健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第65話 リフレイン

「………………またか」

朝、支度が終わった僕は、自室で呟く。
今日も、マラソン大会だ。
そう”またしても”だ。
記憶は、例のごとくしっかりとある。
あの時、調査の結果、ついに原因である物を見つけることができた。
だが、時計自信の時間を早めて0時にさせるという暴挙に出たのだ。
何度日付を確認してみても、マラソン大会当日だった。

「また一日を繰り返すのか……」

思わず肩を落としてしまった。

「勘弁してくれ」

さすがに、一日を何度も繰り返すのは精神的にきつい。
まさに無間地獄に近い状態だった。

「とりあえず、学校に行こう」

学校を休むわけにもいかないので、僕はいつものように自宅を後にするのであった。










「――――を誓います」

太陽の光がさんさんと照りつける中、生徒会長(名前は知らないが、いい加減覚えるようにしよう)が台に上がって右手を上げながら宣誓の言葉を告げた。
僕はそれをすでに五回も聞いていた。

(……ん?)

そんな生徒会長の姿に、僕は何かが引っ掛かった。

「それでは、よーい」

校長の掛け声とともに銃声が鳴り響く。
こうして、僕にとっては六回目のマラソン大会は幕を開けた。

(どうして何度も何度も、中盤から走ることになるんだ!)

今回もまた軽音部の皆と一緒に走ろうと考えたのだが、並ぶ順番の問題なのかはたまた別の問題なのか、今回もまた中盤付近を走ることになった。

(もういいや)

考えることが面倒になった僕は、深く考えることをやめた。

(まあマラソン自体が、僕にとっては遊びだし。というよりもうどうでもよくなってきた)

去年も今年も、僕はそれほど力を出していない。
僕にとっては幼稚園の子供を追いかけているような感じだ。
少しばかり、窮屈な感じはするもののこれはこれで力の制御の練習になるのではないかなと考えていたりする。
なので、考える方に力を入れることにした。
これ以上繰り返されると本格的に気が狂いそうだった。

(っと、もう1キロか)

1キロのポイントにたどり着き、いつものように周りの生徒が若干ペースダウンをし始めてきた。
だが、やっぱり軽音部の姿は見つからない。

(そう言えば、この辺りで梓の姿見えるんだったよな)

そんなことを思っていると、梓の姿が前の方に見えてきた。

「梓ー」

もう五回目にもなる僕は、しっかりと元の呼び方で梓の名前を呼んだ。
だが、どうしても声に活気が出なかった。

「あ……浩介先輩」

僕の声に気づいたのか、走る足を少しだけ緩めるとこっちの方を振り向いた。
そして梓も言葉に活気が全くない。
まあ、五回も繰り返しているだから当然かもしれないが。
その横に一緒に走っている二人の女子は、僕たちとは対照的に元気そうな様子でこっちに振り向いた。

「浩介さん、早いですね」
「それをそのまま、憂達に返すよ」

少し走る速度を速めて彼女たちの斜め後ろにまで迫りながら、僕は憂に返した。
もうこのやり取りを僕は、五回もしているのだ。

「こんにちは、浩介先輩」

深く考えるよりも前に、両サイドに髪を束ねた女子生徒が僕に声を掛けてきた。

「こんにちは、鈴木さん」
「はい! 名前覚えててくれたんですね」

正しい名前を口にすると、うれしそうな表情を浮かべてくれた。

「まあね、さすがに忘れないよ」

なにせこれで五回目になるのだから。

「ところで、唯たちは見たか?」
「唯先輩ですか? 見てませんけど」
「そうか……」

梓の返事に、僕は顎に手を添えて考える。

(ここを走っていないとなると、終盤の方だな。確実に)

よくよく考えれば軽音部は一部のメンバーを除いて、運動が得意そうな印象を受ける人物はいない。
どう考えても一番後ろの方を走っている可能性が高かった。
というより、唯の様子がものすごく気になった。
もしかしたら気が滅入っているのかもしれない。

「あの浩介先輩も、良ければ一緒に走りませんか?」
「……鈴木さんが迷惑でなければ」

梓の提案に、僕は考え込みながら返した。
後ろに下がることは考えなかった。
速度をこれ以上落とすのは僕には無理だからだ。
走るのをやめて待つというのもあるが、それはそれでなんかいやだった。

