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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第67話 占いと楽器

「…………………………」

そろそろ学園祭が近くなったある日の夜。
僕は、自室でカードを置いていった。
一番上に一枚、その下に三枚並べ、その下にも二枚並べ、さらに下には一枚並べる。
そして、カードの上に手をかざして僕は目を閉じた。

「我を照らし出しし月よ。我が名の下に全てを示せ。我が前に立ちはだかるすべての物をここに表したまえ」

僕が言葉を紡ぎ終えるのと同時に、からだから掌にかけて暖かい何かが駆け巡る。
だが、それもすぐになくなった。

『”運命など自分で切り開くもの”と仰っていたマスターが、占いをするなんて珍しいですね』
「まあね」

苦笑しながらクリエイトの言葉に答えた。

「この間の時間ループ事件で、これから先に何が起こるかを予期しておくのも一手だと思ったんだ。知っているのと知らないのとでは違うから」
『そうですか』

僕の告げた理由に、クリエイトはただそれだけ答えた。
今僕がやったのは月の力を利用したタロット占いだ。
いつもはこのようなことをしないが、この間の時間ループの一件で目の前に立ちはだかる脅威をあらかじめ知ることができれば対処ができると思ったのだ。
普通の占いでは、未来を知ればその未来を覆すことはできないとされているが、このタロット占いはその未来にならないようにする道筋に沿って行けば回避(いい結果であれば的中)する物で、ある種の道筋を示すものなのだ。

「まずは、未来に起きる結果」

僕は手前に裏向きに伏せられている一枚のタロットをめくった。
それが、この僕が心の中で思ったことの結果だ。

「なっ!?」

そのタロットの内容に、僕は言葉を失った。
そのタロットは『BREAK』だった。

「よりによって、最悪なカードが出てきたな」

『BREAK』は、文字通りすべての破滅や崩壊を意味し、最悪な部類に入るカードだった。

(僕が考えたのはか学園祭のこと……軽音部の今後のことだから、これが指し示すのは)

「軽音部の空中分解!?」

思わず叫び声をあげてしまった。

(落ち着け……そうならないようにするんだ)

何とか自分を落ち着かせ、僕はその二つ上の三枚のタロットを表にする。
それは、この結果が出る原因から連想されるものを示している。
『HEAD BAND』、『BASE』、『NATURAL』

「ヘアーバンドに、基地に天然………まったく分からない」

タロットに表示された文字に、僕は首をかしげる。
ここがこのタロットの難しいところだ。
タロットカードの中には、思うことによって内容がころころ変わる物も存在する。
今回もそのカードのようだ。

