健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第78話 悪意

あの学園祭の一件から数日が過ぎた。

「浩介、大丈夫か?」
「ああ。大丈夫」

教室に入るなり、いきなり声を掛けてきたのは慶介だった。
僕は慶介に治ったことを告げた。

「そうか。良かったぜ、無事で」
「心配させたみたいで、悪かったな」

普段はあれだが、ちゃんと心配してくれたことはとてもうれしかった。

「にしても、どうして無理して演奏したんだよ?」
「だって、僕たちの演奏を聞こうと待っている人がいるのに、風邪ひいたので休みますとは言えないだろ」
「それで倒れたら元も子もねえだろ」

僕の反論に、慶介があきれた様子で言い返してきた。

「同じことをみんなに言われたよ。さすがに、これ以上言われるのは勘弁してくれ」

この間の澪たちの説教の内容は、大体が慶介の言っていたことだった。
本当は反論することもあるのだが、それは僕と唯たちの価値観の違いに発展するので素直に説教を受けることにしたのだ。
とはいえ、同じことを何度も言われるのは精神的につらい。

「まあ、いいけど。あの後変なことがあったんだ」
「変なこと?」

慶介の言葉に興味を持った僕は、詳しく話を聞いてみることにした。

「ああ。平沢さんたちに浩介のことを話すと、いきなり部室を飛び出していったんだ。で、俺は部室で待っていたわけだ」

おそらく慶介が唯たちに僕のことを話したのだろう。

「それで少しして田井中さんたちが戻ってきた時に、言われたんだ『佐久間、あんたいつの間に来ていつの間に戻ってたんだ?』ってな」
「……」

慶介の話に、僕はできる限り表情を変えないように努力した。
おそらく、慶介は今回の件に関しては完全に被害者なのだから。

「いやー、話を聞くと俺が浩介の家にいつの間にかいて、浩介を部屋まで運んだんだってさ。何だか怖くね?」
「あー……まあ、そういう日もあるよ」

僕はそう答えることしかできなかった。










風邪が治ってからさらに数日後。
学園祭が終わったからと言って、何がしらかの変化があるかと言えばそうではない。

「はい、今日はタルトよ」
「それじゃ、モンブランいただき―」
「また、お茶で――「梓ちゃんはいらないの?」――それじゃ、バナナタルトで」

梓も最近どんどん丸くなり始めているような気がする。
これをいいことだと思うべきか、それとも嘆くべきか。

(チーズケーキのタルトもあるのか)

「むむ、それじゃ私はイチゴタルト……ぁ」
「……あ」

ほんの偶然だった。
唯が取ろうとした横にあるチーズタルトを取ろうとしたところで、手が触れたのだ

「悪い、先にいいよ」
「…………うん」

顔を赤くしながらイチゴタルトを手にする唯に続いて、僕も目当てのお菓子を手にする。

「二人ともどうしたんだ?」
「え? 何が」

そんな僕たちの様子を見ていた澪が、突然聞いていた。

「いや、何だか二人の様子が変だから」
「うん。何だか付き合いたての恋人同士みたい♪」

澪の言葉に、ムギは頷きながら笑顔で告げた。

「こ、こここここここ!!!?」
「何ぃ!? 二人は、いつの間にそんな関係に?!」
「ち、違うよ律ちゃん。そう言うのじゃないって」

ムギの爆弾発言に、澪は顔を赤くして固まり律は居心地の悪い笑みを浮かべながら声を上げた。

「でも、それだとさっきのおかしな雰囲気の説明がつきませんよ?」
「それは……――「急に手が触れれば誰でもびっくりするだろ」――そ、そうなんだよ! びっくりしただけだよ!」

梓の鋭い指摘に、僕がフォローを出すと唯は人差し指を立てながら頷いた。
これで納得する―――

「怪しいどすなー。ムギ、こうなったらとことん追求するでありますよ!」
「ラジャー!」

わけがなかった。

(これ以上追及されるのもいやだし。仕方ない、脅すか)

僕はそう思い立つと右手にナイフを魔法で取り出すと律の前の机に目がけて投げた。

「へ?」

狙い通り律の前に席にナイフは突き刺さった。

「あんまり余計な詮索をすると手元が狂っちゃうかもしれないよ?」
「そ、そういえばー! 昨日テレビで見たんだけどさ―――」

僕の脅しに律は忠実だった。
思い通りに話題を強引に反らせることに成功した。

(とはいえ、律や澪の言う通りなんだよな)

澪の指摘通り、最近の僕たちはどこかおかしかった。
これまで普通にできていたことが、普通にできなくなったのだ。

(いつからだろう?)

ふと、思い返してみる。
学園祭以降、ここに来たことはない。
風邪が治りここに来たときにはすでにこのような状態だった。
なによりお見舞いも、薬を飲んだ時以外は来ていないので、きっかけで言うのであればやはりあの時しかないだろう。

(お見舞いの時に何かあったか?)

