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黄昏の部屋(別館)

こちらでは、某投稿サイトで投稿していた小説を中心に扱っております。

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『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』最新話を掲載

こんばんは、TRです。

大変お待たせしました。
本日『けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~』の最新話を掲載しました。
練習風景を三曲分も一から書くと表現的理由と長さ的理由から無理そうなので断念しました。
学園祭までのお預けということでご了承いただけると幸いです。


それでは、これにて失礼します。

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第17話 二日目

僕は夢を見ていた。
そう、それはとても懐かしい光景だ。









―9年前―

僕、高月浩介はいつものように人任務を終え、魔法連盟へと帰還していた。
任務の内容は我が国を攻撃しようとするテロ組織の鎮圧。
要求内容は莫大なお金をよこせという物であった。
もし反応がなければ我が国内で無差別テロを起こすという脅しまでくわえていた。
勿論、テロに屈するわけもなくテロ組織の鎮圧と相成ったわけだが、どうせ鎮圧したところで恐怖は取り除けないことは明白。
そう思った僕は、無許可で組織の者を一人残らず始末した。

「失礼します。法務大臣、高月です」
『入りたまえ』

ある部屋のドアをノックし、中から返事をもらった僕はドアを開けて中に入る。
そこはアンティーク調の家具が置かれている一室で、奥には社長椅子に腰かける黒髪の男の姿があった。

「何かご用で? 連盟長」
「また無断で始末したようだな」

連盟長の咎めるような口調の問いに、僕はまたかと心の中でため息をつく。
また長い説教か、と思っていた。

「まあ、それはいいとして、お前に特務を与えよう」
「特務?」

連盟長の口から発せられた言葉に、僕は豆鉄砲に撃たれたように固まった。

「ああ。この世界に向かい魔法を封印してスポーツ以外の栄誉を上げろ」
「なッ!?」

連盟長の告げた特務に、僕は言葉が出なかった。
魔法を使わずに、スポーツ以外であげられる栄誉は限りがある。
しかも、栄誉を挙げられる保証もないのだ。

「そこは魔法文化0だ。くれぐれも魔法の事がばれることの無いようにしろ」
「…………左遷、ですか?」

僕の驚きを無視して説明する連盟長に、僕は問いかける。

「それはお前自身が良く分かっているはずだ。話は以上だ。下がれ」

有無も言わせないと言わんばかりの態度に、僕は連盟長室を後にすることしかできなかった。
それが、僕がこの世界へとやって来るに至る記憶だ。










軽音部の強化合宿二日目は、とてつもなく騒がしかった。

「起きろー!!」
「ペプシ!?」

一番最初に聞こえたのは、律の叫ぶ声。
そして顔中に走る痛み。

「律! やり過ぎだ!」
「大丈夫?」

澪と律ががやがやと言い合う中、ムギが心配そうに声をかけてくる。
とりあえず僕は大丈夫と告げて体を起こす。
外はすでに明るく、今が昼間であることを告げていた。
そして漂ってくる美味しそうなにおい。

「さあ、浩介も起きたことだし朝ご飯を食べようぜー」
「おー!」

右腕を上げながら律が告げると唯もそれに続いた。

(なるほど、早く朝食が食べたかったわけね)

たたき起こされた理由が分かった僕は、苦笑しながら席に着くのであった。










朝食を食べ終え、食器を洗い終えると僕を含めた全員がロビーのソファーに腰かける。

「さて、今日の予定だが」

それを見計らい、律が真面目な表情で口を開いた。

「海で泳ぐぞー!!」
「おー!!!」

右腕を上げながら律が告げると、唯もそれに続く。

「こらこらー!」

僕が口を開くよりも先に、澪が叫んだ。

「えー。だって昨日だけじゃ遊び足りないんだもん」

澪の言葉に、唯が反論した。

「練習のためにここに来たの!」
「そう言う澪は昨日は練習の事を忘れてたくせに」
「うぐっ!?」

律の一言で、澪は何も言い返すことが出来なくなった。
確かに、澪は昨日練習のことをすっかり忘れていた。
そんな澪は、何とかしてと言わんばかりにこっちを見てきた。

(やれやれ、ここは僕が言うしかないか)

僕は心の中でため息をつく。
これからやることはDKとしてやってきたのと同じ方法だ。
今はもうそれをする必要はないが、昔は色々とH&P内は酷かった。
その結果、僕は鬼軍曹の二つ名を与えられる羽目になるのだが。