「ヘアーバンドということは頭に付けている物………ベースは基地や基礎」

全く分からない。
だが、なんとなくわかるような気がした。

「ヘアーバンド……カチューシャ………律?」

もはや連想ゲームだ。
だが、ヘアーバンドでふとカチューシャが浮かび上がったのだ。
そしてカチューシャであてはまるのは部長の律だ。

「ということは、律が原因………あり得る」

律には申し訳ないが、空中分解しそうな要因がいくつか考えられた。
だが、それは今に始まったことではない。

「後は、この『BASE』か……もしかして、これってそのままでパートを指してるんじゃないのか? ”ベース”……澪のことを」

だとすれば、納得がいく。

「つまり、澪と律が原因で空中分解ということか。あと、この『NATURAL』は何を指してるんだろう?」

最後の一枚だけ、意味が思い浮かばなかった。

「まあ、律と澪に気を付ければいいということか。それじゃ、回避する方法で、まずは第三者のやつは……」

僕は一番上に一枚だけ置かれたタロットを表にする。
そこに書かれていたのは『TALK』
つまり、話すことだった。

「話し合いで解決か……それじゃ、僕のすべきことは……は?」

僕はまだ表にしていないタロット二枚をめくり、その内容に固まった。
『MAGIC』、『NOTHING』の二枚だった。

「最初は魔法、次が何もしない………矛盾しすぎだ」

『NOTHING』は、直接的な行動をしてはいけないことを示している。
つまり僕にできるのは、当たり障りのないアドバイスをする程度のことなのだ。

「………とにかく、これで僕たちの未来は分かった。律と澪を注意して観察するようにしよう」

こちらからは何も行動をせず、傍観に徹することを決めるのであった。










それから数日ほど過ぎたある日の放課後。

「~~~~♪」
「何だかご機嫌だね梓ー」

先ほどからご機嫌に鼻歌を歌っている梓に、律が声を掛けた。

「あ、はい。学園祭が近いと思ってつい」
「初々しいね~」

どうやら初めての学園祭に、梓は思いを馳せていたようだ。

「はい! 去年の先輩たちのライブも見たかったです!」
「ぶっ!?」

梓の言葉に、ティーカップを口元に運んでいた澪がいきなり噴き出した。

「そう言えば、澪は去年の学園祭ライブで大活躍だったもんな」
「え? どういうことですか?」

そんな澪の様子に苦笑した様子で見ていた律が漏らした言葉に、梓が興味を持ったのか律に内容を聞いた

「ライブの最後にステージ上で見事な転――「言うなーーー!!」―――もごごご!」

律の代わり応えようとした僕の口を、凄まじい速度で移動した澪が口をふさいだことによって、言えなくなってしまった。

(というより、あんた魔法とか使ってないだろうな?)

一瞬澪の気配が感じられなくなってしまった僕は、心の中で澪に問いかける。

「去年のライブの映像ならここにあるわよ」
「本当ですか!」

目を不気味に光らせながら手にしている一枚のディスクを掲げながら山中先生が梓に声を掛けた。

「見る?」
「ぜひ見たいです!」

梓は席を立つと、山中先生が置いたノートパソコンの前で腰を下ろした。

「いや梓。考え直さないか?」

そんな梓に、澪は見るのをやめさせようと必死に説得を始めた。

「律ちゃん唯ちゃん」

だが、そんな澪の様子に山中先生は指を鳴らした。

「「イェッサ―!」」

すると、それだけで内容を理解したのか、律と唯はピッタリな動きで澪の両腕をつかむとずるずると物置部屋の方へと引きずっていく。

「……」

僕は無言で、部室の入り口の方に移動した。

「梓、見ない方がいいぞ。呪われるぞ?」
「それじゃ、おすすめのシーンからね」

澪の脅し(という二はものすごく古典的なものだが)の言葉をすべて無視した山中先生によって、去年のライブの映像のおすすめシーンが再生された。
音声だけでもわかる。
それは、最後のステージの上で転倒した澪のシーンだ。

「ッ!? 見ちゃいました」
「遅かった………」

梓の言葉に、哀愁漂う澪の声が聞こえてきた。
それはまさに、喜劇……悲劇だった。










気を取り直して、僕たちは去年のライブ映像を見返すことになった。
もちろん、最初の方で山中先生の言う”おすすめシーン”ではない。
今は最後の楽曲であるふわふわ|時間《タイム》の演奏シーンだった。

「それにしても、演奏の時だけは本当にいい演奏をするんですね」

そんな映像を見ているさなか、梓が感想を漏らした。
やけに”だけ”を強調して。

「だけを強調するな、だけを」
「言うようになったな、こいつ~」
「にゃ~!?」

律がチョーキングを決め、横から梓の頭を軽く小突き続けた。

(本当に、ネコじゃないかと思う)

”にゃー”と口にしている梓に、思わず僕はそんなことを考えていた。

「どうしたの?」

そんな時、いきなり噴出した唯に、ムギが声を掛けた。

「あのね、この時のことを思い出したら。クスクス」
「そう言えば、この時って」

去年の学園祭でのライブのことを思い出したのか、ムギも笑い出した。

「そう言えば、声がおかしくなってたんだっけ」

その代わりに歌ったのが澪だった。

(こうしてみると、歴史を感じるよな)

「梓にとってはこれが初めての軽音部としてのライブだからな」
「成功させような」

僕たちは二回目、梓にとっては初めてのライブだ。
僕と律は改めて成功させることを決意した。

「はい! 私も皆さんと一緒に頑張ります!」

それに梓も力強く頷いて答える。
僕たちの目指すべき未来はしっかりと定められた。

(今のところ前兆はないけど、油断はできない)

僕の脳裏によぎるのは、あの時の占いの結果のこと。
それによれば、律と澪によって、軽音部は空中分解の危機を迎えることになるらしい。
注意して律と澪を見ていたが、それらしき兆候は見えなかった。

