「………………なぜ?」
朝、支度が終わった僕は、自室で呟く。
今日も、マラソン大会だ。
そう”またしても”だ。
記憶はしっかりとある。
あの時、調べる段階にまで進むことができた。
何度日付を確認してみても、マラソン大会当日だった。
「また一日を繰り返しているな……これは」
そう思うのが妥当だった。
「時間切れか」
原因は、おそらく時間切れになったためだ。
25分でしっかりと集中して調べようとすれば、その分だけかかる時間は増えていく。
「とりあえず、学校に行こう」
僕はそう結論を出して、いつものように自宅を後にするのであった。
「――――を誓います」
太陽の光がさんさんと照りつける中、生徒会長(名前は知らないが、いい加減覚えるようにしよう)が台に上がって右手を上げながら宣誓の言葉を告げた。
僕はそれをすでに四回も聞いていた。
「それでは、よーい」
校長の掛け声とともに銃声が鳴り響く。
こうして、僕にとっては五回目のマラソン大会は幕を開けた。
(どうしてまた中盤から走ることになるんだ!)
軽音部の皆と一緒に走ろうと考えたのだが、並ぶ順番の問題なのか、はたまた別の問題なのか、今回もまた中盤付近を走ることになった。
(もういいや)
考えることが面倒になった僕は、深く考えることをやめた。
(まあマラソン自体が、僕にとっては遊びだし)
去年も今年も、僕はそれほど力を出していない。
僕にとっては幼稚園の子供を追いかけているような感じだ。
少しばかり、窮屈な感じはするもののこれはこれで力の制御の練習になるのではないかなと考えていたりする。
なので、考える方に力を入れることにした。
(っと、もう1キロか)
1キロのポイントにたどり着き、周りの生徒が若干ペースダウンをし始めてきた。
だが、やっぱり軽音部の姿は見つからない。
(そう言えば、この辺りで梓の姿見えるんだったよな)
そんなことを思っていると、梓の姿が前の方に見えてきた。
「梓ー」
もう四回目にもなる僕は、しっかりと元の呼び方で梓の名前を呼んだ。
だが、声に活気はなかった。
「あ、浩介先輩」
僕の声に気づいたのか、走る足を少しだけ緩めるとこっちの方を振り向いた。
梓も活気が全くない。
まあ、四回も繰り返しているだから当然かもしれないが。
その横に一緒に走っている二人の女子もこっちに振り向いた。
「浩介さん、早いですね」
「それをそのまま憂達に返すよ」
少し走る速度を速めて彼女たちの斜め後ろにまで迫りながら、僕は憂に返した。
もうこのやり取りを僕は、四回もしているのだ。
「こんにちは、浩介先輩」
深く考えるよりも前に、両サイドに髪を束ねた女子生徒が僕に声を掛けてきた。
「こんにちは、鈴木さん」
「はい! 名前覚えててくれたんですね」
正しい名前を口にすると、うれしそうな表情を浮かべてくれた。
「まあね、さすがに忘れないよ」
これで四回目になるのだから。
「ところで、唯たちは見たか?」
「唯先輩ですか? 見てませんけど」
「そうか……」
梓の返事に、僕は顎に手を添えて考える。
(ここを走っていないとなると、終盤の方だな。確実に)
よくよく考えれば軽音部は一部のメンバーを除いて、運動が得意そうな印象を受ける人物はいない。
どう考えても一番後ろの方を走っている可能性が高かった。
「あの浩介先輩も、良ければ一緒に走りませんか?」
「……鈴木さんが迷惑でなければ」
梓の提案に、僕は考え込みながら返した。
後ろに下がることは考えなかった。
速度をこれ以上落とすのは僕には無理だからだ。
走るのをやめて待つというのもあるが、それはそれでなんかいやだった。
「私は構わないですよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
鈴木さんが頷いたので、僕は梓達と共に走ることにした。
