健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』&『DOG DAYS~誤召喚されし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
2話の同時掲載です。
内容は魔法要素が濃いものとなっているので、そういったものが苦手な方はご注意ください。
次話のほうも、絶賛執筆中です。

そして、『DOG DAYS~誤召喚され者~』の最新話を掲載しました。
かなりの時間が経っており、なおかつ非常に短い内容なので、申し訳なく感じています。
次話のほうも全力で執筆しております。
ちなみに、いまだに本作を読んで(楽しみにして)くださっている寛大な方はいるのでしょうか?
若干不安を感じていたりします。

レイアウトの変更ですが、現在1割ほど進んでおります。
カテゴリーの分類数が多い順で変更作業を進めております。


それでは、これにて失礼します。

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第28話 夢か現実か

部室に戻た僕たちは、次のライブに向けての練習を(珍しく)していた。

「ねえ、ちょっといいかな」

そんな練習も一区切りついたころを見計らって、僕は声を掛けた。

「何、浩介?」
「今日はこれで終わりにして帰らない?」

その僕の提案に、全員がぽかーんとした表情を浮かべた。

「な、なに?」
「いや、浩介がそういうことを言うなんて初めてだから」
「そうそう。いつもは絶対に言わないじゃん」
「……言われてみれば、そうだね」

確かに澪と律に言われて知ったのだが、これまで練習しろなどと口うるさく言うことはなかったし、切り上げようということも当然なかった。
その理由は、僕自身にある。
僕の立場上、無理やり練習をさせるのはDKとしての価値観を押し付けているのではないかと思ったからだ。
だからこそ、練習するように促しはするが、無理やりさせるようなことはせずに彼女たちの自主性に任せることにしている。
もっとも切り上げることに関しては律たちが勝手にするのもある。
ただ、最近それでは彼女たちの為にならないのではと思うようになってきたので、何らかの対策は施すかもしれないが。
閑話休題

「何か用事でもあるの?」
「いや、そういうのではないんだけどね」

ムギの疑問に、応えた僕は朝の時に言おうと決めたことを告げることにした。

「今朝の通り魔に関するニュースを見た?」
「ああ、あれか」

僕の問いかけに、いち早く思い出した様子で返したのは澪だった。

「あれって、確か一日に一駅分ずつ移動する連続通り魔って言われてたっけ」
「何だか、こわいわ」
「こっちの方に来ないでほしいんだけどな」

各々が話を始めるが、どうやら僕が知っていることは全員は把握しているようだった。

「犯行の時間帯は警察の捜査の結果、夕方の17時以降とされている。そして前日に隣の駅の町で事件が発生していることから、今日はこの街で事件が起こる可能性が非常に高い」
「どうして、そんなことまで知ってるんだよ?」

僕の説明に、律は驚きと疑問が入り混じった表情で訊いてきた。

「……そこで、今日は早めに帰っておいた方がいいと思うんだ」
「スルーされた!?」

律の問いかけには黙秘と言う手段で躱した。
どう取り繕っても誤魔化すことはできないからだ。
ならば、何も言わない方が得策だ。

「家に着いたら各自が一斉送信で連絡。律と澪は幼馴染だからそれぞれが家に着く時間帯を大幅には把握しているはず。そうでしょ?」
「ま、まあ大体だったらわかるけど」

僕の確認に、律は澪の方を見ながら答えた。

「だからいつも家に着くであろう時間になっても連絡がなければ、それは何らかの危機的状況に見舞われていると判断できる。唯の場合は僕が言えまで送り届ければ問題はないし、ムギは駅まで一緒に行けば問題はないと思うんだけど、どう?」
「でも、今日確実に起こるっていう保証はあるのか?」

律から根本的なことを聞かれた。
確かに、二日間にも及ぶ規則性もただの偶然だということも考えられる。

「それはないけど、でも万が一にもと言うこともある。もし、今日何もなければ皆にケーキを好きなだけ奢る。それで手を打ってくれない―――「さあ、帰る支度をしよう!」―――か……な」
「変わり身はやっ!」

