健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第48話 きっかけ

僕が巻き起こした騒動から数週間ほど経った。
騒動直後は、色々とドタバタしたが現在では何とか落ち着きを見せた。
特に僕の立ち位置ではかなり問題になった。
とはいえ、結局のところ今まで通りにということで話はまとまった。
まあ、これで良かったのは隠し事をしているという自責の念からの解放ぐらいだろう。
良くないこととして、尊敬のまなざしで見続けられるようになったことと、言っとき再び澪の人見知りが悪化したことぐらいだろう。
今では澪の方は元に戻ったが、

「浩介先輩! おはようございます!!」
「っ!?」

突然後ろからかけられた凄まじく大きな挨拶の声に、僕は思わず転びかけた。

「おはよう梓。今日も元気だね」
「はい!」

嫌味で言ったつもりが、梓には効果が全くなかったので、僕はストレートに言うことにした。

「それはいいんだけどね、いきなり背後から大声で名前を呼ぶのはやめてくれないかな? 恥ずかしいし心臓に悪いから」
「あ、す、すみません!」

僕の注意に、梓は申し訳なさそうに頭を下げた。

(ちなみに、このやり取りをするのはこれでもう数回目なんだけど)

梓の姿を見ていたら、その言葉を口にするのは躊躇われたので、心の中に留めておくことにした。

「お、今日もやってるなお二人さん」
「おはよう。律に澪」

そんなやり取りを終えたところでかけられた声に、僕は振り向きながら挨拶を交わす。

「おはよう浩介」
「お、おはよう、浩介」

時よりどもることはあるが、これでもかなり少なくなった方だ。

「おはよう、浩君!」
「おはよう。唯が寝坊をしないなんて珍しい……今日は槍でも降ってきそうだな」

いつもは寝坊もしくは遅刻ギリギリに起きる唯が、余裕で間に合う時間帯に起きていることに僕は心の底から驚きをあらわにした。

「むー、私はいつも寝坊するわけじゃないよ」
「そうだな。まあ、夏休みだしな」

今は学生にはとてもうれしい夏休みだ。
学校がある日は寝坊するくせに、ない日になると早起きするタイプの人は少なからずいるものだ。

「そうなんです! ……まあ、時計を見間違えただけだけど」

(だと思った)

唯の場合はかなり特殊なタイプだけど。
そして僕たちは部活の練習をするべく学校へと向かうのであった。










「今日は何の曲を練習するの?」
「今日は新歓ライブでお披露目できなかったこの曲を集中して練習するつもり」

ムギの問いかけに僕は、カバンに入れておいた楽譜一式を取り出すとそれぞれに配っていく。

「えっと『Happy?! Sorry!! 』?」

それは、新歓ライブで本来演奏をするはずだった曲だ。

「全てのパート難易度はやや高いけど、リズムギターの難易度は高めという感じになってる」
「あ、本当です。ギターのソロが」

Tabを読んでいた梓はギターソロの方の譜面を見つけてつぶやいた。

「そこを決めればかなりかっこよくなるけど、失敗すれば目も当てられなくなる」
「まさに、紙一重っていうやつだね!」
「いや、それを言うなら綱渡りだぞ」

唯に指摘をする律だが、どちらも微妙にずれていた。

「私にできるでしょうか?」
「”できるか”じゃなく、”できるように”するんだ。最初にできなくて当然。これをできるようにしていけるかがカギだ」

不安そうに声を漏らす梓に、僕は背中を押すように答えた。

「そうですね。やってみます!」
「いよぉし、それじゃ通しで行くよー!」

話がまとまったところで、部長の律が号令をかける。
そしてリズムコールの後に、演奏が始まるのであった。





「ふはぁ……燃え尽きた~」
「満足じゃ~」

しばらく練習をしたところで、律と唯が長椅子にもたれかかる。

(この時期にドラムはきついからな)

もはや夏真っ盛りのこの季節。
楽器を演奏する軽音部は、運動部並(もしくはそれ以下)の体力を消費する。
体を全体を動かし続けて演奏する必要があるドラムにとってはまさに灼熱地獄だろう。
この部室にはエアコンなどは存在しないため、空調は窓を開けて風通しを良くしておくことくらいしかない。

「アイスティーが入ったわよー」

そんなムギの一言で、ティータイムとなった。

「そう言えば澪とアズサってどんな手紙を浩介によこしていたんだ?」
「「ぶッ!?」」

律の問いかけに、澪と梓が吹き出しそうになった。

「何? 藪から棒に」
「だってなんて書いているのか気になるじゃん!」
「私も―」

僕の反応に、律が答えた。
それに唯も乗る。

「や、辞めてくれー!」
「私も絶対に嫌です!」

相当恥ずかしいのか、それとも聞かれることに抵抗があるのか、二人はすごい勢いで阻止してきた。

「ファンレターの内容は当人の許諾がない限り決して口外はしない。それが僕の流儀。早い話が諦めろ」
「ちぇー」
「浩君のケチ」

僕がはっきりと断ると、二人は頬を膨らませながら毒づく。

「とはいえ、どうしてペンネームを本名にし続けたのかを聞きたいと思ってたから、応えてくれる?」
「「え?」」

僕の突然の問いかけに、二人はほとんど同時に固まった。

「ペンネームって何?」
「えっと……偽名みたいなものかしら」

唯の疑問はムギに任せることにした。

「わ、私は途中から変えたらおかしくなりそうだったので」
「私は何だか負けたような気がしたから」
「………」

梓の理由には納得がいったが、澪の理由には納得ができなかった。
一体何に負けるとでもいうのだろうか?

「誰と勝負してんだ?」

律の意見に僕は心の中で頷いた。
そんなこんなで、いつもの軽音部の時間は流れていく。
ある時は先日のテレビの話。
そしてまたあるときはお菓子談義等々。
話声が尽きることはなかった。

(よくここまで話のネタがあるよな)

そんな彼女たちを見ながら、僕は心の中でつぶやいた。

「ん? 誰の携帯だ?」

そんな話に水を差したのは無機質な携帯の着信音だった。

「私のじゃないよ」
「私のもです」
「私のも」
「私も違うぞ」

鳴り響く携帯の着信音に、それぞれが確認をするが違っていたようだ。

「私でもないということは……」

一気に視線がこちらに集まる。
そんな中、僕は携帯電話を取り出す。

「僕だったみたい」

僕はそう声を上げると携帯を開いて相手の名前を確認した。

『本部』

そこに表示された文字に、僕は反射的に席を立っていた。

「どうしたんだよ? いきなり立ち上がったりなんかして?」
「浩介先輩?」

そんな僕の様子を訝しむようにみている律たち。

「ごめん、ちょっとだけ失礼するね」

僕は笑顔を取り繕いながら部室を後にする。
いまだに携帯はなりっぱなしだ。
僕は着信ボタンを押すと、それを耳にあてる。

「はい、高月です」
『おー、浩介か』

電話口から聞こえてきたのは、いまや威圧感に満ち足りている連盟長である父さんだった。

「連盟長、何か御用でも」
『お前に折り入って頼みたいことがある』

声をできる限り小さくして用件を尋ねる僕に返ってきたのは、そんな言葉だった。

(何だか無性に嫌な予感がする)

