健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第25話 文化祭ライブ

慶介をいつもより沈めた後、少しして講堂に向かう時間となったため、僕たちは講堂の舞台そでに移動していた。

「うわー、人がいっぱい」

幕の隙間から外を見ていた唯が、声を上げた。
結局ステージ衣装に着替えることになったわけだが、全員ワンピースタイプの服装となった。
唯は白と赤の二色、ムギは黒っぽい色と緑色っぽい色をした服と言った感じに全員の配色はばらばらだ。

「ねえねえ、浩君。似合ってる?」
「似合ってるんじゃない?」

唯の問いかけに、僕は簡単に答えた。

「ありがとー、浩君も似合ってるよ」
「それはどうも」

お礼返しのつもりなのか、笑顔で服装をほめた唯に、僕は投げやりな口調で答えた。
執事服を着て似合っていると言われた僕は、素直に喜んでもいいのかが分からなかった。

「今こそ軽音部の力を見せるときっ」
「ちょっと律」

律が意気込んでいると、弱々しい声で呼びかける人物がいた。

「本当にこの格好をしないといけないのか?」

そう言って、先ほどから陰に隠れて一向に姿を見せようとしなかった澪が出てきた。
その姿は黒を基調としたメイド服だった。
おそらくは、いつぞやの律の言葉がそのまま形になったような感じだろうか。

「とても似合っておりますわよ。澪ちゅぁん」
「ああ、とても似合っている。というか似合いすぎて恐ろしいくらいに」

まるで、メイド服と言うモノが彼女のために存在しているかのような錯覚さえ思えてくる。

(うわ、自分で思っておいてあれだが、寒すぎ)

自分の考えに寒気が走った僕は、先ほどの施行を永遠に抹消することにした。

「~~~っ。もうっ!」
『次は軽音楽部による、バンド演奏です』

そんな律と僕の言葉に、顔を赤くして叫ぶ澪の声にかぶさるように、僕たちの出番を告げるアナウンスが流れた。

「それじゃ、いっちょやりますか」
『おぉ~!』

律の声掛けに右手を上げながら応じた(一名ものすごく弱々しい声だったが)皆は、それぞれの配置についていく。

「うわっとと!?」

そんな中、目の前でこけそうになった唯に、僕は色々な意味で慌てた。

(お願いだから目の前で転ばないで)

思わずそう思ってしまうのは、別に他意はない。
そんな中、僕も自分の配置についていく。
最初の曲目のため、澪の左側に僕そしてその横には唯が立つというポジションだった。

(ギターも大丈夫。曲目のコードの方も大丈夫)

軽くギターの弦をはじくことで調子を確認する。
ついでに、最初に演奏する曲と次の曲のコード進行も頭の中で確認する。
この場には譜面などはない。
つまりは完全に暗記のような状態で弾いていかなければいけないのだ。
だが、一番問題なのはポジションだろう。
二曲が終われば僕は、唯の左側に移動しなければいけなくなる。
移動する際には細心の注意を払わなければいけない。
もし間違えれば必ず誰かが転ぶことになるからだ。
僕はいいとして唯と澪はスカートと言う服装。
転べば悲惨な結果になってしまうのは目に見えていてる。
そのため、リード線の配置には十分に注意をしなければいけない。

(後方でリード線のわだかまりを作るようにすればいいかな)

演奏中や終了いた際に、僕たちは後ろに下がることはない。

(念のために少し余裕を持たせておけばいいかな)

一通りの準備を終えたところで、若干薄暗かった舞台に明かりが灯る。
それと同時に、機械特有の音を立てながらゆっくりと幕が上がっていく。
そして見えてくるのは、ライブを見ようと集まった人たちの姿だった。
確かに唯たちの言っていた通り、かなりの人数が集まっているようだ。
各々がこちらを期待と不安を込められたまなざしで見つめてくる。
その視線は僕に緊張感を生みだすのに十分だった。

(緊張してる? この僕が)

一応はプロに足掛けていてこの数倍の規模のライブやコンサートに出ている僕が、緊張するというのも非常におかしいことだった。

(ああ、でも。当然なのかも)

今ここにいるのはH&PのDKではなく、軽音楽部の高月浩介としてだ。
ならば、これまでの自分のキャリアはすべてリセットされて当然だろう。

(それよりも……)

僕は、ふと右側から流れてくる異様な雰囲気に心配になって澪の方を見てみた。

「………」

やはりと言うべきかなんというべきか、そこには観客の人たちの視線に圧されている澪の姿があった。
圧されているためか、緊張しているのかはわからないが若干手が震えていた。