ケーキを奢るという単語に反応して帰り支度を始めた律と唯に、澪がツッコんだ。

「本当にわかりやすいよな、二人とも」

そんな律たちに、僕は苦笑をしつつも帰り支度を始める。
この時、時刻は午後4時30分。
僕の推測が正しければ、かなり危ない時間帯だ。
それから、支度を終えて学校を後にするのに10分の時間を要することとなった。










「それじゃ、みんな気を付けて」
「ムギもな」
「また明日」
「おいしいお菓子をお願いね~」

駅前まで一緒に歩いた僕たちは、三者三様に声を掛けてムギを見送る。

「それじゃ、私たちも帰るか」
「そうだな」
「そうしよう」

ムギを見送った僕たちを促すように率が声を掛けるとそれに澪と唯も頷くといつものように歩き出す。
やがて、信号機の前にたどり着いた。

「浩介達はここを渡るんだったよな」
「そうだね。そっちはこの道をまっすぐだっけ」

僕と唯は途中まで道が同じなので、いつも一緒の道で帰っている。
とはいえ、買い出しなどの用があるときは無理だが。

「それじゃ、二人とも気を付けてな」
「ありがとう、澪ちゃん」
「律たちもね」

お互いに注意を促しあった僕たちは、ちょうど歩行者用の信号が青になったので横断歩道を渡ると律たちに手を振る。
向かい側でも律と澪の二人が手を振りかえしてくれた。
それもほんの少しのことで、すぐにやめると二人は自宅の方へと歩いて行った。

「それじゃ、私たちも行こう。浩君」
「そうだな」

そして唯に促される形で、僕たちも歩き始めた。

「それにしても、唯は本当にケーキとかが好きなんだね」
「うん、大好きだよー。ムギちゃんの用意するお菓子はどれもおいしいんだよね~」

ふと思いついた話題を唯に振ると、満面の笑みで答えが返ってきた。

「確かに、ムギの持ってくるお菓子は美味しいね」

それに僕も相槌を打つ。
確かにムギのお菓子はどれもおいしい。
だが、ムギに迷惑がかかってるのではないかと思う時もあるが、ムギ自体は特に嫌そうな雰囲気は感じないので、まんざらではないのかもしれない。
とはいえ、多少の自重は必要だが。

「浩君は、ムギちゃんが持ってくるお菓子の中でどれが一番好き?」
「また難しいことを。そうだね……」

僕は、唯からの問いかけの答えを考えるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


学校からの帰り道、いつものように浩君とお話をして帰る私たち。
浩君は、自分から話すことはあまりないので、いつも私が話しかけていたんだけど、今日は珍しく浩君の方から話しかけてきた。

「浩君は、ムギちゃんが持ってくるお菓子の中でどれが一番好き?」
「また難しいことを。そうだね……」

私は浩君に訊いてみた。
私の問いかけに、浩君は考え込むように腕を組んでいた
浩君はいつもムギちゃんのお菓子をなんでも食べている。
しかも、とてもおいしそうに食べているので、同じものを食べているはずなのに違うものを食べていると思ってしまう。
もしかしたら私もしているのかもしれないと思っていた時だった。

「唯、危ないっ!」
「え? きゃぁ!?」

いきなり浩君が大きな声で叫んだかと思うと、私は誰かに突き飛ばされた。

「っぐ」
「っち」

そして聞こえてきたのは浩君のうめき声と知らない人の舌打ちだった。
背を向けているので、浩君の表情は私からは分からない。

「浩君?」
「………」

私の呼びかけに浩君は何も反応を示さない。

『犯行の時間帯は警察の捜査の結果、夕方の17時以降とされている。そして前日に隣の駅の町で事件が発生していることから、今日はこの街で事件が起こる可能性が非常に高い』

ふと、少し前に浩君が言っていた言葉が頭をよぎった。

(も、もしかして……)

「今度は、外さねえ」
「ひっ!?」

先ほどまで浩君の前に立っていた人は、不気味な笑みを浮かべながら私の方に近づいてくる。
その手には刃物が握られていた。

(に、にげなくちゃ)

そうは思っても体がまるで石になったように動かない。
そんな時だった。

「おい、待て」
「あん?」

ぼそりとつぶやかれた浩君の声が、知らない人を呼び止めた。

「そいつにまで手を出させはしない」
「な、なぜだ……」

浩君の言葉に、知らない男の人は震える声を上げた。

「急所を刺したはずなのに、どうしてまだ動けるっ!」
「え?」

一瞬何のことか理解はできなかったけれど、次第に分かってしまった。

「このようなもので、僕を貫けるとは思わないことだ。下手人が」
「ヒィッ!?」

男の人の背中で見えないけれど、浩君は無事のようだ。
でも、今聞こえてきた何かが折れるような音はいったいなんだろう?