今すぐ電話を切りたかったが、そんなことをする雰囲気ではなかったため、僕は話を先に進めることにした。

「それは何ですか?」
『一度こっちに戻ってきてくれ』

僕の問いかけに、連盟長は用件を非常にシンプルに告げた。

「それはなぜです?」
『お前にしかできないことがあるからだ』

理由がわからずに尋ねた僕は、さらに理由がわからなくなってきた。

「仕事だったら、いつものようにここに飛ばしてもらえれば――――」

僕の仕事には罪を犯した人の量刑を確定させたり(ここでいうところの検察の起訴か不起訴かを決めるようなもの)、そのほかの資料の精査をしたりなどがある。
それらは連盟の方から毎回ダンボールで送られてきており、それを僕の方で処理してから送り返すという形をとっている。

『そうはいかないんだ。最近職員共の気が弛んできていてな。お前が戻ってくれば連中も少しは気を引き締めるはずだと思うんだ』
「僕は気つけ剤ですか?」

あまりにもひどい理由に、僕は連盟長に反論してしまった。

『そう言わずに頼む。たまには親孝行でもしろ』
「分かりました。それで、いつ戻れば?」

ため息を漏らしながら、僕は頷くと連盟長に機関に日程を尋ねる。

『できれば明日に戻ってきてもらいたい』
「明日ですね、わかりました」
『よろしく頼む』

僕が同意したのを確認して、連盟長は電話を切った。

「携帯に電話してきたと思ったらこれか」

連盟長のある種の職権乱用にも思える呼び出しに、僕はため息をつく。

「お、誰からだったんだ?」
「親から」

部室に戻った簿kに投げかけられた疑問に、僕はため息をつきながら応える。

「どうかしたの?」
「いや、明日実家に戻れって言われてね。なんでも親孝行をしろとさ」

ムギの問いかけに、不満を漏らしながらカップに入っている飲み物を飲みきった。

「あれ、浩君って一人暮らし?」
「そうだよ。親と喧嘩して家出して今の状態になっているだけだから」

僕は何度目になるかわからない嘘を口にする。

「お金とかはどうしてるんだよ」
「実家の方から毎月支給されてる。定期的に帰ることを条件に」
「一体どんな家系何だ?!」

僕の答えに、律が目を見開かせてツッコんでくる。

「普通の家系だよ。ということで、明日実家に戻るから練習をするんだったら5人でしておいてもらっていい?」
「それは構わないけど、いつぐらいに戻ってこれそう?」

澪の問いかけに、僕は顎に手を添えて考える。

(まあ、2,3日くらいを見ておけばいいか)

「長くても三日で帰る予定」
「何だか大変そうですね、浩介先輩」
「あはは。もう慣れた」

梓の言葉に苦笑しながら返した。

「そう言えば、浩介の実家ってどこにあるんだ?」
「あ、私も気になる」
「えっと……ちょっと遠いところだよ」

律とムギの問いかけに、少しだけ考えた結果出たのが今の答えだった。
我ながらもう少しましな答えはない物かと思ってしまうが、これ以外に思い付かなかったのだから仕方がない。

「それって、どこなんだよ」
「それよりも、練習をするよ!」
「うわ、逃げた!」

律の追及に話題をそらした僕に、澪からツッコミが入ってしまった。

「まあ、練習でもすっか」
「そうだね! 律ちゃん隊員」

律の一言で、僕たちは練習を再開することとなった。

(何とかうまくごまかせたか)

僕は、何とかごまかせたことに胸をなでおろした。
だが、この時の僕はまだ知らなかった。
ちゃんとごまかせていないということを。
知っていればあのような事態には発展しなかったはずだ。










翌日、僕は自宅のリビングで故郷に戻る準備をしていた。
僕は携帯電話を取り出すと、律の番号を呼び出して電話をかける。
程なくして律が電話に出た。

「律か、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
『何だ?』

いつもの様子で聞きかえしてくる律に、僕は本題を告げることにした。

「今どこにいるんだ?」
『い、今か!? えっと、学校近くのファーストフードだよ。憂達も一緒だよ』

どこか慌てた様子で応える律だったが、気になったことは一つ。

『どうして憂も一緒なんだ?」
『偶々近くであってさ。そう言う浩介はどこにいんのさ?』

(まあ、律に無理やり遊びに繰り出されただけか)

無理やりかどうかは知らないが、似たようなものだろうと解釈することにした。
そして今度は僕が律の問いかけに答える番だった。

「僕か? 今実家に帰省する準備中だ』
『いつごろ出ていつごろ戻る予定?』

(昨日話したような気もするけど)

首をかしげる僕だったが、確認はとても重要なことなので、もう一度答える。

「あと10分ぐらいしたら。明後日には戻ってくるけど……何か急用でもあったら今聞くけど。たぶん実家ではそういう余裕ないと思うし」
『い、いや特にはないかな。あはは』
「そう? それじゃ、また後日。土産話でも聞かせるよ」

律から”分かった”という返答があったのを聞いた僕は、そのまま電話を切った。

「ふぅ……どうやら、こっちに乗り込もうとしている様子はないみたいだし大丈夫かな」

僕が確認したかったのは、律がここに乗り込んでくるか否かだった。
一応カーテンなどを閉め切ってブレーカーを落としたりしてはいるが、それでも家の前にまで来られれば僕が魔法を使うところを見られる可能性は非常に高くなる。
それを防ぐための確認だったが、律たちは僕の家から少し離れた場所にいるようなので、どう急いでも僕の準備が終えるまでに家の前に来ることは無理だろう。
そう考えた僕は再び準備を再開させる。
今の僕は、故郷にある実家で常に着ていた黒を基調とした式服に身を包んでいる。
床には前日に書き上げた魔法陣(雑巾で拭けば簡単に消せる)があった。
この魔法陣は転送する際の効果範囲でもある。
簡単に言えば、魔法陣内全てが転送魔法の効果範囲になるということだ。
その魔法陣の周りには僕の顔の高さの位置に、複数のホロウィンドウが展開されている。

「これより転送支援用の魔法陣の最終チェックを行う。クリエイト、隔離結界を展開」
【了解】

僕の指示にクリエイトが返事を返すと魔力が一気に膨れ上がる。
空間自体を切り取る隔離結界は、これから行うことに巻き込まれる人が出ないようにするための安全策だ。
僕はそれをこの家を基準に半径1㎞の範囲にかけていく。

【マスター以外の生命体との隔離に成功しました】
「それじゃ、チェックの方か」

僕は杖状になっているクリエイトを魔法陣の上に置く。
すると、クリエイトはゆっくりと宙に浮かび回転を始めた。
一回転をしたところで再び地面に落ちた。

【魔法陣の歪み等の問題は確認されませんでした】
「よし」

クリエイトの報告に満足げに頷いた僕は、魔法陣内に入ると右手を開くようなしぐさをして手元にコンソールを展開させた。

【最終確認完了。転送システム、スタンバイ】
『ID、媒体、生体反応の一致を確認しました。転送システム受け入れを開始します。お気を付けて』

展開されているホロウィンドウの一つが言い切るのと同時に閉じた。
それは、通信用のウィンドウだった。
故郷の方と、こちらの方で確認作業を行いながら準備を進めていくことによって、トラブルをなくすことが目的だ。