(テーブルの上に危険な物はないな)

取りあえずテーブルの上を確認してみた。
もしコップなどがあればかなり危険なため、移動させないといけない。
だが、幸いなことにコップなどの危険な物はなかった。

(よし、やるか)

何をして遊ぶかという話に移りだしている様子をしり目に、僕は深呼吸をするとかなり加減をしてテーブルにこぶしを下ろした。
”ドスン”と重い音が響き渡り、今まで聞こえていた話し声は、ぴしゃりとやんだ。

「昨日遊んでおいてまだ遊ぶと言うか!」
「「「「っ!?」」」」

僕の怒号は思った以上に響き、全員が肩を震わせる。

「ふざけるのも大概にしておけよ? ムギに無理を言って別荘を借りてるのに、練習しないとか舐めてるだろ?」
「えっと、そんなに無理はしてないわよ」

引きつった笑顔を浮かべながら必死にフォローをしてくるムギに悪いと思いながら、僕は言葉を続ける。

「今日は朝から晩まで特訓だ。泣こうが喚こうが関係ない。抵抗するなら引きずってでも連れて行く。さあ、遊びたいという奴はいるか!!」
「リ、りっちゃん!」
「お、おう! いざ行かん! スタジオへ!!」

僕の一喝が功を奏したようで、二人は逃げるようにしてスタジオへと駆けて行く。

「はぁ、大声で叫ぶのは疲れる」
「び、びっくりしたぁ」

大きく息を吐き出しながらの僕の言葉に、澪がほっと胸をなでおろす。

「これくらいしないと、あの二人は絶対に練習をしない。さ、僕たちも行くよ。言い出しっぺが遅れたらシャレにならないし」

おやつ休憩の時間を設けてチーズケーキでも振舞おうと心の中で思いながら、僕はスタジオへと向かうのであった。










「まずは、カバー曲の『Leave me alone』から始めよう」

セッティングを終わらせて、いつでも演奏が出来る状態になったのを見計らって僕は、全員にそう切り出した。

「まずは、曲の方を聞いてほしい」
「いつの間に持ってきたんだ?」

持ってきていたCDプレーヤーをスピーカーに接続させながら言うと、律が呆れたような口調で聞いてきた。
それを無視して、僕はCDを再生する。
流れてきたのは『Leave me alone』のボーカルがないバージョンだ。
AメロBメロと行ってサビに入る。
そしてサビの後は間奏なのだが、サビの後に再びAメロに移行する。