「魔力回路全開。生命維持を優先」

続いて聞こえてきた浩君の声と共に、言いようのない感覚に私は襲われた。
それは言うなれば、まるでこたつの中に足を入れた時に感じる熱のようなものだった。

「私にけがを負わせるとは、倍……いや、千倍返しをしないとな」
「く、来るなっ!!」

男の人が逃げるように移動したことで、浩君の姿がしっかりと見えるようになった。

(な、何?)

浩君の手にはゲームに出てくる剣のようなものがあった。
そして、それを手に浩君は男の人と距離を詰めていく。

「ば、化け物っ!!」
「逃がすかっ! 高の月――――」

逃げ出した男の人に、浩君は大きな声で叫ぶと一瞬で底から姿を消した。
そして

「ぎゃーーーーっ!!!?」

私の後方で断末魔の叫びが聞こえた。
振り返ってみると、そこには地面に倒れている男の人と、それを無表情で見下ろしている浩君の姿があった。

「さてと」
「っ!」

私の方を見た浩君のまなざしに、思わず息をのんでしまった。
いつも浩君とは向かい合っている時は何も感じないはずなのに、この時の浩君はとても怖かった。
そこで、私の意識は途切れた。










「う……ん」
「ん、唯?」

次に意識が戻った時に、私が最初に見たのは心配そうに私のことを見てくれている浩君の姿だった。

「ここは……?」
「ここは病院だ」

寝ぼけ眼で問いかける私に、浩君は簡潔に答えた。

「びょういん?」
「覚えていないのか? 帰る途中に例の通り魔に襲われたんだ」

何のことかわからない私に浩君は目を少しだけ細めながら何が起こったのか教えてくれた。
そのおかげで、私はあの時に何が起こっていたのかを思い出した。

「こ、浩君。怪我は大丈夫?」
「ああ、これね。まったく問題ないよ」

そういって浩君が掲げた手には包帯が巻かれていた。
でも、私の聞きたいことは少しだけ違っていた。

「ううん。そうじゃなくて胸の方のけがは?」
「は? 胸の方になんて怪我はしてないぞ?」

浩君の返事に、私は一瞬固まってしまった。

「でも、あの時確かに……」

男の人が”胸を刺した”と言っていたのを私ははっきりと覚えている。

「夢でも見てたんじゃないのか? 唯は僕が弾き飛ばした時に気を失っていたんだし」
「そう、なの?」

浩君の言葉に首をかしげていると、浩君は”そうだ”と言った。

「何だか、浩君が”魔力”なんとかって言っていたような気がしたんだけど」
「魔力って。それこそ夢だよ。この世の中に”魔法”なんて存在するはずないじゃないか」

(そうだよね。夢に違いないよね)

笑いながらツッコむ浩君に、私も納得した。

「まあ、唯には特に怪我もなかったようだし、問題はないって医者の人が言っていたよ」
「そうなんだ」

私が気を失っているときに検査が終わっていたようで、結果にほっと胸をなでおろす。

「警察の人が唯を家まで送り届けてくれるらしいから、先に帰っててくれる?」
「え? 浩君は帰らないの?」

浩君とは帰り道が途中まで同じなので、一緒に来るのだとばかり思っていた。

「通り魔事件の犯人を捕まえた件で、事情聴取を受けないといけないんだよ。その背時にこのけがをしたんだけどね」
「すごいね、浩君。犯人を捕まえるなんて」

苦笑しながら包帯が巻かれた手を軽く振っている浩君に、私はそう言った。

「趣味で習っていた護身術が役に立って良かったよ」
「ありがとう、浩君」

私のお礼の言葉に、浩君は優しい笑みを浮かべながら”どういたしまして”と返してくれた。

「それじゃ、行きましょうか。ご家族の方が心配してますよ」
「あ、はい! よろしくお願いします」

横に立っていた優しそうな女の人に促される形で、私は今まで腰かけていたベンチから立ち上げる。

「それじゃ、またね。浩君」
「ああ、またな」

浩君とあいさつをして私はおまわりさんと一緒に、病院を後にした。
この日、帰ったら『お姉ちゃん、大丈夫!?』と、憂に言われたので、私は大丈夫と答えたら憂は安心した様子で息を吐き出していた。