「私は構わないですよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」

鈴木さんが頷いたので、僕は梓達と共に走ることにした。

(この後に鈴木さんからギターのコーチを頼まれるんだよな)

「あ、憂から聞いたんですけど浩介先輩ってギターなんですよね?」
「そうだけど、何か?」

そんなことを思っている最中、鈴木さんから声が掛けられた僕は、分からないふりをして先を促した。

「その、もしよければ私にも教えてほしいな、と」
「……? どういうことだ?」
「あ、純ちゃんはジャズ研究部でベースを担当しているんです」

僕の知っている鈴木さんの問いかけに、僕は理由がよくわからないのを演じる。
下手をすると予知能力があると思われかねないからだ。
魔法のことを隠さないといけない。
だからと言って、同じやり取りを繰り返すというのは精神的にきつい。
そんな僕に、憂がすかさず説明をしてくれた。

「なるほど。だが、ベースだったら僕ではなく澪の方が適任だろ? ギターとベースとでは若干奏法も異なってくるし」
「そうなんですけど、ジャズ研の先輩から浩介先輩のギターは格好いいって聞いたので」

(それにしても理由が”かっこいいから”というのは、わかりかねるよな)

素直に喜んでいいのかわからない理由に、僕は再び心の中で苦笑する。

「まあ、考えておくよ」
「お願いします」

考えるとは言ったが教える可能性は限りなく0に近い。
理由としては部同士の問題だ。
軽音部とジャズ研究部はある種の競合関係……つまり、ライバルになる。
それぞれの部長が、部外者の介入を快く思うかどうの問題だ。
例えるならば、別の会社の社長が、ライバル会社の経営に介入するような感じだ。
どちらにせよ、律に話を通す必要があるが、それをする気は今の僕にはなかった。
僕をその気にさせる”何か”があれば話は別だが。
彼女には悪いが。

(まずは、この繰り返される一日の、問題解決だ)

それが解決しない限り、僕たちに未来はないのだから。

「梓、放課後に部室で」
「……分かりました」

僕は梓にそれだけ告げた。
そんなこんなで、僕たちは六回目のマラソン大会を走りきるのであった。










「………これで大丈夫かな」

先に部室にやってきた僕は、前と同じように部室前の階段のところに、ある仕掛けを施していた。
そして僕は目を閉じて梓が来るのを待った。

(ん、梓だ)

おそらく急いできたのか、駆け足で階段を上がってきているのがわかった。

「ラ・ベネーリア」

そしてタイミングよく、ある魔法を発動させた。
それと同時に、ドアが乱暴に開け放たれる。

「はぁ………はぁ……こ、こんにちは」
「お疲れ。というより、そこまでは知らなくてもいいのに。どうぞ」

息を切らしながら挨拶をしてくる梓に、僕は苦笑しながらいつも梓が座る椅子を引いて座るように促した。

「ど、どうも……です」

席に着いたところで、紅茶を出すとお礼を口にした梓はそのまま紅茶に口をつけた。

「あ、浩君にあずにゃん」
「唯先輩!」

それから少しして前と同じように、僕のループの魔法を無効化して入ってきた唯は、いつもの僕の隣の席に腰掛けた。

「どうしよう?」
「今やってみるのはどうですか?」

唯が口にした言葉に、梓が閃いたのか僕に促してきた。

「やってみるか?」

僕はそれだけを告げると、格納庫から一本の剣を取り出す。

「ふんっ!」
「あっ!?」
「弾いた!」

剣を時計に向けて振り下ろすが、時計を覆っている何かによって弾かれてしまった。

「こうやって弾かれる。おそらく昼間は時計の周りに結界のようなものを張っているんだろう」

おそらく、それが魔力の流れがおかしかった原因の一つだ。
昼間でも常時魔力を消費していれば、魔力の流れが不自然なものになってもおかしくない。

「この時計、一体どういう仕組みなのかな?」
「午前0時になった瞬間に、それまでため込んでいた魔力を消費して時間を巻き戻す。だから、それ以外ではほんのわずかな時間を巻き戻したり時計だけ時間を進めたりすることしかできない」

唯の疑問に、僕が突き止めたこの時計の仕組みを告げた。

「この時計には、魔力回路の基盤が存在するはず。それをへし折ってやれば時間の巻き戻しは無くなる」
「それをするには、時計を壊すしかないんですか?」

あまり乗り気ではない梓の問いかけに、僕は無言で頷いた。

「外から見てもどれが基盤かはわからない。取り出せばすぐにわかるんだけど。それにもしかしたら魔力回路以外に何らかの仕掛けが施されている可能性が高い。だったら完全に破壊した方が確実なんだ」
「やっぱり、犯人はムギちゃんなのかな?」