【時代の流れですね。転送魔法もここまで進化するとは】
「まあね。一昔前のように”魔法陣展開後に人が出入りしただけで次元空間をさまよう”なんていう事態はもう無くなったからね」

クリエイトの言葉に、僕も相槌を打つ。
少し前までは、世界を跨いだ転送はそれぞれが魔法使いの魔法で行っていた。
当然だと言われればそうだが、この魔法には重大な欠陥があった。
それが、転送用の魔法陣を展開させた後に、一人でも出入りすると魔法陣が不安定となり次元空間をさまようようになってしまうことだった。
これによって、故郷では数千人の魔法使いが今でも消息不明となっている。

【ですが、マスターの開発したこの”VSを利用した転送システム”で、そう言った問題はすべてクリアされましたけどね】

”VS”とはゲームで言うところのA対Bという意味ではない。
正式名称はヴァーチャル・システム。
とある世界で流行っていたエンターテイメントの番組内で出ていたものをモデルに作ったシステムだ。
説明すると日が暮れるので簡単に言うと、魔法と科学という相反するものを混合させた魔法科学の結集であり、これを使えば簡単な転送魔法(物を召喚したり取り寄せたりすることも含む)に通信、簡易照合等々が誰でもできるのだ。

「でも欠点はあるけど」

その欠点が、”周囲にいる無関係の人を転送の対象にしてしまう”ことだった。
普通の転送なら問題はないが、今回のような世界を跨ぐ転送の場合に発生するのだ。
このために、転送システムを利用する際には隔離結界を展開することが義務付けられていたりするわけだ。
閑話休題。

(よし、そろそろか)

話も一通り終わり、僕は杖状のクリエイトを背中のほうに触れさせる。
すると、まるで何かに固定されたように、クリエイトは僕の背中にくっついた。
魔法使いの持つ媒体は、非使用時の場合は、元の形にするか今のように背中に装着する方法がある。
どうして背中にくっつくのかはいまだにわかってはいない。
魔力の供給が関係あるのではという理論も出ているが、真相は定かではない。

「転送システム、スタート」

僕の言葉と同時に、目の前には『teleport starting』の文字が表示された。
そして僕は光につつみこまれる。
一瞬の浮遊感を感じた僕は、気が付けば薄暗い部屋のような場所にいた。
そこがどこなのかを知っている僕は、前に足を進め出入り口と思われる扉を開けて外に出た。
まぶしい光に、一瞬目を覆うがすぐに慣れた僕はさらに前に足を進める。

「おかえりなさい、高月大臣」
「ただいま。というより、大臣って呼ぶのやめてくれない?」

僕を出迎えたのは、ここの建物で一番偉い人にあたる人物だった。
僕はその人に呼び方の訂正を求めた。

「いえいえ。大臣を呼び捨てにしたら、私の首が飛びますゆえ」
「………さいですか」

返ってきた言葉は”却下”だった。

「連盟長より、連盟長室に来るようにとの通達が出ています。」
「分かった。至急向かう故、そのように言伝をしておいてもらえる?」

僕の言葉に、”かしこまりました”と返事をして僕の前から去っていった。

「それじゃ、僕も向かいますか」

そして僕は連盟長の待つ連盟長室へと向かうのであった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回で話は一区切りがつきました。
次話からは、かなり強い魔法要素が存在しますので、苦手な方は第54話まで飛ばすようにしてください。


それでは、これにて失礼します。

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第46話 すべての終わりと始まり

それは慶介が小学生のころの話。
父親を亡くし、悲しみに浸っていたころの話だ。
通夜や葬式も終わり、いつも通りにの日常が始まる中、慶介はいつもの明るさを取り戻せなかった。
普段の慶介は、人づきあいも良く友人に恵まれていた。
だが、それ以降から、慶介の明るさはすっかり無くなり、どんよりとした雰囲気を醸し出すようになった。
そして友人たちもそんな慶介から離れていく。
慶介は友人をも失ったのだ。
そんな中、それと慶介は出会った。
きっかけはとあるテレビ番組。

『続いては、流星のごとく現れたH&Pで、Only for youです!』

それは有名な音楽番組だった。
それを何気なく見ている慶介の耳に聞こえてきたのはピアノの音だった。
そしてそのあとに流れた歌声に、慶介は衝撃を感じた。
歌っていたのは一人の少年。
自分と年端もいかない年齢のだ。
だが、クールビューティーを形にしたような力強い歌声は、慶介のハートをつかむのに難しくはなかった。
歌の意味も分からない慶介だが、その歌に力をもらったような気がした。

(かっこいい。すごい、本当にすごい)

そして慶介は、その歌手がDKであることを突き止めた。
その後はまるで人が変わったかのように明るくなり、元の輝きを取り戻すことができた。
そしてお小遣いを前借する形で、H&Pの演奏するCDを買い漁った。
CDプレーヤはプレゼントでもらっていたため、それで毎日CDが壊れるのではないかというほど聞き込んだ。
ライブにも顔を出すこともあった。

(もし、もし願いがかなうのなら……DKと友人になりたい)

同い年であることを突き止めた慶介は、心なしかそう願いを込めるようになった。
だが、自分のどこかでは、それは一生叶わないとあきらめていた。
相手は天才と呼ばれたバンドリスト。
そして自分はただの子供。
どう考えても、友人になれるような身分ではなかった。

『皆に知らせがある!』

演奏が終わった後、DKはそう声を上げた。

(なんだろう?)

『私は今日を以って、”H&P”の活動を休止する!!』

その言葉に、会場中がどよめいた。
それは慶介も同じことだった。
慶介にとって、DKやH&Pの存在は命の恩人というものにまでシフトしていたのだ。

『だが、私はいずれここに戻る! そして、皆にまた演奏を届けよう! その時まで、待ってくれるか!!』

そのDKの言葉に慶介も一緒になって返事を返す。
慶介はDKが戻るのを待つことにした。
そして何気なく選んだ高校。

「あのー、いい加減反応してくれてもいいでしょうか?」
「なに?」

そこのクラスでもう一人の男子と出会った。

(あれ?)

一瞬違和感を感じた者の慶介は、それを頭の片隅に追いやった。
だが、それは桜高祭で再び浮かび上がる。

「それでは、優勝の要因を審査員に話してもらいましょう!」
「私は、今はいない男子の歌声がすごくよかったからだと思います」

数人の審査員の生徒は一様に浩介の歌声を評価した。
それで慶介は確信した。

(やっぱり、DKは浩介だったのか!)

そして確信したと同時に、慶介は自分の願い事がかなっていることを喜んだ。
だが、思い知った。
自分がやらなければいけないことを。

(DKの……浩介の秘密は俺が守る!)