ふと考えてみる。
だが、一つ以外には思い当たることがなかった。

(いやあれは、熱に浮かされていたからだし)

唯のやわらかい笑みを見たときに感じた胸の鼓動。
それは、熱に浮かされていただけだ。
それ以外にありえない。

―――あってはならないのだ。

そんな、こんなで微妙な状態になりかけているまま、改善する兆しがなかった。
演奏の方では問題は出ていないが、このままいけば悪影響が出てくる可能性もあるため、悠長にしていられない。

(本当にどうしたものか)

僕は心の中で、考えをめぐらすが、やはり答えは出てこなかった。

(早くこの不安定な状態を何とかしないと、このまま放置しておくことは、大きなトラブルを招くことになるし)

僕はそれを一番危惧していた。
類は友を呼ぶではないが、不安定な状態は不純な要素を呼び込むことが多いのだ。
そして、解決策を見つけ出せないまま、さらに数日が過ぎていく。
僕の一番危惧していたことが実際に発生するとも知らずに。










それは、9月下旬のある日の休み時間のこと。

「全く、唯のやつは……」

僕はため息交じりでぶつぶつと文句を言いながら、唯たちのクラスである2年2組の教室へと向かっていた。
その理由は実にくだらなかった。

「どうすれば鞄を間違えるんだよ」

それは昨日の夜のことだった。





次の日の学校の授業の教科書をカバンに入れようとした時のことだった。

『あれ?』

鞄の中に手を入れた僕は、ふと手に感じた感触に首をかしげた。

『何だろう……』

僕は手探りでその感触の正体である物を取り出した。

『って、携帯電話!?』

出てきたのはピンク色の折り畳み式の携帯電話だった。
色からして僕の物ではないのは明らかだ。

『一体誰のだ?』

携帯を調べればわかることだろうが、さすがに他人の携帯電話を勝手にみるのは非常識なのでできない。

(仕方ない)

僕は軽く魔法を使うことにした。
とはいえ、携帯電話に人差し指を触れさせることぐらいだが。
その結果、

『これ、唯の携帯か』

僕は持ち主を把握することができたのだ。





(確かに昨日は色々とドタバタしていたから間違うのも納得はできるけど)

普通すぐに気付きそうなものだとは思うが、唯なので仕方がないのかもしれない。
本当は朝に通学路で手渡すつもりが、遅刻しそうな時間だったため先に学校に向かうことにしたのだ。
そして最初の休み時間である今、唯に渡すべく教室へと向かっているのだ。

「あ、ここか」

教室に入った僕が目にしたのは、一か所に固まって話している唯や律たちの姿が立った。
よく見ると唯の雰囲気がどよーんとしている。

「何を話してるんだ?」
「あ、浩介君」

近寄りながら声を掛けると、最初に反応したのはムギだった。

「実は、唯が携帯を失くしたらしくてな」
「それだったら、ここにある」

律が事情を説明してくれたことで、ようやく唯の雰囲気の理由がわかった。

「な、なにっ!?」

律の大声に、クラス中の視線が僕たちに集められた。

「これだろ?」

僕は唯に透明のビニール袋に入れておいた携帯電話を差し出す。

「あ、これだ!」
「どうして、お前が持ってんだよ」

慌てながら携帯電話をビニール袋から取り出す唯をしり目に、律が問いかけてきた。

「僕のカバンの中に入ってた」
「あ、そうか。あの時に間違えて浩君のカバンに入れちゃったんだ」
「なんだ、ビックリさせんなよな」

唯の言葉で僕の言葉が正しかったことが証明されたのか律は息を吐き出しながら、唯にそう言った。

「えへへ~。ごめんね。浩君も、ありがとう」
「っ。別にお礼を言われることじゃない。用はそれだけだから。じゃあ」

満面の笑みを浮かべてお礼を言う唯に、僕は再びあの時の鼓動を感じた。

「あ、待って」

ムギの呼び止める声にを無視して僕は早々に教室を後にした。
この時、僕は気付くべきだった。
僕たちを見ている視線に、悪意が混じっていたことに。










「それじゃ、今日は解散!」

放課後、いつものように部活を終えた僕たちは部室を後にする。

「練習もしていないのに疲れました」
「今日はいつも以上にやられてたもんな、あずにゃん」

哀愁が漂っているのも無理はなかった。
この日、梓が山中先生という魔の手によってさまざまなヘアーバンドを付けさせられた。
猫耳に始まり、ウサギの耳や犬耳等々。
しかも衣装まで作っていたようで、澪の時と同じような追いかけっこが繰り広げられることになった。
ちなみに追いかけっこの終わりは、ムギのお茶が入ったことを告げるものだったりもするのだがそれはどうでもいいだろう。
そんなこんなで昇降口で上履きからローファーに履き替えるべく下駄箱のドアを開けた。