(ごめんね、憂。ありがとう、浩君)

私は心の中で心配をかけてしまった妹に謝って、私を守ってくれた浩君にお礼を言うのであった。
その次の日の朝、テレビで『高校生によって連続通り魔事件の犯人逮捕』というニュースが報道されたけど、浩君の名前が出てくることはなかった。

(どうしてかな?)

疑問には思ったけれど、それほど気にしなくてもいいかなと思った私は、その疑問を忘れることにするのであった。

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第29話 プレゼント!

あの、連続通り魔事件から数日ほどが経った。
犯人を確保したことで、律や澪たちからは”すごい”と言われてしまった。
別に嬉しくないわけじゃないが、僕にとってはそれが当然の行動でもあるのでむず痒くなってしまった。
そんなある日、僕は警察の方から呼び出しがあったので、警察署を訪れていた。
なんでも、事情聴取の最終確認をしたいそうだ。
応接室のような場所に案内された僕は、呼び出した人物が現れるのを待つことにした。

「いやー、わざわざ来てもらって申し訳ない」
「いえ。お気になさらずに」

申し訳なさそうにフランクに謝ってくる男性警察官二名に、僕は丁寧に返した。
後から入った警察の人がドアを閉める。
そこで雰囲気は一変した。

「で、あの下手人は?」
「はい。犯人には魔法関連のことを高月大臣のご指示通り、”幻”と思い込ませました」

僕の問いかけに、男性警察官のうち一人が丁寧に返した。

「それで、動機の方はどうだ?」
「何でも、『付き合っていた女性に振られた腹いせに、やった。だれでもよかった』と言うので間違いはないかと」

僕の疑問に、もう一人の男性警察官が応じる。
もう分かっているとは思うが、この二人は僕の”仲間”だ。
どうして、ここにいるのかはまた別の機会に語るとしよう。

「魔法関係のことでの漏えい等は特にありませんので大丈夫です」
「そう。悪いね、変な役回りをさせてしまって」
「いえ。気にしないでください。それが我々の役目ですから」

即答にも近い形で返事をしてくれる二人の警官に、僕は心の中で感謝の言葉をかけることにした。

「ところで、体のけがはどうですか?」
「心配には及ばないよ。あんなもの、けがの範疇にも入らないから」

心配そうな面持ちで訪ねてくる男性警察官に、僕は肩を竦めながら答える。
唯を突き飛ばすところまではうまく行ったが、その拍子で胸のあたりに一撃を喰らう羽目になってしまった。
もちろん、これは自分の未熟さが招いたことなので、唯を責めることなどありえないが。
あの後、すぐに体の治癒に力を回したことともともと再生能力が高いこともあって、翌朝には傷痕すらも残っていなかった。
なので、”怪我の範疇にも入らない”という表現にしたのだ。
そのあと軽く話(とは言っても世間話だが)をした僕は、警察署を後にするのであった。










その次の日の休日のこと。

「プレゼント何にしよう」

僕は自室でクリスマス会のプレゼントについて悩んでいた。

「やっぱり女子が喜びそうなものがいいよね」

僕以外が女子のため、やはり女子が好きそうなものが一番いいだろう。
とはいえ、一番の問題は

「女子には何をプレゼントすれば喜ばれるんだろうか?」

女子の好みが何なのか、だが。

「……………………」

考える

「…………………………」

とにかく考える

「………………だぁぁっ!!!」

どのくらい考えていたのかはわからないが、諦めた。

「僕に女子の好みのものがわかるか!」

そんな言い訳じみたことを、誰に対して言っているのかは自分でもわからない。

「女子限定で考えるから駄目なんだ。誰がもらっても喜ぶようなものにしよう」

路線を変更して、僕は万人受けするものをプレゼントすることにした。
だが、実際に考えてみると

「万人受けする物って何?」

そんな疑問にたどり着いてしまう。
そしてまた考え込んでしまうわけで。
考えた結論が

「ムリッ」

挫折だった。

「こと、戦いの仕方とかだったら分かるのに」

人づきあいをしてこなかった代償がこんなところに現れるとは。

「…………もういいや、自分の得意分野で行こう」

最終的に、僕の得意分野の代物をプレゼントすることにした。

(そういえば、澪が興味深いことを話していたな……パーティーなんだしいいか)

