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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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第5話 活動!

晴れて軽音部に入部することになったのだが、僕はさっそく試練を課せられた。

「絶対にばれる」

目の前にあるのは白いギター。
ギター自体に細工をしていて弦が切れやすくなっている物だ。
とは言え、これだけでは心もとない。
どんなに下手な演奏をしようにも、弾き癖がある以上ばれる。
しかも、その場には僕たちのバンドのファンがいるのだ。
さらに注意が必要だ。
分からない可能性もあるにはあるが、そんな物は希望的観測に過ぎない。
だからこそ、そう言ったことは考えずに最悪の場合の事を考える。

「あわよくば、ギターを見る目がないそこそこうまいギタリストだと思い込んでくれることを祈るしかないな」

その為の白いギターだ。
弦が折れる⇒ギターを購入した際の話をする⇒ギターを見る目はないが演奏はうまいと思わせる。
それが僕の狙いだ。

「勝負は明日」

明日放課後に、みんなの前で演奏をすることになっている。
これを突破すれば第一関門はクリアになる。
後は演奏中に下手な事をしなければいい。
上手すぎず、下手すぎずのラインを目指すのだ。

「尤も、その前に”廃部しなければ”という前提がつくけど」

ティータイムの時に聞かされた話では、今月中(つまりはあと8日なのだが)に部員が五名入部しなければ廃部になるとの事。
つまりあと一人だ。

(とはいえ、軽音楽=軽い音楽でハーモニカやカスタネットとかの楽器を演奏するなんて勘違いした人が入部しなければいいんだけど)

さすがに”カスタネット”を演奏すると思い込んでいる人がいるとは思えないが。
目の前でそう言うのを出されて演奏されても、どう反応すればいいのかが困るし。

(まあ、ギター弾いたことがない人に一から教えるのは嫌じゃないんだけどね)

誰にも始めてはある。
そういう人にやさしく教えられるようにするのが、僕たちプロの役目の一つなのだ。

「よぉし、明日は頑張るぞ!」

僕は気合を入れて眠りにつくことにした。
翌日、その過程通りの人物が現れることになるとも知らずに。









翌日、僕は白色のギターが入ったギターケースを背負って教室に入った。

「おっす……って、なんだよ!? その馬鹿でかい荷物」

教室に入ってきた僕に声をかけてくる佐久間。

「そんなにでかくない。ただのギターだ」
「へぇ、ギターか。って言うことは」

僕の言葉を聞いた佐久間はまさかと言った表情を浮かべる。
そんな佐久間に、僕は静かに頷く。

「軽音部に入部することになった」
「それはよかった」

意外だ。
佐久間だったら、部員は女子かとか聞いてくると思ったのだが。

(佐久間についての見方を少し改めよう)

僕は心の中でそう決めた。

「で、女子は何人だ?」
「…………」

先ほどまでの関心を返せ。

「全員だよ」
「ぬぁにぃ~!?」

ため息をつきながら答えると、佐久間は大きな声を上げて僕に迫る。

「浩介! どうしてお前はそんなに女の子とお近づきに―――げふぁ!?」
「うるさい。黙れ」

いい加減全部聞いているのも面倒になったので、潰すことにした。

「まあ、それはともかく、だ」

どうも最近佐久間の回復力が上がっているような気がしてならない。
勘違いであってほしいが。

「入部おめでとう」
「あ、ありがとう」

そして、こうやって真面目な一面を見せるから複雑な気分になるんだ。
僕はとりあえずギターケースを窓側に立てかけることにした。
邪魔になりそうなら別の場所に置くことになるが。










「やれやれ、やっと終わったよ」

放課後、担任の教師から雑用をするように言われた僕は、ようやく雑用を終えた。
教室に入ると怪しげな動作でギターケースに手を伸ばす佐久間の姿があった。

「佐久間、何をしている」
「あ、ちょっとギターを見てみようと――――ッ!?!?!?」

佐久間が言い切るよりも早く、股間を蹴りあげた。

「触るなと言った。これで五度目だ」
「は、はい。ズビバゼン」

取りあえず佐久間は潰しておき、僕は今度こそギターケースを手に教室を後にするのであった。









「ごめん、遅れ――」
「そういうわけだから、演奏の準備をして!」

部室である『音楽準備室』に入った瞬間、田井中さんに腕を掴まれながら指示を出された。

「は? 何が」

突然”そういうわけだから”と言われても意味が分からない僕は、呆然と固まっていた。

「律! ちゃんと説明しないと」
「でも、説明しているうちに平沢さんが帰ったらどうするのさ!?」

何だかものすごく興奮しているなと思っていると、ふと視線を感じた。
視線のする方を見ると、そこには栗色の髪の女子高生がソファーに腰かけていた。

「ん? 君はあの時の」
「き、君は」

入学式に遅刻でもないのに遅刻と言いながら走って行った、おっちょこちょいな女子だった。

「あの時はありがとうございました!」
「いえいえ」
「お知り合い?」

そんなやり取りをしているとムギさんが聞いてきた。

「まあ、ちょっと色々ありまして」
「色々っ! はぁ~」

彼女の名誉のためにと、具体的な事をぼかして言うと僕のワンフレーズにムギさんはぽわぁとゆるんだ表情を浮かべる。
どうして?