そして行ったのがありもしない嘘の苦情だった。
DKとして演奏をしていた楽曲『命のユースティティア』
それを新歓ライブで演奏をすることを知った慶介は、それから浩介の正体がばれることを危惧した。
そのために、無理やり変更させたのだ。


★ ★ ★ ★ ★ ★


「―――ということだ」
「なるほど。だから曲目を変えさせたのか」

慶介の独白を聞き終えた僕は、全てのことに納得がいった。
あれは妨害ではなく、慶介なりの助けだったのだ。

「浩介って、俺のことを信頼してるか?」
「まあな。性格があれだが、悪いやつではないことくらいは分かってるから」

慶介の問いかけに、ほぼ即答で答えた。

「それじゃ、彼女たちのことは? 信頼してるのか?」
「…………」

その答えに、僕は何も答えられなかった。

「俺は、プロの大変さを知らないから何も言えないけど、まずは信じてみたらどうだ? 俺みたいなやつでも功なんだから、受け入れてくれるはずだ」
「………………ありがと。もう眠いから寝るよ」
「そうか。お休み、浩介」

僕は逃げるように慶介にそう告げる。
それから少しして、隣から規則的な寝息が聞こえるようになった。
僕はそれを見計らって布団から出ると、布団を畳んで部屋を後にする。
そしてそのまま家を出た。





「信じているか……か」

自宅に戻った僕は、自室の窓から空を眺める。

(口では信じているとか偉そうなことを言ってたけど、結局のところ僕は唯たちのことを心の底から信用していなかった)

「本当に、最低だな」

自分でかくしておいて何が”自分の何を知っている”だ。
知らなくて当然だ。
話していないのだから。

「慶介は、僕がDKだと知っても普通に接してくれた」

嘘をついていないのは僕だってわかる。
慶介は、DKを……高月浩介という人間を受け入れてくれたのだ。
ならば、唯たちはどうだろうか。
彼女たちは僕がDKであることを知ったらどういう反応をするだろうか?

(例えば、ムギみたいに普通に接してくれるだろうか?)

ムギが普通の人ではないことは唯たちも気づいているはずだ。
毎日持ってくるお茶菓子、そして大きな別荘。
どう考えても普通ではないことに気づくはず。
それでも、唯たちの接し方は変わらない。
ならば、もしかしたら

「いや。今更どんな顔して合えばいいんだ?」

あのような暴言を吐いてしまった僕が、どの面を下げて軽音部のメンバーのところに顔を出すんだ?

「本当、僕って最悪」

夜空の景色がにじんできた。
そして頬に熱いものが伝う。

「驚いたな。この僕にもまだ”悲しい”という感情があったなんて」

頬を伝うものをぬぐいながら僕はそうつぶやいた。

「………そういえば、昔にもこんなことがあったな」

僕はふと過去のことを思い返した。
それは、かなり昔の魔法連盟でのこと。
当時新入職員だったその人物は、とてもまじめな好青年だった。
そんな彼が、突然爆発した。

『自分のことを何も知らないのに、勝手なことを言わないでください!』

そう言って勝手に帰っていった彼は、ひと月ほど無断欠勤した。
連盟長の方から、彼に働く気があるのかを聞くようにとの命を受けた僕は、彼の住む家を訪ねた。
家から姿を現した青年に、僕は門前払いをされるかと危惧したが、青年は追い出すどころか土下座をして謝ってきたのだ。
人の目にも付きやすい場所で土下座をさせるのもあれだったため、とりあえず家の中に上げてもらった僕は、彼から事情を聴くことにした。
彼が告げたのは意外なことだった。
彼が爆発した原因、それは自分の親がかなり優秀な魔法連盟職員だったことを隠したことに対する負い目からだった。
私には理解ができなかったが、なんでも彼はその職員の隠し子だったらしく、決して口外しないようにと言われていた。
彼は、自信に抱えた大きな秘密が知られないように必死に隠していた。
それを同僚に隠していることがとてもつらかったと彼は語っていた。
私は、彼にすべてを語るように告げて自宅を後にした。
その後、その職員には隠し子であることを認めるように通達を出し、認めなければ懲戒にすると脅しをかけた。
そして彼は同僚に謝罪をし、今でも法務課で働いている。

「そう言うことか」

その事案を思い返した僕は、今自分に起こっているすべての事態の理由がわかった。
僕が感じていた”孤独感”。
それは、僕がDKであることを隠している負い目からだった。
おそらく、罪悪感のようなものを孤独感だと勘違いしていたのだろう。

「つまりは、これの解決策はあの時と同じく、話すことか」

僕にはそれしか解決の手段はなかった。
ただ謝るだけでは、一時しのぎにしかならない。
しっかりと理由も彼女たちに説明をする義務が僕にはあるのだ。

「まったく、本当に僕は馬鹿な男だ」

僕は改めてそうつぶやくと、ベッドに潜り込む。
そしてすぐに眠りにつくのであった。
全ての決着は明日の放課後だ。










そして迎えた放課後。
僕は横にあるギターケースを手にする。

「行くのか、浩介」
「ああ。僕はもう悩まない」

そんな僕に声を掛ける慶介に僕はそう答えた。

「がんばれよ」
「ありがとう。慶介」

僕は応援をしてくれる慶介に、二つの意味を込めてお礼を言った。
一つは、”僕の力になってくれてありがとう”と言う意味。
もう一つは”僕を受け入れてくれてありがとう”という意味。
そして僕は軽音部の部室に向かった。
全てを終わらせるために。





「………」

ここに立つのも久しぶりの気がする。
そう思えるほど、僕はここに来ていなかった。
タイムリミットを明日に控えたこの日。
僕は覚悟を決めてドアを開けた。

「あ……」
「こ、浩介」
「ひ、久しぶりだな」

僕に気づいた軽音部メンバーの全員がぎこちない反応をする。
それは当然のことだった。

「と、とりあえず座りなよ」
「お、おいしいお菓子を用意してるの」

律の言葉に続くようにムギが言う。
僕はギターケースを近くの壁に立てかけた。

「いや、その前に皆に話しておきたいことがある。実は――」
「それなら私もあるんだ」

僕の言葉を遮るように、律は声を上げると席を立って僕の前まで歩み寄ってきた。

「ごめんなさい!」
「えっ!?」

いきなり頭を下げて謝ってきた律に、僕は固まってしまった。

「ち、ちょっと! 頼むから頭を上げて! というより、みんなは悪くない!! 悪いのはすべて僕だから!」

慌てて頭を上げさせようとする僕に、律は凄まじい勢いで反論してきた。
きっと、かなり思いつめていたのかもしれない。

「いいや、違う。きっと私たちが気づかないうちに――」
「いや、本当にみんなは悪くないから」
「違う!」
「二人とも、まずはおちついて、ね?」

いつまでも終わらないと思われた言葉の応酬も、ムギの仲裁で何とかおさまった。

(まさか向こうから謝ってくるなんて、予想もしていなかった)

悪くもない皆に謝らせたことに、罪悪感に駆られそうになるが今はそれを頭の片隅に追いやる。
今必要なのは罪悪感に駆られることではなく、事情を説明することだ。

「この間の一件、本当に申し訳なかった。こっちが勝手に思い込んで皆を傷つけるようなことを言ってしまった。許してほしい、この通り」

僕は頭をほぼ直角に下げた。

「もちろんこれだけで許してもらえるとは思っていない。皆の気が済むのであれば土下座でもなんでもする」
「いやもういいから」
「浩君、頭を上げてよ」

律に続いて唯が僕に頭を上げるように言ってくれた。

(本当にやさしいんだね)