「とすると、買い出しに行かないといけないな」

プレゼント用の道具で足りない物を買うために、僕は自宅を後にするのであった。










「ありがとうございました」
「よし、これで必要なものは揃ったかな」

数点ほど購入した僕は、頷きながら雑貨屋のお店の袋を見る。

「にしても、この抽選券はどうすればいいんだろう?」

先ほどの雑貨店でもらった一枚の福引券を手の上で弄びながら呟く。
さすがにこの抽選券の意味ぐらいは知っている。

「あれ? あそこにいるのって唯たちじゃないか?」

そんな時、少し先の方で話している唯たちの姿を見かけた。

「道の真ん中で何をやってるんだ?」
「あ、浩君」
「浩介もプレゼントを買ったんだ」

僕が声を掛けるとこっちの方に振り向きながら話しかけてきた。

「まあね」
「浩介も抽選をするのか?」

律の言葉に、そう頷きかえした僕の手にある抽選券を見つけたようで、澪は僕の手元に視線を向けるとそう聞いてきた。

「そうなんだけど、どこでやればいいのかがわからなくてね」
「どこも何も、ここだよ」
「え?」

律に言われて周りを見回すと、抽選定番の抽選器が台の上に置かれた場所があった。

(唯たちしか見えてなかった)

この間の通り魔と言い、最近弛んできてるような気がしてきた。

(やっぱり一度故郷に戻った方がいいかな)

弛んだ気を引き締めるのに故郷は最適だった。

「一回分か。いいのが当たればいいな」

僕の手にある抽選券を見た澪がそう言ってくれた。

「とか言って末等が当たりそうだけど」
「こら、律! 縁起でもないことを言うな」

本当に起こりそうなことをつぶやいた律に澪が激を飛ばす。

「別にいいよ。その通りだから」

そんな澪に、僕はフォローを入れつつ担当の女性に抽選券を手渡すと、抽選器を回し始めた。

「自慢ではないが、僕ほど悪運が強い人はそうそういないと思うよ。どうせ当たったとしても末等がオチだよ」

出るボールの色など既に分かっているので、僕は期待もせずに回していく。
やがて、ボールが落ちた音が聞こえた。
末等のボールの色は白なので、当然ボールの色も白だ。
そう思っていた僕に、ベルの音が送られた。

(末等でもベルを鳴らすのか)

「おめでとうございます。特賞のお米半年分です!」

サービス精神旺盛だなと思っていた僕に、女性の声が掛けられた。

「え?」

その言葉に、僕が口にできたのはたったそれだけだった。
恐る恐る女性の背後にある景品の方を見てみると、確かに『特賞・お米半年分』と記されていた。
特賞のボールの色は金。
一等がねずみ色でハワイ旅行となっていた。

「すごい、特賞だって」
「ムギよりも強運を持ってるな」

後ろで事の成り行きを見守っていた澪たちが口々に感想を漏らす。
そして僕に差し出されたのは米俵三つだった。
一つの米俵で約60キロ分なので、三つで180キロと言ったところだろう。

(これ、当分お米を買いに行く必要がなくなるな)

僕の家は、基本的におコメの消費量はそれほど多くはない。
せいぜい月に5~10キロ程度。
つまりどんなに多く消費しても18か月分ということになる。

(まあ、得したと思えばいいか)

僕は自分にそう言い聞かせることにした。
とはいえ、一つだけ問題が残っている。
それは

「浩介、それ本当に持っていく気か?」

米俵三つをどうやって家まで運ぶかだった。
僕は担いでいくことを選んだ。

「当たり前。台車を借りたら、返しに行く必要があるから二度手間でしょ」

澪の心配そうな言葉に、僕はそう返しながら米俵を抱え上げた。

「うお!?」
「すごい、力持ち」

180キロの重さのものを軽々と抱え上げる僕に、澪たちが驚きに満ちた声を上げる。
180キロの重さなど、僕には小さな子供を抱え上げる程度二しか感じないので、それほどきつくはない。
尤も、”自動車を持ち上げてみろ”と言われれば話は別だが。