(この後に鈴木さんからギターのコーチを頼まれるんだよな)
「あ、憂から聞いたんですけど浩介先輩ってギターなんですよね?」
「そうだけど、何か?」
そんなことを思っている最中、鈴木さんから声が掛けられた僕は、分からないふりをして先を促した。
「その、もしよければ私にも教えてほしいな、と」
「……? どういうことだ?」
「あ、純ちゃんはジャズ研究部でベースを担当しているんです」
僕の知っている鈴木さんの問いかけに、僕は理由がよくわからないのを演じる。
下手をすると予知能力があると思われかねないからだ。
魔法のことを隠さないといけない。
だからと言って、同じやり取りを繰り返すというのは精神的にきつい。
そんな僕に、憂がすかさず説明をしてくれた。
「なるほど。だが、ベースだったら僕ではなく澪の方が適任だろ? ギターとベースとでは若干奏法も異なってくるし」
「そうなんですけど、ジャズ研の先輩から浩介先輩のギターは格好いいって聞いたので」
(それにしても理由が”かっこいいから”というのは、わかりかねるよな)
素直に喜んでいいのかわからない理由に、僕は再び心の中で苦笑する。
「まあ、考えておくよ」
「お願いします」
考えるとは言ったが教える可能性は限りなく0に近い。
理由としては部同士の問題だ。
軽音部とジャズ研究部はある種の競合関係……つまり、ライバルになる。
それぞれの部長が、部外者の介入を快く思うかどうの問題だ。
例えるならば、別の会社の社長が、ライバル会社の経営に介入するような感じだ。
どちらにせよ、律に話を通す必要があるが、それをする気は今の僕にはなかった。
僕をその気にさせる”何か”があれば話は別だが。
彼女には悪いが。
(まずは、この繰り返される一日の、問題解決だ)
それが解決しない限り、僕たちに未来はないのだから。
「梓、放課後に部室で」
「……分かりました」
僕は梓にそれだけ告げた。
そんなこんなで、僕たちは五回目のマラソン大会を走りきるのであった。
「………これで大丈夫かな」
先に部室にやってきた僕は、前と同じように部室前の階段のところにある仕掛けを施していた。
そして僕は目を閉じて梓が来るのを待った。
(ん、梓だ)
おそらく急いできたのか、駆け足で階段を上がってきているのがわかった。
「ラ・ベネーリア」
そしてタイミングよく、ある魔法を発動させた。
それと同時に、ドアが乱暴に開け放たれる。
「はぁ………はぁ……こ、こんにちは」
「お疲れ。というより、そこまでは知らなくてもいいのに。どうぞ」
息を切らしながら挨拶をしてくる梓に、僕は苦笑しながらいつも梓が座る椅子を引いて座るように促した。
「ど、どうも……です」
席に着いたところで、紅茶を出すとお礼を口にした梓はそのまま紅茶に口をつけた。
「それで、こうなった原因はやっぱり?」
「はい。12時になってしまいました」
僕の問いかけに、梓は頷くと答えてくれた。
「それで、そっちは収穫は?」
僕の問いかけに、梓は首を横に振ることで答えた。
「あ、浩君にあずにゃん」
「唯先輩!」
「ゆい、そっちの方は収穫はあったか?」
前と同じように、僕のループの魔法を無効化して入ってきた唯に、僕はすぐに問いかけた。
「全然だった。二人は?」
唯の問いに、僕たちは首を横に振った。
「唯はどのあたりまで調べた」
「えっとね……」
僕の疑問に、唯はドアの前の壁からドラムのあたりまで歩いていく。
「ここまで!」
「全然進んでないな」
まだ割り当てられた面積の1割も達していなかった。
「梓は?」
「えっと、私は……この辺りまでです」
梓が指し示したのは長椅子だった。
「あずにゃんも進んでないんだね」
「まあ、床に比べて物は調べる箇所が多いから。僕だってそんなもんだし」
僕はドア付近から洗面台までしか調べることができていなかった。
結局のところ、人手が足りないのだ。
