来てしまった。
いや、ここに来るのが嫌な訳ではない。
だが、なんとなく嫌なんだよな。
ものすごく矛盾しているが。
(絶対にこの前の事で文句を言われる)
そう思った時、俺の肩を力強く掴む人物がいた。
同時に、ものすごいオーラを背後から感じる。
それは言うなれば怒りのような気もした。
そして振り返った。
「渉殿。拙者に、何か言う事はないでござるか?」
うん、やっぱり怒ってた。
声は穏やかなのに、ブリオッシュが放つオーラは全く穏やかじゃない!!
もしかしたらそのオーラだけでこの魔物退治ができるのではないかと思うほどにとげとげしいオーラが俺を包み込んでいく。
「わ、悪かったって。でもあんな状態で寝られるほど、俺は図太い神経はしてないんだ!」
「……イクジナシ」
いや、ジト目で言わなくても。
それとも彼女は、俺に狼になれとでも?
「それはともかく、ブリオッシュに頼みがあるんだ」
「た、頼みでござるか!?」
俺の言葉に、ブリオッシュはいきなりテンションを上げて聞き返してきた。
「私達に出来る事だったら何でもするでござるよ(デートの誘いでござろうか? でも二人一緒だなんて……複雑でござる)」
な、なんだろう。
何だかブリオッシュの心の声が聞こえてくるような気がする。
(き、気のせいだ。そうだ。気のせいに違いない)
都合のいい解釈をするのは人として最悪だ。
これは知らなかったことにしよう。
俺はそう自分に言い聞かせると、用件を告げる。
「魔物関連の事だ」
「………」
俺の言葉に、ブリオッシュの表情が変わった。
決して、がっかりとした表情はしていないぞ。
本当だぞ。
その表情は大げさに言えばヴァルキュリエのようなものだった。
「なるほど……すぐに準備をしてくるでござる」
「ああ」
そう俺に告げて屋敷に駆けて行くブリオッシュを見ながら、一息つくのであった。
そして、俺はブリオッシュが戻ってくるのを静かに待つのであった。
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