僕にはもったいない人たちだった。

「それに、浩介がぶちぎれたのだって私たちが練習をちゃんとしてなかったからで――――」
「それは違う!」

律の言葉を遮るように僕は叫んだ。
練習をしていないことは危惧していたが、それは絶対に違った。

「そのことについて、僕はみんなに聞いてほしいことがある」

僕はそこでいったん区切った。

「僕がああなった要因にもつながるから」
「分かった。でも、立ちながらもあれだから座って話さない?」

澪の提案に、僕は頷くことで答えた。
そして全員で再び席に着く。
こうして座ってみると、どこか懐かしく感じてしまう。

「はい、どうぞ」
「ありがと」

ムギが入れてくれた紅茶をとりあえず口に入れた。

「僕はみんなに隠していることがある」
「待て待て、隠していることと怒ったことと何の関係が?」
「関係があるから話している」

僕の言葉に異論を唱える律に、僕はきっぱりと言い切った。
もうすでに自分の気持ちの整理はついていた。
だからこそ自信持って言えるのだ。
それこそが一番の原因なのだと。

「僕は厳密には違うけど外バンをしているんだ」
「外バン?」
「外バンっていうのは、違う場所のバンドの方で活動をすることを言うんです。分かりやすく言えば掛け持ちみたいなものです」

言葉の意味が分からなかったのか首をかしげる唯に梓がわかり役説明してくれた。

「だから浩介先輩、外バンはできないって答えたんですね」
「でも、外バンをしていることくらい別に隠さなくても」

確かに律の言うとおりだ。
”普通であれば”だけど。

「いや、隠さなければいけなかったんだ。そうしないと色々と問題が起こりそうだから」
「問題って、どんな?」

今度は斜め右側の席に座るムギが訊いてきた。

「えっと、マスコミが大挙して押し寄せてくるのと、ここがちょっとした騒ぎになること……かな?」

考えられる問題を上げてみたが、後者は確実に起こるような気がした。

「いや、私に訊かれても」

ついつい澪の方を見ながら話してしまった。

「それで、その外バンをしていることを隠していることとぶちギレたのと何の関係が?」
「隠していることの後ろめたさを、自分は一人だという孤独感と間違えて捉えていて、そこでドカンと」

僕の説明に、全員が首をかしげている。
当然だろう。
僕でさえ、この原因はよくわからないのだ。
ただ、根本的な原因はここにあるというのは確信している。

「だから、今は良くてもこのままだとまた同じようなことが起きかねない」
「浩介の言っていることが本当だとすると、確かに根本原因を失くさない限りまた起こりそうな気がする」

僕の言葉に頷い着ながら澪は相槌を打った。

「だから、全てを話す。僕が活動している外バンの名前は」
「名前は?」

唯が首をかしげながら聞いてくる。
僕はもう一度覚悟を決めた。
これですべてが終わり、そして始まる。
その一言を口にする。

「”hyper-prominence”というバンド」
「はいぱー」
「ぷろみねんす?」

僕の告げたH&Pの正式名称に、唯と律は首をかしげていた。
とはいえ、

「「……」」

その名称はファンだったら確実に知っているので、澪と梓は固まっているが。

「ん? 澪、どうしたんだ?」
「あずにゃん、大丈夫?」

そんな二人の様子に気づいた律と唯がそれぞれに声を掛けていく。

「も、ももももももしかして……」

一番早く正気に戻った澪が今まで以上に凄まじいドモリかたで僕を指差す。

「そこではメインボーカル兼、リードギターを担当している」
「ということは……」
「へ? どういうことなの、律ちゃん」

担当パートを告げただけで律ですら理解してしまったようで目を見開かせている。
唯一分かっていないのは唯だった。

「そのバンドで名乗っている名前は、DK」
『…………』

そして、音が消えた。
全員が固まっている。

「は、はは……」

一番最初に正気に戻ったのは意外にも梓だった。

「こ、浩介先輩。冗談はやめてくださいよ」
「はい?」

引き攣った笑い声を上げながら注意してくる梓の反応に、僕は目を瞬かせた。
色々なパターンを予想したが、まさか冗談だと思われることになるとは思ってもみなかった。

「いや、否定されるとかなりショックなんだけど」

(まあ、ちょうどいいか)

ある意味一番入りやすい形になってくれた。
そう言う意味では結果オーライとも言えなくない。

「だったら、その証拠を見せるよ」
「証拠?」
「どんなどんな?」

僕の言葉に、律は興味津々に、唯はわくわくと言った反応を示した。
まあ、後者はムギもだけど。

「そりゃ、ミュージシャンなんだから、あれに決まってるでしょ」

そう言って僕は先ほど立てかけたギターケースを指差した。

「演奏で、証明するよ」

僕はそう告げるや否や、席を立ってギターケースを開ける。

「あ、唯先輩と同じGibson社製のES-339」

さすがと言うべきか、梓は見ただけでギターの種類がわかったのか口を開いた。

「皆、そこで聴くの?」

席に座ったまま
僕のその一言の後の唯たちの行動は素早かった。
一瞬のうちに長椅子の方に移動しているのだから。
僕はその様子に苦笑しながら準備を進める。
(まさかここで僕が全力での演奏を披露するなんて)
人生本当に何が起こるかわからない。
そして一通りの準備を終えた僕は、観客である唯たちの方へと向き直る。
僕の前には長椅子に座っている唯と梓と澪の三人、そしてその後ろに立つ律とムギ。

「それじゃ……行くよ」

僕のその言葉に、唯と律にムギは興味津々に僕がこれからしようとすることを見守る。
そして澪と梓は緊張の面持ちで僕を見ていた。
そんな視線を受けながら、僕は肩に掛けてあるギターの弦を弾いた。
それが演奏を始める合図だった。
演奏する曲は既に決まっていた。
曲名は『Through The Fire And Flames』
ドラムやリズムギターにベースがいないので少々迫力は無くなってしまうが、今回はギターの演奏を見せることなので、問題はないだろう。
そのためボーカルもなしにしている。
さらにフルで演奏すると6,7分という長さになるため、短めにアレンジをする。
これでも5~6分ぐらいの長さになってしまうが。
それはともかく、まずは小刻みなストロークから入る。
所々音を伸ばしては再び小刻みなストロークをするのを繰り返していく。
後ろめたいのがなくなったからか、それとも別の何かのおかげか、数日間のブランクを感じさせない演奏をすることができた。
途中で速弾きに近い速度で弦を弾きながらサビに入る。
最初は音を伸ばし、中盤で素早くコードを切り替えていき終盤では再び音を伸ばしていく。
そしてイントロ部分を弾き終えると、数秒間の無音状態が訪れる。
それが間奏の合図。
最初は簡単にストロークさせていったん音を伸ばしていく。
そしてまた簡単に数回ストロークして音を伸ばす。
そこからギターソロの始まり。
ピックを小刻みにストロークさせ、左手はせわしなく弦を抑える。
そしてさらにスピードを上げていく。
ここから先は完全に速弾きの領域だ。
今、この場は火に包まれたステージと化す。
炎の中で緊迫感に満ちた場所にいる。
それが最初に僕が感じたこの曲の印象だった。
所々にスクラッチを入れたりビブラートを効かせたりする。