「ねえ、魔法連盟の人にお願いしたらどうかな?」
そんな中、真剣な面持ちで唯がそんなことを提案してきた。
「確かに、魔法連盟に調査の要請をすれば、数十人規模で調査が行われるからかなり効率はいいかもしれないね」
そう言う意味では唯の提案は確かに素晴らしい案だった。
「それじゃ――」
「でもね」
僕は、唯の言葉を遮って話を続けた。
「要請してから調査に入るまで最低でも1日は要する。人員を集めて作業方法の検討とかもあるからすぐに調査は無理」
「12時になると、またやり直すことになるから、確かに意味がないですよね」
僕の話を聞いた梓が相槌を打つ。
「こうなったら!」
「今調べても無駄だ。昨日からそれをしているけど、昼間はどうやら完全に隠れているようで気配が把握できないんだ」
調べだそうとする唯に、僕は残酷な事実を告げた。
「結局、夜にやるしかないんですね」
「今夜こそ、突き止めるんだ」
そうしなければ、僕たちはまたマラソン大会で走る羽目になるのだから。
「はぁ~、マラソンの後のお菓子は格別どすなー」
「そうですな~」
「おやじか、お前らは」
それから数分後、部室前の階段にかけていたループの魔法を解除してすぐにやってきたムギ達とともに、ムギが出してくれたケーキに舌鼓を打っている中、椅子にもたれかかりながら声を上げる唯とそれに乗る律に、澪がツッコみを入れた。
唯のあそこまでの変わりようには、僕も目を見張るものがある。
「でも、楽しかったわね、マラソン大会」
「はい。また来年が楽しみですね」
とはいえ、梓とムギの二人はある意味間違っているような気がしたが。
しかし、このやり取りも四回見るとうんざりしてくるところがあるのは気のせいだろうか?
「はぁ~疲れたわ」
「あ、さわちゃん」
そんな中、ため息交じりに入ってきた山中先生に、唯が反応した。
「ムギちゃん、紅茶とお菓子をお願い~」
「分かりました」
「完全にたかってる」
「というより、教師の面目丸つぶれですね」
ムギが席を立って紅茶とお菓子の用意をしている中、律のつぶやきに僕が続いた。
「だって、大変なのよ。教師というのも」
「へぇ~」
「先生ですしね」
山中先生の反論に、唯は分かっているのいないのか微妙な声を上げ、梓は想像がついたのか頷きながら答えた。
(あ、そうだ)
僕はこの後に起こるであろうことを思いだし予備のトレイを頭上に構える。
「お待たせしました。紅茶が入り―――きゃ!?」
「……」
次の瞬間、いつものようにボードを持つ手に衝撃を感じた。
「だ、大丈夫かムギ?」
「わ、私は大丈夫だけど、浩介君が」
「……こっちは大丈夫だ」
ムギの言葉に導かれるように、全員がこっちを見るので、僕はボードを頭の方から退けて答えた。
「よ、よかった……」
ほっと胸をなでおろす様子のムギ。
「僕にも、お茶のおかわりをもらえるかな? それでこの件はおしまい」
「わ、わかったわ。とびきりおいしい紅茶を淹れるわね」
僕は、そんなムギに紅茶のおかわりをお願いした。
「お茶入りましたよー」
「ありがとう」
それから数分後、ムギが紅茶のおかわりが入ったティーカップを手に戻ってきた。
「あ、そう言えば浩君たちは順位はどうだったの?」
「僕はあずにゃんと同じだったと思うよ」
「浩介君はやっぱり早いんだね」
僕の答えに、ムギは紅茶のおかわりが入ったカップを置きながら言った。
「まあね」
「去年はトップでゴールしてた程よ」
そんな中、山中先生が、ウインクしながら人差し指を立てて補足した。
「あんたは化け物か!」
「あ、でも。浩君だから当然かー」
ツッコミを入れる律に、納得顔の唯。
「ずるでもしたのか?!」
「するか! 普通に走っただけだ」
律に掛けられたあらぬ誤解に、僕は猛反論した。
「そうよ。今回のコースは近道なんてないもの」