そんな中、唯がポツリと漏らした。

「でも、ムギ先輩がそんなことをするような人には見えません!」
「僕とて同じだ。おそらくムギは全く関係ない。だから、今回のことで咎めは一切ないはずだ」

梓の意見に賛同しながら、僕は”それよりも”と言葉を続けた。

「どうやってこれを何とかするかだ」
「壊そうとすれば、前みたいに時間を止められたりはやめて巻き戻されたりしてしまいますし」
「ねえねえ、バリアのようなものはどうかな?」

頭を抱える中、唯が右手を挙げて提案してきた。
確かに、それもいい案だ。
だが、

「防御魔法や、結界などは魔法攻撃などは防げても、時間操作などから守ることはできない」
「そうなんだ………むー」

僕の返答に、頭を抱える二人をしり目に、僕は席を立つと例の時計の前に立つ。

(一体どうすれば、この時間のループを止められるんだ)

時計に手を置きながら、僕は考えを巡らせる。

(…………ん?)

そんな時、ふと何かを感じた。

(なるほど。そう言うことか)

僕はこの時、すべての問題を解決させることに成功した。

「いや、あった。時間操作を無効化できる魔法が」
「本当ですか!?」

僕の言葉に、希望を抱いた目で僕を見てくる梓に、僕は無言で頷いた。

「今夜、決着をつけるよ!」
「「おー!」」

そして、僕たちは今夜すべての決着をつけることを誓い合うのであった。










「はぁ~、マラソンの後のお菓子は格別どすなー」
「そうですな~」
「おやじか、お前らは」

それから数分後、部室前の階段にかけていたループの魔法を解除してすぐにやってきたムギ達とともに、ムギが出してくれたケーキに舌鼓を打っている中、椅子にもたれかかりながら声を上げる唯とそれに乗る律に、澪がツッコみを入れた。
唯のあそこまでの変わりようには、僕も目を見張るものがある。

「でも、楽しかったわね、マラソン大会」
「はい。また来年が楽しみですね」

とはいえ、梓とムギの二人はある意味間違っているような気がしたが。
しかし、このやり取りも五回見るとうんざりしてくるところがあるのは気のせいだろうか?

「はぁ~疲れたわ」
「あ、さわちゃん」

そんな中、ため息交じりに入ってきた山中先生に、唯が反応した。

「ムギちゃん、紅茶とお菓子をお願い~」
「分かりました」
「完全にたかってる」
「というより、教師の面目丸つぶれですね」

ムギが席を立って紅茶とお菓子の用意をしている中、律のつぶやきに僕が続いた。

「だって、大変なのよ。教師というのも」
「へぇ~」
「先生ですしね」

山中先生の反論に、唯は分かっているのいないのか微妙な声を上げ、梓は想像がついたのか頷きながら答えた。

(あ、そうだ)

僕はこの後に起こるであろうことを思いだし、その場から移動する。

「もう、作業感丸出しですね」
「お待たせしました。紅茶が入り―――きゃ!?」
「……」

次の瞬間、頭の上から熱い液体が降ってきた。

「だ、大丈夫かムギ?」
「わ、私は大丈夫だけど、浩介君が」
「……僕は大丈夫」

ムギの言葉に導かれるように、全員がこっちを見るので、僕はそれだけ答えた

「ご、ゴメンなさい。本当にわざとじゃないのよ。本当よ!」
「いや、分かってるから。こんなのかすり傷にもならないし」

とりあえずハンカチで頭をふきながら目の端に涙を浮かべながら謝るムギを落ち着かせた。

「僕にも、お茶のおかわりをもらえるかな? それでこの件はおしまい」
「わ、わかったわ。とびきりおいしい紅茶を淹れるわね」

(過程を変えても結果は変わらないんだった)

僕は、時間ループの際の原則の話を思い出しながら心の中でつぶやいた。
ちなみに、この原則は簡単に言えばループした日に起きたことを体験しないようにしても、必ず自分の身に降りかかるということだ。
つまり、僕の場合は予備のトレイで頭を覆っていたので、問題はなかった。
だが、今回はただ席を移動しただけだったので、ティーカップはちゃんと僕の頭上にやってきたのだ。
時間を何度も繰り返すと、こういうことがあるから侮れないのだ。