「うへひょ!?」

誰かのすっとんきょな声が聞こえたような気がした。
そしてソロパートの終盤、ラストスパートをかけていく。
速弾きで弾いて音を上げてまた速弾きをしていく。
そして間奏が終わった。
あと残るのはサビの部分だけだ。
だが、最後の箇所に速弾きが待ち構える。
そこを僕は冷静にさばいていく。
半ばタッピングのような感じになりながらも、僕は演奏を終えた。
演奏をし終えた僕はある意味清々しささえ感じていた。

「それで、どうかな?」
『………』
「って、また固まってる」

呼びかけても反応がないので、僕は苦笑するしかなかった。

「浩介」
「な、何?」

律の呼びかけに、僕は数歩下がりながら返事を返した。

「すっごくうまい! わたしゃ感動した!! さすがは浩介だ!」
「あ、ありがとう」

褒めてるのかそれとも別の意味があるのかわからなかったが、とりあえず前者の方で受け取ることにした。

「私も感動しちゃった」
「さすが私の師匠!」
「ありがとう。というより師匠って……」

唯の”師匠”という言葉に違和感を感じたものの、高評価だったことに胸をなでおろした。
残る問題は、いまだに呆然としている二人だろう。

「………ほ」
「ホットケーキ?」

一番初めに正気に戻った梓があげた言葉を取って、唯が食べ物の名前を口にした。

「ほ、本物のDKだ!」
「うわぁ!?」

いきなり大きな声を上げながらこっちに向かってくる梓に、僕は思わず後ろに下がった。
そのあとは軽音部が混沌と化した。

「どうして、こんなところに!?」
「とても感動しました!」
「私ずっとファンだったんです!」
「サインください!」

まるでマシンガンのごとく梓から声を掛けられ続けた。

「すごい、あずにゃんがものすごく興奮してる」
「やっぱりこれが一番よね」

そんな僕たちの様子に、お揃器の表情を浮かべている唯と楽しそうに微笑むムギ。

「頼むから、そんなところでのんきに言ってないで助けて!」
「待ってください! まだいっぱいお話ししたいことがあるんですっ!!」

目を輝かせながらのマシンガントーク攻撃に、僕は梓と追いかけっこをする羽目になった。
色々と疑問の残ることはあるが、これはこれでめでたしめでたし……なのか?
ちなみに、これは余談だが

「澪ちゃん、大丈夫?」
「あー、こりゃ完全に気絶してるな」

呆然と固まっていた澪は気を失っていることが判明した。
そして、梓との追いかけっこが終わったのは山中先生が梓を落ち着かせた時だった。
その後しばらく、尊敬のまなざしを梓から送られることになった。
こうして僕は、DK=高月浩介を隠していることを終わらせ、僕がDKであるということを皆に打ち明けることで、新た始まりを迎えることとなった。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRcrantです。

お待たせしました。
本日、『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
今回は珍しく意外な人物が活躍します。
そして、意外な真実も明るみになったり。


それでは、これにて失礼します。

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第45話 疑問

次の日、浩介はギターを持ってこなかった。

(ダメだったのか)

俺は、それだけで結果を悟った。
軽音部の作戦は失敗に終わったのだ。

「おっす、浩介! 今日こそは俺のハーレム道を叩きこんで――――ぶはりゃ!?」
「…………」

いつものようにテンション高めでアタックしてみたところ、浩介から痛烈な一撃をお見舞いされた。
無言で立ち去ったが、それは俺にとっては希望の光のようにも思えた。

(これまでは馬鹿なことをしても手が出なかったからな。少し改善されたようだ)

少し頭が痛いが、これはいい知らせだ。
あとはちょっとしたワンプッシュがあればいいだろう。

(だとしても、一体何をするかだな)

俺は腕を組んで作戦を立てる。

(そう言えば、母さんは今日は仕事で家に戻れないって言ってたな)

母さんの仕事の都合上、仕方がないかもしれないが、ちょっとだけ寂しいのもまた事実だ。

(そうだ! これだっ!)

俺は最善の策を思いついた。

(こうなったら実行あるのみ!)

勝負は放課後だ。
俺は放課後に向けて気合を入れるのであった。


★ ★ ★ ★ ★ ★


放課後を迎えた。
この日も結局結論を出すことはできなかった。

(このまま自然消滅するしかないか)

それをしてしまったらすべてが終わるような気がするので、やりたくはなかったが。

「浩介! 俺と遊ぼうぜ!」
「断る」

悩んでいる僕のことなどつゆ知らず、慶介のハイテンションな誘い言葉に、即答で断った。

「そんなこと言わずに、しゅっぱ~つ」
「お、おい! 引っ張るな!!」

腕を引っ張って強引に連れていく慶介に、僕は抗議をするがそれが振りほどかれることはなかった。











「それで、一体どこに連れて行く気だ?」

校門まで引っ張られた僕は、ようやく腕を離してもらうことができた。

「まずはカラオケだい!」
「…………オーケー」

僕は降参とばかりに両手を上げる。

「それじゃ、行くぜ!」
「はいはい」

ため息交じりに返事をしながら、僕は慶介の後をついていくのであった。

「使い方とかは大丈夫か?」
「もう一通り、見たから平気だ」

電車で慶介の家がある駅まで向かった僕たちが最初に向かったのはカラオケ店だった。
カラオケ店で手続きを済ませた慶介に連れて行かれるように来たのは少し狭い一室だった。
天井にはスピーカーが二つほどついており、部屋の一角には機会が置かれていた。

(昔とは違うのか)

昔は分厚い本から歌いたい曲を見つけて番号を入力する必要があったが、今では小さいパッドのような機械で曲を探してそのまま送信すればいいのだから便利になったものだ。

「それじゃトップバッター、佐久間慶介、行きま~す!」

そう啖呵をきってマイクを持つと、慶介は歌いだし始めた。
歌っているのはあまりよく知らない曲だった。

「っと、さてさて、何点かな~」
「何を言ってるんだ?」

歌い切った慶介が楽しげにつぶやく言葉に、僕は首をかしげる。

「知らないのか? これ採点機能がついてるんだ。点数が出るんだぜ」
「そうなんだ」

本当にすごいなと心の中で感心していると、結果が表示された。
点数は47点。

「くそー、50点越えずか。次は浩介の番だな」
「それじゃ失礼して」

僕はマイクを慶介から受け取ると、先ほど入れた曲を歌う。
曲名は『月に叢雲華に風』だ。
知っている人は知っている、知らない人は知らないというある種のマイナーな曲で、しょっぱなから歌わなければいけない。
ちなみに、女性ボーカルだったりする。

「最初の曲で女性ボーカルか。やるな~」

慶介から感心したような声が送られるが、それを無視する。

(機械だから性別は考慮しない。とすれば、音程のみか)

そう推測を立てた僕は、高得点を取るべく音程の方に気を付けて歌っていく。
やがて、僕は曲を歌い切った。

「さてさて、浩介の点数は何点かなかな?」

興味津々に結果を待つ慶介をしり目に、僕はいつの間にか届いていたお茶を飲む。

「げっ!?」
「ん?」

慶介が引き攣ったような声を上げるので、僕は視線を大型テレビの方に向けた。
そこには97点という数字が出ていた。

(満点が取れなかったのは残念だが、まあ我慢しよう)

