健康の意識 忍者ブログ

黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第61話 新学期

合宿というのは過ぎてみればあっという間に終わってしまった。
三日目は一日中遊ぶことになった。
なんでも『昨日で今日の分練習したから!』という律の主張だった。
あの時の梓の呆れたような、律の気持ちも分かるという複雑な表情を浮かべていたのは、僕の記憶にも新しい。
あっという間なのは夏休みとて同じっだ。
つまり、何を言いたいのかというと。

「今日からまた学校が始まる」

ということであった。
僕はしっかりと準備を済ませており、いつでも出られる状態だった。

(うーむ……そろそろ出るか)

時刻は7時30分。
時間的にも今出れば十分に間に合うだろう。
今日は始業式とHRくらいしかない。
ならば早めに行くのもいいだろう。

「よし、行くか」

そして僕は少し早いが自宅を後にするのであった。










「よっ! 浩介」
「慶介か」

踏切を超えたところで呼び止めたのは慶介だった。

「何だよ、久しぶりに会った友にかける言葉がそれかよ」
「お前が友なのかどうかは別として、久しぶり」
「いや、そこはとっても重要だぜ!」

ちゃっかりと僕の言葉の前半を拾う慶介に、いつも通りだと実感した。

「今日放課後暇か?」
「残念ながら、部活です」

部長である律から今日の放課後も部室に集合と告げられている。
言われたのは昨日の夜だけど。

「そっかー、部活じゃ仕方ないよなー。例え、お茶を飲むだけだとしても」
「ちゃんと練習してますから」

慶介の言葉に、ある種の嫌味を感じた。
確かに練習とお茶を飲む時間の比率は3:7だけど。

「まあ、いつか付き合ってくれよ。この間みたいにゲーセンで遊ぼうぜ」
「考えておく」

この間のようにゲーセンで遊びつくすのも悪くないと思い、僕はそう返した。

「ところで、夏休みはどうだったんだ?」
「いつも通りだ。合宿で言った場所の近くにある海で泳いだりしただけだ」

慶介に訊かれた僕は、夏休みのことを思い起こす。
今年の夏はとてもエキサイティングだった。
特に、僕が魔法使いであることを知られるという事態が。

「な、なぁんだとぉ!!」
「うわ!? いきなりなんだ」

道の真ん中で大声を上げた慶介に、周囲を歩く人から視線が集まる。

「浩介、今の言葉をもう一遍言ってみろぉ!」
「うわ!? いきなりなんだ」
「ぬぁにぃ!! って、そうじゃない!」

慶介に言われた通り、先ほどの言葉をもう一度言うと、冷静なツッコミが入った。

「海で泳いだとか言ってたよな!?」
「ああ、言ったよ」

一体何の問題があるのかが分からないまま、僕は慶介に答えた。

「それって、軽音部のメンバー全員とか」
「当たり前でしょ。というか僕が自発的に泳ぎだすわけがない」
「ということは、見たのか?」

慶介が僕の肩に手を回し耳元でささやいてくる。

「何を、だ」
「彼女たちの水着を、だよ」

とりあえず暑苦しいので慶介を引きはがしながら訪ねると、返ってきた答えは何となく予想した通りのものだった。
もう慶介が訊きそうなことはなんとなく想像ができていたのだ。

「くっそー、これがリア充の特権か! っく~! 羨ましいぃ!!」
「………」

ハンカチを噛むぐらいの勢いで悔しがる慶介に、僕は少し距離を取った。
というより、本当にハンカチを噛んでいるし。





歩いて歩いて、気づけば校門前にたどり着いていた。

「それで、どうだったんだ?」
「そうだな……ずっと遊びほうけてたかな。何のための合宿やら」
「いや、違うぞ」

真剣な面持ちの慶介の問いかけに、僕は合宿でのことを思い出しながら答えた。
だが、慶介が首を横に振りながら言ってきた。

「彼女たちの水着姿がどうだったかだZE!」
「………一瞬でも、まじめなことだと考えた僕がバカだった」

慶介のぶれることのない変態キャラに、僕は感心しかけていた。

「そう言うなって。そうだ! 平沢さんはどうなんだ?」
「…………」

慶介の口から出た唯の名前。
それが僕の中で永遠に響き続ける。

「いやー、きっと目の保養になっただろうな~。彼女スタイルもいいから―――――――――――――げぼふぁみれだんさー!?!」
「あ………」

気づくと、僕は魔力を纏った拳を慶介に振るっていた。
慶介は草むらの中に吹き飛ばされていた。

(おかしいな)