「取りあえず、今の状況を説明してくれる?」

思わずそう呟いてしまった僕の声に反応したのはムギさんだった。
そんなムギさんの説明によれば、楽器を演奏できないのに軽音部に入部してしまったらしい。
そして、せめてという事で、演奏を聴いてもらうことになって僕が入ってきたということらしい。

「そう言う事なら……」

僕は背負っていたギターケースを下すと、中からギターを取り出す。
そして置かれているアンプとつなげた僕は、軽く弦を弾いた。
すると、微妙に歪んだ音が周囲に響く。

「それで、演奏曲目は?」
「うーん。『翼をください』?」
「いや疑問形で返されても」

曲名を告げられた僕は、頭の中でその曲を軽く思い出しながら、そこにギターの音を入れて行く。

「ワン、トゥ、スリー、フォー!」
「え、ちょ!?」

まだ完全にシュミレートが出来ていない状態にもかかわらず、いきなりカウントされた僕はあろうことか入りがずれてしまった。
歪んだ音色を響かせる中、ドラムのリズムもバラバラでキーボードの音やベースの音なども微妙に方向性がずれてしまっている。
はっきり言って、こんな演奏をバンドメンバーの前でしたら、僕はただでは済まないだろう。
そんなズレまくってしまった曲の演奏は、なんとか終えることが出来た。
すると、今まで座っていた栗色の髪の女子高生は感動した様子で何度も拍手をしていた。

「い、いやぁー。どうだった?」
「何ていうか。すごく言葉にしにくいんだけど」

照れた様子で女子高生に尋ねると、女子高生は高いテンションのままはっきりと告げた。

「あんまりうまくないですね!」

(ば、バッサリ)

僕とて、うまいとは思っていないがこうもはっきりと言われるのは逆に清々しささえ感じていた。

「でも、スッごく楽しそうでした! 私、この部に入部します!」

女子高生の宣言に、僕は夢かと思いたかったが、頬の痛みがこれは夢じゃないと告げていた。

「痛い」

僕は小さな声で頬をつねるムギさんに不満を口にするが、聞こえていないようだった。
その後、田井中さんによって活動開始記念と言うことで写真が取られた。
その写真には田井中さんが額しか映っていなかったのは余談だ。

「あ、でも私全然楽器とかできないし。マネージャーとかどうかな?」
「ここは運動部じゃないぞ」

女子高生の少しばかり外れたような提案に、思わず突っ込んでしまった。
気曲ムギさんの勧めで、彼女は”ギター”を始めることになった。
そして……

「では、聞かせて貰おうか!」
「お前は何様だ!」

ソファーの上でふんぞり返る田井中さんは、隣に腰かける秋山さんに小突かれた。
危ない、あとちょっとで僕が小突きそうになっていた。
さすがにここで”小突く”のは怪我では済まなくなりそうだ。

(何かほかの手段を考えることにしよう)

そう考え付いたところで、僕は一息ついた。

「まだ少しだけ嗜んでいる程度だからうまくないかもしれないけど、ワンフレーズ行きます」

僕はピックを持つ手に走る震えを深呼吸で抑える。
これから僕が演奏するのは僕の十八番でもあるカバー曲のソロだ
その名も『Devil Went Down to Georgia』だ。
直訳すると”悪魔はジョージアへ”となる。
悪魔と勝負をして負けた人間の魂を奪うという物語だ。
この曲は、もともとはカルチャーミュージックのようなものであったが、音楽ゲーム用にアレンジされハードロック風にされた。
そしてギター殺しの曲や、ラスボスとまで言われるようになる。
その由縁が、今から弾こうとしているソロパートなのだ。
僕は、ピックを振り下ろす。
最初はゆっくり目で簡単な音を。
だが、徐々に悪魔が牙をむく。
テンポは一気に早まり、音は小刻みになって行く。
今この場は嵐の海と化した。
その中で必死にもがくような音色が奏でられる。
そして、いよいよソロパートも終盤となったところで、間抜けな音と共に弦は切れた

「あ、切れちゃった」

白々しいと思いながら、僕は落胆した風に演じながら呟く。

(あれ、反応がない)

僕は、いつまで経っても反応がないため、リスナーである四人に声をかけることにした。

「おーい、大丈夫か?」
「……す」
「す?」

田井中さんが反応を示した。

「すっげぇ! うまい、上手すぎる!!」
「うん。私も聞きほれてしまいました」
「すごい! わたしとっても震えちゃいました!!」

反応を示したかと思うと、ものすごいハイテンションで褒めちぎられる。
一応プロだから、引けて当たり前だ。
でも、この胸の奥からこみ上げる喜びは、とても心地よい物だった。

「なあ、澪もそう思うだろ!」
「ああ……本当にすごい」

(まずいな)

秋山さんの目が過去を思い返しているように見えた。
今、秋山さんの中では様々なバンドの演奏が再生されているだろう。
どうか僕の正体がばれないように、祈ることしか僕にはできない。
それよりも問題なのは

「是非、私にギターを教えてください! 師匠!」
「師匠は止めて」

興奮のあまりに手を握りしめて教えてくれとせがむ女子高生への対応だったりする。
その後、思考の海から戻ったのか秋山さんによって女子高生は落ち着きを取り戻し、僕が彼女にギターを教えるという事で落ち着いた。
その態度から、僕はばれなかったと知って静かに息を吐き出すのであった。
こうして、軽音部は廃部の危機を脱したが、これはまだまだ序の口であることを僕たちは知らないでいた。

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