高得点には変わりないのだから。

「ど、どうして女性ボーカルの曲をこんな高得点で?! やっぱりお前は天才なのか!!」
「何を言ってるんだ? 素質もあるだろうが、僕はただレスポンスをしただけだ」
「れすぽんす?」

わけのわからないことを喚く慶介に、僕は首をかしげながら返した。

「つまり、相手の要求を推測してその通りに歌うということだ」
「それって、機械が何を望んでいるかということか?」

察してくれた慶介の問いかけに、僕は頷くことで答えた。

「こういう機械は歌い手の音程や伸びなどで採点している。だから、そこを意識して音程を一定にし、伸ばすところを伸ばし締めるところを締めるようにすれば点数も自然と上がるだろ」
「そうか? それじゃ、俺もやってみよう」

そう言うや否や慶介が再び歌ったのは、最初に歌った曲だった。

(まあ、高得点を取るためには、リズムの方も大事なんだけど)

それが素質の方になってくるわけだ。

(所詮カラオケは遊びだし、そこまで高得点にこだわる意味もないしね)

カラオケのような遊びは、楽しんだもの勝ちだ。
ならば、下手なことを教えない方がましだろう。
そんなことを考えていると、慶介は歌い切ったようだ。

「うおッ!? 初めての高得点!」
「なかなかやるじゃないか」

慶介がとった点数は69点だった。
高得点かどうかは知らないが、飛躍的に上がっていた。

「ありがとう浩介! これで人前で歌っても恥ずかしくないぞ!」
「そ、そうか。それはなにより」

点数が少し上がったくらいで喜びの声を上げる慶介に、僕は少しばかり圧されながら相槌を打った。

「さすが、コンクール優勝のMVPだな」
「それを言うなと前にも言ったはずだが?」

桜高祭で開かれた歌自慢コンクールで僕のクラスは優勝の成績を収めたらしい。
そのMVPが僕であることを知らされたのが桜高祭が終わってから少ししたときの話だ。

「悪い悪い。っと、そろそろ時間か。次行くぜ、浩介!」
「了解」

僕は渋々返事を返すと、カラオケ店を後にした。
滞在時間は約1時間だった。










「次はここだ!」
「ここってゲームセンターか」

慶介に連れてこられたのはゲームセンターだった。

「さあ、行くぞー」

そしてゲームセンター内に入った僕たちは中を歩き回る。

「これの対戦はどうだ?」
「別にかまわないけど、やり方知らないぞ?」

一つのゲーム機の前で立ち止まった慶介の提案に、僕は肩をすくませる。

「大丈夫簡単だから。それにここに書いてあるし」
「えっと……赤いノートが来たら面を叩く……リズムゲームか」

やり方も簡単そうなので、僕にでもすぐにできそうだった。

「難易度は簡単から鬼まであるんだ」
「そうだぞ。俺は普通で行くから、浩介は簡単なレベルにしろよ」

慶介のアドバイスを無視して、僕は慶介が選んだ曲の最高難易度を選んだ。

「うげ!? お前、始めてやるのに何最高難易度を選んでるんだ?!」
「別にどの難易度を選ぶかなんて、人の自由でしょ。それに、曲始まるよ」
「うおっ!? 危ねえ危ねえ。負けても文句言うなよ!」

曲が始まりノートが流れ始めたため、慶介は画面に顔を向けながら叫んだ。
このゲームは一定のラインまでゲージをためないと、クリアにならないシステムのようだ。

(すごい密集度。でも、余裕だな)

流れてくるノートは非常に密集していてこんがらがりそうだが、それほど苦にもならないレベルなので捌ける可能性が高い。

(母国ではこれよりも密度の濃い弾幕を避けてるんだから!)

僕は次々にノートに対応した面を叩いていく。
その結果……

「う、嘘だろ。初プレイで最高難易度で最強と言われた曲をノーミスでクリアしやがった」

ミス一つせずクリアすることができた。
しかも何気にランキング1位になっているし。

「慶介」
「な、なんだ?」

目を瞬かせている慶介に、僕は尋ねた。

「もっと難しいの無い?」
「お前は化け物か!!」

僕の問いかけに、慶介からそんなツッコミを入れられてしまった。

(うーん、僕としてはノートが流れてくる速度が少し遅く感じるから、速いのがないかなと思ったんだけど……自重するべき?)

その後も慶介とゲームセンターでいろいろなゲームをプレイした。
格闘ゲームやレースゲーム等々、ほとんど僕が買っていたような気がするがとても楽しかった。

「最後にこいつをやるぞ!」
「これはクレーンゲームか」

慶介が指差したのは前に唯たちが遊んでいたクレーンゲームだった。
尤も、ここではないが。

「これ前からとりたかったんだよな」
「ふーん」

見ればアニメでやるロボットのフィギュアだった。

(こういうもののどこがいいんだか)

僕にはそれの良さがあまり分からなかった。
一番わからないのは、

「くそ~、今日もダメか!」

熱中する慶介の方だが。

(まあ、たまにはいいか)

「退け」
「うわ!? 押すなよ」

慶介を軽く突き飛ばして、お金を投入する。
そして、ボタンを操作してクレーンを操作する。

(ターゲットを落とすためには、急所を突けばいいだけ)

少しだけずるをして、僕はそのポイントを見極めることにした。
一回目を閉じて再び開くと、ターゲットの状態が事細かに見えてくる。

(見つけたっ!)

その中で、安定に要する力が最も強い場所を導き出した僕は、その場所を狙ってクレーンを操作して力のバランスを不安定にさせた。
その結果、箱はそのまま取り出し口に落下した。

「ほい。駄賃だ」
「さんきゅー、やっぱり浩介はすげえな」

戦利品を慶介に手渡すと、慶介は喜びをあらわにした。
こうして、僕たちはゲームセンターを後にした。





オレンジ色の明かりに照らされる建物は、今が夕方であることを物語っていた。

「満足したのなら、僕は帰るぞ」
「ちょっと待てって」

駅に向かって歩き出そうとする僕の腕を掴んで引き止める慶介に、僕はため息をつきながら振り返った。

「なんだ?」
「今日、母さんが仕事で家に帰ってこないんだ」
「……で?」

慶介の言わんとすることがわからず、僕は先を促した。

「俺の家に泊まってかねえか?」
「…………」

慶介の提案に、断ろうかと思ったが断っても連れて行かれそうな予感がした。

「オーケー。ご招待されましょう」
「よしっ。そうと決まれば―――」
「その変わり着替えとかを持ってくるからいったん家に戻る」

慶介の言葉を遮って、条件を告げるように慶介に言い放った。

「一緒に行くか?」
「僕は方向音痴ではない。一人で十分だ。あとから行くから待ってて」

同行しようとする慶介に断りを入れた僕はそのまま駅に向かって歩き出す。
今度は引き止められることはなかった。










「やれやれ、僕は何をやってるんだ?」

自宅から着替えなどの泊まるのに必要最低限のものをカバンに詰めて慶介の家に向かう中、僕はため息交じりにつぶやいた。
自分にはやらなければいけないことがある。
ならば、このような遠回りをしている暇はないはずだ。
それなのに、

(これが無駄には思えない。何らかの意味がある)