「盛り上がっているところ悪いけど」
「あれ、和? どうしたんだ?」

そんな僕たちに声を掛けてきたのは、生徒会の真鍋さんだった。
その表情は若干呆れているような気がした。

「はい、これ」

そう言って真鍋さんが律に手渡したのを覗き込むとそれは『講堂使用届』と明記されていた。

「今年の学祭の分、出してないでしょ」
「あ、忘れてた」
「そんな、軽い言葉で」

律の問題点で上げられるのは、書類を出すことを忘れることだった。

「あんた、またですか――「高月君もよ」――はい?」

なぜか僕にまでお咎めが来てしまった。

「貴方、副部長なんだから、しっかりと臨機応変に対応していかないとダメじゃない」
「ちょっと待った! 僕、副部長じゃないですよ!?」

真鍋さんの”副部長”発言に、僕はもう講義した。

「え? でも、部活申請用紙の時に、副部長が必要だって言ったら『それじゃ、副部長は浩介で!』って言ってたわよ」
「………律ぅ?」

僕はゆっくりと律の方へと振り向きながら事の真相を問い詰める。

「あ、ごめーん。忘れてた」
「「前にもこんなことがあったよな」」

僕と澪の声が思わぬところで一致した。

「あ、それは部活申請用紙の―――――あいたぁ!?」

この日、律は二人からの痛烈な鉄拳制裁を落とされる羽目になるのであった。










「それじゃ、梓が書記な」
「え? 別にいいですけど」

突然書記に任命された梓は、困惑しながらも必要事項を明記していく。

「この『名称』ってなんですか?」
「バンド名とかじゃないの?」

梓の問いかけに、僕は即答に近い形で答えた。
そしてペンを走らせようとしたところで、梓の手が止まった。

「そう言えば、バンド名ってなんですか?」
『………』

一瞬、沈黙が走った。
そして、全員が一斉にばらばらのバンド名を口にした。

「そう言えば、決めてなかったね、バンド名」
「この機会だし決めるか」

律の言葉で、僕たちはバンド名を考えることとなった。

「だったら、平沢唯とズッコケ五人組ってどう?」
「私たちは何もんだ!」
「というか、おまけ扱いだよな? それ」

唯の提案に、律と僕で却下した。

「それじゃ、”ぴゅあぴゅあ”は?」
「はいはい。ネタはいいから」

ネタなのか本気なのかはわからないが、ものすごくぶっ飛んだバンド名を口にする澪に、律が即答で却下した。

「うっ……本気なのに」
「「本気だったんかい!?」」

まさかの本気発言に、僕までツッコミを入れてしまった。

「ほ、ほら、センスは人それぞれですし」
「梓、フォローがきついぞ」

必至にフォローをする梓に、僕は声を落としてツッコんだ。

「よしわかった!」

そんなカオスになりかけている中、声を上げたのは顧問の山中先生だった。

「私が決める!」
『もう少しみんなで考えよう!』

今度は団結した。
何せ、あの山中先生だ。
とんでもないバンド名が飛び出してくるに違いない。
ならば、この反応はある意味正しいような気がする。

「それじゃ、書き終わったら生徒会室に持ってきてね」
「あ、悪いな、和」

同じクラスだというのは聞いていたが、最近真鍋さんと澪は仲が良くなってきているような気がした。
律の話では、極度の人見知りと恥ずかしがり屋のようだが、きっとそれを超える何かがあったのだろう。

「そうだ! たまには一緒にお茶でもしようよ、和ちゃん」
「分かった。それじゃ、あとでメールする」

唯の提案に答えると真鍋さんは部室を後にした。

「それじゃ、バンド名は各自考えてくるということで、練習でもするか」
「学園祭に向けて一生懸命練習しないとな」
「はいっ!」

澪の言葉に、梓は元気に返事を返すと、練習を始めるべく準備を始めた。

「あ、そうだ。最近私のギターの音の調子が悪いんだけど」
「ん? ちょっと見せてくれる?」

そんな中、唯が訴えたギターの不調に、僕はギターを見せるように唯に促した。
そして、唯から渡されたギターケースを長椅子のところに置いて、ケースを開けると中に入っているギターを取り出した。