「澪」

そんな彼女に、気づけば僕はそっと声をかけていた。

「大丈夫」
「え?」

何の根拠もない言葉だった。

「怯えないで。もし、ここにいる人が野次を飛ばそうが、瓶を投げようがそれらをすべて応援の言葉と思って、自分の持つ力すべてを出し切るんだ。僕たちの敵はここにいる人ではない、自分自身なんだから」
「浩介……」

気づけば、そんな言葉をかけていた。
僕の言葉に、澪は目を丸くしていた。

(僕には似合わなかったかな)

この間の中山さんとの話に感化されすぎたのか、あの時と同じニュアンスの言葉をかけてしまったのだ。

「うん。やってみる」

一瞬不安にも思ったが、澪から返ってきた言葉に、僕はほっと胸をなでおろしながら頷いた。
そして、後ろに陣取る律の方に顔を向けると、お互いに頷きあった。
それが合図だった。

「1,2,3,4,1,2!」

スティック同士を打ち鳴らしながらリズムコールを始めた。
リズムコールが終わるのと同時に、ムギのキーボードがうなりを上げる。
続いて澪のベースと律のドラムが音に命を吹き込む。
さらに唯の単純なコード進行のギター演奏で曲は始まる。
この曲は僕がボーカルを務める。
本来は、サブボーカルがほしいが男性は僕一人なのと、さすがに三曲とも澪に歌わせるのは酷だということで僕一人がボーカルと言うことになった。
時より弦を弾きながら歌を紡ぐ。

(よし、いい感じだ)

練習時に存在したリズムがずれる問題はそれほどひどくはない。
とはいえ、若干リズムがずれている。
……主に唯が。
だが、唯のリズムは、間違っていない。
ビートを刻むドラムのテンポがヨレているののが原因だ。
こればかりはどうしようもないので、唯と同じテンポに合わせる。
そしてついにサビだ。
僕は複数のコード進行をしながら、歌を紡ぐ。
そしてアレンジを加えた部分もスムーズに終わり、残すは問題の間奏部分だ。
ここからは僕と唯のギターテクが問われる。
ベースの音とドラムの音を頼りに、キーボードのスクラッチ音に乗せて音を奏でて行く。

(おいおい、嘘だろ?!)

速弾きにも近い演奏をしている中、僕は驚きを隠せなかった。
唯都のテンポのずれが、予想よりも少なかったからだ。
音はまったく合っていなかったが、テンポはそれほどずれていないのだ。
体感時間にして約カンマ25秒差と言ったところだろうか?
どちらにせよ、練習の際に毎回テンポがずれていた箇所がぴったり合っていることに、僕は舌を巻いていた。
そして間奏の終わりで音を伸ばしつつ、ビブラートを効かせる。
最後のサビも先ほどと同じ要領でギターを弾いていき、一気にフィニッシュへと向かう。
間奏の最初の部分と同じコード進行で弾き、同時にストロークをして曲は終わった。
終わるのと同時に、爽快感を感じた。
それはおそらくは、本当の自分の姿で演奏をし終えたからだろう。
H&Pでは、サングラスをして名前も変えているため、偽りの自分のような感じを覚えることもあった。
だが、ここではただの”高月浩介”として、演奏をすることができる。
それは、とても幸せなことだった。
そんな僕と唯たちに、凄まじい拍手の音が襲いかかってきた。
その歓声が僕たちにとっては、最高の贈り物だった。

「……皆さん、初めまして」

マイクを握り、この場にいる人たちに向けて話しかけた。

「今回は、私たち軽音楽部のバンド演奏を聴いていただきありがとうございます」

僕のその言葉に、講堂内はまるで波を引くように静まり返る。

「僭越ながら、バンドメンバーの紹介をさせていただきます」

そう告げて、僕は横にいる唯に視線を送る。

「まずはいつものんびり、ギター兼ボーカル担当平沢唯っ」
「こんにちはー」

僕の紹介に続くように、横に移動していた唯は、僕が明け渡す形でマイクの前で手を振りながら挨拶をした。
それに合わせて拍手が鳴り響く。
その拍手が静まるのを確認して、さらに

「続いて、人見知りが玉に傷、クールビューティーなベース兼ボーカル担当。秋山澪っ」
「ど、どうも」

僕の紹介の口上に恥ずかしそうに挨拶をする澪だったが、一瞬こっちに恨めしそうな視線を送ってきた。

(これは、あとで覚悟をした方がいいかもしれない)