「それじゃ、僕はこれで」
「あ、浩君。せっかくだから一緒に帰ろう!」

後ろの方から掛けられた声に、僕は立ち止まらず歩く速度を落として唯が合流するのを待つことにした。

「それにしても、本当にすごい力持ちね」
「いや、このくらいだったら僕には余裕だけど、いかんせんバランスが」

真鍋さんの驚きが混じった声に相槌を打っている僕だが、バランスを取るのが一番きつい。
どんなに力持ちでも、バランスを崩してしまうと全てが台無しになるのは当たり前のことだろう。
しかも米俵の上には、先ほど購入したプレゼントが置いてあるのだからさらに神経を使う。

「運動系の部活の人が見たら確実に欲しがるでしょうね」
「まあ、やる気はないけれど。今のところ、軽音部以外の部活のことは考えていませんし」

真鍋さんのお世辞に、僕は苦笑しながら答えた。
運動系の部活に入っても僕にはあまり意味がないと判断したから文化系の部活を探していたのだから、今更運動系の部活に入ろうとなどと考えるのは馬鹿馬鹿しい。
とはいえ、スポーツ自体が嫌いだというわけではないが。

「”今のところは”ということは、そういうこともあり得るのね」
「だ、ダメだよ! 浩君が退部したら大変なことになっちゃう!」

いたずらっ子のような笑みを浮かべながら言う真鍋さんに、唯は慌てた様子で引きとめようとする。

「お願いですから、重箱の隅をつつくようなことしないでもらえませんか? 真鍋さん。説明が地味に面倒なので」
「ごめんごめん」

絶対に本気で謝っていないといった感じで謝る真鍋さんに、僕はため息をつきながら唯にどう説明すればいいか考えをめぐらせるのであった。










「さて、これで必要な材料もそろったことだし、始めるか」

自宅に戻った僕は、米俵を台所の方に置くと自室に先ほど購入したプレゼントの材料をテーブルの上に置いた。
お店の袋から取り出したのは、緑色の箱とラッピング用の包み紙にリボンに、クラッカーが数個と小さめの巾着袋の計五種類だ。
まずは、巾着から始めるか。
そうつぶやいた僕は、クローゼットの奥に隠されるようにしておいてあるアタッシュケースを取り出した。
それを開けると、中には様々な工作道具が入っている。
その中にある石を一つ取り出すと、それをトンカチで粉々に砕いていく。
粉々に砕いた石に手をかざす。

「…………」

目を閉じて掌に意識と力を集中しつつも頭の中で術式を組んでいく。

「リブーレア」

大よそ組み終えたところで、終結を示す呪文を紡ぐ。
手をかざしていた石には何も変化はないように見える。
だが、暗いところで見るとかすかにではあるが光を発しているはずだ。
この石の正体は故郷で最もよく取れる”魔石”というもの。
この魔石は素材として組み込めば非常に優れた効果を発揮するものだ。
しかも、どのような道具にも素材として使うことができるという優れものなのだ。
そのためこの魔石一つでも数百万という高額な値段がかかるので、あまり使われていない。
使ったとしても、ほんのひとかけらくらいだろう。
これを贅沢にもすべて使用したのだ。
使い方も簡単で、砕いて魔力を注入するだけで、呪文を紡ぐ必要もない。
呪文を紡いだのは、この石自体を魔導媒体兼素材として利用するためのものだ。
それはともかくとして。
完成した魔石を巾着の中に入れると、巾着の口を締めて開けることができないように処置を施した。
そうして完成した巾着袋は一緒に購入した緑色の箱の中に入れる。
残すはクラッカー。
これは単純だ。
僕はクラッカーを一つ取り出すと、ひもを引っ張る。
すると破裂音が響き渡った。
僕は続いてもう一つのクラッカーを取り出すと同じようにひもを引っ張る。
それを何度も繰り返していく。
やがて、家に元々あった画用紙の端の方に指が入る大きさの隙間ができるように半円形に切り込みを入れてそれを巾着袋を隠すように箱の中に入れた。