僕は首をかしげながら自分の手を見る。
いつもならば、魔力を纏わせないで純粋な力のみで鉄槌を喰らわせていた。
それが、今は本当の意味での全力で慶介に鉄槌を喰らわせていた。

(ただ、唯の名前を言っただけなのに)

何となくだが、腹が立ったのだ。
唯の名前を口にする慶介に。
唯のスタイルの話をする慶介に。

「……………まあ、いいか」

考え込む僕は、そこで止めた。
きっとこれも、夏の暑さのせいだと思い込むことにした。

「は、ははは。浩介、お前世界を、狙える……ぞ……………ガクッ」

草むらでそんなことを言っている慶介のことを忘れて。










「本当にひどい目にあった」
「だから、悪かったって」

講堂にて校長先生の”ありがたいお話”を聞き終えた僕たちが教室に戻る中、慶介が何度目かの愚痴をこぼしたので、僕は何度目かになるかわからない謝罪の言葉を口にする。

「まあ、いいけどさ。俺も少しやりすぎた」
「慶介……本当にごめん」

不承不承ながらも許してくれる慶介の優しさに、僕はひどい罪悪感にかられ

「俺も、中野さんのスタイルを聞けば―――ごふぁ!?」
「お前に謝ろうとした僕があほだった」

たところで言われた慶介の言葉に、僕は前言撤回した。

「にしても、どうして校長の話はああも長いんだろうな?」
「あそこしか自分が話すところがないんだろ。暇なんじゃないの?」

いつものようにとてつもない回復力で立ち直った慶介の疑問に、僕は応えた。
ここにきて知ったが、この世界の校長は話がやけに長い。
それも為になるのかならないのか微妙な内容の話だし。

「時より、浩介の毒舌が怖く感じる時があるぞ」
「そう?」

顔をひきつらせながら言う慶介に、僕は首をかしげながら聞きかえした。

「そう言えば、この後って学園祭だったよな。今年こそ、メイド喫茶にするぞ!」
「言ってろ」

どういう結末になるか、僕にはなんとなく見えていたので、放っておくことにした。

「まあ、その前にあれを終わらせないといけないんだけど」
「そう言えば、マラソン大会があったんだっけ」

僕の指差したポスターを目にした慶介が思い出した様子でつぶやく。
そこにはマラソン大会を告知するポスターが貼り出されていた。

「浩介、一緒に走ろうぜ」
「別にかまわないけど、去年ゴールした時の順位は中間くらいか? それとも前の方だったのか?」

慶介の誘いに乗った僕は、気になって聞いてみた。

「ん? もちろん、後ろの方だぜ!」
「……………一人で走ってろ」
「何故!」

順番を聞いた僕は、一言で切り捨てるのであった。
ちなみに、放課後のHRで挙げられたメイド喫茶の案は、

「それでは学園祭の出し物は『お化け屋敷』で決定しました」

問答無用で却下された。

「何故だ―――ごぼぉ!?」
「うるさい」

叫び声を上げようとした慶介の頭に拳を振り下ろすことで止めさせるのであった。










マラソン大会前日。
いつものように部室である音楽準備室にやってきた。

「何だか、元気がないけど。どうしたんだ?」
「あー、何故マラソンはあるのかしらー」

いつもの元気がない唯に訊くと、唯は両手を上にあげて嘆きだした。

「体力の強化とかじゃない?」
「ま、まあそうなんだけど。何もそんな尤もな答えを出さなくても」
「ノォー」

律の言葉に反応してか、唯は机に突っ伏した。

「唯ちゃん、ケーキよ」
「はむ……うん、うまい!」

本日のデザートであるケーキを突っ伏しながら口にした唯はサムズアップしながら感想を漏らすと、先ほどまでの落ち込み用はなんだったのかと思うほど元気にケーキを食べ始めた。