「げっ!?」

それを見た僕は、思わず声を漏らしてしまった。
唯のギターは非常に最悪なコンディションだった。

「何? どうかしたの?」

僕のうめき声に、唯が首を傾げた様子で尋ねてくる。

「どうもこうも、これ弦が錆びてるぞ、おい」
「あ、本当です」

僕の肩の方からギターを覗きこむように見た梓が、僕の言葉に賛同する。

「これ、いつ弦を交換したんですか?」

梓が、唯に弦を交換した日を尋ねた。

「え? 弦って交換する物なの?」
『…………』

唯から帰ってきた疑問に、僕たちは一瞬言葉を失った。
僕は今のは幻聴だと信じたかった。

「っていうか、ネックが反ってるるし、これじゃオクターブチューニングとかが全く合いませんよ!」
「お、落ち着け梓! 気持ちは分かるけど、今の唯には理解ができない」

梓のマシンガンのごとく放たれた言葉の数々に、唯は理解ができなかったのかその場で固まってしまった。

「つまり、大事にしないとダメじゃないですか。とてもいいギターなのに」
「えぇ!? 大事にしてるよ! 一緒に寝たり、洋服を着せたりとか!」
「「大事にするベクトルが違う!」」

梓の注意に反論する唯の言葉に、僕と梓は思わず同時にツッコんでしまった。

(一緒に寝てよくここまでもったよな)

唯の寝相がいいのか、はたまたこのギターの運がいいだけなのか。
どちらにせよ、あまり好ましい状況ではないのは確かだ。

「うぅ……それじゃ、さわちゃん何とかしてよ」
「え゛!? そ、そういうのは楽器屋さんに見てもらったほうがいいんじゃないかな?」

唯が山中先生に助けを求めると、山中先生は顔をひきつらせながら答えた。

「絶対にめんどくさがってる」
「あ、あはは」

律の鋭い指摘に、山中先生は乾いた笑い声をあげてお菓子を口にした。

「じゃあ、浩君ならできるよね? プロだし」
「あ、そうですよね。浩介先輩ならギターの修理とかできそうですし」

なんだかすごく過大評価されているような気がする。

「言っておくけど、僕にだって修理できる限度はあるからね」

そう言いながら僕はネックの端の部分に人差し指を触れる。
ちなみに、ネックとは一番先端とボディの中間の部分のことを言う。
僕は目を閉じて全神経を指先に集中させると、ネックの端から端まで指を滑らせる。

「ど、どう?」
「順反り……つまり、上向きにネックが反ってる。これじゃ、音がちゃんとでないはずだ」

梓の指摘通り、ネックが反っていた。

「今ので分かるのか?」
「簡単にではあるけどね」

澪の感心したような言葉に、僕は頷きながら答えた。

「ねえ浩君。ネックって反るの?」

そんな中、投げかけられた唯の疑問に、どう答えるか悩んだ。
そのまま答えてもおそらく唯には理解できないと思ったからだ。

「本とかの紙を上か下か適当に折って広げると、こういう風になるよね?」
「あ、本当だ」

ためしに、近くにあった不要な紙を軽く折って広げると折った方向に髪が動いた。

「これと同じ原理。弦を強く張っている時ネックの部分には、常に30~50㎏程の力で引っ張られている状態なんだ。でも使っていくにつれてネックは弦の力に負けてしまう。これがネックが反る理由なんだけど……理解できた?」
「全然っ!」
「だろうね」

今の説明は少し難しすぎたという自覚があった目に、唯が理解できなくても驚きはなかった。

「確実に直したいんであれば、楽器店に持っていってメンテナンスをしてもらった方がいいと思う。下手にいじって失敗すると、数万円の修理代がとられるから」
「うっ……それはさすがにきつい」
「ということで、楽器店に行くこと」

数万円という額に、唯の顔が引きつった。

「うぅ……律ちゃんは手入れとかしてないよね?」
「しとるわ!」

すがるように律に聞くが、速攻で答えが返ってきた。

「えぇー」
「私が手入れをしていないみたいな感じで聞くなっ!」
「そうだよ。いくら大雑把でいい加減であれな性格をしているからと言って、決めつけるのは良くない」

僕も律の援護射撃に回った。

「律ちゃんの癖に―――あいた!?」
「いつっ!? 僕もですか………」

律から鉄拳制裁を喰らうこととなった僕たちは、楽器店『10GIA』へと向かうこととなるのであった。

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