「ラ・ベルティア・リ・ブレインド」

そしてその画用紙の方に手をかざした僕は、呪文を紡ぐと箱のふたを閉めてさらにラッピング用の包み紙で箱を包んでいく。

「レエーラ・モジスト」

さらにこれまたラッピング用の青と黄色のリボンにも、魔法をかけてから箱に結んでいく。
これで、一見すると普通のプレゼントが完成した。
だが、中身は色々と工夫が凝らされている代物となっているので、パーティの場では非常に最適なものだろう。

「これであとはクリスマス会当日を待つのみか」

僕はそうつぶやきながら壁に掛けられているカレンダーを眺める。
クリスマス会の開催まであと一週間を切っていた。

「さて、変に壊れないようにするためにクローゼットにしまっておこうかな」

そうつぶやいた僕は、完成したプレゼントをクローゼットにしまうのであった。
そして、それから数日後。
ついにクリスマス会の開催日を迎えるのであった。

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IF-D 第6話 溝

「渉殿」
「何?」

自室へ戻る際中、俺を呼び止めたのはブリオッシュだった。

「ちょっと聞きたいことがあるでござる」

そう言ってブリオッシュは周囲を見回した。
どうやら人には聞かれたくない話のようだ。

「気になっていたのでござるが、ユキカゼと何かあったでござるか?」
「ッ! どうして、そう思う」

ブリオッシュの問いかけに思わず反応しそうになるのを無理やり止めて、俺は平静を装い聞き返した。

「先ほどのユキカゼと渉殿の接し方が少しいつもと違っていたでござるから気になったでござる」
「………」

確かにそうだった。
俺は彼女を袖にし、向こうはされた方だ。
いつも通りに接していること自体がおかしい。
しかも昨日の今日だ。
俺もそうだが向こうも割り切れていないのだろう。

「良ければ拙者に話してほしいでござる。そうすれば何か役に立てるかもしれないでござるし」

確かに、ブリオッシュの言うとおりだ。
一人で悩んでいても仕方がない。
こういう時は第三者の手を借りるしかない。
でも

(その張本人に言うのはな……)

徐々にはっきりとしだした俺の”応え”は、おのずと彼女を関係者にさせている。
だとすれば、当の本人に打ち明けていいような物ではない。

「ダメでござるよ。何でも一人で抱え込むのは渉殿の悪い癖でござる」
「………だよ」

ブリオッシュのその一言は、俺の中にあった何かを切り裂いた。

「な、なんでござるか? あまりよく聞こえなかった―――」
「俺の何を知ってるんだって言ってんだよ!」

思わず口を次いで出てしまった言葉。

「何も知らない癖に、勝手なことを言うなっ!!!」

止めようとしたが、一度口にしてしまった感情は止まることがなかった。

「渉……殿」

俺のそんな罵声に、ブリオッシュは起こるわけでもなく憐れむわけでもなく、悲しげな表情で俺を見ていた。

「っ!!」

ブリオッシュの目元からこぼれる物を目にした俺は、いてもたってもいられずにその場から逃げるように走り去った。





(何をやってるんだよ、俺は)

どのくらい走ったのか、俺は近くにある木の幹に寄りかかった。
こみ上げてくるのは後悔の念ばかりだった。

(今回の件は俺が原因だ。誰のせいでもないのだ。ブリオッシュを責める資格は俺にはまったくなかった)

今すぐに謝りに行くべきだということは、俺にもわかっている。
でも、

「今更、どんな顔して会えばいいんだ」

あれだけひどいことを言ってどうやって合えばいいのかが、俺にはわからなかった。

「くそッ!」

自分への不甲斐なさにいら立つ俺は地面に足を強くたたきつけた。

(本当に、俺って最低)

ため息をつきながら、俺はゆっくりとその場を後にする。
せめて、次にブリオッシュと会ったときは平静を装えるようにするべく俺は散歩をすることにした。
こうして、謝ることもできぬまま、開戦の日を迎えるのであった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
魔法要素が非常に強く出ていたりするので、それが受け付けられない方はスルーでお願いします。
明日にも最新話の掲載がありますので、お付き合いいただければ幸いです。


それでは、これにて失礼します。

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