「立ち直り早いなー」
「まあ、いつものことだけど」

苦笑しながら漏らした律の言葉に、澪が相槌を打った。

「おはようございます」
「お、梓ー何味がいい?」
「今日もお茶ですか?」

律が部室にやってきた梓に、何味がいいかを尋ねると肩を落とし名gら声を上げた。

「いらないんだったら私が食べちゃうぞー」
「それじゃ、バナナタルトで」

(結局食べるんだ)

素早い変わり身で味を指定した梓に、僕は心の中でツッコんだ。

「あれ、あの時計はなんですか?」
「ん? そういえば、さっきから気になってたんだよなー、この時計が」

ケーキを口にしながら、いつものように話に花を咲かせていると、梓が戻側に置かれた棚の方を指差しながら疑問を投げかけた。
そこにはやや大きめな時計が置かれていた。
数字盤に針というアナログな形式で、周辺にはキラキラと光るデコレーションがあった。
それは右に回ったり左に回ったりという動きを繰り返している。
どう見ても高級そうな感じがした。

「あ、それ私がいただいて不要な時計でどうしようか悩んでいる様子だったから、もらったの。ここで時間が見ることができるようになるかなーって」

どうやら、この時計はムギが持ち込んだようだった。

「もしかして迷惑だった?」
「そんなことはないぞ。ちょっとびっくりしただけだから。なあ、澪?」
「あ、ああ。とってもいいと思うよ」

表情を曇らせるムギに、律は慌てながら否定し、さらに突然振られた澪もぎこちなくではあるが頷いた。

「良かった」

その二人に、ムギはほっと胸をなでおろすのであった。
その後、軽く練習をして、この日の部活を終えるのであった。

「よし、ジャージはよし」

夜、寝る前にカバンの中にジャージが入っているのを確認した僕は、カバンのチャックを閉めた。

「あ、もう10時か」

時計を見ると夜の10時を回っていた。
明日はマラソン大会があるので、早めに寝ることに越したことはないだろう。
そう思った僕は、明かりを消すとベッドに潜り込む。

「おやすみ」

そして僕は眠りにつくのであった。










「――――を誓います」

翌日、太陽の光がさんさんと照りつける中、生徒会長(名前は知らない)が台に上がって右手を上げながら宣誓の言葉を告げた。

「それでは、よーい」

校長の掛け声とともに銃声が鳴り響く。
こうして、マラソン大会は幕を開けた。

(今回は中盤を走るか)

軽音部の皆と一緒に走ろうと考えたのだが、去年は先頭を走っていたがそれらしい人物の姿を見かけることがなかったのだ。
なので、今年は中盤付近を走ることにした。
ちなみに、走り出す前に探し出せばいいというのもあるが、どうせのマラソン大会だ。
人探しゲームという勝手な遊びを加えたところで罰は当たらないだろう。

(まあ、このマラソン自体が僕にとっては遊びだし)

去年も今年も、僕はそれほど力を出していない。
僕にとっては幼稚園の子供を追いかけているような感じだ。
少しばかり、窮屈な感じはするもののこれはこれで力の制御の練習になるのではないかなと考えていたりする。

(これで1キロか)

周りを走っている生徒たちが、若干ペースダウンをし始めてきた。
だが、みんなの姿は見つからない。

(お、あの後ろ姿は)

