「それにしても、どうして渉殿は生き返ったでござる?」
風月庵への帰り道、ダルキアンは渉へと問いかける。
ちなみに、風月庵から召喚台近くまではユキカゼの驚異的な馬鹿力によって半ば飛ぶような勢いで来たため、移動手段は徒歩になっていた。
尤も彼女たちにとってはそれは些細な問題であったが。
「知らない」
「バッサリでござるな」
一刀両断に答える渉にダルキアンは苦笑する。
「理由として心当たりがあるとすれば」
そう口にして渉は可能性を口にした。
「あの妖刀だろう」
「妖刀でござるか?」
渉は静かに頷いて”おそらく”と前置きをしてから口を開いた。
「ユキカゼの中に取り込まれた妖刀を浄化した際に、それが俺の中に入り込み核にまで張り付くほど強く結びついた。
その結果妖刀自身が身代わりとなったのだと俺は思う」
「ふむ。真実は闇の中、でござるか」
そこで会話はぱたりと止んだ。
「ところで……」
そんな中、渉は困ったような表情を浮かべ声を上げる。
「ユキカゼはいつまで、そうやっているつもりなんだ?」
「ずっとでござる」
即答で答えるユキカゼに、渉は心の中でため息をつく。
ユキカゼの体制は、まるで渉におんぶされているようなものだ。
(ちょっと歩きずらい)
渉とて、数分前までは完全に活動が止まっていたのだ。
その際のダメージがかなり残っている時点でのこのおんぶは、負担が大きかった。
「嘘をついた罰でござる」
「はいはい。罰を受けますよお姫様」
だが、渉はそれでもいいと思っていた。
これからは、それが自分の日常になるのだから。
「これからは大変でござるよ」
「あ、そう言えばそうだよな」
渉は一度死んだことになっている。
つまり、色々な人物に会って話をしていかなければならないということだ。
「………明日、一日掛かりで説明するよ。ユキカゼも付き合ってくれる?」
渉の問いかけに答えるユキカゼの答えは当然
「勿論でござる!」
だった。
「仲がいいことは、良きかなよきかな」
そんな二人を、微笑ましげに見つめながら言うダルキアンであった。
その彼女の心境は、本人にしかわからない。
翌日、朝一で説明をするべくフィリアンノ城に向かった渉とユキカゼだったが、予想していた通り大騒動となった。
最初に出会ったのは親衛隊長でもあるエクレールだった。
「ユキカゼ、私は熱でもあるのだろうか? 幻覚が見えるのだが」
「誰が幻覚だ!!」
エクレールは必死に頭を振っては、もう一度確認して渉(本人は幻覚だと思っている)が見える度にさらに頭を振るという事を繰り返していた。
「お、落ち着くでござるよエクレ。渉は生きているでござる」
「ほ、本当か?」
そんな明らかに挙動不審なエクレはユキカゼの指摘に確認するように尋ねる。
それにユキカゼは頷いて答えるとその手を取って渉の腕へと持って行く。
「ほら、ちゃんと触れるでござるよ」
「…………何だか渉を取られたような気がしてきたでござる」
そうやって腕を触らせているとユキカゼがポツリとつぶやく。
それを聞いたエクレは
「あ、こら待て!!」
ユキカゼの手を振りほどいて逃げるように去って行った。
結局渉は幻覚扱いされたことに対しての謝罪はされなかった。
「はぁ、疲れた」
「もう夕暮れでござるな」
全ての説明を終えた渉とユキカゼは風月庵へと戻ることにした。
どうして遅くなったのか。
その理由は、ビスコッティの姫でもあるミルヒに説明をしようとしたところ、渉を見た瞬間気を失ったからだ。
そして、彼女が意識を取り戻した際に説明しようとしたが、何故か渉を見てまた気絶。
それを繰り返した結果、遅くなってしまったのだ。
結局、渉は外で待機して、ユキカゼが説明するということになった。
そして同じ形でリコッタにも説明をすることになった。
ユキカゼの話が終えたところを見計らって渉も姿を現したが、ユキカゼが最初に説明したことで、ショックで倒れるということはなかった。
「渉さんが生きていて、良かったであります」
涙を流しながらそう言うリコッタに、渉とユキカゼは困惑しながらも落ち着かせる。
「それで、これなんだけど」
「天照でありますか?」
渉が取り出したのは、天照であった。
「これを破壊したいと思うんだ。誰にも使えないように」
それは渉が決めていたことでもあった。
自分の手で天照を破壊して使用することができないようにさせる。
それが渉が思いつく最良の方法だった。
「私は良いであります。学者としては勿体無い気もするでありますが、天照は危険な物でもありますし、それを使えなく
することも大事であります」
そのリコッタの答えを聞いた渉は、リコッタにお礼を言いその場で天照を破壊した。
そしてその破壊した天照の破片をリコッタと渉の二人が持つことになった。
それぞれどこかの土地に埋める予定らしい。
というのも、天照には守護の力があるらしく、破壊してもその力だけは健在で一つにして埋めずにバラバラに埋めればその土地の加護の力が増すからだが。
そんなこんなで一通りのやるべきことを終えた時には、もう夕暮れ間近ということになったのだ。
「渉殿」
「何だ?」
沈黙を破り声をかけるユキカゼに、渉は歩きながら答える。
「拙者、まだ渉殿の返事を聞いていないでござる」
「いや、言ったじゃないか」
「あれは無しでござるよ!」
精神世界ではあるものの、しっかりと言った渉に、ユキカゼは語尾を強めて反論する。
確かに、精神世界だからノーカンになるのも当然か、と渉は心の中で納得することにした。
「ユキカゼ、俺は一人の女性としてお前のことが好きだ」
だからこそ、渉は精神世界と同じ文言で再びユキカゼに告白をした。
「拙者もでござるよ。渉殿♪」
そう言って抱き着くユキカゼに、渉は穏やかな表情を浮かべると、そのまま風月庵へと足を向ける。
彼女たちの物語は、まだ始まったばかりだ。
完
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