「あれ?」

それに気づいた澪が声を漏らす。
Aメロに戻った後Bメロといきその後にやってきたサビの後に間奏が入り、元の曲の状態に戻る。

「サビの後の間奏の前にAメロを取り入れたんだ。これで演奏時時間は3分弱はあるはずだ」
「す、すご」

一体何に対してのすごいかはよくわからないが、好感触のようだ。

「この曲は、ギターパートを僕と唯のツートップ……つまり同じコード進行で演奏する」

唯にでもわかりやすいように、独特の単語を出来るだけ噛み砕いて説明していく。

「これは、曲風を考慮するとボーカルは僕で行くけど、何か異論は?」

僕の問いかけに、全員が首を横に振った。

「それじゃ早速始めようか。唯、この曲のギター弾けそうか?」
「うーん。たぶん」

何とも頼りない返事だ。
唯には耳コピのスキルがある。
このスキルは非常に重宝する。
何せ、いちいち譜面におこす必要がないのだから。

「他三人には譜面を渡すから、それを見ながら演奏してみよう」
「うへぇ」

譜面を見た律が眉をしかめる。
その様子を見ながら、僕はこの別荘に元々置かれていた譜面台を三人の前に置くとそれに譜面を置かせる。

「あれ、浩介は?」
「僕はもう覚えたから必要ない」
「お前は、何者だ!」

僕の答えに律が叫ぶ。
律の言葉に一瞬息が止まりそうになったのは秘密だ。

「さあ、演奏を始めよう。律、リズムコールを」
「お、おう! 1,2,3,4,1,2!」

二拍子多いコールの後に、演奏が始まる。
最初はムギのキーボードからだ。
それに続き、澪のベースと律のドラムが産声を上げる。
そしていよいよ僕たちの番だ。

「………」

弾いて分かったのは音程がずれていること。
ギターの問題ではない。
奏者の問題だ。
唯の方を見ると、指を触れさせる弦の場所が微妙にずれていた。
さらにドラムとベースとキーボードの音がバラバラになる。
理由としては律のドラムが走りすぎたりゆっくりと歩き過ぎたりするために、テンポがめちゃくちゃだからだ。
澪のベースもどことなく力が弱く、他の音に埋もれてしまっている。
ムギも微妙に音の伸ばしが弱い。
僕自身も、微妙にではあるがテンポがキープできていないようにも感じた。
要するにみんながダメという事だ。
取りあえず通しで弾くことにした。
本来は随所随所で止めるのがいいのだが、合宿の時間がないため一度通しで弾いておいて曲の演奏(雰囲気とも言うが)に慣れさせる必要がある。。





「ふぅ、終わった終わった」

弾き終えて、律が微妙な達成感を感じている中、僕は口を開いた。

「皆ダメダメだ。律はリズムがバラバラだし、澪のベースは弱いし唯は抑える場所違うし、ムギは伸ばしが弱い」
「うぐっ!」
「よ、容赦がないね」

僕の指摘に、全員が固まっていた。
とは言え、本当のことなのだから仕方がない。

「律、リズムキープをちゃんとやって。走りすぎたとしても、みんながそれに合わせるはずだから」
「おーけー!」
「澪は出来る限りベースを前に出して。音に埋もれたら曲自体がつぶれるから」
「わ、分かった」
「ムギは、音を止める感覚をもう少し遅めに。長すぎなければアドリブとして成り立つはずだから」
「分かったわ」
「唯は最初は僕のギターの弦を押さえている所をよく見て。二番も同じコードで行くからそこでうまく弾けるように努力」
「ラジャー!」

僕は全員に簡単に改善点とポイントを出していく。

「さあ、律。リズムコールを!」
「おう! 1,2,3,4,1,2!」

そして再び演奏が始まる。
二度目の演奏では、多少ばらつきはあったものの、音がゆっくりと揃い始めていた。
そして三回四回と回数を重ねるうちに……

「うん。今のはいい感じだ」
「ふぅ、長かった~」

音の感覚も少しのずれに留まり、リズムキープも少しではあるが出来ていた。
唯のギターはまだ要練習だが、学園祭で披露するレベルには到達できた。
後は、毎日の練習で正確度を高めて行けばいいだろう。

「お、もう昼か」

ふとスタジオの壁につけられていた時計に目をやると、12時を過ぎていた。

「お腹すいたぁ~」
「何か食わせろ!」

律と唯が声を上げ出したため、僕たちは昼食にすることにした。
とは言え、律と唯が声を挙げなくても昼食をにしていたのだが。










「さて、ここからがオリジナル曲だ」
「おぉ~!」

僕の宣言に、唯が拍手をする。

「これが、ムギが作った曲に肉付けをした物だ」
「うわぁ、かなり本格的だな」

譜面を見た律が感想を漏らす。

「最初の律のリズムコールはバチを合わせる音だけ。そこからフィルで音楽が始まり、ベースとキーボードそしてギターがそれに続いていく。この曲はスピードが重要だからそこに重点を―――」
「よ、読めない」
「「「「…………」」」」

僕の説明を遮った唯の一言は、ここから先がどれだけ険しい山道かを知らせるのには十分だった。

「そんな唯にこれをやろう」
「これ、なぁに?」
「僕お手製の、譜面の読み方と弦を押さえる場所の見方だ。とにかくそれを覚えて」
「ラジャー!」

敬礼する唯を見て、解読書を作っておいてよかったと内心ほっとしていた。
一つコードを覚えたら三つのコードを忘れる唯に、覚えろというのはかなり酷だ。
ただ、何度も叩き込めば感覚で鳴れていくはずだ。
要するに、机上理論ではなく実際にやった経験値で学ばせるということだ。
感覚で演奏が出来るようになれば、僕の解読書を使って譜面を読むこともできるようになるだろう。
……たぶん
譜面と解読書を見比べながら譜面を読んでいる唯をしり目に、僕は曲についての説明を続けた。