「あずに……梓ー」

間違えて”あずにゃん”と呼びそうになった僕は、慌てて元の呼び方に戻した。

「あ、浩介先輩!」

僕の声に気づいたのか、走る足を少しだけ緩めるとこっちの方を振り向いた。
その横に一緒に走っている二人の女子も一緒に。

「浩介さん、早いですね」
「それをそのまま憂達に返すよ」

少し走る速度を速めて彼女たちの斜め後ろにまで迫りながら、僕は憂に返した。

「こんにちは、浩介先輩」
「こんにちは……えっと、沢村さんだっけ?」
「鈴木です!」

名前が出てこなかった僕は思いついた名前を口にすると、彼女からツッコミが入った。

「失礼、鈴木さんだったね。あと2年ほどは覚えておくようにするよ」
「2年って、卒業したらまた忘れるんですか?!」

ちゃっかり計算したのか、鈴木さんが僕に言ってきた。

「記憶とは移ろいゆくもの。色々な人と出会うと、関係性のない古い人物の名前は忘れる物さー」
「それって、人としてどうかと思いますよ?」

ジト目で僕を見つめる梓に、指摘されてしまった。

「まあ、冗談はともかく。ずっと覚えておく努力はするよ。さすがに忘れようとするのは失礼だし」
「お願いします」

項垂れるようにお願いしてきた鈴木さんの姿に、僕は何が何でも記憶にとどめておこうと決めるのであった。

「ところで、唯たちは見たか?」
「唯先輩ですか? 見てませんけど」
「そうか……」

梓の返事に、僕は顎に手を添えて考える。

(ここを走っていないとなると、まさか終盤の方か)

よくよく考えれば軽音部は一部のメンバーを除いて運動が得意そうな印象を受ける人物はいない。
一番後ろの方を走っている可能性が高かった。

「あの、良ければ一緒に走りませんか?」
「……鈴木さんが迷惑でなければ」

憂の提案に、僕は考え込みながら返した。
後ろに下がることは考えなかった。
速度をこれ以上落とすのは僕には無理だからだ。
走るのをやめて待つというのもあるが、それはそれでなんかいやだった。

「私は構わないですよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」

鈴木さんが頷いたので、僕は梓達と共に走ることにした。

「あ、憂から聞いたんですけど浩介先輩ってギターなんですよね?」
「そうだけど、何か?」

走っている最中、鈴木さんから声が掛けられた。

「その、もしよければ私にも教えてほしいな、と」
「……? どういうことだ?」
「あ、純ちゃんはジャズ研究部でベースを担当しているんです」

鈴木さんの問いかけの理由がよくわからなかった僕に、憂がすかさず説明をしてくれた。

「なるほど。だが、ベースだったら僕ではなく澪の方が適任だろ? ギターとベースとでは若干奏法も異なってくるし」
「そうなんですけど、ジャズ研の先輩から浩介先輩のギターは格好いいって聞いたので」

(理由が”かっこいいから”かよ)

素直に喜んでいいのかわからない理由に、僕は心の中で苦笑する。

「まあ、考えておくよ」
「お願いします」

考えるとは言ったが教える可能性は限りなく0に近い。
理由としては部同士の問題だ。
軽音部とジャズ研究部はある種の競合関係……つまり、ライバルになる。
それぞれの部長が、部外者の介入を快く思うかどうの問題だ。
例えるならば、別の会社の社長が、ライバル会社の経営に介入するような感じだ。
どちらにせよ、律に話を通す必要があるが、それをする気は今の僕にはなかった。
僕をその気にさせる”何か”があれば話は別だが。
彼女には悪いが。
そんなこんなで、僕たちは走りきるのであった。










「はぁ~、マラソンの後のお菓子は格別どすなー」
「そうですな~」
「おやじか、お前らは」

マラソン大会を終えた日の放課後、部室でムギの出してくれたケーキに舌鼓を打っている中、椅子にもたれかかりながら声を上げる唯と、それに乗る律に、澪がツッコみを入れた。

