真人たちが出撃していき、残された俺達の間には、微妙な空気が流れている。
「あの、井上一等空尉………命令違反が絶対ダメだし、さっきのティアの物言いとか、それを止められなかったあたしは確かにダメだったと思います。だけど、自分なりに強くなろうとするのとか、きつい状況でもなんとかしようって頑張るのって、そんなにいけないことなんでしょうかっ!!」
スバルの肩が小さく震えていた。
「自分なりの努力とか、そういうこともやっちゃいけないんでしょうかっ!!」
「………」
スバルのいう事はご尤もだ。
だが、俺に言わせてみれば、子供が屁理屈を言っているようなものだ。
「自主練習は良いことだし、強くなる為の努力もすごく良いことだよ……」
「シャーリーさん!?」
突然の声に振り返ると、そこにはシャーリーがたっていた。
「持ち場はどうした?」
「メインオペレートは、リイン曹長がいてくれますから」
シグナムの問いかけに、シャーリーが答えた。
「何かもうみんな不器用で………見てられなくて。みんな、ちょっとロビーに集まって。私が説明するから。なのはさんの事と、なのはさんの教導の意味」
シャーリーさんの言葉に、俺達はロビーの方へ移動した。
場所は変わってロビー。
俺達はソファーに腰かけていた。
そこで話されたのは、なのはの過去。
フォワードメンバーは驚きを隠せない様子で聴いていた。
そして、話は真人の事に移った。
「真人君はね、なのはさんが撃墜されそうになった時に、自分の身を挺して守ったの」
『ッ!?』
目の前に映し出された映像に、FWメンバーが息をのんだ。
映像に映し出されたのは、真人が発見された時の映像だ。
うつぶせに倒れている真人の周りは、血の海だった。
「一命はといとめたけど、意識不明のまま2年間も生死の境をさまよっていたの」
「そして、意識が戻った真人には重い後遺症が残った」
辛そうに語るシャーリーの代わりに、俺が説明をした。
「それが、下半身不随と失明だった」
『なッ!?』
俺の言葉に、全員が驚きをあらわにした。
シグナム達も知らなかったようだ。
「で、でも山本二等空佐は魔法弾を放ったりしてます」
信じられないとばかりにスバルが言ってきた。
「そりゃそうさ。あいつはある方法で目の視力を強引に取り戻してるんだからな。まあ、勿論体に負担をかける奴だから、こんな事を続けていたらどうなるかは……言わなくても分かるよな?」
俺はスバルの問いかけに、答えつつそう言い聞かせた。
「あいつはそんな無茶を続けていた。ティアナ、お前には分かるか?」
「え?」
「目が覚めたら下半身が動かなくなり、目も見えなくなったあいつの気持ちが分かるのか?」
「そ、それ……は」
俺の言葉に、ティアナが言いよどんだ。
「あいつの苦しみや悲しみを、理解してお前はあいつに喚き散らしていたのか?」
「………」
俺の言葉に、ティアナが下を向く。
「いつもにやにやしてる? 凡人の気持ちが分からない? 当り前だ、人の気持ちを100理解できる奴なんて、この世界にはいない。それににやにやしているのは、そうしていなければ現実に押しつぶされるからだ」
それは、俺がようやく分かった事だった。
あいつはいつも笑っていた。
お見舞いに行った時もだ。
そうしなければ、あいつは自分を保てなかったのだろう。
あくまで、俺の憶測だが。
「まあ、後は自分たちで考えるんだな」
俺はそう告げると、ロビーを後にした。
そして俺は、昔の事を思い出した。
6年前、病院から真人の意識が戻ったのとの連絡を受け駆けつけた俺とアリスは、真人の後遺症について知らされていた。
「そんな、なんとかならないんですか!」
「申し訳ありません。リハビリはしますが、あまり期待はできません」
アリスの言葉に、医者はそう告げると、俺達に一礼して去って行った。
正直俺は信じられなかった。
これは夢で、目が覚めればまた真人と馬鹿騒ぎが出来るのではないかとも考えていた。
だが、現実は非常に残酷だった。
「誰?」
「………真人、見舞いに来たぞ」
俺が病室に入ると、音でそれを感じたのか周りを見渡す。
それは目が見えていないと言う証拠だった。
「どうだ? 調子は?」
「ああ、もう最高だよ。医者も完治まであと少しだって言ってたし」
俺は、真人の言葉が嘘だとすぐに分かった。
笑顔なはずなのに、その笑顔はどことなく悲しげだったからだ。
「まあ、女性を守ったんだから名誉ある傷だよ」
そう言って真人は笑っていた。
俺には、それがとても痛々しく思えた。
だからこそ、俺は逃げるように病室を飛び出した。
それからしばらくして、俺はアリスに呼び出された。
「どうしたんだ?」
「これ見て!」
そう言って差し出されたのは、何の変哲もない黒いステッキだった。
「これがなんだ?」
「これで、手にして魔力を通すことによって歩けるようになるの!」
俺の問いかけに、アリスが嬉しそうに答えた。
どういう原理でそれが可能なのかは俺にもよく分からなかった。
だが、俺はこの時ほど他人の事で、うれしく思えたことはなかった。
その後、ステッキを渡しに行った俺達だが、その時の真人の驚きは今でも覚えている。
「はい?」
「だから、これを持てれば歩けるようになるんだよ!」
そのやり取りを、永遠10分間も繰り返していた。
「あの、山本二等空佐たちが戻られました」
「あ……健司さん」
俺の回想を遮ったのはシャーリーの呼びかけだった。
「なんだ?」
「私と一緒に謝ってくれませんか。あの映像データ、なのはさんたちに許可取ってないで見せちゃったので」
(無許可かよ!!)
俺は心の中でそうツッコんだ。
そして考えた。
真人は自分の過去を勝手にばらされるのを嫌う。
もし話したりしたら………考えるだけでもぞっとする。
「断る。シャーリーが一人で謝って」
「あぅ~ わかりました」
俺の答えに、シャーリーは肩を落として俺の前から去って行った。
その時の彼女の姿は、まるで刑が出向されるかのような感じだった。
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