「よぉし、読めた~!」
「お、速かったな」

説明を終えるのと同時に、唯も譜面を読み切ったようだ。

「これもギターパートは唯と僕のツートップ。1番と2番はほぼ同じコード進行だから、さっきと同じ要領で自分の物にして行くんだ」
「了解です! 師匠」
「………」

何故師匠?
唯の返事に首を傾げるのを必死に堪える。
とりあえず、唯には僕が教えて行った方が良いようだ。
そんな事を心の中で思っていた。










「あぁ~、このケーキが身に染みるぅ」
「何か、大丈夫か?」

テーブルに突っ伏しながらチーズケーキをほおばる律と唯の姿に、思わずそう聞いてしまった。

「でも、二,三回練習しただけであそこまで形になるなんて思ってもいなかったよ」

驚きなのは、通しで三回ほど弾いただけで、そこそこ形になった事だった。
勿論通しで弾き終わった後に、色々とレクチャーはしていたのだが、それにしてはかなり上達が早かった。

「それは師匠の教えの良さどすな~」
「師匠はやめい」

唯の”師匠”という言葉に、僕はきっぱりと言う。
僕は”師匠”とか人の模範になるようなタイプではない。
どっちかというと反面教師がいいところだ。

「でも、浩介の教え方はとてもうまかったぞ」
「ええ。私も色々と勉強になりました」

澪とムギまでもが加わり、僕はばつが悪くなり天井を見上げた。

「お、照れておりますな」
「照れてますわね~」

そんな僕に唯と律がからかうように言ってきた。
きっとその表情は二や付いているだろう。

「さて、もうひと頑張りだ。まだオリジナル曲は残ってるんだから」
「「「おう!」」

僕はごまかすように切りだして、再び練習を始めた。
結局この日、オリジナルを含めた三曲を通して演奏し、なんとか形になった。
とはいえ、まだ誰かに聞かせられないレベルではあるが。

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巡回執筆予定作品

こんばんは、TRです。
今回の巡回執筆予定作品は次の通りになります。


・けいおん!~軽音部と月の加護を受けし者~
・To Loveる~二つの人格を持つ者~
・魔法少女リリカルなのは~目覚めた力~RB
・ティンクル☆くるせいだーす~最高神と流星の町~

執筆開始まで、今しばらくお待ちください。


それでは、これにて失礼します。

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『To Loveる~二つの人格を持つ者~』最新話を掲載

こんばんは、TRです。
大変お待たせしました。

本日『To Loveる~二つの人格を持つ者~』の最新話を掲載しました。
長めの内容になり、さらに色々と賛否両論になりそうな話になりましたが、広い心で許していただけると幸いです。
あまりの長さに、一話しか掲載できませんでした。


それでは、これにて失礼します。

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第3話 続・未知との遭遇

「何だったんだろう。本当に」

風呂から上がった俺は、先ほどの事に考えをめぐらせていた。

(あれが夢とか妄想だったら、俺きっとやばいんじゃないか?)

ただでさえ二重人格という時点でも色々とヤバいのに。
しかし手にはまだあの柔らかい感触が残っている。
それこそが夢とかではない証拠だろう。
だが、人と言うのは良くできているようで、信じられない現象が起こったときは、多くの人は夢や妄想に片付けたがるらしい。

「きっとのぼせてたんだよ。そうに違いない」

そして俺もその一人のようだ。

「このドアを開けたらさっきの女の人が―――」

冗談交じりに言いながら自室のドアを開ける。

「ふぅ、さっぱりした」
「いたよ!?」

ベッドに腰掛ける先ほどの少女の姿があった。
先ほどと違うのは、体にバスタオルを巻いていることぐらいだろう。

(って、そのバスタオル俺のだし)

「あ、タオル借りてるよー」
「…………」

男の前だというのに、恥ずかしがるそぶりも見せずに平然としている彼女に、俺は思わず言葉を失っていた。
まるで旧来の友人みたいな(友人でも恥ずかしがるとは思うけど)反応だ。

(って、考えている俺も冷静だな)

そんな自分に思わず苦笑を浮かべそうになるのを堪えた。
様々な疑問が渦巻く中、俺が口に出来たのは

「だ、誰?!」

そんな言葉だった。

「私? 私はララ」
「ララ、さん?」

とりあえず名前は分かった。
彼女からは少しばかり距離を取りつつ、次の質問を投げかける。

「頼む、一から説明して。どうしてここにいるのかとか」
「うーんとね……」

顎に人差し指を当ててなにから説明したものかと悩むララさんだったが、やがて説明を始めた。
何でも”ぴょんぴょんワープ君”という道具でここに(というよりはお風呂場にだが)に来たらしい。
ワープという単語もそうだし、宇宙船やら宇宙人やら信じられないことのオンパレードだった。

