣のようなものを突き付けながら問いただしてくるザスティンさんに、俺は両手を上げてとっさに浮かんだ言い訳の言葉を告げた。

(こんなの通じるはずがない)

「そうか、例えばか。ならいい」

(通じたよ)

言い方は悪いが、ザスティンさんが馬鹿であるというのはほぼ決定だろう。

「それで、話を戻すけど。もし何らかの理由で婚約を解消しなければいけなくなった時、その方法ってあるのか?」
「うぅむ。解消する方法はあると言わざるを得ない」

俺の疑問に、ザスティンさんは顎に手を当てて考え込みながら答え始める。

「え、あるの?」
「………」
「だから例えばの話だって」

あまりにがっつきすぎたのか、ザスティンさんは疑いのまなざしを俺に向けてきたため、俺は再び”例えばの話”と強調した。

「そうだな……デビルーク星の婚約の儀には、クーリングオフ期間が設けられている」
「クーリングオフ?」

いきなりここで”クーリングオフ”と言う単語が出てきたため、思わずおうむ返しに聞いてしまった。

「簡単に言うと、通販などで違った商品が送られてきた際に返品ができる制度のことだ」
「いや、それぐらいは知ってますから」

言い方が悪かったのが、”クーリングオフ”についての説明を始めたザスティンさんに、俺は思わずそう突っ込んでしまった。

「そのクーリングオフだが、婚約の儀から三日以内にあることをすればいい」
「あること?」

ついに核心の部分に話が進んだため、俺ははやる気持ちを抑えながらも先を促す。

「それは―――」

ザスティンさんから告げられた方法は、俺にとっては最悪なものであった。










夜10時。
そろそろ寝る時間であることもあり、俺は自室にいた。

「これでよし」

ようやく書き上げた交換日記を閉じながら、俺は席を立ちあがる。
そしてベッドの枕元に置かれている時計を手にする。

「タイムリミットは明日の夜8時43分」

婚約解消のタイムリミットの時刻に目覚まし時計が鳴るようにセットする。
とはいえ、まだ鳴るようにはしない。
いま鳴るようにすれば明日の朝になることに鳴るからだ。

(にしても、よりによって婚約解消の方法が婚約をする際にしたことと同じことをしながら、婚約解消を宣言することだなんて)

思い出してみよう。
俺が婚約の儀にしたこと、それは……

(胸を触りながら、婚約の解消を宣言するなんてこと……俺にできるのか?)

自問自答してみるが、答えはNoだ。
先ほども、試みてみたが………とん挫した。
そこで、俺は最後の手段を講じたわけだが。

(寝よ)

そして俺は、眠りにつくのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「ん……」

それはいつもの浮遊感。
たとえるならば、普通に朝に目が覚めるような感覚だろう。
尤も、今は朝ではなく夜だが。
具体的に言えば夜の12時だ。

「またか」

横から寝息が聞こえると思い隣を見ると、そこには服を纏わずに心地よさそうな表情を浮かべて眠っている姫君の姿があった。

(昨日のでまさかとは思ったが、こうも何度もやられると少々あれだな)

ため息交じりに、私は姫君を起こさないようにベッドから出る。
そして、机の上に置かれた日記帳を手にする。
それを確認するのが、私の日課だ。
書かれているのは、先日に起こったことや相談など様々だ。

「はぁ?!」

交換日記に書かれていた内容に、私は思わず声を上げてしまった。

『婚約解消をしたいが、それをするには明日の午後8時43分までにララさんの胸を触って婚約解消を宣言しなければいけない。
俺には胸を触ることなんてできない。
どうすればいい?』

それが日記に書かれた内容だった。

「我が半身ながら情けない……とは、言えないな」

私も胸を触るなどと言う破廉恥な行為は、できる限りしたくはない。

「と言うより、竜介は私にどうさせたいんだ?」

まさかとは思うが、自分の代わりにやれというのではあるまいか?

(そんなのお断りだ!)

それはある意味当然の結論だった。
私はとりあえず、竜介の切実な訴えに対する答えを簡単に書いてから日記帳を閉じる。
そして、静かに竜介の部屋を後にする。










「よし、こんなもんだろ」

リビングでティーカップに紅茶を淹れた私は、適当な席に座ると隠しておいた本に目を通しながら紅茶に口をつける。
そして深夜2時には再びベッドに戻り眠りにつくことで、体の支配権を竜介に戻す。
それが、私の日常でもあり、唯一の楽しみであった。
二人で一つの肉体を共有するというのは、いろいろ不自由なものだ。
ちなみに読んでいる本はとある筋より手に入れた教本のようなものだ。
私は、ティーカップを手にすると紅茶を口にする。
口の中にまろやかかつ、程よい甘みのある味が広がる。

「この家で紅茶をたしなむ人がいなくてよかった」

そうでなければ、私特製のオリジナルブレンドの茶葉はすぐに底をついてしまっているのだから。
ちなみに私の知る限りでは、紅茶をたしなむのは私ぐらいのはずだ。
もっとも姫君は知らないが。

(まあ、無くなったらまた調達すればいいだけなんだけど)

どれほどの時間が過ぎたか、読んでいる本も残すところ僅か数ページとなっていた。

「時間は……深夜の1時か。この分なら読み切れるだろう」

そろそろ新しい本を入手しなければと考えていると、廊下の方から気配を感じた。
それは姫君のものでもなければ知らない人物の気配でもない。

(妹君か)

相手の特定ができたところで廊下に続くドアが開き、妹君が姿を現した。

「はぁ、喉が渇い……うわっ!?」

寝ぼけているのかふらついている妹君はこちらを見ると、眠気が吹っ飛んだ様子で叫び声をあげた。

「……」

今までに何回も同じことをされているためもう慣れたが、私としては普通に接してもらえる方がいいのは言うまでもないだろう。

(竜介には何度も言ったが、私の方で対処した方がいいか?)