そのように思えてならないのだ。
相手はただのバカが付く男だ。
失礼だが僕の悩みが解決できるような存在には思えない。
それでも、僕は可能性に賭けてみることにした。
そう結論を出したところで、慶介の家が見えてきた。
僕はチャイムを鳴らした。

「やっと来たか。さあ、入って入って」
「お邪魔します」

慶介に招き入れられた僕は、慶介に促されるまま中に入っていった。
案内されたのはリビングだった。

「これはすごい……」

テーブルの上に用意されたのは色々な料理だった。

「俺が作ったから、味の保証はできないけど」
「これを慶介が作ったというのか!?」

ハンバーグなどもあり、到底慶介が作ったとは思えなかった。

「そうだけど……そこまで驚くことか?」
「失礼」
「まあいいや。早速食べようぜ」

僕の謝罪に、慶介は追及をやめてそう言いながら席に着いた。

「それじゃ」

僕も慶介の対面に腰掛ける。

「いただきます」
「いただきます」

僕たちは手を合わせて声を上げると、料理に手を付けた。
まずはハンバーグだ。
ナイフで一口サイズにするとフォークでそれを口の中に入れる。

「む……」

(こ、これは!?)

「ど、どうだ?」
「おいしい。本当に」

緊張の面持ちで味を聞いてくる慶介に、僕は本当のことを答えた。
やわらかく、噛んだ瞬間にうまみが口の中に広がるそれはまさに芸術と言っても過言ではなかった。

「そうか。口に合ったみたいで何よりだ」
「こっちも、こんなにおいしいハンバーグ、久々に食べた」

母さんが作ったものには遠く及ばないが、それでも十分においしいことに変わりはなかった。

(色々と損しているよ、お前は)

それが僕の感じた慶介への心証だった。
この一面を出せれば、それこそ慶介は女子にもてるだろう。

(本当、僕にはもったいない友人だよ)

自分の愚かさを再び思い知らされた瞬間でもあった。





「お風呂あがったよ」
「おう、お疲れさん」

最後にお風呂に入り終えた僕は、慶介の部屋に戻っていた。
慶介曰く、今日はここで寝ろとのこと。
既に床には布団が敷かれていた。

「もう寝るぞ。明日も学校だ」

時間にして午後9時。
もう寝る時間だったため、僕は慶介に提案した。

「くそー、浩介と話をしたかったが寝ながら話すとするか」
「はいはい。御託はいいから明かりを消して」

僕は布団にもぐりこみながら部屋の主である慶介に、明かりを消すように頼んだ。

「わかった。それじゃ、消すぞ」
「おう」

そして明かりが消え、あたりは真っ暗になった。
横のベッドから人の気配がする。
どうやら慶介もベッドに入ったようだ。

「なあ慶介」
「なんだ?」

僕は慶介にあのことを問いただすことにした。

「この間の新歓ライブの前に、言ったよな? 苦情が来たので僕たちに演奏する曲を変えるように」
「ああ。確かに言った」
「その苦情は本当にあったのか?」

僕は直球で尋ねた。

「……」

慶介は何の反応も示さなかった。

「知り合いにそう言うのに詳しいやつがいてね。そいつに調べてもらったんだ」
「真鍋さんか」

思い当たったのか慶介は真鍋さんの名前を口にした。

「そう取ってもらっても結構。それで、その結果そのような電話やメール郵便物などはなかったらしい。慶介、お前はどうやって苦情を受けたんだ?」
「………」
「直接か? ならば名前は? 連絡先は? 年齢は? 性別は?」

僕の問いかけに、慶介は口をつぐんだまま答えようとはしない。

「もしくは、軽音部への嫌がらせか?」
「は?」

僕のその言葉に、ようやく慶介が反応を示した。

「あの時期に変更されたら最悪の場合は新歓ライブは失敗に終わる可能性があった。それを見据えて嘘の通達を出したのだとすれば、それは妨害ともいえる」
「冗談じゃない! 俺はそんなことはしない!」

僕の言葉に、慶介は初めて怒鳴り散らすように反論してきた。

「俺はただ、浩介への恩返しのつもりで………」
「恩返し? 僕はお前に恩を売ったつもりもないし、あったとしても、そんな恩返しは不要だ!」

慶介が漏らした言葉に、僕はきっぱりと断りを入れた。
僕には慶介の言う恩と言うものが何なのかがよくわからなかったが。

「にしても意外だな」
「何がだ?」

今度は僕が聞きかえす番だった。

「浩介が、軽音部のことにそこまでムキになるなんて」
「それは嫌味のつもりか?」
「いや。軽音部をやめようと考えている奴のセリフじゃないからつい」

慶介のその言葉で、すべてがわかったような気がした。

「なるほど、退部届けを盗み出した下手人は、お前だったか」
「なんだ、ばれてたのか」

僕の言葉に、慶介はため息交じりにつぶやいた。

「ばれてないと思うお前のその神経がすごいよ」
「まったくだ。それで、何があったんだ? 彼女たちと」

今度は慶介から問いただされる番だった。
僕は天井を見ながらゆっくりと口を開く。

「こんなはずじゃなかったんだ」

一度口に出してしまえば、後は芋づる式だった。

「自分が爆弾だということも、自分の置かれている立場も理解しているつもりだった。それでもずっとこのままで行けると思っていた」
「…………」

慶介は無言で僕の話を聞いていた。

「勝手に隠して、勝手に爆発して………全ては僕自身のわがままから始まってるってことも。そのせいで唯たちを苦しませていることも」
「そうか。いろいろ大変なんだな」

僕が話し終えると、慶介は静かに相槌を打った。

「DKとしての顔と、ただの生徒としての二つの顔か。どこか俺にも通じるところがあるな」
「そうだな………おい慶介。今なんて言った?」

普通に相槌を打った僕だったが、慶介の口から聞き捨てならない単語が聞こえたような気がしたので、僕はもう一度尋ねた。

「だから、DKとしての顔と、ただの生徒としての二つの顔か。どこか俺にも通じるところがあるな」
「………………ど、どうして」

驚きで声がうまく出せない。
まるで金縛りにでもあったかのように体が動かなかくなった。

「どうして……いつから知ってるんだ?」

それでもようやく僕は疑問を口にすることができた。

「最初に会った時から」
「それって………冗談だろ」

慶介の答えに、僕は信じられなかった。
あの時の慶介の様子は、僕のことを知っているというものは見られなかった。

「まだはっきりとはわかってなかったからな。でも、桜高祭のコンクールではっきりした」
「だからしつこく僕を参加させようとしたのか」

慶介のあの時のしつこい勧誘の真意をようやく僕は理解できた。

「声質は変わっていたけれど、歌い方とかはDKとそっくりだった。前に、歌番組で大物歌手と採点勝負をしたことがあっただろ? あの時も浩介は99点という高得点を出して優勝してたし」
「……よく御存じで」

数年前……僕がイギリス留学をする直前に、テレビ局の方から出演依頼があった。
それが大物歌手と歌で勝負をするという内容だった
そこで僕は大物歌手を堂々破り優勝の栄誉を手に入れたのだ。

「そりゃ知ってるさ。だって……」

慶介はそこで言葉を区切った。
そしてこう告げた。

「俺は、DKの………浩介のファンなんだから」

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