「おやおや、信じてない?」
「そりゃ当然だろ」
「だったら、これを見て」

そう言ってララさんは俺に背を向ける。

「ッ!?」

それを見た俺は色々な意味で、言葉を失った。

「ほらね? 地球人にはこんなものはないでしょ?」

そういう彼女が纏うバスタオルの隙間からは、確かに尻尾が生えていた。
その姿は宇宙人というよりは、悪魔を連想させるのだが、それはこの際どうでもいい。
一番の問題は、彼女の姿だった。

「分かったから隠せ!」
「何赤くなってるの? かわいい」

(何なの? この感覚の微妙なズレは)

背を向ける俺を微笑ましそうに笑いながら言うララさんに、俺は何とも言えない気持ちを抱くしかなかった。

「ゴホンッ! それで、どうして一体どうしてここに」
「私、追われているの」

そこで今までの彼女の声のトーンが少し落ちた。
それにつられて、俺も再び彼女の方へと向き直る。
話によれば何者かに追われて捕まりかけた彼女は、発明品を使って脱出してきたらしい。

「なるほど、話は分かった」

話を聞き終えた俺は静かに口を開いた。

「それだったら、落ち着くまでの間匿ってあげる」
「本当!? ありがとう!」

我ながら赤の他人をここでかくまうなど、お人好しすぎると思う。
だが、困っている人を放ってはおけない。

「だぁ!? 抱き着こうとするなッ!」

俺は、飛び掛かってこようとするララさんを止めた。
頬を膨らませるララさんをしり目に、切実な問題があった。
いや、どう説明するのかというのもあるが。

「服はどうするんだ?」

そう、服だ。
ここには女性物の服はない。
美柑のは……小さすぎるし、母さんのはおそらくだが大きすぎるし……

「それだったら……」
「ララ様~!」

そんな俺の問題をよそに、また何かが現れた。

「ご無事でしたかララ様!」
「ペケも無事に脱出できたんだね!」

”ペケ”と呼ばれたロボットのようなそれは、ララさんとの再会を喜び合っていた。

「ところで、ララ様。そこにいる冴えない顔の地球人は?」

(さ、冴えない)

何だろう、馬鹿にされているのに怒りが湧き上がってこないこの複雑な気持ちは。

「この家の住人だよ。名前は……えっと、何だっけ」
「あ、悪い」

ララさんに尋ねられて、まだ俺は名前を名乗っていなかったのを思い出した。

「俺は竜介。結城竜介」
「リュウスケかー。この子はペケ、私が発明したコスチュームロボなの」
「初めまして」

何故下の名前でという疑問は吹き飛んだ。
いきなりララさんは、纏っていたバスタオルを取り去ったのだ。

「な、何をやってるんだ!」
「それじゃ、よろしくね、ペケ」
「はい、ララ様!」

ララさんの呼びかけに、ペケの体が光ると、ララさんは服を身にまとっていた。
全身タイツのような気もしなくはない、恥ずかしい服装だった。

「どう? 素敵でしょリュウスケ」
「そ、そうだな」

とりあえずは服を着てくれたから良しとしよう。

「時にララ様、これからどうなさるおつもりで?」
「それなんだけど、リュウスケが匿ってくれるって言ってくれたの!!」

(そう言えば、追われているって……)

今まで忘れていたが、彼女は宇宙人。
だとすれば追っているのも宇宙人というわけだ。
……無性に嫌な予感が俺の頭の中を駆け巡った。
そして、その予感は悲しくも当たった。
窓から音もなくサングラスを掛けた二人組の男が姿を現したのだ。
この二人が追手なのだろうか。

「困ったお方だ。地球を出るまでは手足を縛ってでも、貴女の自由を奪っておくべきだった」
「ペケ?」
「はいぃ、ララ様っ!」

ララさんの低い声に、ペケの声を上ずる。

「私言ったよね? くれぐれも尾行には気を付けてって」

そう言って暴れるララさんの腕を黒服の男が掴んだ。
そして大暴れする彼女たちを、俺は呆然と見ていた。

(どうして俺の目の前で修羅場が展開してるんだ?)