人任せでは何事も成しえないというのは、自分が一番わかっていることだ。

「……何度も言おうとは思ったが、私を見て叫び声を上げるな」
「ご、ごめんね」

怒っていると思われたのか、数歩後ずさりながら謝罪の言葉を口にする妹君の様子に、私は誤解を招いたことに心の中でため息を漏らした。

「別に怒っているわけではない。……ちょうどいい、話したいことがある。立ち話もなんだろうから座りな」
「う、うん」

とりあえず、話ができるように状況を運ぶことには成功した。
私はいったん席を立ちあがると食器棚に入れておいたティーカップをもう一つ取り出す。

「な、何?」
「のどが乾いているのだろ? 何か飲みながら話すとしよう」

私の突然の行動に驚いた様子の妹君に、私はそう返すと彼女の舌に合うように苦みの少ないオリジナルブレンドの茶葉を使った紅茶を注いでいく。

「どうぞ。苦くはないだろうが、苦かったら砂糖を入れてみると良い」
「あ、ありがとう」

お礼を言いながら戸惑った様子で紅茶に口をつける妹君は、いきなり目を見開かせる。

「おいしい」
「そうか。それは何より」

妹君の感想に、私はそう相槌を打つと、今まで開いていた本を閉じる。

「それで、話って?」
「もちろん、あの姫君のことだ」

紅茶を飲んで落ち着いたのか、本題を切り出してきた妹君に私は本題について話すことにした。

「ララさんのこと?」
「そう。お前は彼女のことをどう思う?」

頷きながらも、私はあの姫君の心象について妹君の問いかける。

「とてもいい人だと思う。竜介にはもったいないくらいの」
「はは。もったいないか」
「ご、ごめんっ」

妹君の言葉に思わず笑った私に、気分を以外したと感じたのか妹君は慌てて謝ってきた。
そんな彼女に、私は首を横に吸うか振りながら口を開く。

「別に気分を悪くしたわけではない。ただ、少々的を得た感想だったから思わずな」
「そ、そうなの?」

納得しているのかしていないのかよくわからない様子で妹君は相槌を打つ。
今まさに”婚約解消”をしようと目論む竜介に、彼女はもったいないだろう。

「そういうり、竜斗のほうは?」
「私か? そうだな……」

妹君に聞きかえされた私は、考えをめぐらす。
姫君……”ララ・サタリン・デビルーク”という人物について、私が知っていることは少ない。
だが、あえて言えるのであれば

「妹君と同じだろうな」
「何それ、ずるい」

頬を膨らませながらかけられる妹君の非難の言葉に、”それもそうだな”と返す。

「そしてもう一つ重要な話だ」

それは私にとってはこっちの方が本題と言っても過言ではない程重要なものだった。

「私を見て悲鳴を上げるのをやめろ。言葉遣いゆえに、怯えられるのは仕方ないとは思うが、もう数年も経過しているのだから、いい加減慣れてもらいたい」
「ご、ごめん」

私の言葉に、委縮する妹君に私は息を吐き出すと静かに立ち上がる。

「え?」
「妹君に言葉で言っても逆効果のような気がするから、こうさせてもらう」

言葉で伝わらなければ、態度で伝える。
それは昔から変わらないことだ。

「や、やめてよ。恥ずかしい」
「そうか? それは失礼」

恥ずかしがる妹君に、謝りながら今まで撫でていた頭から手を放す。

「お前はまだ子供なんだから、少しは甘えてはどうだ?」
「何だか、そういわれると馬鹿にされてるような気がするんだけど」
「事実だろ?」

まだ年端もいかない年齢だ。
ならば私の言葉に間違いはない。

「まあ、時たま年相応に見えなくなる時があるけど」
「そうなの?」
「家事全般をしているからか、それともしっかりとした性格だからか……まあ、それがいいのか悪いのかはわからないけど」

尤も、兄という立場で言うのであればかなり問題があるんだが。

「まあ、これからも度々こうして話すこともあるだろうから、その時はよろしく」
「う、うん」

理解ができていないのか、首をかしげていた。

「さて、もう夜も遅い。早く寝ろ妹君」
「美柑」
「ん?」

突然自分の名前を口にした妹君に、今度は私が首をかしげる番だった。

「私の名前は妹君じゃなくて美柑だから、そう呼んで。竜斗」
「…………善処しよう」

面と向かって言われた言葉に、私は視線をそらしながら返事をする。

「それじゃ、お休み」
「おやすみ」

リビングを後にしていく彼女の後姿を見送った私は、再び席に着く。

「本当に、年相応には見えないな」

私は小さくため息をつきながら、彼女が去って行ったドアから庭に続く窓の方へと視線を向けた。

「おやすみだ。”美柑”」

この日、私は初めて妹君の名前を口にするのであった。

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