僕は、ライブ終了後の悲劇を覚悟した。

「続いて、いっつもニコニコ朗らか、キーボード担当琴吹紬っ」
「こんにちはー」

手を上げながら挨拶をするムギに拍手が送られる。

「そして、いつもマイペースなドラム担当、田井中律」
「どうもー……って、私だけ扱いひどくない!?」

挨拶をしながらツッコんでくる律に肩をすくめることで返す。

「以上で―――」
「最後に正体不明のミステリアスボーイ、ギターとボーカルの高月浩介~」

終わらせようとする僕の言葉を遮るようにして、唯が僕の紹介をしてくれた。
自分で自分を紹介するのも少し恥ずかしいのでやめていたため、少しうれしくはあるが”ミステリアスボーイ”だけはやめてほしかった。

「さあ、次の曲に行きましょう。次の曲は……」
「Don't say Lazyです」

僕の言葉を継ぐように唯が曲名を口にした。

(唯にはMCの才能が有りそうだね)

もう少しばかり様子見が必要だが、もしあるのならMCは唯に一任しようと、僕は心の中で決めていた。
そして律がスティック同士を合わせる音を立てる。
それが曲の開始の合図。
そこからフィルで始まり、ベースとキーボードそしてギターが産声を上げる。
それと同時に僕と澪で歌を紡いでいく。
一定のテンポで弦を弾きながら歌っていく。
Aメロは簡単な上下のストローク。
音を伸ばさないように適度にミュートをしながら進めていく。

(それにしても、やっぱりこの曲のボーカルは澪が似合う)

隣で澪の歌声を聴きながら、僕はそう感じていた。
Bメロでは1,2コードを短く伸ばしあとは長く伸ばしながらビブラートを効かせるのを繰り返す。
そしてサビに入る。
これは最初の時と同じ要領で弾いていく。
サビを謳い切ったところで、再びキーボードとベースの音色が輝きだす。
ドラムの方もタムとシンバルを巧みに利用してビートを刻んでいた。
そしてまた2番のAメロに入るのだが、ここで僕はあることをすることにした。
それは歌わないということだ。
僕が歌わないとなると、必然的に澪がソロで歌うことになる。
だが、1番と2番の差を醸し出すのには非常に適しているので、僕は一歩弾いて歌うのをやめた。
一瞬驚いた様子で僕の方を見てきたものの、澪は歌を紡ぎ続けた。
そしてBメロとサビに進んでいき、いよいよ問題の間奏だ。
ちなみに、サビのところだけはちゃんと僕も歌った。
ここで一番大変なのは、ドラムだろう。
ヨレないように、リズムをとり続けるというのはかなりの神経を使う。
ここでいかにヨレを小さくさせられるかが、重要だろう。
僕と唯のギターに相槌を入れるようにシンバルを打ち鳴らすと、ハイタムとロータムが音に力強さをつける。
さらにそこにキーボードの音が加わる。
ギターのコードは繰り返すことになっているので、それほど難しくはない。

(……あ)

一瞬僕の方でリズムをずらしてしまった。
だが、慌ててリズムを修正したためキーボードとドラムの音がブレイクする前にほぼそろえることができた。
間奏の後はBメロの箇所のコード進行で行き、サビへと入る。
そして一気にかけていき、ムギのキーボードの音色を前に出しつつ最後はドラムの音で締めくくった。
それが、曲の終わりだった。

「ありがとう」

再び送られる拍手の嵐に手を上げつつお礼を述べると、さっそく次の曲紹介に移る。

「さて、名残惜しくはありますが、次の曲で最後となります。曲名はふわふわ時間タイムです」

僕は曲名を言うと、唯に右側に移動するように促しながら左側に移動する。
必然的に僕はマイクから遠のくが、これでいいのだ。
最後の曲は澪と唯のツインボーカルなのだから。