しかも土足だし。

「…………」

目の前にいる者達は宇宙人であることは間違いない。
ならば地球人の俺など簡単にひねり潰せるだろう。
だが、俺には不思議な力がある。
手の甲に五芒星を描けば人並み外れた力を行使することが出来る。
これならば、不意を衝いて逃げだすことぐらいは可能だろう。

(って、俺は助ける気か?)

自分の考えていることに首を傾げかけた。
なぜ、彼女を助けるのだろうか?
目の前の少女と俺は全くの無関係。
助けたからと言って、何か利点があるとも限らない。

(それじゃ、なぜ?)

これ以上、土足で動き回られたくないから?
まったく分からなかった。
分かる前に俺は左の掌に五芒星を描いていた。
その瞬間、体中が熱くなった。
それは、力が解放されたことの証。
それを確認せず、俺は”軽く”男達を飛び越えると、床に落ちていたサッカーボールを軽く蹴り上げて

「やぁ!」

ララさんを羽交い絞めにして捕まえている男に目掛けて蹴り飛ばした。

「ぐあ!?」

ボールはうまく男に命中し、衝撃で腕を離されたララさんはベッドに投げ出される。

「掴まって!」
「え?」

鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているララさんの腕をつかむと、窓から外へと逃げ出した。

「待て、小僧!」

屋根伝いに後ろからも黒服の男達が追いかけてくる。
当然と言えば当然だ。

「リュウスケ、どうして?」
「分からない!」

ララさんが聞いてくるが、理由など全く分からない。
俺が聞きたいぐらいだ。
だが、一つだけ言えることがあった。

「だけど、目の前で連れていかれようとしている人を、放っておくことなんてできないんだ!」

いい人ぶっているのかもしれない。
でも、それでも俺は放っておけなかった。
まるで”自分ではない自分”にそうしろと言われたような。
屋根から飛び降りて、公園の方へと駆けこんだ。
公園を横断して反対側へと逃げる作戦だ。
ここら辺の土地勘を活かせば、男達を巻くことも容易い。
だが、それは相手が|人間《・・》であればの話だ。

「のわぁ!? と、トラック?!」

目の前に行く手を遮るように空から降ってきたのは、1トンはありそうな大型トラックだった。
そのトラックはまさに出ようとしていた出入り口を塞いでしまった。

「こっちだ!」

反対側から出ようとしたが、もう一人の男に行く手を阻まれる。
気が付けば、もう逃げ場などなかった。

(なんで公園なんかに入ったんだ! 俺のばか!)

よくよく考えれば、公園ほど隔離された場所はない。
出入り口さえ封鎖すれば、後はもう袋の鼠。
ゆっくりと歩み寄る男達に、俺達は自然と後ろに下がりフェンスの方まで追いやられた。

「来るな!!」

にじり寄る男達に声を上げることしかできなかった。

(どうする? この状況)

もはや絶体絶命だ。
だが、俺には最後の切り札がある。

――お前の手に負えない事態に直面した際は私を呼べ――

竜斗の告げた内容が頭をよぎる。
今こそ、その手に負えない事態ではないだろうか?

(でも、人の力を使って解決するなんて)

男としてはそれが阻まれるわけであって。

「随分と勇ましいな」
「ッ!?」

頭上から降ってくる男の声に、俺は息をのんだ。
空にはUFOのようなものがあった。
とは言え暗いために、それを確認したわけではないが。
そして光の輪の中心から人が現れ、俺達の前へと降り立った。
その人物は銀色の髪に甲冑のようなものを身にまとっていた騎士を彷彿とさせる雰囲気を醸し出す男性だった。

「そこをどけ地球人! 部外者は引っ込んでいてもらおうか」
「断る! 目の前で人を連れ去るのを黙って見ているわけにはいかない」

威圧する様に男から言われるが、俺はそれをに対して拒否した。

「もう一度だけ言う、そこをどけ」
「嫌だと言ったら?」
「力づくでも退いて貰う。命が欲しければ、そこをどけ」

今、この場に立っているだけでも俺はすごいと思った。
体中からいやな汗が噴き出すのが分かっていたのだから。

(良いよな? やっても)

よくよく考えれば人の力というわけではない。
何せ、二重人格でもあり、それも”俺”なのだから。
そんな逃げ口上を思いついた俺は地面に五芒星を描いて、ララさんの手を掴んでいた手を放すと、素早くその場にしゃがみこんで先ほど描いた五芒星に手を合わせた。