「ん?」

中に二つに折りたたまれた白い紙のようなものが入っていた。
僕はそれを手にすると紙を広げた。

「………」

内容を見た僕は無言で四つ折りにするとポケットに入れた。

「ひっ!?」
「ゆ、唯ちゃん!?」

2組の下駄箱があるあたりから唯の息をのむ声が聞こえた。
それに少し遅れてムギの声も聞こえた。
僕は急いで唯たちの方に向かった。

「どうしたんだ?」
「それが、私にもわからなくて」

地面にうずくまり、両手で両耳をふさいでいる唯の手には紙切れがあった。

「唯、どうしたんだ?」
「浩君……これ」

震える手で、僕にその紙切れを渡してきた。

「…………………」
「浩介、ちょっと見せて」

その紙の内容に目を通している僕の手から半ばひったくるように律が紙を取った。

「なんだよこれっ」
「ひどい……」

その紙の内容を目にした律にムギが顔をしかめた。

『アノオトコトワカレロ。サモナクバオマエタチニオオキナワザワイガオトズレルダロウ』

カタカナ表記で書かれたそれは、紛れもなく脅迫文だった。

「これに関してはこっちの方で何とかする。皆は何もせずに普通にしていて。いいな?」
「……唯はいいのか?」

僕の言葉に、律は唯に尋ねる。
それに対して、唯は無言で首を縦に振った。

「それじゃ、頼むぞ」
「お願いで、浩介君」
「任せて」

律たちの頼みに僕は静かに、されど力強く頷きながら返事を返した。










「にしても、脅迫文を下駄箱に送るだなんてこれまた古典的な」

カタカナ表記にしたのは受け取る相手を怯えさせるためだろうか?
どちらにせよ、読みにくいことこの上なかった。

「とりあえず、解読文もどきでも作るか」

そうつぶやくと、僕は今日受け取った脅迫文を二通、読みやすくなるように解読した。

『あの男と別れろ。さもなくばお前たちに大きな災いが訪れるだろう』

それが、唯に届いた脅迫文の内容だ。
そしてもう一通

『平沢唯に近づくな。さもなくばお前に関係するすべてのものに大いなる災いをもたらす』

それが僕に届いた脅迫文の無いようだった。

「クリエイト、この二通の筆跡を比較して」
『了解です。マスター』

首飾りを服から出して二通の脅迫状が見える状態にする。
結果は数秒で出た。

『97%の確率で同一人物です』
「そうか。ありがとう」

やや高めの確立に、僕はこの文を書いたのは同一人物であることを確定させた。

(問題は、これを誰が送りつけたか……あれをやるか)

僕は、これを送りつけた人物を特定するため、先日鞄に入っていた携帯電話の持ち主を特定するために使った魔法を、使うことにした。
それは物に宿る持ち主のエネルギーパターンを調べるものだ。
人が触れた物には、エネルギーが宿ることがある。
それは体力などに属するもので、時間が経てばたつほど薄まっていき判別不能になる。
唯の携帯電話は、常時唯が持っていたためエネルギーが強く宿っていたために判別が素早くできたのだ。
それはともかく、僕は両手の人差し指を脅迫状の紙の上に乗せると神経を集中させる。
そして、両手を紙から離すと、右手を開くようなしぐさでホロウィンドウを展開した。
それは僕が通っている、桜ヶ丘高等学校の生徒全員の生命体反応を記したデータだ。

(こういう時に工作員がいてくれると頼もしい)

学校内にテロリストが紛れ込んでいないかを判別するため、学校に入り込んでいる工作課の者が生命データを解析してデータベース化にしているのだ。
そうすることで、前もって事件が防げるだけではなく、時間ループのように偽物が紛れ込んでもすぐに把握することができるのだ。
ちなみに、あの事件の時はすっかりこのデータベースの存在を忘れていたのは余談だ。

「犯人を男と仮定すると、現在の男子の数は約20名」

1年の方で約12人、2年生で8人程度だ。

「さらに、データから僕と慶介のデータを除外」

当然のことだが、僕は犯人ではないので、除外だ。
慶介の場合は、日ごろから”ハーレム”だの可愛い子ちゃんと付き合うだの妄言たれているし、時より嫉妬のパンチなどをしてくる(まあ、すぐに200倍で殴り返すけど)ことがある。
だが、慶介は女子に対して怖がらせるような脅迫状を書いたりは絶対にしない。
それだけは僕は胸を張って言える。

「よし、一人ずつ調べていくか」

こうして僕は18人の男子データを調べ始めた。

(これは違う)

僕が感じた物と、目の前に表示されたデータのエネルギーパターンを照らし合わせていく。

(ん?)

17人目に入ったところで、非常に似ているエネルギーパターンの人物データを見つけた。

「こいつか」

その人物の名前は『|内村《内村》 |竜輝《りゅうき》』と表示されていた。

「まだこいつが犯人という確証はないが……先手は打つべきだな」

僕はそう考えて先手を打つことにした。
通信は相手が出るかどうかがわからないので、メールにすることにした。
そして、必要なことを終えた僕は、脅迫状をカバンの中にしまい、そのまま眠りにつくのであった。
今思えば、これがすべての始まりだったとも知らずに。

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