唯たちが示している言葉の意味を知らない山中先生は、言葉通りに受け取って僕の言葉に賛同した。
「あ、そうだ。走ってる時に、おいしいケーキ屋さんがあったんだよー」
ふと唯が話題を変えたことで、話はケーキ屋のこととなった。
「やっぱり、今日も練習は無しですか」
「あはは……明日は大丈夫だと思うよ……たぶん」
肩を落としている梓に、僕は苦笑しながらそうフォローの声を掛けるのであった。
まあ、その明日が来ればだけど。
「お風呂も入って、予習復習もできたし、残すは……」
時刻は夜の9時30分。
やることをすべて終えた僕は、自室に入って腕を伸ばしながらつぶやいた。
「これか……」
そんな僕の視線の片隅に見えた段ボール箱に、先ほどまで上げていた腕を力なく降ろしながらつぶやいた。
それは魔法連盟での僕の仕事用の書類が入ったものだ。
「やれやれ、起訴か不起訴かを決めるのも大変だよ……」
ため息交じりに呟きながら、僕は段ボール箱の中からファイルを10個程度取り出した。
本当は500ほどあったが、これまでにコツコツやって終わらせたのだ。
それの提出期限は今日の23時59分59秒までだ。
だからこそ急いでやらなければならない。
「一つ10分以内に終わらせれば間に合うか」
ファイルの内容は数百ページにも及ぶが、何とかなるだろう。
……たぶん。
僕は、できる限り急いで仕事に取り組むのであった。
そして、二時間後の11時30分。
「終わったー!」
何とか仕事を終わらせることができた僕は、固まった筋肉をほぐしながら仕事を終えた解放感に浸っていた。
「さて、この書類を段ボールに詰めて……」
僕は段ボールの箱に10このファイルを詰めるとテープで閉じた。
「後は、転送システムで送ればいいだけ」
右腕を前方に掲げ、手を開くようなしぐさをしてホロウィンドウを展開させる。
そして『転送』の項目に手を触れると、目の前の段ボール箱が光りだし大きく光を放った。
光が薄まると、目の前の段ボール箱は跡形もなく無くなっていた。
(しかし、同じことを四回もするのはきつい)
「よし、行くか」
僕は気合を入れると杖状のクリエイトを手にする。
そして部屋の明かりを消して窓を開ける。
僕は認識阻害魔法を自身に施してから、窓から飛び出た。
そして流れるような動きで杖の上に乗った僕は協力者たちの家に向かうのであった。
「そろそろ唯の家だ。あずにゃん、電話を」
「は、はい!」
空を飛んで協力者の一人である梓にもう一人の協力者への連絡を頼んだ。
そうしているうちに、平沢家が見えてきた。
すると、唯の部屋と思われる窓が開いた。
僕はその窓の近くで止まった。
「ヤッホー」
「もうそれはいいから、早く乗って」
まるで山に来た時のような声を上げる唯に、僕は促した。
「それじゃ、失礼します……っと!?」
「あ、危な!? 前にも言ったけど気を付けてよ」
「えへへ、ごめんごめん」
再びバランスを崩しかける唯の手をつかんで、僕は梓の後ろに座らせた。
「狭いですのう」
「当然だ。これは乗ったとしても、そもそも二人が限界だ」
不満を漏らす唯に、僕はため息をつきながら答えた。
今もクリエイトは念話で悲鳴を上げ続けている程だ。
「しっかりつかまって。飛ばすよ!」
「了解であります!」
僕は魔力をいつより三倍ほど消費させることで学校へと向かうのであった。
「やはり、警備員の姿があるな」
「そうですね」
「どうするの? 浩君」
学校の上空を飛行する僕は、校門付近で巡回をしている警備員の姿を見つけた。
僕はそれに目もくれずに、そのまま校舎の屋上の方へと降りたった。
そこは扉を開ければ部室に続くドアがあるので、非常に便利な場所だった。
「さて、今の時間は?」
「11時35分です」
ここに来るので5分の時間をロスしてしまった。
「僕たちのここに来た目的は、ちゃんと覚えているよな?」