「リュウスケ?」

ララさんの困惑したような声を最後に、俺の意識はブラックアウトした。


★ ★ ★ ★ ★ ★


一気に浮上する。
傍観者から演奏者に移る瞬間は、今でも慣れない。
取りあえず”私”は立ち上がる。
”彼”がしようと思ってできないことをする。
それが、私の使命だ。
目の前にいる男は見るからに私の足元にも及ばない。
私が恐れる必要などどこにもなかった。
とは言え、私自身が脆弱だ。
気を付けないと一瞬で終わりになるだろう。

『断る』

私は、そうきっぱりと男に告げようとしたところで。

「ララ様、おやめください! 家出など」
「いやーよ!」

男の言葉に、小娘が言い返す。
だが、私は聞き捨てならない単語を耳にした。

「……家出?」
「私もうこりごりなの! 後継者がどうとかお見合いばかり」

今、私はさぞかし腑抜けた表情をしているだろう。
それほど私が耳にした言葉は色々と衝撃的な事実だった。
彼女が姫様であることもそうだが、追われている理由が”家出”をしたためだとは。
つまりは、彼の覚悟(そんなたいそうな物はないが)は無駄になったということだ。

(私は、この憤りをどこにぶつければいいんだ?)

そこで、私は一つだけいいことを思いついた。

「取り込み中で悪いが、話してもいいか? 家出の片棒を担いだ自分にも多少は関わりあいのあることだし」
「…………いいだろう」

目の前の男の承諾の言葉に、私は一歩前に踏み出す。

「このままやっても平行線のまま。だったらはっきり白黒をつけるべく、私と勝負をしないか?」
「勝負だと?」

私の提案に、男が目を細める。
当然だろう。
何せ目の前の男からすれば私は|ただの地球人《・・・・・・》なのだから。

「内容はそっちの自由。そっちが勝てば彼女を連れてけ。そのかわり、私が勝ったら」
「姫様を連れて行くな、と申す気か?」
「否。彼女の意思を尊重しろという事だ」

私は男の言葉をウ日を横に振りながら答える。

「良いだろう。ならば」

男が取り出したのは緑色に光る剣のようなもの。

(レーザー剣?)

我ながら変な単語を言う物だ。

「ざ、ザスティン?! あぶないよ、リュウスケ!」
「心配するな。私は負けない」

後ろの方で騒ぐ姫君にそう断言した。
”あれ”は危険すぎて使えないが、目の前の男を無力化することくらいはできるだろう。

「そっちからどうぞ」
「では、参ろう!」

ザスティンと呼ばれた男が動き出そうとしたその瞬間、私は素早く男の背後に移動した。

「なッ!? どこに消えた?!」
「ここだ」
「ッ!?」

背後にいる私に気付いたザスティンは、慌てて私から距離を取る。
それを確認するよりも早く、私は再び素早くザスティンの背後へと回り込み

「一回、二回、三回、四回」
「ッ――――」

ザスティンの背中を指で軽くつついた。

「今、私が武器を持っていれば貴殿は武器に貫かれていただろう」
「………」

私の言葉に、ザスティンの息をのむ音が聞こえた。

「どうする? まだ続けるか? さすがにここから先はお互いに身の安全は保障できないが」

別に私の身の安全は保障できる。
それは慢心ではなく、事実だ。
だが、さすがに長引かせるのは面倒くさいので素早く終わらせたいのが本音だ。
よって、一歩引いた形で終わるように促したのだ。

「私の負けだ」

ザスティンの停戦宣言に、私は静かに息を吐き出す。

「すごい、リュウスケって強いんだね!」

そんな私に話し掛けてくる姫君に私は告げる。

「さあ姫君、告げると良い。お前の想いを。お前が成し遂げたいことをすべて。君にはその権利がある」
「リュウスケ?」

首を傾げる姫君をしり目に私は姫君から数歩離れる。
彼女の意思を聞くのは”私”がするべきことではないと思ったからだ。
すると、まるで狙ってきたかのように突風が吹きつける。

「私、――――ッ!!」
「ッ!? 様、それは――――か?!」

姫君の言葉を受けたザスティンが、目を見開かせる。
離れていたのと突風によって声が良く聞き取れなかった。
それからすぐ後に、話は終わったのかこっちの方へと向き直ると

「リュウスケ、またね!」

と告げて、姫君はザスティン達と一緒に去って行った。

「無性に嫌な予感がするな」

誰もいない公園で、私は思わずそう呟くのであった。

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