「お茶入りましたよー」
「ありがとう」

それから数分後、ムギが紅茶のおかわりが入ったティーカップを手に戻ってきた。

「あ、そう言えば浩君たちは順位はどうだったの?」
「僕はあずにゃんと同じだったと思うよ」
「浩介君はやっぱり早いんだね」

僕の答えに、ムギは紅茶のおかわりが入ったカップを置きながら言った。

「まあね」
「去年はトップでゴールしてた程よ」

そんな中、山中先生が、ウインクしながら人差し指を立てて補足した。

「あんたは化け物か!」
「あ、でも。浩君だから当然かー」

ツッコミを入れる律に、納得顔の唯。

「ずるでもしたのか?!」
「するか! 普通に走っただけだ」

律に掛けられたあらぬ誤解に、僕は猛反論した。

「そうよ。今回のコースは近道なんてないもの」

唯たちが示している言葉の意味を知らない山中先生は、言葉通りに受け取って僕の言葉に賛同した。

「あ、そうだ。走ってる時に、おいしいケーキ屋さんがあったんだよー」

ふと唯が話題を変えたことで、話はケーキ屋のこととなった。

「やっぱり、今日も練習は無しですか」
「あはは……明日は大丈夫だと思うよ……たぶん」

肩を落としている梓に、僕は苦笑しながらそうフォローの声を掛けるのであった。
まあ、その明日が来ればだけど。










「よし、行くか」

僕は気合を入れると杖状のクリエイトを手にする。
そして部屋の明かりを消して窓を開ける。
僕は認識阻害魔法を自身に施してから、窓から飛び出た。
そして流れるような動きで杖の上に乗った僕は協力者たちの家に向かうのであった。

「そろそろ唯の家だ。あずにゃん、電話を」
「は、はい!」

空を飛んで協力者の一人である梓にもう一人の協力者への連絡を頼んだ。
そうしているうちに、平沢家が見えてきた。
すると、唯の部屋と思われる窓が開いた。
僕はその窓の近くで止まった。

「ヤッホー」
「それはいいから、早く乗って」

まるで山に来た時のような声を上げる唯に、僕は促した。

「それじゃ、失礼します……っと!?」
「あ、危な!? 気を付けてよ」
「えへへ、ごめんごめん」

再びバランスを崩しかける唯の手をつかんで、僕は梓の後ろに座らせた。

「狭いですのう」
「当然だ。これは乗ったとしても、そもそも二人が限界だ」

不満を漏らす唯に、僕はため息をつきながら答えた。
今もクリエイトは念話で悲鳴を上げ続けている程だ。

「しっかりつかまって。飛ばすよ!」
「了解であります!」

僕は魔力をいつより三倍ほど消費させることで学校へと向かうのであった。

「やはり、警備員の姿があるな」
「そうですね」
「どうするの? 浩君」

学校の上空を飛行する僕は、校門付近で巡回をしている警備員の姿を見つけた。
僕はそれに目もくれずに、そのまま校舎の屋上の方へと降りたった。
そこは扉を開ければ部室に続くドアがあるので、非常に便利な場所だった。

「さて、今の時間は?」
「11時35分です」

ここに来るので5分の時間をロスしてしまった。

「それじゃ、行くよ」
「「はい!」」
僕は、二人に声を掛けた。

「オープラ」

そして僕は呪文を唱えることでドアを開けると、屋上を後にする。
そして中に入った僕は、音楽準備室ではなく、その横の音楽室のドアノブに触れると、これまた魔法で鍵を開けた。

「唯、ちゃんとついてきてるか?」
「大丈夫だよー」

不安材料でもある唯に、僕は確認を取った。
唯から返事が返ってきたようなので、どうやら大丈夫のようだ。
そして物置に通じるドアを開けた。
そして奥の部室に続くドアの前に立った。

「高月家儀流・特幕……」

呪文を紡ぎながら、ドアを開けて部室に侵入し、

「闇の誘い!」

時計が時間を止めるよりも早く、対策用の魔法を発動させた。
その瞬間、周辺が白い光で包まれていく。

「まぶしっ!?」

後ろの方で唯たちが声を上げるが、それを気にせずに僕は剣状のクリエイトを振り上げる。

「はぁっ!!」

そして、それを時計に向けて振り下ろすのであった。

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