「はい。時間を繰り返す原因を探すんですよね?」
梓の答えた言葉に、僕は頷いて答えた。
「探し方は覚えているよね? 唯」
「もちろんです! えっと、目を閉じて手をかざしていけばいいんだよね」
「正確には、全神経を掌に集中させればいい。魔力で動くものがあれば、掌がひりひりしたり暖かいものを感じたりするはずだから」
唯の答えに僕は満足げに頷くと、右手を開くようなしぐさで、ホロウィンドウを展開する。
そして『転送』の項目に触れた。
「これを忘れずに」
僕は二人にそう告げて、黒色のマントを手渡した。
「オープラ」
そして僕は昨日と同じ要領でドアを開けると屋上を後にする。
そして中に入った僕は、音楽準備室ではなく、その横の音楽室のドアノブに触れると、これまた魔法で鍵を開けた。
「唯、ちゃんとついてきてるか?」
「大丈夫だよー」
不安材料の唯に僕は確認を取った。
唯から返事が返ってきたようなので、どうやら大丈夫のようだ。
そして物置に通じるドアを開けた。
そして奥の部室に続くドアを慎重にあける。
「調べる場所は昨日の続き。原因を見つけたら何もせずに僕を呼ぶように。オーケー?」
「「はい」」
二人に指示を出した僕たちは、それぞれの場所を調べていく。
(違う……)
手をかざしていくが、なかなか見つからない。
やがて、洗面台の反対側の窓付近にある棚の方に差し掛かった時だった。
「ッ!?」
明らかに、掌に魔力の反応を感じた。
「見つけた」
「え!?」
僕の言葉に反応した二人がこっちに駆け寄ってきた。
「原因はこの時計だ」
僕が見ているのは、ムギが頂き物として持ち込んだ置時計だった。
「ムギ先輩の時計が、まさか……」
「それじゃ、この繰り返しの犯人はムギちゃん?」
「それはどうでもいい。早くこいつをどうにかしないと」
疑問に頭を抱える二人に、僕は厳しい口調で声を掛ける。
時計が指し示す時間は11時50分。
もう時間がなかった。
「でも、どうすれば?」
「簡単だ、こいつを破壊すればいい」
唯の疑問に、僕は一番確実な方法を答えた。
破壊すれば、どんな魔法が掛けられていようとも、機能することは不可能になる。
また解除する必要がないため、一番簡単な方法だ。
尤も、かなり乱暴ではあるが。
「ダメだよっ! これはムギちゃんが持ってきてくれた奴だよ!」
「他に方法とかはないんですか」
反対の声を上げる唯に賛同するように、梓が訊いてきた。
「あることにはあるが、かなり難しい」
「どういうことですか?」
「こいつには、センサーのようなものがついているらしい。無力化する際には構造の把握をする必要があるが、ちょっとでも魔力を流せばすぐに反応して時間を巻き戻されてしまう」
構造把握ともいうが、これをするには魔法を使って精密に調べる必要があるのだ。
この場合、当然だが魔法を使う必要がある。
魔力も当然探知魔法に引っ掻かればこの時計は時間を操作してしまうだろう。
「僕は別にかまわないよ? あと数十回ほど今日を繰り返すことになるけど」
「う……」
「それはそれで、嫌だ」
僕の挙げた回数に、二人は勢いを失った。
「この時計のことについては、明日ムギに僕から説明して謝る。それでいいでしょ?」
「「………」」
二人は無言で頷くことで答えた。
「それじゃ……」
僕は格納庫から一本の剣を取り出した。
「高の月武術……なっ!?」
僕が保有する武術で、時計を破壊しようとしたところで、時計がとんでもない動きをした。
なんと、時計の針がゆっくりと動き出したのだ。
「ど、どうしたんですか!?」
「浩君!?」
二人の悲鳴にも似た声が聞こえる。
長針が文字盤の”11”を通過した。
「いけない! こいつ、時計だけ時間を―――――――――――――――
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