「でも、楽しかったわ」
「はい。また来年が楽しみですね」

とはいえ、梓とムギの二人はある意味間違っているような気がしたが。

「はぁ~疲れたわ」
「あ、さわちゃん」

そんな中、ため息交じりに入ってきた山中先生に、唯が反応した。

「ムギちゃん、紅茶とお菓子をお願い~」
「分かりました」
「完全にたかってる」
「というより、教師の面目丸つぶれですね」

ムギが席を立って紅茶とお菓子の用意をしている中、律のつぶやきに僕が続いた。

「だって、大変なのよ。教師というのも」
「へぇ~」
「先生ですしね」

山中先生の反論に、唯は分かっているのいないのか微妙な声を上げ、梓は想像がついたのか頷きながら答えた。

「お待たせしました。紅茶が入り―――きゃ!?」
「わぷ!?」

いきなり頭上から厚い液体が降り注いできた。

「だ、大丈夫かムギ?」
「わ、私は大丈夫だけど……」
「あ……」

ムギの言葉に導かれるように、全員がこっちを見る。

「僕も大丈夫だから」
「ご、ゴメンなさい。本当にわざとじゃないのよ。本当よ!」
「いや、分かってるから。こんなのかすり傷にもならないし」

とりあえずハンカチで頭をふきながら目の端に涙を浮かべながら謝るムギを落ち着かせた。

「僕にも、お茶のおかわりをもらえるかな? それでこの件はおしまい」
「わ、わかったわ。とびきりおいしい紅茶を淹れるわね」

拭き終えた僕は、ムギに紅茶のおかわりをお願いした。

「あの、練習はしないんですか?」
「私は燃え尽きた……」
「私もだー」

梓の言葉に、唯と律は同時に背もたれにもたれかかった。

「だそうです」
「……」

梓の肩が下がった。

「そう言えば、浩君たちは順位はどうだったの?」
「僕はあずにゃんと同じだったと思うよ」
「浩介君はやっぱり早いんだね」

僕の答えに、ムギは紅茶のおかわりが入ったカップを置きながら言った。

「まあね」
「去年はトップでゴールしてた程よ」

そんな中、山中先生が、ウインクしながら人差し指を立てて補足した。

「あんたは化け物か!」
「あ、でも。浩君だから当然かー」

ツッコミを入れる律に、納得顔の唯。

「ずるでもしたのか?!」
「するか! 普通に走っただけだ」

律に掛けられたあらぬ誤解に、僕は猛反論した。

「そうよ。今回のコースは近道なんてないもの」

唯たちが示している言葉の意味を知らない山中先生は、言葉通りに受け取って僕の言葉に賛同した。

「あ、そうだ。走ってる時に、おいしいケーキ屋さんがあったんだよー」

ふと唯が話題を変えたことで、話はケーキ屋のこととなった。

「やっぱり、今日も練習は無しですか」
「あはは……明日は大丈夫だと思うよ……たぶん」

肩を落としている梓に、僕は苦笑しながらそうフォローの声を掛けるのであった。










「お風呂も入って、予習復習もできたし、今日は早く寝るか~」

時刻は夜の9時30分。
やることをすべて終えた僕は、自室に入って腕を伸ばしながらつぶやいた。

「って、そう言えばあったね。やること」

そんな僕の視線の片隅に見えた段ボール箱に、先ほどまで上げていた腕を力なく降ろしながらつぶやいた。
それは魔法連盟での僕の仕事用の書類が入ったものだ。

「やれやれ、起訴か不起訴かを決めるのも大変だよ……」

ため息交じりに呟きながら、僕は段ボール箱の中からファイルを10個程度取り出した。
本当は500ほどあったが、これまでにコツコツやって終わらせたのだ。
それの提出期限は今日の23時59分59秒までだ。
だからこそ急いでやらなければならない。

「一つ10分以内に終わらせれば間に合うか」

ファイルの内容は数百ページにも及ぶが、何とかなるだろう。
……たぶん。
僕は、できる限り急いで仕事に取り組むのであった。
そして、二時間後の11時30分。

「終わったー!」

何とか仕事を終わらせることができた僕は、固まった筋肉をほぐしながら仕事を終えた解放感に浸っていた。

「さて、この書類を段ボールに詰めて……」

僕は段ボールの箱に10このファイルを詰めるとテープで閉じた。

「後は、転送システムで送ればいいだけ」

右腕を前方に掲げ、手を開くようなしぐさをしてホロウィンドウを展開させる。
そして『転送』の項目に手を触れると、目の前の段ボール箱が光りだし大きく光を放った。
光が薄まると、目の前の段ボール箱は跡形もなく無くなっていた。

「さて、早く寝よう。明日に響くし」

僕はそうつぶやくと、部屋の明かりを消してベッドに潜り込んで目を閉じた。
そして意識が闇の中へと沈んでいく。
この時、僕はまだ知らなかった。
とんでもないことが僕の身に降りかかることになるということを。

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