「1,2,3,4,1,2!」

律のリズムコールと同時に、僕と唯のギターの音色が産声を上げる。
3曲目ともなると恥ずかしさも多少は和らいだのか、小さいながらも手拍子をしている澪をしり目に、僕はミュートを駆使しながら弦を弾いていく。
さらにそこにキーボードとベースにドラムの音が加わる。
そしてついに歌が始まった。
澪のクールビューティーな歌声がふわふわな曲を引き締めていく。
僕たちはそれに合わさるようにしてギターを演奏する。
片思いをしている相手に思いをはせているといった感じの曲調(たぶん)は澪にあっていた。
この曲は全体的にベースが大きく存在感を示す曲と言ってもいいだろう
澪の演奏するベースが小刻みに音を重低音を与えていく。
サビの部分は唯と澪のコーラスだ。
ただ、唯の場合は喉が枯れているので少しばかりあれだったが、きっとそれも後ほどに思い出となるに違いない
サビが終われば最初の時と同じ要領で弾いていくが一瞬だけブレイクし、無音状態となる。
そこに澪の歌声が先行する形で2番が始まる。
2番も1番と同じ要領で演奏をしていく。
サビが終わればやってくるのは間奏だ。
ドラム以外の音が消え、タムの音のみとなる。
そこにベースの音がよみがえり、そこにキーボードとギターの音が加わっていく。
やや速いテンポでコードを変えながら小刻みに演奏していき、最後は軽く音を伸ばすことで一度ミュートにする。
それに続いてドラムやキーボードにベースの音も止まり、それと変わるようにしてギターで軽く音を奏でながら澪がソロで歌う。
そして、一気にギターの音色を変えると止まっていた楽器の音色が再び音を奏で始める。
そして訪れるはセリフの部分。
ここは単調に一音あげてまた下げてを繰り返す。
だが、そこで予想外の事態が起きた。

「浩介も歌おう歌おう!」
「そうだ、歌おう!」
「ヘっ!? ちょっと?!」

いきなり歌詞を変えたかと思うと、僕は強引にマイクの方まで押される。
混乱しているうちにも、ワンコーラスが始まろうとしていたため、僕は慌てて歌を紡いだ。
混乱しながらもちゃんとギターを弾いて歌うことができた自分に褒めてあげたいくらいであった。
そして最後は曲名の部分を僕が澪の後に続いたり、僕が先に言ったりを繰り返しつつ、最後はギターの音を限界まで伸ばし、キーボードの音色に導かれるようにすべての音と同時に音を止めた。
そんなハプニングはあったものの、何とかすべての曲目を演奏しきることができた。
そして響き渡る拍手の音は、これまでよりもはるかに大きく感じられた。

(これで、この後のライブも澪がボーカルを引き受けてくれるようになるかな)

そう考えれば、今回のライブは非常に最高の結果とも言えよう。
だが、運命というのは時に残酷だ。

「うわぁ!?」
「み、澪」
「澪ちゃん!?」

予想していた最悪の事態が発生してしまったのだから。
しかも原因はリード配線だったのがさらに残酷すぎた。

「いたた……」

怪我はないようでゆっくりと立ち上がるが、観客の方からざわめきが走った。

「え?」

その理由を理解できない様子の澪が首をかしげるが、自分の体制を思い出した澪は顔をこわばらせていく。
その体制というのは観客の方向に足を向けている状態だ。
しかも、転んでいる状態であってそれがどういうことを示すのかというと……

(本当にスカートをはいた状態で転ぶなんて)

そういうことだ。
そんな澪に止めを刺すように、パシャリと写真の撮る音が聞こえた。

「い………いやああああああっ!!」

そして、この日一番の澪の悲鳴が学校中に響き渡るのであった。










「皆、お疲れ」
『お疲れ様』

あのライブから数日。
文化祭の余韻も徐々に抜けつつある中、少しばかり遅い労いの言葉がかけられた。
とはいえ、片付けなどの作業があったため十分に遅いというのはおかしいが。

「唯は初ライブにしてはなかなかの出来だった」
「いやぁ~」

律の評価に、嬉しいのか照れたように頭を掻く唯の姿をしり目に、律はさらに言葉を続ける。

「浩介と澪にはファンクラブもできたしな」
「うわぁ、すごいね~!」

律の取り出した僕と澪のファンクラブ会員募集のチラシに、目を輝かせながら覗き見る唯とムギに僕は現実逃避がしたくなった。
文化祭でのコンクールとライブが相まって、なぜか僕のファンクラブまでできてしまったようなのだ。

(まあ、これもいいこと……なのかな?)

「まあ、当の本人は再起不能だけどな」

律の視線の先には、部屋の隅でうずくまっている澪の姿があった。
先ほどからぶつぶつとつぶやいており、どことなく灰になっているような印象が感じられた。
あのライブでの転倒事件から、ずっとあのような感じなのだ。
彼女の傷が癒えるまで、もうしばらくの時間が必要なようだった。
こうして、僕たちの初めてのライブは上々の出来という結果で幕を閉じた。
だが、この時の僕はまだ知る由もなかった。
この自分の考えがどれほどまでに甘いのかということに。


それを知ることになったのは、ライブが終わってから数日ほど経った日のことだった。
あのような言葉を告げられたのは。

『お前、軽音楽部をやめろ』

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